『なのか』はうんざりした様子で、開拓者に聞いた。
「でもこれ、どうすんの? ウチらで二人をなんとか止めないと、収拾つかないじゃん」
「そうだね。私達で、彼女達は丹恒とは何も関係ないって、嫉妬深いに証明しなくちゃいけない」
「えー、それ、けっこう時間かかるんじゃないの? 別の手探そうよ」
「別の手というと何があるかなあ……」
開拓者と『なのか』はいつまでも言い合いを続ける丹恒とを止める術(すべ)はないものか、必死に考える。
ところで――。
『ヘルタ・ステーションより、星穹列車の皆様にお知らせです。ヘルタ・ステーションより、星穹列車の皆様にお知らせです』
「うわ、いきなり、何?」
「これ、ヘルタ・ステーションからの星間通信で間違いないわね」
ぴん、ぽん、ぱん。と、効果音が鳴り響いたかと思えば、列車内に女性の声でアナウンスが響いた。
開拓者は驚くも、姫子は冷静に応対する。
も丹恒も、アナウンスによって言い合いを止めた。
『えー。星穹列車に逃げ込んでいる万有応物課のⅡ階級のさん、至急、ヘルタ・ステーションのヘルタの部屋までお越しください。繰り返します、星穹列車に逃げ込んでいる万有応物課のⅡ階級のさん、至急、ヘルタ・ステーションのヘルタの部屋までお越しください。以上……、て、追伸、さっさと来ないと説教だけじゃ気がすまない、倍以上の仕事増やすわよ、ですって』
そして。
『、ヘルタの呼び出し受けたのであれば、観念した方がいいわよ。アンタまた、何やらかしたの。後で、私達にもそのやらかし聞かせてねー、お酒おごるから。それじゃあ』
ぷつん。
ここでアナウンスが途切れ、その途端――。
「ぎゃああ、ヘルタの説教が、恐怖のヘルタの説教がああ」
「、落ち着いて!」
アナウンスを聞いて青ざめてガクガクと震えると、そのを宥める開拓者と。
「ってか、最後のアナウンスの私的な部分、何? のやらかし聞くのに、お酒おごるって」
「ああ、アナウンスの彼女、応物課のスタッフよ。リストにある名前見れば、の友人の一人ね。それから、宇宙ステーションではの色々なやらかしが面白くて評判で、更にはお互い遠慮ないとヘルタとの掛け合いもウケてて、それがスタッフ達の間でネタにされてるんですってよ」
「はは、それでか。、アンタもいい友達、持ってるじゃないの」
あはは。『なのか』は最後の私的な内容が気になり、姫子からその話を聞いてそれに納得し、に遠慮なく笑った。
『なのか』と姫子の話を聞いていたは、開拓者に訴える。
「ステーションの皆、ヘルタの説教がどんなものか分からないから、面白がってるんだよ。あそこまでの恐怖、中々ないって!」
「ねえ、そこまでが恐怖するヘルタの説教って、どんななの?」
「ヘルタのネチネチした小言を聞きながら、正座一時間」
「うわー……、そりゃきついわ」
開拓者でもからヘルタの説教内容を聞いて、身震いするほどだった。
はあ。開拓者の耳に大きな溜息が聞こえた。丹恒だった。
丹恒はと向き合い、言う。
「今回は、俺も一緒にヘルタの所までついて、俺も彼女の説教聞いてやるよ」
「え、良いの? でも、その、あの、悪いの私なのに、丹恒にそこまでしてもらうのは、どうかと……」
「それね。仙舟での人間関係をにあまり話してなかった俺も悪いと思った。後で俺と彼女達の関係をきちんと説明するから、聞いてくれるか」
「丹恒……」
「それから一人でヘルタの説教聞くより、俺と二人の方が分散できるからそのぶんは大変じゃないだろ」
「ありがとう! やっぱ、丹恒が一番だよー!」
「うむ。俺も仙舟の女達よりは、が一番だと思う」
わあ。は手のひら返したように遠慮なく丹恒に抱き着き、丹恒もそのを突き放さず彼女を受け入れるようその頭を撫でる。
それから。
「、今度仙舟に行ったら、桂乃芬のサインもらってきてやるよ」
「本当? やったー、ありがとー。さすが、丹恒様!」
「本当、調子いいな。まあ、それものいいところだ」
「えへへー」
今までの喧嘩は何だったのか。はそれすら忘れたかのように丹恒と腕を組んで嬉しそうに、ヘルタの説教を聞くため、二人で列車を出て行った。
それを遠巻きに見ていた『なのか』が、ぼそりと呟いた。
「あれ、ヘルタの説教を聞きにいく態度かな?」
「はは。でも、いつの間にか元に戻ったから良かったんじゃない?」
「あ、そか。あれで元通りか。良かった、良かった」
「うん。今回もヘルタが丹恒との仲直りのきっかけ与えてくれたから、これはこれで結果的に良かったかもね」
開拓者は、腕を組んで仲良さそうに出て行くと丹恒を見て二人はもう大丈夫だと結論付け、今回も結局はヘルタのおかげで仲直りできたと分かって笑うだけだった。
ヴェルトもそんな丹恒とを見て、笑うだけだった。
「やれやれ、俺達も毎度の事ながらに、振り回されっぱなしだな。俺達からすれば敵ではあるが、星核ハンターの刃もに目を付けられる前にそれから逃げられて良かったというかなんというか」
「……」
姫子はその間、が置いて行った丹恒の写真――中でも、刃とカフカが写っている一枚に注目し、それから黙ったまま。
ヴェルトは姫子のそれに気が付き、遠慮がちに彼女に聞いた。
「姫子、どうした。星核ハンターの写真で、何か気になる所でもあるのか」
「いえ、特に何も。私もと同じで仙舟の開拓の旅は別件で不参加だったから、写真で初めての場面が多くて、魅入っちゃって、それで……」
「ああ、そういえば、そうだったな。開拓者、なのか、ちょっといいか」
「ん、どしたの?」
「何、何?」
姫子の話を聞いてヴェルトは、開拓者と『なのか』を手招きする。
ヴェルトは言う。
「姫子は仙舟の開拓の旅に不参加だったせいで、と同じよう、写真で初めての場面が多いらしい。開拓者と『なのか』で、これ以外の写真もあるだろうから、姫子に仙舟の街を案内してやってくれないかな」
「ふむ。そういう事なら、私と『なの』にお任せ! 今度は姫子も入れて、仙舟の写真展の続きやろう!」
「いいね、いいね。姫子も入れて、仙舟の写真展の続きやっちゃおー! あ、そだ、姫子、ウチ、仙舟の開拓の旅でに見せられなかった写真も何枚かあるから、それも持ってくるよ。ちょっと待ってて!」
「私もには見せられなかった仙舟の写真、色々持ってるから、持ってくる!」
「はいはい、楽しみに待ってるわ」
きゃー。開拓者と『なのか』は盛り上がり、姫子を入れて、仙舟の写真展の続きを開催を決め、更にはには見せられなかったぶんも持ってくると言って、それぞれの部屋に戻っていった。
姫子は開拓者と『なのか』が行ったのを見て、再び、が持っていた刃の写真を見詰める。
「……(、本当に刃がそこまで危険な男じゃないと分かってるのかしら。あの子の故郷で丹恒が調査に来る前、レギオンの襲来でそれにが襲われたって聞いてその証拠である傷口も見たけど、そこでは国王の兵士達が全滅したっていうのにその中で第二王妃のと護衛のロイだけが助かったのだって、おかしい話だった)」
姫子は、とその護衛のロイの二人は、丹恒が来る前にレギオンの襲撃を受けたと聞いて、その証拠に怪我を負っているのも見ているが、そこからどうやって助かったのかは、未だに不明だった。
「……(現地でのその時の話を聞いた丹恒によれば、自分が来る前にカンパニーの調査団が星核の調査に来ててでもそこは彼らの管轄外だったので深入りせずあっさり終わらせ、それでヘルタがの星に目をつけて丹恒を派遣したとは、聞いてるけど。でも、先にの星に来てたらしいカンパニーの奴ら、第二王妃でも、レギオンにやられた助けるかしら)」
利益を重視するカンパニーの社員は、たとえ第二王妃であれ、レギオンにやられた状態のを助けず、素通りすると思ったし、宇宙科学も知らない文明レベルの低い星はそもそも、カンパニーの管轄外であるため深入りせずにあっさり終了、星核の反応があっても、レギオンの襲撃に対応しなかったと聞いている。ヘルタもカンパニーがほったらかしにしていたぶん、の故郷の星核に手を出せたと、後から姫子に話している。
そうなれば考えられるのは――。
「姫子?」
ヴェルトは、刃の写真を見つめて再び黙った姫子を心配するが――。
「姫子、仙舟の写真いっぱい、持ってきたよー!」
「仙舟の写真だけじゃなくて、動画もあるよ! ウチと開拓者で、姫子を仙舟の街に案内してあげる!」
「ふふ、それは楽しみね。ああそうだ、私もコーヒーいれてくるから、ちょっと待ってて」
開拓者と『なのか』が戻ってきた影響で姫子は我を取り戻し、彼女達に応じたため、ヴェルトの姫子への心配は有耶無耶になってしまった。
「お待たせ。それじゃ、仙舟の写真展覧会、始めましょうか」
姫子がコーヒーを持って、開拓者と『なのか』は張り切って彼女に仙舟で撮ってきた写真や動画を披露するのだった。
それは、列車組にとっては穏やかな日常の一場面だった――。
余談。
「「迷惑かけて、すみませんでした」」
ヘルタ・ステーションはヘルタの部屋にて。
ヘルタの正座付きの説教が終わった後にと丹恒は二人揃って、ヘルタに向けて土下座して謝ったのだった。
「うん。もういいわよ、楽にして」
「足、足がしびれた~」
「……」
ヘルタの合図で、三十分の正座が解除された。普段は一時間だが、丹恒のおかげで三十分になった。
正座が終わったは足がしびれて、その場に中々立ち上がれなかった。同じように正座をしていた丹恒の方はしびれもなく、すました様子で平然と立ち上がったという。
ヘルタはではなく、丹恒に向けて言った。
「まったく。丹恒、アンタがそこの猫拾ってきたんでしょ、猫の飼い主ならその責任取って、首輪をちゃんとはめて鎖で繋いでおきなさいよ」
「俺の猫、首輪はめて鎖で繋いだ所で、大人しくするタイプとは思えん。むしろ、首輪と鎖で繋げば、それ以上に暴れて周囲に迷惑かけると思うが」
「確かに。首輪と鎖は逆効果か」
「二人とも。私を何だと思ってるの?」
腕を組みヘルタに反論するのは丹恒で、ようやく足のしびれが治まり立ち上がってその不満を口にするのはだった。
それからヘルタは、倒れた時からいつもの調子に戻ったを見て、聞いた。
「それで、アンタ、模擬宇宙で倒れた原因、分かってないのよね」
「うん。私がどうしてあそこで倒れてたのか、全然分かんない。その日、調子が悪かったというのもないし、故郷でレギオンにやられた箇所の痛みを和らげる薬もちゃんと飲んでたし」
は、ヘルタの前でレギオンにやられた腹をさすってみせる。
ヘルタはの裏事情を知る人間であるため、もヘルタと会う時は気が楽だった。
「ヘルタ、私が模擬宇宙に入る時、本当にレギオンと星神の試練切ってくれてたの?」
「アンタが入る時、確かにオフにしてたわよ。その記録もちゃんと残ってるわ」
「模擬宇宙に、何らかの奇物が紛れ込んでいたというのはないのか? ほら、模擬宇宙でもヘルタの奇物コレクションの部屋、あっただろ」
とヘルタの会話に丹恒も参戦する。
「それもないわね。というか、模擬宇宙自体が現実世界を模したデータで、現実世界のものは持ち込めない仕組みなの。あの奇物コレクションもデータだけでそれの効果はなく、本物は外の世界にあるものだけよ」
「それじゃあ、俺と開拓者、三月が模擬宇宙の訓練用に使ってるものは……」
「あれもただのデータに過ぎない。データでアンタ達を分析し、どこを強化すればいいか診断してるってわけ」
「なるほど、そういう仕組みか」
ふむ。丹恒は改めて、模擬宇宙は凄いシステムだと感心を寄せる。
ところで。
「ところで、アンタ、星核ハンターって知ってる?」
「え」
急にその話題を出してきたヘルタには、ドキリとした。
「何で、急に……」
「いいから、答えて」
「ええと、星核ハンターは星に眠る星核を求める人間達で構成された組織で、それは、同じように星核を求めるヘルタ・ステーションや星穹列車内では敵対視されてる。その中心メンバーのカフカはスターピースカンパニーに億の懸賞金をかけられ指名手配されるほどの犯罪者で、彼女についてる刃も同じように犯罪者として指名手配されてて、銀狼とホタルも何らかの犯罪に関わってるが、彼らの詳細と実態についてはヘルタ・ステーションでも、カンパニーでもあまりよく分かってない……、で、あってる?」
は不安そうに隣についている丹恒を見る。
丹恒はにうなずき、ヘルタに向けて言った。
「の星核ハンターに関するメンバーとその内容に関して、おかしい所はない。星核ハンターについて、何かあるのか」
「いえ、別に。のその説明はステーションでも教えられてるもので、別におかしいとこはないわね。この話を持ち出したのは、病み上がりのの知能がどこまでのものか、確かめたかっただけよ」
「なるほど。のわずかな異変を見逃さないためにそれらを調べるには、それが丁度良いか」
ヘルタは丹恒にうなずき、丹恒もヘルタの話を疑わず、星核ハンターについての話は簡単に終わった。
ヘルタは顔にかかる髪を払い、に向けて話した。
「まあ、あれから医療班の医者によればの調子は何も問題無いと話してるし、アンタの体や知能に変化ないのであれば、そこまで気にする話じゃないと思うわ。模擬宇宙もシステム的には問題なかったしね」
「ええ、自分は倒れた原因、気になるんだけど。本当に何もないの?」
「明確な原因が欲しいのであればそうね、アンタはその時、丹恒との喧嘩で興奮状態にあって、それが限度に達して、それで倒れたんじゃないの」
「ああ、そういうのもあるのか。それなら、納得だわ」
は、ヘルタから自分が倒れたのは丹恒の喧嘩で興奮状態にあったせいだと聞いて、一応、それに納得する。
そして。
「まあ、もう、説教で言いたい事は言ったから、星穹列車に戻っていいわよ。アンタ達、特に、これ以上、面倒ごとを増やさないでちょうだい」
「了解。と関わると本当、疲れるからな。今度は、俺が限界きて倒れそうだ」
「何よぉ。丹恒は開拓者と同じくらいの体力バカなんだから、それで限界に達して倒れる事なんてないじゃない。まあでもそうなれば、私が丹恒を看病してあげる。そこで開拓者や『なのか』、姫子に頼らないでよ」
「はいはい、それはもちろん、分かってるよ。お前以外の女に看病を頼めばそれこそ、地獄を見そうだからな」
「うん。丹恒は私の事をよく分かってるから、好きよ」
「……お前も俺の事、よく分かってるな」
丹恒は、が嫉妬深い女であると知っているので、それに応じるよう、しっかりうなずいてみせた。
もまた、丹恒は単純な言葉で機嫌が直ると知っている。
丹恒はそのがたまらず、自分からと手を繋ぎぴったりくつっついて、ヘルタの部屋を出て行った。
一人残ったヘルタは。
「やれやれ。やっと元通りか。本当、あそこまで面倒臭いカップル、中々見ないわ」
と丹恒の仲がようやく元に戻ったのを見て、安心したよう、微笑む。
そして。
「さっき、星核ハンターの話については、病み上がりのの知能を見るためだとは上手く誤魔化したけど。これ見れば、が模擬宇宙で倒れたの、星核ハンターの奴らの仕業よね」
ヘルタが持つパソコンには、模擬宇宙に関するプログラムが表示され、そこにコメントで有り得ない文言が追加されてあった。
その内容は。
//――とある事情があっては、この銀狼を含めた、星核ハンターのメンバーが預かった。ヘルタならもう理解してると思うけど、アンタの模擬宇宙利用して、を意識だけアタシの作った別の世界に飛ばしてるだけ。期間が過ぎれば無事に返すから、それまで、ちょっと、こっちで預からせて。以上。
銀狼は凄腕ハッカーであったが、その力を見せつけるため、あちこち、その証拠を残しているようだった。模擬宇宙以外のヘルタ・ステーションにも、時々、銀狼が侵入した跡が見つかっている。
はあ。ヘルタは銀狼のそのコメントを読んで、盛大な溜息を吐いた。
「、私が星核ハンターについて聞いたとき、明らかに動揺してたわね。あの子、宇宙では、このステーションと列車の間しか行き来出来ない中で、あいつらとどこで知り合ったのよ。
これが丹恒や開拓者をはじめとする列車組に分かればこれ以上に面倒な話ないし、これより面白い話もないわね。さて、どうするべきか……」
ヘルタはでこれ以上に面倒ごとは増やしたくないと思うが、その表情は、どこか楽しそうだったという――。
場面変わってヘルタの説教が終わったあとには、移動するエレベーター内で、なんとなく、丹恒に聞いた。
「ねえ。丹恒、けいちゃん様の怪異チャンネルで出てきた、あれ、なんていったっけ」
「あれ?」
「紙でできた人形みたいなの」
「ああ。仙舟の術者が使う護符か。あれは、使用者に降りかかる災いからそれを引き受け、身代わりになってくれる身代わり人形の一種だ。因みにあれは桂乃芬ではなく、十王司の判官であるフォフォが使ってたものだな。それがどうかしたのか」
「それ、丹恒も使える?」
「俺がそれ使えるといえば、使える。だがそれを使うには仙舟で材料揃えないといけないので、今すぐ使えるというわけじゃない。それがどうかしたのか」
「今までその護符、私につけてくれてた事、あった?」
「いや。に姫子さんの許可が下りて列車で地上に出かける用事があるなら護符をつける必要があると思うが、いまのところその予定ないし、それだから普段のステーションと列車をを移動するだけのにその護符をつける必要は感じられないのでそれ使った覚えはないな」
「そう。……(それじゃ、私に付けられてたあの護符、誰の仕業?)」
は、自分につけられてあった護符が丹恒の仕業ではないとここで知って、更に疑問だった。
丹恒は、そのを気にする。
「、何でその護符が気になるんだ?」
「あ、ええと、その、フォフォだっけ、彼女、怪異チャンネルで小さいながらそれで、けいちゃん様や開拓者を怪異から守ってたじゃない。それ見て凄いなーって思って」
は内心、焦りながらも、丹恒にそのわけを話した。
「そうか。しかしフォフォは小さいといっても一応、五十越えてるんだがな。彼女を見た目通りに扱えば失礼になるから、気を付けろ」
丹恒はのそれを信じるかのよう、そう返事をした。
因みに雪衣のボイス、フォフォの項目に「冥差になって三十八年」とあったりする。
それを知らないは驚き、丹恒に詰め寄る。
「は? あの子、あれで五十越えてたの?」
「うむ。因みに同じく判官で重役の寒鴉と雪衣は五百は越えてたはずだ」
「ご、ごひゃく? 嘘でしょ?!」
「仙舟ではどんな役職でも、重役につくには百年以上の修行を積まないとつけん決まりがあるからな。それ踏まえて、雲騎軍の新人の素裳は百は越えてなかったと思うが、それでも、フォフォよりは上だったはず。太卜の符玄についてる青雀はそれ以上、百は越えてるかと」
「仙舟の人間はほかより長生きとは聞いてたけど、そこまで? ま、まさか、けいちゃん様もフォフォと同じ……」
「いや。桂乃芬は外から来た人間だと聞いているので、仙舟のそれには該当しないと思うが。彼女は、見た目通りの年齢と考えていい」
「そ、そう、それは良かった……」
は、憧れの桂乃芬はそれとは違っていたので、ほっとした。
ほっとしたのも束の間――。
「そうそう、お前が美人のお姉さまと言ってたそれぞれの三人の秘書達は、七百だったか、八百だったか……」
「いやあああ、それ以上は止めて! それ以上は止めて! 彼女達のそれ知ってたら、丹恒を浮気者と思わなかったわ!」
「そうか。それなら最初から、にそれについて説明しとけば良かったな」
ここで丹恒は最初からにその件を説明しておけば良かったと、そこは反省したのだった――。
余談、その2。
その日、カフカは、とある星のとある都市にある星核ハンターが集うアジトの部屋でくつろいでいた。
「カフカ、ちょっといいか」
「刃ちゃん、どうしたの」
そこへ出先から戻ってきたらしい刃が現れ、彼女に声をかけた。カフカは気さくに刃に応じる。
「これ……」
「あら、それ、につけられてたっていう、仙舟の護符じゃない。あなた、それ、まだ大事に持ってたの?」
刃がカフカに見せたのは、につけられていたという、仙舟の護符――折り紙で折られた紙人形だった。
「あれは銀狼の作り物の世界の話で、護符もデータだったが、今回、データだけだったのを自分の手で再現してみた」
「そうなの。で、それが何か?」
カフカは最初、刃の言いたい事がイマイチ、よく分からなかった。
はぁ。刃はため息を吐いて、カフカに打ち明ける。
「あの護符の術式は、仙舟の失われた旧字体で書かれたものだった。この護符の術式を使える人間は仙舟でも限られ、その中でも特別な種族――持明族の連中だけが扱えるものときた」
「仙舟で持明族というと……、あら、あらあ」
カフカも刃の言いたい事が何か気が付き、その護符を面白そうに見詰める。
刃は震えながら、その護符を自分の拳で丸め、言った。
「これは更に言えば、持明族の中でも特別な龍尊――、飲月の仕業だ」
「その護符が持明族でも特別な龍尊の飲月様の仕業? 列車の護衛君もその龍尊の飲月様の力を継いでいて、それに変化できるんじゃなかったかしら。これ、護衛君の仕業じゃないの?」
「いや、飲月は飲月でも、現世の列車の飲月じゃなく、仙舟で五騎士の中の一人としてその名を馳せていた前世の飲月の方だ。俺にはそれが分かる」
「そう、刃ちゃんがそういうなら、そうなんでしょう。でもそっちの前世の彼、仙舟では罪人として捕まり、何もかも奪われた後になって列車の護衛君として生まれ変わったのでしょう? それで、現在の護衛君も、前世の飲月様のその力を持てるの?」
「さあ。俺もそう聞いていたが、現在の列車の飲月が前世の飲月の力をどこまで受け継いでいるのか、その力が現世でも使えるのか分からんが、この護符にある術式は、前世の飲月が得意とするもので間違いない。前世の飲月は、この強力な護符で、多くの仙舟の民を守っていた。
どっちにしろ、に列車の飲月どころか、前世の飲月もついてるとは思わないだろ。どうなってんだ」
刃はに丹恒だけではなく、彼の前世である丹楓もついてるとは思わず、参った様子だった。
ぱん、と、手を叩く音が聞こえた。カフカだった。
「そうなれば刃ちゃん、あなた、の第三の男じゃなくて、第四の男になるんじゃない?」
「は? 何で俺がの四番目なんだ」
カフカはそれだけで目を瞬きする刃を見て、面白そうに、指折り数える。
「一番目はまだ籍が抜けていないっていう国王様でしょ、二番目が列車の護衛君、三番目がその前世の飲月様、その次が刃ちゃんで、四番目」
「国王とあいつはまだ分かるが、奴の前世の飲月の方はその数に入れなくていいだろうが」
「でも前世の飲月様、それでちゃんとを守ってたんでしょ。それなら彼もの男の数に入れておかないと、反対に呪われそう」
「ハ、今ではあいつの陰としてしか生きられない、あの男に何が出来る――」
ボウッと。刃は丹恒の陰としてしかその姿が見えない飲月に対して鼻で笑うだけだったが、手にしていた護符はそれに反応するかのよう突然に青白い炎が出現し、紙人形は炎に焼かれ炭となり、一片の燃えカスだけが彼の手元に残った。
「ほら。彼もの男の数に入れてあげないと、前世の飲月様がお怒りじゃない」
「おいおい、マジか……。、現世の列車の飲月だけじゃなく、前世の飲月もたぶらかしてたのかよ。本当、とんでもない女だ」
それが前世の飲月の仕業であると分かってくすくす笑うカフカと、燃えカスを見てが現在の丹恒だけではなく前世の丹楓もたぶらかしているのが分かってそれに笑うしかない刃と。
そして。
「いいわね、いいわね。本当、と居ると退屈しないわあ。前回は無能力で無資格だけど第二王妃様として色んな男を相手にしてきて刃ちゃんにも真っ先に目を付けて体で迫ってきたが面白くて、私の方からそのを星核メンバーに入れたらどうかってエリオに進言すれば無能力で無資格のただの人間の女は星核ハンターに相応しくないって、彼にあっさり断られたのよね」
ひといき。
「でも今回の話で、には現世と前世の二人の龍尊の飲月様が付いてて更に刃ちゃんも付いてるという追加情報をエリオに与えれば、エリオもそのに興味持ってくれて、次こそ、彼女を星核ハンターのメンバーに入れてもいいっていう了解得られるかも。次にエリオと通信できる時が楽しみだわ~」
「うわ、その追加情報をエリオに与えれば、エリオもいよいよに興味持つぞ。それだけは勘弁してくれ……」
を本気で星核ハンターの仲間に入れたいために浮かれた様子でその情報を追加するカフカで、その追加情報ならエリオもを気に入るだろうと分かって顔を引きつらせるのは、刃だった。
くるくる、銀河は巡り、回る。
回転しながら、どこかで通じ合う――、それもまた彼らの日常だった。