某日。星穹列車はラウンジにて。
「――、彼は、サンデー。サンデーはピノコニーのファミリーの一員だったんだけど、とある事情からそこから離脱、ヴェルトがピノコニーから逃げている彼を見付けて保護して、先日、列車の仲間入りを果たしたの。サンデーは新人という事もあって、開拓者や三月ちゃんには、弟扱いされてるわ」
姫子、丹恒、ヴェルト――そして、先日、仲間入りを果たしたばかりのサンデーが集う。
「サンデー。こちら、ヘルタ・ステーション、万有応物課所属、Ⅱ階級の。普通、ステーションでのⅡ階級はⅣ階級の課長クラスやヘルタの許可がなければ星穹列車に乗れないんだけど、彼女、丹恒とは恋人関係にあって、それで、この星穹列車でも特別扱い受けてて、いつでも乗車していい身分なの」
姫子は、サンデーをに、をサンデーに紹介したのである。
サンデーはではなく、丹恒を見て彼に聞いた。
「さんは丹恒さんの恋人……、ですか。丹恒さんが彼女を助けるためにその関係を偽装しているとかではなく?」
「は、俺の恋人で間違いない」
言って丹恒は、サンデーの前でと腕を組んでみせた。
肝心のといえば。
「……(めっちゃ凄いイケメン来た、しかも天使様、何これ何これ、イケメン天使じゃん!!)」
サンデーの凄いイケメンぶり、そして、彼の天使の外見を見て、舞い上がって震えていたという。
「……(、イケメン好きなのは周知の事実だが、自分の想像を超えたイケメン見ると何もできなくなるんだよな)」
はは。丹恒はと腕を組んだ時、の震えが直に伝わり苦笑するだけだった。
「サンデー、そういうわけで、たまに丹恒目当てで乗ってくるけど、あまり彼女に触れないように。もサンデー見て、驚かないでちょうだいね」
「分かりました」
「うん。もう、サンデー見て驚かないよ」
サンデーと、双方の反応を見て、そう、姫子がまとめに入った。
サンデーともお互いを見て、しっかり、うなずいた。
因みにこの時、開拓者と三月なのかは不在で、ラウンジに姿を見せていなかった。
普段は開拓者と『なのか』は初対面人間相手にすぐ打ち解けて頼りになるが、ここでは開拓者と『なのか』の二人が不在の方が落ち着いて段取りできると、姫子が判断した結果である。
それだけではなく、丹恒不在の時にがサンデーで騒がれると面倒、サンデーもをどう扱っていいか分からない、早いうちにお互いの顔をあわせた方がいい――、ヴェルトの提案を姫子と丹恒が受け入れた形で、この場が設けられたという経緯があった。
「サンデー、よろしくね」
の方からサンデーに歩み寄り、彼と握手をするつもりで、手を差し出した。
その様子を見ていた姫子、ヴェルト、丹恒の三人は「とりあえず上手くいった」と胸を撫で下ろしていたが――。
「――無能力で無資格、ただの人間であるあなたがどうして丹恒さんの恋人になれたのか、そのレベルでどうしてヘルタ・ステーションのスタッフになれたのか理解不能ですが、よろしくお願いします」
ピシッと。
サンデーの容赦ない言葉で、その場に集う人間達の間に亀裂が入った瞬間であった――。
それから数日後。
その日、開拓者が星穹列車に帰れば、美しい曲が流れていた。
「誰かレコードかけてる……、て、これ、ピアノの生演奏?」
最初は誰かがレコードをかけてるのかと思ったが、耳を澄ませばピアノの生演奏である事に気が付いた。
「ヴェルト、これ、誰が演奏してんの?」
「最近仲間になったばかりのサンデーさんだよ」
開拓者は、いつもの席に座っていたヴェルトにそれを聞けば、ヴェルトはサンデーの居る部屋の方角を指さしそれを教える。
開拓者もヴェルトと同じ方を見て、聞いた。
「この列車、ピアノあったっけ?」
「サンデーさんから部屋にピアノをどにかして入れたいという要望があって、パムがそれを受け入れたんだ」
「ピノコニーにあったサンデー専用のピアノ、プロ仕様か随分と大きかったけど、この列車に入った?」
「いや、それとは別の小型ピアノだ。あれは、ピノコニーに寄贈したって話してたな」
「サンデー、ピノコニーではプロ歌手の妹のロビンについて、演奏やってたほどだからな。これからはこの列車でも、プロの生演奏が聴けるのか。これは、レコード集めが趣味で資料部屋でもレコードで曲かけてた丹恒も嬉しいだろうなあ」
「……」
開拓者は、レコード集めが趣味で資料部屋でもレコードを持ってその曲を聴いている丹恒であれば、プロの演奏家であったサンデーが仲間になってくれて嬉しいだろうとは思った。
それが。
「あれ、ヴェルト、浮かない顔して、どしたの。サンデーの生演奏、丹恒が嬉しいなら、ヴェルトも嬉しいと思ったけど」
開拓者は、丹恒と師弟関係であるヴェルトであればプロ演奏家のサンデーの仲間入りは彼と同じように嬉しいと思ったが、浮かなか顔をしていたので、それが気になった。
ヴェルトは頭をかいて、例の件について開拓者に話していいかどうか、迷う。
「これ、開拓者に話してた方がいいかなあ」
「何? サンデーと丹恒の間で、何かあったの?」
「サンデーさんと丹恒の間で何かあったというわけではないんだけど、ううん……」
「ちょっとちょっと、ヴェルトにしては歯切れ悪いなあ。丹恒に気遣ってるのか、サンデーをこの列車に連れて来た張本人であるヴェルトがそんな態度であれば、サンデーも居心地悪いんじゃないの。それは、閉鎖的な列車内ではよくないと思うし、仲間内の問題は仲間内で共有した方がいいと思うけど」
「ふむ、開拓者にしては正論だな。この件に関しては開拓者の言う通り、星穹列車の仲間内で共有していた方がいいだろう。分かった、サンデーさんと丹恒の間で何かあったか、開拓者に話すよ」
ヴェルトは開拓者の説得を聞いてそれに納得した様子で、サンデーとの間に何があったかを聞かせたのだった。
ヴェルトからサンデーと丹恒の間で何かあったのか聞いた開拓者は、一言。
「うわあ、辛辣ゥ!」
サンデーのに対する容赦ない言葉に、のけ反り、思い切り引いていたという。
「サンデー、私達が来る前はピノコニーのファミリーでオーク家の当主として頂点に立ってて、そこではヘルタ以上の実力主義者で使えない人間はどんな事情があっても容赦なく切り捨ててたっていうから、そりゃ、無能力で無資格のみたいな人間見れば、そうくるわなぁ」
「はは。これには、俺も姫子も失念してたよ。そのサンデーさんにお目にかかるには、念入りな準備をして挑まなければいけないってさ」
ヴェルトはサンデーのこれには参った様子で、力無く笑うしかない状況であった。
「で、肝心の丹恒とはサンデーになんて?」
「丹恒も参った様子で、『お前とはあわないのは分かった、今後、に近付かないでくれ』と言って、を自分の部屋に連れて行って、そのままだ。普段であれば男でも階級高い人間でも遠慮ないもこうくるとは思わなかったのか放心状態でサンデーさんに何も言い返せず、丹恒に従うだけだった」
「そうかあ。これはちょっと、ややこしい事態だね」
いつもの開拓者であれば「それくらい、私に任せて!」と胸を張って応じるが、今回ばかりは難しい問題のようで、腕を組んで考えている。
「これ、開拓者でも難しい話かい?」
「そうだね。無能力で無資格でもがステーションだけじゃなく、列車でも役に立つ存在だっていうの、サンデーに分からせないといけないからね。あと、これには、丹恒の協力もないといけないでしょ」
「なるほど。これに関しては、開拓者でも時間かかりそうか」
ふむ。ヴェルトもどうにかいい方法はないかと、腕を組んで考える。
そして。
「まずは手始めにサンデーの演奏終わったら、サンデーに直接、話聞いてみる……て、あれ」
「どうした?」
開拓者は最初は当事者のサンデーに話を聞いてみるのが手っ取り早いと思い、端末で彼に連絡を取ろうとした所、それに気が付いた。
開拓者は困ったよう、それをヴェルトに見せて言った。
「ヴェルト、サンデーの部屋に丹恒とが居るって表示されてるんだけど。これ、どうしたらいい?」
「!」
バタバタ。「廊下は静かにするんじゃ!」というパムの静止も聞かず、ヴェルトは開拓者と一緒になってサンデーの部屋に急いだ。
そして。
「丹恒、!」
「サンデー、丹恒はともかく、に手を出せばこの私が承知しないよ!!」
ヴェルトと開拓者は演奏中であっても構わずドアを開け、そこに飛び込んだ。
と、そこにあったのは――。
「開拓者だけじゃなく、ヴェルトさんまで? 列車で、何かあったんですか?」
「ええ、何で、私がサンデーに何かされるの前提なの?」
演奏中の部屋に飛び込んできたヴェルトと開拓者を見て驚くは、ソファで落ち着いた様子で、優雅にテーブルに用意されたケーキを食べて紅茶を飲んでいる丹恒との二人だった。
「は? と丹恒、あれから時々、サンデーさんの部屋にお邪魔して、ピアノの演奏会やってもらってたのかい?」
「こいつが――が、サンデーがピノコニーではプロの演奏家だって知った途端、生演奏どうしても聴きたいっていうもんですから、俺が同伴してサンデーの部屋で彼の生演奏聴いてたんですよ」
サンデーとひと悶着あったと丹恒を危惧して来たもののそれとは違っていたので、拍子抜けするヴェルトを前に丹恒は、バツの悪そうに頭をかいてそう説明した。
「、ヴェルトからサンデーに無能力と無資格な部分をつかれて、それで彼と険悪になってるって聞いたんだけど」
「あー、それね。確かに私はそれでそっぽむかれるの分かるし、その時は何も言い返せなかったんだけど。でも、丹恒の部屋に居る時、どこからともなく美しい曲が聴こえてきて、あれ誰が演奏してるのかって丹恒に聞けばサンデーだって教えてくれて、更に丹恒から彼はピノコニーのプロの演奏家だったって聞いて、それで、渋る丹恒説得して彼と一緒にサンデーの部屋まで突撃しにいったんだー」
開拓者とヴェルトはと同じ大きめのソファに座り、からその説明を聞いている。
「私、故郷でもプロの生演奏聴くの好きだったんだよね。で、此処でサンデーの生演奏聴いて感動しちゃって、それから、丹恒の都合のいい時限定だけど、一緒にサンデーの部屋に入り浸るようになったの。
サンデーも私が突撃していった件は嫌な顔しないで、反対に聴いている人間が居ると弾きやすいので歓迎しますって、受け入れてくれたんだよね。で、私達がサンデーの所にお邪魔する時はパムに頼んで、ケーキと紅茶をご馳走するようになってね。
あ、開拓者とヴェルトさんもケーキと紅茶、どうぞ」
「ありがとう」
「どうも」
ヴェルトと開拓者も、からケーキと紅茶を受け取る。
開拓者は紅茶を飲みながら、言った。
「丹恒はレコード集めるほど音楽好きなのは知ってるけど、までとは意外だわ」
「それね。故郷では、休みの日はお城で各地から集めた音楽家が生演奏会やってて、それを聴きに行くのが習慣づいてたから」
「そういや、故郷では王族に仕える立場でお城に勤めてたんだっけ。はそこで、王族にピアノとかバイオリン、教えてたの?」
「そんな、恐れ多い。私は王族にそれを教える立場になくて、単純に彼らと一緒に生演奏聴いてたってだけだよ」
「いや、それでも王族と一緒に音楽鑑賞なんて、凄い話じゃん」
は開拓者と『なのか』には、故郷では城で王族に仕える一族で彼らの教育係だったと、偽っている。開拓者はのそれを疑わず、信じている。
と。
ヴェルトと開拓者の登場で演奏を止めたサンデーが、不思議そうに聞いた。
「おや、さんは故郷ではお城勤めで、そこでは王族に仕える立場の人間だったんですか?」
「あれ、サンデーはそれ知らなかったの?」
「はい。ワタシはさんについては姫子さんから、丹恒さんの恋人で、ヘルタ・ステーションのスタッフの人間であるとしか、教わっていませんが。これ以外、まだ何かあったのですか?」
「丹恒、ヴェルト、。どうする?」
開拓者は、の秘密をサンデーに打ち明けていいものかどうか、丹恒とヴェルト、にそれの確認を取る。
丹恒は溜息を吐いた後、仕方なしという感じで、応じる。
「まあ、いいんじゃないか。列車の仲間入りを果たしたサンデーもの身の上くらい、聞いておくべきだ」
「そうだね。開拓者の知る範囲であるなら、サンデーさんにの事を話しても問題ないだろう」
「うん。私もサンデーに私の事、知って欲しい」
「実は……」
丹恒とヴェルトの許可を得られた開拓者は、と一緒になって、彼女の身の上をサンデーに聞かせたのだった。
「ふむ。さんはヘルタ・ステーションではアスター所長代理の知り合いの幹部の一人娘という事にしてありますが実際は、ヘルタさんの任務で星核目当てにその星に調査に来ていた丹恒さんの失敗でレギオンに故郷を奪われ、そこから丹恒さんの手で引き上げられてこの列車まで連れて来られステーションに保護され、現在に至るというわけですか」
「うん。故郷で星核目当てに来た丹恒とは、私が学者として勤めてた城で知り合って恋人になってて、いつかは宇宙に帰る彼と別れる気でいたんだけど、丹恒の失敗で故郷がレギオンにやられて、丹恒の手で私一人だけこの列車に連れて来られてステーションで保護されたんだよ」
は重要な部分は明かさず、開拓者も知っている部分だけ、サンデーに打ち明けたのである。
「サンデーからすればこんな話、信じられないかもしれないけど……」
「いえ、信じられますよ。ワタシが属していたピノコニーの夢境でも、レギオンに自分の故郷を奪われてそこから逃げてきた人間達がけっこう、居ましたからね」
「ピノコニーの夢境といえば、何でも好きな人物になりきれるって聞いたけど、本当の話だったの?」
「はい。ピノコニーの夢の中では、お金を払ったぶんだけ、理想の自分が作れます。レギオンに故郷を奪われた人間達は、それらを忘れたくて、その夢に逃げ込むのです」
「それらを忘れたくて、夢に逃げる……」
は、ピノコニーに関しては姫子やヴェルトから、とある装置を使って夢の中へ潜り、夢の中で理想の自分になりきり、楽しく遊べる世界だと、教えられた。
夢で理想の自分になって遊べる、それは面白そうな世界だと思ったが、現実と夢の区別が曖昧で、現実が嫌になって夢の中に逃げるはいいが、そこに囚われたら現実に引き返せなくなる恐ろしい場所だったと、その夢世界を体験した丹恒から聞いている。
は、故郷でレギオンによって自分の世界が滅ぼされた出来事が全部夢だったらどうかと考える時が、時々、あった。自分はまだあの城で深い眠りについているのではないか、眠る自分のそばでは、ロイや国王が心配しているのでは――。
「――、この列車の中こそが、現実だ。惑うな」
「うん……」
の考えを見透かしたのか、丹恒は言って、彼女の手を握ってきた。はそれだけで、落ち着きを取り返した。
「……、それ以外、さんが王族の教育係を任される一族の城の関係者だというのも本当である、というのも、納得ですね」
「え、何でのそれに納得できたの?」
ではなく開拓者が、不思議そうにサンデーを見る。
サンデーはケーキの皿を持ち上げ、言った。
「開拓者、あなたは自分の食べたいよう、ケーキを食べていますね。口にクリームがついてもお構いなしに」
「あ」
「私、ハンカチ持ってるから」
開拓者はここで自分の口にクリームがついてるのを知って自分の手で取ろうとするもそれをに止められ、彼女の持つハンカチで拭きとられてしまった。
「、ありがとう」
「ふふ、開拓者らしい」
気恥ずかしくなって笑うだけの開拓者と、上品に微笑むと。
次にサンデーは、その様子を見ていた丹恒とヴェルトの二人を見比べ、言った。
「丹恒さん、ヴェルトさん。今ので、開拓者とさんの違い、分かりましたか?」
「は? 今の、開拓者との違い? 今ので、特におかしい部分はなかったが……」
「俺も特には――ああ、開拓者よりもの方が品があるという部分かな?」
「さすがヴェルトさん、その通りです」
サンデーは丹恒よりヴェルトの観察力に感心を持ち、彼に拍手を送る。
「ヴェルトさんの指摘のように開拓者はどんな場面でも相手を気にせず自分の思うように振舞っていますが、さんは相手を立てるようにその場にあわせた品のある振る舞いをきちんと行っているのが、ワタシの目から見ても分かったんですよ。
さんの『それ』は、ちゃんとした所作や作法の教育を受けた人間のなせる技です。更に言えばさんの所作はそれこそ、王族に仕えるような特権階級の人間しか習得できないものです」
「へえ。サンデー、見ただけでそういうの分かるの?」
「ええ。ワタシも一応、ファミリーのオーク家の当主として小さい時からその手の教育を受けてますし、ピアノといった演奏ができるのもその教育のうちです。そういうわけで、さんのその話は特に疑う余地はないと思った次第です」
「なるほど。と同じ特権階級出身のサンデーが言うと、説得力あるわな」
ふむ。開拓者は、サンデーのその話は説得力があり、納得いくものだった。ヴェルトも同じだったようで、深くうなずいている。
「、サンデーの言う事は確かでいい――」
のか、と、の方を振り返りその確認を取ろうとしたが彼女は開拓者は見ておらず、サンデーと手を取り合っていた。
それというのも。
「サンデー! 今まで、私のそれについて言及してくれたの、サンデーだけ!」
「そうなんですか?」
「私も小さい頃からずっと、城に行くならそれくらいできなくてはいけないって、お父様に言われて家庭教師付きの厳しい所作や作法といったその手の教育受けたんだよ! 今でもその厳しさが忘れられないほどに! その苦労を分かち合える人間が居るなんて!」
「いや、ワタシの場合はそこまでの苦労はありませんでしたが」
「というかサンデーって、ピノコニーではオーク家の当主様やってたの? ピノコニーでそれって、大変なお金持ちなんだよね。この列車にそんな凄い人も乗ってくるなんて、思わなかった!」
「いえ。ワタシはそこが嫌になって逃げ出した所を、ヴェルトさんに拾われたんですよ。もう、オーク家の当主ではありません。ただの一個人のなれの果てです」
「それも、私と同じ! 私もそういうのが嫌になってそこから逃げだして、丹恒に助けてもらったんだよ!」
「そう、ですか……」
「星穹列車で、この苦労が分かりあえる人間が乗ってるのは、嬉しい。今後とも、よろしくね!」
「はあ、よろしくお願いします」
は浮かれた様子で、サンデーはいつもの調子で、それぞれ、握手をかわしたのである。
「ふむ。お金持ちには、お金持ちなりの苦労があるのか」
「はは。どんな世界でもその地位につくには、それなりの努力が必要だからねえ」
お金持ち同士の苦労で理解しあえたとサンデーを見て感心するのは開拓者で、彼らの苦労は分かると苦笑するのはヴェルトであった。
それから開拓者は興味あって、に素朴な疑問を投げる。
「は故郷ではお城の人間でその手の教育受けたっていうなら、サンデーみたいにピアノとかバイオリン、やらないの? ステーションは無理でも列車内であればパムに申請すればサンデーみたいに楽器類は与えられるのに、それで弾いてるとこ、見ないけど」
「あー。私も一応、お城でその手の芸術性の高い教育受けたんだけど。でも、途中で才能ないの分かって挫折して、すっかり諦めたんだよねー」
あははー。は開拓者の素朴な疑問を聞いてそれに関して落ち込む風ではなく、あっけらかんとしていた。
開拓者はサンデーの持ち込んだピアノを見て、言った。
「才能……、やっぱりこういうの、努力より、才能がものを言うんだ?」
「そうだね。努力してモノにする子も居るけどそれは稀で、やっぱ、一番は才能だよ。私なんて、とても、とても」
「……」
は開拓者に照れ臭そうに笑うだけだったが、丹恒はこの時、一度だけ、あの城で第二王妃のではなく、第一王妃の演奏を耳にした事があったのを思い出していた――。
過去、ディアンにて。
その日の丹恒は、の護衛から外れて一人、城の中をうろついていた。兵士長から暇なら兵士達の訓練に参加しないかと誘われるも、自分と彼らではレベルがあわないと、断った。
一人で城をうろついているのは手持ちの端末を持って、城に星核の反応がないかどうか、調べるためだった。星核があればヘルタの技術で城内の地図に反応を示すと聞いているが、いまのところ、何の反応もなかった。
『今まで、についた振りして城内やその街中で星核の反応があるかどうか、こっそり調べてみたが、なんの反応もないな。塔の周辺、国王の部屋の周辺や地下も反応無しだ。まだどこかに隠し部屋みたいなのがあるのか、それとも、領地内を抜けてレギオンが集まってうろついている海岸あたりか……』
うーん。丹恒は端末を持って国王だけが知る星核の所在を考えるも、見当がつかない。
と。
どこからか、美しい曲が聴こえてきた。
『なんだ? ピアノ……、本格的だな』
耳を澄ませばどこからかピアノの音色が聴こえ、その奏でる音は、プロに匹敵するものだと思った。
『これで、出所探ってみるか……』
丹恒は、端末の追跡機能を起動させた。
耳だけでは聴こえない音でも、端末を介せば、音がハッキリ聴こえる仕組みで、どこで弾いているかもすぐに特定できる。
丹恒は星穹列車の資料部屋にレコードのコレクションのコーナーを作るほどのレコード収集家で、音楽にはうるさかった。
『の仕業……、じゃないな。あいつ、今日、教会で検査があるって言って朝早くから出かけて行ったからな』
今日のは、朝早くから、城の領地内にある教会まで出かけて検査をすると話して、そこで別れた。
丹恒は当然、の護衛として教会までついて行こうとしたが、に止められた。それというのも。
『そこの教会、女性ばかりで、男子禁制なの。それで今日はあなたの代わりに女の兵士がついてくれて、教会周辺には女の兵士が駐在してるから、あなた抜きでも大丈夫よ』
『へえ。その教会は男子禁制で俺の代わりに女の兵士がついて、そこでも女の兵士がついてるのか。随分と徹底してるな。その教会、何で男が入れないんだ? 普通の教会なら、男も一緒に入れると思うが』
丹恒は、徹底的に男子禁制にしている教会が気になった。
こほん。は咳払いをして、丹恒に耳打ちした。
『そこで、女性向けの性教育とかそれ系の検査、やってんの』
『!』
『その教会、城で突然その予兆がきた女性職員の駆け込み場所でもあるんだよね。そこで極秘で産まれた子もけっこう居る』
『……なるほど、そういうわけで男子禁制か』
うわー。丹恒はから教会の裏の顔を知って、それに納得したよう、頭を抱える。
『因みに私がそこ行くのは、月イチの定期検査で体の調子を診てもらうためと、モロモロの相談受けてもらうためね。これも私にとって、必要な習慣ってわけ』
『そうか、それなら今日はもう、俺は必要ないな』
丹恒はに自分の代わりに男の兵士がつくというのであれば不満だったが、教会が男子禁制で女の兵士がつくというのでそこは問題にしなかった。
『夜には帰って来られるから、それまで、好きにして。あ、あなたも城の女の子に手を出して相手から何かあった時は、教会に相談するといいわよ~』
『誰が教会の世話になるか!』
は最後にニヤニヤ笑っていて、丹恒はそれにそう反論するのが精一杯だったという。
そういうわけで、今回、は不在で、一人で城の中をうろついているのだった。
『まったく。あいつ、俺がどこかで城の女に手を出すって思い込んで、それ、面白がってるよな。そんなわけ、ないのに』
……。
……。
『しかし、いい腕だな。プロの演奏家でも呼んでるのか?』
端末の機能で、その曲を追いかける。
曲の出所は、すぐに判明した。地下室だった。
『地下室? 何でこんな所から……、あ』
『あ』
地下室のドアの前には、一人の若いメイドが椅子に座って本を読んでいた。
『た、丹恒さん?!』
メイドは丹恒が現れた事を知って本を置いて椅子から立ち上がり、驚いた様子だった。
『何で、俺の名前知ってるんだ』
『それは、あなたがこの城では第二王妃様の護衛としてすっかり有名だからです! この城のメイドの中で、丹恒さんの名前を知らない人間は居ません!』
『そ、そうか』
きゃー。メイドは丹恒の突然の登場で舞い上がり興奮した様子で、丹恒はメイドの勢いに圧倒されつつ、地下室に通じるドアに注目する。
『ピアノの曲が聴こえたんで辿ってみれば、此処に行き着いた。この先、ピアノがあるのか?』
『はい。この先は、ピアノがあります。でも、おかしいですね』
『何が?』
『この地下室、城で唯一の防音部屋なんですよ。それだから、城の中に居てもピアノの音は聴こえないと思うんですけど……』
『あ』
丹恒は、しまった、と、思った。
手持ちの端末の件は、城の人間には秘密にしている事を。
『どういうわけ、ですか?』
『……』
怪訝な顔をするメイドと、どう説明すればいいか困る丹恒と。
ところで。
『――それも、宇宙科学とやらのうちなのでしょう? そうなら、そこまで気にする必要、ありませんわ』
『!』
曲が止み、地下室のドアが開く音が聞こると同時に、新たな女性の声が聞こえた。
丹恒は、中でピアノを演奏している人物を見て、素直に驚いた。
そこに立っていたのは。
『第一王妃、様――』
丹恒はこの時はじめて、単独で第一王妃と顔をあわせたのだった。