刃はと店を出て、バイクを走らせる。
その間には、店であった出来事を刃に説明した。
「あの男、此処は子供が来る場所じゃねえよって私を見た目だけで判断して、おまけに、飲みたいならオレのミルクにするかいって、自分の下半身触りながら、下品な挑発してきてさあ。それに腹立って、私にお酒で勝てばその場で脱いで一発ヤラせてあげるって言ってやったの。そしたら周辺の男達から脱げコール、周辺のお姉さま達からは止められて今のうちに逃げた方がいいって言われたんだけどそれら振り払って勝負して、結果は御覧の通りよ」
「標的の男のみならず、それ以外でお前に勝負挑んできた男達まで全裸にして、それで女達から拍手喝采か。、お前、本当、見た目と中身違うよな……」
「ひひ、私の見た目に騙されるようじゃ、まだまだってね」
「まあ、よくやった。お前、戦闘能力はゼロで仲間内ではお荷物状態だが、こういう場面で使えるから、重宝する。戦闘能力皆無でもそこ考慮して星核ハンターの仲間に引き入れた方がいい――、エリオとカフカの見立ては正しかったか」
「銀狼とホタルはこういう場面で使えないの分かるけど、カフカは? 彼女、この手の男の扱い慣れてそうだけど」
「あー、あいつ、あの手の男の扱いは慣れてるが、手加減できなくて、度が過ぎると相手を殺しちまうんだよ。で、必要な情報が手に入らない」
「なるほど。それは納得だわ」
は、カフカのそれは納得するものだと、遠慮せずに笑った。
「あ、、刃、お帰りー」
「お帰りなさい」
「ただいまー」
酒飲み勝負をして男の情報を聞き出し、星核ハンター達が集うアジトに帰れば、行った時は姿の見えなかった銀狼と、ホタルの二人が揃っていた。
「カフカは?」
「通信で、エリオと今後の情報交換してる。終われば合流できるって」
背丈ほどの巨大なクッションに寝っ転がってゲーム片手に答えるのは、銀狼だった。
「俺もあいつらに報告あるから、そっち行ってくるわ」
刃は言って、カフカが居るだろう、別の部屋に行ってしまった。
残されたは、ゲームをやっている銀狼に話しかけた。
「銀狼、ゲーム、どれか借りていい?」
「それじゃ、あたしがやってるのやろう。出撃メンバー足りなかったんだよね。招待コード送るから、入ってきて」
「了解」
はソファに座り、慣れた手つきで手持ちの端末を使って銀狼の遊んでいるゲームを立ち上げ、彼女から招待コードを受け取る。
ゲーム、開始。
は銀狼に対戦を申し込んだが、秒で敗北した。
「ぐぐ、また負けた?! 銀狼、手加減してって言ってるのに!」
「ひひ、手加減したところで、このあたしに勝てるわけないって。、かかってきな」
はゲームで何度か銀狼に勝負を挑むも、負けてばかりで、一度も勝った試しがない。
「このっ、このっ! うあー、さっきの、いい線いかなかった?」
「うん、油断してたら、やられてたかも。今度は手を変えていくから、覚悟しなー」
「一回は勝たないと気がすまない!」
「て無能力で無資格だけど、根性だけはあるよねー。それだから、あたしの相手に丁度良い」
それでもは銀狼相手に踏ん張り、銀狼ものその根性は認めている。
途中で、甘いいい臭いがしてきた。
「む。この甘いのは!」
は仲間内で一番、鼻がきく。
甘い臭いのする方を見れば、エプロン姿のホタルがオーブンで使うトレイを抱えて立っていた。
ホタルは微笑み、と銀狼に向けて言った。
「、銀狼。お菓子焼いたよ。食べるでしょ?」
「最高!!」
「ゲームのお供に最適なやつね。分かってるぅ」
ホタルが抱えるトレイには、焼き立てのクッキーが並べられてあった。
は立ち上がって拍手を送り、銀狼も嬉しそうだった。
ホタルはに向けて話した。
「、お酒のお仕事あったって、カフカに聞いたよ。それだから、急いで焼いてきたんだ。どう?」
「そうそう、お酒飲んだ後の甘いもの格別で、最高なんだよね~。ホタル、ありがとう、生き返った感じだわ」
「ふふ、それは良かった」
はぁー。ホタルは、クッキー片手に本当に生き返った様子のを見て、くすくす笑う。
その間。
「ちょっと、それ、あたしのぶん!」
「早い者勝ち! うひひ、銀狼、この私に早食いや大食いで勝てるなら勝負する?」
「うぐぐ、ゲームやほかの戦闘でに負けないけど、食べ物勝負とお酒に関しちゃ、に敵うわけないじゃん!」
「さっきのお返しとしては、気分いいわ」
さっきのゲームと違って今回は銀狼が悔しそうに地団駄を踏み、は愉快そうだった。
「の食べっぷりは、見ていて気持ちがいいわ。こちらとしても、作った甲斐があるというものね」
ホタルは、の食べっぷりを見て感心を寄せる。
ところ、で。
「あら、美味しそうね。一つ、いいかしら」
「どうぞ!」
ホタルの前にエリオと通信を終えたカフカが現れ、嬉しそうに彼女にクッキーを渡した。
カフカの隣には当然のよう、刃もついている。
「刃もどうぞ」
「お前の焼く菓子が、一番いいな。もらおう。相変わらず、ウマいな」
「ふふ」
ホタルが刃に遠慮がちにクッキーを渡せば、刃はクッキーを受け取りホタルの頭を撫でてやった。ホタルは刃に頭を撫でられ、嬉しそうだった。
その様子を見ていたは刃に近付くと、自分の頭を指さし訴える。
「ホタルだけずるい、私も、私も! 私も撫でて~」
「何で、お前の頭撫でなくちゃいけないんだ」
刃は最初、の要求に呆れていたけれど。
「さっき、お酒で男倒して、情報取ってきたの、私なんだけど」
「バイク、乗せてやっただろ」
「それだけ? もうちょっと何かくれてもいいんじゃない?」
「給料に不満あるならカフカか、エリオに交渉しろ」
「今の給料に不満ないよ。刃に拾われる前と比べれば、雲泥の差だもの」
「……そうかい。それじゃ、今後についての話し合いはカフカから――」
「ナデナデ!」
「分かった、分かった。これでいいだろ!」
「うん、満足」
刃は仕方なく、に応じて彼女の頭を撫でてやった。は刃に頭を撫でられ満足そうに元の位置に戻った。
「って、刃が拾って来たんだっけ」
「あたしも、そう聞いてる。確か、裏通りのゴミ山でが酔って寝てたとこを刃が助けて、その時に刃に一目惚れしたっていうが彼についてきたって」
「うは、めっちゃらしいじゃん。も一目惚れしたといってもあの刃によくついてきたし、刃もよくそんなを拾ってきたよねえ」
「でも、が刃に目をつけたの分かるし、刃もを拾ったの、なんとなく分かる気がする。、ほかと違うもの」
ひそひそ。銀狼が小声でホタルに耳打ちし、ホタルも銀狼に小声で耳打ち返した。はその話が聞こえていたが、気にしない。
「俺、とんでもない猫、拾ってきたのか……」
「ふふ。飼い主は、拾ったものの責任取らなくちゃねえ」
の相手でどっと疲れが出た刃と、その刃を面白そうに見るカフカと。
そして。
「皆、揃ってるわね」
リーダーであるカフカが、刃、銀狼、ホタル、の顔をそれぞれ見回した。
背丈ほどの大きなクッションに銀狼が座り、二人がけのソファにホタルとが座り、座布団と呼ばれる平らなクッションの上に刃が座り、少し背の高い椅子にカフカが足を組んで座る。
ホタルのクッキーと、それぞれの飲み物を抱えて集まる。
コンクリートの壁の中は、意外と温かい。
カフカは集まるメンバーに向けて、話した。
「さて、皆、の情報によって、標的の住処が分かったわ。その場所に、私達の求める星核の反応もあった」
「星核が……」
はカフカから「星核」と聞いて、息を飲んだ。
この星には存在しないどこか遠くの星に居るというエリオの指示でカフカ達は、星の中に眠る「星核」と呼ばれる物質を追い求めている。それを手にすれば、強大な力を得られるらしい。
カフカは、今までエリオの指示で星核を求めていくつかの星を渡るも、どれも思ったものではなかったようだ。カフカはその旅の過程で刃を拾い、銀狼、ホタル、そして、を拾ったという。
カフカは言う。
「星核を手に入れるには、今まで以上に慎重にいかなくてはいけない。この星の人間も、自分達の要である星核を守ろうと必死で、私達に立ち向かってくるでしょう」
「……」
カフカの話を聞いてだけではなく、銀狼とホタルの間にも緊張感が走る。
銀狼とホタルの緊張をほぐすためかカフカは笑みを浮かべて、言った。
「そうでもこちらは、いつも通りね。いつもの計画通り、刃を中心にして、私と銀狼で背後を固めて、ホタルはサポート役といったいつもの陣で固めようと思うんだけど、いいかしら」
「異論ありませーん。毎回、それだよねえ」
「毎回の役割の方が、上手くいくのよ」
カフカのいつもの作戦を聞いてホタルに耳打ちするのは、銀狼だった。
そして。
「私は、どうすれば……」
は、自分がその数に入っていない事に関して、恐る恐る、カフカに聞いた。
カフカはハッキリと、に言った。
「ああ、無能力で無資格のは、今回、出撃しなくていいわ。出撃しても戦う力がないから、足手まといなだけだし」
「……」
「は当日、このアジトで一人、お留守番。いいわね」
「分かった」
は男相手でも自分の我慢ならない時は言い返すが、カフカに対しては言葉でも力でも敵わないと分かっているので余計な口答えせず、彼女に大人しく従い、了解した。
「近いうちに作戦決行するから、そのつもりで、それまで好きにしてて。解散」
「了解~」
ぱん、ぱん。カフカが手を叩き合図を出せば、ホタル、銀狼はそれぞれの場所から立ち上がり、部屋を出て、外へと。
アジトにはカフカ、刃、の三人が残される。
「は今夜、どうするの?」
カフカが聞いた。
「今夜は疲れたから、一人で居るよ。二人で飲みたいなら、どうぞー」
「そう。それじゃ遠慮なく。刃ちゃん」
「はいはい」
カフカは本当に遠慮なく刃と腕を組み、刃は残るを気にしつつもカフカを振り払う事なく、二人でアジトを出て行った。
外で、バイクのエンジン音が聞こえた。
刃はバイクにカフカを乗せて、出て行ったようだ。
は。
「……私がカフカに敵うわけないんだから、これでいいんだよね」
うん。自分に言い聞かせて、コンクリートの壁に囲まれる自分の部屋に戻った。
「……」
棚とベッド以外に何もない、無機質な部屋だ。
手持ちの端末でニュースや動画を見た後、そろそろ寝るかと、ベッドに入った所で。
「……!」
――誰かに見られてる?
ぞくり、と。
背筋が震えて、慌てて、辺りを見回した。
部屋は自分一人だけ、アジトに誰かが戻って来たという気配もない。
「……」
恐る恐る、窓から外を見る。
ビルとビルの間に囲まれた狭い路地が見えるだけで、そこに誰も居ない。
「……気のせいだよね、うん」
ほっとして、ようやく眠りについた。
それから、数日が経った。
エリオのいう星核は今回も肩透かしだったようで、カフカ、刃、銀狼、ホタルの四人は作戦決行の後、何事もなく無事にアジトに戻って来た。
はそれにほっとしつつ、それからは、彼らといつもの日常を過ごしている。
アジトでは銀狼はゲーム、ホタルはお菓子作り、カフカは銃の手入れかファッション雑誌を読んでいる、それがこの三人の日常だった。
その中で刃は歴史系の難しそうな本を読み、は彼の隣について何をする事もなくダラダラと。
カフカ、刃、銀狼、ホタルと過ごしているアジトは、にとって、とても居心地が良かった。
今まで――ゴミとゴミの間を渡り歩いていた時と比べれば、雲泥の差だ。
「……」
あれ、そうだったかな?
自分は確かに、ホタルの言う通り、裏通りのゴミ山で酔って寝ていた所を刃に拾われて、その刃に一目惚れして彼から離れず、カフカ達の星核ハンターのアジトまで来たのだ。
……。
「……何か、引っかかるんだよなぁ」
「何が?」
一人で呟いていたのを、隣で本を読んでいた刃に聞かれていたようだ。
「ねえ。私と刃って、裏通りのゴミ山で出会ったんだよね」
「ああ。がゴミ山で酔って寝ている所を俺が見付けて、最初はヤバイ女だと思って素通りしようとしたが、お前が俺の足にしがみついてきたんだ。振り払っても振り払ってもしがみついてきて、ようやく離れたと思えば、俺に惚れたとか言って、このアジトまでついてきてたんだよな。あの時ほど、ゾッとしたことはないぞ……」
その時を思い出したのか震えて呆れるのは、刃である。
刃はに『此処はお前みたいな素人の女が来る場所じゃない、さっさと帰れよ』と、追い払うも、は『あなたに一目惚れした、付き合いたい、それに応じてくれるまで離れない』と言って聞かず、刃から離れなかったのである。
そして、現在――。
「うひひ、私、自分好みの男を見付けると、手放さない主義なんだよね」
「嫌な主義だな……」
うへ。刃はの強引さにうんざりしていたが、彼女を突き放す事はしなかった。
は言う。
「その後、刃の案内で星核ハンターのアジトまで来て、そこに居たカフカに刃に惚れた事を訴えれば、それが彼女に気に入られたんだよね。
それからカフカの案内で星核ハンターをまとめるリーダーのエリオにモニター越しで面会して彼の面接受けて、無能力で無資格の私は最初はあっさり断られたけど、刃に本気で惚れた事と、お酒に強いのとそれで男に強いというのを訴えればそれが認められ、ようやく星核ハンターの一員になれた……」
「それの通りだな。それが、どうかしたか」
「……」
――果たして、そうだっただろうか。
何か、違う気がする。
「……」
はしかし、その違和感が何か、よく分からず、黙り込む。
刃はそれ以外黙ってしまったを一応、心配する。
「?」
「あ、ええと、今までロクな男居なかったけど、刃みたいないい男に拾われるなんて、ツイてる、と、思って」
「俺は、お前を拾った覚えはないんだがなぁ」
「えー、今更、それ言うの? 刃もこんな可愛いさんと付き合えてるんだから、ツイてるでしょ」
「俺はと付き合ってはいないし、自分を可愛いという女は地雷なんだが……」
「えー。刃は私と関係持ったのに、酷い!」
「ホタルと銀狼も居る場所で、誤解されるような言い方は止めろ! 俺はお前と関係持った事は一度もねえし、お前も年ごろの女であれば少しは恥じらいを持て!」
「ねえ、銀狼、ホタル。私と関係持ったのに私との関係をここまで否定する刃ちゃん、酷くない~? まさに、見た目通りのクズ男だったっていうさー」
よよよ。は泣く真似をして、今まで自分と刃の話を聞いていただろう銀狼とホタルに寄り添い、同情を買う作戦に出る。
「うん、酷い、酷い男だねー。ここまで見た目通りのクズ男、中々居ないってー」
「、刃ほど優しくて、純粋な男は居ないよ。彼を見た目通りに扱うのは、よくないと思うなあ」
銀狼はゲームに夢中で棒読みで応じるだけで、ホタルは刃がそこまで酷い男ではないと分かっている風にくすくす笑いながら、を突き放したのである。
と、ここで、カフカが刃に助け舟を出した。
「ホタルの言う通りで刃ちゃん、見た目に反して、女の扱い下手でいざという時に女に手を出す勇気がないの、この場に居る全員が分かってるから。それで、にもまだ手を出してない事くらい、分かるわよ」
「……カフカが一番酷くないか?」
がくり。擁護をしてくれるのはいいが、カフカの酷い言い方に肩を落とす刃だった。
はクッションを抱えて、その不満を訴える。
「もう。刃ちゃん、カフカの言う通りで、私が何回誘っても応じてくれないんだからさー。私はいつでもオッケーなのに。はっ、まさか、男に興味が……ああ、ごめん、ごめんってー」
無言で睨みつけて拳を振り上げる刃と、クッションを盾にしてそれから逃げると。
「って、何回やらかしても、懲りないよね。あたし、のそういう根性は認めてるんだ」
「はは。でも、あそこまで刃と接せられるの、カフカ以外ではだけでしょ。それはちょっと羨ましいかも」
「皆、エリオから通信。お仕事よ」
「はーい」
銀狼とホタルは刃に小突かれても諦めないに感心を抱き、カフカが立ち上がり手を叩けば場に居る全員がそれにあわせて動く。
これが、と星核ハンターと呼ばれる彼らの日常だった。
は、その日常を手放したくないと思っている。
それなのに、どこか、不安がつきまとう。
「……」
「?」
刃は、いつもと違うおかしいを心配する。
はハッとして、慌てて刃に応じる。
「私はいつも通り、留守番だよね。分かってるって」
「それならいいが。何かあれば、遠慮なく俺呼べ」
「うん。ありがとう。刃のそういうとこ、好きよ。私の男を見る目は間違いなかった」
「……そりゃどうも。それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
刃は呆れつつもの頭を撫で、も刃に頭を撫でられ嬉しそうにバイクに乗って出かける彼を見送った。
いつもの変わらない日常だ。
……。
いつもの?
「……」
時々、不安になる。
これは、いつもの日常の一場面なのだろうか――。
その時、だった。
「!」
再び、ぞくり、と。背筋に悪寒が走った。
は慌てて、窓から外を見る。
誰も通りを歩いていなかった。
アジトは一人だけ、窓から外を覗けば刃のバイクもなかった。
「……」
これはいよいよ、誰かに相談した方がいいかもしれない――は一人、決心したのだった。