――灰色に満ちた世界からもう、後戻りできない事を彼女は知っている。
真夜中。
「――!」
は悪夢を見て、目を覚ました。
動悸が激しく、息も上がっている。
額や手のひらに汗をかき、髪や体も汗で濡れているのが分かった。
体を起こして、枕元に置いてある携帯端末に手を伸ばした。
「……」
画面に表示される連絡帳にある丹恒のアイコンを触ろうとして――、寸前で止めた。
「駄目だ、駄目だ。これくらいで、丹恒呼ぶわけにはいかない。もう、彼に頼らないようにしなくちゃ……」
堪えて、端末を床に放り投げた。
「……ッ」
手を使った影響か、痛みが走る。
「薬……」
ベッドから出て明かりもつけずに、机の引き出を探り、薬を手に取る。
薬はカプセル状のものだった。残り、後、二日ぶん。
「やば、もうあまりないじゃん。またステーションのあの医務室行かないといけないのか……」
はぁ。は手持ちの薬が数少ない事を知って、再び、ステーションの医務室に行かなくてはいけないと分かり、絶望する。
「あそこの主治医、苦手なのよね……。でも、此処ではこの薬しか頼れないから仕方ないか……」
カプセル状の薬を口に放り込み、水も使わず飲み込んだ。
数分経てば薬の効き目が出て眠りにつける、はず。
大丈夫。
「大丈夫、大丈夫……」
何回か呟いて、落ち着かせる。
「私は、私だ。私であればこんなもの、克服できる……」
……。
が宇宙のヘルタ・ステーションに来てから入居したステーションのスタッフ専用の部屋は、白い無機質な壁、机と棚と寝台、モニターが置かれただけの簡素な造りだった。
「……」
何をやっても、立っている世界は変わらない。
それだけが、恐ろしかった。
その日。
ヘルタ・ステーション内では、まだ午前中の話だった。
束の間の休息、開拓者は丹恒に用事があり、ステーションに停泊している星穹列車を訪れた。
「丹恒、こっちに戻ってるって聞いたんだけど。次の任務で必要な資料があってさ」
「ああ、丹恒なら資料部屋に居るよ」
「ありがと。またね」
開拓者が星穹列車に行けばいつもの指定席にヴェルトが居座っていたので聞けばそう返事があり、ヴェルトを信じるように開拓者が丹恒の資料部屋に向かう――と。
「あ、ちょっと待って。丹恒の部屋、今すぐ行かない方がいいと思うよ」
「何で?」
「今の時間、が丹恒の部屋に来てるから。急ぎじゃないなら、しばらく――、また夜に出直した方がいい」
「そう、それじゃあ」
「ち、ちょっと待って、何でが丹恒の部屋に来てるの分かってそっち行くのかな?」
ヴェルトは自分の忠告を無視してさっさと丹恒の部屋に向かう開拓者を、慌てて引き止める。
開拓者は無邪気に、ヴェルトに聞いた。
「反対に聞くけど何で、が来てるから丹恒の部屋に行かない方がいいの? しかも夜に出直せって、そこまで待てないんだけど?」
「いや、何でと言われても……。そうだ、夜まで待てないなら、丹恒に一度、メッセージ送ったらどうかな」
「メッセージ……、あ、そうだ、、まだお昼ご飯食べてなかったら、一緒に食べようかな。私か丹恒が一緒なら、Ⅱ階級のでもこの列車の食堂利用できるんだよね」
「そうだね。はⅡ階級でも丹恒で無条件で、列車内の施設は利用できるはできるが……」
ヴェルトに言われるも開拓者はその訳が分からない様子で、更にはメッセージと聞いてと一緒に昼ご飯行こうかなと、それを楽しみにする始末だった。
ヴェルトは開拓者がそれについて分かってない風であるのを知って、弱った風に頭をかきながらその言い訳を考える。
「あ、ええと、ほら、ヘルタの任務であっても、部外者のに聞かれたらまずいんじゃないかな、と」
「そうかな? 私が請けたヘルタの任務、に聞かれてもいい任務だったように思うけど。いつもの近場の惑星探索だし」
「ええと、ええと、ほら、の調子が悪いかもしれなくて、丹恒が彼女の世話してるかも!」
「それなら、丹恒にを任せた状態でいいんじゃないかな? 私が丹恒の部屋に行くの仕事用の資料取りに行くだけだから、そう長居しないでしょ」
「……それはそうだが、しかしなあ」
「そこでが私に出て行って欲しいと言われれば出て行くけど、そうじゃないなら、そこまで気にする必要ないと思うよ」
「……」
ヴェルトにそれがなんでもない風に話す開拓者と、何も彼女を引き止める言い訳が思いつかないヴェルトと。
「じゃ、行って来るねー」
「……行っておいで」
はぁ。ここまで鈍いとは。ヴェルトは、開拓者の鈍さに参ったよう溜息を吐いて、彼女を笑顔で見送るしかできなかったという。
開拓者は丹恒の資料部屋まで来て、そして。
「丹恒、次の仕事で欲しい資料があるんだけどさー」
がちゃり。
ノックもせずに遠慮なくドアを開け、そこにあったのは――。
「あ」
「あ」
床に寝そべって上半身の衣服の一部が乱れて肌を出した状態のと、そのにまたがって彼女の衣服に手をかけた寸前の丹恒の姿があった。
開拓者は抱き合う二人を見て数秒停止した後。
「うわああ、ご、ごめん!」
顔を真っ赤にして勢いよくドアを閉めたのだった。
中から「毛布、毛布!」とか、「きゃあっ」、短い悲鳴と何かが落ちる物音が聞こえて、慌てた様子だというのが開拓者にも聞こえた。
五分後。
しばらくして怒りに満ちた顔の丹恒がドアを開け、抗議してきた。
「開拓者、入る時はノックか声かけしろって、常々言ってるだろ!」
「すみません。今回ばかりはそれ、反省してる……」
開拓者は今回ばかりは、丹恒に素直に謝った。
というか。
「というか丹恒、こんな早い時間からとヤらないでよー。私としては、そっちに文句言いたいんだけど」
「うるさい。時間ある時じゃないと、とヤれんだろ。こっちはいつ、急な任務で此処を離れるか分からないせいで」
「それはそうだけどさあ。丹恒はよくても、が無理かもしれないじゃない。丹恒、自分の都合だけでに無茶させてないでしょうね」
開拓者は最初、丹恒はまだいいが、に負担がかかっているのではと、彼女を心配して彼を睨みつけるが。
「大丈夫、大丈夫。丹恒は私の事をちゃんと気遣ってくれてて、私の都合があわなければ丹恒、ちゃんと引き下がってくれるから」
「」
上半身だけ毛布を巻き付けた本人が顔を出し、開拓者を安心させるように言った。
開拓者はそのを見て、申し訳なさそうに謝った。
「、ごめんねー。邪魔しちゃって」
「いいって。そこまで、気にしないで。確かに開拓者の言うよう、自分の都合だけでこんな明るい時間から私を襲う丹恒が悪いんだから」
も開拓者に笑って、そう返した。
そして。
「……まあいい。ちょっと待ってろ、お前のいう資料探すから」
丹恒は開拓者だけではなくに参ったよう、開拓者が求める資料を探し始めたのだった。
開拓者は丹恒が自分の求めている資料を探している間、が毛布をかぶっていてそれを見てはいけないと思いつつ見えてるので、それについて話題にしてみた。
「、肌、めっちゃ綺麗だね。肌だけじゃなくて、髪もサラサラで綺麗だから、羨ましい~」
「そう? ありがとう。そういう開拓者も肌と髪、綺麗で羨ましい。それから開拓者って、いつもナマ足で戦ってるんだよね。そのへんこだわってそうな『なのか』から、何か手入れ教わってる?」
「ええと、戦い終わった後にの指摘通りにそのへんうるさい『なの』に色々手入れ方法教わるんだけど、面倒であまりやってないんだよね、あはは」
「面倒なの、分かるー。私の場合はそうでも一応、丹恒ついてるから、手入れはちゃんとしなくちゃと思ってやってる」
「はそういうとこ、ちゃんとしてて偉いなー。その効果か、いつもキラキラしてるね。丹恒からもそれについて、何か言われてる?」
「それね。丹恒には別に何も言われてないけど、丹恒を間近で見れば彼、肌奇麗で髪もサラサラじゃない。それ、反対に女として悔しくて、彼に負けないようにやってるだけ」
「そうそう。丹恒て、手入れしなくても肌ツヤいいし髪もサラサラだもんね、そこは女として悔しいの分かる」
「うん。おまけに丹恒と一緒に歩いてるとどうしても注目されるから、肌や髪だけじゃなくて色々気遣う必要あって、それで」
「ふむ。丹恒でのキラキラが増してるわけかー。私としてはそれ、参考になるようで、参考にならないわ」
「ふふ。開拓者も私みたいに、どこかで自分にあった良い人が見付かれば、色々手入れしなくちゃって思うかも」
「そうかなー。私、開拓者として色んな星旅してるけど、今のとこ、そういう人見付からないんだよねえ」
「そうなの? 開拓者は、この列車でもステーションでも人気あるんだから、自分では気が付いてないだけで、身近に居るかもよ」
「そういうは、丹恒とどうやってそこまでの関係になったの?」
「あら、それ知りたい?」
「丹恒、そこまで他人に興味持つ人じゃないでしょ。その丹恒がをどうやって落としたのか、興味あるのは、興味ある」
「そうね、どこから話せばいいか……」
開拓者との間で丹恒についての話題が盛り上がるところ、で。
「――あった、これか」
女二人に話題にされて挟まれ居心地が悪い中、丹恒は開拓者が探していた資料を見つけて彼女に手渡した。
「開拓者、お前が欲しい資料、これか」
「あ、そうだ、それ、それ。ありがとー。そうだ、また時間あったら、夜にでも列車の食堂で一緒に食事しない? 丹恒も一緒でいいからさ」
「いいわね。あとで、メッセージちょうだい」
「了解。それじゃあねー」
開拓者は丹恒から目的の資料を受け取ると彼ではなく、に向けて手を振って、そこから退散したのだった。
開拓者が行ったのを確認した後に丹恒はドアを閉め、に向けて感心したように言った。
「開拓者、随分とに懐いてるな。あそこで開拓者からお前の肌や髪の話題だけじゃなくて、俺についても話題にするとは思わなかった」
「そうね。でも、開拓者に丹恒効果で私のキラキラ増してるって言われるのは、悪い気しなかった」
「開拓者は姫子さんと同じで実力主義だから、のような弱い無能力者には見向きもせず、手厳しいと思ったが。開拓者に何やったんだ、お前」
「さあ。私では開拓者に懐かれる理由はよく分からないけど、さっきも開拓者が話してたけど、ステーションの皆と同じで、無能力者でも、あまり他人に興味持たない丹恒と付き合ってる時点で凄いと思われてるんじゃないの?」
「……俺、そこまで気難しいか?」
丹恒は腕を組み、その不満を表に出す。
はその丹恒を見て、遠慮なく言った。
「それね。丹恒はこっちから攻めていかないと、相手に興味すら持たないじゃないの。無能力者の私がその丹恒と付き合ってる時点で周りから凄いって思われるのは、当然かと」
「……、本人前にしてハッキリ言うな。、故郷の星でもそうだったがこの宇宙でも、怖いものなしかよ。まあ、お前ほど見た目と中身違うの、そう、いないからな。俺は、お前の見た目に惑わされて騙された男達に同情するよ」
「あらあら、私の裏を知ったうえで私に先に手を出したの、誰だっけ? 丹恒は、その私に騙されたと思って、後悔してるの?」
「……俺だな。言っておくが俺は裏のあるに騙されたと思ってなくてそれに後悔していないし、の裏を知ってもと付き合いたいと思った」
丹恒はそのに参ったよう、彼女の顔に触れる。
「……本当、丹恒は、私が欲しい言葉が分かってるわね」
も丹恒に参ったよう「お返し」と言って、背伸びして、彼の顔に触れる。
「丹恒の場合、見た目と中身、そう変わらないわね」
「そうか?」
「うん。私、丹恒が国王陛下からロイの代わりの護衛を任命されなかったら、ほかの世界から来たって言う丹恒に見向きもしなかったもの。丹恒とあの中庭で初めて会った時、見た目、冷たそうで怖そうだったから、近付かない方がよさそうって思ってた」
「そうか……」
丹恒はから「自分は彼女と違って見た目と中身が変わらない」という話を聞いて、複雑だった。
それというのも丹恒は実は、この時点で、自身の故郷である仙舟にて明るみになった自分の前世の力について――飲月についての力の話は、には何も明かしていなかったのである。
それを知っている開拓者や『なのか』にもに飲月についての力を言うなときつく話してあったので、いまのところ、が開拓者と『なのか』からその秘密を聞いているという事はなかったように思う。
因みに現在の開拓者と丹恒、なのかの三人はヤリーロ-Ⅵ、仙舟を通り過ぎ、ピノコニーを通過、オンパロスを攻略中である。
その中では強がっていても、この宇宙より千年以上も離れた文明レベルが低い星から来たせいか、目の前の変化する事象に免疫がない弱い人間だ。この宇宙に来てから列車内でもステーションでも、未知なるものに触れるのに異様に恐れている。車掌のパムだけではなく、バーテンダーロボットやシェフロボットでも、慣れるのに時間を要した。
模擬宇宙内での話だが、開拓者や三月なのかの力を間近で見て、その時は平然としていたが後で「そこから逃げたい気分だった」と、二人きりの時に打ち明けてくれた。
丹恒は「が飲月に変化した自分の姿を見れば、彼女は素直に驚き、車掌のパムと同じようにそこから逃げるか、隠れるか、どちらかの行動を取るだろうな。そして、変化する自分の力を知れば彼女は――」、嫌な事を考えて、その嫌な考えを振り払うように反レギオンに向けて槍を振るってきた。
丹恒はに飲月の力を知られるのが、怖かったのだ。
は丹恒の複雑な苦しみなど知らず、続ける。
「でも、その丹恒の冷たい印象が変わったの、夜の中庭の逢瀬の時かなー」
「夜の中庭の逢瀬? ああ、俺が夜中に一人で中庭で槍の訓練してた時にがふらっと来て、そこで一緒になって、お互い、離れたくても離れられなくなったんだよな。そういっても俺はそこで槍を振り回してるだけで、は酒飲んでるだけだったが。あれでどうして、俺の印象変わったんだ。俺が槍持って冷たい雰囲気だったのは、最初と変わらんと思うが……」
「さあ、何ででしょう」
「」
「その時の話を思い出せば、分かるかもねー」
「……」
思い出す。
そうだ、あれは丹恒が城の人間達や兵士達が寝静まった夜中、と最初に出会った城の中庭で一人、槍の訓練をしている時だった。
中庭は吹き抜けになっていて、天然の夜空が天井である。
中庭は石畳と芝で整備され、中央には噴水もあり、ところどころに椅子とテーブルが置かれ、城の人間達の憩いの場所として知られている。
丹恒は月明りの下、中央にある噴水のそばで槍の調子を確かめていると、驚いたような声が聞こえた。
『ねえ、こんな時間にそこで一人で何やってんの?』
『?』
丹恒は、夜中にが姿を見せた事に素直に驚いた。
丹恒はそのと向き合い、そのわけを話した。
『俺は此処で、槍の訓練してただけだ』
『槍の訓練? 何で夜中に一人でやってるの。あなた、昼間、私の護衛から外れて暇な時はうちの兵士達と一緒じゃなかった? 訓練も、そこの鍛錬場使えばいいじゃない』
は、自分と離れて暇な時は丹恒は、国王の助言で、城の兵士達と一緒に過ごすようになったと聞いている。丹恒はそこで彼らと、星核の影響で現れたというほかのモンスター退治、あるいは、それ以外の異常が無いかの調査に出かけている。
丹恒は槍を掲げ、に正直に言った。
『城の兵士のレベル低くて、相手にならなかった。それに自分の性格上、最初から一人で鍛錬する方が向いてる』
『それはそれは。うちの軍、中央国家なだけあって、反レギオン軍やへんなモンスターが現れてからも各地から選抜した優秀な兵士を揃えてるんだけど。国王陛下がそれ聞いたら、泣くわよ』
そういうは、話の内容と違って、くすくす笑うだけだった。
『そういう、お前は、何で夜中に此処に来た。おまけに城の中とはいえ、なんつう格好だよ……』
一方の丹恒は、城の敷地内ではあるが、ドレスではなくシャツと短パンといった肌着姿で、いつもは団子状に編んでいる髪もおろした状態の無防備過ぎるに呆れていた。
は、自分のシャツをつまみながら言った。
『これ? 湯浴びした後の寝間着なんだから、これくらい普通でしょ。あなた、私が毎晩あのドレスで活動してると思ってたわけ?』
そういうは、ドレスでも普段着のワンピースでも、明るめの黄色を好む。しかし、普段は第一王妃の前では遠慮してるのか彼女より目立たないようにという理由で、フリルは少な目であまり派手なデザインではない。
今回は普段目にしている黄色のドレスではなく、白いシャツに水色の短パンだった。
丹恒はの今までに見なかった無防備過ぎる格好に息を飲みつつ、冷静を装う。
『いや、そこまで思ってないが、は一応、王妃なんだから、男の前でそういうのはどうかと思っただけだ。それこそ、国王が泣くぞ』
『私の方が先客!』
『え?』
は地団駄を踏み、丹恒に訴える。
『此処の中庭、門が開放された昼間は城の人間であれば誰でも出入り可能だけど、門が閉ざされてる夜中は、私を含めた王族しか出入りできないようになってたんだけど。おまけに今の時間、私しか使ってる人間居なかったのに、あなたが勝手に使ってたってだけの話! あなたが来なければ、誰の目も気にせず、この格好でのんびりできたのに』
『ああ。夜は王族関係者のみの利用なら道理で、人が来ないはずだ。人が来ない分、居心地が良かったんで此処、訓練所でちょうど良いと思ってたんだ』
『まったく。あなたが国王陛下に認められた客人でなかったら、追い出して、城の兵士に突き出してる所よ』
言っては、噴水のそばに備えられてあった椅子に腰かける。
丹恒はここで、が手に何か筒のようなものを持っているのに気が付いた。
『おい、その手に持ってるの、酒か?』
『うん。これ、取り寄せてるクロムのお酒~』
は丹恒の前でも構わず酒が入った筒のフタを開け、持参のカップに注ぎ、それを飲み始めた。
『はぁー。湯浴びした後に此処で夜風にあたりながら飲む、寝る前の一杯が最高なの。これが私の一日のシメなわけ』
慣れた手つきで酒を飲んでヒヒ、と、笑うを見て丹恒は。
『……おい、、城の兵士達の間でお前の事、どういう風な話題になってるか知ってるか?』
『無垢で純粋、お人形みたいな清楚系お姫様?』
『よく分かってらっしゃる。おまけに、抱き心地が良さそうな体、だとさ。若くて美人なお前を相手にできる国王が羨ましい、とも』
『ふん、下世話な話題ね。まあ、この国の第二王妃として落ち着いた私からすればロイと国王陛下以外のほかの男なんて目がいかないし、男側も最初はそう思っても私がこんなだと分かればさっさと引いて行くから楽なもんよ』
は言って、再び、酒を口にする。
丹恒はここで、気が付きたくない事実に気が付いた。
『……、男側も自分の裏が分かれば身を引くから楽って、お前、国王以外の男とも経験あるのか』
『それ、当たり前でしょ。此処に来るまで私、クロムの第二王女としてほかの国の権力とお金持ってる伯爵や商人の男達と何回か見合いしてるし、それで何人かの男と付き合った経験あるもの。大半が私の裏側知ると逃げていったけど、ロイと、ここの国王陛下だけは私のそれ知っても逃げなかった』
『そうか……。まあ、ここのお人好しな国王であれば、お前の裏側知ってもそこまで幻滅しないか』
丹恒は、あのお人好しな国王なら、酒飲みで雑なを前にしても逃げたくても逃げられないかもしれないと思って、苦笑する。
丹恒はここで、肝心のロイについて聞いてみた。
『のいう俺の前任者だった元護衛のロイは、お前の裏知ってるのか』
『ああ。そういえば、あなたに前任者のロイについて話してなかったわね。ロイは、私と同じ国出身だけじゃなく、小さい頃から一緒だったの。それこそ、クロムの城で兄弟のように一緒に育った。それだからロイは私の事はよく知ってるというか、知り過ぎてるくらいね』
『なるほど。それなら、ロイほど、の護衛にあうのがいないと言われるわけだ。というか、国王とロイは分かるが、俺にもそこまで裏見せていいのか』
『それね。一番最初にこの中庭で会った時に肉まんですでに裏側見られてるし、あなた、国王陛下から目的の星核とやらが手に入れば、あっさり宇宙に帰るんでしょ。その短い期間の間であれば、あなたに私の裏、隠す必要ないかなって。あなたもその方が気が楽でしょ?』
『ああ、そういうわけね。確かに此処で最初に会った時のの肉まんは衝撃的だったし、俺は目的の星核が手に入ればこの星を離れるから、それで外から来た俺であるなら裏は見せられるか……』
丹恒はの話で、一番最初に会った時に肉まん抱えてる王妃なんているかと衝撃的だったのは変わりなく、目的の星核が手に入ればあっさりこの星を出て行く計画だったので、それならも自分に裏を見せても問題ないと分かった。
それが分かったと同時に丹恒は、『裏を見せるのはいいが、短い間だと分かってるのが少し悲しい』と思った。
続ける。
『それで、そのロイなら星核狙いに俺と同じ宇宙から来た反レギオン軍でも相手出来るような人間で、あってるのか?』
『うん。ロイは、私のクロム国だけではなくて、このディアン国でも一番の最強兵士として認められている。国王陛下もロイのそれを分かって、反レギオン軍が侵略している海岸の最前線に出したんだから。ロイであるなら未知なる侵略者の反レギオン相手でも出来て、ロイが最前線でほかの兵士達も指揮してるからこそ反レギオン軍が街まで入って来なくてその被害も最小限に抑えられてるのよ』
『ほう。この数日、と離れている間に兵士達とその調査に行っていたが、この国の周辺で反レギオン軍の姿が見えなかったのは、ロイのおかげだったか。確かに、宇宙技術を知らない文明レベルの低い国の軍隊がよく反レギオン軍相手に持ちこたえていると、感心していた。ロイがそこまでの腕なら、俺もロイを相手にしたいものだ』
丹恒は兵士達と調査に出かけたさい、この国周辺で反レギオン軍の姿が見えなかった事に疑問があったが、ここでついにそれが明らかになり、それに納得する。
それからロイについて自慢そうに語るを見て、確かに宇宙技術を知らない文明レベルの低い国で反レギオン軍を相手に持ちこたえているのは凄いと感心したし、いつか、そのロイを相手にしたいと思った。
はその丹恒を鼻で笑う。
『無理、無理。私の最強兵士のロイとあなたじゃ、月とすっぽんかもねー』
『やってみなくちゃ、分からないだろ』
に言われた丹恒は槍を握りしめ、笑うだけだった。