そして――。
約束の、夜。
「どうもー」
「こんばんわ!」
「開拓者、なのか、いらっしゃい~」
の部屋に、開拓者と『なのか』がやって来た。
部屋には一台のカメラと小型パソコンが置かれ、テーブルの上にはそれぞれが持ち寄ったお菓子、そして、自販機で買った酒やドリンクが置かれている。
部屋もいつもの白い壁と白い家具の素っ気ない内装ではなく、ベッドの上にはピンクや水色のカラフルなクッション、可愛いぬいぐるみをいくつか置いたりしてあった。
「へえ、配信日だけ部屋飾るって聞いたけど、けっこう本格的じゃん」
「カラフルな部分は、『なの』の部屋っぽいね」
の配信部屋を見て、『なのか』は感心を寄せ、開拓者も『なのか』のカラフルな部屋に負けてないと思った。
開拓者の反応を聞いては『なのか』に向けて、ある事を打ち明ける。
「それ、多分、なのかの影響受けてる」
「え、本当に?」
「うん。カラフルなクッションやぬいぐるみは、私じゃよく分からないから、配信用に部屋飾るならこういうのがいいって、丹恒が色々用意してくれたんだよ。丹恒は多分、『なのか』の部屋を参考にしたんじゃないかな?」
「そうかー。それなら、ウチ、嬉しいかも」
からその話を聞いた『なのか』は、本当に、嬉しそうだった。
なのかは、今回、が選んだ衣装にも注目する。
「ていうか、その格好、ウサギコス? めちゃカワじゃん!」
「そう? ありがとー、ぴょん」
ふふ。は今回、配信用に選んだ衣装は、ウサギのコスプレだった。ピンク系のワンピースにモコモコファーがついていて、『なのか』を前に、ウサギの跳ぶ真似をしてみる。
『なのか』は、興味深そうにのウサギコスを上から下まで観察する。
「ウサギ耳のカチューシャにウサギのしっぽ、それだけじゃなくて、髪飾り、イヤリングや腕輪もファー仕様、おまけに髪もいつもはポニーテールだったのがそれにあわてツインテールにしてるなんて、凝ってるじゃん。それも丹恒の趣味?」
「そう。丹恒が言うにはアニマル系のコスするなら、耳としっぽだけじゃなく、ほかのアイテムもつけた方がそれっぽくなるって。これ、丹恒の趣味というか、生物学者としてのこだわりみたい」
は普段はポニーテールだったが、今回は、ウサギにあわせるかのよう、ツインテールにしてあった。
「この髪型で、ウサギ完成と思う?」
「完璧! どこからどう見てもウサギ!」
は『なのか』を前に、ツインテールの片側の髪を持ち上げ、揺らしてみせた。『なのか』はの完璧なウサギコスを見て、拍手を送る。
その間、開拓者は部屋を見回し、肝心の丹恒がまだ来ていない事が不安だった。
「で、肝心の丹恒は? 今日は参加できるって聞いたけど、来てないじゃない」
「肝心の丹恒は、あそこだよ」
「あそこ? あ」
開拓者は部屋に来ても肝心の丹恒が見当たらず心配していると、からその場所を教えられた。
丹恒は、が机に置いていた小型パソコンの動画の中にあった。
開拓者と『なのか』は、小型パソコンを興味深そうに覗き込む。
「丹恒、そこに居るの?」
『俺は現在、星穹列車のバーに居る』
「うわ、しゃべった!」
『生配信でと繋いでるからな、離れていてもそれでお互い、ナマで会話できる』
「へー。けっこう凄い技術? レオナードもやるじゃん」
『俺としては、開拓者と三月がの配信に参加するとは聞いてなかった。……まさか、俺との配信ミスの話、レオナードから聞いたのか』
「いや、密巻課のエステルさんからの情報」
『うわ。よりによって、密巻課のエステルか……』
「私もエステルさんが録画してたと丹恒のイチャイチャ配信見たよ。あれ、私から見ても、衝撃的だったなぁ」
『忘れろ、今すぐ!』
「えー。私はそのイチャイチャ配信見て、そこで丹恒とお揃いカラーでエッチな衣装着てるに始終デレデレで彼女に貢ぎまくる丹恒ほど面白いものないと思ったし、それ以来、の配信用のエッチな衣装やアニマル系のコスも丹恒が選んでるって聞いて、これからは丹恒先生じゃなくて丹恒師匠と呼ぼうかと思ったくらいだから、忘れるわけないって」
『忘れろ!!』
ダンッ。丹恒のバーのテーブルを叩く音が、開拓者と『なのか』にも聞こえた。
と。
「あはは、お互い、それでファン増えたんだから結果的には良かったじゃない」
開拓者と丹恒の間に割り込んできたのは、今回の配信仲間、女性スタッフの一人である――。
『今回のの配信仲間、パメラか』
「どうもー」
パメラは小型パソコンの映像の丹恒に向けて、気軽に手を振っている。丹恒の方はパメラに特に何も言わず、彼女に対しては初対面という風でも無ければ冷たい雰囲気でもなかった。
開拓者は、パメラは一度、アスターの依頼で助けた事があるので顔見知りで、彼女の趣味もそこで知っている。
丹恒とパメラ、二人の様子を見ていた開拓者は、パメラに向けて聞いた。
「パメラ、姫子とだけじゃなくて、丹恒とも親しかったの?」
「姫子はもとからだけど、丹恒とはで親しくなったんだよ。のおかげで丹恒からも姫子情報入手できるから、色々助かってる」
「あ、そういうわけね」
そういうパメラは星穹列車の姫子と友達でありながら、陰で姫子を崇拝している姫子信者の一人であった。
姫子は列車だけではなくステーションでも友人は多いというが、丹恒やヴェルトはステーションではどうなのか、それは開拓者もいまだ知らない事だった。
パメラは言う。
「今回、の部屋飲み配信に開拓者と三月がゲストで来るかもって聞いて、ほかの子達、尻込みしちゃってね。それでステーションのスタッフでは、私だけの参加になった」
「何で、私と『なの』がゲストって分かって、ほかの女性スタッフが尻込み?」
「何でだろうね?」
はて? 開拓者と『なのか』はパメラの言い分がわからず、首を傾げる。
パメラは出されたスナック菓子に手をつけながら、言った。
「いやー、だけならまだしも、開拓者と三月じゃ、恐れ多くて、何話していいか分からないって」
「パメラは、開拓者やウチラとは話せるの?」
「私、一回、開拓者に助けられた縁があって彼女が思ったより話しやすいの分かるし、姫子とも友達だから」
「そうだった。それなら、パメラが適任かもね」
「そうみたいね」
パメラの話を聞いて『なのか』と開拓者も、それには納得した風だった。
と。
「ね、そろそろ、部屋飲み配信スタートしていい? もう時間だ」
「いいよー」
「どんな風になるか楽しみ!」
の合図で開拓者と『なのか』は指定された位置に座り、そして、とうとう。
「の部屋飲み配信、今回も始まりました!」
「イェーイ、拍手! 開拓者に三月、拍手、続けて!」
「は、はい!」
「わー」
ぱちぱち。のタイトルコール、パメラの拍手、その中で何もしなかった開拓者と『なのか』はパメラにうながされ、慌てて拍手をした。
はカメラに向かって、慣れた様子で話した。
「今回は、素敵なゲストが三名、来てくれました。ステーションのスタッフでお馴染み、パメラ!」
「どうもー」
パメラは慣れた様子で、笑顔を作り、カメラに向けて手を振っている。
「それから、初ゲスト、銀河で噂の有名人、星穹列車でナナシビトとして開拓の旅を続ける開拓者と三月なのか!」
「ど、どうも、よろしくー」
「よろしくね!」
開拓者は緊張気味に、『なのか』はいつもの明るさで応じる。
「お。開拓者と『なのか』の初登場で、いつもよりコメいっぱいきてる! 凄い!」
「本当?」
「ほら、これ。丹恒の横にコメ流れてるでしょ」
は小型パソコン、丹恒の横にどんどん流れて来るコメントを開拓者と『なのか』に見せる。
「おー。開拓者の顔は初めて見た可愛い、開拓の旅って今どんな風なの、ナナシビトの開拓の旅を知りたい、星穹列車ってどうやったら乗れるの、本当、いっぱいきてる!」
「うひひ、なのかちゃん評判通りに可愛い、付き合いたい、彼氏いるの、旅で出会いたい、友達になって、ウチにもいっぱいきてる~」
開拓者と『なのか』は、自分達に寄せられたコメントを読んで、嬉しそうだった。
そして。
「うわ、にも凄いきてるじゃん。
ちゃんのウサギコス可愛い、ちゃん相変わらず可愛い、ウサギちゃんと一緒に踊りたい、こんなエロカワイイウサギいるのか、と一緒に酒飲みたい、が食べてるものとか飲んでるものはどれも美味しそう、開拓者と三月ちゃん呼んでくれたからいつもの倍投げ銭する! いいね、いいねも、いっぱい。
て、あれ、私の方が可愛い、私の方が可愛い、私の方が可愛い……うわ、同じアカウントでヘンなコメント連続できてるけど。大丈夫なのこれ」
開拓者は最初、にくる好意的なコメントを読んでいたが、途中、へんなコメントが来て青ざめ、に報告する。
はそのコメントを読んだあと、パメラと顔を見合わせ、そして。
「それ、ヘルタだよ」
「ヘルタだねー」
「ヘ、ヘルタ? これ、このへんなコメのアカウント、ヘルタなの? というかヘルタもこれ視聴してるんだ?」
開拓者は戸惑いを隠せない。
は缶の酒を開けそれを飲みながら、言う。
「ヘルタ、私がこれの配信始めて私のアニマル系のコスが人気あるって聞いた時、それのライバル心燃やしてるらしくて。毎回、私の方が可愛いっていう同じ連続コメ寄こしてくるようになってね。それ、ヘルタ本人も認めてるから、ほっといていいよー」
「の言う通りだから、気にしない、気にしない。ヘルタもああ見えて、可愛いとこあるんだよ。あははー」
パメラも気にせず、スナック菓子を頬張る。
それから。
「あと、これ、今回もよく似合ってますよっていうのは、密巻課のエステルさんのアカウント。開拓者と『なのか』で投げ銭期待できそうねってあるのはアスター、開拓者と三月、私とパメラに飲まれて羽目外さないようにってのは温明徳課長だねー。あ、エイブラハムとほかの応物課の仲良い女性スタッフ数人からもコメきてる。みんな、ありがとー」
は、自分の配信にコメントをくれたステーションのスタッフ達に向けて、手を振る。
「はあ、、アカウントが誰のものかもうすでに把握してるんだねえ。
あ、これ、お姉さま今回も素敵ですっていうのは温世玲、ウサギコスならモコモコの代わりにアフロも利用できますぞっていうのは温世斉かな?」
「正解!」
「それ、ウチでも分かるって」
開拓者はコメントを読んでいるうちに誰のコメントが誰のアカウントか分かった気がしてそれを報告すればから拍手が送られるも、それは『なのか』でも分かるアカウントだったので、けらけら笑う。
そして。
「それより、開拓者に『なのか』、最近の旅の話、聞かせてよ。視聴者さん達もそれ、聞きたがってる。あ、話せる範囲でいいからね。お菓子も手つけていいよー」
「姫子と旅もしてるんでしょ、私はそのへん、聞きたいな」
「そうだなあ。姫子との旅ならピノコニーとかがいいかな?」
「だね。ピノコニーの旅は、ウチも面白かった!」
とパメラからそのリクエストをもらった開拓者は少し考えて、なのかと一緒に、ピノコニーでの話を出来る範囲で話して聞かせた。
「へー、ピノコニーでそんな事があったんだ。そこ行くのに大富豪しか招待されないの分かるし、夢の中でアニメキャラとかになって遊べるってのは、確かに、面白そう!」
「でもそれが悪夢の始まりだったなんてねえ。いやー、それ気が付けるなんてさすが、開拓者と三月だわ」
とパメラはここで初めて開拓者と『なのか』からピノコニーの話を聞いて、開拓者と『なのか』の活躍に感心を寄せる。
話を聞いた後に、パメラが更に開拓者と『なのか』に詰め寄る。
「ねえねえ、ほかに面白い話、ない? 旅で知り合った列車内の人間関係とか、ほかの星の人間関係とかで面白そうなのあったらぜひ! 開拓者と三月の話はステーションの記者として、ネタに丁度いいわー」
「そういやパメラ、ゴシップ系の記者だったな……。人間関係で面白いかどうか分からないけど、仙舟の人間関係はちょっと複雑だったかも?」
「お、それ、詳しく! 仙舟は、美人と評判の狐族とか、そこ独特の文化とかあるんでしょ、私もそれについて開拓者に聞きたいと思ってたんだよ」
「いいけど、仙舟関連の話はさすがに自分だけの判断じゃまずい、そこの丹恒に聞いてみないと……、て、あれ、さっきまでそこの小型パソコンに映ってた丹恒、消えてない?」
「そういえば、の姿もないよ。どこいったの?」
あれ? 開拓者と『なのか』はいつの間にか、、そして、今まで黙って聞いていた小型パソコンの丹恒の姿が消えている事に気が付いて、辺りを見回す。
パメラはそれが分かっている風、落ち着いた様子だった。
「あー、もうそんな時間か。開拓者と三月の面白い話聞いてるうち、けっこう時間過ぎてたみたいだね」
「どういうわけ?」
「と丹恒のイチャイチャタイム」
「あー」
開拓者はパメラのその一言で、二人の行方が分かった気がして苦笑する。
「何それ、どういう意味?」
『なのか』だけはその意味が分からず、開拓者とパメラに助けを求める。
パメラはそれが何でもない風に、なのかに話した。
「と丹恒、生配信でお互いの声が繋がるといっても、お互いに会いたい気持ちが我慢できなくて、配信中でも二人でどっかいって、どっかでイチャイチャしてるんだ。それの後処理にステーションのスタッフの私達が必要っていうだけ」
「何それ。配信の主催者が、視聴者さん達ほっといていいの? それの事後処理用に呼ばれるって、パメラもいいのそれ」
なのかは、配信の主催者が勝手にそこから抜け出していいのか、それにステーションの女性スタッフを利用していいのかと、心配になるが。
「大丈夫、大丈夫。コメ見てよ」
「え、あ」
なのかはパメラの言う通りにコメント欄を見て、それに驚いた。
「やっと目当てのちゃんと丹恒のイチャイチャタイム始まった、こっちもちゃんが丹恒で幸せなら満足だわ、を好きにできる丹恒が羨ましい、と丹恒が今回も無事に会えて良かった、が丹恒で悲しむよりはいい、丹恒はを置き去りにしたら許すまじ、と丹恒のイチャイチャタイムがこのチャンネルの真骨頂――、はは、視聴者さん達、ウチらよりと丹恒の関係性よく分かってる!」
「しかも、二人のイチャイチャタイムが真骨頂と言う通りにさっきがいた時より、投げ銭倍になってるじゃん。凄ぉ!」
開拓者もが居る時よりも不在の方が多めに投げ銭が寄こされているのを知って、それに引き気味だった。
パメラは言う。
「まあ、の部屋飲み配信、最初からと丹恒の遠距離恋愛がメインだから、視聴者さん達もそれ分かったうえでこれに参加してるんだよ。
それから、これの事後処理役のスタッフの私達も後で、あてにきた投げ銭配分されるんだよね。はそういうとこきっちりしてるから、私達も快くに協力するってわけ」
「なるほど。の部屋飲み配信が人気ある理由、これで分かった気がしたよ」
「面白い。ウチもの部屋飲み配信がまたあれば、ちゃんと協力したいって思った」
パメラの説明を聞いて開拓者だけではなく『なのか』もそれに納得したようで、次回もの部屋飲み配信に遭遇できればそれに協力したいとは思った。
そして。
「お。さっそく、からシメの写真きたよ」
「シメの写真? 何それ、て、あ、これは確かにシメとして、いい写真だわ」
「いいじゃん、いいじゃん。だけじゃなくて、丹恒もやるぅ」
パメラはから送られてきたという写真を開拓者と『なのか』に見せた。それを見た開拓者は参ったように笑い、なのかも嬉しそうだった。
パメラは小型パソコンを操作して、言った。
「このから届いたシメの写真最後に配信して、の部屋飲みチャンネル閉じます。皆、次回も楽しみにねー」
ぷつん。
パメラはその写真を配信で映した後、の部屋飲みチャンネルを閉じた。
その写真には、星穹列車のバーで腕を組み、仲良く酒を飲むと丹恒が映っていた――。
余談。
星穹列車のバーにて。
「にへへ、今回の部屋飲み配信、開拓者と『なのか』のおかげで、いつもより稼いじゃった。デジタルでも、お金が増えていくのを見るのは養分になるわ~」
「、お前、開拓者と三月には配信チャンネルの事は黙ってろって、常々、言ってただろ」
お金に目がないは手持ちの端末で今回の配信の稼ぎを知ってにやつき、丹恒はその横でそれだけ不満そうだった。
「開拓者がステーションのスタッフの依頼やってるうちは、いつか、バレるよ。早めにバレて良かったと思うけど」
「それはそうだが、俺の隠れた趣味も分かって、次、あいつらに色々言われるのがなあ」
はあ。丹恒は開拓者と『なのか』に自分の隠れた趣味が分かって参った様子だったが、は違った。
「いいじゃない、これくらい。男の子ならこういうの好きだって、開拓者と『なのか』も分かってくれると思うよ」
「次は、アニマル系のコスじゃなくて地味なの選ぶか……」
「えー。私、アニマル系のコス好きなんだけど。今回のウサギコスも選ぶの楽しかったし、前のサメの着ぐるみも評判良かった。丹恒は私のアニマル系のコス、嫌い?」
「……」
丹恒はのそれに何も答えられなかった。
「えい☆」
「」
は席から離れると、何を思ったか、丹恒のひざに遠慮なく座ってきた。丹恒は自分のひざに座ってきたを突き放す風ではなく、反対に支える。
は自分の腕を丹恒の首に巻き付け、甘える調子で言った。
「ウサギは、寂しいと死んでしまうのです」
「……それ、生物学的には間違ってるが」
「え、そうなの?」
「創作物では人気な設定だが、生物学的に単純に構ってやらないとストレスで体調を崩すってだけだ」
「そうなんだ。私はでも、創作物の設定の方が好きだなあ。それにあわせて寂しいウサギちゃんは飼い主さんが構ってあげないと、死んでしまいます。どうしますかぁー?」
「まったく。俺の可愛いウサギ死なせないために、俺の資料部屋連れて可愛がってやるか」
「ふふふ、作戦通り~」
丹恒はの仕業に参ったよう、彼女の頭を撫でたあと、そのまま軽い力だけで抱っこし、席を立った。
は丹恒に抱っこされ、嬉しそうだった。
丹恒に抱っこされた状態でバーから資料部屋に移動するは、思う。
「この様子配信したら、もっと投げ銭もらえるかなー」
「故郷では第二王妃で贅沢三昧だったお前が金に目がないのは分かるが、それだけは、勘弁してくれ……」
「分かってるって。でも、私の故郷に宇宙科学の一つ、ネットや配信システム、おまけで投げ銭もあったらどうなってたかなと思う時、あるんだよ」
「どういう意味だ」
「いや。これだけで――お酒飲んでるだけで私にファンがつくなら、ディアンの第二王妃としての私の支持率、クロムだけじゃなくてディアンでもけっこう上がってだろうし、投げ銭も凄いきて、それで稼げればディアンの国王陛下のウォルターに頼らずにすんだとか」
「それは……」
丹恒は、の故郷にネットと配信システムが浸透していれば、の酒飲みチャンネルは、クロムだけではなくディアンでもファンを増やし、ほかの国でもの名前が広まって投げ銭で稼いでいただろうし、投げ銭で稼げればディアンの国王のもとに第二王妃として嫁ぐ事もなかったかもしれないと、思った。
思うが――。
「……、それだけじゃ、お前の第二王妃の支持率上がらんと思うぞ。部屋飲みだけで投げ銭くるのも、そのコス衣装も含めてだからな」
「そうかあ。私の故郷じゃ、演劇でしかこういう衣装扱ってなくて、この手のコス文化なかったからなー。残念」
は丹恒からそれを聞いて、
「……(故郷でも私が配信の投げ銭で稼いでたら、ウォルターの目を気にせず、あの城の中庭で丹恒ともっとイチャイチャできてたのになぁ、この手のコス衣装ないと無理かー)」
自分が稼いでいたら国王で旦那であるウォルターの目を気にせず、城の中庭で丹恒と逢瀬を重ねていられたのにと思ったが、それは無理だと分かって、本当に残念で落ち込む。
丹恒はその落ち込むを見て、彼女を励ますように話した。
「まあ、かくいう俺もその配信で人気の独占できるから、優越感は浸れる。この宇宙で、二人限定以外の配信もやってて良かったと思うぞ?」
「うん。私も色んな所で人気の丹恒独占できるから、配信やってて良かったと思う」
ぎゅうっと。は丹恒に言われて嬉しくて、あっさりと気を取り戻し、いつもより強く彼を抱き締める。
そのを見て、思うのは。
「……(の故郷にネットと配信システム、投げ銭があれば、は第二王妃としてディアンに嫁ぐ事はなくて、そこで星核目当てにきた俺と出会う事もなかっただろうし、あの城で出会えても稼ぎがあるうちは俺には見向きもしなかっただろうなぁ)」
「どしたの?」
は、自分を抱っこしたまま急に立ち止まった丹恒に不安になる。
丹恒は自分の嫌な考えを振り払うよう首を横に振り、を抱っこしたまま言った。
「いや。にこれから生物学者として本格的なウサギの可愛がり方を教えてやれるのが楽しみで、お前をさっさと資料部屋に連れ込みたいってだけ」
「うわ、本格的なのは勘弁してもらいたいかなぁ、童話向けレベルのでお願いします」
不敵な笑みを浮かべる丹恒と、それにぞっとしつつもそこから離れないと。
二人のイチャイチャタイムは、始まったばかり。