「――はあ、二日間の深い眠りの中で、私が男になってた夢見てたの?」
「ああ。そこで俺はその男の開拓者と、取り合ってた……」
はあ。列車のラウンジの椅子に落ち着いた丹恒は参った様子で、今まで、開拓者が男になっていた夢を、開拓者、なのか、に聞いてもらった。
「やだー。丹恒と開拓者の男版が私を取り合うなんて、罪な女じゃないの~」
きゃー。当人のはそれを聞いて、一人で赤くなって、一人で盛り上がっている。
開拓者はそのを無視して、丹恒に話した。
「私と『なの』、私の男版についてのその話、そこのから聞いてたたんだよね」
「え、どういうわけだ」
「丹恒、二日も寝る前、とそういう話になったって、今まで、そこのから聞いてたんだよ」
一息ついて、続ける。
「もし、丹恒がと出会わず付き合ってなかったら、にあいそうな男は誰かって。でも、今まで旅で知り合った男性陣の中でにあう候補者中々見付からなくて、最終的ににあうのは私の男版くらいだって」
「ああ、そうだ、寝る前にと、この宇宙で俺以外ににあう男が居るかどうか、もしにあう男が居るとすれば開拓者の男版くらいだ――、その話をしたのは覚えている。……もしかしてその影響で俺、開拓者が男になった夢を見てたのか?」
「どうやら、そうみたいね。そのと丹恒の話をもとに、男版の私とを取り合うなんて状況が、丹恒の夢になって現れたんじゃないの」
「なるほど。との与太話が夢になって出現しただけか。……いやしかし、夢でも、お前の男版とを取り合うなんて、冗談じゃないと思ったわ。あんな悪夢、二度とごめんだ」
はは。丹恒はその悪夢を思い出しただけでも震えて、それを落ち着かせるため、自販機で買ったコーヒーを一口飲んだ。
と。
「実は私、丹恒とに言われる前から、自分が男になって同じように列車で開拓の旅を続ける夢、何度か見てるんだよ」
「それ、本当か?」
「ええー、そうなの?」
「マジで!」
開拓者の突然の告白を聞いて丹恒は素直に驚き、と『なのか』は色めき立つ。
「ねえねえ、それじゃあ、現在の女の開拓者と、夢の中の男の開拓者の間の差って何かあるの?」
「特にないと思うけど……、ただ、男の方が周囲の人間関係の距離感考えず、ズカズカ土足で踏み込んでたかなー」
『なのか』に詰め寄られた開拓者はそれを思い出し、笑うしかない。
丹恒は言う。
「俺も夢の中だが、開拓者の男版、仙舟の雲騎軍の景元将軍や天舶司の長官の御空相手でもズカズカ土足で踏み込んで、攻めていってたのを見てるな……」
「あ、やっぱり? 女の私だとそのへんは考えてるんだけどなー」
「そうか?」
「何よ。私は男と違ってそのへん考えて、慎重に行動してるってば」
開拓者は丹恒に疑いの目を向けられ、不服そうに反論する。
『なのか』は期待を込めて、話を続ける。
「で、開拓者の夢の中でも男の開拓者、に気があったりするの?」
「んー、どうだろ。私の夢では丹恒の夢と違って男の開拓者、に好感は持ってるは持ってるんだけど、丹恒に遠慮してるのか、そこまでの感情は持ってない感じ?」
「えー、つまんない。丹恒の夢の通り、丹恒と男の開拓者がを奪い合ってる方が、ドラマチックじゃん?」
「なの……」
丹恒と男の開拓者がを巡って争う――、『なのか』は傍観者としてこれほど面白い話はないと思っているが、当事者の開拓者は複雑で苦笑するしかない。
『なのか』は次に、に聞いた。
「の方はもし、丹恒ついてる時に男の開拓者に迫られたら、どうするの?」
「ええー、丹恒と出会わずに彼を知らない時なら男の開拓者で即決だけど、丹恒と付き合ってる状態で男の開拓者に迫られたらどうしよう~、迷う~。丹恒の知らない所で男の開拓者に攻められたら、断れる自信ないわー」
きゃー。は再び、一人で勝手に妄想して、一人で盛り上がる。
と。
「――おい、俺と付き合ってる状態で、かつ、俺の前で、俺の知らない所で男の開拓者に迫られたら迷う、断れる自信ないって、よく言えるな」
「あ」
は、隣に丹恒がついている現実をすっかり忘れていた。
丹恒は顔を引きつらせて身を乗り出し、に詰め寄る。
「――ここは、男の開拓者に迫られてもハッキリ断る、俺がいいっていう場面じゃないか?」
「そ、それはそうなんだけどぉ、女であれば、男でもイケメンになるだろう最強の開拓者に迫られたら迷うでしょ。それにほら、私って能力持ちの丹恒や『なのか』と違ってただの無能力で無資格の人間だから、最強系に弱くて、なおさら……その、あのぉ」
は丹恒に詰め寄られ、その圧を感じつつ、言い訳を試みる、が。
「それなら俺が、開拓者以上になればいいのか」
「はい?」
は最初、丹恒の言っている意味が分からなかった。
「俺が開拓者以上になれば、は迷う事もないだろ」
「は、はあ、それはそうなんだけど、現時点で女の子だけど目の前の開拓者、丹恒よりも格上では――きゃあっ!?」
丹恒はソファから立ち上がると簡単にを担ぎ、そこから逃げられないようにした。
「な、なに、なんなの?」
じたばた。は丹恒に担がれてもがくも、力の差は歴然で、そこから逃げられなかった。
「俺が、俺の事は開拓者以上ではないと思っているにこれから、開拓者以上の事をしてやろうと思って」
「は、え、か、開拓者以上の事って、な、何する気?」
「さあ、何だろうな。ここじゃさすがにそれ示すの無理だから、さっさと俺の資料部屋行くか」
「ね、ねえ、資料部屋に帰って何するの?」
「ああそうだ、俺、二日もぐっすり寝てたから、体力有り余ってるんだ」
「!」
くつくつ笑う丹恒と、丹恒に何をされるか分かって赤面すると。
「わ、私、まだステーションでの仕事があるんだけどぉ」
「さっさと俺の資料部屋、行くぞ。そこでが男の開拓者や別の男に迷わないよう、存分に可愛がってやるから」
「うう、丹恒の前で開拓者の男版に舞い上がって余計な事言わなければ良かった……」
では、こうなった丹恒を止められる術(すべ)はなく、大人しく従うしかなかったという。
ラウンジでは、開拓者と『なのか』の二人が、残される。
丹恒の資料部屋の自動ドアが開けられ閉められた音を聞いてから開拓者は声を潜めて、『なのか』に苦笑混じりに言った。
「あの様子だと、当分、丹恒の資料部屋から出て来れないね」
「だねえ。はさっきもそうだけど、ウチらに助けを求めればいいのにそうしないじゃん、あの子、どんな状態でも丹恒から離れないんだよね。て多分、丹恒と付き合ってる状態で男の開拓者に迫られても迷わず、丹恒に助けを求めるんじゃないかな?」
「うん、それは私も分かる。――実際、そうだったから」
「え、実際、そうだった? 何それ、どういう意味? 夢の話は夢で終わらなかったってわけ?」
『なのか』は、開拓者の話に興味を抱き、身を乗り出してたずねる。
「さあね。私、これから、ヘルタのステーションに戻ってこの二日の間にたまってた依頼片付けてくるよ。それから、同じように心配してた温明徳隊長やアスターにと丹恒の状況、説明してくるわ。それじゃあね!」
「え、ちょっと待って、まだ話途中じゃん!」
言って開拓者は『なのか』が引き止める間もなくさっさと立ち上がり、ステーションの方へと向かった。
一人残された『なのか』は。
「なんだよ、もう。夢でも現実でも、開拓者の男版について、色々聞きたかったのに。まあいいか、ウチも丹恒が寝てた二日の間、相手にして寝てなかったから、急に眠気が……。今日はもう、寝るか~」
ふああ。『なのか』は、を相手にしていた二日の間、マトモに寝ていてない事に気が付いて急に眠気が襲ってきたので、丹恒の隣の自分の部屋に戻ったのだった。
余談。
ヘルタ・ステーション、ヘルタの部屋にて。
「――別世界の別の自分の存在を認めるかどうか、ですって?」
「うん。私、時々、これとは別世界で男になって、同じように姫子の列車で開拓の旅を続けてる夢見るんだけど……」
ステーションで出された依頼を片付けた後に開拓者は本体ではなく機械人形のヘルタ相手に、夢で自分が男になって開拓を続けている夢を話した。
「丹恒も私と同じよう、男版の私の夢見て、そこで、私の男版と取り合ってたって」
そのついで、丹恒との話も聞かせたのである。
ヘルタは少し考えて、話した。
「そうね。此処とは違う別世界で別の人間――異性になるというのは、色んな機関で報告されているわ。その別世界というのは大半はアンタのいう夢だったり、ネットのシミュレーション内で現実とごっちゃになっただけなんだけど、まれに、本当に此処と同じだけど少しずつ違っている別世界があって、そこに片足突っ込んだという報告が上がってる。この宇宙――銀河の中では、いつ、そういう空間に迷い込んでもおかしくないし、その手の話は、昔からあるのよ。
おまけで、その体験者の話は、天才クラブや博識学会でも話題になった事がある。それだから私は、アンタと丹恒のその話は否定しないわよ」
「そう……」
開拓者はヘルタの話を聞くも、何か納得していない風だった。
ヘルタは開拓者を見ないで手元のパソコンで何か操作しながら、聞いた。
「それで、何? アンタ、開拓の旅を続ける中で、自分が男だったら良かったのにとか、そういう願望あったの? 今の医療技術であれば女から男に変える、そういうの簡単に可能だけど、アンタ、挑戦してみる?」
「いや、そういう願望はないし、今の技術で男に変わる気もないよ。今の女の私も十分、充実してるから」
「それなら、何が問題?」
「……」
数秒の沈黙。
はあ。溜息が聞こえた。ヘルタだった。
「開拓者。悪いけど私は、アンタの『個人的』な相談に乗ってるヒマ、ないのよ。これがアンタの星核や人体に影響ありそうなら、いくらでも時間作れるけどね」
ヘルタは『個人的』を強調して、開拓者を追い出す隙を作った。
開拓者はヘルタのそれを聞いて決心したよう、言った。
「ええと。私が男だったら、丹恒と同じよう、と付き合えてたかな、なんて」
「――」
開拓者の思ってなかった問いに、ヘルタの動きが止まった。
開拓者は自身の胸に手をあて、ヘルタに訴える。
「それ以前にさ、私がと友情以上の付き合いをしたいなんて、その、あの、女同士でもそういう感情持つの、おかしくないよね? ね? これも星核の影響とかは……」
「……いえ。ほかの歴史ある星ではその手の話は複雑だけれどこのステーションでは、女同士で恋愛感情を持つのは別に普通だし、女に限らず、男同士でも可能よ。それからそれに関しては、星核の影響は無いと思うわ」
ヘルタは開拓者に向けてその感情は星核の影響はないと、断言した。
それからヘルタはさっきと違い、パソコンから顔をあげて、開拓者と向き合う。彼女は、本腰を入れて開拓者の話に付き合う事にしたようだ。
「何、アンタ、女であっても丹恒と同じよう、に惚れてたの?」
「いや、惚れてるとかそういうのじゃなくて、ええと、難しいなこれ、でも、できるなら、丹恒と同じように素肌のと触れ合いたいというか……、とその気持ち良さを共有したいというか……。男の私が丹恒と取り合うのも分かるっていうか……」
もじ、もじ。開拓者は髪をいじりながら、照れ臭そうにヘルタに話した。
列車のラウンジで『なのか』に自分の夢の中でも男の開拓者が丹恒とを取り合っているのかと聞かれ、『分からない』と曖昧に答えたが、実際は、丹恒の夢と同じく、自分の夢の中でもを取り合っていたのである。
ヘルタは呆れつつ、開拓者に向けて言った。
「そこまでのものなら素直ににそれ、注文してみたら? あの子、宝石だけじゃなくて、お金につられるような単純な女だから、お金払えば案外、簡単に応じてくれるんじゃない?」
「無理、無理でしょ、それ! 男の私ならまだしも、お金払うから女で相手してくれって、引かれるに決まってるじゃん! そうなったら丹恒、私からを引き離しに来るって!」
うわああ。開拓者はそれだけでに引かれて更には丹恒から引き離されると思い、顔を真っ赤にして、子供のよう、地団駄を踏んだ。
ヘルタは再び呆れつつも、聞いた。
「反対に聞くけど、別世界の男のアンタ、丹恒無視して、相手にできてんの?」
「無理でした。男の自分がに気があると分かった途端に丹恒に警戒されて、から引き離される始末で……、あれには女の私も男の開拓者、気の毒に思った。うう……」
「それは、それは。そうだ、丹恒入れて、三人で楽しむってのはどう? 男は無理だけど、女のアンタならだけじゃなく、丹恒を取り込むくらい、簡単に出来るんじゃない?」
「うわ、それ、一番駄目なやつじゃん。確かに、女の私なら丹恒を取り込むの簡単にできそうだけど、肝心の、私と丹恒が触れ合うの見るの、嫌がるでしょ」
開拓者はヘルタの提案に、引き気味であった。
と。
「ふはっ」
「え、何?」
「な、何でもないわ、気にしないで」
「?」
ヘルタはの裏事情を知っているので、開拓者のその気遣いは反対に笑えて、肩を震わせ、その笑いを堪えていたのだった。
開拓者はヘルタに怪訝な顔をするが、ヘルタは改めて開拓者に新たに提案した。
「それじゃ女のアンタが女を利用するの、どう?」
「女の私が女を利用する? どういう意味」
「にふざけて軽く抱き着いてみるとか、がお酒飲んでる時に自分も臭いだけで酔った振りして彼女のほかの箇所を触ってみるとか。そういうの女同士だから、警戒されないんじゃない? で、その時の反応で感触良ければを誘ってみるとか、どう?」
「んー。それ良い手だとは思うけど、丹恒に見られたら、どうするの」
「別に女同士のじゃれあいくらいしか思わないんじゃないの。丹恒、そのへん鈍いから」
「なるほど。それはいいアイディアかも。いい時に実践してみるよ」
ひといきついて、それから。
「ヘルタ、私の相談に乗ってくれてありがとう。聞いてくれるだけでも、気が軽くなったよ」
「いえ、私で良ければ相談に乗るわ。これのせいで、アンタの星核に何かあったら面倒だし」
「それでも、ヘルタに聞いてもらえるだけで十分だよ。あ、この話、と丹恒はもちろん、なの、アスターと姫子にも言わないでよ」
「分かってるわ、それくらい」
「それじゃあ、列車に戻るよ。ヘルタの提案やれたら、また報告に来るかも。またねー」
開拓者はヘルタに礼を言って、その部屋を出て行った。
残されたヘルタは。
「……、私は開拓者に安心させるよう男になった夢の話は星核の影響はないと断言したけど、女の開拓者が男になる夢を見るなんてのは、モロに星核の影響だわね。多分、男の開拓者の方も同じよう、女の開拓者になってる夢を見ていると思うわ」
続ける。
「中でも、お互い、面倒な女代表のに目をつけるなんてねえ。の裏を知っていれば、丹恒と三人で楽しむ方が案外現実的なんだけどなー。女の開拓者なら丹恒は簡単に取り込めるけれど、同じよう、男の開拓者も丹恒を取り込むのそう無理な話じゃないのよね。
さて、女と男の開拓者、どっちが先にそれに気が付くか、見物だわね」
ふう。ヘルタは溜息を吐いた後、自分の権限ではないと見られない、の隠しデータを手持ちのパソコンに表示させた。
「まったく。てば、男だけじゃなく、女からも惚れられるなんて、これも、ディアンの第二王妃サマの魅力の一つなのかしら。
故郷でもあの子、クロムの支持者の間では女に絶大な人気あったっていうし、ディアンでも男関連で女に嫌われてたけど、実際は裏では女の隠れファンが多かったらしいじゃないの。
私では全然、理解できないけれど、まあ、どちらにせよ――」
そしてヘルタは、の隠しデータ、・ディアン、ディアン国の国王、ウォルター・ディアンと結婚した第二王妃、という項目を見詰める。
「どちらにせよ、女でも男でも、開拓者がのこの事実を知ったとき、どうなるのか……、その時が楽しみだわ」
ふふふ。ヘルタはここまで面白い話はないと、不敵な笑みを浮かべていた――。