は構わず、話を続ける。
「それで、それの調査隊に入ってるといっても私は、安全な場所からロイの指示するだけで良かった。今回も未知なる敵の襲撃ってところで私も安全な場所からロイの指示するだけで良かったんだけど、予想外の事が起きてね」
「……、レギオンが思った以上に強くてロイがやられたのか」
「うん。レギオンの兵器、何あれ、光の線が出てそれで攻撃って、有り得ないでしょ。ロイの手持ちの兵器は全部無効化されて、ロイと一緒に来てた隊もあっさり全滅、撤退するにも撤退できず、私が戦場までロイを助けに行った。……ウォルターだけは、ロイは自分達が引き受けるから城で大人しくしておけって言われたんだけど」
「国王が正解だろ、それ。戦えないくせにレギオンの巣に飛び込む奴がいるか!」
「そう、怒鳴らないで。ロイは、私の言葉じゃないと動かない、動けなくなるから。王国軍の兵士達だけじゃロイを連れて来るの無理そうだった。あの時、私、あそこでロイを失うのが怖かったんだよ。
私はロイのおかげでこの城に居られるのが分かってる。ロイがやられたら私、この城に不必要だって追い出される……」
「……」
の震えが、丹恒にも伝わる。
「それで仕方なく私も数人の兵士を連れて、ロイを助けに行った。で、そこで私が見たものといえば複数の兵士の死体の山と、その上で武器を構えるロイの姿だった。反レギオン軍の群れに取り囲まれてもロイはまだ息あったけど、血まみれで、立ってるのがやっと、あと一撃で死ぬ寸前だった」
「……」
「私も、私についてきてくれた兵士達もあまりの惨劇に動けなくなって、その隙にレギオンにやられちゃった。ああ、私もロイもここで死ぬならいいかって、諦めたんだけど……」
「……国王が瀕死のお前とロイを助けたのか?」
「……」
「」
丹恒はに話をうながすが、は少し考えた後にやがてそれを口にした。
「……ねえ、あなた以外に宇宙からこの星に来た人間、居る?」
「え?」
「あなた、宇宙に漂う星穹列車からこの星まで来たんだよね。それで、あなた以外の星穹列車の仲間、この世界のどこかに潜んでるとかあったりする?」
「それは……」
その可能性は、あるのかどうか。
この星の航路にあるのは現在、星穹列車だけと聞いている。
当時の星穹列車の乗組員といえば姫子、ヴェルトの二人だけだった。因みに三月なのかがヴェルトの手で氷漬けで発見されるのは、これよりも後の話である。
近場にヘルタ・ステーションはあるにはあるが、あのヘルタが人を助けに現地にまで人材派遣をするわけがない。
そこからこの星に来る人間が居るかどうか、可能性があるとすればアスターの要請を受けて現地に人材を派遣できるスターピースカンパニーの調査団か、あるいは――。
「……、俺の知り合いのカンパニーの社員なら、俺の前にこの星に調査に来ているかもしれない。俺がこの星に星核があるかもしれないとその調査に来たのも、その調査結果を聞いてからだった」
「そう。それじゃ、私とロイ、そのカンパニーの社員さんに運良く助けられたかもしれない」
「どういうわけだ?」
「ウォルターによれば私とロイ、その場で一日以上気を失ってたみたいで、ウォルターも私とロイを諦めたんだけど、どういうわけか、朝になって、城の入り口で私とロイが倒れてたのを発見したんですって。あそこの海岸から城までけっこう距離あるのに、もうあと少しで途絶えるって感じだったのに、適切に治療された状態で城の前で倒れてたって。ウォルターはすぐに医者呼んで、私とロイを助けてくれたの」
「それで助かったの、とロイだけだったのか?」
「そうみたい。あともう一つ、あなたに話しておきたい事があった。これ、見て」
が丹恒に見せたのは、古代エンジンと古代ネジだった。
丹恒はそのアイテムは、の世界にはないものであると、理解する。
「それ、古代エンジンと古代ネジじゃないか。お前の世界にはそんなもの、なかったはずじゃあ」
「あ、やっぱ知ってるんだ。あの後、レギオンが出没した所でこれが何個か手に入ってね、それ集めて対レギオンの兵器、お父様が作ったんだよ」
「は?」
丹恒はの言う事が理解できず、間抜けな顔をさらけ出した。
「レギオンが出没した所で拾ったって、確かにこれはレギオンから拾えるものだが、お前とロイを瀕死に追いやった反レギオン軍の群れ、そこから撤退したわけじゃなく?」
「私とロイが城に保護された後、ほかの国がレギオンにやられたとか、それ以外の襲撃の報告なくて何も感じなかったから再び海岸まで調査に行ってみれば、反レギオン軍の兵士達が全部、何かの強力な力で壊された跡があった。私とロイはその残骸を集めて、お父様に提供したの。お父様はそれ見て興奮した様子で、兄様を呼びつけ、この未知なる素材を利用すれば、また現れるかもしれないレギオンの兵器が作れるかもしれないって言ってクロムに引きこもって一か月、とうとう完成したらしくて、現在、ロイと彼についてる兵士達がそれ使ってさっきのデータにあった鳥とかケモノ型とかいった、低級ばかり出没するレギオン撃退してる」
「はあ、俺の知らない所でそんな事が……」
「あれ、その話、ウォルターから聞かなかったの? それ以来、私のお父様は対レギオン軍用の兵器開発に没頭して、私とロイをやった人型のボスクラスのレギオンが現れるのはある一定の距離と時間が必要、それ以外の敵は出没しても低級だから今までの手持ちの武器でなんとかなるって所まで突き止めた。それだから、私とロイを襲撃したその人型のボスクラスのレギオンが現れない限り、しばらく大丈夫そうだって話したのよ」
「いや、俺はそんな話、国王から一つも聞いてない」
その話は丹恒は、国王から聞いていなかった。
は反対に丹恒に聞いた。
「一回現れた反レギオン軍を見事なまでに粉砕してやっつけてくれたの、あなたの仕業じゃないかと思ったんだけど。違うの?」
「それは、俺じゃない。別の誰かの――俺と同じ宇宙から来た奴の仕業だ。は自分とロイを助けてくれた奴とはそれ以来、接触していないのか?」
「多分。私とロイは、その時に助けてくれた人と、あなたくらいしか、宇宙から来た知り合い、いないわ。それ以来、あなた以外の宇宙から来た人間とは、接触していないのも断言できる。そうでも、国王陛下であるウォルターは、あなた以外の宇宙から来た人と接触してるかもしれない可能性はある」
「……なるほど。の言うようにあの国王、俺以外の宇宙から来た人間と接触してる可能性はあるな。道理で、前もって書簡で説明していたとはいえ、俺の話もあっさり信じて、星核についても色々知り過ぎてるとは思った」
――やはりあの国王、相当の食わせ物で、星核に対しても、なんらかの切り札を持っていたか。丹恒は当初から、国王は笑顔の裏で何をしているか分からない怖さを感じ取っていた。
そして。
「あ、そうそう、それからレギオンだけじゃなくて、肝心の星核の話なんだけど」
「え?」
「近々、このディアンで大きな軍事作戦あるの、ウォルターから聞いてる?」
「ああ。それは国王から聞いてる。レギオンで隙が出たせいで、周辺国がここ狙ってるって」
「うん。この第一中央国家に次いで第二大国が反レギオン軍に一瞬で滅ぼされてから、周辺がピリついてたのよ。近いうち周辺国が結集して、ディアンに総攻撃仕掛けるって情報、クロムに入って来た。此処は近々、大きな戦場になる」
「……」
何故、今、彼女は自分にその話をするのだろう。丹恒はぼんやりと、彼女の話を聞いている。
「レギオンが現れなければ、ロイと、手持ちの兵器でそれくらい撃退できるんだけど。レギオン邪魔、面倒、そういうわけでね」
「……」
「そういうわけで朝の中庭で、星核、あなたに渡すよう、ウォルターに進言しておいた。ウォルターもこうなれば仕方ないって感じで、明日にでも、あなたにその話を持ちかけるって言ってくれたわ」
「……」
丹恒はそれの意味するものは何か頭では分かっていたが、それを否定したかった。
「あなたが星核をどうにかしてくれれば、あなたと同じ宇宙から来た反レギオン軍もこの星から撤退してくれるのよね。明日はそれについて話し合いして、無事にあなたに星核が渡ればそれで、終わり。ロイも明日には戦場から、お城に戻って来てくれるって!」
「……おい、明日になればそれでロイが城に戻るという事は、俺はどうなる?」
「ああ、私の護衛、もういいわよ。ロイが戻ればあなたは自由、私の護衛の役目は終わりね」
「――」
その内容に、丹恒は。
「あなた、さっさと星核を見つけて、この宇宙科学も知らない文明レベルの低い星から脱出したいって常々話してたじゃない。良かったわね、明日にでもこの星から、さよならできるわ。私も早いとこ、私からあなたを解放してあげたかったから、良かった」
「……ッ」
残酷だ。こんな残酷な話はないと、思った。
「あ、私とロイ、ほかの皆の事は気にしないで。このお城は頑丈で、戦場になれば此処が避難先になってなんとかなるし、私のお父様と兄様の兵器、ロイがついてれば勝てる見込みあるから」
は丹恒のそれには気が付かず、いつもの調子で話を続ける。
「これであなたは、求めていた星核、やっと手に入って、その任務が終われば宇宙で待っててくれてる姫子さんやヘルタさんに会えて、星穹列車に帰れるんでしょ。おまけに、私の世話からも解放される。あなたは私達に構わず、戦争が始まるまでに此処を出た方がいい――」
「!」
限界だった。
立ち上がって手を伸ばし、彼女の腕を掴んで同じように立たせ、強引に自分のもとへと引き寄せ、抱き締める。
強く、簡単にそこから離れないように。
丹恒の暴挙には驚き、戸惑う。
「ち、ちょっと何するの、離して!」
「嫌だ、離さない」
「は、はあ、何言ってるの、私が誰だか分かってる?」
「この国の、第二王妃様だろ」
「そ、それ分かってるなら、今すぐ離しなさいよ。この塔は人が来ないけど、私の悲鳴を聞けば誰か来るでしょう。離さないと城の兵士呼ぶわよ!」
は丹恒の腕の中でもがくが、もがけばもがくほど逃げられない。
そして。
「――好きだ」
「!」
突然のその言葉に、の動きが止まる。
丹恒は構わず、その言葉を吐き出す。
「俺は、お前の事が好きだ」
「す、好きって、い、いきなり、何、どうしたの、あ、そ、そうだ、お酒でも飲んだの? さっきからおかしいの、お酒飲んでるせいじゃない? も、もう遅いから、此処から出て部屋でゆっくり休んだらどう?」
「俺は酒飲んでない、素面だ。、返事は?」
「へ、返事って、何、何の返事?」
「だから、が俺の事をどう思ってるか、俺の今の告白を受け入れてくれるかどうかの、返事」
「な、何で私がその返事しなくちゃいけないの。ばかじゃないの。あなたと私は、護衛とその雇い主。それ以上も以下もないわ」
「俺はに、それ以上の感情持ってるんだが。……もう、しか見えていないほどに」
「……ッ」
丹恒はの顔に細い手を這わせ、彼女の耳元で甘くささやく。
はそれだけで顔が真っ赤になって何も言えなくなって、震えるだけしかできない。
「、返事しないなら、俺の好きな風に取るが。いいか」
「す、好きな風ってどういう――、んっ」
それ以上何も言えず、触れるだけの軽い口づけ、だった。
それだけで、の顔が更に真っ赤に染まった。
「な、何して、何したの、今、何したの!」
「何したのって、キスした。第二王妃様は、キスも知らないのか?」
「そ、それくらい知ってるわよ! 私が第二王妃だと分かってしたのかって、聞いてるの!」
「ああ。第二王妃だって分かったうえで、にキスした」
「な、何で、そんな事、したの」
「俺がの事が好きだから、した。それ以外に理由、あるか?」
「いや、あるか、と、言われても……」
「俺はちゃんとに自分の気持ち、伝えたぞ。がその返事しないから、それじゃ俺の好きな風に使っていいのかと思って、キスしただけだ」
「な、何で、返事しないだけでそうなるの! そ、それに、あなたと私は、護衛とその雇い主、それ以上も以下もないという返事、したじゃない!」
「俺はに、それ以上の感情持ってる。それだからとキスしたい、いいか」
「い、いいかって、何返事してもそれなら意味ない――ん、んぅ……」
壁に背中を打ち付けられて、今度は一回だけでは終わらず、二回、三回、繰り返し、繰り返し。
「ん、ん……」
は、されていくうちに力が抜けて、抵抗力を失う。
落ちる、落ちていく。
ずるずると――。
気が付けばはどういうわけか、石レンガの床に背中を押し付けられていた。
「……」
「んっ」
は慌てて、そのままの勢いで自分の首筋に舌を這わせてきた丹恒を止める。
「ち、ちょっと待って、何で私が下になって、あなたが私に乗って来てるの!」
「そりゃ、俺がとヤりたいからに決まってるからだが。ヤらせて」
「は、はあ、ばかな事言わないで、誰がそんなの了解すると思ってるの」
「え、さっきまでも俺とのキスにノリノリだったじゃないか。それで了解したものとばかり。それにお前、男とこういう事するの、慣れてるって自慢してたじゃないか。俺だけ、のけ者にする気か?」
「わ、私はあなたのキスでノッてなんかないし、そのつもりで応じたわけじゃない。そ、それに、男の扱い慣れてるといっても、ウォルターと結婚してからはその手の誘いは、全部、断ってるから! そこ、どいて。どかないと、悲鳴上げて、人を呼ぶわよ!」
「……」
丹恒はから仕方なく、離れた。
はそこから起き上がり、丹恒を睨みつけて聞いた。
「もう。さっきも言ったけど私が誰だか分かってる?」
「この国――ディアン国の、第二王妃様だろ」
「わ、分かってるなら、今すぐ私を諦めて。そうしないとこの世界では――この国では、第二王妃である私への暴行が分かればどんな人間でも、首斬りよ!」
「俺は、この国の人間じゃないし、この世界の人間でもない。それは適用されない」
「うわ、何それ、ずるくない?」
「そうでも、俺の首を斬れる人間、この国に居ると思うか」
「それは……」
「俺を捕まえて俺の首を斬るなんてのはこの国の人間はもちろん、国王でも、無理な話だ。それに俺は、それくらいでを諦める気ないから。俺がを好きなのは変わらない」
「……何で急に、私に手を出したの? 今まで、我関せずだったくせに」
「が俺に相談なく国王に俺に星核を渡すようにした、それでもう明日には俺とさよならって、簡単に話したせいだ。簡単にそう話した見て、我慢できなくなった。がそれで簡単に俺とさよならするつもりなら、俺もその前にが欲しいと思った。……それだけだ」
「……私、人妻なんですけど」
「それくらい、知ってる」
「この不貞行為がバレたら、私も首斬りなんですけど。あなたと違って私、そこから逃げられない」
「そうなれば、俺がをそこから連れ去ればいいだけの話じゃないか。俺と一緒に宇宙まで逃避行すれば、誰もを捕まえられない」
「……本気で言ってる? 言っておくけど私、そんなので騙されるような、軽い女じゃないわよ」
「こんなの本気以外で言えないし、をそこまで軽い女とは思ってない。それというのもお前、俺の宇宙科学の話に十分、ついていけてるじゃないか。国王ものそういうとこは、ちゃんと見て、お前の相手してると思う」
「……何で、私なんかに惚れたの? 第二王妃で人妻、おまけに清純派な見た目と違って酒飲みで大食らいっていう裏の顔持ってる厄介な私に」
丹恒はを前にして、それを吐き出す覚悟を決める。
「俺は最初、が俺の前で堂々とこの国の年の離れた国王の子供産むのが自分の仕事だって言いきった時、ここまでの女、自分の知ってる宇宙にも存在しない、面白い、そう思った。それからに興味持って、お前の事をもっと知りたいと思った」
「……」
「それ以外、仕事の時じゃなく、紫陽花通りの時はもちろん、夜の中庭で個人的な時間でに会って、の顔見て、の声での話を聞くのが面白かったんだ。それから、の裏の顔を知っても面白いと思ったし、そのといつまでも付き合いたいと思った」
「……」
「この宇宙科学を知らない文明レベルの低い世界でも、のような女と出会えたのは本当、運が良い」
「……」
「星核一つで、を手放したくない、明日、それでと別れるのが決まってるなら、なおさら、をモノにしたいと思った。……今、国王なんかどうでもいいと思ってる」
「……」
丹恒はここでもう一度の腕を取り、彼女を抱き締める。
「、別れる前に俺を受け入れてくれないか。……これが最後だ、が欲しい」
「……」
丹恒はの耳元で、再度、ささやく。
丹恒の想いを聞いて、は。
「そこまで言うなら、仕方ない……」
「?」
「私は――」
は丹恒と向き合うと彼に向けて、はっきりと言った。
「――私は、・ディアン、この体も心も、このディアン国の国王陛下――ウォルター・ディアンのものに変わりない」
「……」
月を背にそう言い切ったを見て丹恒は、これほど美しいものがあるかと、息を飲んだ。
そして。
「あなたがそれ理解してるなら――、私に男がついてると分かってるうえでなら、今夜だけ、一回だけ、あなたの相手してあげてもいい。どうする?」
「――」
の出した挑戦を聞いて、今度は丹恒の動きが止まった。
「何、私がこの国の王、ウォルターのものだって理解した途端、怖気付いたの? それならそれでいい、これで諦めついたなら今夜はもう終わり――って、何、それが今の返事?」
は再び自分を抱き締めてきた丹恒に向けて、聞いた。
丹恒はにうなずき、言った。
「ああ、、それは最高の返事だ。今のでを諦めたくない、更に国王に負けたくないという闘争心に火がついた」
「……」
「俺はが国王――、ウォルター・ディアンのものだと理解している。それのうえで俺の相手してくれ、頼む」
「……そこまで言うなら、ウォルターより満足させてくれるんでしょうね」
「上等。一晩じゃ忘れられない相手になってやる、覚悟しとけ」
「――」
の顔に自分の手をあてがい意地悪く笑う丹恒と、その丹恒を振り払えずにそれに観念して目を閉じると。
再びが目を開ければ、塔の上から月が見えた。
その月は、自分を笑っているような気がした。
――これは、あと数時間で、の世界が終わるまでの話である。