それから。
「丹恒てば、自分が誘う時は私の都合も聞かずに強引なのに、私が丹恒誘う時はアーカイブ整理で忙しいってあっさり断るんだよ!」
「うん」
「私が千年遅れた世界から来てるの知ってるくせに、ステーションで宇宙についての勉強しているとそれくらいも分からないのかって、鼻で笑ってくる。あと、私が時代遅れなせいでステーションの機械類に弱いの知ってるくせにこれくらいもできないのかって、ばかにしてくる」
「うん」
「ステーション内で知らない場所に行こうとすれば、危ないから止めとけって。戦えないくせに動き回るなって。それ分かるけどステーション内では安全確認できてるのにそこまで言う事なくない?」
「うん」
「お酒飲んでると、飲み過ぎだって取り上げて、自分が飲んじゃうんだよ。何それ。私が注文したんだから私が全部飲むべきじゃない? 私も自分の体の調子くらい、分かってるんだから」
「うん」
「資料部屋に可愛いぬいぐるみ持っていけば、資料汚れるから止めてくれって。食べ物や飲み物は資料によくないって分かるけど、ぬいぐるみで汚れるって、何それって感じじゃない?」
「うん」
「私のぬいぐるみは駄目って言うのに、私が目の前に居るのに、研究中の生物に夢中になってそこからいつまでも抜け出せない。しかもそれが可愛い系な子だったら、私必要かって思う時、あってさー」
「うん」
主に酒の勢いでだけがしゃべり、開拓者はそれにうなずくだけで、聞いてるだけだった。
と。
愚痴を言い始めて三十分過ぎたあたりでお酒がなくなり、それに気が付いた。
「あ、いつの間に、お酒なくなっちゃった……、て、はっ、私ばっかりしゃべってない? ねえ、開拓者は、丹恒に対して何か言う事ある? 何か言いたいなら、聞いてあげるよ」
「あー。私も丹恒に言いたい事は山ほどあるけど、今は言わない方がいいと思う」
「何で?」
開拓者はドアの方を指差し、困った風に言った。
「――丹恒本人が目の前に居るから」
「!!!」
開拓者に言われてがドアを見ればその指摘通り、丹恒本人がいつもの無表情でドアにもたれかかっていたのだった。
「わ、わあっ」
は丹恒を見て驚き、思わず椅子から転げ落ちそうになった。
「ち、ちょっと、いつから居たの!」
「宇宙科学も知らない自分をばかにしている、あたりか」
「うわ、殆ど全部じゃない!」
「、お前が俺をどう思っているか、これでよく分かった」
「……ッ」
丹恒は怒りや呆れといった感情を込めず、冷静だった。は反対にそれに恐怖を感じた。
代わりに。
「か、開拓者も何で背後に本人が居るって教えてくれなかったの!」
は泣きそうな顔で、開拓者に詰め寄る。
開拓者は頭をかきながら、そのわけをに話した。
「いやー、の愚痴を聞いている時に丹恒に気が付いて彼を見れば、黙ってるようにって合図がきたから、それに従うしかなくて。これも開拓の旅の間に習慣づいたものでさ」
「そ、そうなんだ」
はは。開拓者は照れ臭そうに髪をいじりながら笑うも、は笑えず青ざめ、そこから一歩引いて、丹恒の顔が見れずに棚の影に隠れる。
が丹恒に恐怖を抱いているのを分かりながら開拓者は、それを丹恒に聞いた。
「丹恒、を迎えにきたんだよね」
「ああ。夜中に騒がせてすまなかったな。が突然来て、迷惑だっただろう」
「いや、を先に誘ったの私だし、私もと居ると楽しいから別にいい。私もこれでぐっすり寝れそう」
「そうか、それは良かった」
丹恒は、開拓者に対してはいつもと変わらず穏やかに対応する。
しかしは違った。
「、いつまでそこに隠れてる」
「うっ」
は、丹恒はいつもと変わらず無表情であるが、いつもの声と違う感じがして震える。
「隠れてないで、出て来い。さっさと帰るぞ」
「か、帰るって、資料部屋に帰るの?」
「それ以外、どこに帰るんだ」
「私、今夜は資料部屋じゃなくて、開拓者の部屋に泊まらせてもらおうかなー、なんて――、ひっ!」
は最初は軽い感じで丹恒にそれを告げるも、丹恒はのそれを許さないと彼女の腕を強く掴んでそこから引っ張り出した。
「俺の資料部屋に帰るぞ。これ以上、開拓者に迷惑かけられんだろうが」
「そ、それじゃ、ステーションの自分の部屋に戻る――」
は、それ以上が言えなかった。
「――目が覚めたら居なくて、そのがいつまでも帰って来ないから、心配した」
「あ……」
丹恒に強く抱き締められて、本当に心配してくれているのが分かったせいで。
は、あれ、丹恒に開拓者の部屋に居るってメッセージ送らなかった? と、思い、手持ちの端末を探した――ところで。
「ヤバ、端末持ってくるの忘れてた……」
今になってそれに気が付いて、青ざめる。
丹恒はと向き合い、呆れた様子で言った。
「俺の部屋にお前の端末が置いてあったぞ。今、それの重要性に気が付いたのか」
「そ、それじゃ、今まで私の事、探してくれてたの?」
「ああ。メッセージで三月と姫子さんにがそっちに行ってないかと聞けば、部屋に来てないと返事があった。そのあと、いつもの席で休んでたヴェルトさんにの行方を聞けば、廊下で開拓者と話してる声が聞こえたって聞いて、それで此処まで来られたんだ」
「うわ。結局、私のせいで皆の睡眠妨害しちゃったのか。明日の朝になったら、なのか、姫子、ヴェルトさんに謝らなくちゃ……」
がくり。は『なのか』や姫子、ヴェルトの睡眠を妨害しないために開拓者の部屋まで来たはずが、結局、自分のせいで睡眠を妨害したと分かって反省すると同時に、項垂れる。
丹恒は言う。
「明日の朝、俺もと一緒に姫子さん達の所まで謝りに行く」
「え、いいの? 悪いの私なのに」
「姫子さん達を起こしたのは俺だからな。俺にも責任あるだろ」
「ありがとう。やっぱ丹恒がいい」
ぎゅうっと。は丹恒の言葉が嬉しく、彼に抱き着く。
丹恒はそのを突き放さず、彼女の頭を撫でながら言った。
「なら、何でもしてやれるよ。目が覚めればそのが居なかったから、不安で寝れなかった」
「ごめん。でも丹恒、安心できる場所では寝たら朝まで起きないって聞いてたんだけど」
「それ、安心できる場所でも一人の時か、が居る時だけだな。物音でが起きて部屋を出ていくのが分かって、トイレならすぐ戻ってくるだろうと待ってたら、中々帰って来ないじゃないか。端末も置きっぱなしで、連絡取れなかったぶん、心配してたんだよ」
「そうだったの。それは、悪かったわ。今度は端末忘れないようにして、何かあれば丹恒に連絡入れる」
「ああ、そうしてくれるとこっちも安心して眠れる。この列車でもが見付からないだけで不安で、眠れなくなるから」
「私も一人より丹恒と一緒の方が、よく眠れる。どこでも丹恒と一緒がいい」
「……」
丹恒もそのがたまらず、彼女を抱き締め返したところ――で。
こほん。咳払いが聞こえた。
「――お二人さん、私の事、忘れてませんかねえ?」
「!」
と丹恒は開拓者から声をかけられる今まで、現在地が開拓者の部屋である事と、開拓者が居る事をすっかり忘れていた。
「此処、二人がイチャつく用の部屋じゃないんですけどぉ」
「ご、ごめん。開拓者、もう資料部屋に帰るよ! 丹恒、一緒に帰ろ!」
「分かったから、そう引っ張るな」
開拓者に呆れた様子で言われたは、慌てて丹恒の腕を引っ張って、ドアの方へ急いだ。
ばたん。
ドアが閉まり、開拓者もやれやれ、やっと行ったか、と、思えば。
再びドアが開き、が顔を出して、そして。
「開拓者、夜中に付き合ってくれてありがとう! それだけ、それじゃあ!」
「、また何かあれば、夜でも付き合うよ!」
開拓者は再び外で待っている丹恒に追いつこうとする必死のにそう声をかけ、もそれに応じたと開拓者に向けて手を振り返したのだった。
その後、列車内の廊下にて。
「が俺に連絡入れず、さっさと資料部屋に帰らないからこういう事になる」
「ごめん、て~。これからは、丹恒への連絡忘れないから!」
「というかお前、あそこまで俺に不満持ってたのか。俺は、シャワー室以外で俺に対する不満、初めて聞いたぞ」
「うっ。こ、これくらいいいでしょ、別に。ステーションでも列車でも、開拓者くらいしか、丹恒に関する愚痴、聞いてくれる人間居なかったんだから」
「まあ、俺に対する相談でその相談相手が開拓者なら、許せる範囲、だが」
「だが、何よ」
「俺もと同じよう、お前に関する不満持ってるんだが、誰に相談すればいいと思う?」
「……それ相談できるの、ヴェルトさんか、私と同じく、開拓者くらいじゃない? 姫子はナシでお願い」
「うむ。それが妥当とは思うが、もう一人、適任者が居るのを忘れている」
「え? 私に関する相談するのにヴェルトさんと開拓者以外で、誰が適任者?」
「――本人だ」
「は? 私がそれの適任者って、何それどういう意味――きゃあっ」
は最初、丹恒が何を言っているのか分からず戸惑うだけだったが、腕を強く引っ張られ、強引に連れ込まれた先は、丹恒の資料部屋だった。
入ると自動的にドアが閉められ、丹恒はドアにを打ち付けて逃げられないようにしてから、詰め寄り、そして。
「俺のに関する不満というのは、せっかく寝られていたのに、お前のせいで目が冴えてしまったというものだ。どうしてくれる?」
「え、ええと、眠れないなら、故郷に伝わる子守歌、歌ってあげようか」
「それも悪くないが」
「悪くないんだ」
「一番の解決策は、と二回戦、じゃないか?」
丹恒は言って、の髪に自分の指を絡める。
はそれを受け入れた状態で、自分のシャツをつまんでその臭いを気にしながら話した。
「ねえ、汗と臭い、気にならない?」
「俺はの汗や臭いは気にならないし、ほかのも気にしないが」
「まあ、丹恒がそれ気にならないっていうならいいけど」
「今日は素直だな。いつもみたいに、シャワー室ねだってくると思ったが」
「さっき、開拓者から、パムのスパルタ任務聞いたから。私のワガママのせいで、丹恒をそこまで働かせられないでしょ」
「なるほど。それを分かってくれたぶんは、開拓者に感謝しないとな」
「いやでも、開拓者の豪華な部屋とバスルーム見れば、一部くらいはパムと取引できないかなーと思ったりなんかして……、駄目?」
「却下」
「ですよねー」
はは。はもう個人のシャワー室は諦めるかと内心、泣きたい気分だったけれど。
丹恒はそのの気持ちを察したのか溜息を一つ吐いた後、決心したよう、の耳元でささやくように話した。
「――第二王妃で金目なものに目がないの事だ、資料以外で色々設備増やせばそれに夢中になって、俺を見てくれなくなるだろ」
「ええ、何それ、それだけでシャワー室駄目っていうのは、ないんじゃないの? 自分だってアーカイブ整理や、研究中の生物に夢中になってる時は、私を見てくれないじゃない」
「俺の場合はアーカイブ整理や研究が終われば、ちゃんと、に構ってるだろ。の場合は、それに夢中になると、俺が注意しないと歯止め効かんだろうが。開拓者の部屋、バスルームだけじゃなく、ゲーム部屋とかコレクションルームとか色々、お前が目移りしそうなものあっただろ」
「……確かに開拓者の部屋にあったゲーム部屋とかコレクションルームとか見れば、丹恒ほったらかしにしそうだけど」
「はそれから、俺が可愛い系の生物に夢中になっているのを見ると自分必要ないのかと言ってたが、俺からすればほど『カワイイ』生物は居ない、と、思っているんだが」
「丹恒……!」
これにはも感動し、丹恒に抱き着くが、ふと、その言い方が気になって、すぐにそこから離れた。
「ちょっと、その『カワイイ』の言い方、別の意味のカワイイも含まれてる気がするんだけど!」
「はは、そうか? 気のせいじゃないか(気が付かれたか)」
「その含み笑い、絶対、別の意味も含んでるでしょ!」
「どっちにしろ、俺にが必要なのは変わりない」
「むぅ。そう言われると弱いの知ってるから、私の立場、最初から不利じゃん!」
は、さっきから丹恒に負けっぱなしである事が悔しく、地団駄を踏む。
極めつけ。
「も俺に対して色々言ってたのでおまけで言わせてもらうが、シャワー上がりの水滴が資料によくない。お前、ステーションの部屋での風呂上がり、俺の前であっても着替えるの面倒、これで一杯飲むのが最高とか言って、酒持ってバスタオル一枚でうろつくじゃないか」
「うぐっ、そこつく?」
は丹恒にそこをつかれるとは思わず、のけ反る。
丹恒は腕を組み、更に追い打ちをかける。
「がバスタオル一枚での酒を諦めてくれるなら、シャワー室、考えてやってもいいが」
「お風呂でもシャワーでも上がった後、バスタオル一枚で飲むのが至福なんだけどぉ~……」
は上目遣いで、可愛い仕草で丹恒を見詰める作戦に出るが。
「言っておくが資料部屋は、シャワー室あってもなくても、酒の持ち込み厳禁だ。水滴はもちろん、それで火災が起きたら洒落にならんからな。でもそれ発覚次第、資料部屋追い出すから、そのつもりで」
「あう……」
丹恒はに容赦しなかった。
敗北決定――。は丹恒に負けを認め、項垂れるしかなく。
「あーもう、それだけで資料部屋追い出されたくないし、共有風呂の後で廊下でお酒飲むのもたまらないから、そっちでいいや、もう」
「は迷わず、すぐに結論を出してくれるところは、好きだ」
丹恒は、それくらいで資料部屋を追い出されるのを嫌がってシャワー室を諦めた決断をしたを見て、微笑む。
そして。
「その決断したに、酒よりもっといい思いさせてやるよ」
「え、お酒よりもっといい思いって何――、あ」
軽い力で引き寄せられ、あっさりと唇を奪われて、押し倒されてしまった。
の上にきた丹恒は口の端を上げ、言う。
「――今となっては酒の快楽より、こっちの快楽の方が健全じゃないか?」
「うう、否定できないのが悔しい」
「はは。朝になれば風呂行けばいい。日付変わって今日になるが、今日は列車とステーションの部屋、どっちだ?」
「……今日はステーションで応物課の仕事あるから、私の部屋のお風呂にして」
「了解。それじゃ、二回戦、始めるか」
「……ん」
丹恒の綺麗な細い指が、の肌を這う。
――資料部屋にシャワー室あってもなくても、丹恒のそれから逃げられないんだから、どっちでもいいかぁ。
はなんだかんだで丹恒から与えられるものには満足しているので、それ以上の要求は諦めたという――。
余談。
翌朝。
「おはよー」
開拓者は、まだ目が覚めない目をこすりながら、朝食をとるため、いつもより遅めに仲間達が集まる食堂に顔を出した。
「おはよう」
「おはようー」
「おはよう」
すでに席についていた姫子、なのか、ヴェルトの三人から返事がきた。
テーブルにはパムと姫子が用意した朝食――目玉焼きにハム、サラダ、トーストが置かれてあった。
開拓者は約一名、返事がないのに気が付いて、辺りを見回す。
「あれ、丹恒は来てないの?」
「丹恒は、と一緒。とステーションで食べてくるって」
開拓者に返事をしたのは、なのかだった。
開拓者は『なのか』の返事を聞いて出されたトーストをかじりながら、言った。
「何だ。それなら私もステーションで食べれば良かったかなぁ」
「いや、それは止めておいた方がいい。丹恒がと二人きりの時は、二人の邪魔しないように」
開拓者に諭すように話したのは、ヴェルトだった。
開拓者はヴェルトで昨夜のを思い出し、姫子、なのか、ヴェルトの顔を見回して聞いた。
「ねえ、昨夜のの話、丹恒から聞いてる?」
「皆、聞いてるわ。丹恒と、朝ご飯食べる前に私達の前に揃って来て、自分達のせいで睡眠妨害してごめんなさいって、きちんと謝罪あったわよ」
「そっか。それは良かった」
開拓者は姫子からその話を聞いて、だけではなく丹恒も一緒になって、姫子達にきちんと謝罪があったと分かり、安心した。
「も律儀だよねー。それくらい、気にしなくていいのにさ」
「俺もそこまで気にする必要はないと思ったが、は俺達の特殊な睡眠事情をあまりよく理解していないようだった。普通に考えて、悪いと思ったんだろう」
『なのか』は睡眠妨害くらいでわざわざ謝りにきたに感心を寄せ、ヴェルトもそんなに苦笑するだけだった。
それから。
なのかは身を乗り出して、開拓者に聞いた。
「ねえ開拓者、昨夜、から丹恒の愚痴聞いてあげてたんでしょ」
「そうだけど」
「その中で何か面白そうな話、あった? で丹恒の弱み握られれば、ウチ、丹恒に勝てるかも」
『なのか』は旅の途中だけではなく普段でも丹恒に負けっぱなしなので、で有利になれるならとそれを期待して、開拓者に聞いたのだった。
開拓者も『なのか』のそれが分かって、うなずく。
「あー。これが丹恒の弱みになるかどうか分からないけど、私ではの愚痴がよく分からない話だったから、それについて、姫子かヴェルトに聞いて欲しかったんだよね」
開拓者は『なのか』だけではなく、姫子とヴェルトにも昨夜、が話していた丹恒への愚痴を聞かせた。
開拓者からその話を聞いた姫子はヴェルトと顔を見合わせた後、一言。
「――それ、愚痴じゃなくて、惚けじゃないの」
「惚けだな」
姫子の一言を聞いて、ヴェルトもそれに同意するよう、うんうんと、うなずいている。
開拓者はサラダのミニトマトにフォークを突き刺しながら、姫子に聞いた。
「惚け? 惚けって、惚れたの方の?」
「そう、そっちの惚け。愚痴じゃないわよ」
「どのへんが惚け? 、ステーションで勉強してたら丹恒が鼻で笑ってくる、機械類も弱いの知っててそれくらいも分からないのかってばかにする、酷い話だって、、グチグチ言ってたけど」
「丹恒、相手を気にかけてないとそこまでしてくれないわよ。あの子、本当に興味無いものは、声すらかけないじゃない。多分、その時、ちゃんとの勉強見てあげてたんじゃない? 機械類に弱いの知っててばかにするぶんも、その時にちゃんと手を貸してあげてたんじゃないの」
「あ、そういうわけか」
開拓者もそれに気が付いて、納得する。
「それじゃあ、戦えないくせにステーションをうろつくな、酒の飲み過ぎだっていうのは」
「それはそう、丹恒の方が正しいね。ステーション内でいくら安全な場所でも、レギオンが出没する可能性は否定できないからさ。お酒もを気にかけての話だろう。彼女、制限かけないと飲み過ぎる傾向にあるから」
次に開拓者に答えたのは、ヴェルトである。ヴェルトの話も納得できるものだった。
「資料部屋にぬいぐるみを持ち込むなと言うのは……」
「それ、ぬいぐるみより自分を見て欲しいっていう独占欲じゃないのぉ? 丹恒、ああ見えて、子供っぽいとこあるから」
それに笑いながら答えたのは姫子とヴェルトではなく、なんと、『なのか』だった。
姫子、ヴェルト、なのかの話は、開拓者も納得するものばかりだった。
最後は。
「そ、それじゃあ、のシャワー室の件、知ってる?」
「もちろん、知ってるわ。、丹恒の資料部屋に個人用のシャワー室つけて欲しいって、私にも訴えにきた事あるから」
優雅にコーヒーを飲みながら答えるのは、姫子である。
「丹恒、何で、に応じてシャワー室つけてあげないの? 資料部屋に女の子誘うなら、それくらい、つけてあげてもいいと思うんだけど」
「それは、ウチも思った。ウチ、旅から帰ってシャワー浴びないとスッキリできないからさ、の気持ち分かるよ。丹恒、何で、シャワー室つけてあげないの?」
開拓者のこれには、『なのか』も疑問だったようで、揃って姫子に聞いた。
姫子は溜息を一つ吐いて、呆れた調子でそのわけを話した。
「私も資料部屋に誘われるを思って、丹恒にシャワー室つけてあげるように頼んだんだけどねえ。丹恒の言い訳聞いて、それに思わず納得しちゃって、それなら資料部屋にシャワー室つけない方がいいって判断したの」
「丹恒、姫子になんて言い訳して、姫子もそれに納得したの?」
「それ、ウチにも教えて!」
開拓者と『なのか』は、揃って、姫子に詰め寄る。
「これ、には内緒ね」
姫子はコーヒーを飲みながらそれを前置きしたうえで、困ったようにそのわけを打ち明ける。
「――丹恒いわく、資料部屋にシャワー室なければ列車内の共有のお風呂にと二人で入れる言い訳できる、ステーションでもの部屋にあるお風呂を借りる言い訳できて二人で入れるから、自分の資料部屋にシャワー室つけない方がいい、ですって」
姫子から丹恒の言い訳を聞いた開拓者と『なのか』は顔を見合わせ、そして。
「うん、これ、完全に惚けだわ。それに姫子が納得したのも納得」
「惚けだね。ここまでのノロケ、中々ないって」
うわー。開拓者は参ったように天井をあおぎ、『なのか』は笑いを堪えるように机に伏せる。
というか――。
「というか丹恒、それ、素直にに話せばもシャワー室つけないの納得したんじゃない? 何でに一緒にお風呂に入りたいっていうの、黙ってるんだろ」
「だよね。それ、ウチも思った。なら、丹恒のそれに納得して応じてくれるんじゃない?」
はて。開拓者と『なのか』は、丹恒がそれについてに黙ったままでいるのが不思議でならなかった。
ここで姫子は、それに関して黙ったままのヴェルトの方を振り返る。
「それについては、丹恒と同じ男性のヴェルトなら分かるんじゃない?」
「うえ、ここで俺に振る?」
急に姫子に振られたヴェルトは戸惑いを隠せず、顔を引きつらせる。
「ヴェルトなら、丹恒のその気持ち、分かるでしょ」
「ええと……」
ヴェルトは姫子だけではなく、開拓者と『なのか』、女性陣に注目され、仕方なく、丹恒の気持ちを代弁する。
「いや、まあ、俺が丹恒ならの話だけど、俺が丹恒の立場なら惚れた女性にはこれ以上の隙を見せたくなくて優位に立ちたいのと、それを黙ってるのは、にそれならシャワー室があってもいいじゃないかと再び言われるのを恐れたんじゃないかな。それから、シャワーより風呂を選びたいのは男のロマンだから、としか……」
「はあ。丹恒がより優位に立ちたいのは分かるけど、ヴェルト、シャワー室より風呂を選ぶのは男のロマンって何それ、どういう意味?」
「ヨウおじちゃん、お風呂が男のロマンって何か意味あるのそれ?」
「姫子、交代!」
うわああ。開拓者と『なのか』に純粋な目で詰め寄られたヴェルトはたまらず、姫子に助けを求める。
姫子はヴェルトに呆れつつ、開拓者と『なのか』に向けて、言った。
「どっちにしろは、シャワー室がなくても、丹恒に資料部屋に誘われるのは悪い気しないと思ってるでしょ」
「そうなの?」
「そうでなければは、シャワー室ないの分かってて、丹恒の資料部屋まで行かないと思うわよ?」
「あ、なるほど。そういうわけね。結局、全部、ノロケだったのか。そうなら私がを自分の部屋に誘ったの、丹恒に悪い事したかなー」
開拓者は、を気遣って自分の部屋に招待したが、丹恒からすれば余計なお世話だっただろうかと、今になって不安になった。
姫子は言う。
「そうでもないんじゃないかしら」
「というと?」
「、あの子、ステーションでも列車でも、丹恒を理解したうえで彼について話せる友達欲しいって言ってたから、開拓者の部屋でアンタに丹恒について色々話せて良かったんじゃない?」
「あれ、、姫子やヘルタ、アスターとは丹恒について話せないの?」
「私は仕事で忙しいし、ヘルタはそのへんは興味なくての相手しないし、恋愛ごとに鈍いアスターではの相手にならないと思うわ。の相手は、同じ年ごろで丹恒の事もよく分かってる開拓者や三月ちゃんが丁度いいと思うんだけど」
「そうか。そうなら、を部屋に招待して良かったよ」
開拓者は姫子であっさりと、その気分を持ち直した。
そして、開拓者と姫子のやりとりを聞いていた『なのか』が提案する。
「ねえ、それなら今度、いい時に開拓者だけじゃなくて、ウチも入れて、と三人で丹恒について語り合う女子会でもやらない? 場所は開拓者の広い部屋でさ」
「お。いいね、それ。だけじゃなくて、私も丹恒について言いたい事いっぱいあるんだよねー。昨夜は丹恒本人が現れたせいで、にそれ話せなかったんだ。『なの』も丹恒に関する話、いっぱいあるでしょ」
「うひひ、開拓者の言う通り、ウチ、丹恒に関してとっておきの話、いっぱい持ってるよ。今まで、丹恒に関する話できる相手、中々居なくて、たまってたんだよね。開拓者となら、その相手に丁度いいわ」
『なのか』は意地悪く笑いながら、トーストをかじる。
そして。
「当日、開拓者の部屋広いんだから、女子三人でちょっとしたパーティーやれたらいいよね。ウチと開拓者は甘いドリンク、はお酒持ってきてさ、そこで、ケーキとお菓子食べながら、丹恒についておしゃべりする女子会、よくない?」
「良いね。でも、甘い物だけじゃつまんないから、パムにステーキとかピザとか、パーティー用の料理を用意してもらおうかなー」
開拓者は実は、昨夜、の故郷の歌だけではなくて『あの店のステーキ食べたい』という呟きも聞いていて、これは何とかしてあげたいと思っていたので、『なのか』の提案は丁度良かった。
『なのか』は開拓者のそれは聞いていなかったが、開拓者からパーティー用のご馳走を用意したいという話を聞いて、更に浮かれる。
「うひひ、パーティー用のご馳走あると、丹恒の話も盛り上がるってもんよ。朝ご飯食べ終わったらこの計画、ステーションの応物課の倉庫に居るだろうに伝えにいこうよ」
「いいけど、丹恒本人にはこの話、言うべき?」
「いや、丹恒本人には、当日まで、内緒の方がいいと思う。話せば、参加させるの反対するに決まってるから」
「だね。丹恒には内緒の方向で」
開拓者は『なのか』の話に納得したよう、うなずく。
「開拓者、食べた? 食べ終わったら、さっそく、の所、行こー」
「了解!」
そうして『なのか』の提案で、開拓者の部屋にて、開拓者とと『なのか』の三人で、丹恒について語り合う女子会が開催される事になった。
『なのか』と開拓者は、朝食を食べ終わった後、張り切って、その計画をに伝えにいくつもりで駆け出す、ところで。
「姫子、ヴェルト、この話、当日まで丹恒に言わないでよ! それじゃ!」
開拓者は食堂に残る姫子とヴェルトにそう言い残して、外で待つ『なのか』と一緒にに会うためステーションに向かった。
開拓者と『なのか』、二人の張り切る様子を見ていたヴェルトは、そのさい、議題に上がる丹恒に思い切り同情する。
「やれやれ。のためとはいえ、彼女達の議題に上がる丹恒も災難だな。だけじゃなく、開拓者も『なのか』も容赦しないからなあ」
「あら。それなら、丹恒だけじゃ悪いから、ヴェルト、あなたも議題に上げてみる? 私、あなたにも色々言いたい事あるから、私も開拓者達の女子会に参加しようかしら~」
「おいおい、それだけは勘弁してくれ……」
うへ。姫子に言われ背筋を震わせるヴェルトと、ヴェルトにくすくす笑うだけの姫子と。
そうして、星穹列車はその星を抜け、彼女達の何でもない日常を過ぎていくのだった――。