また別の日の話、である。
「、居る?」
「開拓者……」
が仕切る応物課の倉庫に、開拓者が一人で現れた。
「何? また、私をからかいにきたの?」
ジロリ。は開拓者の単独での登場に、警戒心を強める。
開拓者はヘルタでの存在を知ってから――が千年遅れた世界から来たのを知ってからというもの、ステーションで扱われる機械類やアイテムを持ってきては「これ、使える?」とか、「これ、分かる?」と、自分はその扱い方を分かっているくせに、がそれを扱えるかどうか、扱えなかったら笑うという感じで、からかいに来る事がたびたびあった。
それを丹恒に訴えれば「あいつが年齢以下の子供と思えばそう腹も立たないだろ」と、開拓者側を肩を持つ発言をしてそれに憤慨すれば参った様子で「開拓者で何かあれば、俺に言え。すぐ駆けつける」と言ってくれて、これにはも満足した様子で「分かった」と返事をしたのである。
「いや、今日は、ほかのスタッフに頼まれて来たんだ。このアイテム、届いてるかって」
言って開拓者はに手持ちの端末で、そのアイテムがのせられた画像を見せる。
その画像を見た後には、腰に手をあて、開拓者に向けてハッキリ言った。
「ああ、それ、届いてたわね。というか、それくらい、そのスタッフに取りに来させなさいよ。何で開拓者がそれ取りに来たの」
「はは。は俺相手でもそういうとこ、ハッキリ言うから気持ち良いね」
開拓者は自分相手でもそうハッキリ言うに対しては、好感を持っている。
「実はそれ、ヘルタが集めてる奇物の一つで、素人が扱うには危険なシロモノらしい。それだから、そのスタッフも俺に頼ってきたんだ」
「ああ、そういうわけ。それなら開拓者向けだわ。はい、どうぞ」
「サンキュ」
は開拓者の話に納得したよう、今まで持っていた倉庫管理用の端末であるパネルを開拓者に手渡した。
「ええと、アイテムの識別番号を入力して検索……、ああ、あった、これだこれ。Fの棚ってどれ?」
「右から六番目」
「けっこう高い位置にあるな。そこのドローン使う……て、ドローンどこいった?」
「ドローン? 何それ」
「高い所のアイテム運ぶ空飛ぶマシン、そこになかった?」
「あー。あれ、操作難しくて、色々やってたら壊れちゃった」
「壊れたって。このヘルタ・ステーションで、あんなの壊す人間いる?!」
ふはっと。開拓者はがドローンを壊したと聞いて、遠慮なく噴き出し、腹を抱えて笑った。
「ヘルタかアスターで、新しいドローン補充してないのか?」
「ヘルタもアスターも、私で壊れるなら、もう扱わない方がいいって諦めた」
「それじゃ今まで高い所にあるアイテム、どうやって取ってたんだよ。逐一、男性スタッフ呼んでたのか?」
「何でそれくらいで男性スタッフ呼ばなくちゃいけないの。私の場合、これ使えば一発よ」
が得意になって指さしてそこにあったのは、ハシゴ――、脚立だった。
「ふ、ふはは、この最新の宇宙科学が揃ってるヘルタ・ステーションで脚立って! マジか! ここまで愉快な話、どこにもないぞ! ははは!」
それを見た開拓者は、再び、腹を抱えて笑った。
はその開拓者に怒りを隠さず、言い返した。
「何よ、私は此処より千年遅れた世界から来てるんだから、これが丁度良いのよ。開拓者こそ、反対に、この脚立の扱い知らないの?」
「いや、それくらいは知ってるけど。でもここの棚、一番高い所で5Mくらいあるぞ。脚立でそれ、怖くないの?」
「全然。これくらい平気だし、これくらいできなくちゃ応物課の倉庫に居座れないわよ」
「あらあら、勇敢な事で。ここでその見た目通り、俺に怖いから代わりに取ってとか泣き付いたら可愛いのに」
「ふん、そういうの、別の女に期待してちょうだい。私の裏を知った人間には、それもう通用しないって分かってるから」
「……」
「何?」
「いや、何でも。仕方ない、ここは俺が脚立で取る、はその下で支えてて」
「りょーかい」
開拓者は脚立を動かし、目的の棚にかけた。はその脚立を下で支える。
「あった、これだ、これ」
「目的のもの、見付かった?」
「見付かったよ、ありがとう」
開拓者は目的の品を手にして、脚立から降りてきた。
は、開拓者が手にしているアイテム――箱に、興味を持った。
開拓者が手にしているのは小さな箱で、黄金に輝いて、中央には本物と思われる赤いルビーがはめられ、その周囲も真珠やほかの小さな宝石で飾り付けされている豪華なものだった。
「それ、綺麗な箱ね。それがヘルタの集めてる奇物なの?」
「ある国にあった古い宝石箱とは聞いてるけど」
「宝石箱!!」
ぱあっと。宝石箱と聞いて、の目の色が変わった。
今までの怒りはどこへやら。は開拓者に近付き、上目遣いで頼み込む。
「ね、ねえ、中身、見れない? 一回だけでいいから!!」
「中身が何かは聞いていない。本当に宝石が入っているかどうか、分からない」
「それでもいいから。お願い!」
「……、、本当、見た目と違って、金目のものに目がない欲深い女だよな」
はは。開拓者は、がその見た目に反して金目のものや宝石類に興味を持つ欲深い人間である、それで同じく欲深いアスターとも気があうというのも知っていて、宝石箱を前にそれを懇願する彼女の素直さに苦笑する。
「ヘルタによれば、これ、素人が手を出さない方がいいって言ってたが」
「開拓者と一緒なら大丈夫じゃないの? 開けられるなら、開けてよ」
言っては、得意の上目遣いで開拓者に迫る。
開拓者は平常心を装いつつ、呆れた調子で言った。
「……というか、今まで俺に対して警戒心強めてたのに、これだけで急に近付いて甘えてくるの、なんなの?」
「さんは、金持ってる男が好きなの。ここで金で動く女とののしられても、平気、平気~」
「……そっかー。丹恒、よくこんな面白いの、拾ってきたなあ」
はは。開拓者は金だけで本性を隠さず接するに、笑うしかない。
「開けるぞ、気を付けて」
「うん」
ごくり。は息を飲んで、開拓者が宝石箱を開ける所を見詰める。
ぱか。開拓者は意を決して、奇物扱いの宝石箱を開けた。
「あれえ、中身、何も無いな。どこいった? 、中身カラだったけど」
開拓者が宝石箱を開ければ、中身は何も入っていない、カラの状態だった。
不思議そうに辺りを見回す――ところ、で。
どさっ。何かが倒れる音が聞こえた。
「? おい、、しっかりしろ!!」
開拓者は目の前で急にが倒れているのを知って、青ざめる。
そして。
「誰か! ヘルタ、ヘルタは居ないか!!」
開拓者はを抱えて、慌てて、ヘルタのもとへ急いだ。
「――!」
「……丹恒? 私、どうなったの?」
目を開ければ、丹恒の顔がこちらを覗き込んでいるのが分かった。
は最初、何が起きたのか分からなかったけれど。
「良かった、目が覚めて」
「此処……、私の部屋じゃなくて、ステーションの医務室?」
は馴染のステーションの医務室で寝台に寝かされていて、そのそばで丹恒が本当に安心した様子でいるのを知って、ただごとではないと思った。
丹恒はの手を握りながら、状況を説明する。
「、ヘルタが集めてた奇物に触れて、倒れたんだよ」
「ヘルタが集めてた奇物に触れて倒れた? 私、丹恒に奇物類は、温明徳課長かほかのスタッフの問題ないという判断が下るまでは触れないようにって厳しく言われてるから、応物課の倉庫ではそういうの触れないようにしてたけど……」
「開拓者がお前の倉庫に来たの、覚えてるか」
「開拓者? ……、……あー、私、開拓者に依頼された宝石箱見て、彼に無理言って宝石箱の中身見たいって」
「そう。その宝石箱、ヘルタが集めてた奇物の一つでね、箱を開ければ魔力の弱い人間は意識障害を起こすらしい」
ふう。丹恒は参ったよう、溜息を吐いた。
「俺や開拓者みたいに普段から鍛えてる人間はどうって事はないが、のような魔力を持たない弱い人間はその効力を発揮する。それだからヘルタはステーションの魔力低いスタッフがそれ扱うには危ないので、開拓者にその宝石箱を持ってくるよう依頼したんだと」
「そういう、わけ。あー、もしかして私、開拓者に迷惑かけた?」
「迷惑かけまくりだ。開拓者、お前がそれで倒れた時、素早い判断でヘルタの所まで運んでくれたんだ。ヘルタの処置が早くてそれだけですんだ」
「そう、それは開拓者に悪かったわ」
「それからヘルタが、回復すれば自分の所に来るようにと、お怒りだ」
「うわー……」
がくり。は後でヘルタの説教を食らうと分かり、肩を落とした。
丹恒も呆れた様子で言った。
「ヘルタが言うには宝石箱につられて開ける人間はバカしかいないと思ったし、このステーションでは開ける人間居ないと思ってたって。その中で、お前が率先して開けるとは思わなかった、ここまでのバカ、見た事ないって、俺の前でも手厳しかった」
「うう、仕方ないじゃない。私、ああいうの弱いんだから~。丹恒も私のそれ、よく知ってるでしょうに」
これにはも気恥ずかしく、顔を手で覆う始末だった。
そのを見て、丹恒は。
「……ピノコニーのクロックボーイのキーホルダー扱ってたショップで、あれと似たような豪華な宝石箱、あった気がする」
「え、ほんとに?」
ぱあっと。それだけでは気を持ち直し、明るくなる。
丹恒はそのに苦笑しつつ、言った。
「装飾品の宝石類はニセモノのおもちゃで、ただの小物入れだけどな。それでも欲しいか?」
「欲しい! 次、ピノコニーに行くときあったらその小物入れ、買ってきて!」
「了解。見付けたら、買って帰るよ。お前は本当、自分の欲望には忠実だな。そこがのいいところだ」
「えへへ」
丹恒は、クロックボーイのキーホルダーの時と違って、宝石箱であれば素直に欲しいと言ってきたが愛おしく、彼女の頭を優しく撫でる。も丹恒に頭を撫でられ、嬉しそうだった。
そしては落ち着いた時を見計らって、期待を込めた目で丹恒を見詰める。
「丹恒、それで倒れた私を心配して医務室まで来てくれたの?」
「ああ。開拓者やヘルタから知らせを聞いて、すぐに駆け付けた。の顔見るまで、気が気じゃなかった」
「ありがとう。とても嬉しい」
「が無事で良かった」
と丹恒は、自然と抱き合い、そのぬくもりを確かめ合う。
と。
こほん、こほん。誰かの咳払いが聞こえた。
「あ、此処、人が居たんだ」
見れば咳払いをしたのは、医療スタッフの一人だった。はここではじめて、医務室で医療班の数人の医療スタッフ達に見守られているのを知って、慌てて丹恒から離れた。
丹恒は頭をかきながら改めて、に言った。
「ええと、医療班の医者が、は一日、此処で休めば元の調子に戻れると話していた。今から、必要なもの、持ってくる。何かいるものあるか」
「そうだね、着替え、それから、お化粧ポーチが必要かな」
は丹恒に甘えるよう、その注文をする。
「分かった。注文通りのもの持って、すぐ戻ってくる。それじゃあ」
言って丹恒はから離れ、医務室を出て行った。
と――。
「、どうだった」
「……、相変わらずだ。あの様子だと、医療班の医者の言うよう、一日休めば元に戻ってる」
「そうか、それなら安心だ」
ドアを出た先、廊下にて開拓者が立っていて、彼は、丹恒が医務室から出てくるのを待っていたのだった。開拓者は丹恒からの近況を聞いて、本当に安心している。
丹恒はその開拓者と向き合うと、彼に向けて頭を下げた。
「開拓者、今回は、お前のおかげでが助かった。ほかのスタッフでは、あそこまで対応できなくて今より危ない目にあってたかもしれん。そこは、礼を言う、感謝する」
「俺からすればが無事で良かった、それだけだ」
「には、応物課の倉庫で、奇物類――自分が好きな金目の物でも課長の温明徳の許可が出るまで触れるなときつく言ってあったんだがなあ。これは俺の監督責任だ、お前はそこ気にするなよ」
「いや。が欲深いの分かってて、彼女に不用意にあの宝石箱見せた俺も悪かった。反対にお前がそこまでかしこまらなくていいし、その責任を感じる必要もない。お互い、今まで通りの関係でいこうぜ。俺と丹恒、も羨むほどの親友だろ」
「……そうだな。この時ばかりは、開拓者と親友で良かったと思うよ」
はは。開拓者は丹恒の肩を叩き、笑ってそう言った。丹恒も開拓者にそう言われて、落ち着きを取り戻す。
「俺はこれから、今日だけ医務室に入院する必要があるに必要なものを取ってくる。お前は好きにしろ、それじゃあ」
「ちょっと待って。親友殿に聞きたい事がある。それがあって、此処で待ってたんだ」
「何だ」
丹恒は先ほどに頼まれたものを取ってくると言って、開拓者から離れた所だった。
「――治療中にの腹に包帯巻かれてるの、チラッと見えたんだけど。あれ、何?」
「――」
それは。
「……、のそれは開拓者には関係ない話だ、気にするな」
「丹恒、その言い方、のあれが何か分かってるのか」
「……」
「あれ、今回、巻かれたもんじゃないよな。医療班のスタッフに聞けば、丹恒かヘルタの許可が無ければ答えられないって言われた。俺が何言っても開拓者でも無理、無理、言ったの分かれば、ヘルタにステーションから追放されるって震えあがる始末だった。のあれ、そこまで隠すようなもんなの?」
「……」
「、何日か一回、丹恒を連れて、あの医務室に通ってるんだってな。それだけ聞き出せたけど、俺、それすらも知らなかったんだけど」
「のそれを、お前が知る必要はない。お前はより、開拓に専念した方がいい」
「傷つけた奴、この宇宙に居るのか? それだけ教えてくれよ」
「それ聞いた所で、どうする気だ」
「どうもしない。どうせ、丹恒の手でとっくに傷つけた犯人、抑えてるんじゃないのかなーと思って。そうだろ? お前、を傷つけた奴が分かれば、身内でも容赦しないからさ」
「開拓者の推察通りで、を傷つけた『モノ』は、俺の手で容赦なく潰し、その復讐は果たされた。それ以上はない」
「そうか。それ聞けば俺も安心だ。それじゃあ」
開拓者はここでそれに納得した様子で、そこから立ち去る気で、丹恒から離れた――けれど。
「待て、俺もお前に聞きたい事がある」
「何?」
開拓者は振り返らず、丹恒に応じる。
開拓者から丹恒の表情は見えず、丹恒にも開拓者の顔は見えない。
「――開拓者、お前、にどこまで本気だ?」
「はあ? 何それ、どういう意味」
「開拓者はに友情以上の気があるのかと、聞いている」
「丹恒、俺がに友情以上の気があるって思ってるのかよ、いや、に丹恒ついてるの知っててそれない、ないって。酷い勘違いだと思うぞ」
「……俺の勘違い、それならいいが。ピノコニーのクロックボーイのキーホルダー、はとても喜んでいた」
「そう、それは良かった。俺の言った通りだっただろ」
「はしかし、お前にそのキーホルダーが欲しいなんて、一言も言ってないそうだ。それ気になって個人的に調べれば、お前が注文受けた男性スタッフの一人の相手、と親しい応物課の女性スタッフだった。彼女は俺に、確かにとクロックボーイのキーホルダーやほかのアイテムについて話題にした事があった、しかし、それについて開拓者には聞かれてないと思うとも話してくれたよ」
「……だから何? 俺がそのと親しい女性スタッフから、もそれ好きだって聞いて、のためにわざわざそこまで行ったと言いたいのか」
「ああ。それ以前にお前は今まで、ステーションで個人的で私用な依頼、受けてたかと思ってな。彼女の相手、注文した男性スタッフはより階級上で、姫子さんの列車かほかの移動手段でピノコニーに行ける権限は持っている。お前はそれだからそれくらい自分で行け、その方が彼女にも印象よくなると言って、追い出すと思ったが」
「これもステーション内の人間関係維持するためのもので、それ引き受けた方が今後の活動もしやすいと思っただけだ。丹恒もそれくらい、理解してると思ったけど」
「開拓者、ステーションだけじゃなく、ヤリーロ・Ⅵや仙舟でも、人間関係気にせず彼らの間をズカズカ土足で踏み込んでいってたじゃないか。お前は、仙舟でも雲騎軍の景元将軍や天舶司長官の御空相手に遠慮無かっただろ。そのお前が、そこまでステーションの人間関係、気にするのか?」
「はは。そうだったかなー。俺でも仙舟のお偉いさん相手にわきまえる時はわきまえてたんだけど、丹恒にはそう見えてたかー、そうかー」
「……」
ひといき。
「お前が俺の資料部屋に勝手に入って勝手に散らかしていくのも、が来るのを知っていて彼女の気を引くためじゃないのか」
「……」
開拓者は答えない。
続ける。
「倉庫の奇物の宝石箱も、ヘルタは最初、倉庫に居座ってるのため、俺に依頼を出してたんだが」
「え、そうだったの?」
「ああ。俺の端末にヘルタとそのやり取りが残されてるから、確認を」
「あ、ほんとだ。『丹恒、を迎えに行くついでに倉庫で奇物の宝石箱持ってきて』ってあるな。俺、ヘルタからそこまで聞いてなかった」
「俺はヘルタにそれの記録通り『いつでもいい、を迎えにいくときのついででいいから、倉庫に保管されているその宝石箱、持ってきて』と言われ、その時間まで放置していた。お前がそれ引き受けるとは思わなかった」
「俺は、いつものよう模擬宇宙寄ってきたついで、そこに居るヘルタに頼まれたんだよ。それ以降に暇なら、の倉庫で宝石箱持ってきてくれってさ。いやまさか、宝石箱一つで俺と、あんな目にあうとはなあ、ヘルタもこれなら丹恒にそれ、持ってきて欲しかったんじゃないかな?」
「……、ヘルタは、を迎えに行く予定の俺に気遣うように開拓者に依頼を出すのは最初、遠慮したと言ってたが。それでもお前に強引に押し切られ、仕方なく応じたと」
「の倉庫、面白いんだよな。この最新の宇宙科学が集まるヘルタ・ステーションでで掃除ロボット壊した影響か掃除道具は原始的な雑巾とバケツとホウキだし、虫わいてもそれを捕獲するのはこれまた原始的な網だし、そこでほかのスタッフに隠れて丹恒の土産の菓子食っててそれの隠し場所も面白かったし、高い所のアイテム取るためのドローン壊したって聞いた時はさすがに爆笑したぜ、はは――」
「――開拓者、お前、俺の知らない所での倉庫に通ってたのか? 俺はお前に、の倉庫についてそこまでの情報、与えてなかったが」
「あ」
ギロリ。丹恒は開拓者を睨みつける。
睨み合う事、数秒。
はあ。溜息が聞こえた。開拓者だった。
「……に手はつけてない、それは誓う」
「それはそうだろうな。はそういうのは、俺にきちんと訴えてくる。開拓者がまだこのステーションに現れていない頃の話だが、俺にほかの男性スタッフにセクハラされたと、その被害を言ってきた事もある」
「それ、どうしたの」
「にその被害の証拠集めさせて、それを俺の手で温明徳課長とアスター、ヘルタに提出、ちゃんとそいつを処分してもらった」
「うわ、こわー。丹恒、に関しては本当、容赦しないなあ」
開拓者は口では怖いと言いつつ、顔は笑っていた。
丹恒は、あくまでも冷静に話した。
「を先に見つけたのは俺で、を拾ってきたのも俺だ」
「分かってる」
「は俺のものだ、誰にも――たとえ開拓者にも渡す気ない」
「それも分かってる、けど」
「けど、何だ」
「けど――、長命種の持明族で特殊な力を持つ丹恒は分からないだろうけど、のような普通の人間はお前が思ってるより色々心変わりしやすいっての、忠告しておこうと思って」
「……何が言いたい。持明族の俺でも、の人間性は理解しているつもりだが」
「この広い宇宙で、丹恒以上に最強でイケメンで、しかも金持ってる男が現れたら、、あっさりそっちにいくんじゃないかなーと思って」
「……、俺以上に最強でイケメンで金持ってる男、この宇宙でそんな奴居るか?」
「今までの開拓の旅で出会った人間達を見ればその確率としては高い方で、有り得る話じゃないか」
「そんな奴が現れれば、俺はそれ以上になってを引き留めるだけだ」
「うわ。その愛、重たくない?」
「現状、この宇宙で俺以上の男なんて開拓者くらいだ――と、俺に言ってもらいたかったんだろ、お前は」
「あ、バレたか」
「それくらい分かる。俺は、お前の親友だからな」
「はは、そこでそれ使うのずるくない? それじゃあ俺が本気でに気があるの、認めるしかないじゃん」
それでも開拓者はいつもの調子を崩さず、丹恒に向けて明るく話した。
「丹恒、お前、どこであんないい女、拾ってきたんだ」
「お前に教えるわけないだろ」
「親友同士が親友の恋人を取り合うなんて、この宇宙でどれくらいの率だと思う」
「さあな。ただ俺は、目の前の開拓者が男ではなく、女だったら良かったのにとは思うよ。男同士でここまで面倒な話になるとは思わなかった」
「だなあ。俺が女の子だったらここまで面倒な話にはなってないし、俺の女版はお前よりもの方にべったりだったわ」
「おいおい。女同士だろ、それアリか?」
「いや、それがアリなんだよ。俺の女版はといろいろ相談しあってて、丹恒に関する愚痴も聞けたし、にも触り放題だったなあ」
「……開拓者、お前、どこでそれ体験した? まるで自分が女になってに接していたのを見てきたかのような言い分――」
「――そろそろ、元の世界に戻る時間だよ」
開拓者は丹恒に顔を近付け、そう言った。
丹恒は、開拓者の顔をはじめて間近で見て、『それ』に気が付いた。
「何だ、お前、開拓者じゃないな。何者――」
「――夢の続きは、目が覚めてからどうぞ?」
トン、と。開拓者が指を丹恒の胸あたりに差した途端、だった。
暗転。
世界はぐるりとBからAへと戻る。
あちらの世界からこちらの世界へ――、引き戻された感覚があった。
A世界――通常の世界。
星穹列車は丹恒の資料部屋にて。
「……ッ!」
丹恒は、そこから飛び起きた。
辺りを見回せば、いつもの自分の資料部屋にある寝床だった。
熱い。
手のひらを見れば、汗が噴き出しているのが分かった。見れば手だけではなく、額や首、体中から汗が噴き出していた。
「……今の、夢、か? 、はどこだ!」
資料部屋を見れば、そこで寝ていたはずのの姿がなく。
丹恒は慌てて、資料部屋を飛び出したのだった。
「えー、ほんとにぃ?」
「マジで。そんな事ってあるの?」
「そうそう、それでね――て、きゃあっ!?」
あははー。丹恒が慌てて資料部屋を出ていけば、すぐにの笑い声が聞こえた。
は列車のラウンジで、開拓者と『なのか』相手に、談笑していたのである。
丹恒はそのを見つけると、彼女の了解も得ず、力を込めて抱き締めた。
「え、な、何、急に、どうしたの?」
はしかし急に抱き着いてきた丹恒には慌てるも、悲鳴も上げずにそれを受け入れるよう、応じる。
「……目が覚めた時に、隣に居るはずのが見当たらなかったから、それで」
「あ、そうだったの。でも丹恒、あれから二日くらい寝込んでたんだよ。それ、気が付いてないの?」
「は? 俺、あれから二日くらい寝込んでたのか?」
「うん。丹恒、私と寝てから二日くらい、ぐっすり寝てたよ。私も丹恒が朝になっても目を覚まさないから最初はそれ心配してたんだけど、開拓者と『なのか』に丹恒の様子見てもらって、二人の判断で寝てる丹恒は起こさない方がいいって言われたから、そのままにしてたの」
「二日……、最近、開拓者や三月と長い旅に出たわけでもなかったのにそんな事、有り得るのか?」
丹恒はからその説明を聞いても、信じられなかった。
と。
「の言う通りで丹恒、二日の間、ぐっすり寝てたんだよ。が心配するほどね。だけど、私と『なの』は、寝ている丹恒の様子見るに、それが丹恒の通常の睡眠状態だって分かったから、そのまま寝かせてあげてって、にそれ教えたんだ。で、その間、私と『なの』でについてあげてたんだよね」
「そうそう。丹恒がいつまでも目を覚まさない、それ、心配したから聞いたウチと開拓者で、その丹恒を確認しにいった。ウチと開拓者でその丹恒は、いつもの深い眠りに入ってるだけって分かってね。その丹恒を心配するを安心させるため、ウチと開拓者で、今まで彼女についててあげてたわけ」
「そうだったのか……。開拓者に三月、俺が寝ている間にを安心させるよう、彼女に付き添ってくれてたのは感謝する。色々迷惑かけてすまない」
丹恒は、今まで、二日も自分の目が覚めずに不安だったろうに付き添ってくれた開拓者と『なのか』に向けて、素直に頭を下げた。
「大丈夫、そこ、気にしないで。私、と居ると面白いから」
「うん、うん。そこ、気にする必要ないよ。ウチも、についてるのはそこまでのものじゃないから」
開拓者と『なのか』は、揃って、丹恒にそう返事をした。
ところ、で。
「ん、何。どうしたの」
開拓者は、ジッと丹恒に見詰められている事に気が付いて、怪訝な顔をする。
丹恒は聞いた。
「――開拓者、お前、女か?」
「此処で、ぶっ飛ばされたい?」
ははは。丹恒に真面目にそう問われた開拓者は笑顔で、グローブを外して素手の拳を丹恒に向けたのだった。