それから数か月、がすっかりグランサイファーの一員で馴染んだある日の出来事。
「さん、さんはいらっしゃいますかー?」
「シェロさん?」
グランサイファーに来たのは、商売人、シェロカルテだった。
「シェロさん、何ですか」
「ああ、さん、居てくれて良かったです。期日までにこれがさんに届かなかったらどうしようかと」
シェロカルテは甲板に姿を見せたの顔を見て本当に安心したよう、胸を撫でおろした。
「何、何? 、シェロカルテに何か注文してたの?」
「シェロカルテさんに何を注文したんですか?」
シェロカルテとの組み合わせは珍しい、イオとルリアが興味深そうに二人に近付く。
更に。
「がシェロカルテに何か注文するなんて、珍しいな」
「そうだね。これは僕も興味あるな」
「オイラも気になるぜ」
カタリナ、そして、団長のグラン、ビィも集まってきた。
はしかし、シェロカルテが自分の前まで来た理由が分からずに首をかしげる。
「私、シェロさんに何も注文していませんよ」
「え、それは本当かい?」
「はい。シェロさんに注文する前に私、ジュリエットやソーン、コルワとメーテラ、メグ達との買い物で満足してるんで」
はグランに話しているよう、このグランサイファーに乗り込んでからは力を持たずとも数人の女友達ができて、彼女達と買い物に行く回数も増えた。今ではそれがこの艇での楽しみの一つとなっている。
シェロカルテもにうなずいたあと、彼女の用事を話した。
「はい。さんはボクに何も注文していませんよ。ボクはさんにお手紙持ってきたんですよ。お手紙というか、招待状ですね」
「招待状?」
「こちらです、どうぞ」
シェロカルテはに一通の白い封筒を差し出した。は何の気もなくその封筒を受け取った。
白い封筒は確かに招待状であると認識させるには十分だった。
シェロカルテは言う。
「さんにこの招待状を期日までに届けてくれと送り主さんから言われてたんで、本当に期日に間に合って良かったです」
「ねえ、この招待状、だけ? あたし達には来ていないの?」
「はい。さんご指名です。イオさん達には何も来ていませんよ」
イオの不満を聞いたシェロカルテはこれ以上何も持っていないと、両手をあげてみせた。
「何でだけ招待状が来るの? このグランサイファーであたし達だけ除け者なんて、それ怪しくない?」
イオの疑いを聞いたカタリナは、ある一つの可能性を思いついた。
「それ、イルザの組織の任務のうちとかじゃないのか?」
「ええ、でも私、イルザさん達から何も聞いてませんよ」
カタリナに言われるもは、イルザから任務を与えられてはいない。
カタリナはこの時、軽い調子で言う。
「イルザは、にそろそろ組織の仕事を任せたいと思って、極秘で任務を与えたんじゃないか。最近のは、マキラについて技術職の勉強も頑張っているだろう」
カタリナの言う通りで、はマキラについて技術職の勉強も続けていた。最初に手掛けたパソコン以外で何個か機械の箱を直しているし、星晶獣や団の人間を管理するためのデータ入力も続けている。
「イルザもそれで、が技術者として組織に使えるかどうか見極めるため、指名で招待状を出したというわけだ」
「あ、それですよきっと。イルザさんもに仕事を与えたいと思ったんじゃないですか」
ルリアもカタリナのそれに賛同するよう、手をぱちぱち叩いた。
「そうですかね。これがイルザさんの仕業なら、嬉しいですけど」
えへへ。は、カタリナの思い付きを嬉しそうに聞いていた。たとえユーステスの見習いであってもイルザに信用されて組織の仕事を与えられるとは、今までなかった事だ。
グランもカタリナに応じて、に言う。
「、その招待状、今、この場で開けて確認してみたらどうかな。僕も気になるし、イルザからの極秘任務ならなおさら」
「そうですね。これがイルザさんの極秘任務だとしても、団長さんに確認してもらった方が私も安心します」
はイルザからの任務だったら良いなと期待を込めて、招待状の封を開ける。
そして。
「……何だ、イルザさんからの極秘任務じゃなかった」
招待状に目を通したは、イルザからではないと知って、ガッカリした。
ビィは遠慮なくの招待状を覗き込み、聞いた。
「イルザからの極秘任務じゃなければ、何の招待状だったんだ?」
はビィに応じるよう招待状を集まってきた全員に見せて、言った。
「――妹が結婚するから村まで戻って来てほしいって」
妹、と、聞いて、その場に集まった人間達がざわつく。
「ええ、に妹なんて居たのか?」
「マジかよ、これは衝撃的な事実発覚じゃないか?」
「私もこれには驚きました!」
グランだけではなくてビィ、ルリアもこれには本当に驚いた様子で、
「はイルザをはじめ、シルヴァ達からこの団では皆の妹で可愛がられてたから、あたしもそのに妹が居るなんて思わなかった!」
イオもの妹の存在を不思議そうに聞いていた。
「……、また誰かに騙されてるとかじゃないのか。それにはすぐに応じず、慎重になった方がいいと思うが。シェロカルテ、にその招待状を持ってきた人間に何か心当たりあるのか」
カタリナでさえそれを疑い、に招待状を持ってきたシェロカルテを見る。
シェロカルテは少し考えて、に向けて言った。
「さん、真面目そうな男の人に心当たりあります? この招待状、その男の人からなんですけど……」
「真面目そうな男の人? ああ、それ多分、私の二番目のお兄ちゃんですよ」
「え、さんの二番目のお兄さんですか?」
「シェロさんその人、こう、きっちり七三分けで眼鏡かけて白衣着てませんでした?」
「ええ、さんの言う事に間違いありません。この招待状は、その白衣の方からです」
「それ、私の二番目のお兄ちゃんで間違いないです。ご安心を!」
「……」
ご安心をと言われても。
に胸を張って言われるもグラン達はどう返して良いのか分からなかった。
あまりの事にグラン達に代わっての兄弟について聞いているのは、シェロカルテである。
「さんの二番目のお兄さんが白衣を着ているというのは、何かの研究員でもやってるんですか?」
「そう聞いてますね」
「二番目のお兄さん、何処でなんの研究員やってるんですか?」
「ええと、二番目のお兄ちゃんは確か、シロウさんのとこの研究艇で研究員やってるはずです」
「へえ。さんの二番目のお兄さん、シロウさんのとこの研究艇で研究員やってるんですか? さんからそういうお兄さんを持ってるとは、このボクでも予想できませんでしたね。あれ、それじゃあシロウさん達はさんの二番目のお兄さんがそこで研究員やってるの、知ってるんですか?」
「どうですかね。私はこの団に来てからシロウさん達の事を知ったので、多分、その人が私の二番目のお兄ちゃんだってシロウさん達の方も知らないんじゃないですかね」
「……」
ははは。は笑うも、シェロカルテは笑えなかった。グラン達も同様である。
そして。
「あれ、ちょっと待ってください、その研究員さんが二番目のお兄さんという事はさん、結婚する妹さん以外にも、更に別に兄弟居るんですか」
「さすがシェロさん、鋭いですね。その二番目の兄以外にもあともう二人ほど兄が居て、更にあともう二人ほど姉が居ます」
「……ええと、さんと結婚する妹さんを含めると七人兄弟ですか?」
「いや、結婚する妹のほかにあと数人ほど私と同じ年齢の兄弟がそれぞれ居て、更に下にまだ幼い弟と妹が居るはずで――あれ、今、村に何人兄弟居るんだっけ? 私が村を出た時はまだ五人くらい残ってたはずだけど、村を出てからまた増えたのかな?」
あれ、あれ? シェロカルテに十本指だけでは足りないと兄弟の人数を数えるも、混乱するだったが。
ぽん、と。肩に手を置かれて誰かと振り返れば、グランだった。
グランはにっこり笑顔で、に向けて言い放った。
「――が指で数えられないほどの兄弟の人数で混乱してるなら、僕達と一緒に整理した方が良いんじゃないかな。ぜひ、そうするべきだと思うよ」
はグランの提案で、会議室に集まる事になった。
会議室にはグラン、ビィ、ルリア、カタリナ、イオ、シェロカルテのほか、ラカム、オイゲン、ロゼッタのいつもの仲間も集まった。
つまり。
「――つまり、の実家は戦場で親をなくした子供達を集めた孤児院で、のお母さんがそこの村長兼施設長をやってると?」
「そうなんですよぉ。私のお母さん、孤児院の施設長兼村長やってまして、村長っていうのはそこは施設っていうか村になってまして、私もそこの村で孤児の皆と一緒に生活してたんですよー」
「それで、村全体が孤児院として扱われて、のお母さんがそこの村長やってるのか」
「はい。私の村に大人はお母さんと、出稼ぎに出てるお父さん、それから、お手伝いのアニーさんだけです。この村は十八になればいったん、村を出ていく決まりがあるんですよ。それで私より上のお兄ちゃんやお姉ちゃん達はとっくに村を出て自立しているので、施設に残っているのは私と同年代か、それよりも下の弟や妹達だけだったはずです。こんな具合ですね」
は紙に三角形のピラミッドを描いてその一番上の頂点に施設長である母親とお手伝いのアニーを描き、二段目の層に村を出て行った兄と姉達を、三段目の中心に自分と同じ年齢の男の子と女の子を一人ずつ、四段目と五段目の最下層に幼い子供達が残っている図を描いて、会議室に集まったグラン達にその状態を説明する。
「ふむ、確かにピラミッド式の図にすると孤児院の施設長の母親とそのお手伝いさんを筆頭に、兄弟達の上下関係、それから、の位置が分かりやすいな」
「しかし、にこんな事実が隠されていたとはなぁ。誰がにこんな家族が居ると思うかよ」
「ちゃんが力を持たずとも私達に適応してるの、こういうわけがあったのねえ。そういえば私達、今までちゃんの家族について何一つ聞いた事なかったわね……」
からピラミッド式の図を見せられたオイゲンとラカム、そして、ロゼッタも彼女の隠された事実を知って感心を寄せる。
ビィはピラミッドの二階層に居る兄や姉達の図を見て、に聞いた。
「それで二番目の兄ちゃんがシロウのとこの研究員なら、ほかの兄ちゃんや姉ちゃん達は孤児院を出て何やってんだ?」
「私もそれ気になりますね。孤児院を出たほかのお兄さんやお姉さん達は、どうしてるんですか?」
ビィに便乗してそれを聞き出すのは、ルリアである。
は指折り数えて、ビィとルリアに兄と姉達の出先を伝える。
「ええと、一番上のお兄ちゃんは帝国軍の兵士、二番目のお兄ちゃんはシロウさんの研究員、三番目のお兄ちゃんはとある騎空団の騎空士で、一番上のお姉ちゃんはバルツ公国で塾の講師と魔法使いとして登録されてて、二番目のお姉ちゃんは各地の酒場で歌と踊りで稼いでるって話していて、ああ、此処の団員のタヴィーナさんを想像してもらえれば良いかと」
の兄達の事情を知って反応を示したのは、カタリナである。
「は? 一番上の兄が帝国軍の兵士だって? しかも三番目の兄も我々と同じ騎空団の騎空士、更に一番上の姉が魔法使いで登録されている? ……ほかの兄弟達はのよう、武器も魔法も扱えないわけじゃなかったのか?」
「ああ、孤児院の兄弟達は普通に武器や魔法が扱えますよ。妹達の中にも魔法が扱えて、その才能はアン達が在籍するマナリア学園に通ったらどうかって話もあるくらいです。その中で私だけどういうわけかそれすら扱えないんですよねえ」
「ほかの兄弟達は普通に武器と魔法が扱えて、どうしてだけそれが扱えないんだ。施設長だという母親からその理由、聞いてないのか」
「私も小さい時に一回、母親にそれ聞いた事あります。どうして私だけ武器と魔法が扱えないのかって。母が言うには……」
「母が言うには?」
カタリナだけではなく、会議室に集まったグラン達もそれに興味深そうに聞き入る。
「――孤児院の中で孤児じゃない私だけほかの子と違うように育てたかった、とか」
「――」
はそれが何でも無い風に言うも、グラン達は反応に困った。
それというのも。
「……よ、一つ、いいか」
「はい」
どうにも扱いづらい話題の中、年長者として代表して手をあげるのはオイゲンだった。
「だけが孤児院で孤児ではないというのは、その、だけ施設長である母親の実の子供で間違いないのか」
「はい。そうなりますね。村の中で私だけ施設長であるお母さんの子で、孤児じゃないんですよ」
「……そうか、それならそういう母親の気持ちは少し理解できる、か」
オイゲンは参ったようため息を一つつくだけで、それ以上の感想は言わなかった。
オイゲンだけではなくてグラン達も、ルリアでさえ、何を言って良いか分からずどんよりとした暗い雰囲気になる。
はその暗い原因が何か最初は気が付かなかったが――。
「あれ、この話で何で皆、暗くなるんですか」
「それはその、施設長の母親の実の子であるさんだけが特別扱いされて、ほかの孤児の兄弟達と確執があると思われたからじゃないんですか?」
遠慮がちではあるけども、しかし商売人らしく、はっきりとそれを指摘するのはシェロカルテである。
「ああ、それはご心配なく。私と孤児院の兄弟達は本当の兄弟達のように育ったんで、村の中でも仲良い方だと思います。そうでなければ二番目のお兄ちゃんは私あてにと、妹の結婚式の招待状をシェロさんに託しませんよ」
「ふむ。そういえばそうですね。さんの言う通りでその白衣の方、ボクがさんと知り合いならこの期日までにこの招待状を間に合わせて欲しいって、何度も日付を口にして確認していましたからね。本当に真面目そうな、妹思いの優しいお兄さんという感じの方でしたよ」
シェロカルテは最後、ではなく、団長のグランに向けて彼を安心させるよう、その情報を与えたのだった。
そして。
「ねえ、の家族の話、肝心のユーステスとイルザ達は知ってるの?」
「そうだな。ユーステスとイルザ達にはの家族については話してあるのか」
それについて興味深そうに聞いているのは、イオとラカムだった。
「どうですかね。イルザさん達には私の実家が孤児院であるとは前から話してるんですけど、覚えてるかどうか。ユーステスにも私の家族について話した事あるんですけど、あまり興味無さそうで、それに……」
「それに?」
は以前、「その、組織の幹部のローナンさんがユーステスさんの家族の一人だと聞いてますけど、ユーステスさんにローナンさん以外の家族は居るんですか?」と、軽い気持ちでユーステスの家族についても聞いた事があったが彼は「昔に事故で家族全員を失って以来、それきりだ」と無感情に言われて更にそれきり黙ってしまって、それを聞いたはユーステスに何の言葉もかけられなかった苦い思い出があった。
「それにユーステスの家は私より複雑そうだったので、彼には私の家族についてもそれ以上の事は話していませんね……」
「そうか……。うん、のそれは僕も正解だと思うよ。あの組織の中でもユーステスの過去は色々複雑そうだから、それ以上の詮索はしない方がいい」
グランは、ユーステスにはこれ以上の家族の事は話せないというの話に大いに納得した様子だった。
一息ついた所で話を振るのは、ラカムである。
「よ。今回、その中で結婚する妹の相手、分かってるのか」
「はい。妹は招待状には、とある島の領主様と結婚するとあります」
「え、とある島の領主様と結婚? ……それこそ誰かに騙されてるんじゃねえの? 行き場をなくした孤児がジジイに騙されて何処かに買われるってのは、よく聞くが……」
「それもご心配なく。妹の結婚相手は、私のお父さんが認めた人とありますから、そこまで危険な人ではないと思います」
「孤児院をお前の母親に任せきりで、出稼ぎに出かけてる父親が認めた相手か? お前の父親、単純に金に目が眩んだだけじゃないのか?」
「いえ。私のお父さんは職業柄、人を見る目はあって、私もお母さんもそのお父さんが認めた人なら間違いないって思います」
「へえ。そこまで信頼されるお前の親父さん、職業柄、人を見る目があるっていうが何やってんだ? 二番目の兄貴と同じ、どこぞの研究員とかか?」
「あ、私のお父さんですか? 此処と同じですよ」
「何?」
「私のお父さん、団長さんと同じ、とある騎空団の団長やってるんですよー」
「――」
は照れ臭そうに笑うも、ラカムはもちろん、グラン達も笑えずに静まり返る。
は周りが静まりかえったので、慌てる。
「あ、私のお父さんの艇は、グランサイファーより小さい艇ですよ。此処より仲間もそんなに多くないですし、遺跡巡ってお宝見付けるのが主な仕事ですから、日頃から強敵相手にするこの団とわけが違いますよ」
「の父親は騎空団の団長で、それで遺跡のお宝を見付けるのが主な仕事? それじゃあ、がユーステスと出会った遺跡っていうのは……」
グランは、ここで初めてがユーステスと出会ったという遺跡について思い出した。
「はい。事前にお父さんからこの遺跡にお宝眠ってる可能性があるから、もし仕事が見付からない場合にそこを探って損はないと言われまして私もそれ目当てにあの遺跡に入ったんです。しかしまさかあそこまで魔物の巣窟になってるとは思わず、そして、そこで運命の人に会えるとは思わずでして。いやあ、人生、分かんないもんですねー」
「……」
あはは。再びは笑うも、グラン達は笑えなかった。
は言う。
「私のお父さんが見付けてくるお宝のおかげで、うちの孤児院成り立ってるんですよ。そのお父さんが認めた相手というなら、妹の相手に関しては心配ないですよ」
「そりゃ、騎空団の団長ほど、人間関係を気にして人の目を養えるがしかし、まさか、の父親も騎空団、しかも、団長だって誰が思うか!」
「さすがに俺もこの事実を聞いて、肝が冷えたわ。この団でのの扱い、考え直さんといけんなあ」
「ええ。どこでちゃんのお父さんと繋がってるか、分からないものね……」
衝撃的な事実を知ってラカムは参ったよう机を叩き、ラカムだけではなくてオイゲンとロゼッタも、今後はの扱いに気を遣う必要があると慎重な態度を取る。
は、その大人達を見て、慌てる。
「いやいや、私の扱いは今まで通りの雑用係で良いですから! というか、今まで通りに扱ってくださいよぉ、へんに特別扱いとかなしでお願いしますよ。今までも、うちのお父さんが騎空団の団長だって言えばこういう風になるんで、あまり家族について話したくなかったんですよね……」
は、今までも父親が騎空団の団長であると打ち明ければ皆がよそよそしくなるのを見ているので、この団までそうならないで欲しいと懇願する。
と。
「あたしも、の気持ち分かるわ。あたしもバルツの師匠と関係あるって言えば、皆のあたしの扱い違ってくるからさー」
ここでそう言ってくれたのは、バルツ公国のザカ大公と関係を持つイオだった。
イオは言う。
「の言うようにの扱い、今まで通りで良いと思うわ」
「はい。イオちゃんの言うよう、の家族がそうでも、は今までと変わらないと思います!」
イオに同意するようそう言ってくれたのは、ルリアだった。
「イオちゃん、ルリアちゃん、ありがとう……」
もイオとルリアの優しさで、落ち着きを取り戻す。
落ち着いたところで、グランはに聞いた。
「それでは、妹の結婚式に参加するのか?」
「はい、もちろん。妹の結婚式には村に残ってる兄弟達だけではなくて、外に出ているほかの兄弟達も久し振りに集まってくると思うので、参加してきます。あ、でも、村まで遠いので、この艇を三日ほど留守にしなくちゃいけないんですけど……」
「そう、それはほかの団員にも――ファスティバ達にも伝えておくから安心してくれ。は久し振りの家族との時間を楽しむといい」
「ありがとうございます」
は、グランには本当に適わないと思った。
「それでは、行ってきます!」
そうしては、妹の結婚式に参加するため、ついでに近くまでついて行ってくれるというシェロカルテと一緒にグランサイファーを出て自分の村に戻った次第である。
妹の希望で村で行われた妹の結婚式はとても素晴らしいものだった。
妹の相手も良い人そうで、その相手と幸せそうな妹の花嫁姿を見た時は彼女が素直に羨ましいと思った。
自分もいつか想い人の彼の――ユーステスの隣で花嫁衣裳が着られたらなあ、なんて、乙女らしい夢も見てしまった。
そして。
「え、、お前、シェロカルテさんが話していたように本当にあのグランサイファーの一員で、それでシロウさん達と親しくなって、ロボミとも会話した事あるだって? 俺はあの研究所の研究員ではあるがまだ新入り扱いで、憧れのシロウさんと会話できず、ロボミにすら触らせてもらえてないのに!」
式が終わり、宴会の席で二番目の兄はからグランサイファーの一員としてシロウとロボミ達と話した事があると言えば悔しそうに酒をあおり、ほかの兄弟達からも「武器も魔法も扱えないがあのグランサイファーの一員になるとは思わなかった、この孤児院の兄弟達の中でが一番出世したか」と、羨望の眼差しで見詰められたのは、としても悪い気しなかった。
更に。
「、あんた、外でさっそく良い男見つけたんだって? 次はその人と一緒に村に来なさいよ」
母親にそう言われたはうなずき、「次に村に帰る時はその人――ユーステスを連れて来るよ」と応じれば、それを聞きつけた兄と姉達からも「が見つけてきた相手、うちの父さんより実力あって格好良いのか?」、「そいつが父さんまでいかなくても、兄ちゃん達以上の実力持ってる条件、満たしてるんだろうな」、「父さん、の事になると、うるさいからなぁ」、「まさかそのユーステスというの、グランサイファーの団長だったりするの? そうなら一発で合格じゃない」、「あそこの騎空団、団長さんだけではなくて、ほかの団員も格好良いって聞いてるわ。そうそう、イケメン揃いの白竜騎士団もそこに属してるって聞いてるから、その中から良さそうな男が居ればお姉ちゃんにも紹介して!」と、好きな事を言う。
因みに騎空団の団長である父親は、その艇で結婚した妹とその相手を別の島へ送っていくため、この場には不在だった。
は胸を張って「ユーステスはうちのお父さん以上の実力の持ち主で、文句無しに格好良い」と言えば、周りは一瞬静まった後、「酒、もっと酒持ってこい!」、「父さん、がそいつ連れてきたら手がつけられないくらい暴れるんじゃね」、「俺はそれに巻き込まれたくない、その日は研究所にこもるわ」、「あはは、が選んだ男なら暴れる父さんくらい止められるでしょ」、「そうね、父さんや兄さん達で目を養ってるが選んだ男なら間違いないわ」、と、再び好き勝手に言っていた。
も次に村に帰る時は、ユーステスを連れて来ようと決心して、それが楽しみになった。
しかし。
しかしここで、が留守している間、グラン達のもとに月に帰ったはずのアイザックとカシウスの救難信号が入り、それから彼らを狙う月の民の末裔達や幽世の住人達の襲撃を受け、更には組織やユーステスの身にも重要な事件が起きるとはこの時、だけではなく、グラン、そして、ユーステス達も思ってもみなかった事だった。