「おはようございます!」
「おはよう! 今日も良い天気だね!」
朝。寄宿舎で部屋から出てきたアーサー達に笑顔で応じるのは、ヴェインに合格点をもらっただった。
アーサー達もの存在に安心したよう、それぞれの席についた。
――これは、昨夜の話。
は昨夜、ランスロットとヴェインに試験結果を告げられた。
「の今回の試験は残念な結果だったが、まあ、そこから逃げずにきちんと対応したようだし、アーサー達もお前の言う事を聞かずにトマトソースで遊んでいたという悪い面はあったので、それならまだお前には改善の余地はあると判断した」
「そ、それはつまり?」
「つまり、まだの試験は続ける意味が出て来たというわけだ。はグランサイファーに戻る必要はない。明日もまた、この寄宿舎で手伝ってもらうから、そのつもりで」
「あ、あの、この件は団長さん達とユーステスには……」
「うむ。団長達とユーステス、彼らにはの件は最終日にその結果を伝えればいいとも判断したので、この件はまだ伝えていないから一応、安心しろ。この数日の間にがまた妙な事をしでかせば、それは変わってくるけどな」
「あ、ありがとうございます!」
「今回は、に同情したアーサー達の顔に免じての結果だ。明日からも、せいぜい頑張れよ」
「はい、明日からもせいぜい頑張ります!」
これでヴェインとの話は一応、決着がついた。
「、良かったな」
「はい、良かったです」
ランスロットに肩を叩かれたは本当に安心したよう、笑った。
「――」
ランスロットとヴェインは今まで緊張感で笑顔を見せなかったの笑顔を、ここで初めて見た気がした。
ヴェインは口笛を吹いて、を面白そうに見詰める。
「へえ、良い顔するじゃないか。、お前、笑ってた方が良いな」
「そ、そうですか?」
「ああ。今までの緊張感はどこへやら、だな。トマトソースの件をユーステスと団長達に知られない安心感でそこまでほぐれるか」
「ふふ、ユーステスと団長さん達には組織とグランサイファー以外の場所でもよくやっているって、褒められたいですからね。当然です」
「……、お前、本当にあのユーステスと付き合ってるのか」
「あれ、それも此処に来る前に話したつもりだったんですけど。ヴェインさん達は、私とユーステスの関係、今更分かったんですか」
「うむ。俺とランスロットは、お前が此処に来てからも、ユーステスとお前の関係を疑ってたのは否定しない」
「そうですか。でもこれで私達の関係、分かってくれましたか?」
「何となくはな。でもまあ、あのユーステスがどうしてお前みたいな女を選んだのかは未だに分からんがね」
「何ですかそれ。それくらい、分かってくださいよ~。私みたいな良い女、ほかに居ませんよ!」
「はは、自分で言うかそれ。それに関しては、まだもう少し時間かかりそうだ」
「むぅ。どうやったら私とユーステスの関係、ヴェインさん達にも分かってもらえますかねえ。一番良いのはユーステスが此処まで来てくれる事だけど、彼にそこまで期待出来ないか……」
「……」
ヴェインにまだユーステスとの関係を疑われてどうすればそれを認めてもらえるか考えると、ヴェインとの二人のやり取りを近くに居るのに遠くから眩しそうに見詰めるランスロットだったが――。
「ランちゃん、ランちゃん」
「え、何だ?」
「どうした、さっきから声かけてるのに、ボーッとして」
「……ヴェインは、俺に声かけてくれてたのか?」
「ああ。あいつらもそろそろ風呂から出て来る頃だろうから、俺達も風呂に行こうぜってさ」
「あ、ああ、そうだな。俺達も風呂に行くか……」
ランスロットはヴェインに肩を叩かれ、ようやく席を立った、ところで。
「というかランスロットさん、ランちゃんって呼ばれてるんですか」
「あ、いや、これはヴェイン限定の呼び方で、ヴェインとごく親しい人間の間でしか呼ばれてないから、あいつらには言わないでくれると嬉しいんだが」
ヴェインの「ランちゃん」と聞いてくすくす笑うと、何故かそれに慌てて焦るランスロットと。ヴェインはドアの付近に立って、二人のやり取りを見守るだけ。
はランスロットの顔を真っすぐ見つめて、言う。
「ヴェインさん限定でもその呼び方は、親しみやすくて良いと思いますよ」
「そ、そうかな」
「はい。私も今のでランスロットさんの人柄、分かった気がしますから。ランスロットさんは、この中では一番優しい人で間違いないです」
「あ……」
ランスロットはに手を伸ばせば、すぐ届きそうな気がした。
これでは、まるで――。
「あの、今後も何か分からない事があればランスロットさんに聞いて良いですか」
「え?」
「私、この国は初めてで、訓練生といえども騎士を目指している子達の扱い方もよく分からないので……、ランスロットさんにそういう部分を教えてもらえれば助かるんですけど」
「あ、ああ、俺で良ければ、何か分からない事があれば遠慮なく聞いてくれ」
「ありがとうございます、とても助かります」
「……」
ランスロットにその了解が得られてにこにこ笑うと、その彼女に頼られて悪い気はしないランスロットと。
――あ、あれ? これは、何か、当初の予定と違う展開になってないか。弱くて何も出来ないはよくて二日くらいで団長達に泣きつくかと思ったのに。これは、自分がにいいように利用されてる、のか? ランスロットは自分のに対する印象が当初とは違っていてそれに戸惑うが――。
「此処ではランスロットさんに頼れば、この試練を乗り切れる気がしました」
「そ、そうか、にそう言われると、騎士として悪い気しないな」
ランスロットはに素直に甘えられるように頼られれば騎士として悪い気はせず、こうなればもうもうヴェインに何を言われようが側につくしかないと思った。
「それでは、また明日」
「また明日……」
にこにこ笑ってランスロットを見送ると、そのをいつまでも見ていたいと思うがそれを振り払い、「ランスロット、行くぞ」と、普段の呼び方で声をかけ先行くヴェインを追いかけるランスロットだった。
それが昨日あった話で、朝はは自分に同情してヴェインにかけあってくれたアーサー達に応えようと張り切っていた。
「朝ご飯できてるから、順番に取りにきてね!」
の言う通りで、アーサー達が食堂の調理場を見れば焼きたてのパンとそれの付け合わせのサラダが用意されてあった。
「これ、さんが一人で作ったんですか」
「うん。武器も魔法も扱えないぶん、こういうのは私の得意分野だからね。どうぞ!」
驚くアーサー達をよそに、は手際よくほかの訓練生にもパンとサラダを配っていく。全員に行き渡った所で、手をあわせ、そして。
「頂きます!」
アーサーは恐る恐るの作ったというパンを口に入れて、そして。
「何これ、めちゃくちゃ美味しい! さん、どこかで料理人やってたんですか?」
「ふふ、こんなの朝飯前、といいたい所だけど、私の前に此処で働いてたと思われるおばさんのレシピとそれのやり方が残っててそれを参考にしたのと、それから、味はグランサイファーのファスティバさんとローアインさんの所で修業した成果だよ」
「へえ。確かにこれファスティバさんとローアインさんの味に近いし、さん、本当にあのグランサイファーの一員だったんですね! それだけでも凄いのに、あのユーステスさんと恋人として付き合ってるって本当ですか?」
「あれ、アーサー君、グランサイファーの団長さん達の事と、それから、ユーステスの事、知ってるの?」
「はい。この中で俺とモルドレッドは、ヴェイン班長の使いで時々、グランサイファーの団長さん達の仕事を手伝っていて、そこで何度かユーステスさんとも顔をあわせた事もあります」
「そうだったんだ。それは知らなかった。ねえ、それならあの中でユーステス、格好良かったでしょ」
「はい。俺達の前でも手を抜かずに魔物を仕留めていくユーステスさん、格好良かったですよ」
「ふふふ。そう、ユーステスってば、イルザさんの組織だけではなくて、グランサイファーの中で一番格好良いよね! アーサー君、ユーステスの事がよく分かってて偉いね!」
「は、はい、それはもう?」
「アーサー君、ユーステスの格好良い話まだあるんだけど、聞きたい? 聞きたいよね、ユーステスの格好良い話はアーサー君達の騎士の参考にもなると思うし!」
「え、ええと、その、あのそこまでは……」
――あれ、何かヤバイ方向にいってる? アーサーはのそれに及び腰になるも、遅かった。
それからアーサーは朝ごはんを食べている間、のユーステスに関するノロケ話を聞く羽目になった。ほかの訓練生――モルドレッド、クルス、トネリロの三人はアーサーと同じ目にあいたくはないので、彼を助ける事はしなかったという。
そして、それから。
はアーサー達と朝ご飯を食べ終わって、アーサー達は朝の訓練に出かけ、はその間に再び、後片付けやその昼ご飯の用意を始めた、その中で――。
「ふぅ、朝の訓練も終わったし、書類も片付いたし、ランちゃん、昼ご飯食べに行こうぜ」
「そろそろ昼か。今日は何食べようか……」
ランスロットはヴェインに昼を誘われて、席から立ちあがったその時――。
「ヴェイン副団長、ランスロット団長、大変です! すぐに来てください!」
「何だ?」
「何があった?」
訓練生の一人が慌てた様子で飛び込んできて、ヴェインとランスロットは尋常ではない彼の様子に顔を合わせる。
「さんが大変です! 至急、寄宿舎まで来てください!」
「またあいつか! 今度は何やらかした!」
「やれやれ、彼女を相手にすると落ち着く暇がないな……」
ヴェインは訓練生から「」と聞いてまた面白い事でも起きたかと意気揚々と飛び出し、ランスロットは何かを諦めた様子で彼らを追いかける。
「、大丈夫か?!」
「――って何であいつが居る?」
知らせを聞いての居るだろう寄宿舎の調理場に飛び込んだヴェインとランスロットは、信じられないものを目撃した。
それは。
「凄いですね、さすがパーシヴァルさん!」
「ふ、これくらい造作もないわ、ふはは! これで俺が奴より――ユーステスより凄いというのが分かっただろう!」
「でもこれくらいならユーステスも簡単にやれますよ!」
「何だと、あいつは狙撃手だろう、それでここまでの強力な魔法は使えないはずだが」
「火炎放射器とかの重火器使えばそれ以上の火力出せるじゃないですか~、パーシヴァルさんもグランサイファーの一員であるなら、ユーステスの銃の扱い、知ってますよね!」
「む。それを言われると、確かにあいつもこれ以上の火力は出せるな……」
「パーシヴァルさんも炎の使い手なら、これ以上に火力出せるんじゃないですか?」
「お前、俺の最大火力を見たいのか?」
「ぜひ!」
「ふ、それなら特別に見せてやろう、奥義・トロイメラ――」
「――うわあ、待て待て、此処でそれ披露したら宿舎が燃えるぞ!」
「パーシヴァル、それ以上は止めろ!」
ヴェインとランスロットは、を前にして奥義を披露するパーシヴァルを全力で止めに入った。