それからは、挑戦的な目で丹恒を見つめて言った。
『それであなたもほかの男達と同じように私の裏側知って、幻滅した? おまけに見た目だけで私が処女かと思ってたなら、それは大きな間違いだって、いまのうちに白状しておくけど』
『いや。お前、第二でも王妃の時点で処女じゃないだろうし、王女でもその酒の扱い見れば処女じゃない事くらい分かってたわ。それに、それくらいで雇い主に幻滅するようでは、この護衛の仕事、出来ないだろ』
『なんだ。見た目通りに処女かと思ってたら違ってた、ガッカリっていう、その間抜けな顔見たかったのに』
『……、悪趣味だな』
丹恒はの話に呆れてはいるが、それに怒る風でもなく、苦笑するだけだった。
は自分に対して何も言って来なかった丹恒を興味深そうに見つめ、言った。
『そういうあなたは、誰も寄せ付けないその冷たそうな雰囲気から、女に免疫なさそうっていうイメージとあってる? 私、それで、あなたはまだ童貞君かと思ってるんだけど』
『おいおい、それこそ大きな間違いだ。俺でもそれなりに女の経験あるわ。お前も白状したので俺も白状するが、今より若い頃の話だ、娼館に通って色んな女を相手にしてた時期あるしな、俺をなめるな』
『へえ、言うじゃない。で、そこでどんな女、相手にしてきたの?』
『何でそこまで、お前に教える必要がある』
『宇宙でもその手のお店があるのかと思ったら、どんな女の子揃えてるのかなーと思って。あなたと同じ宇宙から来た反レギオン軍って機械で出来てるんでしょ、それなら、美少女系の機械人形とかいたり? はは、まさかねえ』
は最初、冗談で言ったつもりだったけれど。
『……』
黙ったまま顔を逸らした丹恒と、それを見て戸惑うと。
『ええ、宇宙では本当に美少女系の機械人形が居て、相手にできるの?』
『……、宇宙の技術では当たり前のように女型の機械人形もあって、それと平気でできる男も居る、とだけ』
『うわー。宇宙の技術を前にすれば人間の女も不要ってわけか。それは、ちょっと怖い世界だね』
はその事実を知って、身震いした。
丹恒はそのに向けて、言った。
『言っておくが俺は、その手の趣味はないからな。宇宙でも女型の機械人形を相手にするのは一部の男の間だけで、特殊な癖(ヘキ)として認識されている』
『それは分かってるって。ああそうだ、宇宙では女型の機械人形が普通に居るなら、男型の機械人形も居るのかな? お金は出すから、私好みの男の機械人形、誰か作ってくれないかなーなんて』
『やめとけ。男型の機械人形でも、お前の裏を見れば幻滅して逃げていくぞ』
『えー、機械人形でも、そこまで感情持ってるの? それなら遠慮しとくかあ』
『ああ、その方がいいな』
お酒の力かどうか、は丹恒と宇宙の技術について話すのが楽しかった。丹恒も裏表の無くそれについて何も知らない相手に宇宙の技術について話すのは、楽しいと思った。
と。
『ねえ。宇宙でも娼館で色んな女の相手してきたっていうなら、うちのメイド達、どう?』
『うちのメイドというのは、この城のメイド達か?』
『そう。うちのメイド達、中央国家なだけあって、兵士達と同じく色んな国から呼び寄せてるから、それで美人揃いじゃない。リーダーで頼もしいお姉さま系から、守ってあげたい妹系まで幅広く揃ってる。宇宙から来たあなたでも、その中で一人くらい、気に入ってる子が居るんじゃないかなーと』
『……、確かにこの城のメイド達は悪くはないと思うが、何故、今になってその話を?』
丹恒は、城の中で何人かのメイド達と遭遇し会話もした事があって、確かに、彼女達は美人揃いで悪くないと思ったが、それをに話題にされる意味が分からなかった。
は言う。
『それね。あなたから男の兵士達の間で私をそう評価してるって聞いてそれは自分も前から知ってたけど、女のメイド達の中でも、外から来た客人であっても、この城で私の護衛として有名人になってるあなたを評価してるの聞いてるから、それ、今のうちに教えておこうと思って』
『なんて評価だ?』
『見た目、うちの兵士達よりカッコイイ、槍構える姿は強そうで素敵、付き合えるなら付き合いたいって、好感度高い評価ばかり』
『そりゃどうも。俺はしかし、この城のメイドに興味無いんでね、彼女達と付き合う気はないし、彼女達もよそ者の俺と関係持ちたくないだろ』
『えー、もったいない。よそ者だとしても、いっときでも、良い出会いがあれば攻めてもいいと思うけど。そこまで美人揃いの彼女達から良い評価されても目が向かないなんて、はっ、まさか、男に興味あったり――』
『……(無言で槍を構える)』
『すみませんでした』
は素直に謝ったという。
そして。
『そういう、お前はどうなんだ』
『え、何が?』
『は、俺をどういう風に評価している?』
『え、ええ、な、何で、私のそれ、気にするの?』
は丹恒がそう返してくるとは思わず、柄にもなくドキドキしてしまった。
丹恒は言う。
『が俺を良い風に評価してくれれば、国王も俺の力を認めてくれてそれで目的の星核の在処を教えてくれるんじゃなかったのか』
『あ、そ、そうだった、そうだった。あなたは私の評価で、国王陛下に認められるんだったわね。それすっかり忘れてた』
『おいおい、肝心な話を忘れるなよ。俺はそれ目的で、お前についてるんだから』
は今まですっかりその事実を忘れていて、丹恒もこれには呆れていた。
は改めて丹恒を見て、素直にその感想を言った。
『まあ、見た目は彼女達の言うよう、うちの兵士達よりは、カッコイイと思う。でも、今のところ、それだけで、私が国王陛下にあなたの力を認めるように進言するまでは、いってないかなー』
『……、相変わらず、手厳しい。でもそれがなんだよな』
丹恒はの手厳しい評価に反論せずに、くつくつ笑うだけだった。
そして。
『どっちにしろ、紫陽花通りの時も話したけど、お城でも外でも、あなたから付き合いたいと思う子が居れば私に相談してくれると嬉しいかな。私であれば、便宜計ってあげられると思うからさ』
『……、は、支持者の集会でも、紫陽花通りの時も思ったが、意外と面倒見良いよな。それでどうして、この国の人間から嫌われてるんだ。お前が街中だけじゃなくて城でもあそこまで嫌われるの、第二王妃だけが原因じゃないだろ』
『お、よく観察してるわね。私がこの国の人間に嫌われてるの、第二王妃だけって理由だけじゃないのは当たってる、かもね』
『』
『今はまだ、外から来たよそ者にそれを明かす必要ないってだけ』
『そうか……』
丹恒はここでそれ以上追求しなかったのは、はぐらかされるだけか、騒がれて騒ぎになって兵士や国王が現れると面倒だと思って、止めておいた。
そしては、椅子から立ち上がる。
『お酒飲み終わったし、眠いし、そろそろ、部屋に帰るわ』
『部屋まで、送っていこうか』
『大丈夫。此処からは、部屋まで一人で帰れるわ』
『気を付けて』
一杯だけの酒量であれば、一人で部屋に帰れるだろう。丹恒は中庭を出ていくを見送る。
と。
『……ねえ、明日もそこで一人で槍の訓練してるの?』
『そうだな。何も無ければ、この時間に此処に来てると思う』
『そう。それじゃ、また明日』
『また、明日』
その時は、それだけで終わった。
次の日の夜。
丹恒が中庭で一人で槍の訓練をしていると、昨日と同じく、酒を持ってシャツと短パン姿の無防備な状態のが現れた。
『……なんだ、またそれで来たのか』
『それは、こっちの台詞だって言ったでしょ。この中庭、あなたが利用する前は、私が利用してたんだから』
言っては無防備な格好のまま噴水前の椅子に座って、丹恒に構わず、酒を飲む。
『寝る前の一杯が最高~』
丹恒はここで、飲んで背伸びをするを見て、気が付きたくない事実に気が付いた。
『……、、お前、俺が来る前からこの中庭を利用していたと話したが、もしかして、毎晩、寝る前に飲んでるのか?』
『うん。あなたが来る前から毎晩、此処で飲んでる。それがどうかした?』
『寝る前でも、毎晩飲むのは、あまりよくないと思うが』
『何よぅ、説教するんだったら、ほか行ってくれる? こっちはこれが習慣なんだから、今更、止められない』
『……まあ、俺が口出す話じゃないな』
うん。丹恒は自分に言い聞かせるよう、うなずくだけだった。
と。
『……ッ、ごほ、ごほっ』
『どうした、大丈夫か』
丹恒はが急に咳込み出したので、心配して彼女に近付く。
は顔を上げ、丹恒に心配するなと話した。
『大丈夫、気にしないで』
『。やはり、夜の寝る前でも、飲み過ぎはよくないと思うが――』
『大丈夫だって、言ってるでしょ! 触らないで!』
『――』
丹恒が心配しての体に触れようとした寸前、彼女に拒絶されてしまった。
はハッと我に返り、丹恒に素直に謝る。
『ご、ごめんなさい。でも、そこまで心配しなくて大丈夫だから、本当に……』
『……そうだな、そこまで心配する必要ないか。手を出して、すまなかった』
丹恒もに手を出そうとした自分が悪かったと、彼女に謝った。
『……』
『……』
そこには、微妙な空気があった。
微妙な空気に耐えられなくなったのかは酒を飲みつつ、そこから話題を変えるため、丹恒の持つ槍に注目する。
『ね、ねえ。槍の訓練してたなら、その訓練、私にも見せてよ』
『何で、お前に見せる必要がある。何も出来ない無能力の女が訓練見ても、面白くないと思うが』
『……、今まであなたの実力、見た事なかったの思い出した。私の護衛といっても、街中うろつくだけ、ロイのおかげで危険な事、何もなかったじゃない』
『それはそうだが』
『昨日も話したけど、あなたの槍の実力分かれば私の方から、国王陛下に星核の在処を教えてくださいって、進言できるかも~』
『……そうだな。国王は、第二でもの言葉なら、聞いてくれるか。仕方ない。一回だけだぞ』
はあ。丹恒は溜息を吐いて、の話には納得したよう、槍を構える。
静かな夜だった。
『いくらあなたが槍の扱いが上手いといっても、私の最強兵士のロイより上じゃないでしょ』
『……』
は最初、丹恒は強いといっても、自分の元護衛で最強兵士だったロイの域は越えないだろと、単純に思っていた。
それが。
『――洞天幻化、長夢一覚』
『!』
風が。
丹恒が槍を振るっただけで一陣の風が吹き荒れ、それはの横を通り過ぎ、そして。
風は吹き抜けを通って天を舞い、月へと消えた――。
『……ふぅ、こんなものか。訓練だと、半分以下だな。まあ、本領発揮すれば城が壊れるか』
それから丹恒は、自分の技を見て動きの止まったを見据える。
『で、どうだった?』
『ど、どうだったって、何が?』
『俺の実力が分かれば、国王に星核の在処を教えてもらえるよう、進言してくれるんじゃなかったのか。今の技で、俺の実力が分かったと思うが』
『し、知らない! 何も分かんない!』
『は? おい、約束が違うぞ。俺の実力、無能力なお前でも、ロイは分からんが、ここの城の兵士達より上だと理解できたんじゃないのか』
『そ、そうね、城の兵士達よりはその力、あると思う』
『それじゃあ……』
『でも、でも、私の最強兵士のロイより格下! 私の最強兵士のロイと勝負してから出直して!!』
『!』
言うだけ言っては、その場から逃げるように立ち去ったのだった。
――現在、丹恒の資料部屋にて。
「、あの時、自分の最強兵士のロイと勝負しろと言って俺の約束から逃げただろ。……思い出せば分かるって、もしかして、俺の技見て、俺に惚れたのか?」
はは。丹恒は最初、冗談交じりにに向けて話したつもりだった。
いつものであれば「冗談でしょ」と、鼻で笑って否定するが、今回はそれと違った。
「……それは、否定しない」
「え」
「あの時、丹恒の実力を目にして、私の最強兵士だと思ってたロイが圧倒的に負けてるって自覚した。おまけに丹恒が私に見せた技は、まだ本気じゃないってのも理解した。それ理解した途端、悔しかった。あれで私の全てが否定され、同時に、目の前の男に全部持ってかれた」
「……」
は告白した後、顔を真っ赤にして何も返事をしない丹恒に訴える。
「ああもう、それが今の結果なんだから、黙らないでよ!」
「あ、ああ、思ってなかった告白だったんで、今になって驚いてる。そうか、あの時、お前に技見せて良かったのか……」
「それで、さっき開拓者に話してた肌や髪の手入れも、それから、念入りにやるようになったんだから。気が付いてなかった?」
「……すみません、気が付いてませんでした」
「もう。これだから、男って……」
ぶつぶつ。それに気が付かなかった件で不機嫌になるを見て、丹恒は慌てて彼女の手を取り、それを打ち明ける。
「俺もに乗じて告白するが、俺がに惚れたの、それより前だった。それで、その、中庭でと会ってる時、大変だった」
「は? それより前に私に惚れてたせいで中庭で会ってる時に大変だったって、どういう意味?」
「いや、その、がいつものドレスじゃなくて、シャツと短パンといういつもと違った格好で俺の前に来るから、お前と話すだけでも精一杯で……」
「あ、そういうわけ。だから、いつも以上に無口になってたんだ。私、あの時に逃げてたせいで丹恒が怒ってるんじゃないかって、ビクビクしてたわ」
逃げた次の夜、が恐る恐る中庭に行けば丹恒は地べたに座って槍の手入れをしているだけで何も話さず、はその丹恒にどう声をかけて良いのか分からなかったので自分は酒を飲むだけでその時間を過ごしたのだった。
「そこでも丹恒の誰も寄せ付けない冷たい雰囲気は変わらなくて、私、どうしようかと思って、昼間の護衛の仕事の時は普通だったけど、次の夜、個人的な時間で丹恒に会いたくなくて別の場所で飲んでたのよね……」
「……そうだったな。俺、あの時、がいつものように中庭まで来てくれなくて、心配して、ナビで探したんだ。そしたら、城の塔の上まで行ってたんだよな」
思い出す。
あれは、満月が輝く、明るい晩だった。
丹恒は夜になってもがいつものように中庭に現れず、自分はに言い過ぎただろうかとそれを心配して、手持ちの携帯端末を使っての居場所を探した。
『ナビ、の場所、頼む』
ナビは、は城の右にある塔の屋上に居ると示した。
『何で、塔の上に居るんだ。まさか……』
城の人間達が寝静まってる中でも部屋で休んでいるだけならいいが、そうでなければ――。丹恒はナビでの位置を把握した後、嫌な事を想像して、慌てて駆け足で塔を登った。
『!』
塔の上では、が毛布をかぶって横になって寝ている姿があった。そばに、いつもの酒が入った筒とグラスが置かれてある。
『』
『すーすー……』
『……何だ、酒飲んで寝てるだけか。良かった、いつものだ』
がくり。丹恒はが塔の屋上に居ると分かって嫌な想像をしたが結局は、酒を飲んで寝ているだけだったと分かり、安心して彼女と同じように地べたに座る。
『この塔からなら、月がよく見えるな。おまけに、この塔の上だと中庭と同じく、城の人間の嫌な声も聞こえないか……』
中庭もこの塔も、を批判する声は届かない。
そして。
『……本当、酒を持たずに黙った状態なら良い女なんだがなぁ』
丹恒は月に照らされて眠るは美しく魅力的だと思うと同時に、彼女の裏の顔を知っているぶん、苦笑する。
『……』
月の魔力にあてられたのかどうか――。
丹恒は、の月と同じ黄金に輝く髪に触れた。
『……』
そこから、いつも以上に甘い香りがした。
花に群がる蜂を誘うには、丁度良い香りだと思った。
丹恒は、いけないと思いつつ、彼女の髪に触れた後、その勢いと欲が止まらず、顔、首筋、そして――。
『何だ、これ……』
と。
彼女の手元にもう一つあるものを発見した、発見してしまった。
『この皮袋、の手入れ品でも入ってるのか。いや、違う、これは……』
の手元には小さな皮袋が握られていて、その中身は、が普段使う鏡やクシが入ってるのだろうと単純に思ったが、実際は違った。
『これ、粉薬、か? 何でこんなもの、持ってるんだ。……、待て、この酒量に対して、すぐここまで眠れるか?』
皮袋から、紙に包んで小分けにされた白い粉が入った小さな紙筒が出てきたのだった。
は酒豪で酒好きだ、酒一杯くらいでは酔わないというのは、集会の時に知っている。寝ているそばにある酒が入った筒も、せいぜい、グラス一杯から二杯の量で、これくらいでは酔った影響で眠るというのはないだろう。
『ステーションの医療班に分析してもらうか……』
丹恒はの手元にあった白い粉の一つを自分の懐に入れ、ステーションの医療班に分析してもらう事にした。
それから丹恒がふと上を見れば、大きな満月が輝いている。
そのあと月に照らされて寝ているを見詰め、そして。
『お休み……、良い夢を』
もう一度、のその髪に触れた後、彼女を起こさないように塔を出た。