春の嵐が過ぎた後、空に花咲く(02)

 それから。

 ゼタとバザラガとユーステスの三人がを見つけてから、一日あまりが経過した。

 は組織が保護して、彼女は組織の用意した部屋で一日を過ごしている。

 朝。イルザの部屋にて、ゼタとバザラガが集まる。

 イルザは手元にある報告書と目の前のバザラガを見比べ、彼と話している。

。十八歳。女性。ヒューマン。過去に何処かの軍隊、あるいは、犯罪組織に属していたという経歴も無ければ、どこぞの学園に在籍していたという記録も無い。とある島の小さな村の出身であるという所までは判明している」
「彼女があの遺跡に居た理由は何だ?」
「それも不明だ。本人によれば、迷いに迷ってさまよっていた時に大穴に落ちて、穴に落ちた先があの部屋だったらしいが」
「それは俺もゼタも彼女本人から聞いている。彼女が落ちたという天井の穴も確認した。その後の調査で、遺跡の周辺に何かあったのか」
「いや。あの遺跡以外、周辺には特に何も無いとは、お前達が脱出した後にそこに居残っていた兵士達からさっき報告を受けている。そこでは、犯罪をにおわすような危険な連中も見られなかったという」
「俺達があの遺跡に向かったのは、そこに危険な星晶獣が潜んでいるかもしれないという報告があったせいだが。それはどうなった」
「お前は遺跡の最奥の部屋で、その星晶獣の気配を感じ取っていたらしいな?」
「ああ。確かに遺跡の最奥の部屋で星晶獣の気配があった。しかし、彼女と置き換わるように星晶獣の気配が消え、それを裏付けるようにしばらくの間は星晶獣は現れなかった」
「ほかの兵士達も、お前達が出て行った後に奥の部屋を再調査したが、星晶獣の反応は無かったとの報告を受けている。周辺にも星晶獣の気配は無かったらしい。我々の調査で分からなければいつものグランサイファーの団長とルリア達の手を借りるしかないが、今はそれについてはあまり重要視はしなくてもよいというのが我々――、組織の見解である」
「そうなのか? それが危険な星晶獣であれば、団長達の手を借りてでも、早いうちに手を打った方が良いと思うが」
「遺跡内部だけではなく周辺でもくだんの星晶獣の気配が消えているなら、しばらくの猶予は与えられているとみていい。まあ、団長達もとある島の戦争に関わっていたようで今は忙しいみたいだからな、彼らの手を借りるにはもうしばらく後の方が良いというのが本音か」
「なるほど」

 一息。

「続きだ。現在、重要視するべきなのは星晶獣よりも、遺跡で見付けた少女――についてだ。話をに戻すが彼女は十八になるまでとある島のとある小さな村で暮らしていたが、武器も扱われなければ魔法も扱えない、更には学習能力も見込めなかったため、村の住人達は彼女をそこから追い出したとあるな」

「はぁ? 何の能力も無いせいで今まで生まれ育った村を追い出されるって何だよそれ、そんな事が許されるのか!」
「……」

 組織の施設に戻ったゼタ、バザラガの二人は、イルザの部屋にて彼女の報告書を覗き見て彼女――に同情を寄せる。

 中でもゼタは、その憤りを目の前で涼しい顔をして報告書を読み上げるイルザにぶつける。

 イルザはしかし、あくまでも冷静にゼタの情熱を一蹴する。

「まあ、普通であれば何の能力も無く、学力も見込めないとなれば職業訓練所なり、学習施設なりの施設送りになるが、彼女の村はそこまでの余裕がなかったんだろうな。何も生産能力が無い小さな村では、よく聞く話だ」
「だからって!」
「ゼタ、止めておけ」
「バザラガ、何で止めるんだ……あ」

「どうもです」

 イルザの部屋にその本人――が入ってきた。

「ドア開いてたんで、勝手に入ってきました。私の話をしてたみたいなんで入ってきたんですけど良かったんですかね」
「構わん。お前を此処に呼んだのは、この私だからな。丁度良かった。そこの椅子に座ってくれ」

 はゼタとバザラガを気にせず、イルザの前までやってくると彼女の指示通り、目の前の椅子に腰かけた。

 イルザは溜息を一つ吐いた後、に向けて言った。

「おはよう。調子はどうだ」
「おはようございます。おかげさまで調子は良いです」
「それは何より。それでさっそくだが、、君の情報はこれであっているか」

 言ってイルザは、さっきゼタとバザラガに見せたについての報告書と同じものを、本人につきつける。ゼタはそれを嫌なものでも見るような目で見ていたが、はそれを気にせず平然とその報告書を受け取って、自身の情報を確認する。

 それからは平然とした態度で、イルザにうなずいた。

「はい、出身地も年齢もこれで間違いありませんよ。私に何の能力もないせいで、村を追い出されたっていうのも間違いないです」
「おい、何で村を追い出されたのにそこまで平然としてられるんだよ! アンタはそれでよく黙っていられるな!」
「仔犬、此処ではその鉄砲玉は通用せんぞ。目にあまるようなら、拘束するからそのつもりで」
「……ッ」

 ゼタはたまらず割り込むも、イルザの方があくまでも冷静に彼女をたしなめ、彼女は一応大人しくなった。

 はしかし落ち着いた様子で、ゼタにその内を明かした。

「それね。この報告書にはまだ書かれれてないけど、村を出る時に一応、それなりの軍資金は渡されてるんだよ」
「は? アンタ、村を追い出されても、金は持ってるのか?」
「そうそう。村を追い出されても当分の間、宿泊施設で暮らせていけるぶんだけは、もらってるからね」
「イルザさん」

 ゼタは確認のため、イルザを見る。イルザは溜息を一つ吐いた後、ゼタに言った。

「彼女の言う事は本当だ。此処についた時に彼女の身体検査もさせてもらったが、それなりの金は持っていたし、身なりもきちんとしていたよ。仔犬が思うような、貧しい生活はしていないと思う」

 イルザの確認を取られたゼタは、の続きを待つ。

「生産能力が無い小さな村でも私は、それなりに生活できてたんだよ。それで私の村では、ある年齢から外に出る決まりがあってね」
「え、それってつまり……」
「うん。村を追い出されるというのは、村より外に出て自立しろって意味だよ。生産能力が無い村だから、ある一定期間、外に出てそれなりの能力身に着けて来いって意味で。それで大半の若い子達は、私と同じよう、村から外に出てるよ」
「なるほど。能力が無いせいで村を追い出されるって、そっちの意味か」
「そうそう。それで落ち着いたら村に連絡を入れてくれとも言われてるんで、ゼタさんが思うような悲しい過去を背負って村を追い出されたわけじゃないから」
「何だ。それ聞けば少し安心した」
「うん。私も説明不足だった。でも、心配してくれてありがとう。ゼタさんはいい人だね」
「よせ。あたしは、アンタが無一文で丸投げされたんじゃないかってそれだけ心配しただけだよ」
「それであの、ゼタさん、私はあなたに改めてお礼が言いたかったの」
「何の?」
「私を遺跡で助けてくれてありがとう、って」
「……、あたしは組織の任務をやり遂げたに過ぎないから。礼は必要ない。それから、さんはいらない、ゼタでいい」

 に改めて礼を言われたゼタは、照れくさそうに頭をかくだけ。

 それからはバザラガの方を振り返って、彼にも礼を忘れなかった。

「バザラガさんも。私を助けてくれて、ありがとう」
「……、俺もゼタと同じだ。そこは気にしなくていいし、バザラガで構わんよ」

 バザラガは周囲にその照れを隠すよう腕を組み、天井をあおぐ。

 ――バザラガまで懐柔するなんざ、やるなぁ。ゼタはのその気持ちが伝わったのか、バザラガの信頼も獲得したのを見て内心、感心を寄せる。 


 イルザは一息ついて、に向けて改めて聞いた。

「それで、君はどうしてあの危険な遺跡に単身乗り込んでいた? 私はそこに居るゼタとバザラガから、あそこは魔物の巣窟のような遺跡だったと聞いているが。丸腰で乗り込むのは正気の沙汰ではないとも」
「あ、それも単純な話ですよ」
「単純な話?」
「当分の間宿泊施設で暮らせるお金を持っていても、仕事が見付かるまで節約した方が良いと思いましてね。宿泊施設の代金を浮かせようとして、でも野宿はさすがに嫌だったんで、そのへんの遺跡の軒下借りようかなってうろついてたら、穴に落ちた次第でして。私もまさか、遺跡の中があそこまで魔物が潜んでいたとは思わずで」
「……なるほど。それは確かに単純な話だったな」

 イルザはの単純な話に一応は納得して、うなずいている。

 そして。

、君は運が良いな。どういう経緯であれ我々に見付かれば、我々が対象を保護する決まりがあってね」
「というと?」
「君は今後、組織の手足となって働いてもらう事になる。我々の組織の仕事の内容は、昨日のうちに説明を聞いていると思うが」
「ええと、各地で起きている星晶獣に関する異変を調べてそれが星晶獣の原因であるならその星晶獣を討伐する、あるいは、星晶獣を利用する犯罪者達を取り締まっている組織であるというのを聞いていますけど」
「ああ、その通りだ。我々の組織は、各地で起きている星晶獣に関する異変の調査とそれの討伐を、あるいは、それに関わる犯罪者達を取り締まる役目を担っている。しかし我々の組織は、表立って活動はしない主義でね。世間にもその活動は公表していない。その中で何らかのキッカケでただの一般人が我々の組織を知った場合、我々の協力者として働いてもらうか、あるいは、我々と関わりを持たずに外に出て行くかのどちらかの選択を取ってもらう」

 ここでイルザはジッと、を見詰める。

 ゼタとバザラガの間にも緊張感が走る。

。君は組織に関わりを持たずそのまま外に放り出されるのがいいか、我々の手足となって働くか。どちらが良い?」
「今、それを選ばないといけませんか」
「ああ。この数分で返事が欲しい。、君はどちらを選ぶ?」
「そうですね……」

 は目を閉じて考える。

 そして。

 一分もしないうちに目を開けて、反対にイルザに聞いた。

「私は見ての通りにゼタ達のよう、戦闘系は何も出来ません。それで、組織に必要な人材とみられます?」
「ふむ。何も我々の組織では、戦闘員だけを欲しているわけではない。書類だけの事務仕事や戦闘員達の腹を満たすための料理人、あるいは、普通の村人に紛れ込むような潜入捜査で使いやすい人材として雇う事もある」
「そうですか。それで外に放り出される場合は、組織に関する記憶を消されたり、組織に関する痕跡を残さないために私の持ち物を全部奪われた状態で外に放り出されるとかですか? それ考えると組織の手足になる一択しかないんですけど」

 はそれを考えると恐ろしく、身震いする。
 イルザは深い溜息を吐いた後、足を組み直して言う。

「貴様が我々の組織をどう思っているか分からんが、我々は保護対象者の身ぐるみをはいで外に放り出すなどといった卑劣な犯罪行為はいっさい行わないし、組織に関する記憶も別に消したりはしないというのも約束できる」
「本当ですか?」
「ああ。君が外で我々の事を話した所で、我々の事を信じる人間がどれだけ居るだろうか?」
「あはは、私が外であなた達の事を話した所で、それを信じる人間はあんまり居ませんね」
「うむ。それから、さっき運が良いと話したのは、、君が組織に関わらないという選択をした場合、そのまま外に放り出さず、君にあった職を紹介できるのだが」
「え、そうだったんですか?」
「ああ。保護の対象者をそのまま外に出すというのは、外での我々の評判を落とすようなものだからな。ある程度の便宜は計れると思う。何か希望の職があるというなら、紹介の窓口は作れるが。どうする」
「む、そっちも魅力的ですね。でも」
「でも?」

 はイルザを前にして、はっきりとその意思を示した。

「でも私はどうにかして、この組織に関わりたいと思ってるんです。ある目的のために」
「ある目的のため? ……、貴様、武器も魔法も扱えないというのは真っ赤な嘘で、実はどこぞのスパイで、我々をたぶらかしていたのか?」

 イルザは机の下に自身の銃があるのを確認、ゼタとバザラガも万一に備えて武器を構えるのを忘れない。
 
 はさっきの和やかな場と違って武器を向けられて、焦りを隠せず、それを否定する。

「いやいや、私はある所のスパイとかじゃないですよ。武器も魔法も扱えないのは本当ですから。イルザさんも、昨日の身体検査でそれ確認してますよね!」
「では、貴様の目的というのは何だ。返答次第では問答無用で拘束するが。我々を甘く見るなよ、貴様が実は我々をあざむく事ができる星晶獣であるなら、ゼタとバザラガの武器は対星晶獣用のもので私の武器も貴様一人くらい簡単に足止め出来るからな。……仲間が潜んでいるなら話は別だが」
「いやだから、私はあなた達をあざむけるような星晶獣ではありませんし、仲間も居ませんよ!」
「しかし、万一の事もあるからな。改めて聞こう、貴様が我々の組織にこだわる目的は何だ」
「え、えっと、そうですね。私のいう目的というのは、この組織内で私の気になる人が居るからですとしか」
「は? 何だ、貴様の目的というのは男か?」
「ええ、まあ。直球でいえば、男目的です」

 はイルザを前にしてあっさりとそれを認める、認めるしかなかった。

 イルザはため息を一つ吐いた後、銃は手放さず、興味深そうにを見つめる。

「ほう。私を前にしてそれを認めるというのは潔いのか、ただのバカか。それで、その目的の組織内に居る男というのは、誰をさしている? そこに居るバザラガか? もしそうなら悪い事は言わん、奴目当てというなら止めておけ。なんの能力も無い貴様ではバザラガは相手にならんし、ああ見えて女に免疫が無いので一緒に居てもつまらんぞ?」
「おい、本人を前にそれはないだろう」
「ひひ、その通りじゃないか」

 バザラガ本人を前にして言いたい放題のイルザと、それを不愉快に思うバザラガと、笑うゼタと。

「や、バザラガじゃないです。私、鎧の男の人は苦手なもんでして。兜の下の素顔が良ければちょっとときめくかもしれませんけど」
「……」
「はは、も言うな」

 バザラガは本人からも否定的に言われて何かを考えこむよう腕を組み、それをそばで聞いていて苦笑するのはゼタだった。

 それからは少し考えてイルザ達の前で、それをあっさりと口にした。

「――エルーンのユーステスさん、今日は此処に居ないんですか?」


 その後の話。

 イルザに呆れた様子で「エルーンのユーステスは仕事で不在だ」と言われたは、第三者――ゼタとバザラガから見ても本当に残念そうな様子だった。

 そしてはイルザでも構わず、彼女に詰め寄る。

「あのですね。戦闘出来ない私が組織の一員になるには、どうすればいいですか?」
「……、さっきも話したが我々は、戦闘員だけを欲しているわけではない。組織の適正試験を受けてもらいそれに合格すれば一員にはなれると思うが」
「その組織の試験受けて合格できれば、ユーステスさんと一緒の仕事できます?」
「貴様の能力では、たとえ組織の試験に受かったとしても、戦闘員として重宝されているユーステスと一緒の仕事はできないと思うが」
「ですよねー。あ、でも、同じ職場ならユーステスさんと一緒になれる可能性高いですよね!」
「……」
「ええ、何で黙るんですか! ひょっとしてイルザさんもユーステスさん目当てか、彼と付き合ってるんですか?」
「違う! 私はユーステス目当てに仕事はしていないし、奴とも付き合っていない!」
「そうですか、それ聞いて安心しました。イルザさんがライバルじゃ、適いませんからね」

 はそう言った後、ふと、ゼタと目があった。ゼタは「ヤバイ!」と逃げ腰になるもいつの間にか背後にバザラガが立っていてそこから逃げられず、はゼタに詰め寄ってきた。

「ゼタはあの遺跡でユーステスさんと一緒だったけど、ユーステスさんと付き合ってるの?」
「まさか! このあたしが、あいつと付き合うわけないだろ! たまたま一緒だっただけだ」
「本当に?」
「本当だって! そこは全力で否定するわ!」

 ゼタは首を思いきり振って、全力で否定した。

 ゼタの否定を信じるようには落ち着きを取り戻し、そのあと、改めて彼女にユーステスについて聞いてみた。

「ねえ、ユーステスさんって、ほかに付き合ってる女とか居ないの?」
「さあね。あたしは、あいつのプライベートはいっさい関わりないから、あいつのそういうの、何も知らないよ。あいつのプライベートは多分、バザラガも、そこに居るイルザさんも知らないと思うけどね」
「そう。それじゃ、私でもユーステスさんと付き合える可能性あるかなー。でもそれなら、まずは組織の適正試験とやらに合格しないとねー」
「何、アンタ、ユーステスが気に入ったわけ?」
「うん。ユーステスさん、格好良いじゃない。一目見て、気に入っちゃった」
「……、ユーステスってさ、アンタの言う通りに顔は良いから組織内の女達の間で人気あるけど、その実態は冷たい男で変わりないよ。それからあいつは、アンタが思うより仕事人間で、これは組織内の女達から聞いた話だけど、あいつ、彼女とのデートでも仕事を理由に途中で帰るんだってさ。は、ユーステスは止めた方が良いと思うけどね」

 ゼタは最初、ユーステスに夢見るをどうにかして彼から引きはがそうかと思っていた。ユーステスは見た目通りに顔は良くて、組織内でも女性陣からの人気は高い。しかし、組織内でユーステスと親しい女性が彼を誘っても「予定がある」「仕事がある」と言ってその誘いをあっさりと断られて影で泣いている場面を何度か見ている。誘いに成功しても「仕事だ」と言って、デートの途中で帰る事も少なくないと何度か彼女達の愚痴を聞いた事があった。もユーステスに目をつけるはいいが、後で影で泣いていた彼女達と同じ目にあわせたくないという老婆心でそう忠告したに過ぎなかったけれども。

「それ、ゼタなりの忠告?」
「……そうだな。あたしは、あいつの冷たい部分と彼女よりも仕事優先で泣かされた女達を見ているからさ。も彼女達と同じような目にあって欲しくないと思って、それで」
「そう……。でも私はあの遺跡でユーステスさんと初めて会った時に彼は仕事熱心な人で、彼女よりも仕事を優先する人だとは予想してたから、今更それには驚かないかな」
「え? はそれじゃあいつのそれ分かってて、あいつと付き合おうとしているのか。何だそれ、意味分からん」

 これにはゼタもの言っている意味が分からず、首を傾げる。イルザとバザラガも不思議そうにを見詰める。

 は言う。

「ユーステスさんは、優しい人だって分かってるから。それだから私もそこまで酷い目にあわないと思う」
「だから、アンタのその根拠はどこからきてるんだ」
「それね。ユーステスさんは遺跡で泣き止まない私に向かって銃を向けた時、迷ってた風だって分かったから。ユーステスさん、皆が思うより優しい人だよ」
「――」

 それは。
 その事実は。

 は絶句するゼタに構わず、続ける。

「ユーステスさん、私に銃を向けたのはいいけど、その照準、定まってなかった。多分、私に銃を撃って良いかどうか迷ってたんじゃないかな」
「……一ついいか」
「バザラガ」

 此処でゼタからバザラガに切り替わる。

「何故、何も能力が無いに、ユーステスのそれが分かった?」
「それも単純な話だね。今までの会話でバザラガだけじゃなくて、イルザさんもユーステスさんの狙撃の腕を信用してるみたいだってのが分かったからね。それくらいの腕なら時間かけないで――あの時は多分、一分くらいだったと思うけど、そこまでの時間かけずにあっさり私を撃ってると思って、それで」
「ほう。確かにあいつは、お前を撃つ決断をするのに、一分ほどの時間を要していた。それから、イルザと俺の会話だけでそれを判断するのも納得できるものだ」
「それだけじゃなくて、私にエルーンの耳を触らせてくれたのもあるかな。エルーンは、その耳を触られるの嫌がる人が多いって聞いてたから」
「なるほど。あいつは、女子供には甘い部分がある。そしてユーステスは、ゼタやイルザが話しているよう、冷たいだけの男ではない」
「うん。バザラガがそう言ってくれるなら、嬉しい。私の見る目は間違いなかった」

 は、バザラガにユーステスをそう評価され、嬉しそうだった。

「ふむ。彼女は、何の能力も無いと嘆くわりに、周囲の人間の観察力に長けているのか。それはそれで我々も良い拾い物をしたか……」

 イルザはとバザラガのやり取りで、改めてに興味を持つ。

 ゼタは溜息を一つ吐いて、そのに向けて言った。

の言う事は分かったけどさ、それでも、あいつは止めておいた方がいいと思うけどね」
「何で?」
があいつに突撃しても無視されるか、興味無いとか目の前に来るなとか、そういう酷い扱い受けるだけだぞ。それで後で落ち込むなら、止めた方がいい」
「うん。ゼタの言うよう、ユーステスさんに突撃してもそう酷い扱いを受ける方が強いとは思うけどでもね」
「でも?」
「でも、ユーステスさん本人にもう一度会って私をどう思うかってそれ聞かないと始まらないのも事実だよね」

「私はユーステスさんにそれの返事を聞くまでは、彼を諦めない、諦めたくない。せっかく遺跡であんな良い男を見付けたんだから、それを逃がさないわけにはいかないでしょ」
「――」

 その揺るぎの無い言葉を聞いてゼタだけではなく、バザラガとイルザも目を見張って彼女を見詰めていた。

「ハッ」
「ゼタ?」

 先に動いたのは、ゼタだった。

「あははは! そうきたか! そうくるとは思わなかった! 遺跡の時も、村を追い出されたと聞いた時も思ったけど、アンタ、けっこう根性あるじゃん。いいね、気に入った」
「いや私は、ゼタに気に入られるより、ユーステスさんに気に入られたいんだけども」
「そう言うなって! あたしがアンタとあいつを引き合わせてやるって言ったらどうよ?」
「おおお、それならゼタに気に入られた方が良いね!」
「だろ? それから、あたしがアンタを組織に入れるように色々手を貸してやるよ」
「え、それ本当?」
「ああ。あたしも組織内じゃ、戦闘員として重宝されてる方だからさー、上層部の連中もあたしには逆らえないだろ」
「ゼタ様!」
「ゼタ様はよせ、ゼタでいいって。いやー、がユーステス目当てに組織に入ったと聞けばあいつ、どういう顔するかな。であいつの驚く顔が見物だわ! ひひひ!」
「私、ゼタのおかげで組織に入れたら、一生ゼタについていきます!」
「や、一生ついていかなくていいけど。さっそく、アンタに紹介したい奴が居る。ベアトリクス、あたしはベアって呼んでるんだけどさ、ベアものユーステスの話聞けば興味持ってくれて、ユーステスと付き合う協力してくれると思うよ!」
「そう、それはベアトリクスさんに会うの楽しみ!」
「じゃあ、さっさとベアに会いにいくか!」
「行きましょう、行きましょう!」


 盛り上がってベアトリクスに会いにいくために部屋を出ていくゼタとの様子を呆れながら見ているのは、バザラガである。

「おい、あれ放っておいて良いのか」
「良いんじゃないか。正直、私もあいつがにどう接するのか見物ではある」

「……あいつも災難だな」

 ふふふ。不敵な笑みを浮かべるイルザを見て、バザラガは此処に不在のユーステスに思いきり同情した。