連想恋花(03)

「はあ? 此処とは違う別世界で男の子だったナビゲーターちゃんが、女の子としてこの世界に来てる? 何言ってんの? いくらナビゲーターちゃんでも、バイスお姉さんをからかっても、面白くないわよー」

 ははは。部屋に戻ってその確認をして青ざめて絶望する男の空の末裔に「大丈夫?!」と言って部屋に入ってきたバイスは、その説明を聞くも、笑い飛ばすだけだった。

 ――鏡を見れば体や着ているものは夢で見ていた女の子そのもので、目の前の女の子が、別世界から来た男の僕だったなんて、そりゃ、バイスでも信じられないだろう。

 男の空の末裔は、この世界に来た時に鏡でそれを確認すれば顔と体は女の子のもので、着ているものもいつものズボン仕様のローブではなく、ドレス仕様のスカートだったので、バイスでも見た目だけでいえば信じられないだろうなと思った。

 ところで。

「……ところでこのドレス、バイスが選んでくれたの?」

 中身は男の空の末裔は鏡で余所行きドレス――、フリル付の白いブラウスにフリル付の青いスカートを着ている自分を見て、顔を引きつらせるしかなく。さっきから目につく青いキラキラしたのは、スカートにキラキラ光るビーズのスパンコールが縫い付けられたものだった。

 男の空の末裔はできるなら、このドレスを脱いでいつもの伝統のローブを身に着けて会場に行きたかった。

「あら。それ、影の街のベセルさんが今回用にって選んでくれたドレスだって、ナビゲーターちゃんが嬉しそうに話してたじゃない。それも忘れたの?」

「これ、ベセルが選んでくれたの?」

「ベセルさん、影の街では一番の友人だから彼女が選んでくれたものに間違いはないってナビゲーターちゃん、嬉しそうだったじゃない」

「え、ベセルが影の街で一番の友人って、僕とベセル、この世界では、そこまでの関係だったの?」

 普段のベセルは、空の末裔が影の街に来ても素っ気無く、此処でも仕事だけの付き合いですからとあまり自分から接触は持たなかったというのに?

「私、影の街だけとはいえ、ベセルさんとナビゲーターちゃんが仲良いの見て、羨ましかったの。ナビゲーターちゃんのドレス選びの時も私も意見あったけど、二人の間では口出しできなくてね。だけど、ベセルさんが選んでくれたものは確かにその場に相応しいものばかりだから、十七年間引きこもっていたせいで世間に疎いナビゲーターちゃんがベセルさんに頼りっぱなしなのも分かるわ」

「へえ……。こっちの世界の僕は、身の回りの世話、ベセルに頼りっぱなしだったのか……」

 バイスは、影の街でベセルと一緒で仲良い空の末裔の様子を思い浮かんだのか、それを羨ましそうに語る。

 男の空の末裔は、確かに十七年間引きこもりで世間に疎い自分が、公の場に出るさいに相応しいドレス選びやアクセサリー選びは、影の街で棟梁のイスタバンの養女であり、商会で会長のシェオルに師事している万能なベセルに頼りっぱなしであるのは分かる気がした。

 因みに男の自分が公の場に出るさいはいつもの伝統のローブだけで許されているので、女の子の方は身なりにも気を使わなくてはいけないのかと分かって、色々大変そうだなと思った。

「今回の青いドレスもベセルさんがあなたには青が似合うってそれ選んでくれたんだから、それで行った方が良いと思うわよ」

「そうか……。うん、ベセルが選んでくれたものなら間違いないのは分かる。それは分かるけど、R・Wのサメヤマが勢力拡大のためにほかの外部の権力者達を呼ぶ会議だってあったけど、具体的に何するの?」

「ベセルさんだけじゃなくて、それも忘れたの? サメヤマのいうR・Wの勢力拡大っていうのは、R・Wの光霊がR・W以外のほかの地域に人やものを仕入れる時にどこの範囲まで許されるか、それから、R・Wで暗鬼の襲撃があったさいにどこまで他地域の光霊に協力を得られるかどうか、それを決めるためのものよ」

「え、そういうの、このアストラで決められてたの?」

「ええ。基本的は、その地域のリーダーの力でそれの範囲が決まるの。私のカナン城はレインハト大元帥様の力のおかげで影の街はもちろん、白夜城や北境まで広がってるわ。それのおかげでカナン城で啓光連邦軍の軍人だった私でも白夜城に留学できて、そこでカレンと知り合いになれたってわけ」

「ふむ。カナン城の軍人のバイスはそれで、白夜城のカレンと友人になれたのか。前からカナン城の啓光連邦軍と貴族が主体の白夜城の光霊達の協力関係、不思議だったんだ」

「で、今回のサメヤマは今まで独立状態だったR・Wのそういった取引を普段から友好的だった私の属するカナン城や、商人の影の街だけではなくて、相性があわなくて疎遠だった白夜城や北境まで広げたいんですってよ」

「なるほど。確かに、自由主義を掲げるサメヤマのR・Wでは、真面目で規律に厳しい白夜城や北境とはあわなさそうだな。でも、何で今回、急にその範囲を拡大する気になったんだろ」

「それも忘れたの? 目の前のナビゲーターちゃんのせいでしょ」

「え、僕のせい?」

「サメヤマ達は、あなたの――ナビゲーターちゃんが中立的な立ち位置で各地から色んな光霊を呼び寄せてくる、そのおかげで今までいけ好かないと思ってた白夜城や北境にも良い光霊が居ると分かって、それで、その考えを改めたんですって。
 前任者のロイさんも、ナビゲーターちゃんがほかの地域――特に白夜城の光霊を色々連れてきたおかげで彼らと交流持てて、今まで彼らの秘めた力に気が付かなかった、自分の代で拡大しておけば良かった、今では後悔してるって反省してたわ」

「……、そういうわけか。僕で現リーダーのサメヤマだけじゃなく、前任者のロイもその考えを改めたのが僕のおかげっていうのは、悪い気しないね」

 はは。空の末裔は、自分でR・Wのサメヤマとロイの考えが変わったと聞いて、照れ臭そうに笑う。

「で、その会議の基本は話し合いだけど、ナビゲーターちゃんにはその席で何かあれば――、R・Wと白夜城の間で意見があわないなんてしょっちゅうだから、そこで冷静に中立的な立場で意見を述べるだけでいい。多数決の場合は、あなたの一票でそれが決まるから」

「うわ。多数決の場合、僕の一票で全部決まるの? それは重要な役目だな……」

「それでも話がまとまらない時は相手がリーダーのサメヤマと対決、それで勝敗が決まるわ。ナビゲーターちゃん、その時、サメヤマか相手か、どっちにつけばいいかよく考えてね」

「……ますます、重要な役目だなあ」

 はは。空の末裔は、バイスから説明を聞いて、今からのサメヤマ達の会議の出席が気が重たかった。


 サメヤマの外交の場は、R・Wの彼の拠点で行われた。

 各地から権力者が集まるというので、周辺はヘール達の自警団が警備を担当、そのさいに情報屋のジョナ、レーサーのアズールが中心となって屋台が出店されレースイベントが開催されたり、外部の権力者以外の光霊達も集まり、けっこうなお祭り状態になっていた。

 会議終了後。

「いやー、お嬢のおかげで、色々取り決められたから良かったぜ」

 全てが終わってR・Wに関する取り決めが決まり、解散、サメヤマ側にしてはその感触は上々だったようだ。

 そして。

「最後、昨夜の打ち合わせでお前らが心配してた通りに白夜城のカレンとの言い合いで中々決まらずにあいつとオレが対決になった時、お嬢がカレンにつくとは思わなかった。打ち合わせの段階じゃ、白夜城と対決になればオレのR・Wにあわせるって話してたのにさ。あれ、どういう心境の変化だ?」

 そばについているバイスも、サメヤマに続いて、その件について不思議そうに言った。

「そうね。私も打ち合わせでそう聞いてたから、ナビゲーターちゃんがカレンにつくのが意外だったわ。カレンもあなたが協力してくれるとは思わなかったようで面食らってたわねえ」

「え? 僕は日頃から、何かあればカレン側につくってバイスだけじゃなくてサメヤマ達にも話してたけど……、こっちの世界の僕はそうじゃないの?」

「ああ……。この世界のあなたとカレンの関係は、ベセルさんほど仲良くないわよ」

「で、でも以前、カレンと白夜城の演劇に見に行く約束してたじゃないか。それで僕とカレン、仲良くないの?」

「それ、カレンは最初は私と行く予定だったけど、私の都合がつかなくなったから、その時に居合わせたナビゲーターちゃんに白羽の矢を立てたってだけ。カレンはその演劇、私が行けてたら、私と行ってたと思うわ」

「いやでも、普段でもバイス抜きで僕とカレンは協力関係にあって、色々手助けを――」

「それ、カレンが都合のいい時だけ、ナビゲーターちゃんを利用してるってだけでしょ。ナビゲーターちゃんもカレンのそれ分かって、カレンと付き合ってる、それというのも白夜城のお姫様のカレンと居れば色々便利だからって。その演劇も、カレンじゃないと予約取れない人気の作品だったからナビゲーターちゃんもカレンに渋々応じたって、後で私に愚痴ってたわよ」

「Ms.ブランがカレンとの観劇用にって、僕にドレス持ってきたのは……」

「それもカレンの要請でしょ。カレンは日頃から、空の一族の伝統なのは分かるけど古臭いローブのあなたの隣は苦手、公の場でも私的な場でも、白夜城の後継者の自分についてくるならそれなりの格好してきてって口酸っぱく言ってたじゃない。Ms.ブランは後でカレンにうるさく言われるの嫌だから、あなたに観劇用のドレス持ってきたのよ」

「……あれ、喜んで受け取ってるわけじゃなかったのか」

 それは、男の空の末裔も信じられない話だった。

 バイスは更に続ける。

「あなたの世界ではどうか分からないけど、この世界のナビゲーターちゃんとカレンは、お互いが互いを利用してるだけの、冷めた関係だったわよ。ナビゲーターちゃん、私が間に入らないと、カレンの白夜城まで行かなかったしね。
 私もほかの光霊達も――サメヤマ達もそれ分かってるから、今回、あなたが率先してカレンに協力するなんて思わなくて驚いてるんだけど」

「……」

 ――この世界の僕とカレン、そこまで冷めた関係だったの?

 ――あれ、そういえば、女の子になる夢の中でカレンとベセル以外の女の光霊、ソラヴァンに来てたっけ? Ms.ブランは、カレンの付き人としてだし……。

 男の空の末裔は、そういえば夢で見ていた女の子の空の末裔のソラヴァンでは、男の光霊達は次々にやって来るが、女の光霊はあまり見かけなかったのを思い出した。

「あの、つかぬ事を伺いますがバイスさん、僕のソラヴァンに来てくれる光霊の中で、仲良い光霊ってベセル以外に居る?」

「そうね。ベセルさん以外でナビゲーターちゃんと仲良いのは啓光連邦軍ではラス長官達、ビクトリアさん率いる真理結社の光霊達、それから、サメヤマのR・Wくらいだったかしら。ベセルさん以外の影の街や北境の女の光霊達はあまり近付いて来ないわね……」

「そうだったのか……」

 男の空の末裔はソラヴァンで各地の女性の光霊達と付き合ってたつもりだが、女の子の空の末裔ではそうではないその現実を知って、青ざめる。

 その現実を知って戸惑う空の末裔に、バイスはサメヤマと顔を見合わせる。

 サメヤマは声を潜めて、バイスに耳打ちする。

「おい、バイス。お嬢、どうしたんだ。いつもと様子が違うぞ。対決の場でカレンについたのもそうだし、オレ達を指揮する作法もいつもと違ってたが」

「さあ……。私もよく分からないけど、何でも目の前のナビゲーターちゃんはいつものナビゲーターちゃんじゃなくて、別世界から来たとかなんとか……」

「は? 目の前のお嬢はいつものお嬢じゃなくて、別世界から来た、お嬢だって? 何だそりゃ。演劇か小説の影響でも受けてるのか? それか、暗鬼の毒にやられて幻想でも見てるのか?」

 サメヤマはバイスからその説明を聞いても分からず、呆れるばかりだった。

 空の末裔は疲れた様子で、バイスに聞いた。

「バイス、今日はもうこれ以上、何も予定なかったよね? 夜のデートとかも……」

「ええ。今日はサメヤマの会議のせいで、夜のデートの誘いは全部断ってるわ」

「それじゃあもう、ソラヴァンで休んでいいかな」

「大丈夫だと思う。サメヤマ達の会議で疲れてる風なら、休んだ方がいいわ。何かあれば私の方から連絡する」

「ありがとう。それじゃあ……」

 男の空の末裔はここでバイス、サメヤマ、イブの三人と別れて、一人、ソラヴァンに向かった。


 色々考える事があって、足取りは重い。

 それのせいかどうか――。

「うわ」

「あ、す、すみません、前を見てなくて……」

 どんっ。前を見ずに歩いていたせいか、誰かとぶつかった。

 空の末裔は、慌てて相手に謝る。

「――いえ、空の末裔であるなら、謝る必要ないですよ」

 優しい、男の光霊の声。

 その声には聞き覚えがあった。

 それは――。

「ネイルス」

 顔を上げればそこに居るのは真理結社にてビクトリアに心酔する信者であり、秘書としてその補佐役をになうネイルスであった。

 ネイルスは一人きりで、そばにビクトリアの姿はなかった。

 ネイルスは心配そうに空の末裔の顔を覗き込みながら、言った。

「顔色悪いですね。サメヤマ達の会議はそこまで大変でしたか?」

「……そういえば、真理結社からはビクトリアとファウストの二人がサメヤマの会議に出てたけど、ネイルスは参加しなかったの?」

「ああ。私は、ビクトリア様とサメヤマの間で何かあった時のための待機組です。外では私のほか、セファーやメイもそのへんうろついてますよ。まあ、彼女達はサメヤマの会議にかこつけてのR・Wのイベント参加ですけどね。
 そうそう、私の真理結社の私以外、啓光連邦軍では軍の皆さん、影の街の傭兵団団長のルークさんの配下の兵士さん達、白夜城のカレンさんに付いている騎士の皆さん、北境のキアさんを中心としたクーリエ隊の皆さんとか、色々な方達も私と一緒に会議が終わるまで外で待機していましたよ。待機といっても皆さんはセファー達と同じよう、R・Wのイベントに参加してるだけでしたけど」

「なるほど、そういうわけね」

 空の末裔は、サメヤマの会議の席に出席している真理結社の光霊は、ビクトリアとファウストの二人だった。空の末裔はてっきり、ビクトリアにはネイルスがついてくるものと思っていたが、ファウストの人選に驚いた。

 ビクトリアいわく「交渉の席ではファウストの方がいざという時、弁が立つのよ。押しに弱いネイルスでは、サメヤマの強引さについていけないと思ったから」と、くすくす笑いながらファウストをお供に選んだわけを話した。

 男の空の末裔もビクトリアの話を聞いて「確かに交渉の席では押しに弱くサメヤマの強引さにも弱いネイルスより、ファウストの方がサメヤマと対等に話ができそうだ」と、思った。

 それ以前に。

「いや、ほかの皆が自分達のリーダーとサメヤマの間で何かないかって心配して外までついてきてるとは、思わなかったよ。皆、そこは僕の世界と変わらないんだね」

「え、僕の世界と変わらない? それ、どういう意味ですか?」

「あ、いや、こっちの話だからネイルスは気にしなくていいよ」

 はは。男の空の末裔は、女の子の空の末裔の世界でもそこは変わりないのかと安心したところ、だった。

「ネイルス、お待たせ」

「ビクトリア様」

 ネイルスを待たせていたビクトリアが現れた。

 ここでビクトリアはネイルスと向き合う空の末裔に気が付く。

「あら、空の末裔も一緒だったの? バイスやサメヤマ達と一緒だと思ってたけど」

「ビクトリア。バイスに断ったうえで、一人でソラヴァンに帰るところだったんだよ。それより、さっきサメヤマ達の交渉の席で一緒だったファウストは?」

「ファウストは、影の街のベセルに個人的に話があるとかで、彼女の方に行ってしまったわ」

「ベセルに?」

「ファウストはベセルに用事というより、彼女の養父である影の街の棟梁のイスタバンの面会を希望していたから。それ以外でもベセルは、サメヤマ達から今回の件でイスタバンと面会したいって詰め寄られてたわね」

「ああ、それで。でもベセル、ファウストだけじゃなくてサメヤマ達相手に一人で大丈夫かな?」

「そうそう、それで会場に残ってたベセル、不安そうにあなたを探してる風だったわよ」

「あら。入れ違いかー。それじゃあ僕、会場に戻った方がいいかな」

 ベセルは商人の影の街に相応しくイスタバンに認められるほどの商才はあるが普段は一人で活動していて、ほかの商売人や、対光霊相手の交渉は苦手だと日頃から話していた。

 男の空の末裔も対人関係で戸惑うベセルを思い、彼女を助けに会場まで引き返そうとした所、だった。

「待ちなさい」

「ビクトリア?」

 ビクトリアに腕を捕まれ、驚いて、立ち止まる。

 ビクトリアは空の末裔の腕を掴み、彼の――外見的には彼女の顔を覗き込み、言った。

「――今のあなた、誰? あなたが何の忖度もなくカレンに手を貸した時も思ったんだけど、いつもの空の末裔じゃないわね」

「!」

 ――そうだ、何で今まで気が付かなかったんだ。ビクトリアを中心とする真理結社の光霊達であれば、僕が別世界から来た男だって事くらい、簡単に見抜けるって事!

 男の空の末裔は、相手の真理を覗ける力を――真実を見抜く力を持つ真理結社の光霊であれば――中でも、予言の能力を持つビクトリアであれば、自分の正体に気が付くはずと、今になって思い知った。

「き、聞いてよ、ビクトリア。バイスもサメヤマ達も誰も信じれくれなかったんだけど、見た目はこの世界の女の子の空の末裔に間違いないけど僕、別世界から来た中身は男の空の末裔なんだよ!」

 男の空の末裔は、ビクトリアとネイルスに詰め寄り、必死にそれを訴える。

 空の末裔の訴えを聞いて、ビクトリアはネイルスと顔を見合わせる。

「……、異質な感じはしたけれど、別世界、しかも、中身は男、ですって?」

「見た目は、いつもの女性の空の末裔さんで間違いないですけど……」

「ほ、本当なんだよ。真理結社のネイルスはもちろん、予言の力を持ってるビクトリアなら、僕の言う事、分かるんじゃない?」

「ネイルス、どう思う?」

 ビクトリアは空の末裔には答えず、どういうわけかネイルスにそれを聞いた。

 ネイルスは少し考え、ビクトリアに自分の考えを話した。

「はあ。私ではニワカに信じられない話ですが、しかし、目の前の空の末裔さんは普段はそんな冗談を言う方ではありませんし、それに関して嘘を吐いていないようにも思います」

「そう。ネイルスは、真実しか認めない。私も彼の能力は認めている。そのネイルスがそう言うのであれば、目の前の空の末裔の話はどうやら、本当のようね。分かった、あなたの話を聞いてあげるから、私達の馬車に乗りなさい」

「あ、ありがとう! 真理結社のビクトリア達が僕の話を信じてくれるだけで、安心だ!」

 男の空の末裔は、今まで誰も信じてもらえなかった話を真理結社のネイルスだけではなく、ビクトリアに話を信じてもらえて胸を撫でおろし、さっそく、ネイルスが用意した馬車に乗ろうとしたところ――だった。

「きゃああっ」

 悲鳴が聞こえたと同時に、辺りが騒々しくなった。

「何だ?!」

「悲鳴が聞こえた方は、サメヤマ達が用意したイベント会場の方ですよ」

 空の末裔は悲鳴が聞こえた方を探す中、冷静にネイルスがその場所を示した。

「あ、手持ちの端末からメッセージきてる!」

「何があったの?」

「何ですか?」

 ビクトリアとネイルスも、空の末裔が手にしている端末を覗き込む。

 空の末裔は、端末に届いたメッセージをビクトリアとネイルスに読み上げる。

「会場を出てすぐ、サメヤマ達とカレン達の間でいざこざがあって、その途中、暗鬼の襲撃が現れて騒ぎになってるって、僕と別れてサメヤマ達と一緒に一部始終を見ていたバイスからの報告!」

「あらあら。いつもの事ながら、サメヤマ達とカレンの相性悪いわねえ。おまけに暗鬼まで。あれに巻き込まれると面倒だから、ファウストだけではなく、ネイルスについてきてもらって良かったわ」

「ええ。ビクトリア様の危惧していた通りになりましたね。ファウスト様だけではなく、私もビクトリア様についてきて良かったですよ」

 ビクトリアとネイルスは慌てる空の末裔と違って落ち着いていて、冷静に構えている。

 男の空の末裔は、カレンを助ける素振りを見せないビクトリアとネイルスの態度を不満に思う。

「……ねえ、この世界のカレンって、僕とバイス以外に――、ほかの光霊達とあまり仲良くないの?」

「そうね。あなたの世界のカレンはどうか分からないけど、この世界のカレンは白夜城のお姫様らしく自分より強い光霊以外は認めないという実力主義者で誰とも群れず、一匹狼状態だったわ。彼女の唯一の拠り所が、あなたの補佐をしているバイスだけ」

「そんな、僕の世界のカレンは白夜城に相応しい実力主義者には違いないけど、優しい子だった。僕やバイスだけじゃなく、サメヤマ達にも頼りにされてるような子だよ。この世界のカレンのこんな酷い扱い、信じられない」

「そう。それじゃあ反対に聞くけど、あなたの世界のベセルはどう? あなたの世界のベセルは、この世界のベセルと同じよう、あなたによくしてくれてる?」

「それは――」

 さすが真理結社の女王で予言の力を持つビクトリア、痛い所をついてくるな、と、思った。

 ビクトリアは淡々と言う。

「多分、あなたの世界と私の世界、少しずつ『ズレ』が生じているようね。あなたの世界であなたが男だっていうのも、ベセルとバイス、カレンの関係が入れ替わってるのもそれのうちじゃないかしら」

「それは、此処は僕の世界と同じように見えて、僕の世界とは完全に違う世界というわけ?」

「そういう事。私もあなたの別世界の話は興味あって詳しく内容を聞きたいけれど、あなたの端末、さっきから救援信号の赤い光が点滅してるわよ。バイスがあなたに助けを求めるんじゃない?」

「そうだ、別世界の僕は、何があってもカレンとバイスを優先する主義を貫いてるんだ。ごめん、話は後でいいかな」

「もちろん。私より、空の末裔としての仕事、やり遂げなさい。その後、私達とお茶会しましょう」

「ありがとう。それじゃあ、また後で!」

 空の末裔は駆け足で、暗鬼の襲撃を受けているという、サメヤマ達が用意したイベント会場へ向かった。

 その様子を見ていたネイルスは、ビクトリアに呟いた。

「……、何があってもバイスさんとカレンさんを優先するというのは、どこの世界の空の末裔も変わりないですね」

「そうそう。あの子も影では、利害関係が一致してるだけだからとかカレンと一緒じゃないと予約の取れない人気作の演劇だったからとか、ぶつぶつ言いながらも、孤独なカレンを思っていたから。そこはどの世界の空の末裔も変わらないのねえ」

 ネイルスの呟きを聞いたビクトリアは、優しく微笑むだけだった。