――これは、いつかの過去の話だ。
普段の故郷は曇りがちで暗いのに、その日はとても、青い空が広がっていた。
故郷はディアン、海岸線にある戦場にて。
ある日、空から未知なる侵略者が現れ、それは大群で押し寄せて来たのである。
その空から来た未知の侵略者達は見た事のない姿で、見た事のない兵器を使い、別の大陸にあった第二の大国を一夜にして滅ぼした。十万を超える人間が一夜にして消滅し、そこにあった美しい城だけではなく、住人達が暮らしていた家や施設も一夜にして崩壊したという。
そこに残るのは鉄の残骸、そして、灰の山だけ。
クロムの調査隊からディアンの周辺にもそれと似たような兵士達が現れ、うろついているという情報が入ってきた。
彼女――は、ディアンはウォルター・ディアン国王陛下の任命により、クロム国の第二王女としてそれの調査隊を組み、複数の兵士を連れて調査に出かけたさい、空から飛来してきたレギオンの襲撃を受け、呆気なくその場に倒れた。
目の前に映るのは死体の山と、その上で先発隊として先にレギオンの調査に出ていたが同じようにやられるもかろうじて息をしているロイと、と、そして――。
その女は兵士達の死体の山の上で、レギオンにやられて怪我をしているを冷めた目で見下ろしながら、言った。
『――これだから、宇宙科学も知らない文明レベルの低い星は嫌なのよ』
女の隣についていた男は、表情を変えずに言った。
『封建社会で男尊女卑が主体の旧世界はこれが当たり前だ、その中でこの女はよくやってると思うが』
男の話を聞いて女は海風で自分の顔にかかった髪を払いながら、面白そうに言う。
『あら。やけに彼女の肩を持つじゃない。もしかして、好みの顔だったりするわけ?』
『ばか言うな。この女は別に俺のタイプじゃねえし、興味無いわ。ただ、俺のもとの故郷も此処と大して変わらなかった、とだけ』
『そういえば、そうだったわね。あなたのかつての故郷も、此処と変わらない世界だったわ。でもこの女、生かしておく価値あると思う?』
『どういう意味だ。この女、この大陸を仕切る中央国家の第二王妃なんだろ、こいつでその国の国王の交渉材料に使うんじゃなかったのかよ』
『そうなんだけど。だけどここで生かしておいても彼女、男の食い物にされるだけだし、この先も不幸な目にあうわ。それならここでもう、楽にしてあげた方が――あら』
『!』
がしっと。は血があふれる腹を抑えながら、上半身だけを起こして、男の足を掴んだ。
『おい、離せ!』
男は足を動かしての手を離そうとするも、は力を込めてその手を離さなかった。
は息も苦しそうに、それでも、男を離さずに言った。
『あ、アンタ達、あいつらと同じとこから――空から、来たんでしょ、それなら、私を助けられるでしょ、さっさと助けなさいよ』
『あらあら。それが、助けを求める態度かしらあ?』
くすくす。女は屈んで、瀕死のを面白そうに見詰める。
『私達、あなたの言うよう、レギオンと同じ宇宙から来て、この世界の過去や未来が読めるの。その中で得た情報なんだけど、あなた――そこの大国の第二王妃様なんですってね』
『……』
『だけど残念、その国王が一番愛しているのは、第一王妃だけですってよ。第二王妃のあなたは国王の目的が果たされれば――あなたの体で跡継ぎが産まれれば、あなたはあっさり捨てられ、それなりの理由をつけて教会に閉じ込められるか、もとの国に帰っても閉じ込められるか、そのどちらかの惨めな生活を送るだけよ。第二王妃のあなたはそれ、分かってる?』
『……おい、それ、さすがに言い過ぎじゃないか』
男はさすがに、女をたしなめるが――。
『分かってる、そんなの、とっくに分かってる。国王陛下が愛しているのは第一王妃様だけ、私の体で後継ぎ出来れば用済みなのも全部分かってる』
『……、それなら、ここで楽になった方がいいんじゃない? 後で国王に復讐でもする気なら、止めておいた方がいいわよ。無能力で弱いあなたは、国王にたどり着く前に返り討ちにあい、野蛮な男に好き勝手に扱われた末に野垂れ死ぬだけ――』
『――それが、どうした。それくらい、よそ者に言われなくても分かってるわ。私はレギオンとやらの襲撃で死ぬより、それで死んだ方がマシよ』
『――』
の気迫に男はもちろん、女も呆気に取られて絶句する。
は構わず続ける。
『私はね、全部分かったうえで、ディアンの第二王妃になったの。ディアンの第二王妃であれば、自国の貧乏国に居る時より贅沢三昧、自由に好き勝手出来てたから。国王陛下の愛なんて最初からいらない、そこのロイと、自分が好きに動ける場所が欲しかっただけ』
『……それで悲惨な死が待っていると分かっていても、それにしがみつきたいの?』
『空から来た侵略者にやられるよりは、贅沢な暮らしをしたうえでの死ぬのがいい。その中で男に好き勝手されて死ぬのも、覚悟のうえだわ。私、第二王妃になった時点でそこまでの純潔な女じゃないから』
ここでは顔を上げ、男の顔を見て言った。
『あなた、いい男ね。私を助けてくれたら、相手してあげてもいいわよ。それなりに一通り、経験あるから。あ、私に処女性を求めるなら別のとこいって、未来が読めるとかで私の情報を得ているなら、それ期待しないでね。どうしてもというなら、第二王妃の権力で若くて美人な処女も紹介できるけど、どう? 年齢も注文あるなら、受け付ける。城の女達は、第二王妃でも私の命令に逆らえないから、選び放題よ』
『お前――』
『……ッ、あ、あははっ、ははっ』
『おい、カフカ、そこまで笑うか……』
『いやだって、強面でいかにもな刃ちゃんを体で誘う女が現れるなんて! ここまで愉快な話、ないわ!』
ぶはっと。ここで女――カフカが噴き出し笑い、男――刃は、それに呆れた様子だった。
刃はを見据え、問う。
『お前は、自分が助かるためなら、自分の手下も犠牲にするのか』
『そう。私とロイが助かるなら、自分の国の人間も犠牲にできるわ。アンタ達、私達の情報を得ているなら、私とロイがこの国で何をしてきたのか、その仕業くらい知ってるでしょうに』
『それが自分の破滅に繋がるとしてもか?』
『どうせ死ぬなら、こんな所で野垂れ死ぬより、贅沢してこれ飽きたわって思った時に死んだ方がいいと思わない?』
『――』
は何も言い返せない刃に構わず、続ける。
『アンタ達が私達の何を狙ってきたのか知らないけど。そこの大国のディアンと交渉するなら、第二王妃の私を生かしておいて損ないわよ。あそこの国王陛下、自分の兵士すら駒扱いする非道な人でね、情なんてものはない。だけど、私の前であれば、私の体目当てで私の言う事なら何でも聞いてくれる、いい人になるの。
あ、ついでに、そこで瀕死の護衛のロイも拾ってくれる? 私の言う事しか聞かないロイがついてる方が、国王陛下を動かしやすいわよ?』
ぱちぱち。カフカは立ち上がり、に拍手を送る。
『――合格! いいわね、いいわね。いかにも男についていないと駄目っていう弱くて大人しい顔で、自分の価値を分かったうえで男を利用する。そして、その自分さえ良ければの精神、嫌いじゃないわ。おまけに、交渉材料としていいとこついてる。許されるなら、星核ハンターの一人として欲しいくらいよ』
『冗談じゃねえ。俺は、こんな女と組みたくねえわ』
『ふふ。まあ、どちらにせよ、無能力で無資格のただの人間の女は、エリオの視界にすら入らないでしょう。そこは安心して、刃ちゃん』
『……』
『あら、ちょっと残念と思った?』
『うるさい。合格なら、さっさとこの女、治療してやれ』
『はいはい。私達の技術であれば、アンタとそこのロイとかいう護衛はそこから生還できるけれど――でも、これだけは覚えておいて』
カフカは再び腰を下ろすと、の睨みつける目を見詰め、面白そうに言った。
『これで助かったぶん、私達の――私の言う事を聞かないといけないって事を、ね』
――現在、ヘルタ・ステーション、スタッフ専用の個室にて。
は、その目を覚ました。
「……」
部屋は暗い状態で、明かりは消されてあった。
棚にあるデジタル時計を見れば、午前一時と表示されてあった。
「薬」
は起き上がると、棚にしまってある専用の薬を探った。
全身、汗でぐっしょりで、動悸も激しい。
しかし、丹恒を呼ぶほどではない。
薬を飲めば、落ち着く。
落ち着け。
落ち着け。
「……ッ」
震える手で薬のビンを開けて、何粒か確認せず、水も使わず、勢いだけで薬を飲み込んだ。
はぁ、はぁ。腹、包帯が巻かれている箇所を手で触る。
少し、痛みが残る。
今日の薬はきちんと飲んで、それで寝たはずだ。
端末のメッセージを確認すれば『薬飲んだか?』という丹恒の短いメッセージがあって、『ちゃんと、飲んだよ』という返事をしたやり取りが残っていて、安心した。
同時に。
「何で今になってあの時の夢を……」
分からない。
今のでは、何も分からなかった。
夢の影響かどうか――はその日、丹恒と些細な事で喧嘩をしてしまった。
「丹恒のバカ! もう、知らない!!」
のその叫びが聞こえたのは、とある午後の事だった。
場所は、星穹列車内。
は一人、涙目で、列車を降りていった。
「」
彼女――開拓者は、ヘルタ・ステーションから列車に戻ってきた丁度その時、その場面を目撃したのだった。
は開拓者に気が付いているのかいないのか、その横を涙目で通り過ぎ、ステーションへ走る。
「ええと、何があったの?」
「さあ?」
出ていくを引き止めた方がいいのかどうか――、迷っている間にが出て行ってしまった。開拓者はいつもの場所に居座っているヴェルトに事の詳細を聞くも、彼は分からないと、肩を竦めるだけだった。
と。
「開拓者……」
「丹恒!」
を追いかけてきたのか、疲れた様子の丹恒が資料部屋から出てきた。
丹恒は、今のを見ていただろう開拓者に聞いた。
「は?」
「ステーションの方に向かったけど」
「そうか。それならいい」
「ちょっと待ってよ!」
丹恒は落ち着いた様子で資料部屋へ引き返したところ、それを開拓者が慌てて引き止める。
「何だ」
丹恒は面倒臭そうに、開拓者に応じる。
開拓者はが出て行った方を指さし、丹恒に言った。
「ねえ、出て行った、追いかけなくていいわけ?」
「勝手に出て行けば、勝手にいつの間にか戻ってくる。あいつはいつもそれだ。列車がステーションに停泊している間は、そこまで追いかけなくていい」
「それならいいけど。で、アンタとの間で何があったのさ」
「別に何も。俺との間でも意見があわないというのは、時々ある、と、だけ」
「今の、そんな簡単な話?」
「それ以外に特にない……、と、思うが。お前がそこまで気にする話じゃない。それじゃあ」
「……」
――お互いに意見があわなかっただけの簡単な話、さっきの、そこまで簡単な話だったのかな?
丹恒はすぐにが戻ってくると思って資料部屋に帰っていったが、開拓者はさっきのはそこまで簡単な話じゃないような気がして、心配そうに彼女が出て行った方をいつまでも見詰めていたという――。
開拓者の悪い予感は、的中した。
星穹列車がステーションに停泊している間、は一度も列車に来る気配がなかったのである。
その間、開拓者はステーションだけではなく各地の依頼に応じて忙しく、それは、ほかの列車組――なのか、姫子、ヴェルトも同じで、数日の間、と丹恒の関係をほったらかしにしていた。
それから実に三日過ぎていた。
のそれが発覚したのは、意外にも、ヘルタからの連絡であった。
「は? が模擬宇宙に入ってから一日経ったけど、それ以来、一度も出て来ない?」
開拓者はヘルタからそれを聞かされ、呆気に取られる。
ヘルタも参った様子で、開拓者にそれを打ち明ける。
「模擬宇宙の月イチのメンテナンスで、担当の所があって、それで、彼女に模擬宇宙に入ってもらったの。はそれから一日経っても出て来ない。アスターの権限で履歴見てもらえれば、がステーションに存在している事は、確認出来てる」
「そうだ、私と『なの』が初めてと出会ったのも、模擬宇宙内だったっけ」
開拓者はヘルタから、と初めて出会ったのも、彼女がメンテナンスを行っていたという模擬宇宙内部であるのを思い出した。
それから開拓者は、肝心な事をヘルタに問い質した。
「ヘルタは、現在、と丹恒が絶賛喧嘩中だって知ってる?」
「ええ。あの子の態度見れば丸分かりだし、姫子からも聞いてる。そっちの丹恒はどんな様子?」
「丹恒、見た目はいつも通りなんだけど、が乗ってない件でいつもより不機嫌っぽい。それ裏付けるように食事は皆で集まって食堂で食べてるんだけど、食べる量が明らかに普段より減ってて残す事が多くて、食後も誘えばゲームや会話に応じてくれるのにそれもなく、さっさと自分の資料部屋にこもっちゃうんだよ。
なの、姫子、ヴェルト、車掌のパムまで、その丹恒を心配してた」
「まったく。丹恒の奴、嫉妬深くて面倒臭い女をいつまでも引きずったって仕方ないじゃない。はこっちでどうにかするから、さっさと別の新しい女とよろしくやればいいのにさあ。丹恒ほどの男であれば、すぐにいい女見つけられるでしょ」
「いやいや、それはさすがに言い過ぎでしょ」
開拓者は、足を組み直してそう言ったヘルタに対して、たしなめる。
ヘルタはその時、内心、しまった、と、思った。開拓者は、スターピースカンパニーの上層部からと丹恒の間に課せられた試練を知らないという事を。
「そっか、アンタはあの話、知らないんだったわ」
「え、何の話? 丹恒との間で、これ以外、何かあるの?」
「いえ、こっちの話。アンタはそれについてもう、気にしなくていいから」
「ヘルタ、そう言われてもそれ気になるんだけど」
「――今は、を見つける事が先決でしょう」
「……」
そう言われても、気になるんだけど。開拓者は前のめりにヘルタを問い詰めるも、ヘルタはそれをかわすように強引に話を進める。
「そもそも、事の発端が応物課の課長の温明徳からそれが原因でが一日不機嫌で誰とも会話せず、倉庫にこもったまま出て来ない、男の自分ではそのをどう扱っていいか分からない、どうにかしてくれっていう要請があったせいよ。
それで、ちょっと日程ずらして、その日にに模擬宇宙に入ってもらったの。一回、倉庫から出た方が、沸騰した頭が冷えるんじゃないかと思って」
はあ。ヘルタは参った様子で、を模擬宇宙まで入らせた経緯を話した。
開拓者はそれが意外と、思った。
「あれ。ヘルタ、応物課の温明徳隊長の要請、ちゃんと応じたんだ? ヘルタの事だから、個人的な話は個人で解決しなさいとか言って、温明徳隊長でも追い返すと思ったけど」
「Ⅱ階級かⅢ階級はよっぽどの話じゃなければ応じないけれど、Ⅳ階級、課長クラスであれば、ちゃんと応じるわ。それでほかの業務が滞ったら、面倒だし」
「ふうん? そうなんだー」
「……」
ニヤニヤ笑う開拓者と、そこから視線を逸らすヘルタと。
それから開拓者は、思い出した事があった。
「ああそういえば、あの時も確か、丹恒と、喧嘩してた最中で、ヘルタの要請で私と『なの』が模擬宇宙入って、行方不明だって言われてたを見つけたんだった」
開拓者は当時、丹恒とは喧嘩の最中で、丹恒がの扱いをどうしようかと考えている時に姫子経由でヘルタから丹恒の彼女のが模擬宇宙内部で行方不明との連絡が入り、丹恒と『なのか』と一緒になって現場まで駆けつけた次第である。
その時を懐かしく思いながら、ヘルタに言った。
「あの時はヘルタが喧嘩中の丹恒とを仲直りさせようと思って、丹恒にが模擬宇宙内で行方不明になったって嘘吐いて、それ聞きつけた私と『なの』にを助けるように頼んできたんだよね。
今回もヘルタの策で、丹恒とを仲直りさせようとしてるんだよね。私も協力するよ、任せて!」
むふん。開拓者は張り切って、ヘルタの計画に乗り気だったが。
「違う」
「え」
「あの時の仲直り作戦は、で落ち着かない丹恒を心配した姫子とアスターによるものなの。あれの発案者は姫子とアスターで、私じゃない。それ踏まえて、私は別に、丹恒とがどうなろうと知った事ではないわ」
「またまた~。ヘルタも丹恒とが心配だから、姫子とアスターのそれに乗ったんじゃないの。これだけじゃなくて、ほかの課の合同訓練が始まった経緯も、の機嫌に左右される丹恒がステーションでも使えなくなるとヤバイせいだって聞いてるけど」
「その通りでの不機嫌が長引くとステーションでも丹恒が使えないし、姫子の列車運営にも支障出ると思っただけ。おまけに、いつまでも開拓者と三月にを隠しておけないでしょ、それで、姫子とアスターに協力したの。これで分かる通りに私はより、レギオン相手にできる丹恒の方を心配してるだけ」
「そういや、あの時の丹恒、何でを私と『なの』に隠してたんだろ」
「明かせば、アンタ達がうるさいと思ったんじゃない? 現に、うるさかったでしょ」
「えー。丹恒、そんな単純な理由で、長い間、私と『なの』に隠してたの?」
「世の中、意外と単純に話が回ってるものよ」
ヘルタは丹恒が開拓者と『なのか』にを隠していたのはそんな単純ではない事を知っていたが、ここでは上手く誤魔化した。
ヘルタは言う。
「それから、その時と同じように戦えないが入るから前みたいにレギオンや星神の試練は切ったうえで、に模擬宇宙に入ってもらって、そこのオフィスの再現具合を確認してもらってたのよ。あの子、能力ないぶん、ほかの観察力は優れてるからさ。
この仕事、普段であれば半日くらいで終わるんだけど、は一日経っても出て来なくて、応物課の課長の温明徳に戻ってきてるかって聞いても戻ってないって返事あって、姫子とヴェルトにも列車に帰ってるかって聞いても帰ってないって返事あったのよ」
それでどうしようかと思って、開拓者に連絡をしたと、ヘルタは話した。
「この件、丹恒には……」
「あいつには、まだ言ってない。これ以上、面倒な事、増やしたくないから」
「ですよね」
開拓者もヘルタのこれは分かると、理解する。
「アンタでが見つかれば、それ以上はいいわ」
「分かった。一回、模擬宇宙に潜ってみるよ。そこで見付かったら、ヘルタに引き渡す、で、いいかな」
「そうね。アンタで隠れてる、引っ張り出してきてちょうだい。説教は、それからだわ」
「あれえ。ヘルタ、に関しては突き放すだけかと思ったけど、説教なんて、スタッフと同じように厳しいね」
「ふん。私の模擬宇宙をそんなくだらない事に使われちゃ、たまったもんじゃないわよ。本当、が丹恒付きじゃなかったら、それくらいで隠れる面倒な女はステーションから追い出してるとこよ」
「はは。ヘルタもと同じように面倒な女だと思うけどねえ」
「何ですって?」
「行ってきまーっす!」
ジロリ。開拓者は、ヘルタに睨まれてそこから逃げるよう、さっさと模擬宇宙に入った。
この時のヘルタと開拓者は、丹恒と喧嘩中で、は彼に心配してもらいたくて模擬宇宙に隠れたのだろう――、単純にそう考えていた。
「が隠れそうな場所、模擬宇宙でもスタッフのセーフティエリアか、ヘルタの居る回復場所だよね……」
開拓者は慣れた様子で、模擬宇宙内部に造られたステーションをうろつく。が隠れそうな場所は、いつもの安全地帯かと、目星をつける。
ヘルタで模擬宇宙のレギオンの出現、星神の試練は切ってあるというので、いつもより簡単だ。ここまで簡単に攻略できていいのかと、恐ろしいくらいに。
「……」
ステーションの温度は適度に保たれている。模擬宇宙も同じだ。しかし、此処ではどういうわけか寒気がした。
「ヘルタ、のために模擬宇宙の訓練用のレギオンや星神の試練はオフにしてあるって言ってたけど、階層ごとに違うのかな? 突然、襲って来ないでよ~」
開拓者は、ヘルタでも間違いはあると認識し、バットを構えて慎重に進む。
「? 、どこに居るの? 丹恒と会いたくないなら会いたくないでいいからさ、そこから出て来ない? ヘルタもそろそろ我慢の限界だってさー」
部屋から部屋へと移動し、とうとう、最深部――ヘルタの部屋まで到達した。
「、ヘルタだけじゃなくて、丹恒が心配してたよ。温明徳隊長もアスターも、の帰りを待ってる、これ以上、ほかの人達に迷惑かけないように――」
最深部に到達した所、だった。
それは開拓者からすれば、予想外だった。
「?!」
最深部――普段、ボスクラスのレギオンが居る場所で、が倒れていた。
夢。
――これは夢か?
部屋に充満する甘い香りが、刺激する。
ぐらり、と。何かが回転してひっくり返った気がした。
目の前に宇宙が――銀河の渦が見えた。
それは一瞬で、すぐに光が戻った。
「――、起きろ」
「……」
「起きろ」
「……」
「起きろってんだろ!」
「ッ!」
誰かに頬をつねられ、仕方なく体を起こした。
コンクリートの壁に囲まれた部屋で、ベッドと棚以外は何も置かれていない、簡素な部屋だった。
「ちょっとぉ、女の子にそれないんじゃない?」
彼女――はベッドから体を起こし、自分の頬をつねってきた相手を恨みがましく見つめて言った。
「女の子、ねえ。お前、今更、ウブな振りするなよ」
目の前の男は、の顔から足のつまさきまでを見詰め、遠慮なく言った。
「見た目だけでいえば、純粋無垢で清純な女の子でしょー」
「反吐が出るわ」
男は吐き捨てるように言って、それから。
「これ、かぶれ。出かける」
男はに、女性用のバイクのヘルメットを手渡す。
バイクのヘルメットを受け取ったは、期待を込めた目で男を見詰めて聞いた。
「バイク、乗せてくれるの?」
「お前向けの仕事だ」
「私向けというと、お酒と男、どっち?」
「両方。いけるか?」
「大丈夫。バイク乗れるなら、やるよ」
きゃー。は男に手渡されたヘルメットをかぶり、子供のようにはしゃぎながら、外に飛び出す。
「……、これだけ見れば、年相応なんだがなあ」
はあ。男はバイクに乗れるだけでの子供らしくはしゃぐ姿を見て、しかし、彼女の裏の顔を知っているので苦笑するだけだった。
が居るのは鉄でできたビルの一室で、周囲にも鉄でできたビル群が並んでいる。
と。
「あら、、刃ちゃん。これから、お出かけ?」
「カフカ」
外に出て停めてあったバイクのエンジンをかけた所で、女性の声がした。カフカだった。
男――刃はだるそうにバイクの後ろに乗るを指さし、カフカに向けて言った。
「情報屋から、あいつらの出入りしているバーが分かった。こいつで、情報取りにいく」
「そう。お酒類とそこに集まる男達の扱いに関してはなら大丈夫だとは思うけれど、刃ちゃん、万が一の時はナイト役、よろしくね」
「それくらい、分かってる。行って来る」
「行ってらっしゃい」
カフカは微笑み、バイクにまたがり走り去る刃とを見送った。
ここは、とある星のビルばかりが立ち並ぶとある都市。
今にも雨が降り出しそうな灰色の空、雑居ビルの前でそのバイクを停めた。
刃はをバイクから降ろした後、男の写真を彼女に見せる。
「この地下がバーになっていて、この男に接触、情報を引き出せ」
「さんにお任せー」
「男に何かされそうになったら、分かってるな?」
「分かってる。刃と通じるイヤホン身に着けてる」
「よし。それじゃ行ってこい」
「こういう時はさんの出番だよねー。カフカもエリオも、よく分かってるわ」
「……」
は自信たっぷりにイヤホンがつけられてる耳を指さした後、意気揚々と、地下に降りていく。
刃はその様子を複雑そうに見詰めていた。
一時間後。
わあ。地下から歓声と拍手が沸き起こった。
「何だ? あいつ、何やらかした!」
刃は、地下に降りていったに何かあったのではないかと、慌てて地下に降りていく。
地下へ降りていく時も拍手喝采は止まず、バーのドアを開ける。
「、大丈夫か――」
「イェーイ、六人抜き達成!! ほかに挑戦者居る? 居るなら受け付けるけどぉ?」
「無理、もう無理、勘弁してください……」
刃が手持ちの剣を構えて突入すれば、はビールがなみなみ注がれたジョッキ片手に標的のその男は全裸で彼女の椅子にされヒールで踏みつけられ情けない声を出し、周囲には数人の男達も全裸で倒れた状態で、拍手を送っていたのはそれらを観戦していた客の女達だった――。