温明徳とエイブラハムは気にせず、続ける。
「アスターさんのコネで入ったとはいえ階級が低いうえにステーション内で孤立してたは、それで丹恒との付き合いがあるって分かってからは、自分より腕の立つ丹恒に睨まれるのが嫌だっていう男達の誘いなくなって、代わりに女性達から一目置かれるようになったってわけだよ」
「所長のアスターさんは自分の紹介でをヘルタ・ステーションに入れたはいいけど、万有応物課だけじゃなくて、ヘルタ・ステーション全体で孤立してた彼女を心配してたんだよな。
でも歓迎会の飲み会でが応物課の皆に受け入れられたのが温明徳課長のおかげと分かって、彼のやり方は凄いってそれ評価してくれてね。後で防衛課のアーラン課長も、それは自分にはできないって、温明徳課長に感心してたなあ。私もは、アスターさんの紹介とはいえ、温明徳課長の応物課以外のほかの課だったらどうなってたか分からないと思ったよ」
「なるほど。今のがあるの、ステーションの中でも人徳ある温明徳課長のおかげかー」
「それだけじゃなくて、アスターがの能力を分析して万有応物課に入れたの、間違いなかったんだねー」
うん。開拓者も『なのか』も温明徳だけではなくエイブラハムからもその話を聞いて、温明徳のやり方と、を彼の居る万有応物課の方が良いだろうと判断したアスターに感心を寄せる。
そして。
「私も、同じ課の温明徳課長には感謝してるのよ。こんな私でも見放さずに接してくれたから」
「……!」
温明徳は、当人のにもそう評価されると思わず、感動のあまりに席を立って両手を広げて彼女に抱き着こうとするがそれを制したのは。
「っと、それ以上は温明徳課長でも駄目だ」
「ひっ」
「温明徳課長、に丹恒さんがついてる前でそれはまずいですって~」
すかさず丹恒の手が温明徳との間に入り、温明徳はそれだけでそこから腰が引けて椅子から転びそうになるのをエイブラハムに支えられる始末だった。
「ご、ごめん、ごめん。いつも私相手でも素っ気無いからそう言われるとは思わなくて感動のあまり、つい」
「全く。俺に断りなくに触れたら、温明徳課長でも容赦しない」
「は、はい、それはもう、肝に銘じております……」
丹恒に睨まれた温明徳は、数分の間、そこから身動きが取れなかったという――。
丹恒は一息ついた後、綺麗に食べ終わった自分のトレイを持って、まだ席についているに言う。
「、食べ終わったら、さっさと行くぞ。ここで時間潰したら、せっかくの休日が無駄になる」
「そうね。丹恒と一緒に居られる時間が減るから、もう食堂を出た方がいいわ。これ以上に誰かに誘われると面倒だし」
言っても、丹恒と同じように席を立つ。
「それじゃ、開拓者に『なのか』、またねー。次、時間ある時にでも食事会やれたらやりましょ」
「そうだね。またの時間ある時に食事会でもやって、ゆっくり話聞きたいね」
「ウチも、その時を楽しみにしてるよ」
開拓者と『なのか』は、ここで気持ち良くと丹恒と別れたのだった。
そして。
「温明徳課長、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫、大丈夫。いやはや、さすが、うちの課の仲間達からにこれ以上の護衛はないと言わしめた丹恒だ。の身の周りは同じ課の私達や防衛課が心配するより、丹恒一人がついてれば大丈夫だな、うん、うん」
はは。開拓者は、いまだにエイブラハムの支えがないと身動き取れない温明徳を心配するも、彼は自分にそう言い聞かせるだけがせいいっぱいだった。
それから。
「温明徳課長にエイブラハム、について色々話聞かせてくれて、ありがとねー」
「それじゃあまたねー」
開拓者と『なのか』も食べ終わったので、温明徳とエイブラハムに別れを告げて食堂を出て行った。
その廊下の先、なのかが開拓者に声を潜めて耳打ちしてきた。
「ねえ、開拓者。ヘルタからの話聞いて以来、開拓者が仕事とはいえ自分が丹恒と一緒で申し訳ないって思ってたみたいだけど、さっきの話で此処ではアスターと温明徳課長がついてるぶんは大丈夫だって分かって良かったね」
「そうだね。私が星核探しの旅で丹恒取っちゃって、それのせいでステーションにを一人残していいのかって心配してたけど、今の話でにはステーション内でもアスターや温明徳課長がついてるのが分かれば、安心かなー」
開拓者も自分の心配は杞憂だったと『なのか』に笑って、それに応じる。
実は開拓者は、ヘルタから丹恒の失敗で別の星から来たというの話を聞いて以来、自分のせいでステーションにを残して丹恒を星核探しの旅に連れて行って良いのだろうかとそれを心配して今回、朝の食事の席で声をかけたが、今回の温明徳とエイブラハムの話でその心配はなかったと分かってほっとしている。
それだけではなく――。
「それだけじゃなくて開拓者、ヘルタの裏話でで何かモヤモヤした部分があるから今回それ聞いてみたいって話してたじゃん。それ、今回、聞かなくて良かったの?」
「あ、そういえばそうだった。今回、それ目的で食堂で呼んだけど、温明徳課長とエイブラハムからそれ以外の話が面白くてそれについて聞くの忘れてたわ」
開拓者も『なのか』でそれを思い出し、についてそれを聞き出す事をすっかり忘れていた。
「でもまあ、丹恒で別の星から来たがステーションの皆に受け入れられたぶんは、それ気にする必要ないかな。それについては、に聞ける時に聞ければいいや」
「そっか。開拓者がそれに納得してるぶんは、ウチもそれについてに何も聞かないよ。今度、開拓者や丹恒と一緒にとちゃんとした食事会開く時が、楽しみだねー」
開拓者は『なのか』にそうだねと応じて微笑み、それぞれ、自分の日常へと戻っていったという――。
余談。
姫子の星穹列車は丹恒の資料室にて。
は丹恒の資料室で、丹恒と部屋デートを楽しんでいた。
「お。またレコード増えてる。それから、紙の本も。読んでいい?」
「構わない」
「丹恒の資料部屋だと、私の星にあった紙の本があるから良いよね~。文明レベルが低い星から来た私はステーションでは当たり前の電子版より、こっちの紙の方が落ち着くわ」
「そうか、それは良かった」
えへへ。は丹恒と同じく椅子に座って、この宇宙で当たり前の電子版ではなく、紙で製本された読書に夢中になる。
丹恒もそんなを見て、開拓者達との朝の食事会の影響か、再び、彼女の星での出来事を思い出していた。
これは、と二回目――会議室にて国王陛下の二番目の妻として再会した時の事だった。
会議の場には国王だけではなく、第一王妃、第二王妃である、それ以外の王族関係者が勢揃いして、丹恒の説明を聞いている。
国王は丹恒から星核について、星核を狙う反レギオンの軍勢について、そして、自分が持つ宇宙の技術についての説明を一通り聞いた後、に狙いを定めて言った。
『。今日から丹恒殿をお前の護衛につける。いいか』
『は? 何で、私の護衛が得体の知れないこの男になるんですか。私の護衛は、私と同じ国から来たロイだけです。そういえば私の護衛であるロイはどこに?』
あれ? はその時、自分には同じ国出身のロイという頼もしい護衛がついていたが、今日に限って彼の姿が見当たらず戸惑う。
国王は戸惑うに向けて、本当に申し訳なさそうに話した。
『ロイは、今日付けで反レギオンとの戦いでの最前線に出す事になった。申し訳ない』
『はあ? 聞いてませんよそんなの! 私の護衛はロイだけです、今すぐロイを私のもとに連れ戻してください!』
『あの、俺からも意見を。俺では、彼女の護衛は務まらないと思います。俺は、彼女の護衛というロイの代わりに反レギオン軍勢の所に行って良いと思いますが。俺の力を使えば反レギオンくらい、すぐに片がつきますよ』
丹恒もにつくより、反レギオンの軍勢でその力を振るいたかったが――。
国王はなるべく冷静に、丹恒に自分の意見をぶつける。
『自分の世界の事は、なるべく、自分達で片をつけたいと思ってるんだよ。丹恒殿の力で反レギオン軍勢を倒すのは爽快だろうが、それでは、私達の威厳がなくなってしまうからね。国民も丹恒殿の強力な力があると分かれば、私達に見向きせず、丹恒殿の力に頼りっぱなしで駄目になってしまう。それでは、よくないと思わないか』
『……それはまあ、そうですか』
丹恒は国王の意見に納得したと同時に、すぐに自分の力を頼らないところは、ちゃんとした王様だなと感心を寄せる。
次に国王は、いまだに不満な態度をあらわにするに向けて言った。
『。ロイは、自分が国のために最前線で指揮を取れると分かれば、これ以上に光栄な事はないと言ってくれてね、嬉しそうに戦いの現場に行ってくれたよ。は、そのロイの意見を尊重するべきだと思うけれど』
『そ、それはそうですが、未知なる技術を持っているという丹恒は私よりも、王妃様か、国王陛下につければ良いのでは……』
『私や王妃にはすでに、頼れる兵士達がついてくれている。今までには君と同郷のロイしかついていない――、それしかできなかったが、丹恒殿でももっと視野を広げてもらいたいと思ったんだ』
『国王陛下……』
そして国王は、優しい笑みを浮かべての頭を撫でながら言った。それはまるで、子供を言い聞かせる父親のように。
『が護衛のロイを外されて不満なのは分かるが、未知なる技術を持つ丹恒殿の実力を見るにはが丁度良いと思ったんだ。、いいね?』
『は、はい、国王陛下の仰せのままに……』
次に国王は、丹恒に向けて言った。
『丹恒殿。相手は大変だろうが、貴殿の実力を測るには彼女で十分だろう。で外から来た丹恒殿の誠実さが分かれば、貴殿に星核を渡そうと思う。丹恒殿にの護衛を命じる、いいか』
『……、そうですね。国王がの護衛で俺の実力に納得してもらい、それで星核を渡してくれるのでしたら、彼女の護衛、やり遂げてみせましょう』
『期待しているよ』
は最後は国王の優しい微笑みに負けたかのよう、丹恒を自分の護衛につける事を了解してしまった。丹恒も国王の信頼を得るためにはの護衛を引き受けるしかないかと、半ば何かを諦めたようにそれを引き受けたのだった。
これで会議はいったん終了し、丹恒はこの日からの護衛として活動する事になった。
この時の丹恒は国王の第二王妃というをあまり良い風に思わなかったが、国王に自分が認められるにはにつくしかないと思って、渋々、了解した次第である。
会議室を出た後には、護衛として自分についてくる丹恒に向けてハッキリと言った。
『全く。私の護衛を務めるなら、私と同じ国出身で、私の事を理解してくれているロイが良かったのに。外から来たあなた相手じゃ、私の話が通じるかどうか分からないから嫌だった』
『それは俺も同じだ。第一王妃ならまだしも、何で二番目のお前の護衛をやらなければいけない』
丹恒の意見を聞いたは立ち止まり、後ろをついて歩く彼の方をはじめて振り返った。
『あら、私が二番目だから嫌なんて、ハッキリ言うじゃない。外の世界から来たっていうけど、あなた、権力者に群がる女に嫌悪感持ってるとかあるわけ?』
『いや。俺はその手の女のやり方は別に気にしないし、事前学習してきたこの星の歴史や伝統、風習を見ればそれについて理解できるが、お前がだいぶん年の離れた国王の二番目であるのに少し同情はしている』
『そう。でも、国王陛下はできた人だわ。私相手でも、第一王妃様と同じように扱ってくれるの。それで、お金にも不自由しない生活を送れてるから、あなたに同情される事はなくてよ』
『……、跡継ぎ問題で、隣の国の王女だったお前が二番目の王妃に選ばれたと聞いたが』
『その通りで国王陛下と、第一王妃様の間に子供が中々できなくてね。それのおかげで隣の国の王女だった私に白羽の矢が立てらたってわけよ。私が一番目の王妃様の代わりに国王陛下の子供を産めば、私も、私の家族も、私の国もこれ以上に名誉な事はないし、その恩恵も受けられるようになるから』
『……』
『あなたが私に同情するのはいいけど、これが私と国王陛下の国のやり方なのよ。私だけじゃなくて、第一王妃様もそれに納得してるんだから、外から来たあなたにとやかく言われる筋合いないわ』
『……、それもそうだな。俺は、国王陛下から俺の力を認めてもらい、それで星核を渡してもらえれば、こんな文明レベルの低い星からおさらばできる。この国とも、お前とも、それまでの間だ。それ以上は、この国の伝統や風習に関しては何も言う事はないさ』
『そう。あなたがそのつもりなら、私もあなたにそう接するわ。星核があなたのもとに渡ればレギオンとかいう敵との戦いは終わり、ロイも戻ってきてくれる。本当、それまでの辛抱ね』
ふん。は自分の境遇に同情する丹恒に対してはこの時、あまり良い感情を持っていなかったと後で打ち明けてくれた。
その時は、お互い様だなと思って、丹恒も特に反論はしなかった。
と丹恒の間で転機がきたのは、城を出て街に買い物に出かけた時だった。
『あら、あの二番目の女、また新しい男を連れ込んでるわよ』
『二番目の女、城に色んな男連れ込んでるって話だったけど。国王陛下も何であんな二番目、城に招いたのかしら』
『あの二番目の女より有力な、お妃候補まだいたのに。二番目の女の国、とても貧乏で、それでお金目当てで国王陛下たぶらかして入り込んだって話、本当だったのね』
『あんた、二番目の女の新しい男? やめときな、すぐに捨てられるよ~』
について街を歩けば『二番目の女』という声がいくつも聞こえ、おまけに嫌な噂ばかりを聞かされる始末である。
これにはさすがの丹恒も参った様子だった。
『おい』
『言われ慣れてるから、平気、平気』
街の人間の嫌な噂話はにも聞こえるような音量であったが、は本当に何も気にせず買い物を続ける。
丹恒は自分の耳にもの嫌な噂話が聞こえてくるだけではなく、についている自分に向けてはっきりと嫌な言葉を吐いてくる人間も居たので、これには彼女だけではなく、国王にも報告しなければいけないと思った。
『しかし、国王には、お前に批判的な態度の国民の情報くらい入れた方が良いんじゃないのか』
『――私は常に、二番目だった』
『え?』
『私は常に、二番目だった。自分の国では兄が跡取りで何をするにも兄が一番で自分は二番目だと言われ育ち、この国でも二番目。勉強も運動も何を頑張っても、一番になれない。だから二番目と言われるのは、慣れてる。それだけ』
『……』
はそれを淡々と言うが、丹恒は彼女に何を言ってやれば良いか分からず押し黙る。
この時のは丹恒が自分に対して同情的で憐れんでいるのは分かっていたし、この話をすれば大半の人間は自分から引き下がり、大人しくなるのが分かっていた。
はしかし、丹恒はまだ自分への批判を気にしているようだったので、ため息を一つ吐いて、それを打ち明ける決心をした。
『あなたが私への批判をそこまで気にするようなら、外から来たあなたに特別に教えてあげる。外から来たあなたであれば私の野望は城に伝わらないだろうから』
『お前の野望? 何だそれ』
『二番目の私が国民の期待通りに国王陛下の子供を産めば、愚かな国民の評価が一気に変わるのよ。それまでの辛抱。それが達成できた時、この国で私の前で私を批判してきた国民に向けて言ってやるの決めてるんだから。それだから、それまで、国王陛下に何も言わないで、お願い』
『……何を言うつもりだ?』
は口の端を上げ、丹恒でも構わず言い放つ。
『どうだ、国王陛下が選んだ二番目が一番仕事したぞ、ってね』
『――』
ふん。胸を張って言い切ったを見た丹恒は。
は丹恒に構わずくすくす笑って、自分の野望を彼に打ち明ける。
『私が国王陛下の子を産めば、形勢逆転、ここの愚かな国民達も私にひれ伏すしかなくなる。そうなった時、私はこの国で、私を支持してくれた人間と私を批判してきた人間を入れ替える粛清を行うという、野望持ってるから。その時が来るまで、私に批判的な人間は好きにさせておけばいい』
『うわ。それで覇権取ったら自分を支持してくれる人間と批判してきた人間を入れ替える粛清を行うって、お前、大人しそうな見た目と違って、仕返しの仕方がえげつないな……』
うわー。丹恒はの容赦のないやり方に背筋を震わせ、同時に、今でもの野望を知らないままこちらの様子を覗きつつ何か陰口を叩いている国民が気の毒になったという。
そして。
『ああそうだ、あなたが私のその野望を国王陛下や城の人間に暴露すれば私、あなたも粛清する用意があるからそのつもりでね』
『もし、俺がお前のそれを城に暴露すればどうするつもりだ』
『第二王妃の私であれば、その権限使って簡単な嘘であなたを牢屋にぶち込む事くらい簡単というのは伝えておくわ。それであなた、この国ではなくて、私の国で行われてた拷問に興味ある?』
『国王を含めた城の人間には、お前の野望に関して何も言わない事を誓おう』
はは。丹恒は、この時ばかりはならやりかねないと確信を持ち顔を引きつらせるだけで、彼女に反抗的な態度はとらなかった。
しかしそれより。
『それよりも以前にお前は、だいぶん年の離れた国王の子を産むのに抵抗はないのか?』
『そうね。愚かな国民と違って、国王陛下は立派で出来た人だわ。尊敬もしている。私がその国王陛下の子が産めるのは、光栄な話だと思う』
『お前、大人しそうな見た目と違って強いんだな……』
『これでも、そういう教育を受けた身でね。この私でなければ、ここまで来てないわよ』
『そうか……』
それが何でも無い風に言い切ると、そんな彼女を目を細めて眩しそうに見詰める丹恒と。
それからは丹恒に気遣うよう、言った。
『まあ、外から来たあなたに私達のそれが理解できなくても私の護衛は一時的なものなんだから、そこまで気負わなくていいと思うし、私の野望を聞いたのであればその批判も気にしなくていい。それでも耐えられないというなら、国王陛下にあなたに私の護衛は無理だった、別のやり方で彼の器量を測るといいですって、私から護衛を外すように進言できるけれど』
『いや、今の話で俺も、お前にそこまで気遣う必要は無いと判断したのでお前が俺を気遣っての国王への進言はしなくていいし、俺もお前からその野望の話を聞いて国王に外でのお前の批判的な意見については何も言う事はないとも判断できた。
それから、国王に自分の力を認められるのは、お前の護衛をやり遂げる事が最善だというのもこれで分かったので、星核が手に入るまでは、お前の護衛は続けさせてもらう』
『そう、それは良かった。私もあなたからそれ聞けて、それだけで十分だと思うわ』
『――』
は丹恒の意見を聞いて、それが自分の納得するものだったので、微笑み、うなずく。
それだけで。
それだけで――。
『……(国王が、羨ましい)』
は丹恒から自分の思った通りの意見がもらえたので単純だったが、丹恒はとは違った。
――を好きにできる国王が羨ましい。丹恒はこの時、を前にしてそう思った。
『俺は……』
あれ、自分は今、何を考えた。どうして。丹恒はを好きにできる国王が羨ましいとは思うが、この時はどうしてそう思ったのか、その理由は何も分からなかった。
『ちょっと、何ぼさっとしてるの。私について納得したと言うなら、私の護衛としてついてきてくれる? 夕食まで時間あまりないんだから、次の店、さっさと行くわよ』
『あ、ああ、分かってる』
丹恒は気にせず前を進むを、慌てて追いかける。
その中で。
『……(彼女から目が離せない、もっと彼女を知りたい)』
丹恒はこの時、はじめて無能力者であってもの強さを目にして、あのお人好しな国王陛下がを選んだ理由が分かったのと同時に、自分の中でも熱い何かが沸騰しているのを感じた。
それから色々あってを地獄と化した星から自分の所へ――外宇宙に停車していた姫子の列車まで連れ出す事に成功するのだけれど、それはまた別の話だ。
現在、姫子の星穹列車は丹恒の資料室にて。
開拓者には『丹恒は別の星から来たを一人残して、彼女がステーション内でいじめられるとか心配しなかったの?』と心配されたが、もとの国でのの野望を知っていた丹恒は、それについて何も心配しなかったのである。
それというのも。
「……、自分の国と国王の国民にあそこまでの態度取れるんだから、俺が居なくてもそれより狭いステーション内の人間関係を気にする必要、ないわな」
「え、何の話?」
は丹恒の呟きが聴こえ、読んでいた本から顔を上げる。
丹恒は一息吐いて、にそれを打ち明ける。
「開拓者はヘルタからについて聞いて以来、俺が開拓者の旅についてるせいで、俺の手で別の星から来たお前がステーションに一人残ってるのを気にしてる風だった」
「あ、それで開拓者、朝、私に声かけてきたんだ。そんなの気にしなくて良いのに。開拓者って話をするまで実力者だから姫子みたいに自分だけじゃなくて他人にも厳しい人かと思ったけど、実際は周囲を気にして気配りできる優しい子よね」
「そうだな。そのへんは、あいつのいいところだ」
の開拓者への評価を聞いて、丹恒も納得するかのようにうなずく。
そして。
「でも休みになればこうやって二人の時間は取れてるからそこは気にしないでって、開拓者に伝えておいてくれる?」
「ああ、それは開拓者にちゃんと伝えておく。それより――」
言って丹恒はに腕を伸ばし、彼女を自分のもとへ抱き寄せて自分のひざの上に座らせる。
は抵抗せず、丹恒に従う。
「それより、何?」
「それより、今は本より、俺に注目して欲しいんだが」
「あら。ずっと前から注目してなかった?」
「そうか?」
「そうだって」
はくすくす笑って、その不満をあらわにしていた丹恒の首に自分の腕を巻き付ける。
そしては丹恒を挑戦的に見詰め、言った。
「丹恒は旅に出てる時は姫子や開拓者の護衛だけど、部屋で休んでる時は私専属の有能な護衛で間違いないのよね」
「……そうだな。今の俺は、専属の有能な護衛で間違いない」
「私の専属の有能な護衛は、お姫様である私をどうやって満足させてくれるのかしら?」
「そうだな。俺は、自分と契約している、お姫様を満足させる義務がある。さて、お姫様、この有能な護衛に何なりとどうぞ?」
「そうね、まずは、ひざまずいて手にキスして、此処に来る間にボサボサになってた髪をクシで綺麗にといて、私の好きなお菓子とお茶用意して、あ、お酒もあったら嬉しいかも、あと、さっき読んでた本をデータ化していつでも読めるようにして、それから、それから、ええと、ええと」
「おいおい、何個あるんだ。いくら有能な護衛でも今の俺は、お前を抱くくらいしか出来んぞ」
「じゃあまずは、それだけでいいよー」
「結局、それだけでいいのか」
丹恒はの要求通りに、ひざに座らせているだけだった彼女の背中に腕を回して抱き締める。もそれに応じるよう、彼の腕の中に納まる。
はお姫様らしく丹恒に自分の要求をいくつか言うものの、結局はいつものように抱き締めるだけに落ち着いて、それから。
「開拓者に安心してもらうためとはいえ、彼女にこんな場面は見せられないね~」
「まったくだ」
丹恒とはつくづくそう思い、その後に笑いあって、二人だけの甘い時間を楽しんだのだった。