空のパレード(02)

 さて、彼女は一体どんな手を使うのやら。シエテはに期待していたがしかし、彼女はこれから外に出る準備もせず船内をうろつくだけ。

「何だ、は残りの十天衆を集めるの、もう諦めたのか? まさか、もう団長さんに泣きついたとか……、それなら、ガッカリだなぁ」

「――シエテ、スツルムの言う通りで、を甘く見ない方がいい」

「うわ、シス、いつの間に俺のそばに来たんだ?」

 シエテのそばにいつの間にかシスが来ていて、その隣には。

「そうそう、シスの言う通りですね。を甘く見ていると、シエテが返り討ちにあいますよ」
「カトルまで? というかカトル、エッセルはどうした? エッセルはまだエルーンの耳品評会、終わってなかったのか?」

 いつもカトルの隣に陣取っているエッセルの姿が見当たらない。

 カトルはニヤリと笑って、シエテに言った。

「シスも姉さんも僕も、エルーンの耳品評会はとっくに終わってます。は、僕達は早めに終わらせた方が良いって最初の方に並ばせてくれたんですよ本当、ユエルじゃないけど、は僕達の性質をよく分かって良い仕事をしますね」
「そうだな。確かにうちの人間は遅めよりは、早めに並ばせた方が円滑に進むってのは分かるな……」
「姉さんはそのに頼まれて、ほかの十天衆の皆を集めにいきましたよ」
「ええ、あのエッセルがに協力? 本当に?」

 シエテは最初、カトルの言う事が信じられなかった。
 それというのも。

「実力で俺達の信頼を勝ち取った団長さん達はともかく、それの反対で武器も魔法もいっさい扱えないって言うにエッセルが協力するのか? エッセルは確かに十天衆の中では優しい方だと思うけど、自分の実力と見合わない相手にはけっこう厳しいぞ? カトルがそれ一番よく知ってると思ってたけど」
「姉さんは、この団の中ではその力を持たないを一番気に入ってますからね」
「いやだから、何でエッセルが力を持たないを一番気に入ったんだ?」
「ああ、丁度、姉さんがサラーサとニオを連れて艇に帰ってきた。姉さんとを見ていれば分かります」
「はあ……」

 シエテはカトルに言われるよう、しばらくして艇に戻ってきたエッセルとのやり取りに注目する。

 エッセルは相変わらず表情は読めないが、に胸を張って言った。

の言うよう、私で集められる十天衆の仲間、連れてきたよ」

 そして。

「やっほー。エッセルに呼ばれて来たよ。今日はエルーンの耳品評会って聞いてたけど、こんな時にあたし達を呼びつけるなんざ、シエテも間が悪いよねー。まあ、エッセルからがあたしを呼んでるって言われたら来ないわけにはいかないか」
「……ん、エルーンばかりの中ではちょっと場違いで居づらいかも。でも、エッセルにが来て欲しいって言ってたから来たよ」

 エッセルの呼びかけで艇に来たのは、サラーサとニオだった。

 サラーサは腰に手をあて、挑戦的にに言う。

、このあたしを呼びつけたからには、あたしが納得するような美味しいケーキを用意してるでしょうね?」
「もちろん。エルーンの耳の品評会の間は無理だけどそれが終わればサラーサ用のケーキ、あとで作ってあげるよ」
「ひひ、その言葉、忘れんなよー。がそれ忘れたら、あとでシエテボコるからな!」

「何で俺が巻き添え?!」

 バキバキ。シエテは、何故かではなく自分をやる気で腕を鳴らすサラーサに恐怖を抱く。

、エルーンの耳の品評会が終わったらこの艇で落ち着ける場所、教えて欲しい」
「了解、了解。終わればあまり人が居ない場所、教えてあげるよ」

「うん。の言う事は信用できる。それまではサラーサ達と居るよ」

 ニオはの言う事を信用するよううなずいた後、サラーサと一緒にシエテが用意した十天衆用のテーブルに落ち着いた。

「へえ、あのサラーサとニオもの言う事はちゃんと聞いているのか……」
「これこそ、信頼の差ってやつじゃないのか。は力が無くてもちゃんと、人の言う事は聞いてるからな。いつもヘラヘラ笑って何を考えているのかよく分からない奴よりは、よほどいい」
「……シス、と誰と比べたのかな?」
「さあ?」

 シスを睨むシエテと、シエテに肩を竦めるだけのシスと。

 と。

「おいシス、どこ行くんだ。皆が集まればいつもの会議始めるぞ!」
「ちょっと野暮用。すぐに戻る」

 シエテはここで自分から離れるシスに慌てて声をかけるも、シスはそう断りを入れてシエテから離れていった。

「ああもう、十天衆であるのに自由過ぎるだろ!」

 シエテは参ったように髪をかきあげるも、シスを追いかける気力はなかった。

「シスはいい、エッセルはどうなった」

 シスを諦めたシエテはカトルの言うよう、エッセルとのやり取りに注目する。

 はエッセルがサラーサとニオを連れてきてくれて、彼女の手を取って感謝をあらわす。

「エッセル、サラーサとニオを連れてきてありがとう。やっぱりエッセルはお姉さんで頼りになる!」
「……うん、私、のお姉さんだからね。お姉さんに頼ってくれて、嬉しいよ」

 エッセルは無表情でしかし、の頭を優しく撫でる。

 エッセルとの様子を見ていたシエテはある事実を知って驚き、彼女の弟のカトルにその真相を訪ねる。

「あれ、ってエッセルの妹だったの?」
「いや。姉さんが勝手にを妹と思い込んで、可愛がってるだけですよ」
「自分で勝手に妹と思い込むって。実の弟のカトルはそれでいいのか」
「特に何も。姉さんは昔から僕とは別に、恋愛ごとや女友達の相談してくれるような妹も欲しかったって言ってたんですよね。は同じエルーンとしてユーステスの相談に来てくれるから、姉さんとしても丁度良かったんです」
「それ、星屑の街の妹達とは違うのかい?」
「ああ、星屑の街の妹達はまだ小さいですからね。彼女達では姉さんにのよう、恋愛ごとの相談はできません」
「確かに星屑の街の妹達では、のような恋愛ごとの相談はまだ早いな……」
で姉さんのその願望が叶うなら、弟の僕としても嬉しい限りです」
「はあ。あれ、でも、は同じ組織のイルザの妹にもなってなかったっけ?」
「それがややこしいんですよ。あ、さっそくエルーンの耳品評会で来ていたイルザが抗議しにきましたね。ああ、シルヴァも来ていましたか……」

 シエテがカトルの指摘での方を見ればエッセルの前にエルーンの耳品評会で呼ばれていたイルザが現れ、更には彼女についてきたシルヴァも来ての取り合いになっていた。おまけに二人は、十天衆のソーンを連れている。

の姉はエッセルでもなくシルヴァでもなく、この私だ! 私の呼びかけでシルヴァ、そして、シルヴァと仲良い十天衆のソーンを連れてきたんだからな!」
「いや、ソーンを連れてきたのは私の呼びかけであって、イルザの呼びかけに応じたわけじゃない。ソーンを連れてきた私こそ、の姉に相応しいよな!」

のお姉さんは、この私……。その事実は、変わりない」

「何これ。私、シルヴァとイルザじゃなくて、に応じて来たんだけどなぁ」

 誰がの姉に相応しいか、イルザ、シルヴァ、エッセルの三人の間で言い合いが始まり、それに呆れるのはソーンである。

 そして。

「あ、、来たよー。あんたも面倒な姉達に囲まれて、大変だねえ」
「はは。でも、三人ともこの艇では私のお姉さんで変わらないよ。実際、三人は姉として頼りになるから」
「……、のそういうとこが三人を引き付けるのねえ。でも、三人の姉達だけじゃなくて、たまには私ともお茶しない? 新しくできた良さそうなお店、見付けたんだよね、今度、一緒にどう?」
「いいね。あとで、団長さんにソーンと出かけていいか聞いてみるよ」
「ふふ、楽しみにしてるわ。さあエッセル、シルヴァ達と不毛な言い合いしてないで皆が集まってるテーブルにつきなさいよ」
「ああ、あと少しでが私の妹になってくれたのに……」

 ソーンは此処でと別れ、イルザとシルヴァの二人と言い合いを続けるエッセルを連れて十天衆が集まるテーブルについた。

 ソーンと普通に話しているを見て感心するのは、シエテだった。

はあのソーンとも普通に話せるのか」
「ソーンは可愛いものが好きで、もソーンと同じように可愛いもの好きで、趣味があうらしいですよ」
「ふむ、それの共通点があったか。しかし、それ以前に俺の知らない間にはイルザとシルヴァだけじゃなくて、エッセルの妹にもなってたのか……」
「姉さんが言うにはだけど、恋愛ごとの相談とか、の何も出来ない、でも皆に追いつこうと頑張ってる姿が部分が姉として何とかしてやらないといけないって、姉心が芽生えるらしいです」
「確かに、恋愛ごとの相談も、の何も出来なくても皆に追いつこうと頑張っている姿も、姉心が芽生えるには十分だな……」
「そうそう、此処には来ていないけどナルメアはもちろん、エルーンとして此処に来ているヘルエスもを自分の妹扱いしているし、自分と同じ弟が居るヘルエスは分かるけど何故かスカーサハもの姉だと豪語していて、十二神将のクビラとアニラ達もをほかの妹達と同じように妹扱いして可愛がってるらしいですね」
「ナルメアは簡単に予想ついてたけど、十二神将のクビラとアニラ達もかい。しかも、カトルと同じように弟がついているヘルエスはまだ分かるけどスカーサハまでの姉になってる? 確かにスカーサハもより年上といえば年上だが。……うちの十天衆より癖の強い姉達に囲まれるも大変そうだなぁ」

 シエテは自分でも手に負えないような、癖の強い姉達に囲まれるに少しだけ同情してしまった。

 と。

「あれ、ねえ、、何か困ってない?」
「え、ああ、本当だ。、何か困った様子であたりをうろついてるな。あたしらの件で何かあったか?」

 最初にのその様子に気が付いたのはニオで、ニオに反応したのはサラーサである。

「どうした?」

 シエテは、十天衆のテーブルでざわつく仲間達に気が付いて、慌ててそのテーブルに近付いた。カトルも同じである。

「シエテのせいで、が困ってる……」
「アンタがに無理難題押し付けるからよ! 責任取りなさいよ!」

「ええ、俺のせい?!」

 シエテはニオとサラーサではなく、エッセルとソーンにも睨まれて針のむしろに陥る。

「カトル」
「分かってますよ、姉さん」

 エッセルはカトルに声をかけて、カトルもエッセルに応じるよううなずき、二人揃って困っているを助けようと席を立った時、だった。


 彼らの間に一陣の風が吹いた、かと思えば――。


! 来たよー!」
「うむ。がシエテの難題で困っていると聞いて、来たぞ」

「フュンフちゃん、オクトーさん!」

 皆から少し遅れてやって来たのは、フュンフと彼女についているオクトーだった。

 シエテはフュンフよりオクトーの「難題」という言葉に反応し、反論する。

「え、俺、に難題なんて出してないけど」

「シスから聞いたよ、シエテが困らせてるってー」

「シス? あ、何処か行ったかと思えば、シスがフュンフとオクトーの二人を連れてきたのか」

 シエテはフュンフの指摘でシスが戻ってきているのを知って、そして、シスがフュンフとオクトーを連れてきたのだと分かった。

 もシスが二人を連れてきてくれたと分かって、ほっとした様子だった。

「シス君がフュンフちゃんとオクトーさんを連れてきてくれたの? 私、これからシス君にそれ頼もうと思ってて、でも艇にシス君の姿が見当たらなかったから、困ってたんだよ」
「それは悪かった。に一言言ってから出ていくべきだったな」
「そこは別に気にしなくて良いと思うよ。シス君、フュンフちゃんとオクトーさんを連れてきてくれてありがとう、助かったよ」
「……いや、俺でもの役に立てたようで、良かった」

 シスはに手を取って礼を言われ、照れくさそうに自分の仮面を触る。

 ――あの気難しいシスまで使いこなしてる? ってなんなんだ、いったい。シエテは、エッセルだけではなくシスもに協力的であるのを知って、二人の様子を意外そうに見ていた。

 そして。

「シエテ、いくら十天衆の頭目でも、あちしらと違って力を持ってないをあんまり困らせちゃ駄目だよー」
「うむ。は我々と違って力を持たないからな、そのぶんを考慮しないといけない。を気遣ってこその十天衆の頭目だと思うが?」

「いやいや、それは誤解だ、俺はに難題を出してないって。が俺達を集めるのが無理そうなら団長さんの力も頼っていいって言ってあるし! シス、フュンフとオクトーにどういう話をしたんだ!」
「俺はフュンフとオクトーの二人に、がシエテの依頼を受けて二人を探しているとそれを伝えにいったに過ぎない。ただしフュンフもオクトーも、この団で力を持たないだけは慎重に扱うようにと、彼女には協力的だったというだけだ」

 フュンフだけではなくオクトーにまで説教をされたシエテはシスに抗議をするも、シスは淡々と説明をして肩を竦めるだけで終わった。

 その間、フュンフとオクトーがの前に来て彼女に言った。

、何か困った事があれば、あちし達に遠慮しないでよー」
「うむ。何かあれば我々が駆け付けよう」

「ありがとうございます。今回はもう、十分です」

 は笑って、二人に頭を下げる。

、もう大丈夫みたいだねー」
「そうみたいだな。では、我々も席につくか」

 フュンフとオクトーはの気持ちが伝わり、十天衆の席についた。

 シスも十天衆の集うテーブルについて、残るは。

「エッセル、カトル、シス、ニオ、サラーサ、ソーン、フュンフ、オクトー、残るはウーノだけか。さて、次なる一手はどうくる? 最後の一人、ウーノは中々捕まらないぞ」

 十天衆も残りはウーノ一人だけとなり、ウーノだけは彼らと共通点の仲間は少なく、シエテははどういう手を使ってウーノを連れてくるのか、彼女を面白そうに見ていた。