02:赤い花と緑の星(02)

 当のも『なのか』と同じだったようで、丹恒の言葉で顔を赤くしながら、

「む、むぅ、丹恒にそこまで言われると何も言い返せないじゃない。それにお腹空いて食欲わいてきたからもう、開拓者と『なのか』を気にせず、食べる!」

 人目も気にせず、大盛チャーハンに食らいつくのだった。

 その様子を感心したように見るのは、なのかである。

は本当、よく食べるね~。開拓者といい勝負じゃん?」

「そういえば開拓者も、私と同じ、シェフロボットが作ったチャーハンだね。いつもそうなの?」

 も興味深そうに開拓者が抱え込んでいる大盛チャーハンを覗き込む。

 開拓者もと同じように細身であるが、よく食べる事で有名だった。

 開拓者はニヤリと笑って、に向けて話した。

「うん。ステーション内だから仕方ないとはいえ、保存食用の乾物ばっかりじゃ飽きるでしょ。シェフロボットが調子良くて何か作ってくれる時は、必ず、これ」

「うんうん。分かるわー。ほかの職員が言うには階級レベルが低いとシェフロボットの作るものは味気無くて不味い時と美味しい時と差があり過ぎるって不評なんだけど、それより不味い乾物よりはマシだから、私も毎回これ~」

「私と、気があうよねー」

「ねー」

 いつの間にか、開拓者との間で花が咲き、それぞれに友情が芽生えたようだ。

 『なのか』は、そんな開拓者とを見比べ、開拓者に向けて言った。

「開拓者、ヘルタ・ステーションと姫子の列車内には開拓者に挑める男達居なかったけど、と大食い対決すれば中々見応えある試合できるんじゃない?」

「そうかも。、一度、私と大食い対決してみない?」

「私、大食いは不得意だから遠慮しとくわ」

「それで?」

 開拓者は最初、の言う事は信じられなかったけれど。

「ねえ。大食い対決は無理でも、お酒対決ならいけるから、そっちどう?」

「マジで。そっちの誘いが来るとは思わなかったわ。でも私、お酒飲める年齢じゃないし、多分、お酒が飲める年齢で勝負してもお酒苦手だから負けると思う」

「あら、残念。開拓者をダシにして、しこたま飲めると思ったのに」

「……うわー、本物の酒飲みの発言じゃないのそれ」

「開拓者に笑顔でそれ言い返せる女が現れるとは。、ただものじゃない、かも!」

 おお。から反対にそう誘われた開拓者は少し引いていて、それを間近で見た『なのか』は開拓者にそう言い返してきたに拍手を送りたい気分だった。

 と。

「――お前がたとえ飲める年齢に達していたとしても、で酒で対決するの、断って正解だったぞ、開拓者よ」

「どうもー」

「お、と同じ万有応物課の温明徳課長……と、元防衛課のエイブラハムだっけ」

 開拓者達の話に割り込んできたのは、の属する万有応物課の課長である温明徳と、元防衛課で現在は万有応物課に属するエイブラハムである。

と同じ課の温明徳課長とエイブラハムは、が大食いで酒飲みなの知ってるの?」

「ああ。が所長のアスターさんの紹介で私達の万有応物課に入った当時、姫子さんの列車で、万有応物課のスタッフ達と近場の星に降りてそこの居酒屋で歓迎会をやったんだ。だけじゃなくて、当時、防衛課だったが万有応物課への異動を決めたばかりのエイブラハムもそれに参加している」

「このステーション内では、どうしても食事制限があって、その中で食事会をするのは難しいしそれでは盛り上げに欠けるだろう。多少お金はかかっても、姫子さんの列車で近場の星に降りてマトモなレストランか居酒屋で食事会を開いた方が良いと、温明徳課長を中心としたベテラン勢の皆で話し合った結果だそうだよ」

 温明徳に補足するように話しているのは、エイブラハムだった。

「隣、いいかな?」

「どうぞ」

 温明徳とエイブラハムはそれぞれ、保存食用の乾物が盛られたプレートを持って開拓者達と同じ席についた。

 そこで開拓者は、温明徳とエイブラハムの話に興味を持つ。

「万有応物課の新入りのと異動を決めたエイブラハムのために食料が乏しいステーション内ではなくて、姫子の列車で近場の星に降りてそこのマトモな居酒屋で歓迎会やろうなんて、洒落てるじゃん。さすが、ヘルタ・ステーション内でも人徳ある温明徳課長だわ」

「はは。皆の人気者である開拓者にそう言って褒められるの、悪い気しないなー」

「でも温明徳課長のその判断が、後で応物課の皆が同じ地獄を目撃するとは誰が思うだろうか。私もあの時の場面は、今でも夢に出てきてうなされるほどだ……。うう……」

 はは。開拓者に褒められ照れ臭そうに頭をかくのは温明徳で、それと反対に不眠症のエイブラハムはその時を思い出したのか青ざめて苦しそうだった。

「あれ、エイブラハムの反応見れば、楽しい歓迎会じゃなかったの?」

「どういうわけ?」

 開拓者と『なのか』は、温明徳とエイブラハムの違った反応を見て、疑問を抱く。

 温明徳は苦笑しつつ、その時の光景を開拓者と『なのか』に向けて話した。

「いや。歓迎会が始まってすぐに皆の前に大盛の料理と、何本かの酒が運ばれてきてね。皆は何かの間違いじゃないかってざわつき始めたんだけど、見れば、それ全部が注文したものだったんだ」

、応物課やその他の課の男達からは、あの所長のアスターさんの紹介でステーションに入ったというだけで話題になって、おまけに幹部の一人娘なだけあって大人しそうで清楚系美人のお嬢様だって評判良くて人気あったんだけどさ、ここでそれと違って大酒飲みで食卓に何があっても気にしない大雑把な性格なのが判明したわけだよ。
 それに皆が呆気に取られている間には皆の視線を気にせず大盛料理をぺろりとたいらげ、おまけにジョッキの酒をごくごく飲みほして、それに触発されたのかほかの酒飲み達も負けずに酒を注文し始めて、それこそ、と日頃から酒豪だと豪語していた男達の間で、開拓者を誘ったような酒飲み対決が始まったんだ」

 はぁー。参ったように頭を抱えるのは、その光景を見ていただろうエイブラハムだった。

、万有応物課の皆の前では丹恒の時みたいに猫かぶらなかったんだ?」

「いやあ。最初は丹恒と会った時みたいに大人しい女演じて猫かぶろうと思ってたんだけど、久し振りに目の前に保存食用の乾物じゃなくてちゃんとした食事出されて、おまけにアスターのコネで入ったステーションの新入りが飲むのもなあって我慢してたお酒も、温明徳課長の厚意で此処では新入り関係なく好きに注文していいって言われたら、それに飢えてたせいか欲望が抑えられなくて……」

「ああ、それで。久し振りに保存食の乾物じゃなくて、マトモな食事を前にすればそうなるの、分かるわー。酒飲みなら、なおさらね」

 うんうん。照れ臭そうにその時の我慢できなかった状況を思い出してか髪をいじり恥じらうと、それに納得する開拓者と。

 開拓者はそれから、その勝負の結果を知っているだろうエイブラハムに聞いた。

「で、そのと酒飲み男達の勝負の行方は?」

の一本勝ち。日頃から酒豪だと自慢していたほかの男達が次々と倒れて動けなくなる中、だけがけろっとした様子でまだ酒飲んでて、それ見てたステーションではなく現地の男達もに勝負を挑むもあっさりと負けてた。で、気が付けば朝で、先に潰れてた温明徳課長とか私が目が覚めたらだけ居なくなってて、酒の臭いが充満して、いびきをかいて寝てる男達で気持ち悪くなるとこで、地獄の会計が待ってたわけ」

「はは、それでエイブラハムにとっては、地獄の飲み会だったんだ。あれ、でも、何でだけ途中で居なくなってたの?」

「酒が飲めずに事を見守ってた連中や店の人間に聞けば途中で、丹恒さんがを迎えに来たんだってさ。は自分も最後まで居るつもりだったが、丹恒さんに睨まれて仕方なく退散したようだよ」

「なるほど。でも丹恒、飲み会で男達に絡まれるを心配して別の星の居酒屋までわざわざ彼女を迎えにいったなんて、やるじゃん」

 開拓者は、エイブラハムの話で丹恒がを心配して別の星の居酒屋までわざわざ迎えに行ったと聞いて、彼を称える。

 が。

 開拓者とは裏腹に丹恒は腕を組み、不本意な様子だった。

「俺は、男達に絡まれるを心配して迎えに行ったわけじゃない」

「え?」

「俺もが大食漢で大酒飲みだってのは知ってたからな。は元の星……、じゃない、地元でも酒飲みで知られてたし、列車内でも同じく酒豪の姫子やヴェルトとも飲んで、ヴェルトは途中で棄権したがだけは最後まで――朝まで姫子に付き合って、それで彼女に気に入られてたの見てるからさ」

「へえ。は、あの姫子やヴェルトと、お酒で話せるんだ。それはちょっと羨ましいかも。で、それで心配ないを丹恒が迎えに行った理由ってのは?」

「俺は、が大酒飲みだって何も知らない万有応物課の連中と現地の人間を心配して、を迎えに行ったんだ。案の定だ。夜明け前に迎えに行けば倒れてる男達の中でもはまだ飲めるって楽しそうに話してたが、これ以上はさすがにステーション内ではお人好しと評判の温明徳課長も無理だと判断したわけだ」

「……うわー、飲める年齢だったとしても、と酒飲み勝負引き受けなくて良かったわ」

 の振る舞いに呆れる丹恒と、身を震わせる開拓者と。

 今まで彼らのやり取りを聞いていた『なのか』も、温明徳に感心を寄せる。

「温明徳課長、その飲み会でも今までも、よく最後までに付き合ったね~。ウチも温明徳課長のそのお人好しな部分は、尊敬するわ」

「うん、まあ、その話聞けば、ほかの課の皆にもそう言われるんだけどさ、万有応物課の課長としては、を中心としたその歓迎会、やって良かったと思ってるんだ」

「え、それどういう――」


「あー、温明徳課長だけずるいですよ、と一緒なんて!!」

「ほんとだ。しかもちゃっかりエイブラハムまで。私達、今日はに丹恒さんがついてるからっていうんで、と一緒になるの遠慮してたのに!」

 温明徳と『なのか』話の途中で割り込んできたのは二人の女性で、彼女達はと同じく万有応物課の女性スタッフであると、開拓者も『なのか』認識している。

 温明徳は、同じ課の女性二人からの抗議を聞いて、隣についてるエイブラハムを指さし、言った。

「いや、自分も今日は丹恒が一緒だと聞いてたんでと同じ席は遠慮してたんだが、が丹恒だけじゃなくて開拓者達と一緒に居るからいいかなーって。エイブラハムもその意見に乗ってくれてさ」

「うぇ、私を巻き込まないでくださいよ。ぼ、私は別に目当てで此処に来たわけではないですから、決して!!」

「どうだか。ねえ?」

「エイブラハム、元防衛課だけあって、自分を守るのだけは上手いんだから。まったく、油断ならない」

 女性スタッフの二人は、エイブラハムの言い分に疑惑の眼差しを向ける。

 そして。

「ねえ、。開拓者達と一緒なら、姫子さんの列車でいつものランチ行かない? 開拓者達や丹恒さんも一緒でもいいからさ。むしろ、その方が面白そうだし」

「ごめんねー。今日はチャットで話したように丹恒デイって決めてるって話した通りだから。開拓者達とは、朝に一緒になっただけで、この後は丹恒と二人のデートするのに変わりない」

「そっかー。それじゃ、また次の機会にでも。丹恒さん、開拓者、『なのか』もまたねー」

「今度は、がいい時に開拓者も『なのか』も私達と一緒にランチしようねー。それじゃ」

 にランチの誘いを断られても女性スタッフはそれにがっかりせずにあっさりとした反応で、どこかへ行ってしまった。

 開拓者は女性スタッフが立ち去ったのを確認した後に興味深そうに、に聞いた。

「丹恒デイって何?」

「ああ。今日みたいに普段離れてる丹恒がついてる時は、丹恒デイと称して、それ理由にほかの誘い断ってるの。皆、それには納得して引いてくれるから気が楽なんだよねー」

、普段からそこまで誘いくるの――」

 くるのかと驚いている、そのそばだった。

「あー、お姉さま! 温明徳課長とエイブラハム、開拓者達だけお姉さまと食べてるなんて、ずるい!!」

 きゃああ。甲高い悲鳴をあげて青ざめるのは、万有応物課でも階級を気にしている温世玲である。

 温世玲は、開拓者とが同じテーブルで食事を共にしていると分かって、悔しそうに地団駄を踏む。

「温明徳課長はまだしも、階級の低い開拓者と、エイブラハムまでお姉さまと一緒だなんて! お姉さま、何で、私に声をかけてくださらなかったんですかあ!!」

「あれ、温世玲は階級の低い私には素っ気なかったのに、私と同じⅡ階級のには、お姉さまなんだ?」

 開拓者は万有応物課の温世玲といえば、いつも階級を気にして階級の低い自分に対しても素っ気ない態度を貫くが、自分と同じⅡ階級のに対しては『お姉さま』呼びである事に少しの不満を抱く。

お姉さまは階級が低くても、あの特級クラスの丹恒さんと付き合ってるいうだけで、それだけで、特別なの! 同じⅡ級でも開拓者とは、格が違うわ」

 ふふん。温世玲はどういうわけか開拓者には、胸を張ってを自慢そうに語る。

 それから温世玲は、期待を込めた目でを見詰める。

お姉さま、開拓者達と一緒だという事は、丹恒さんのデート、中止になったんですか?」

「いえ。今回、ここでたまたま開拓者達と一緒になっただけ。丹恒とデートは変わりないわ」

「ええー、そうなんですかぁ?」

「それだから温世玲、そこまでガッカリしないでちょうだい。明日、あなたに付き合えるかもしれないから待っててくれる?」

「は、はい、お姉さまの仰る通りに!! それでは!」

 にっこり。に微笑まれた温世玲は顔を真っ赤にして、それに納得したよう、その場から立ち去ったのだった。

 そして次に来たのは。

さん、温明徳課長や開拓者達と一緒という事は丹恒さんとのデート、駄目になったんですか? それなら、カンパニーから新商品が色々届いているのでそれの品評会やりません?」

 アフロ頭でショップ担当の温世斉である。

「温世斉、丹恒のデート駄目になったわけじゃないって。その新商品の品評会、明日でいい?」

「それは残念です……。さんが丹恒さんだけではなく、開拓者や温明徳課長と一緒と聞いて、ちょっと期待してたんですが。あ、いや、丹恒さんの目が怖いのでこのへんで……」

 温世斉はに断られて肩を落とすも、丹恒の目が怖いのでこれ以上は控えるよう、すごすごと退散していった。
 
 同じ課の人間だけではなく――。

。今日、開拓者達と一緒で予定変更で誘えるなら、私と一緒に飲みに行かない?」

「あら、私の方が先約じゃなかったかしら?」

 別の課――密巻課のメイア、界種課のラミナまで誘いに来る始末だった。

 次々来る誘いを全て丁寧に断ったうえでは、開拓者に向けて言った。

「全く。目立つ開拓者達と一緒だと丹恒とのデートが駄目になったと勘違いされて色々誘われるから、嫌だったの」

「……、同じ課で階級気にしててまだ階級が低かった私にも冷たかった温世玲やショップの温世斉だけじゃなくて、別の課の女性達からの誘いもくるとは知らなかった。ステーションで人気、ここまで凄かったの?」
 
「うん。温明徳課長が開催してくれた飲み会の後、同じ課の皆だけじゃなくて、ほかの課の職員達から色々誘われるようになってね。それまで、私に声かけてくれる人間なんて殆ど居なかったのにね」

 その事実に驚く開拓者にくすくす笑って応じるのは、である。

「何で飲み会やるまで、に声かけてくれる人間、今まで居なかったの?」

「さっき、エイブラハムが話してただろ。は、このステーションの経営者で所長でもあるアスターさんの知り合いの一人だという幹部の大事な一人娘として入ってきたって。それ、開拓者も聞いてないか」

 開拓者の疑問に答えるは、歓迎会主催者の温明徳だった。

「ああ、そういえばそうだった。のその話は、アスターだけじゃなく、ヘルタからも聞いてるよ」

 開拓者は温明徳の話で、ヘルタからの話も思い出す。

 ――は丹恒の失敗で別の星から此処に来たが、そのほかのスタッフには、アスターの知り合いの幹部の大事な一人娘という風に説明し、このステーションに置いてる。その方が、疎まれずにすむと思ってね。

 はヘルタやアスターの計らいで、丹恒の手でほかの星から来た旅人であるというのは上手い具合に伏せられているようだった。

は、アスターさんの紹介で万有応物課に入った当初、アスターさんの知り合いの幹部の大事な一人娘っていうところであっという間にステーション内で話題になって、その見た目――、清楚系お嬢様として男達の間で人気あったんだよ。あいつら、何も用がなくてもの担当の倉庫内に行ったり、を食事に誘ったりね。万有応物課以外の男達も、を一目見たいと用がなくても彼女の所に来るほどだった。
 で、それをよく思わなかった女性スタッフ達から反発されて仲間外れにされて陰口叩かれる始末で、、課の中だけじゃなくて、ヘルタステーション内で孤立してたんだよな」

「あれ、でも男達の誘いがあってそれのせいで女達から孤立してたって、その時の、丹恒と付き合ってたのでは……」

「そこだよ」

「そこ、とは?」

は最初、丹恒との付き合いを課の皆だけじゃなくて、ヘルタステーション内で内緒にしてたんだってさ。私もエイブラハムも、飲み会で丹恒が迎えに来るまで二人がそういう関係だって知らされてなくてさ。いやー、飲み会終わった後日にから改めて丹恒とそういう関係だって彼を紹介された時は本当、心臓が飛び出るほど驚いたよ。ほかの仲間達も、実際にと丹恒が恋人らしく腕を組んでるのを見て、飲み会で丹恒がを迎えに来たのは夢じゃなかったのかって驚いてたよ」

「そうなの?」

 開拓者は温明徳より、目の前の本人に聞いた。

 は言う。

「うん。丹恒との付き合い、ステーションの人間に言う必要無かったし、アスターのコネで来たうえにそれだとまた色々面倒だと思ったせいもある。その時の丹恒は、姫子の列車に乗ってたから皆に紹介する機会も無かったしね」

「俺もここのスタッフの人間関係は開拓者が来るまで、あまり興味無かったからな。のそれについては歓迎会の飲み会に迎えに来るまでほったらかしにしてた」

 ずずず。は開拓者に色々重なって紹介が遅れただけと、ひょうひょうと答えて、音を立ててドリンクを飲む。丹恒もそれについては特に問題視はしていなかったようで、落ち着いたものだった。

 開拓者は、丹恒のに対しての素っ気ない態度に不満を持つ。

「というか丹恒、その時までヘルタ・ステーションに来たばかりで不安だろうほったらかしにしてたって、がそれで誰かにいじめられるといった心配とかなかったわけ?」

が誰かにいじめられる……、……、ふはっ」

「た、丹恒? どうしちゃったの?」

 開拓者は自分のへの心配をよそに何かを思い出したのか噴き出し笑いを堪える風の丹恒に、驚く。

 丹恒は笑いを堪えながら、開拓者に向けて言った。

「いや。が誰かにいじめられる場面あったら、反対に見てみたいわ。開拓者でものその場面目撃したら、遠慮なく俺を呼んでくれよ」

「ええー……」

 丹恒の態度に開拓者は引き気味だったが、温明徳から追加証言があった。

「そういや、丹恒を呼びつけたのは飲み会以外でなかったな。は仕事場でも女達から仲間外れで孤立はしていたが、それをものともしない態度で誰にも屈せず、淡々と仕事をこなしてたよ」

「うわ、、無能力者でも強い子じゃん! カッコイイ!」

 はー。温明徳の証言に、開拓者ではなく『なのか』が感心し、彼女に拍手を送る。 

「私はでも、いくらがそれに動じなかったとしても、同じ万有応物課の仲間としてそれはよくないと思って、を中心とした歓迎会を開催したんだ」

 ひといきついて、続ける。

「それでその飲み会でが大食いで大酒飲みだと知られると、今までをよくないと思ってた女性スタッフ達の目の色が変わった。その細い体で大食い、清楚系からかけ離れて豪快な一気飲みで次々と男達を倒していくその様に圧倒されて感動を生み、そのさなかに丹恒が迎えに来てそれで彼女が彼と付き合っていると分かった時は悲鳴に近い騒ぎが起きたらしく、最後にはに心酔、翌日にはもうが万有応物課の女性スタッフの中心になってたっていうね……」

「今までに陰口叩いたり仲間外れにしてた女達も、それでコロッと手のひら返したんだから、大したもんだよ。
 別の課のメイアさんやラミナさん、その他の男達もその評判を聞きつけ、後日、を飲み会に誘ったその翌日には全員がのファンになってるんだ。
 いやー、同じ新入りでも私には出来ない芸当だわ、あれは……」

 温明徳はその時の状況を思い出したのかに感心を寄せ、エイブラハムも苦笑するだけだった。

 その中で『なのか』は、興味深そうに身を乗り出して温明徳に向けて聞いた。

「というか、何でが丹恒と付き合ってるのが分かって彼女達の間で悲鳴に近い騒ぎになったの? ウチにはそれが分かんないんだけど。丹恒、ステーションでそこまで有名人だっけ?」

「さあ?」

 『なのか』に詰め寄られるも丹恒は分からず、肩を竦めるだけだった。

 温明徳は『なのか』と丹恒を見比べ、言った。

「いやいや。ヘルタ・ステーション内で今は開拓者が一番有名人だけど、開拓者が来る前は、特級クラスの三月と丹恒はもとから有名人でしょ。当人達はそれ、知らなかったのかい?」

「ええ、ウチらってそうだったの?」

「俺は、知らん」

 温明徳のその自分の評価に驚きを隠せない『なのか』と丹恒だったが、エイブラハムもステーション内の『なのか』と丹恒についての評価を明かした。

「さっきの温世玲もそうだけど、温明徳課長の言う通りで、このヘルタ・ステーションでは、階級がものをいうからね。階級の高い我ら万有応物課の温明徳課長や、防衛課のアーラン課長は別にそこまでじゃないと思うけれど、私達のようなⅡ級からⅢ級の階級が低い下っ端スタッフからすれば、現場で活躍する特級クラスの君達に恐れ多くて話しかけられないって人間、多かったんだよ。
 でも開拓者が来てからは開拓者と同じように三月さんも丹恒さんも今みたいに階級の低い私達も気さくに接してくれるような感じになったから、そこは開拓者に感謝してるかな」

「そういえば『なの』は、模擬宇宙でヘルタからちゃんとを紹介されるまで、丹恒の彼女のとは挨拶しか交わしてなかったって聞いてたけど」

「あ、そういえばそうだったわ。今までの階級が低かったせいで、が丹恒の彼女だって知ってても、そこまで話した事なかったの思い出した。ウチと丹恒って、ほら、特級クラスだからさー」

 あははー。エイブラハムに続いて開拓者もそれを思い出せば、なのかは誤魔化すように笑ってその場をしのぐのだった。