これは、まだ、が丹恒の手でヘルタ・ステーションに来て間もない頃の話。
ステーション内にある女性専用のロッカー内にて。
「ねえ、そういうの、どこで買ってるの?」
は応物課の仕事終わり、ロッカーで制服を脱いで私服に着替えるその時、同じ応物課の女性スタッフが自分の見た事のないファッションを着こなしているのを目にして、思わず、声をかけてしまった。
の応物課の女性スタッフへの何でもない声かけが故郷の第二王妃としての『欲』を再度、目覚めさせ、『それ』にのめり込むとは夢にも思わなかった。
それから月日は流れ。
ヘルタ・ステーションの応物課、セーフティエリアにて。
「ふんふんふん~♪」
その日のはとても、機嫌が良かった。
「、そこに居る? 応物課の仕事終わったって、そこの温明徳隊長から聞いたけど」
「あ、開拓者。ヘルタの任務終わって帰ってきたの? お疲れー。丹恒からも連絡あったよ」
も開拓者が現れたのを知って、手を振って応じる。
「、そこで何やってんの? 随分と機嫌良いけど、同じく列車に帰ってきたばかりの丹恒とメッセージやりあってるとか?」
「違うわ。今日、月イチご褒美ショッピングの時間だからそれやってるの」
「月イチご褒美ショッピング?」
「見て、これ」
言っては得意げに開拓者に、端末の映像を見せる。
端末には、ショップのサイトが表示されてあった。
「あ、これ、カンパニーが運営してるネットショップじゃん。私もよく利用してるよー。も利用してたんだ」
「うん。今日、ステーションでは月イチの給料日でさ」
「それで、月イチご褒美? ああ、これのせいで、ほかのスタッフ達も浮足立ってたのか」
「そう。月に一回、頑張ったご褒美で、ネットショッピング楽しんでるの。宇宙に出てきて便利だと思ったのは、動かずその場で買い物できる、これよね。私の故郷じゃこんなものなかったから」
「そうなんだ。私はでも、ネットショップより、地上で現地でその現物を見たうえで買い物する方が好きだな」
「そうね。私も開拓者のよう、自由に地上に降りれれば現地で現物を見ての買い物、そっちの方がいいと思うんだけど。だけど私はもう、ヘルタ・ステーションに保護された時点で、此処から出られなくなったから、これでしか買い物できないのよ」
「ご、ごめん。じゃ星穹列車で姫子の許可が下りないと気軽に地上に降りて現地で買い物するの、もう無理だった……」
まずい、失言だった。
開拓者はは、丹恒の手で宇宙に出てヘルタ・ステーションに保護された時点でもう、ヘルタか姫子の許可がなければ地上に降りる事はできなくなったと、アスターから聞いていた。
開拓者は焦って謝るも、はそれに関して気にする風でもなかった。
「でもまあ、これはこれで便利なものに違いないから、利用できるうちは利用しないとねー。買い物は閉鎖的なステーション内で、ストレス発散にもなるから」
「分かるわ、それ。私も買い物で、ストレス発散してる」
は言いながら、慣れた手つきで指をすべらせ、買い物を楽しんでる風だった。
開拓者は何事も負けないのその明るさと強さには、自分も救われていると思った。
それから開拓者はの手慣れた指の動きを見て、彼女の買い物に興味を持つ。
「、月イチでそれで何買ってるの? ステーションでは中々手に入らない食べ物とか、お酒とか?」
「それも買ってるんだけど、一番必要なものはそれじゃなくて――え、何でこんな時に回線切れて、オフライン状態になるの!?」
「?」
うわああ。途中で回線が切れたのか繋がらなくなって青ざめると、それくらいで騒ぐに驚く開拓者と。
「くっ、この後、丹恒と配信予定もあるのに! こんな時に限って!」
「、落ち着いて」
カチャカチャ。は自分の手で端末を操作するも、回線は繋がらないようで、彼女のいら立ちが開拓者にも伝わる。
と。
「というか、丹恒と配信予定て、何配信してるの? てか、丹恒、配信チャンネル持ってたの? 私、それ、丹恒から全然聞いてないんだけど」
開拓者は、今まで一度も丹恒が配信用のチャンネルを持っているとは聞いた事がなかったし、彼が端末を掲げて配信している様子は想像つかなかったし、どうして自分に何も話してくれなかったのかとそれに対して不満を持つ。
は開拓者の丹恒に対する不満を感じたうえで、そのわけを話した。
「それね。私と丹恒だけの配信チャンネル持ってるってだけだよ。配信といっても、私と丹恒限定で完全プライベート、ほかの人はいっさい入れないようにしてあるから、開拓者に何も話してなかったんじゃないかな」
「あ、そういうわけ」
開拓者はそれなら納得と、の説明を聞いて丹恒の秘密については理解したようだった。
「でも二人限定の配信て、、丹恒とは、ビデオ通信とかはしないの?」
「ビデオ通信だと録画メインで、時差あるって聞いたから。生配信だと、任務で地上に居る丹恒とそのまま会話できるから便利なんだよ」
「へえ。は、私達と千年遅れた世界から来たせいでそういうの弱いと聞いてたけど、配信といい、ショッピングといい、ネット関係使いこなせてるんだ?」
「まあね~。これも自分の実力……と言いたいけど、実は、師匠がついてるんだよね」
「師匠?」
「でも何でこういう時に限って繋がらないの! 開拓者の方、回線繋がってる?」
「私のは全然繋がるけど」
開拓者は遠慮がちに、自分の手持ちの端末ではカンパニーのショッピングサイトが表示されているのをに見せた。
は開拓者の端末がきちんと繋がっているのを見て、本当に羨ましそうだった。
「いいなー! 何で、私と開拓者の間で差が出るの?」
「私の、に貸そうか?」
「それは、遠慮しとくわ」
開拓者はなら自分の端末を貸してもいいと善意でそれを申し出るも、は開拓者を思って遠慮したのである。
「私のせいで、開拓者のそれにへんな足跡つくの嫌だし」
「いや、ショッピングだけでそこまでへんな風にはならないと思うけど」
の言い分を聞いて開拓者は、不思議そうに首を傾げる。
開拓者のその疑問を聞いては、満面の笑みを浮かべて言った。
「開拓者って、純粋よね。そのままの開拓者でいて欲しいな」
「はい?」
開拓者は、が笑顔で何を言っているのか理解できなかった。
そして。
は何を思ったか立ち上がり、開拓者に言った。
「こういう時、頼りになるスタッフ――師匠がいるんだよ。彼に相談してくる!」
「え、師匠って、誰? 私も行くからちょっと待って!」
開拓者に告げてセーフティエリアを出ていくと、のいう師匠が気になり慌てて彼女についていく開拓者と。
が向かった先は主制御部分で、そこにいたのは。
「のいう頼りになる師匠って、ネットシステムエンジニアのレオナードだったの?」
「レオナードほど、ネットに強い人間、いないから。で、どう?」
が頼ったスタッフは、ネットシステムエンジニアと活躍する、レオナードであった。
開拓者は星核ハンター、銀狼の襲撃の件でレオナードと親しくなって実験台にもなり、彼の実力も分かっている。
レオナードはの端末を操作し、その内容を知って、呆れた様子で言った。
「、君、過激な写真また丹恒さんに送ってただろ」
「あ、それ、引っかかった感じ?」
「そう。それから、買ってたものも引っかかってる。のⅡ階級じゃ、取り扱えないって」
「えー。Ⅱ階級でそこまで制限されるの? ついてきた開拓者は何買っても制限ないって聞いたけど」
「開拓者だからこそ、だよ。開拓者は外でステーションだけではなく、カンパニーにも多大な貢献してるからね、何も実績無いⅡ階級の君と差をつけられるのは当然だ」
「むぅ。それ言われると反論できない……」
レオナードに諭されたは、残念そうに肩を落とした。
そのを見て気の毒になった開拓者は、に自分の端末を見せて言った。
「いやだから、私の貸そうか? なら、私のアカウントで好きに買っていいよ」
「遠慮しとくー」
「でも」
ぽん、と、肩に手を置かれた。見ればレオナードだった。
レオナードは笑顔で、開拓者に向けて言った。
「開拓者、に自分の端末貸さない方がいいですよ。へんな足跡ついて、カンパニーのネットショップの運営に目をつけられたら面倒ですから」
「はい?」
――、どういう使い方してんの? 開拓者はだけではなくレオナードに言われ、ますます不思議だった。
開拓者は改めて、レオナードに聞いた。
「というかレオナード、に師匠扱いされてるんだ?」
「はい。、アスター所長代理の紹介でこのステーションに来た当初、応物課の倉庫管理システムで使ってたネットが繋がらなくなった、どうしようって、応物課の課長の温明徳さんの紹介で僕の所に泣きついてきたんですよ。それが僕ととの初遭遇でしたね」
その時を思い出したのかレオナードは、笑う。
開拓者はそのレオナードを見て、思った事を口にする。
「レオナード、常々、ステーションの人間関係は表面はいい顔していても裏では何考えてるか分からないから苦手って、私相手に愚痴ってたじゃない。それでには快く手を貸してるわけ? あ、もしかして目当て? そうなら、にはもう丹恒がついてるから諦めた方が良いって忠告しておくけど」
「いや、僕は目当てで彼女に手を貸してるわけじゃないですし、には丹恒さんがついてる事くらい、僕でも知ってますよ」
「それじゃあ何で?」
「このヘルタ・ステーションに来るスタッフは、カンパニーの中でも選ばれた人間ばかりであるというのは、開拓者も知ってるでしょう。そこで階級がものをいうステーション内で、Ⅱ階級のスタッフでもネットシステムくらい分かってると思うじゃないですか」
「それは……」
「が使ってた応物課の倉庫管理システムは、その中でも簡単な部類でしてね。それだから応物課の課長である温明徳さんも、Ⅱ階級のに応物課の倉庫管理システムを任せたと思うんですけどね。僕はそのが泣きついてくるとは、夢にも思いませんでしたよ。ヘルタ、アスター所長代理の知り合いとはいえ、とんでもない人間入れたなって」
「……」
レオナードにはっきり言われた開拓者は反論できず、思わず、言葉を詰まらせる。
レオナードは知らないのだ。が丹恒の手でこの宇宙より千年遅れた世界から来ていて、宇宙科学について何も知らない人間である事を。
レオナードは気にせず、続ける。
「僕は最初、これくらいで泣きついてきたに教える必要ない、反対に関わりたくない、あっち行ってくれって思ってたんですけどね」
「ひねくれ者のレオナードらしいわ。それで何で、師匠扱いにまで?」
「ひねくれ者って。僕、そこまでひねくれてます?」
「その通りじゃないの。それ以外の表現あれば、受け付けるけど?」
「……、で、ひねくれ者の僕に向かって、なんて言ったと思います?」
「、ひねくれ者のレオナードに何て言ったの?」
「自分はアスター所長代理のコネで入ってきたのでカンパニーの正式な社員じゃない、それだからネットシステムに詳しくない、こういう時に弱ってる女の子助けないでどうするのって、どういうわけか大きい態度で言い放ったんですよ。
普通、コネで入ってきて何もできないなら遠慮深くなるか、そこから逃げ出したい気分だと思うんですけど。はそれとは全然違って、自信を持ってコネ入社だって言ってきて、更に自分の弱い立場まで利用してきたんですよ。これにはさすがの僕も度肝抜かれましたよ、はは」
「はは、それはらしいわ。もよく実力主義のレオナード相手にそう出れたねえ」
「いやあ、あの時の私、自分の手で倉庫の管理システム壊しちゃったのかと思って、それで、私を此処まで連れてきてくれたアスター、それから、付き合ってる丹恒に迷惑かけられないと思って、必死だったから」
あははー。開拓者に聞かれたもその時を思い出したのか、照れくさそうに頭をかいて笑うだけだった。
レオナードは言う。
「かくいう僕も、裏表が激しいステーションの人間関係の中で、ここまで素直にコネ入社だってぶっちゃける人間がいるのかと思って、更には自分の弱い立場まで利用するに興味持ちましてね。おまけに、アスター所長代理だけじゃなくて、あの丹恒さんとも付き合いあるって聞いて、彼女に手を貸せばその恩恵受けられるんじゃないかって下心もありまして」
「なるほど。レオナード、がカンパニーの正式な社員じゃなくて、アスターのコネで入ったって素直に話して、自分の立場も利用したのが良かったのか。おまけに助ければ、アスターと丹恒の恩恵受けられるかもって思うのは分かる」
「まあ、の素直さだけじゃなくて、の丹恒さんの思いも汲んで彼女に手を貸すようになったんですよ。そこでがステーションでナナシビトとして開拓の旅を続ける丹恒さんの帰りを待ってるって聞いて、それで。ここまで泣ける話、あります?」
「確かに」
ほろり、と。レオナードは本当に丹恒の帰りを待つの健気さに目がしらを押さえ感動しているようで、開拓者もこれには納得する話だった。
「そうだ。さっき、丹恒とで生配信やってるって聞いたけど、それもレオナードが手を貸したの?」
「はい。がその丹恒さんが旅に出ている間はメッセージだけのやり取りでなんとか凌いでるって聞いて、それなら、時差があまり生じない生配信で会話するのがいいと思いまして。それ提案すれば、だけじゃなくて丹恒さんからもよろしく頼むと言われたので……。あの丹恒さんに頼られるだけで悪い気しないですし、彼に頼られるだけで、この仕事やってて良かったなあって」
「うん。あの丹恒に頼られるのは悪い気しないってのは、とてもよく分かるよ」
開拓者は、レオナードが丹恒に頼られて悪い気しないというのは、とても納得するものだった。
「でも、それのせいでちょっとした騒動が起きたんですよ。僕もそれに責任感じて、にはちゃんと手を貸そうと思ったんです」
「ちょっとした騒動って、何? 、また何かやらかしたの?」
「と丹恒さんの二人だけの限定配信のはずが、僕の設定ミスで、全宇宙に配信されたっていう。このステーション内でも何人かのスタッフがそれ目撃して、けっこうな話題になったんです」
「うわー……」
レオナードからそれを聞いた開拓者は引いて身震いしつつ、内心では、やっぱ面白いわーと笑っていた。
は開拓者との話に乗じて、レオナードにその件について訴えてきた。
「まったく。レオナードの設定ミスのせいで、私と丹恒、ステーション内で大恥かいたんだからー。そのぶんの手当ては、ちゃんとやってもらわないとねえ」
「こっちは、と丹恒さんがあんな配信やってたなんて思わないって。でもおかげで、丹恒さん、冷たそうで近寄り難かったのがあれで思ったより親しみやすいのが分かって、ステーション内で――特に男達から人気になって良かったじゃないか。君もあれのせいで以前より、女性陣から支持率上がっただろ」
レオナードもに負けず反論するが、開拓者は二人とも別にそれに関して怒っている風ではなく、楽しんでいるように聞こえた。
「ねえ、丹恒と、それのおかげでお互い支持率上がったって、なんの配信やってたの?」
開拓者は興味本位で、ではなく、レオナードに聞いた。
レオナードは肩を竦めて、言った。
「それは、についていけば嫌でも分かりますよ。今日は給料日だけではなくて、部屋飲み配信の日ですから」
「部屋飲み配信の日?」
なんだそれ。開拓者は新しい言葉が出てきて興味を持つも、レオナードは開拓者ではなくの方を向いていた。
「。今回、開拓者が来てるって事は丹恒さんも帰ってきて、彼も部屋飲み配信に参加するんだよね」
「そのつもり。だから今夜、ネット?がらないと困るんだよー」
「了解。君にとってそれが一番重要なのは分かるから、それはやっておく。任せろ」
「ありがとー。やっぱレオナード、頼りになる」
「ネットシステムエンジニアとして、これくらいできなくちゃな」
「……(、ひねくれ者で有名なレオナードの扱いも手慣れたもんだなあ。さすがだ)」
に素直に褒められ自信を持って胸を張るレオナードと、のレオナードの扱いに感心を寄せる開拓者と。
「はい。一応、ネットは通じるようにしておいた」
「わあ、ありがとう! 後でお礼、送っておくよ」
は、レオナードの手で端末の回線が復活したと分かって、開拓者から見ても本当に嬉しそうだった。
レオナードは、そのに注意するのも忘れていなかった。
「、丹恒さんのためとはいえ、あまり過激なもの送ったり、買ったりするなよー」
「丹恒が喜ぶから、つい……」
「まったく。丹恒さんが羨ましいもんだ」
照れると、本当に丹恒が羨ましいと思うレオナードと。
「、それじゃ僕は仕事に戻るよ。開拓者、時間があればまた僕の実験に付き合ってください」
「了解ー」
レオナードとは、ここで別れた。
「、次はどこ行くの?」
「次は、密巻課のエステルさんのとこ」
「え、密巻課のエステルさん?」
仕事終わりでもまだ自分の部屋に帰らないが向かった先は、密巻課のⅣ階級で師匠クラスの重鎮である、エステルのもとだった。
「エステルさん!」
「あら、、いらっしゃい。今回は、開拓者もついてきてるんですね」
その時のエステルは仕事終わりで、コーヒー片手にくつろいでいた。
エステルは、そして、についている開拓者を認めて微笑む。
開拓者は、密巻課のⅣ階級であるエステルは、見た目は穏やかな老婆であるが中身は中々に厳しいというのを認識しているが、どこにと接点が? と、素直に疑問に思った。
エステルはそれが何でもない風に、に聞いた。
「開拓者が来ているという事は今回の配信、丹恒も参加するんですか?」
「そうなんですよぉー。で、今日に限ってネットショッピング繋がらなくて買い物もできなくて……。さっきまで、ネットエンジニアのレオナードの所まで行ってたんです」
「あらあら、それは困りましたねえ」
エステルに自分の端末画面を見せて泣きつくと、口では困ったと言うが顔は全然困ってないエステルと。
そして。
「エステルさん、今夜だけ、アカウント、貸してください!」
「いいですよ。はい、どうぞ」
「ありがとうございます! やった、エステルさんのアカウントで、お目当てのもの、買えるようになった」
はエステルに深く一礼して、さっそく、レオナードで復活したショップサイトを開き、再び、慣れた手つきで指をすべらせる。
エステルと、二人のやり取りを見ていた開拓者は、口を挟まずにはいられなかった。
「ち、ちょっと、私のアカウントは遠慮したのに、応物課じゃなくて密巻課、しかもⅣ階級で師匠クラスのエステルさんにあっさりアカウント借りられるの?! エステルさんも何でⅡ階級のにあっさりアカウント貸してるんですか!」
ヘルタ・ステーション内では、階級がものをいうのは周知の事実である。
Ⅳ階級といえば最上級クラスであり、更にエステルは師匠クラスだった。その密巻課の重鎮が別部署のⅡ階級に手を貸すものか? しかも、応物課と密巻課、応物課と防衛課のよう、個々の交流があるとは思えなかった。
とエステルは開拓者の慌てようと戸惑いを見て、顔を見合わせ、そして。
「ふふふ。開拓者、私とエステルさん、ファッション友達でもあるんだよ」
「は?」
は得意げに言った。
「エステルさん、スタッフの中では着てるものとか、化粧とか、上品で、洗練されたものばかりなんだよね」
「エステルさんのそれは、私も分かってたけど」
開拓者はそれはに言われずとも、エステルを見れば分かるものだった。
エステルは師匠クラスの老婆であるが、それを感じさせないほど若々しく、ファッショナブルだった。制服の着こなしも参考にしたいほど。
は自信を持って、開拓者に言った。
「私も宇宙のファッションや化粧に興味あって、それで、エステルさんと通じ合ったって言うか」
「そうなの?」
「、開拓者相手に肝心な所は省いたらいけませんよ?」
「うっ」
はエステルに笑顔という圧力をかけられ見詰められ、さっきの自信から一転、そこから一歩引いた。
――あれ、これ、レオナードと一緒で何か裏がありそう? 開拓者は期待を込めた目でエステルを見詰める。
エステルは開拓者の視線が分かって、冷静に応じる。
「開拓者、あなた、についてきたという事は、さっきまでエンジニアのレオナードの所にいたんですよね?」
「そうですけど」
「レオナードから、と丹恒の配信ミスの話、聞きました?」
「はい。それと、エステルさんとの間で、どういう関係が?」
開拓者は最初、ここでレオナードの名前を出してくるとは思わず、彼女に素直に聞いてしまった。
「私、それ目撃した一人なんですよ」
「え、本当に?」
「ええ。最初、同じ密巻課の若い子達がそれに気が付いて騒いでて、私もそれ目撃する事ができましてね。そこでが丹恒と一緒に配信してる中で、彼女の着ているものや身に着けているもの見て、これは、と、思いまして。私、それからⅡ階級で別の課でも、に手を貸すようになったんですよ」
「彼女の着ているものや身に着けているもの見てこれはって思ったって、その時の、今みたいにステーションの制服着てなかったんですか?」
「あら、開拓者はその時の配信の内容、やレオナードから聞いてなかったんですか?」
「全然……」
開拓者は、レオナードだけではなくも、聞いても全然答えてくれないので、いまだに配信内容は分からなかった。
開拓者は改めて、に聞いた。
「、その時、丹恒とどういう配信してたの?」
「……」
「?」
「……」
開拓者に詰め寄られるもは、中々答えられなかった。
その間。
「どうぞ」
「!」
エステルは自分の端末を操作し、その時の配信内容を開拓者に見せたのだった。
そこにあったのは、開拓者も衝撃を受けるほどのものだった――。