それから。
ユーステスが山に入って薪を持って戻ってきた時は、外は日が落ちる間際で、夕暮れだった。
はユーステスの指導で薪を組んでの火をつける焚火の方法を教わり、ローアイン達に教わったレシピ通りに野菜を刻んでいる間、彼にもドラフの姉弟が魔法の訓練に来ていたという話を聞かせた。
「ほう、あのドラフの姉弟、魔法の訓練に来ていたのか。確かに、下手な魔法は訓練所以外は人里離れた場所でやるのが一番いい」
「そういうユーステスは山に入って戻ってくるの遅かったけど、何やってたの? 山に入った目的、薪だけじゃないでしょ?」
「ああ。もイルザから聞いてるだろうが、この場所は昔、うちの組織の研究施設があった場所でな。俺はローナンの指示でかつて、組織を裏切ったアランドゥーズの奴が使っていたという昔の研究施設が跡地やそこの地下施設に何か残ってないかそれの調査をし頼まれたので、けっこう時間かかった」
「そ、それで、どうだった?」
もし、アランドゥーズさんの研究施設が残っていれば、キャンプ中止になるかも? はドキドキして、ユーステスの返事を待つ。
「ローナンの話していた通り、アランドゥーズの研究施設は完全に取り壊されて更地になっていて、地下施設も封じられていた。そこはもう心配いらん」
「そう、良かった」
はそれに安心したよう、胸を撫でおろした。
それからは身を乗り出してユーステスに聞いた。
「ねえ、それ以外では山で狩りやってるっていうドラフ一家のお父さん、見かけた?」
「山でドラフの父親は見かけていないが、確かに遠くで何発かの発砲音は聞こえて、そこから逃げる動物達の足音も聞こえたので、それらしき人物は確認できた。それであのドラフの父親は、けっこう派手にやってるようだというのは分かった。あれ、多分、個人の趣味の範疇じゃないぞ」
「発砲音と動物の足音だけで、そこまで分かるの?」
「手練れだ。一度、手合わせはしたいと思った」
「へえ。ドラフのお父さん、ユーステスがそう評価するくらいの腕前かー。ドラフのお姉さんも魔法、凄かったもんな。弟君も、魔法を極めれば全属性扱えると話していたから意外と、凄い一家なのかも。そうならあのドラフ一家、グランサイファーの団長さんに紹介すれば、喜ばれるかな?」
ふむ。は、ユーステスが他人をそこまで評価するのは珍しいと思ったし、あそこまで強力な魔法の使い手であればドラフ一家をグランサイファーの団長のグランにも紹介すれば良さそうとも思った。
と。
「ドラフ一家を団長に紹介するはいいが、その前に、火加減見てるか?」
「え? あ、あれ、最初は勢いあった火が弱くなってる、何で?」
「普段の調理と違って焚火での調理は難しいからちゃんと火を見ておけ、焚火は自然の風や周辺の温度ですぐに火加減が変わりやすいと話したばかりだった」
「う、そ、そうだけど、どこ直せば……」
「自分で考えろ。料理だけは自分の範疇だと、俺の指導をつっぱねたのは誰だ?」
「……」
確かに、薪を持って帰ってきたユーステスに「焚火の火のつけ方も分からないのか」とまたバカにしたように言われ、それは彼に指導してもらってなんとか火をつけたが、調理だけは自分に任せてくれと胸を張ったのがつい数分前の出来事である。
「私だって、やればできる。こ、こういう火種が小さい場合、新しく薪を追加すればいい、かな、ねえ?」
「……」
は期待してチラチラとユーステスを見るも、彼はを無視するかのように銃の手入れをしている。
……。
「ああもう、これでどうだ!」
「待て、それは悪手――」
自棄になって薪を大量にくべた所――。
「あれえ、火が消えた? 何で? ええ?」
「……ここまで使えない奴だったとは」
はぁー。薪を大量にくべれば火は勢いを増すかと思えば、消えてしまった。それを疑問に思うと、そのに呆れて大きな溜息を吐くユーステスと。
そして。
「全く。野営で一番大変で一番大事なのが焚火だというのが分かってなかったのか、お前は」
「……」
「キャンプの寝床や食料は即席でなんとかなるが、火と水だけは自分で考えて用意しなくてはいけない。その中でも火が一番重要だ。薪をくべるだけで火力が出るとは大間違いで、そもそも、薪の割り方や組み方でも工夫が必要だ。まあ、イルザやゼタ、ベアトリクスのように火か水の魔法が扱えればそこまで苦労する必要ないが、魔法が扱えないお前の場合は話が別だ」
「で、でも、十二神将のマキラちゃん達は初めてのキャンプでも何とかなって簡単だったって聞いて……」
「十二神将のマキラ達は、そもそも、お前と違って強力な魔法が使えるだろう。それからあいつらの中には、アニラとクビラ、シャトラといった力自慢のドラフもついている。それ、忘れたのか」
「あっ……」
はその真実を、すっかり忘れていた。
ユーステスはそれを忘れていたに構わず、冷たく言い放つ。
「やはり、肝心のそれ忘れてたな。十二神将のマキラ達と違って全く魔法が扱えないうえにヒューマンで力も弱いお前とキャンプは無理な話だった」
「そんな……」
「そうだ、お前、イルザにもしもの時のために通信機渡されてるだろ」
「……イルザさんに通信機は渡されてるけど、どうするの?」
「それでイルザか団長達に、お前を迎えに来てもらう。このままじゃ、夜まで持たん。まだ明るい今のうちにイルザ達に連絡を入れた方がいい。ああ、それの使い方が分からないというなら俺が使えるが――」
「――」
それだけは。
限界。もう限界だった。
「――何よ、そこまで言わなくてもいいじゃない!」
「」
は何か切れたよう、ユーステスにまくしたてる。
「魔法も武器も扱えない私はキャンプは無理、そんなの私だって分かってるよ、でも、お父さんの野営訓練でも家に置き去りだった温室育ちで箱入り娘の私じゃ何一つ分からないんだから火のつけ方や調整方法を知らないのは、仕方ないでしょ!」
「、お前――」
「十二神将のマキラちゃん達の話を鵜呑みにした私も悪いけど、そのたった一回のテントの失敗だけで、私を何もできない女だって判定しないで! ユーステスは何もできない私と違って何でも一人でできるの分かってるけど、このキャンプは私と来てるんだから、私と協力して一緒にやってくれても良いじゃない!」
「――」
木々のざわめきと、の叫びが重なる。
「確かに焚火の火加減だって、魔法が使えれば一発だよ。水汲みも水の魔法が扱えれば楽できるの分かってるよ。でもね、こういう自然的な場所では魔法よりもそこらへんに落ちてる落ち葉で火をつけたり、川とかで水を汲んだり、自然的な力を借りた方が楽しめるって、ベアトリクスだけじゃなくて、ゼタからも聞いてたんだよ。イルザさんもグウィンも、仲間達とするキャンプでは魔法に頼らないよう、心掛けてるって!」
「……」
「私もユーステスと一緒に山に入って薪取りに行きたかったし、ユーステスと一緒に川で水汲みやりたかったんだよ。焚火で調理するのだって、ユーステスとやりたかった。でも、ユーステスは一人で私を指導するばかりで、私はそのユーステスにそれ言えなかった」
「……」
「ユーステスは何でも一人でやり過ぎなんだよ。それに、これくらいでイルザさんと団長さんを呼んでたら、私だけじゃなくてユーステスも恥かくよ」
「……」
一息。
「私、今回のユーステスとのキャンプ、とても楽しみにしてたんだよ。だけどイルザさんはこのキャンプ地に組織の裏切り者だったっていうアランドゥーズさんが使ってた研究物が残ってないかどうか心配していて、私はそれのせいでユーステスとのキャンプが台無しになるんじゃないかって怖かったんだ。でも、それよりこんな形で終わるとは思わなかった」
「……」
「それで? どうするの? イルザさんに渡された通信機は此処にあるけど、使う?」
「俺は――」
の叫びと思いを聞いたユーステスは、の持つ通信機には手が伸びなかった。
代わりに。
「――俺は、お前達が俺達の言い合いを覗き見してるのは分かっている、さっさと出て来い」
「!」
「こ、こんばんわ……」
「……」
ユーステスの声で現れたのは、隣でキャンプをやっているはずのドラフの姉と弟だった。
「え、いつから居たの?」
はドラフの姉弟が隠れて自分とユーステスの言い合いを聞いていたとは思わず、素直に驚く。
とユーステスの言い合いにドラフの姉は「此処まで来たけど、二人の言い合いに入れなかった」と正直に言って、弟は姉の背中に隠れて震えているだけだった。
そして、ドラフの姉と弟がとユーステスのテントを訪ねた理由、それは。
「お父さんが行方不明?」
「ええ。うちのお父さん、夜になっても私達のテントに戻って来ないの。こんな事初めてで、どうすればいいか……」
ドラフの姉によれば、狩りで山に入っていた父親が、夜になっても戻ってこないという。
今まで黙って話を聞いていたユーステスは、ここで初めてドラフの姉と向き合う。
「それで何で、俺達の所に来た」
「うちのお父さんもドラフの狩猟で狙撃手だから、銃の装備であなたのレベルが分かる。あなた、その装備見るにエルーンの狙撃手としては、相当の腕前よね? それが見かけだおしじゃなければ」
「……」
「あなたの腕なら、お父さんも見つかると思ってそれで……」
ここでドラフの姉は、ユーステスではなく、を見る。
はドラフの姉の視線に気が付いて、彼女が自分に何をして欲しいのかも分かっていた。
はさっきとは違い落ち着いた様子で、ユーステスに向けて言った。
「ユーステス、二人のお父さん、探しにいってあげて」
「了解」
ユーステスはドラフの姉ではなくの頼みを聞き入れるよう、自身の銃を構える。
そして。
「ドラフの娘、お前、の話だと戦場向けの強力な魔法が使えるんだったな」
「ええ。……もしかして私もお父さんが居る山までついて来いって?」
「父親を発見した時、俺一人ではなく、娘のお前が居る方が話がつきやすいだろう」
「そうね。弟は?」
「弟は、置いていけ。足手まといは必要ない」
「……、彼女はどうするの?」
ドラフの姉は、今までユーステスと言い合いしていたを心配そうに見詰める。
ユーステスは冷静にと向き合う。
「。その通信機の使い方、分かるか?」
「イルザさんに操作教えてもらってるから、大丈夫」
「団長かイルザのアドレス、分かるな?」
「うん。それも聞いてる」
「万が一の時は、それ使え。団長とイルザに、そこの弟も拾ってもらえ。全責任は俺が取る」
「分かった」
はユーステスにしっかりと、うなずく。
そして。
「一時間で戻る」
「了解ー」
行ってらっしゃい! は朝に出かける時と同じ調子で、夜の暗い中、山に入っていくユーステスとドラフの姉を見送った。
「……」
「……」
はユーステスが山に入ったのを見届けた後、不安そうにドラフの姉が入っていった山を見詰める弟に向けて言った。
「ユーステスは一時間で戻ると言えば、一時間以内に無事にお父さん見付けてお姉さんと戻ってくるから大丈夫だよ!」
「ええ、どうしてそれが分かるんですか。ここの山、見た目通りに大きくて、山に入る前にお父さん、目当ての野生動物以外に魔物もけっこう出現するようだから僕達も気を付けろと言って入っていきましたよ」
弟は、何故か自信たっぷりに言い放つを見て、怪訝な顔をする。
は弟にユーステスを自慢するよう、言う。
「ユーステスはエルーンの狙撃手の中でも一番強くて一番格好良いからねー。ユーステスであればこんな山を攻略するくらい簡単だし、野生動物をあしらう方法も知っていて、魔物も簡単に倒してしまうよ。それだから君のお父さんも早いうちに見付かるかも」
「……だから、その自信はどこからくるんですか」
「ユーステスは普段からサバイバル経験豊富で、魔物に遭遇しても冷静に対応できるの、私も分かってるからだよ」
「それ、お姉さんがエルーンのお兄さんと恋人同士だからひいき目に見てるんじゃないですか?」
「あれ、弟君、私とユーステスの真なる関係を見抜いていたのかね?」
「お姉さんの態度見れば、誰でも分かります」
「ふふ、弟君でも分かっちゃうかー。分かるよね、さすがにー。うふふー」
「……」
弟にユーステスの関係を見抜かれて照れ臭そうに笑うのはで、そのを少し引くのは弟である。
はまだ不安そうな弟に向けて、とっておきの情報を与える。
「まあ、一番の安心材料を打ち明けるとね、ユーステスも私もあのグランサイファーの団員なんだよ!」
「ええ、お姉さん達、あのグランサイファーの団員なんですか?!」
のその情報を聞いて、弟の態度があからさまに変わった。
「弟君、グランサイファーという騎空団知ってる?」
「もちろん! グランサイファーは、憧れの騎空団の一つですよ! 僕が目指しているマナリア学院でも、優秀な生徒は次々その騎空団にスカウトされて仲間入りしていると聞いてます! あ、さっき、エルーンのお兄さんが団長さんとイルザさんに連絡をって言ってた団長さんっていうのはもしかして……」
「そう、そのグランサイファーの団長さんだよ。この通信機使えば、グランサイファーの団長さんまで通じてるから、万が一の時があればこれでグランサイファーの団長さんと連絡取れて、団長さん達がすぐに救助に来てくれるよ」
「エルーンのお兄さんがグランサイファーの団員であると分かれば確かにこれほど心強い存在はないです!」
「そ、そう、これでユーステスの実力が分かってくれれば良いんだよ、分かってくれれば」
ユーステスがグランサイファーの一員と知った途端に興奮状態になる弟に、今度はが引く番だった。
……グランサイファーの認知度は、此処まで広がってるのかぁ。弟がグランサイファーの名前を出しただけでようやくにして安心を手に入れたのを見たは、グランの活躍に感心を寄せる。
「ところでお姉さんは、僕のお父さんとお姉ちゃん、エルーンのお兄さんが戻ってくるまでどうするんですか?」
「そうだなぁ。弟君、何かやりたい事ある?」
「僕は……、特に何もないです」
「そう。それじゃ私と一緒に、ユーステス達の帰りをテントで待っていよう」
は弟を自分のテントに招いて、一緒に入る。
「……」
「……」
しかし二人でテントに入るも何もする事も、特に話題もなく、時間だけが過ぎていく。
その中で。
「……お姉さん」
「何?」
「ヒューマンのお姉さんは本当に、武器も魔法も扱えないんですよね?」
「そうだよ。それがどうかした?」
「……僕、さっきのエルーンのお兄さんとお姉さん達の言い合い聞いていて、その原因になったっていう外にある火が消えた焚火見たんですけど」
「うん」
弟の視線の先は、が失敗した焚火台があった。も弟と同じよう、その焚火台を見詰める。
弟は言う。
「僕もエルーンのお兄さんの気持ち、分かります。お姉さん、テントの設営と焚火くらいで失敗してたらこの先、やっていけませんよ。しかも魔法が扱えなければエルーンというだけで何らかの魔法が扱えるエルーンのお兄さんとキャンプ行かない方が良かったんじゃないですか?」
「……そうだね。私もテントの設営とか焚火のやり方とかは事前に説明聞いてたんだけど知り合いの女の子が思ったより簡単にやれたっていうから自分も一人で簡単にやれるだろって思い込んで今日までにあんまり頭入ってなくて、焚火のやり方も全然駄目で、それでユーステスを呆れさせたのは悪かったと思うし、反省もしてる」
は弟にはっきり言われて落ち込んだのか、うずくまる。
「君のお姉さんのよう、火の魔法くらい扱えれば何でもできたんだろうけどね。武器も魔法も何も扱えない私じゃ何やっても無理だった。ユーステスが無事に帰ってきたら、どうしようかなぁ」
「お姉さん……」
弟はの落ち込みようを見て、自分の事を少しずつ話し始めた。
「僕もお姉さんと一緒です」
「え?」
は顔を上げて弟を見る。
弟は淡々と言う。
「僕も時々、忙しいお母さんを楽させるためにお父さんのキャンプについていくとお姉ちゃんに魔法の訓練やらされるんですけど、どうも上手くいかなくて、いつも怒られてばかりで失敗続きなんです。お姉ちゃんはこれじゃあ、第一志望のマナリア学院の入学も危ういって。それならもう、お父さんのキャンプについていかなくていいかなって思ってた矢先、こんな事になって……」
「あ、弟君も、キャンプ前は、お父さんかお姉さんと言い合いしてた?」
「……」
「図星?」
「お姉さん、鋭いですね。そう、僕は出かける前、魔法の訓練付きのキャンプにはもううんざりで行きたくないってお父さんと言い合いになって、それでもお姉ちゃんに『忙しいお母さんを楽させたくないの?』って凄まれて、無理矢理に引っ張られて此処まで来たんです。お父さんは、魔法の訓練は、お姉ちゃんについてれば問題ないって言って僕達に気遣うように――違うか、僕から逃げるよう、朝から山に入ったきりで……、それで……。お父さんが見付からなければ多分、僕の責任になる……うう」
弟は、父親が山で行方不明になったのは自分に気遣って山にこもったせいだとそれの責任を感じて、うずくまる。
それを見たは。
「そうか。弟君も私と同じような悩み持ってたんだね。でも」
「でも?」
は弟の話で気が付いたのだった。自分の気持ちに。
「――私はでも、普段は仕事で忙しいユーステスと一緒にキャンプできるってだけで、嬉しかったんだ」
「……そうだったんですか?」
は弟と向き合う。
「ねえ、ドラフのお姉さん、あれだけの魔法の使い手って事は、普段はユーステスと同じで、仕事で忙しい人?」
「……そうですね。お姉ちゃんは魔法の使い手として、仕事の依頼があればあちこち行ってるんです。僕は普段は家で学習しているので、このキャンプくらいしか、お姉ちゃんと一緒になれません」
「そのお姉さんがお母さんを楽させたいって話してたの、普段はお母さんが弟君の勉強見てるから?」
「はい。普段はお姉ちゃんより、お母さんが僕の魔法の先生になってくれてます。お母さんはほかにもお父さんが経営する食堂の手伝いもやってて、普段から忙しく動き回ってるので、お姉ちゃんの言うよう、お母さんがこのキャンプの時くらいしか休める時間ないのは僕も分かってるんです」
「そう。それならドラフのお姉さんも、私と同じで、魔法の訓練は口実の一つで、弟君と一緒にキャンプできるだけで良かったんじゃないかな」
「そうですかね?」
「うん。そうじゃなければドラフのお姉さん、朝から君の訓練に付き合わないと思うよ。朝から山に入ったお父さんも弟君から逃げてたんじゃなくて、普段は仕事で忙しいお姉さんのために姉弟水入らずにさせたかったんじゃないかな」
「……」
続ける。
「そのお姉さんと同じで私も失敗続きでも、そのユーステスとちゃんと帰る予定時間までキャンプを楽しみたいと思った。多分、ドラフのお姉さんも私と同じ気持ちだと思う。私も弟君でそれ思い出したよ、ありがとう」
「お姉さん……」
「決めた」
「何決めたんですか?」
は立ち上がり、テントから出る。弟もつられて立ち上がり、テントから出た。
「ユーステスが君のお姉さんとお父さんと三人一緒に無事に戻ってきたら、もう一度、彼に焚火のやり方教わって一緒にキャンプ料理作ろうって、決めた。弟君の話を聞くまでユーステスが帰ってくるまで自分一人で焚火をなんとかしようと思ったけど、今までの事を謝って、一人よりは二人で協力して焚火やる、そっちの方が良いと思ったよ」
決めてしまえば話は早い。はユーステスが帰ってきたら事前に勉強してこなかった事を彼に謝って、それから二人で協力してキャンプそのものをやり直そうと思った。
それを決心したを見て弟は。
「……あの、どうしてそこまでエルーンのお兄さんを信用してるんですか。彼はもう、お姉さんに愛想つかしてこのキャンプ地を出て、此処に帰って来ないかもしれませんよ。お姉さん、その通信機使ってグランサイファーの団長さんに迎えに来てもらった方が良いんじゃないですか?」
「はは、弟君、最初に会った時も私に向かってエルーンのユーステスはよくこんなヒューマンの私と付き合えるなって言ってさ、意外と辛辣だよね~」
「す、すみません」
弟はにそれを指摘され、小さくなる。
「まあ、いいけど。何もできない私と何でもできるユーステスは不釣り合いだって、散々言われ慣れてるし。でも」
「でも?」
は夜空に浮かぶ月を背にして弟に向けて言う、言ってやった。
「でも、ユーステスはこんな何もできない私を今まで見放さず、一緒についてきてくれた優しい人であるには変わらない。それを知らない他人にどうかと言われる筋合いはないと思う」
「……ッ」
辛辣なのは、どちらの方か。
「それでも今になってユーステスが私に愛想つかしたっていうならそれはそれでいいけど、多分、ユーステスはああ見えて真面目な人でもあるから、私にちゃんとそれ言ってから此処を出て行くと思うんだよね。それも、ちゃんとドラフのお父さんとお姉さんを君の前まで連れて帰ってね」
「……あ」
弟は月を背にして笑うを見て、とても綺麗だと思った。
そして。
「それだけじゃなくてさ。さっきの私達の言い合い聞いてたら分かると思うけど私、武器も魔法も扱えないせいで自分の家族から置き去りにされる事、けっこうあったんだよねー。外は魔物が出現して危険だから自分は家に残れって。お父さんは自分以外の兄弟は外に連れて行くのに、私だけ家に残ってた。まあ、お父さんは私を大事にしてくれてたのは分かってたから、その当時はそれに文句も言えずに従うしかなかったけど」
「……」
「でも、今は違う。ユーステスのおかげでグランサイファーの団長さん達と知り合いになれて、彼らの手で外に色々連れて行ってもらえるようになったからね。私が今、此処に居られるのも全部、ユーステスのおかげってわけ」
「そうだったんですか……」
「あと、こういう自然な場所では魔法なんか頼らないように自然に身を任せた方が楽しめるっていうのも、知り合いに聞いてたんだよね。彼女達の話している通りで、魔法に頼らずともキャンプできるなら、そっちの方が良いと思わない?」
「……そうですね。こういう自然な場所ではあまり、魔法に頼らない方がいいと思います。お姉ちゃんもお父さんも火の魔法使えるのに、キャンプではあまり火の魔法使ったの見た事ないです」
「でしょ? それからね」
「それから?」
はニヤリと笑って、弟に向けて言い放った。
「それから君も武器も魔法も扱えない何もできず引きこもりだった私みたいになりたくなかったら、魔法の訓練、続けた方が良いと思うよ。お姉さんがあそこまで強い魔法使えるなら君も使えるでしょ、よくよく考えたら此処の大きな川全体凍らせるって凄いじゃない、自信持て!」
「――」
の思いは、弟に伝わったのか。
「あの、お姉さんに頼みがあるんですけど、いいですか?」
「いいよ、何?」
そして、それから――。