あれは確か、開拓者と『なのか』が現れる一年前――丹恒の手でがステーションに来てから一か月ほどが経った頃の話だ。
は一人、ヘルタに呼び出しを受けた。
『。アンタ、宇宙――ステーションの暮らしはどう? だいぶん、慣れた?』
『はい。ステーションに来た当時は色々不安でしたけど、丹恒だけじゃなくて、姫子、ヴェルトさん、アスターの助けもあってだいぶん、慣れました』
この時のは、丹恒からヘルタがヘルタ・ステーションの創始者であると聞いて、一応、彼女に対しては尊敬し、敬意を払って接していた。
ヘルタはそんなに微笑み、話を続ける。
『そう、それは良かった。それで提案なんだけど、、アンタ、此処を出て外の世界――自分の故郷以外の星で自由に暮らしてみたくはない?』
『はい?』
は最初、ヘルタが何を話しているのか理解できずにいた。
『私達の宇宙科学に関して何も知識も無い未開拓の地から丹恒の手で突発的に宇宙に来たは一度、私のステーションを統括しているスターピースカンパニーの再教育を受ける必要があるのよ』
『ヘルタ・ステーションを統括しているスターピースカンパニーの再教育? どういうわけですか』
『未開拓の地から丹恒の手でこのステーションに来て、アスターの診断で温明徳の応物課に属したは、アンタの倉庫に届く品はもちろん、ショップの温世斉の仕入れ先がそのスターピースカンパニーからのものだと聞いてるでしょう。それだけじゃなくて、アスターがステーションに人材派遣や設備補充している先もカンパニーだし、私のこのステーションを支援してくれる先もカンパニーだったりするわけ』
『はい、それもこの宇宙……、星穹列車やステーションに来てから、色々な所でスターピースカンパニーの名前は聞いてます。
ステーションではショップの温世斉だけではなくて、私の倉庫に届く品もそうで、アスター所長の備品の仕入れ先だったりというのも知ってます。あと、そのショップの温世斉から聞いた話なんですけど、温世斉含めて、このステーションのスタッフの大半がカンパニーから派遣された優秀な社員の一人だって自慢してましたけど……』
『そう。私のステーションのスタッフの大半は、そのスターピースカンパニーに在籍し、そこで色々な資格を習得、そこからの選抜試験を受けたうえで採用された、優秀な人間が集まってきてるのよ。でもは彼らと違ってカンパニーの社員ではないし、無能力なうえに無資格だけど、一応、アスターの知り合いの幹部の大事な一人娘という設定で入ってきたと彼らに説明している。その方が努力の末に此処まで来たほかのスタッフ達の間で疎まれずにすむと思っての配慮よ』
『……』
ヘルタは何が言いたいのか。は、ヘルタの言いたい事がこの時点ではよく分からなかった。
『星核の影響で反レギオン軍に目を付けられた星の住人はそのまま壊滅の時を待つか、丹恒のよう、カンパニーか私のステーションから派遣された救助隊を待つ必要がある。ここまでは、理解している?』
『はい、それはもう、丹恒や姫子からの説明で、理解しています』
『の場合は私が派遣した丹恒という救済者の手で、なんとか星核の爆発と反レギオン軍の蹂躙による星の壊滅は防げた。
その後、私達の手で――ステーションだけではなく、それこそ、スターピースカンパニーの技術を使い、彼らの現地人の記憶――丹恒や星核、レギオンに関する記憶を完全というわけではないけど、消させてもらった。彼らは反レギオン軍とその隙に反乱を起こした裏切り者達によって蹂躙された干からびた土地で数年は苦しむかもだけど、新しい土台でなんとか生き延びる術(すべ)を、私達で与えたわ。それも丹恒や姫子から聞いてるわよね?』
『はい、それも、丹恒や姫子から聞いてますけど……』
は丹恒の手で宇宙に来てから、自分の故郷がレギオンだけではなく、自身の家族の裏切りによって人間同士の醜い争いからなんとか生き延びた故郷の人間達は、ヘルタとスターピースカンパニーの派遣社員達によってその時の記憶を消され、その干からびた土地でなんとか生き延びていると聞いた。
その話を星穹列車で丹恒や姫子、ヴェルトから聞いた時、は悔しかった。
自分の家族の裏切り者のせいではあるものの、故郷を星核一つで外の世界の住人にいいように扱われて、いいように終わらせたのは、誰の仕業か。外からの侵略者達のせいで広大な海、鳥や動物が暮らす豊かな山、時間で切り替わる空の色――、あの自然で美しかった世界はもう、目の前に存在しないのだという現実を、突き付けられた。
『……、アンタの故郷がそうなったのは、私達が扱う宇宙科学も知らないカンパニー管轄外の未開拓の世界だったせいもあるの。まだ私達の宇宙科学を取り入れてるような世界であるなら、私達も技術提供を惜しまず、復興に力を貸したわ。
でもそれ以外の場合、アンタの故郷の星だけじゃなく、その周辺、達と同じような歴史を辿っている、宇宙科学も知らない文明レベルの低い星の世界の歴史が狂う可能性もあるから、私達の宇宙に関する記憶を消したうえで、なんとか現地の人間だけの力で頑張ってもらう必要があったのよ』
ヘルタはを前にして、ハッキリと言う。
『それが宇宙を統べる巨大組織、スターピースカンパニーの規約の一つで、宇宙の法則の一つでもある』
『……』
『それで』
それで?
『それで、丹恒のせいでまだ私達の宇宙の記憶が残っているは、いつまでも私のステーションに置いておけなくなったの』
『何で、丹恒の手で宇宙に来た私をヘルタ・ステーションに置いておけないんですか?』
『さっきも話したけど私のステーションの人間は、統括しているカンパニーの規定により、ある程度の資格を持ってるのが必須条件になってて、それがある種のステータスにもなってる。でもは宇宙科学も知らない未開拓の住人で何の資格も持っていないうえに、無能力だったのがいけない。そのが丹恒一人だけの力で宇宙に来た事がスターピースカンパニーの七人取締役会――上層部達の間でバレてね、アンタの事が議題に取り上げられてしまったの』
『……』
『ある役員はほど無能力な人間は規定通りに現地の住人達と同じく記憶を消して現地に戻せばいい、ある役員はそれでは彼女が可哀想、私達の教育を受けさせて新しい開拓を示すのも重要――こんな意見が出た』
『可哀想……』
ギリ、と。の歯を噛む音がヘルタにも聞こえたが、ヘルタは聞こえない振りをして続ける。
『が未開拓の文明レベルの低い星の住人でも丹恒や姫子のよう、なんらかの能力持ちであるなら重宝されて、カンパニーでも可愛がられるんだけどさ、無能力で無資格のアンタは、カンパニーの役員達から疎まれる存在であるには変わりないのよ。
ついでに補足で言わせてもらえれば、姫子、そして、私とアスターの恩情で幹部の一人娘という事でアンタをこのステーションに置いてるけど、それが誰かの手で暴露されてしまえば――それこそカンパニーの役員達の手で明るみに出れば、ステーションでもスタッフ達からの反発を食らう、そうなれば私もアスターも庇いきれない、アンタの居場所はないと思ってね』
『そんなの、私はどうすれば……』
『そうでも私はの環境には同情するし、此処までアンタを連れて来た丹恒の気持ちも汲めば、強制的に記憶を消して故郷に返す、そこまで非情にはなれない。私は、、アンタはカンパニーの再教育を受ける機会を得られるなら、再教育を受けた方がいいと思ってる』
『あの。カンパニーの再教育って、私が今まで受けてきた教育と違うんですか』
はこの時、自分も一応、王族出身で父親も科学者であるため、その世界では最高峰と言われる教育は受けてきた自信はあったのだけれど。
ヘルタは容赦しなかった。
『そうね。が今まで受けてきた時代錯誤な古代教育と、宇宙科学を扱うカンパニーの最新教育は千年の差があるのは変わりないわ。それにアンタがついていけるかどうかは、私でも分からない。カンパニーの再教育を受けるなら、彼らのいいように扱われる洗脳を受けるか、私のように体ごと改造するか、そういった覚悟を持たなければいけない』
『……ッ』
はヘルタの脅しではないその話を聞いて、身を震わせる。
そしてヘルタは、に二択を突き付ける。
『、そういうわけでアンタ、私達の宇宙に関する記憶を消したうえで故郷に戻るか、ステーションを出て別の星でスターピースカンパニーの幹部達が選んだ再教育を受けるか、どちらがいいか選んで』
それでも。
選んでいいといってもまだ時間ある、丹恒とじっくり話し合った末でもいいし、一人で考えて一人で出て行くのもいいわ。ヘルタはに猶予を与えたうえで、この話を持ち掛けたのである。
は不安そうな目で、ヘルタに聞いた。
『あの、もし、どちらも選ばなかった場合――、記憶を消されて故郷に戻る事も、カンパニーの再教育を受けるのも選ばなかった私は、どうなるんですか』
『その場合、はスターピースカンパニーにとって不要な人材であると判断され、記憶を消されたうえで故郷に返されるのはまだいい方、まだごねるようであればヘルタ・ステーションを問答無用で追放されるのが決定し、カンパニーの特殊部隊に秘密裡に強制連行、どこの世界に放り込まれるか分からない恐ろしい目にあう、とだけ。私が聞いた話だと、カンパニーに逆らった人間の末路は、とても口にできないものらしいわ』
『……』
『スターピースカンパニー内で、アンタは、宇宙科学に関して無知なうえに何の力も持たない無能力なため、自身の行動一つで周囲の世界の歴史が変わってしまう、危険人物扱い――異端児扱いされてるの。それだけは、覚えておいて』
『……』
後で分かったがヘルタは、スターピースカンパニーにはステーションだけではなく、天才クラブとしても色々投資してもらってるので、彼らに強く物が言えない立場のようだった。
が星穹列車でヘルタにされた話を伝えれば姫子、ヴェルトからも『ヘルタの話は本当だ』と否定されず、
『は、ここまでくれば故郷に帰らず、ステーションを出て、スターピースカンパニーに従って再教育を受ける道を選んだ方がいい。彼らは本当に、カンパニー、及び、ヘルタのステーションに相応しくないと判断された無能力で無資格のをそこから追い出すため、強制的にどこの世界に連れていくか分からない怖さがある』
と、口を揃えて言われてしまった。
それでも丹恒はある疑問を持って、反対にに聞いた。
『……待て、カンパニー内で無能力で無資格、周辺で歴史改変の恐れがあるため、異端児扱いされてるがステーションを出てカンパニーの再教育を受けるはいいが、俺との関係はどうなる?』
『え、どういうわけ?』
『いや。今までは俺は星穹列車の資料室を根城にして、はヘルタのステーションに残っている。ここまではいい。星穹列車の停泊地はだいたい、ヘルタ・ステーションだからな。星穹列車は何処に飛ぼうが、最終的にはヘルタ・ステーションに戻ってこられる手配になってる。ほら、ステーションにあるテレポートシステム、あれと、この列車内部が繋がってるの、も知ってるだろ』
『うん。この宇宙に来てから驚いたのは、そのテレポートシステムよね。でもあれ、どこでも設置可能というわけじゃないんでしょ?』
『そうだな。テレポートシステムは、それこそ、カンパニーの技術の一つで、そこで使用していいかどうかの、申請を通さないといけない。姫子さんの星穹列車は、スターピースカンパニーはもちろん、ヘルタのステーションと永久契約しているので、そこを中継地点にして、どこでも飛んでいける仕組みなんだ。
それで俺も今までは列車とステーションの間で繋がってるテレポートを使えば簡単に時間を短縮出来て、ステーションに残ってるに気軽に会えてた。しかし、がステーションを出ればそのテレポートも使えなくなり、俺といつ会えるか分からない問題が出てくる』
『あっ……』
もその最悪な事態に気が付き、青ざめる。
はここで、思いついた考えを丹恒に話した。
『ね、ねえ、ステーションじゃなくてもほかの星で、今までのよう、お互いに居場所と時間を教え合っていい時に会うというのは、出来ないの?』
『星穹列車の行先は、車掌のパムか姫子さんか、それこそ、星核を集めるヘルタの気分次第で決まる。ただの雇われ護衛の俺にその決定権はない。それでもの言うよう、時間と場所が分かればお互いに会う事は可能だろうが、その目的地がステーション以外のほかの星で更にテレポートが無ければ、俺がの所に行けるまで何日――いや、何か月かかるか分からない。それで今までのようにはいかず、気軽に会える回数が少なくなるのは確かだ』
『そんな……』
『、カンパニーの再教育を受けるにしてもその件について、ヘルタに聞いてくれないか。が一人で聞けないというなら、その話し合い、俺も参加するが……』
『大丈夫、一人でヘルタに聞けるわ。私、こういう権力者との交渉の席は得意なの。それ、丹恒も良く知ってるでしょ』
『……そうだな。でもヘルタとの間で何かあれば、俺を遠慮なく使えよ』
『ありがとう。またヘルタの所に行ってくる』
『……』
は丹恒にしっかりうなずき、自分に任せて欲しいと胸を張り、意気揚々とヘルタと話し合いの場を設けたのだった。
はヘルタと交渉の余地があるなら、交渉する材料を持ってヘルタに挑む――つもりだった。
しかし。
ヘルタはから丹恒のその話を聞いて、それは本当であると前置きしたうえで、話した。
『ああ、先日の話で言い忘れてたけど、がステーションを出てスターピースカンパニーの再教育を受けるとなればアンタは、カンパニーが運営する学園に入学してもらって、そこで全寮制の寮に入居しなければいけないのよ。そこはカンパニーの教育内容を外部に漏らさないようにするための措置がなされてる、閉鎖空間でね。
そこで外部と遮断された閉鎖空間では、ナナシビトとして開拓の旅を続ける丹恒と連絡を取り合う余裕はないわよ』
『え。再教育でカンパニーが運営する学園に入学するまではいいですけど、そこ行けば全寮制の寮に入らなければいけなくて、そこはその教育内容を外に漏らさないために外部と遮断された閉鎖空間で、開拓の旅を続ける丹恒と連絡取り合う余裕ないっていうのは……』
『ええ。私達と――ステーションのⅡ階級の通常スタッフの間で、千年遅れてるがスターピースカンパニーに認められる資格を得るのは、生半可なものではないと思ってね。
カンパニーが考える再教育というのはね、カンパニーが運営する学園を最低でも二年かけて宇宙科学に関する知識を得てそこを卒業した後、カンパニーの入社試験の資格を得られるの。そこ卒業してカンパニーに入社できた後は社員としてカンパニーに貢献している資格が必要になり、そこからステーションに入るための選抜試験を受けるのに更に数年かかるのよ。
そんな中では、開拓の旅を続ける丹恒とは今みたいにステーションで良いときに会える余裕なんてなくて、すれ違いが続いて、結局、彼とは疎遠になってしまうわ』
『ええと、私が再教育を受けるとなればカンパニーが運営する学園を二年かけて卒業、それで社員としてカンパニーに入社できてもそこで貢献したという資格を得るのに数年、そこからステーションに入るための選抜試験を受けるのに数年……て、私が再びⅡ階級スタッフとしてヘルタ・ステーションに戻れるまで何年かかるの?
私がカンパニーの再教育受けている間、開拓の旅を続ける丹恒とすれ違いが続くにしても、何年か後にステーションで再会できるのであればなんとか……』
『そうね。私達より千年も遅れているの学力では、ステーションのⅡ階級スタッフとして戻って来られるのに単純計算で早くて五年くらい、順当にいけば八年くらいかかるかしら』
カンパニーの再教育を受けてステーションのⅡ階級スタッフに戻れるのに早くて五年か、八年?! は思わず席を立ち、猫かぶりはやめて、ヘルタに詰め寄る。
『カンパニーのいう学園で再教育を受けてカンパニーの社員になれても、Ⅱ階級スタッフとしてステーションに戻って来られるまで、最低でも五年?! そ、それじゃ、今までステーションで気軽に会えてた丹恒との関係、どうなるの?』
『そうそう、それも言い忘れてたけど。、これを機に、丹恒を解放してくれないかしら』
『え、これを機に丹恒を解放って、何言って……』
はヘルタが自分だけではなく丹恒についても言及してくるとは思わず、戸惑いを隠せなかった。
ヘルタはを前にしてハッキリと言った。
『。丹恒はね、ナナシビトだけど、無能力で無資格なと違って、レギオンに対抗できる力を持った、星神に愛された子よ。彼は、姫子の星穹列車だけではなく、私の星核集めにも欠かせない存在なの。アンタも故郷の現地でその目で丹恒のレギオンに対抗できる力を目にしてるはずだからそれ、分かるでしょ?』
『……』
は現地で――故郷で、丹恒の力を目にしている。
彼が自分の国――クロムを取り囲んだ反レギオン軍に向けて、槍を振るう光景を。
自分が信頼していた護衛――ロイの力をあっさり超えていくその様を。
『現実的に考えて。無能力で無資格なと、星神に愛される特別な力を持つ丹恒では、釣り合わない。むしろ、という重荷が、丹恒に負担をかけてると思うのよねえ』
『私が丹恒に負担をかけてる……』
『更に言わせてもらえれば丹恒は、姫子の星穹列車に欠かせない存在でもあるから、私が集める星核がなくてもそれに乗って宇宙の開拓の旅を続けるでしょう。
そうそう、それだけじゃなくてね、はどうしてもというのであればカンパニーの再教育を受けなくてもいいけど、自分がステーションに残って健気に丹恒を待っている間、ナナシビトとして列車で開拓の旅を続ける丹恒に新しい出会い――とは別の女が現れ、そうなった時、無能力で無資格のアンタを簡単に見捨てて新しい女にいく、その可能性、考えた事ない?』
『それは……』
は自分がステーションに残って丹恒の帰りを健気に待っているが、丹恒が姫子の列車に乗ってあちこちで開拓の旅を続けていればいずれ、自分と似たような女が現れて何の能力も持たない自分より、あっさりと別の女にいってしまう――。
は、丹恒のそれは、何回か考えた事があって、ヘルタの前でその全てを否定できなかった。
ヘルタはがそれについて言い返せないのを見抜き、更には背後である『気配』を感じて、薄っすら笑みを浮かべ、容赦せずに続ける。
『ねえ、これも丹恒との関係を見直す、いい機会じゃないかしら。アンタはカンパニーの再教育を受けながら新しい道を開拓し、丹恒はアンタと別れて開拓の旅を続ける。アンタが待っている間に丹恒に別の新しい女が出来てそれ見て傷つく前に、今のうちに別れた方が、後腐れないと思うけれど』
『私は――』
と、その時。
『――ちょっと待て!』
ばん、と、扉を開けて乱入してきたのは、今まで外でとヘルタの話を盗み聞きしていた丹恒だった。
『カンパニーの再教育に関する話のはずが、どうして俺がと別れる前提の方向にいってる。俺との関係は、カンパニーの奴らにとやかく言われる筋合いはないが』
丹恒はを思うように部屋に入り、ヘルタに訴えたてきたのである。
ヘルタは丹恒の乱入に動じず、言う。
『を思ってアンタが乱入してくるのは、私も分かってた。だから、この話をしたの』
『どういうわけだ?』
ヘルタは丹恒が来るのが分かっていたと微笑んだ後、『座ったら?』と、丹恒に席につくよう、うながした。
丹恒はヘルタに従い、の隣についた。
ヘルタはと丹恒を見比べ、真面目な顔になって続ける。
『カンパニーの上層部の間では、丹恒との関係が一番、重要視されてんのよ』
『何で、カンパニーの上層部の間で、俺との関係が一番重要視されてるんだ』
『丹恒のその、魔物だけではなくレギオンに対抗できる能力はカンパニーでも貴重であるがしかし、その能力を無資格で無能力のただの人間の娘のために使うのはどうかって』
『何だそれ。何でカンパニーごとき、俺とについて、そんな風に言われなくちゃならない』
丹恒は、ヘルタのカンパニーの評価を聞いて腕を組み、その憤りをあらわにする。
はあ。ヘルタは溜息を吐いて、参ったように話した。
『無能力のは、レギオンだけではなく、あらゆる敵に捕まりやすい。それのせいで、丹恒が身動き取れなくなって敵にやられて使い物にならなくなったらどうしてくれるのかっていうのが、カンパニー側の言い分』
『俺はを守れるならこの力を使いたいだけ使うし、それでやられたら俺のせいでのせいではない』
『アンタがそう思っても、カンパニーの連中はのせいで丹恒が使い物にならなくなったら我慢ならない、そうなる前に、いい時に別れた方が身のためって話してる。もし、丹恒がまだと関係を続けるようならステーションの投資を制限するうえに物資も半減する、更には、姫子の星穹列車の物資や備品にも制限かけるって脅しかけられた』
『はあ? 俺との関係が続けば、ステーションだけじゃなく、姫子さんの列車の物資や備品も制限かける? 嘘だろ、カンパニーのそれ、まかり通るのかよ』
『それがまかり通るのよ。この宇宙では、私のステーションや天才クラブ、それから、姫子の星穹列車も、スターピースカンパニーという、巨大組織の手のひらのうえに過ぎない』
『……』
『カンパニーの上層部の連中は、無能力で無資格のの存在が気に食わないみたいでね。そのが丹恒と付き合うのも気に入らない、アンタにはよりもっと相応しい女が居る、都合がつけば、カンパニーで用意できるアンタについていける有能な女をあてがいたい――』
『――ざけんな、俺はだけだ!』
『ひっ』
ダンッ。丹恒はヘルタの話を聞いて、その憤りをテーブルにぶつける。丹恒のそれだけで部屋全体がカタカタ揺れるのに対しては軽い悲鳴を上げるが、丹恒は構わずヘルタに詰め寄る。
『俺にあわせられる、有能な女をカンパニーで用意する? そんなの、お断りだ。俺がどんな思いで、あの星からさらってきたと思ってる。俺は以外の女は、必要ない』
『丹恒……』
は、自分の前でそうハッキリ言いきった丹恒に感動したよう、彼と腕を組む。
ヘルタはその二人を見て困ったよう、言った。
『だけど、カンパニーの奴ら、自分の気に入らない人間は、どんな手を使ってでも排除してくるわ。アンタがそれの言う事を聞かなければ列車の護衛役すら剥奪し、強制連行、どこかへ閉じ込め、それこそ、自分達の言う事を聞くよう、洗脳するかもしれない』
『俺にそこまでする権限があいつらのどこにある。俺はそんなの、俺の力で跳ね返せる』
『そうね。アンタはそれでよくても、アンタのせいで星穹列車だけではなく、その乗組員である姫子やヴェルトもどうなるか分からないわよ』
『あ……』
『カンパニーの恐ろしさは、丹恒、アンタもよく知ってるでしょ』
『……』
丹恒は、自分が姫子やヴェルトに救われた恩があるため、二人に危害を与える人間はどんなものでも追い払う気でいた。
それが、と天秤をかけるとなればどうか――。
『丹恒。アンタはいつか、姫子を守る列車の護衛でいる方を取るか、を取るか、そのどちらかの選択を迫られる。そうなった時、アンタはどっちを取るのかしらね』
『……』
丹恒は姫子の名前を出されては何も反論できず、押し黙る。
ヘルタは姫子で丹恒が大人しくなったところを見計らい、続ける。
『まあ、カンパニーもそこまで急ぐ話ではない、星核で反レギオン軍に目をつけられたの境遇にはまだ同情の余地あるって話してくれてね』
『どういうわけだ』
ヘルタは指を一本立て、丹恒に向き合う。
『今からに、一年間猶予あげるわ』
『一年? 何で、に一年の猶予をくれるんだ?』
『宇宙科学も知らない文明レベルの低い星から宇宙に出て間もないが外に出てその手の教育を受けるのは厳しいものがあるし、丹恒との付き合いもではなく丹恒の手によるものだからそれ考慮してくれないかと、私がカンパニーの上層部に訴えたところ、それなら、に一年の猶予を与えると条件を出してきたの』
ひといき。
『カンパニーの上層部の連中は私に、もし、その間にがカンパニーが納得するだけの宇宙科学に関する資格を習得しているか、あるいは――』
『あるいは? 宇宙科学習得以外に、がステーションに残れる、何かまだ条件あったのか?』
丹恒はそれは初耳だと、ヘルタに詰め寄る。
ヘルタは丹恒とを見比べ、言った。
『ええ。あるいは、丹恒がを宇宙まで連れ出した原因、それに関して、カンパニーの高級幹部達の審査を経て、それに上層部が納得すればはまだステーションに残れるかもしれないって』
『え、それって……』
は思わず、丹恒を見詰める。丹恒もまた、を見詰めていた。
『丹恒、アンタがとの関係を一年保ったうえ、それの審査が通り、カンパニーの上層部に伝わり納得すれば、がまだ私のステーションに残れる可能性があるわ。一年の間にアンタ達の気持ちが変わらないのであれば、ね』
と、最後、何か含んだ言い方をして、言ってのけた。
丹恒は、今までの話をまとめる。
『一年の間にが宇宙科学の資格を取るか、俺との関係を保てるかのどちらかがカンパニーの上層部の奴らに認められれば、異端児扱いのはこの世界から追い出される必要ないし、列車の姫子さんやヴェルトさんも今まで通りなんだよな』
『その通り。の頑張り次第で、アンタ達の未来は拓ける。、出来そう?』
ここでヘルタは丹恒から、今まで黙って聞いていたに注目する。
はうなずき、言った。
『分かった。この一年の間、スターピースカンパニーの上層部に認められるため、宇宙科学の資格か、丹恒の関係が続けられるよう、頑張る』
『丹恒はどう?』
『……了解した。それくらいなら、俺もに協力出来る』
『決まりね。その話、私からスターピースカンパニーの上層部に伝えておくわ。頑張って』
と丹恒はヘルタの話に了解し、一年間、その関係を続けられるようになった次第である。
そして、月日は流れ。
ある日、開拓者が一通の招待状をステーションの倉庫番をしているに持ってきた。
その内容は『様。あなたを仙舟、羅浮で行われる星槎レースにご招待します、日時と場所は次の通りです』と、あった。
招待状を手にしたはそれと開拓者を見比べ、改めて、聞いた。
「私、仙舟は羅浮で行われる、星槎レースのお祭りに参加できるの?」
「そう。仙舟は羅浮を統括している御空っていう女性から、私と『なの』あてに今度、仙舟の復興事業で羅浮で星槎レースのお祭りやる事になったから、参加しないかって。で、そのさい、丹恒の恋人であるもそれに参加できないかって、私と『なの』で、御空と色々交渉してたんだ。そしたら御空、自分も一度は丹恒の彼女を目にしたいと思ってたからお祭りの時期が丁度良い、ぜひ、を星槎レースに招待したいって言ってくれてね」
「そうだったの。それは、嬉しいわ」
「、仙舟まで行って、御空主催の星槎レースに参加する気ある?」
「肝心の丹恒に聞いてみないと何とも……」
「だよね。まあ、丹恒にも同じ招待状が届いてると思うから、二人で話し合って決めてよ。それじゃあ」
開拓者は言うだけ言って、に招待状を渡してその場から立ち去ったのだった。
招待状を受け取ったはさっそく、丹恒と連絡を取り合い、結果、仙舟は羅浮で行われる星槎レースに参加できる事になった次第である。
丹恒は言う。
「。御空の招待に応じて仙舟に行く気なら色々と準備する必要があるし、それの覚悟を決めなければいけない。多分、仙舟の人間は俺とのカンパニーから課せられた一年契約の話、ヘルタか、カンパニーの誰かから聞いてるだろう。当日は仙舟の人間達だけではなく、開拓者と三月にも色々話さなければいけない。できそうか?」
「……大丈夫。多分、これが私と丹恒にとっての最後の試練だと思えば、なんとかやれるわ」
「そうか。それじゃその招待状に応じると、御空に連絡入れておく。当日はどうなるか分からんが、それまで、と一緒に居るよ」
「ありがとう」
は丹恒の優しさに胸がいっぱいになり、彼にぴたりと寄り添う。丹恒もそのが愛おしく、当日まで、彼女のそばを離れなかった。
と丹恒は、この仙舟行きを決めた事で自分達の運命が変わる、その予感に浸りながら――。