幕間:彼女の世界が終わるまで(01)

 ――これは、朝の中庭にて、丹恒が国王からの事情を聞いた、その日の夜の話である。

 彼――丹恒は、ゆっくりとした足取りで、城の塔の階段を登っていた。

 あれから。

 朝に中庭でと国王の二人と遭遇した後、仕事中の昼間は、お互い、普段通りだったが、夜になってもは中庭に姿を見せなかった。

「……ナビ、の場所」

 端末のナビは、が塔の上に居ると示した。

「……」

 そして丹恒は決心して、一人、塔に向かった。




 塔の上では、あの時と同じよう、が毛布をかぶって寝ていた。

「……」

 丹恒はそのに近付き、彼女の髪に触れようとした所――。

「……触らないで」

「やっぱり、起きてたか」

「分かってるのに、手を出したの?」

 は不機嫌そうに、そこから体を起こした。

 今回のはシャツに短パンではなく、普段のドレス姿だった。

 ドレスだけではなく、普段通りに化粧も施し、髪も団子状にまとめて、首に真珠のネックレス、耳には真珠のイヤリングが身に着けてあった。今夜は、昼間の彼女のままだった。

 丹恒は塔の上でもシャツに短パンで髪もおろした状態の無防備のを期待していたが、目の前のは普段着だったので、期待外れと、内心、笑う。

 そして彼女の手元にはいつもの酒が入った筒とグラス、皮の袋があった。

「もう酒、飲んでたのか?」

「飲んでない。ドレスじゃ飲めない」

 言っては起き上がると、そこにうずくまる。

 そしては丹恒を振り返らず、言った。

「私の中庭以外の居場所、よく分かったわね。この場所は、国王陛下……、ウォルターとロイしか教えていなかったのに。それも、宇宙科学とやらの技術のうち?」

「そうだな、それは否定しない。俺の持ってるこれで、あらかじめ登録しておいたの位置はもちろん、この国の周辺地図、城の内部情報、何でも分かるようになってる」

 丹恒はに手持ちの携帯端末を見せ、ナビシステムでの居場所を示してる画面を表示させた。

 は丹恒の端末でその技術を目の当たりにして、感心する。

「凄い。いいなあ、それあれば、敵の情報とかも丸わかりじゃない」

「……、これは、星核以外の戦争に使う道具じゃない。この技術は、達に明け渡すのはまだ早い」

「そんなの分かってる。それ言うなら私も言うけど、この間の夜、私が中庭に行かなくてこの塔で休んでた時、あなた、此処に来てたでしょ」

「ああ、バレてたのか」

 丹恒は、そうだろうと思っていたので特に驚きはなく、冷静に応じる。

 は自分の持っている皮袋を、丹恒に見せる。

「その時、これに入ってた私の薬、一つ、なくなってたんだけど。落としたものかと思ったけど、今の話聞いて、あなたの仕業だって確信得た」

「朝の中庭で、国王からはロイと一緒に、レギオンにやられたって聞いた。それ以前にその薬見つけて、の薬をステーションの医療班に分析してもらったら、痛み止めと眠りの効果があると出た。……レギオンにどこ、やられた」

「知らない」



「何で、よそ者のあなたに教える必要があるの。それに、あなたに同情される覚えない」

「同情はしていないし、少なくとも同じ宇宙から来た俺にもその責任はある。反レギオン軍が星核でこの星を狙っていたのを知っていたのに、しばらく様子見だった責任が」

「……」

「宇宙ではとロイの二人と同じよう、反レギオン軍にやられた人間は多い。それで、それ系の医療が発達している。の傷も宇宙の医療で見れば、なんとかなるかもしれない」

「なんとかなるって、レギオンにやられた傷、治るの?」

 は思わず、自分の腹あたりを触る。

「そこか?」

 丹恒はの傷の位置を知って、すかさず手を伸ばし、そこに触れる。

「止めて、触らないで」

「今、痛みあるか?」

「……ッ」

 は拒絶するも丹恒は構わず、そこをさすった。

「今、痛むのか」

 再度、聞いた。

 は観念したよう、それを打ち明ける。

「……、夜は薬使わないと、眠れない」

「それで毎晩、酒飲んでたのか。酒で睡眠薬は、体に悪影響だ。今すぐ、止めた方がいい」

「お酒は、寝る前の習慣で……」

「下手な嘘は止めろ。もう全部、分かってるから」

「……」

 の震えが、丹恒にも伝わる。

 丹恒はそのと向き合い、話を続ける。

、星核の話は置いておいて、俺と一緒に宇宙まで出る気あるか」

「な、何で私があなたと宇宙まで行かなくちゃいけないの。無能力の私じゃ、宇宙に出るの厳しいんじゃなかったの?」

「それはそうだが、レギオンにやられたとなれば話は別だ。さっきも話したが宇宙では、やロイみたいにレギオンの襲撃で傷つけられた人間は多い。そこではレギオンにやられた人間を保護して治療する機関があって、対レギオン用の特効薬も用意されてる」

「……そこ行けば、私とロイの傷、治るの?」

「分からない。けど、治療を受けられるチャンスがあれば、それを受けて損はない。星穹列車の乗組員である俺の紹介なら、を受け入れてくれる。、俺と一緒に宇宙まで出る気、あるか」

「……行かない」



「あなたと違って何の能力も持たない私が宇宙まで出るの怖いし、レギオン以外の治療で、自分の体に何かされそうだから行きたくない。何より――」

「何より?」

「何より、ロイがそれに応じてくれないと、宇宙に行く気ない。私は宇宙でも、ロイと一緒がいい」

 のロイに対する揺るぎない思いを聞いて、丹恒は。

「……は何でそこまで、ロイにこだわる。お前に助けられたと言うロイがお前に執着するのは分かるが、お前がロイに執着する意味はまだ理解できない」

「そうね。宇宙から――外から来たあなたでは、私とロイの事は何も分からない。一つあなたに言える事は、私に恩があって私に執着するロイと同じよう、私もロイに恩があってそのロイと離れられないだけ」

「……」

 丹恒は月を背にして微笑むに、何も言えなかった。

 はそれから丹恒から離れて、塔の上からある場所を指で示した。

「ねえ、あそこ、何か分かる?」

「あそこ? ……海岸みたいだが」

 塔の上から指さした先は、城の裏手にあり、広大な森を挟んで、海岸が見えた。

「海岸のとこ、赤とか青とか、ぴかぴか光ってるの、分かる?」

「俺の目からでも見えるが――まさか?」

「そう、あそこ、ロイが戦ってる反レギオン軍の最前線。この塔から、それがよく見えるの。多分、赤とか青とか光ってるのがレギオンで、それを叩いてるのがロイ率いる王国軍」

「あれが……、レギオンとの戦いの最前線か」

 丹恒も目を細めて、彼らの戦いを見詰める。

 は悲しそうに言う。

「ロイは、私が反レギオン軍に襲われてから、反レギオン軍を一掃してやるって、城を出て行った。……自分もレギオンに襲われて、傷ついてるのに」

「……」

「そうだ、同じとこから来たあなたに聞きたい事があったんだ。反レギオン軍の中で、女性型って多いの?」

「女性型……、滅多に出没しないが、女性型は反レギオン軍の中でも特別な力を持っていたはず――まさか、ロイは、そいつを狙ってるのか?」

「そう。私とロイをやったの、多分、反レギオン軍の中でも中心的存在だった女性型だってロイが話してた。でもまだあれ以来、巡り合えてないみたい。ロイは反レギオン軍でも海岸に出没するのは鳥型とかケモノ型とかの雑魚敵ばっかりって、愚痴ってたわ」

「……ちょっと待て、レギオンのデータ、手持ちのアーカイブから引っ張ってきたものを表示する」

「うわ、何これ。そんなのもできるの?」

 丹恒は端末を操作し、の目の前にレギオンの種類のデータが表示された立体映像を出現させる。はそれだけで驚き、丹恒の背中に隠れる。

「……、この中で、とロイを襲ったの、どのレギオンが近いか覚えてるか?」

「えっと、えっと、その中だと、鳥とかケモノとかじゃなくて、人型っぽいの」

「人型……。データを人型に絞った、この中に該当するものあるか」

「細い感じだったと思う、あ、これが近いかな?」

「!」

 丹恒はが指した反レギオン軍――、ヴォイドレンジャー・抹消タイプを見て、目を見張った。

 瞬間――。

 ガンッ。

「ひっ」

 は大きな音が聞こえて、耳を塞いだ。

 見れば丹恒が自身の拳を壁に打ち付けた音だった。

「……」

 は、丹恒の拳一つで壁が崩れるのを見て、息をのむ。

 丹恒はそのに構わず、彼女に詰め寄る。

「おい、このタイプは、俺でも苦戦するレベルだ。お前とロイ、こんなのにやられたのか?」

「え、そ、そうなの?」

「強化兵士とはいえ、俺みたいな特別な力を持ってないロイがどうやってこんなの、相手にできる! お前から国王に言って、ロイや兵士達を今すぐ、そこから撤退させろ! 代わりに、俺が出る! こうなればもう、国王の許可必要無いだろ!」

「ちょ、ちょっと待って、急にどうしたの、落ち着いて」

「――落ち着いてられるか、またがそれに狙われたらどうする!」

「あ……」

「国王からそれ聞いた時、何でそこに俺がついてなかったのかと、此処に来るのが遅れたと、そればかり後悔した!」

「……」

『それに後悔するくらいなら、俺が出た方が早い、俺ならこの槍であいつらを一晩で一掃できる、これ以上、我慢できるか』

「え?」

 は途中で、丹恒の言っている言葉が何一つ理解できなかった。

、ロイに撤退するよう指示出せ、できないなら俺が直接――』

「――丹恒!」

「!」

 ――はじめて、だった。

 が自分の名前――「丹恒」と口にしたのは。



「……丹恒、あなたが国王陛下の許可なく最前線に出れば、場が混乱する。あの特別なレギオンが出現するにはまだ当分の間は猶予あるって、お父様が話してた。私がそれに襲われる心配ないから大丈夫……と、思う。あなたは、そこまで心配しなくていい」

「お父様って、クロム王か? 何でここでクロム王が出てくる?」

「あ、やっと、通じた」

「え?」

「あなた、さっきの興奮状態の時、私の知らない言葉でしゃべってた。どういうわけ?」

「!」

 丹恒はにそれを指摘されてはじめて、それに気が付き、口を抑えた。

「いつから?」

「……国王からそれ聞いた時、何で来るのが遅れたのかとそればかり後悔したって、そのあとから何も通じなくなってた」

「……」

「説明、できる?」

「……」

 にうながされた丹恒は溜息を吐いた後、共感性ビーコンについて、説明する。

「……宇宙科学の技術の一つに、共感覚ビーコンというものがある。それは、どの星に行こうが、相手の言葉が通じて理解できるという優れモノだ。宇宙から来た俺はそれが標準で搭載されているが、宇宙科学も知らないの世界では未搭載で、さっきのよう、早口でまくしたてればそれが通用しない事がある」

「へえ。やっぱりあなたと私、違う人種なんだね」

「……」

 は感心した風だが、丹恒は笑えずに押し黙る。

 それからは自分の耳を指さし、丹恒に興味深そうに聞いた。

「で、それであなたが私達の言葉を理解しているのは分かるけど、今、その共感覚ビーコンとやらを使用していない私達が、あなたの言葉が通じてるのは、どういうわけ?」

「ああ。この星の真上に漂っている、あらゆる宇宙科学を搭載している星穹列車の範囲内だと、その配下にある達もそれの恩恵を受けられるってだけだな。星穹列車がそこを抜けると、達と俺の間では、いっさいの言葉が通じなくなると思う」

「その星穹列車が私達の真上にある状態であるなら、共感覚ビーコン以外の宇宙科学も私達の世界に適用される?」

「多分」

「なるほど。今の状態なら、私達でもあなたの宇宙科学扱えるのか。お父様がそれ聞けば、喜びそうね」

「……」

 ふむ。は丹恒から有益な情報を聞いて、何か考えている様子だった。

 丹恒は遠慮がちにに聞いた。

「国王からの父、クロム王は闇の商売人で色々あくどい事をしていると聞いたが、との仲はそこまで悪くないのか?」

「そうね。お父様はアレだけど、科学者としては尊敬してるわ。兄様も同じね。そして、家族間で揉めてるとかはないわよ。お父様も兄様も私も、それぞれの役目を与えられてその日常を過ごしてるだけだから」

「そうか……」

「そういえば、あなたにも宇宙で待っててくれる家族居るの?」

 は最初、軽い感じで丹恒に聞いている。

 丹恒は言う。

「俺は、宇宙に帰っても一人きりだ。俺に家族など、存在しない」

「え、本当に一人きりなの?」

「それだから、こうして長期滞在型の任務が与えられる。家族がいれば、ここまでの仕事は与えられない」

「そうだったの。ごめんなさい……」

「気にするな。星穹列車に帰れば、一応、俺の帰りを待っててくれる人は居る」

「それは、良かった」

 は丹恒の話を聞いてそれにほっとした様子で、微笑む。

「……」

 丹恒は、自分の些細な話だけで悲しんだり微笑んだりする自然で素直な彼女がいい、その彼女にもっと触れたい、と、思った。

 しかしは、それを許さないよう、話を切り替える。

「ええと、話が反れたけど、改めて、あなたが此処に来る前――反レギオン軍が私の世界に来た時の事、順を追って説明するから、よく聞いて。私のお父様――クロム王の話もあってけっこう時間かかるから、あなたも座ったら? 椅子なくて地べたになるけどそれが嫌じゃなければ」

「……」

 丹恒はここで気にせず地べたに座り、と向き合う。

 は語る。

「朝の中庭であの後、国王陛下――ウォルターから、私のクロム国と、クロムの王である私のお父様の話、聞いたでしょ」

「……ああ、あの後、の事、全部、国王に聞いた。がどうしてこの国の人間に異様に嫌われてるのかも」

「そう。それの通りで、私のお父様は、クロムの国王でありながら、科学者なの。戦争用の兵器を開発したり、人体実験をしたりして、その成果物をディアンに売ってたのよ。売るのはいいけど、売って利益が出たぶんも開発に回すから手におえなくてね。国民は食べるにも困ってる状態だってのに、お父様は自分の欲望だけにそのお金を使ってた」

「それで、よく暴動起きなかったな?」

「それね。裏は兵器開発だけど、表では売ったお金を全て恵まれない子供が暮らしている孤児院や教会、同じように支援が必要な周辺国に寄付してるって事にしてたの。実際、寄付もしてた。私、クロムの第二王女として慈善活動してて、そこで、孤児院を抜け出したばかりのロイと遭遇したのよ。その時にロイに残り物の食べ物与えただけで、懐かれちゃって」

「なるほど。それならそこまで暴動は起きないか。考えたな」

「話変わって、ウォルターのディアンは数十年前は私達と肩を並べるくらい小さな国だったんだけど、お父様の兵器を使って、色々あくどい事をして、この大陸を支配するまで大きくなった。
 国王陛下――ウォルターは国民をまとめる国王ではなく、支配者としての役目が強いの。彼の周りの権力者達が私を使って跡継ぎを欲しがるのもそのせいだったりするし、街の人間はウォルターは、私のクロム国のせいでおかしくなったって思ってる。実際は、クロムがウォルターを助けてたのにね。私が街だけじゃなくて、城の人間に嫌われてるのもそれのせいね」

「それで、国王陛下、か。あの人も見た目と違って裏の顔持ってたのか……」

「そうね。あなたもウォルターの前では言葉を選んだ方がいいわ。あの人の周り、色々、不可解な事件が多いから」

「……」

 は笑うも、丹恒は笑えなかった。

 は続ける。

「で、私のお父様は、孤児院育ちで誰も引き取り手が居なかったロイを実験台にして、色んな違法薬物を使って強化兵士を作った。ロイはそれのおかげで、普通の人間では扱えなかった強力な兵器を扱えるようになった。ロイはそれで食べ物に困らなくなったけど、私がもっと美味しいもの食べたくないかって言って、ロイをディアンまで誘ったの。それというのもね」

「……それというのも、がロイを使ってこのディアンに売り込みに行くため、だろ」

「その通り。その頃の私、お父様に詰め寄られてたの。何もする事なくて城でダラダラしてたら年頃の娘がいつまで独り身で過ごす気か、さっさと身を固めろって。それで、伯爵や貴族を相手にしたお見合い何回かやったんだけど、年頃の娘でも処女でもなくて、お父様の悪評が伝わってた私では、誰も相手にしてくれなかった。相手になってくれても、体目当て、私を一回抱ければそれで満足して、あっさり次の女にいってるのが多かった。まー、若くて見た目がよくても、処女じゃなくて酒飲みで大食いで雑な女で、おまけに、父親が闇の商売人であるのを嫌がるの分かるからそれについてはあまり文句言えないんだけど」

「……」

「で、最終的に目星をつけたのがこの国の国王陛下、ウォルターだったわけ。ウォルターにはすでに第一王妃様がいたんだけど、第一王妃様の間には子供が出来なくてね、跡継ぎが必要で色んなとこに募集かけてて、私がそれに立候補したの。私はウォルターに拒絶されたらもう教会に行くしかないって思ってたけど、ウォルターは行き場がないならうちに来るといいって言って私を受け入れてくれた。ウォルターだけじゃなく、第一王妃様も私で後継ぎが叶うならと、私を快く迎えてくれた」

 ひといき。

「ウォルターは、私の裏の顔を知っても、私を拒絶しなかった。自分も似たようなものだって、笑ってくれた」

「……」

「私はそれだけでウォルターについていこう、彼のためなら何でもやれるって思ったのよ。ロイも、ウォルターなら自分の君主に相応しいって言ってくれたのは、嬉しかった」

「……国王は、お前より、ロイが欲しかったと聞いたが」

「そうそう。ウォルターは、私よりも強化兵のロイが欲しかったのよね。それだから、こんな私でも相手になってくれたの。私もそれ分かったうえで、ロイを連れてウォルターに売り込みに行った。私もロイも全部、分かってる。あなたにそれ同情される事はない」

「……」

 は最後、丹恒に向けて念入りに話した。

 丹恒はに何も反論できない。

 は目を細め、当時を懐かしむように話した。

「あの頃は、楽しかった。第二王妃についてから国民に嫌われても城の人間に嫌がられても、ウォルターで贅沢な暮らしが出来たから。美味しいものが食べられて、美味しいお酒飲み放題で、充実した日々を送ってた。城でも街でも相変わらず私への嫌がらせもあったけど、ウォルターとの間に予定通りに子供出来れば、私への批判もひっくりかえされる、それまでの辛抱だった」

「……」

「そんな中、あなたのいう星核の影響か、反レギオン軍が宇宙から現れて、たった一日でディアンと敵対してた第二の大国を滅ぼした。それで、中央国家ディアンの指揮のもと、私とロイ、軍の兵士の数人がその調査に駆り出された」

「は? ロイはともかく、何で、お前までその調査に駆り出されるんだ。それこそ、国王軍の役目じゃないか」

「軍事国家、防衛都市クロムの人間として、私とロイがその調査隊に入ってるの。たとえ第二王女でも、ディアンの防衛拠点として敵の調査しないといけなくてね。私、クロムでは一応、軍人扱いになってるから」

「だからって、何も戦えないが行く事ないだろ。そうだ、お前と同じ境遇の一番目の兄はいかないのか」

「お父様は、一番目のお兄ちゃん……、兄様は、大事な跡取りだから、そんな危ない目にあわせられないって。兄様は、お父様について、従うだけ。兄様も科学者でね、お父様の学を継いで色々兵器開発してる。私も兄様と同じ、そっちの道行きたかったんだけど、お父様と兄様からお前はどうにかして王族の男を捕まえろ、それがクロムのためになる、そればかり言われて、断念した」

「……」

 はあ。の何か諦めた溜息は、丹恒にも聞こえた。

 は学べば才女になるというのは、丹恒から見ても分かっていた。彼女は共感覚ビーコンの時もそうだったが、宇宙科学について説明すれば、その理解力が早い。

 しかしの世界では、女は学べず、男の言いなりに動くだけだった。

「……(これだから、宇宙科学も知らない文明レベルの低い世界は嫌いなんだ)」

 丹恒は思うが、の前では黙っていた。

 その間にもの話は続いている。

「お父様が私にロイをつけたのも、それがあったから。ロイは、防衛拠点として調査隊に入ってる私を守る盾だった。盾といっても、防衛じゃなくて、暴走してるだけなんだけどねー」

「暴走って、盾の意味、本来と違うのか?」

「そう。ロイは、味方も敵も関係なく、私に向かってくる人間に対してその力を振るうだけなんだよ」

「それは……」

「ロイは、味方であっても、私に何かすれば容赦しなかった。前のクロムであった戦争でも、私の体目当てに私に乱暴してきた味方の兵士をあっさり殺しちゃった。ロイの周りは、死体の山しか残らない。ロイが一番の防御壁って意味」

「……」

「戦場だけじゃなく、街でも私がロイと一緒だと、誰も近付かないんだよね。私の支持者の皆……、居酒屋の店長達もそれ知ってるから、ロイを恐れて、私の護衛につけるのはロイしかいないって話してたのよ」

「はあ、そういうわけで、ロイとセットで最強の盾か……」

 丹恒はその意味を理解して、参ったよう、夜空を見詰める事しか出来なかったという。