朝。
「……」
昨夜は酒を飲んでいないはずなのに、頭がぼうっとして、中々ベッドから起き上がれなかった。
と。
「、起きたか」
「……」
「? どうした、まだ起きられないのか。昨夜、いつまで勉強してたんだ?」
当然のように仕事から帰って来たらしい丹恒が部屋に居て、そこで机についた状態で、ベッドに寝たままのを心配そうに見ている。
「……丹恒、いつ帰って来たの?」
「いつものよう、お前が寝てる夜中に帰って来た」
「そう、お帰りなさい」
「ただいま」
いつも通りのやり取り。
「それは、いつも通り……、いつも通り?」
まだ、頭がハッキリしない。は体を起こしてベッドから這い出ると、机に居る丹恒に聞いた。
「私、昨夜、お酒飲んでた?」
「いや、俺が帰る前は分からんが、俺が帰って来た時は飲んだ形跡ないと思うが」
「そう。なんか、ぼーっとして、ハッキリしないんだよね……」
「大丈夫か。医務室、一緒に行こうか」
「大丈夫。それより丹恒、机で何やってたの? また生物の観察?」
「いや。今回は生物じゃなくて、お前の仙舟の勉強の添削やってた。間違ってる部分、修正しておいたぞ」
「ありがとう、助かる~」
は、仙舟の言葉の勉強を始めてから丹恒は「仙舟に行く機会も無いが、そこまでやる必要はない」と、笑うが、いつの間にか添削してくれているぶんは、本当に助かっているし、感謝もしている。
ところで。
「……ねえ、ぎゅってして」
「なんだ、急に」
「いいから、して」
「」
は遠慮なく丹恒のひざに座り、彼にそれを要求する。
丹恒は溜息を吐いた後、仕方なくという感じで、の要求に応じて彼女の背中に腕を回した。
「……」
「……」
しばらく抱き合った後。
「もういい」
「もういいのか」
はすぐに丹恒から離れ、彼を解放する。
「お前から求めてくるのは珍しいな、俺の居ない間に何かあったか?」
「別に、何も無い。なんか、怖い夢見た気がして……」
「……、怖い夢でも俺を頼るのは、良い傾向だ。ステーションの仕事も仙舟の勉強も、あまり、無理するなよ」
「分かってる、ありがとう」
丹恒は、いつも優しい。はそれに感謝しつつ、気分を変えるため、棚にあったもう一冊の仙舟の本を手に取った。
「ねえ、もう一冊の仙舟の本なんだけど」
「仙舟ガイドか。それは絶版された翻訳集と違って、宇宙を行き来する旅人に人気ある本だな」
は、仙舟の言葉翻訳集と一緒に買い取った仙舟ガイドを丹恒に見せた。
「この中にある仙舟グルメ紹介、本当にどれも美味しそうなんだよね。ステーションでこれ読んでたら開拓者は仙舟ではメインの肉料理、『なのか』は甘いデザートが美味しかったって自慢してきた。私としては仙舟のお酒に興味あるんだけど、丹恒、また仕事で仙舟に行く機会があればどれかお土産で買って来てよ」
「……、手土産にしなくても、星穹列車であれば、パムか姫子さんに頼めば仙舟の料理を取り寄せられるから、でも仙舟グルメが味わえると思う。の好きな酒もバーテンダーロボットのシャラップに頼めば仙舟のものを取り寄せられたはずだ」
「本当?」
「次の休みでいいなら、列車のレストランの食事、仙舟グルメにするか?」
「わあ、それはいいアイデア! ね、その時、開拓者と『なのか』はもちろん、ブローニャとゼーレ、ジェパード、セーバルのヤリーロ組も呼んで、星穹列車に招待しようよ」
「それはいいな。次の休み、開拓者達だけじゃなくてブローニャのヤリーロ組も集めて、星穹列車で仙舟グルメパーティーでもするか」
「やった! 次の休みが楽しみね!」
わあ。は本当にその時が楽しみになって、丹恒の前でくるくる踊る。
丹恒も自分の単純な話だけでが嬉しそうなのを見るのは、好きだった。
と。
「あ、着信きた。開拓者からだ」
「俺の所にも開拓者からきたぞ。何だ?」
手元にある携帯端末の着信音が同時に鳴って、と丹恒は同時にそのメッセージを開いた。
それは開拓者からのもので、そこにあったのは。
『おめでとう! の仙舟行きが決まったよ!』
「「は?」」
開拓者からの思ってもないメッセージを見て、と丹恒はお互い顔を見合わせ、お互い、それに理解が追い付かずに彼女にどう返信すればいいのか数秒の時間を要したという――。
余談。
の仙舟行きが決まる数日前の話。
ヤリーロ-Ⅵ、ベロブルグ、高級ホテル内の高級レストランにて。
「ねえ、丹恒は何で、いまだにに仙舟での出来事、話してないの?」
「そうだよ。丹恒、仙舟で一番カッコ良かったじゃん。それに話せば喜ぶと思うんだけどなー」
開拓者と『なのか』はある日、星穹列車ではなく、ヤリーロ-Ⅵはベロブルグにあるホテルのレストラン内で丹恒に向けて、その話題を出してみた。
今回はジェパード率いるシルバーメインの依頼の仕事だったので、三人でそれをこなし、その報酬として高級ホテル代と高級レストランの食事代が浮いた次第である。
丹恒はレストランの高級ステーキを口にしながら、淡々と言った。
「は、お前達が思ってるより弱い人間だ。仙舟で明らかになった俺の飲月の力を話せば怖がって、俺に近付かなくなる」
「そうかな? 、丹恒についていけてるぶん、そこまで弱い人間じゃないと思うけどなあ」
「うんうん。は、ウチから見ても強い子だよ。丹恒はに対して、過保護過ぎるんじゃない? それ、ここの人間――ブローニャとゼーレも話してたよ」
「……」
開拓者と三月なのかは知らないのだ、の力あるものに対する恐怖心を。
故郷の星での実の父でありクロム王の数々の狂人じみた所業によるものだと――。
自分の槍の技を見て逃げたのもそれのせいで、それ以外、レギオンに襲われた時も、ほかの男に虐待を受けていた時もそこから逃げるのが精一杯だったと、宇宙に来てから打ち明けてくれた。
これはの立場――第二王妃によるものだが、その真実は今は開拓者と『なのか』に中々打ち明けられなかった。
丹恒は言う。
「駄目だ、に飲月の力を明かすにはまだ早い。はもう少し、月日がかかる」
「丹恒、そこまでに対して気遣ってたら、いざという時、に愛想尽かされるんじゃないのぉ?」
「いざという時とは、どういう時だ」
「、温明徳課長の話であったけど、そのお人形さんみたいな容姿で、応物課はもちろん、ステーション全体で男達の間で人気あるじゃない。丹恒の秘密知れば、何で自分には何も教えてくれなかったのかって憤慨して、秘密主義の丹恒より、ステーションの男達と付き合うわ、別れて欲しいと言われるとかさ」
「あ、それあるかも! それ以外だとてば、ステーションだけじゃなくて、星穹列車でも謎の美女現るとかって、ギャラガーとかアルジェンティとか、列車を利用する男達の間で噂になった事あるくらいモテるもんね。それで、何も明かしてくれない丹恒に飽きて別の男にいったりさー」
「――」
ヒヒ、なんてねえ。開拓者と『なのか』は丹恒がから愛想を尽かされる理由をそれぞれ述べて意地悪く笑うも、丹恒は笑えなかった。
「……、に俺の飲月君の力がどこかで分かれば、それについてちゃんと説明するさ。それでも、が俺の力を怖がってそこから逃げるようであれば、俺がを捕まえればいいだけの話だ。宇宙科学も知らないような文明レベルの低いほかの星から来たは俺がついていないと、この宇宙では生活できないからな。
これで分かる通りには俺が必要だし、俺もが必要だ。そのが俺以外の男に目を奪われるものか。もし、そうなった時、俺がそいつからを取り返すだけだな」
「……」
「……」
開拓者と『なのか』は、丹恒のやけに自信たっぷり、おまけに、キザったらしい歯の浮くようなセリフを聞いて、心なしか顔を赤くして黙った。
「何だ、急に黙って」
「いや、何でと言われても、ねえ?」
「ねえ?」
開拓者と『なのか』はお互いの顔を見合わせ、お互いに顔を引きつらせるだけだった。
ずずず。開拓者は出されたドリンクを音を立てて飲みながら、改めて言う。
「まあ、飲月の力は別に隠したままでいいと思うけど、仙舟での丹恒の立場くらいはに前もって説明した方が良いんじゃないの?」
「だね。、丹恒が前世の飲月の力を継いでるせいで、現在の仙舟でも雲騎軍の景元将軍様に頼りにされて、軍の皆からも師匠扱いされてるから、そこで特別な権力持った人間って分かれば、普通の女の自分とその丹恒では釣り合わないとかって悩みそうじゃん?」
「……」
丹恒は、開拓者と『なのか』は痛い所をついてくると思った。飲月の力は別に問題視しなくていい、に対して厄介な一番の問題はそこだと、頭では分かっていた。
分かってはいるが――。
「……、開拓者と三月は何でそこまで、俺との事情に踏み込む? 俺はともかく、無能力者のために仙舟に行けないはほっておいていいと思うが」
「私、ステーションでも列車でも、が丹恒のためにってあそこまで仙舟の勉強頑張ってるの見てるから、そのにも仙舟を見せてあげたいって思ったんだよね」
「うんうん。ウチも開拓者と同じく、が丹恒のために仙舟の勉強頑張ってる姿見て、どうにかして仙舟行かせてあげたいって思った。無能力者のでも、丹恒から姫子にかけあえばそれ、可能なんじゃない?」
「……」
丹恒は確かに、あそこまで仙舟の勉強を頑張っているを見れば自分も開拓者や『なのか』と同じよう、彼女にもあの仙舟の美しい風景を見せたいと思った。
しかし、自分もそうだが、の国王と政略結婚した第二王妃という一番厄介な立場が、それに壁を作る。
伝統と文化、その歴史を重んじる仙舟の人間達こそ、の第二王妃という立場、そして、側に事情がある政略結婚とはいえ、その時に自分と関係を持った不貞行為を一番嫌う人種であるというのを、丹恒が一番よく知っている。
を守りたいのであれば彼女は仙舟に踏み込んではいけない、と、頭の中で警告音が鳴る。
それから――。
「……(それから、この一年でとの契約が切れた今では多分、と仙舟に行く時間はない。アスターには開拓者を理由に時間を伸ばしてもらってたが、それもいつまで持つか……)」
それから丹恒は、との一年契約がとっくに切れている事を知っている。
この先、をどうするか、それが、一番の悩みで問題だというのに――。
「丹恒?」
「どうしたの?」
気が付けば開拓者と『なのか』が心配そうにこちらを見ている。
丹恒は溜息を一つ吐いて、開拓者と『なのか』に向けて話した。
「……、俺でも、の仙舟行きは決められない。あの列車は全て、姫子さんとパムの采配だ。パムはなんとかなるだろうが、姫子さん相手は俺でも厳しい」
「はあ、丹恒がを仙舟まで行かせない理由がそれだけ?」
「えー、列車で姫子の権限って、そこまでのものかなぁ?」
ようやく吐き出した言葉に、開拓者が不満を持っているのが分かった。『なのか』も不審な目でこちらを見ている。
その視線に耐えられなくなったのか、丹恒は。
「……ごちそうさま。食べ終わったから俺はこれから、ホテルに泊まらず、星穹列車に帰る」
「え、ホテル泊まらず星穹列車に帰るって、丹恒、ジェパードが報酬で出してくれたホテルの部屋、使わないの?」
「俺には、必要無い。俺のぶんの部屋代はジェパードのシルバーメインに返却しておく。俺は先に、星穹列車に帰るわ。お前らは好きにしろ。それじゃあ」
丹恒は食事を終えた後、言うだけ言って、さっさとレストランを出て行った。
ベロブルグはジェパード率いるシルバーメインの依頼の報酬として、食事代だけではなくホテル代まで出されたが、丹恒はそれを使わず星穹列車に戻ると話した。
その目的は開拓者と『なのか』も分かっていて、その仕業に呆れる。
「丹恒、自分は好きに使ってるよね。仕事終わった途端に報酬のホテルの部屋使わずに星穹列車に早く帰るの、目当てでしょ」
「だね。丹恒てば、ヘルタでウチらにの存在が明らかになった途端、それ隠さないようになったね。以前の隠してる時の丹恒は、仕事の依頼の最中であっても、いつの間にかウチらと外れてふらっと何処か行ってて、いつの間にかウチらのとこに戻ってたんだけどね。多分、その時も、の所に行ってたみたい」
開拓者と同じく『なのか』も、以前の丹恒であれば仕事の最中でも自分達に何も告げずに一人でふらっとどこか行ってる事が多かったが、多分それは、ステーションに残っているに会いに行っていたのだろうと今になって思った。ヘルタでの存在が明らかになった今は、仕事の最中であっても暇なときは開拓者と自分に向けて、に会いに行くと言って一人、外れる事が多い。
開拓者は『なのか』の話で、ふと、それが気になり、彼女に聞いてみた。
「そういや、、私がステーションに来る前――なのが列車に来るよりも前から、丹恒と付き合ってたんだっけ?」
「うん。丹恒、とは、ウチがヨウおじちゃんの手で発見される前からの付き合いって話してたから、それから、一年は経ってるかも」
『なのか』は丹恒とが付き合ってるのは自分が発見された時から指折り数えて、一年は過ぎていると、開拓者に教える。
「一年……。丹恒と、けっこう付き合い長いんだね。その時の丹恒、一人で星核の調査やってたんだっけ」
「そうそう。丹恒がその実力買われて姫子の誘いで列車に来て、姫子でヘルタを紹介され、暇な時にヘルタの任務で一人で星核調査を何回かやったらしいよ。最初は、丹恒一人でも行けるような、宇宙科学も知らない文明レベルの低い星選んでて、そこでの故郷に当たったみたいだね。でも結果的には失敗して、ヘルタはそれで一人でやるより二人がいいって結論づけて、丹恒にウチをつけたって聞いてる」
「失敗……。は自分の家族の裏切りのせいで星核与えたレギオンに自分の故郷がやられて、そこで女子供も惨殺されるような地獄と化したと話してたけど、それってよくある話なの?」
「どうだろ。ウチは、丹恒と一緒になってから星核の調査に何回か行ったけど、そういうのは見ていないな。でも、ステーションの所長のアスターによれば、ウチと丹恒が調査する前はと似たような話、けっこうあったみたいよ」
「そうなの?」
「アスターによればウチはもちろん、丹恒みたいなレギオンに対応できる力を持った人間、ステーションを統括するスターピースカンパニーの中でも滅多に現れないんだって。ヘルタ・ステーションがカフカ達に襲撃された時もそこに出没したレギオン相手に動ける人間、ウチと丹恒くらいだったじゃん。そこで防衛課のアーラン達は、現場を守るだけが精一杯って感じだったでしょ」
「あ……」
開拓者は、自分がステーションの奥で目覚めた時、確かに、その場には『なのか』と丹恒の二人しか襲って来るレギオンに対応できず、防衛課のアーランは自身も怪我をして仲間を逃がすのが精一杯だったのを思い出した。
「ヘルタ・ステーション、あの時、ウチと丹恒ついてなかったら、意外と危なかったよねー。ヘルタ達、ウチと丹恒が居なければ星核取り込んだ開拓者を見付けられず、そのままレギオンにやられてたかもね」
「……」
あはは。『なのか』はそれを何でもない風に笑って話すが、開拓者はそれはけっこう重要な話ではないかと思った。
続ける。
「で、ウチと丹恒の前は、姫子とヨウおじちゃんがそれに対応してたみたいだけど、その圧倒的な力の差にステーション内では腫物扱い、現地では拒絶される事が多くて、星核の調査、難航してたみたい。それだから、ウチと丹恒みたいな丁度良い力持った人間が重宝されるんだよ。
それから星核があるって調査で分かってるのに人材不足でウチと丹恒が来られなかった所は、星核はもちろん、それ狙いのレギオンに対応できなくて、みたいな地獄になってるとか。そうなった場合、カンパニーが支援したり、補償出してるとか聞いてるけど」
「うわ。それじゃ、ブローニャ達のヤリーロ-Ⅵを私達で攻略できたの、ブローニャ達からすれば随分と運が良かったのかな?」
「多分。このヤリーロ-Ⅵも、ウチらが――、違うか、開拓者が来なければ、の二の舞になってたかもね」
「そう……」
開拓者は『なのか』から一連の話を聞いて、柄にもなく、身震いした。
開拓者はそれ以外にも知りたい事があり、遠慮なく『なのか』に聞いた。
「なの、よく、その一年の間、ステーションに残ってたっていうと遭遇しなかったね。私はそれが不思議でならないんだけど」
「あー、ウチ、休みの日は列車内にこもってたし、丹恒と星核調査で旅に出るようになってからは滞在期間中はその星にこもりっぱなしで、ステーションに立ち寄る事なかったから。ウチは丹恒と同じで開拓者来てから、ようやく、ステーションの人間関係を把握したって感じかなー」
「なるほど。なの、意外と、繊細だからな……」
三月なのかは誰でも付き合い良くて親しみやすそうに見えて実は繊細で気にし過ぎというのは、開拓者も今までの旅の中で分かっていた。
開拓者が夜中に列車の部屋を抜け出せば、列車の窓から夜空をぼうっと見詰める『なのか』に遭遇する事がたびたびあった。
なのかは、開拓者が自分を分かってくれて理解してくれる、それは嬉しい話だったが、今はの話題に集中する。
「丹恒がステーションの研究員――と付き合ってるっていう話は、丹恒と旅に出る前、丹恒から直接聞いてたんだけどね。あまり興味無くてさ、ヘルタからの話聞くまでほったらかしにしてたんだ。まさか、丹恒の彼女にあんな裏話があったとは、夢にも思わなかった」
「それは、私もだよ。その時に何があったのか、いまだに丹恒に聞けてないのがもどかしい。丹恒以外、のそれに関わってる姫子にそれとなく聞けば、また今度ねって、はぐらかされる始末でさ」
「うん。姫子もなんか、について何か隠してるっぽいんだけどね。ウチと開拓者じゃ、姫子にそれ聞き出すの無理だわ」
はあ。の秘密に関して三月なのかにしては珍しく、お手上げ状態だった。
次に開拓者は、サラダのトマトにフォークを突き刺しながら、その不満を口にする。
「肝心の丹恒はを好きに扱ってるのに、と私達が旅で知り合った人間達にあわせないよう、を抑え込んでる。ここのブローニャ達だって、私が列車に居る時を見計らって偶然を装ってはじめて、丹恒、その紹介に応じてくれたんだよ。私がここまでしないとそれに応じない丹恒、なんなのって感じじゃない?」
「ウチも開拓者のそれがあったせいか、ブロ-ニャ達以外、地下組織のナターシャとルカ、フックやクラーラの子供達からも噂の丹恒の彼女、ぜひ、自分達にも紹介してくれって言われてるんだけどねー。それ丹恒に持ちかけたら、思い切りヤな顔されちゃった。と同じお嬢様のブローニャ達はまだいいけど、地下組織の人間達とをあわせるのはまだ早いって。
今回の話では飲月の力もまだ明かせないって言ってたから、丹恒があの調子じゃ、当分、無理っぽいねー」
これにはさすがの『なのか』も、参った様子だった。
ここで開拓者は改めて、自分より丹恒と付き合いの長い『なのか』に聞いた。
「あのさ。丹恒は何で、そこまでに自分の飲月君の力だけじゃなくて、ほかの星の住人達とあわせたくないって思うのかな? さっきも丹恒に話したけど私、がそこまで弱い子とは思えないんだけどさ」
「ああ、それなんだけど。ウチも一回、ダメ元で丹恒にそれ聞けば、丹恒はがウチらより宇宙科学も知らない千年前の世界から来たせいで、は自分が見た事のないような異質な力を目にした途端、震えて、相手からすぐ逃げるんだって回答があった。
これじゃあ相手に失礼だし、もそれで落ち込んで引きこもる性質で、それだから自分がについていないと駄目だって、丹恒がちゃんと説明してくれたよ」
「……なるほど。のそれ、なんとか恐怖症とかに近い感じなのかな?」
「そう、それ。丹恒だけじゃなくて、姫子とヨウおじちゃんも、は自分が弱い人間だと自覚しているぶん、自分より強い人間に恐怖を抱くんだって、同じような話してたな。ウチじゃのそれ、全然分かんないんだけど、そのに丹恒がついていないと駄目って部分は理解してる」
「ふむ。がそうなら、丹恒に内緒で私と『なの』でを強引に外に連れ出すの、無理っぽい?」
「あー、それ、一番やっちゃいけないと思うよ。それ発覚すれば、丹恒はを連れ出した開拓者じゃなくて、開拓者に従ったに対して何するか分からない怖さあるから。……冗談じゃなくてさ」
「あー、うん。私が無理に連れ出したのが分かれば丹恒は私じゃなくて、に何かする怖さがあるってのは分かるわー」
さすがの『なのか』も開拓者のそれには否定的で、開拓者も丹恒の矛先が自分ではなくに向かうと簡単に想像がついたので顔を引きつらせるしかなく。
「……はあー」
「……はぁー」
はあー。開拓者と『なのか』は揃って、大きな、大きなため息を吐いた。
「そうでも、あそこまで仙舟の勉強を必死にやってる見たら、どうにかして仙舟行かせてあげたいんだけどなあ」
「ウチも開拓者と同じ気持ちだよ。だけど丹恒の話してたよう、無能力者のが別の星に行く件に関して姫子が慎重になるのは理解できるし、丹恒が間に入らないとウチと開拓者だけじゃ連れ回すのは厳しいのも理解できるんだよねえ」
開拓者も『なのか』も、丹恒のために仙舟の勉強を必死でやっているを見ているので、彼女をどうにかして仙舟まで連れていけないかと、考える。
「……」
「……」
二人で考えてもいい手が思い浮かばず、その間、食事は終わったが、中々席を立てなかった。
ところで。
端末にメッセージが届いた。
「お。仙舟の話してれば、仙舟の御空からメッセージきた。珍しい、なんだろ」
「あれ、ウチにも同じく仙舟の御空からメッセージきたよ」
仙舟について話している最中、『偶然』にも、仙舟の御空からメッセージが届いた。
仙舟の御空といえば、仙舟の羅浮を管轄する天舶司のリーダーであったが、彼女の方から連絡があるとは、しかも、開拓者だけではなく、三月なのかにまで連絡をよこすのは珍しい話だった。
仙舟の御空から同時にメッセージを受け取った開拓者と『なのか』は、顔を上げて見合わせ、そして。
「……なの、御空のこれ、にも利用できるんじゃない?」
「お。ウチも今、それ思った。これ、が仙舟に行けるチャンスかもって」
「この件、丹恒には今すぐ相談せず、色々決定してから話した方がいいかな?」
「うん。その方がいいかも。丹恒に話したら、反対されるに決まってる」
「おまけに、丹恒が留守してる今が、チャンス! なの、ホテルの部屋に戻ってこれについての作戦会議だ!」
「了解! 今から忙しくなるぞ!」
開拓者と『なのか』の二人は、そのわずかな希望に期待し、意気揚々とレストランを出て行った。
しかし、現時点で、開拓者と『なのか』の二人は、が故郷の星で国王と政略結婚を果たした第二王妃であるとは知らず、その可能性について議論する事もなかったのである。
その開拓者と『なのか』の余計なお節介が後になって、と丹恒の関係を最悪な状態に加速させるとは、この時、誰も夢にも思わなかったという――。