番外編:07 回転宇宙(04)

 世界に、と刃だけが残される。

「バイク、走らせて」

「どこまで?」

「海まで」

「了解」

 刃はに腕をつつかれ、バイクを走らせる。

 を乗せた刃のバイクは、海岸へとたどり着く。

 背後を見れば、いつも見ていた都市のビル群が消えかかっている。

「この海が映像だって分かってるけど、足にあわせて海面揺れるし、飛沫も出来るんだ。凄い! 映像だって分からない状態で此処に来たら、本物の海だって思い込んでたかも」

 刃は、足だけ海水につけて波打ち際ではしゃぐに問い質す。

「いつから、気が付いた? この世界が銀狼の作った偽物であると」

「さっきの、仙舟の護符見てからかな。多分、外の世界――ヘルタ・ステーションに居る丹恒が私を助けてくれたのかも」

「そうか……」

「ねえ。刃も仙舟出身だったよね。もしかして、刃って丹恒と知り合いだったりする?」

「……」

 は現時点では、丹恒が仙舟では龍尊の飲月としてその名前を知られ、刃とも因縁があるというその裏話を知らなかった。

 刃は少し考えて、から顔を逸らして答える。

「あいつの事は、何も知らん」

「あはは。そのいかにもな態度、丹恒の事、知ってるでしょ。その顔で嘘吐けない可愛いとこあるよね、刃ちゃん」

「……、何であいつ、こんなとんでもない女に引っかかったんだ」

 うわあ。刃は、遠慮なく、けらけら笑うを見て、此処には存在しない丹恒に思い切り同情してしまった。

 刃は改めて、言う。

と俺達が初めて会ったのも、海だったな」

「そうね。確か、故郷のディアンの海岸でレギオンの襲撃があって、それの偵察に来た私の隊が襲われた時、星核ハンターの刃とカフカが助けに来てくれた……で、あってる?」

「それは、間違いない。あの時はこんな綺麗な海じゃなく、レギオンの残骸と死体の山の中だった」

「……」

「俺とカフカは、そこの第二王妃だったを星核持ちの国王との交渉材料に使うためにそこまで行ったが、レギオンにあっさりやられたお前を見て、その手を諦めて、別の手を考えていた。
 はしかし、俺にしがみついて、とんでもない方法で助けを求めて来たんだよな。カフカがそのを気に入って助けると言わなければ、俺もお前を助けなかった」

「そうそう。あの時、私も必死だったから、なりふり構ってられなかった。でも、結果的に助けてくれたでしょ。カフカと刃の二人が私とロイを助けてくれなかったら、レギオンに蹂躙されるだけの故郷から、丹恒の手で宇宙まで逃げられなかったと思う」

「そうかい。俺もカフカも、銀狼の情報で、あれからお前がしぶとく生き延びて宇宙まで出て、ヘルタ・ステーションの世話になっているとは、夢にも思わなかった」

「それは、私も同じ。人間、分からないもんだね」

 ぱしゃん。が波を蹴れば、飛沫になって跳ね返る。

 波は、キラキラ、を映す。

「お前さあ」

「何?」

「……いや、何でもない」

「もしかして、私がそこで同じく星核目当てに来てた丹恒と出会わなかったら、刃の方といい関係になってたとか思ったりした?」

「お前、少しは恥じらいを持て! お前と恋人として付き合ってるっていう、あいつに遠慮した俺がバカみたいじゃないか!」

 ニヤニヤ笑うで、そのに本気で腹が立った刃は同じよう、彼女に向けて勢いよく波を蹴った。

「私が恥じらい持ってたら第二王妃になってないし、あの時、刃にあそこまで迫ってないってー」

 あははー。も遠慮なく笑って、刃に向けて波を蹴った。

 ばしゃん、ばしゃん。

 お互いに飛沫がかかるが、映像のため、冷たい感触も濡れたという不快感もない。

 しばらく遊んで、疲れたのか、刃がその場に座り込んだ。

 そしても刃と同じように座って、彼の隣に来て言った。

「私、丹恒もいい男と思ってこの宇宙まで彼についてきたけど、刃も同じようにいい男だって思ったのは本当だから」



「ねえ。あの時の約束、覚えてる?」

「……何の約束だ」

「覚えてるくせに。私とロイをレギオンから助けてくれたら、相手してもいいって約束」

「お前、すでにあいつと関係持ってるだろ。それで、俺を相手にできるのかよ」

「もちろん。私を誰だと思って?」

 ふふん。は自分の胸に手をあて得意になるも、刃は呆れた様子でそれに答える。

「無能力で無資格のただの人間の女だろうが」

「そっちじゃなくて、ディアンの第二王妃様!」

「第二王妃が何だよ。第一のなり損ないだろ、それがどうした」

「そこまで上り詰めるのに、色んな男相手してきたって言いたかったの! 国王陛下落とすのだって、周りの大臣や貴族といったエロオヤジやエロジジイ達をこの体使って買収して、色々やったんだから!」

「おいおい、それ、俺の前で自慢する話か。俺はそんな汚れた女相手にするほど、落ちぶれちゃねえ――」

「これでも、汚れた女を相手にしたくない?」

 ずいっと。は潔癖だと言い張る刃の腕を取り、自分の胸の谷間を押し当ててきたのである。

 刃は自分でも遠慮ないを見て、怒鳴りつける。

、俺に襲われたいのか!」

「襲われてもいいから、くっついてるんじゃないの」

「……」

「あの時も私、私が第二王妃になった時点で私に清純さを求める方が間違ってるとは、刃に伝えてたでしょ。私も自分が汚れた女であるのは、自覚してるって」

 は何か吹っ切れたように、笑っている。

 そのを見て刃は。

「……お前、あいつにも俺と同じようにその体で、迫ったのか」

「あいつって?」



「ええと、私、刃と同じように第二王妃で国王陛下やそれ以外の男達と関係持ってる私を相手にするのはどうかと思うとは、丹恒にちゃんと伝えたんだけど、それでもいいからって、あっちから私に強引に関係迫ってきた。あそこまで強引に迫られたらもう彼についていくしかないって感じで、宇宙までついてきたんだよ」

「マジかよ、あいつもやるじゃねえか」

 ヒュウ。丹恒からに関係を迫ったという話をから聞いた刃は、口笛を吹いた。

「あいつ、大人しそうに見えて、けっこう強欲なんだよな。自分の欲しいものは、どんな手を使ってでも手に入れてやがる。そういうとこ、昔と変わってねえなあ」

「……」

 刃は、丹恒は前世も今もそういう所は変わっていないと、おかしそうだった。

 それを見たは、何を思ったのか、更に刃に迫る。

「ねえ、私を相手にしたいのであれば、此処で相手してもいいよ。どうせ、誰も居ないから、ヤりたい放題だわよ」

「お前なあ、あいつのあてつけに俺を利用するの止めろ」

 刃は、の誘いの本心を見抜いていた。

 は刃のそれを聞いて、彼から離れる。

「何だ。全部、分かってたの?」

「俺をみくびるなよ。お前があいつと喧嘩中だっていうのは、銀狼の情報でとっくに知ってる。銀狼はその隙を狙って、お前をこの世界に取り込むのに成功したんだとさ」

「そうだったんだ。銀狼に私のそこ、つかれてたとは……。これは、私も予想外だわ。さすが、開拓者も認める腕を持つ銀狼ね」

「それだから俺は、お前のそれに応じる気はないし、あいつとの仲も知らん」

 刃は立ち上がり、を冷たく突き放す。

 も立ち上がって、刃と向き合い、彼に言い返した。

「でも刃も、丹恒のあてつけに私を利用したくせに。いつもやられっぱなしの丹恒に一泡吹かせたくて、私をこの世界に連れて来たんでしょ」

「……お前、俺とあいつの関係、知ってたのかよ」

 刃は銀狼の情報で、は丹恒と自分の関係については知らないだろうと思っていた。が自分と丹恒の関係を知っていた事に、素直に驚いている。

 はニヤニヤ笑いながら、言った。

「星核ハンターの刃。刃は仙舟では丹恒の古い知り合いで、昔、丹恒と色々あって、会えばすぐに喧嘩を吹っかけて来るのでうんざりしてるってのは、聞いてた。丹恒からは刃についてそこまでしか聞いてないけど、なんか、それ以外に根深いものありそうね?」

「俺とあいつの関係は、無能力で無資格の第二王妃様が踏み込んでいい話じゃねえよ。さっさと元の世界に帰れよ、もう自分の意志で帰れるだろ」

 刃は手を振って、をそこから追い出そうとする。

 はしかし、刃の言う事は聞かず、腰に手をあて反論した。

「何よ。刃と丹恒との関係、教えてくれてもいいじゃない。丹恒の恋人であり、刃の恋人である私もそれ、知る権利あると思うんだけど~」

「おい、いつから俺がお前の恋人になったよ」

「刃は、カフカとか銀狼とかホタルとかとは、そこまでの関係じゃないんだよね。それなら、私とそういう関係になっても良いと思うんだけど」

「俺はさっきから、お前のそれに応じる気はないと言ったの、聞いてないのか。しかも、お前、あいつと恋人として付き合ってるんだろ、それで、俺とそういう関係になりたいのか」

「刃ならそういう関係になってもいいって、さっきから誘ってるんだけど」

「それじゃ、あいつと別れる気か」

「丹恒と別れる気ないって。あんないい男、何があっても手放すつもりないから」

「あいつと別れる気ないなら、俺と付き合うのはナシだろ」

「丹恒と刃、二人同時に付き合うってのも、アリじゃない?」

「おいおい、二人の男を同時に手に入れようなんざ、とんでもねえ女だな。カフカでもそこまでしなかったぞ」

「第二王妃が許されるんだから、二人の男と付き合うのも許されると思うんだけど。実際、まだ国王陛下とは籍抜けてないから、丹恒とも同時進行できてるわけだし。あ、刃も入れると三人目になるのか。紹介される時に第二王妃様の第三の男、刃、格好良くない?」

「第三の男なんて全然格好良くないし、誰が、お前の第三の男になるか」

「えー。つまんない~。たとえ三番目でも、第二王妃の私と付き合うと、色々、お得だよ~」

「はぁ、第二王妃だからって、無能力で無資格の女に何が出来る――」

 刃は何も物が言えなかった。

 ちゅ。

 が刃と腕を組み引き寄せ、彼の頬にキスしてきたせいで。

 はすぐに刃から離れ、自分の口紅が塗られた唇を指さし言った。

「うひひ。ほっぺにキスマーク、つけといたよ」

「!」

 刃が慌てて頬を拭えば、指にの口紅がついた。

、お前……!」

「第二王妃、なめんなー。第二王妃になるとこれくらい、簡単だから。それから刃も、私の第三の男になればこれ以外も、可愛いさんとヤりたい放題だよー」

「俺は、こんなとんでもない女とは、ヤりたくねえわ。それから、自分を可愛いという女は地雷だと言ってるだろう」

「えー。丹恒には私のやり方、凄くいいって褒められたんだけど。さすが第二王妃様って」

「……、が先に俺を誘ったんだからな、後で俺に文句言うなよ」

「うひひ、ようやく私を相手にする気になった? 刃が私の相手してくれるなら相手になるけど、でも残念、もう時間だから今回無理っぽい。次、どこかで会えたら、相手してあげるから、その時、お楽しみにね~」

「お前が俺を相手にするのはいいが、あいつに俺との関係がバレたら、どうする気だ」

「知らない~。丹恒は私のそれ知ったうえで付き合ってるから何があっても私に手を出せないからいいけど、刃は自分でなんとかして」

「うわあ。俺、何でこんな女に捕まったんだ……」

 刃は無責任なに対して顔を引きつらせて、わなわなと、震えるだけしかできない。

 は勝ち誇ったよう、可愛くウィンクして、言う。

「これで刃は、私の事を忘れられなくなったでしょ。私も刃の事、忘れないから」

「あ……」

「海から呼ばれてる気がするから、もう行くわ。それじゃあね!」

!」

 は言って、海に向かって走った。

 刃も海まで走ってを追いかけようとするが、無理だった。

 ばしゃんっ。

 は自ら海に飛び込み、そこから姿を消した。

 一人残された刃は。


「本当、飲月と俺、とんでもねえ女に引っかかったもんだな。どうすんだ、これ」


 消えかかる世界の中、につけられた口紅をもう一度拭って、笑っていたという――。



 ――現在、星穹列車のラウンジにて。

 開拓者、丹恒、なのか、ヴェルト、姫子のいつもの五人が集まり、そして、その中心には、模擬宇宙から復帰したばかりのがいた。


「は? 今回のと丹恒の喧嘩、丹恒の浮気が原因?」


 は開拓者が模擬宇宙で見付けた後、医療室に運び込まれ、一日経ってようやく目を覚ましたという。

 その間にも丹恒にこの話が伝わり、目を覚ました時、彼が心配そうにそばで見守っている状態だった。は喧嘩をしていても丹恒の顔を見れば落ち着きを取り戻し、自分がどうして模擬宇宙で倒れていたのか分からないと、開拓者と丹恒に話した。

 医療班の医者がの調子を診察すれば問題なくすぐに退院できると話して、しかし、仕事に出るには一日休んだ方がいいという診断を受けたので、いったん、丹恒の居る列車に戻った次第である。

 それから医務室の医者から「ヘルタさんから、回復したら部屋に来るようにという伝言がありましたよ」と伝え聞いたが、そこではヘルタの説教があると分かっているので、はそれから逃げるように星穹列車に戻ったのだった。

 ここで開拓者がの落ち着いた頃を見計らって事情聴取を開始すれば、からそう返事がきて、開拓者だけではなく、なのか、姫子、ヴェルトも呆れた様子だった。

「何、それ。丹恒、に隠れて浮気してたの? そうなら、ウチ、ガッカリだわ~」

「違う! 俺は断じて、浮気してない! 潔白だ!」

 の言い訳の方を信じて引き気味なのは『なのか』で、『なのか』にそう反論するのは丹恒本人だった。

、丹恒の浮気内容、私達に明かせる範囲でいいから、話してくれる? 丹恒が白か黒かは、第三者の私達で判断できるでしょう」

「うわ。姫子、男側からすればそっちの方が怖いんだけど」

 にっこり。姫子は笑顔で母親のような優しさでにそう言うも、男のヴェルトからすればその裁判は震え上がる話だった。

 ここでは溜息を吐いて、丹恒よりも『なのか』に視線をあわせ、言った。

「これ、『なのか』も関わってるんだよね」

「え、ウチ? ウチ、に何かした?」

 当人の『なのか』はにそう言われると思わず、素直に驚いている。

 は言う。

「なのか、最近、開拓の旅の写真が増えたから、いつもの女子会でそれの展覧会やろうって、私もそこに誘ってくれたじゃない」

「あー、そうだった。ウチと開拓者との三人でやるいつもの女子会で、仙舟でウチの撮りだめした写真を集めての展覧会、開拓者の部屋でやったの、覚えてるよ」

「うん。私もそれ覚えてるよ。確か、仙舟の開拓の旅が終わってしばらく経った頃だったかな。『なの』が仙舟の絶景写真がたくさん撮れたからそれのお披露目会やりたいって言いだして、も丹恒の故郷の仙舟が見たいって言って、私達の間でその女子会やって、けっこう盛り上がったんだよね」

 『なのか』だけではなく開拓者も、を入れて、なのかの旅の写真の閲覧会をやったのを覚えている。

 ヴェルトは丹恒を庇うよう、に聞いた。

「それでどうして、丹恒の浮気が発覚したんだい? それくらいなら、微笑ましい会としか思わないし、普段から丹恒マニアと公言しているにとっても良い会だとは思うが」

「そうそう。、ヨウおじちゃんの言うよう、丹恒マニアの自分からすればたまらない会だわ、仙舟の写真の展覧会に誘ってくれてありがとうって、ウチの手を取って喜んでくれてたじゃん。その会が終わった後、ウチが撮った中でも丹恒だけが写ってる写真、何枚かあげて、それも凄く喜んでたじゃない」

「うん。その時は、『なのか』の写真で普段と違う丹恒が見られて、嬉しかったんだけど。後から部屋で改めてそれ見てたら、ある事に気が付いて、それ問い質すために丹恒の資料部屋に駆け付けたんだ。でも問い詰めても丹恒はそれ否定するばかりで、私の話に応じてくれないからそれに怒って、列車飛び出していったわけ」

はそこで、丹恒の何を見つけたの?」

「俺もそれが何か、知りたいな」

「姫子、ヴェルトさん、これがその証拠です」

 スッと。は『なのか』からもらった丹恒の写真を全部プリントしていて、姫子とヴェルトにそれが証拠であると、差し出した。

「あらあら、仙舟の街に馴染んでる丹恒がよく撮れてるじゃない。さすが、三月ちゃんね」

「うん。どの写真も、目当ての丹恒が写ってるな。お、丹恒が神策府で景元将軍と会話している場面もあるのか、でもそれは二人とも後ろ姿で『なのか』の隠し撮りっぽいが、いいのかこれ……」

 が差し出した写真には、開拓者と『なのか』と丹恒の三人が仙舟の街を歩いている場面だったり、丹恒と開拓者と二人で買い物や食べ歩きをしている場面だったり、丹恒が景元将軍と真面目な会話をしている場面をこっそり裏で隠し撮りしたものだったり、そこは、列車やステーションでは見られない丹恒の姿があった。

 いつものであればここまでレアな丹恒は中々見られない、仙舟で丹恒の写真を撮ってくれていた『なのか』に感謝して、夜ににやけてステーションの自室でその写真を眺めている時にある事に気が付いた。

「ねえ、姫子、ヴェルトさん。その丹恒の写真でおかしいとこ、何か気が付かない?」

「何? 別におかしい所はないと思うけれど……」

「俺もそこまで、おかしいとは思わないが。これの何が問題なんだ?」

 ?

 姫子とヴェルトはに言われても分からず、首を傾げる。

 と。

「女!!」

「え」

「この写真も、この写真も! 丹恒てば、私の知らない女達と仲良さそうに写ってるんだけど!!」

「あ」

 丹恒の写真には、仙舟で知り合った女達と居る場面が多くあったのに、姫子とヴェルトも気が付いた。

 しかし、ヴェルトはそれのどこが丹恒の浮気に繋がるのかと、疑問だった。何故なら。

「知らない女って……、この子は雲騎軍の素裳、それから、彼女の友達で十王司の判官のフォフォ、この女性は確か、フォフォと同じく十王司の寒鴉さんと雪衣さんか。素裳とフォフォはともかく、十王司の中でも重役の寒鴉さんと雪衣さんの二人とよく撮れたな、これも丹恒の人徳かな。
 それからこっちは、太卜司の太卜である符玄さんと彼女についてる青雀だな。長楽天のテラスで丹恒が青雀相手にゲームして丹恒が有利なのか青雀が悔しそうだ、それで、周囲で盛り上がってる様子がよく撮れてる。
 お、景元将軍の秘書さんだけじゃなく、御空さんの秘書さん、長楽天で地衡司の大毫殿についてる浄硯さん、それぞれの秘書さん達と会食してるのは、さすがというかなんというか。
 これで分かる通り、丹恒と一緒に写る女性達は全員、俺と姫子も知ってる女性達ばかりだが――」

「ちょっとヴェルト、私とヘルタの許可がなければ地上に降りられないは彼女達の事、全然知らないのよ」

「あ」

 ひそひそ。姫子にその事実を耳打ちされたヴェルトはしまったと思ったが、遅かった。

 うわああん。は泣きながら、列車組に訴える。

「丹恒てば地上で、私の知らない所で私の知らない女達、しかも、可愛い子達や、美人なお姉さま達とばっかり仲良くやってるってのがこれで分かって、地上ではいつもこんな感じで女に囲まれてるのかって、そこの資料部屋で問い質したの! そしたら丹恒、お前の知らない女達の話をしても仕方ないだろうって、私を冷たく突き放してきてさあ!」

「それは丹恒が悪い」

「丹恒が悪い」

 の言い分を聞いて開拓者と『なのか』は、あっさりと側についた。

「素裳とフォフォに関しては、俺の知らない間にいつの間にか背後に来て勝手に撮って、それは三月の映え写真のためだって後から聞かされた! 寒鴉と雪衣も、たまたま一緒だった時に三月が俺と彼女達の意見を聞かず、勝手に撮っていったやつだ。それから、それぞれの長の情報をこっそり仕入れたいという下心があって、各自の秘書達と会食を計画したのは、開拓者だろう!」

 開拓者と『なのか』があっさり側に立った事に、丹恒はすかさず反論する。

 は丹恒の反論に聞き耳持たず、更に、姫子とヴェルトには渡していなかったもう一枚の写真を見せた。

「極めつけはこれ!」

「あれ、これ、桂乃芬と素裳とフォフォの仲良し三人組と、私達の写真だ」

 が最後に持ってきた写真には、自撮りで端末を持つ手を掲げている桂乃芬を中心に、素裳、フォフォの仲良し三人組、そして、その背後に開拓者と『なのか』、丹恒の三人も仲良さそうに写っていた。

「これ、私が十王司のフォフォの依頼で、仙舟にまつわる怪異調べてた時、桂乃芬を中心に、素裳とフォフォの四人でその怪異を調査して解決する隊を結成して、その途中で丹恒と『なの』に会って二人にも怪異に関する情報提供とそれに協力してもらって、解決後に集合写真撮ったやつだ。懐かしー」

「へえ。あれ、やっぱり開拓者が関わってたんだ。私も銀のメダル獲得記念で、その怪異チャンネルの匿名の協力者が後ろ姿でインタビュー受けてた動画も見てたんだよ。その協力者、ぼかし入って音声変えられてたけど、雰囲気と言動からして開拓者っぽいって思ってたんだよねー」

「ええ、はそれ知ってるうえに、桂乃芬の怪異チャンネルで銀のメダル獲得記念にやった私のインタビュー動画も見てたの?」

 開拓者は最初、仙舟にも行った事のないが十王司の判官であるフォフォの依頼で桂乃芬を中心に、素裳と組んで、仙舟に散らばる怪異の情報を集めて解決するという隊を組み、活動していたのを知っていた事に関して、も知っていた件は、素直に驚いた。

 は言う。

「私、ヘルタ・ステーションで、丹恒二人の限定生配信チャンネルと、ステーションの女性スタッフ呼んでお酒飲みながらおしゃべりするだけの部屋飲みチャンネルやってるんだけど」

「うん、それは知ってる。私も『なの』もに誘われて、その部屋飲み配信、手伝ったからね」

 開拓者は以前、が地上に派遣されている丹恒と会話するために二人限定の生配信チャンネルと、ステーションの女性スタッフを招いて可愛い服を着て酒を飲むだけのチャンネルを持っているという話は聞いていて、話の流れで『なのか』と一緒になって、それの手伝いをした事もあった。

「私ね、それらのチャンネル立ち上げるさい、ほかのチャンネル参考にしようと、いくつかの配信見てたの。その中に、けいちゃん――けいちゃん様が仙舟の街中で大道芸を配信してるチャンネルあって、その時は参考程度だったのが、いつしか、そのチャンネルの常連になってた。
 で、そのけいちゃん様が開拓者とやってた怪異情報チャンネルも、その流れで視聴してたんだよね」

「けいちゃん様って。彼女、様つけるほど?」

 開拓者は最初、のそれに引き気味だったが。

 はガシッと開拓者の肩を掴み、訴える。

「つけるほどなんだよ! 私なんか登録者数は百人も満たない初心者レベルで下っ端もいいとこなんだけど、けいちゃん様はその怪異チャンネルで百万人突破の金のメダル取ったほどの実力者だよ! 私、けいちゃん様の怪異チャンネルだけじゃなくて、彼女が得意とする大道芸の配信も初期の頃から見てて、彼女のキラキラした活躍をずっと追いかけてたほどの、けいちゃん様ファンだったの!」

「そ、そうだったんだ」

「それだけじゃなくて、ステーションの低い給料をやりくりして、彼女に投げ銭もけっこうやっててさ。けいちゃん様は優しくて、わずかでも投げ銭してくれたファンには何でも応じてくれてたんだ。それで、ある時、勇気出して投げ銭してからの私のリクエストにも応じてくれた事があって、そこでやってくれた、いくつかの剣を持ってそれを自在に操って踊るっていう素晴らしい大道芸は永久保存、今でも何度も見返してる」

「はあ。がそこまでの、けいちゃんファンだったとは……」

「私がそこまでやって、それでも、けいちゃん様とやり取りするのは恐れ多いって感じだったのに、開拓者はまだしも、丹恒があっさり、けいちゃん様に近付けるなんて! 仙舟の写真展でこれ知った時、凄い悔しかったんだよ!」

「ええと、丹恒はのそれ、知ってたの?」

 開拓者はから離れて、腕を組んで聞いているだけの丹恒に注目する。

 丹恒はうんざりした様子で、開拓者にそれを打ち明ける。

「俺もが自分のチャンネルを立ち上げるさい、仙舟で活躍中の桂乃芬の大道芸の配信を参考にしたのをきっかけに、彼女に投げ銭するほど追いかけてた古参ファンだったっていうのは、知ってた」

「それで何で自分が私を通じて桂乃芬と知り合いだって、に教えてあげなかったの」

「自分が無能力で無資格のせいで、姫子さんかヘルタの許可がなければ仙舟まで行けないだろ」

「あ」

「俺が開拓者を通じて桂乃芬と関わってると知ればは、仙舟への憧れが強くなって俺にも自分をそこまで連れていけって喚いてくると思って、それ、言い出せなかった」

「うぐぐ、こんな時に限ってそれが仇になるとは……! それがなければ私も丹恒のコネ使って、けいちゃん様に会えたのに!」

 は本当に悔しそうに、地団駄を踏む。

「そうかあ。、丹恒のために仙舟の勉強も始めたけど、まだ姫子とヘルタの許可降りないもんなあ」

……」

「こればっかりはなあ……」

 無能力で無資格のせいで仙舟に行けず、悔しそうにするを見れば、開拓者と『なのか』だけではなく、ヴェルトも彼女に同情はする。

 それからは、ある事を開拓者に打ち明ける。

「それだけじゃなくてさ、丹恒、自分が仙舟で美人なお姉さま達や可愛い女の子達に囲まれてデレデレしてるくせに、私が写真で見付けたこの男カッコイイって言えば、すぐ不機嫌になるんだけど!」

「へえ、が丹恒以外の男に目をつけるなんて、珍しい。それは私でも、どれほどカッコイイ男か、興味あるな。どの人?」

「ウチものそれに興味あるけど、仙舟でそこまでカッコイイ男、いたっけ?」

 開拓者と『なのか』はが面食いであると知っているので、仙舟で丹恒以外のカッコイイ男に目を付けたのそれに興味を持ち、写真でのいう「カッコイイ男」を探すも、最初は誰がそうなのか見付からなかった。

 は一枚の写真を取り出し、それを開拓者達に見せた。

「この人! めっちゃよくない?」

「うわ、よりによって彼か!」

「あらら。、この人に目付けちゃったの?」

 が興奮した様子で写真の男を指させば、その男を見た開拓者はそこからのけ反り、『なのか』もその彼を見て、驚いた様子だった。

 姫子もその写真で『彼』を確認し、なのかに聞いた。

「あらあら。彼、星核ハンターの刃じゃない。三月ちゃん、彼も写真で撮ってたの?」

「いや、ウチ、星核ハンターの刃がウチの写真に残ってるなんて、今まで気が付かなかった。これ、刃が太卜司で太卜の符玄達の追跡からカフカと逃げてる時のかな? ウチも開拓者とそれ目撃して、シャッターチャンスきたって感じで思わず、撮ってたのかも」

 が示した写真に写っていたいい男は、星核ハンターとして活動する、刃とカフカの二人であった。

 『なのか』も自分の写真に刃とカフカが写っているとは、思わなかったようだ。

 開拓者は言う。

「いやでもその中で、刃に目をつける? 刃って、一緒に逃げてるカフカと関係持ってるんじゃなかった?」

「あ、やっぱり彼、一緒に逃げてたカフカっていう女と関係持ってたの?」

 開拓者から刃とカフカに関する情報を聞いては、残念そうに肩を落とした。

「刃が独り身なら狙ってたんだけどなー」

「それね。カフカが刃とそういう関係と思ったのは私の目から見ただけで、本人達からそうだという情報は今のところ、どこにも公表されてないんだよね」

「ほんと? それなら、刃、狙ってみよっかなー。開拓者、どこかでその星核ハンターの刃と会ったら、私の写真と連絡先、彼に渡してよ」

「いやいや、それでも、が億の懸賞金をかけられてるほどの指名手配犯の刃を狙うのは、止めた方がいいと思うよ」

 開拓者は慌てて、刃に本気でアタックしようとするにそう忠告し、彼女の写真と連絡先は受け取らなかった。

 それというのもその時の開拓者は背後でその話を聞いていた丹恒の冷たい視線を感じ取り、背筋が震えていたという。

 ヴェルトはその中でも、刃に注目したの目の付け所に感心を寄せる。

「しかし、符玄さん達から逃げてる最中で遠くから撮影した影響か、刃もカフカも小さいな。もこの中でよく、刃がいい男だって見付けられたなあ」

「ふふ、さんのいい男センサーは、あなどるなかれ、です」

「それ、胸張って言う事かい?」

「私の故郷でも、私のいい男センサーで丹恒が引っかかったんですからね。私の男を見る目は自信あります!」

「そうだった、そうだった。があの故郷で丹恒に目を付けた部分は、そのいい男センサーは確かだ。なあ、丹恒?」

「……」

 はは。自分のいい男センサーで丹恒を見付けたと更に自信を持って胸を張って言うに笑うのはヴェルトで、そのに参ったよう視線を逸らすのは丹恒だった。

 それから丹恒は溜息を吐いた後、に向けて注意を促す。

「どっちにしろ、開拓者の言うよう、指名手配犯の星核ハンターの刃は危険な男で変わりないからな。、何があっても、刃には近付くなよ」

「えー、そうかなあ。彼、そう危険な男には見えないけど……」

、無能力で無資格のお前が、カフカと一緒に仙舟だけではなく、カンパニーにも億の懸賞金をかけられるほど指名手配されてる犯罪者集団の星核ハンターの刃に適うわけないだろう。相手にされず、反対に泣かされて終わるだけだ」

「何よぉ、そっちだって私の知らない所で私の知らない可愛い女の子達とよろしくやってたし、私のけいちゃん様とも仲良くしちゃってさあ。私も少しくらい、丹恒以外のいい男に目移りしたっていいじゃない。彼が犯罪者でも、いい男に変わりないんだから」

「刃は別だ。仙舟でいい男を探すのであれば、あいつ以外の男にしとけよ」

「えー。仙舟で彼以外でいい男といえば、私の知ってる範囲だと雲騎軍の景元将軍様くらい? いやでも、この私が仙舟の将軍様と会えるわけないしなあ、やっぱり、刃一択じゃない?」

「いやだから、どうして、そこで俺以外の男の話になるんだ。ここは仙舟でも、俺がいいっていう場面だろうが」

「自分も仙舟だけじゃなくてヤリーロとかそれ以外の地上では、常に私以外の可愛い女の子達と一緒だったじゃない。何で私だけ駄目なの?」

「仙舟でもヤリーロでも彼女達とは、開拓者と三月とも一緒のうちだと話しただろう。実際、写真にも彼女達以外、開拓者と三月も写ってるのがあるじゃないか。何回言わせるんだそれ」

「いやでも、開拓者達と一緒でも、常に誰かしら可愛い子と一緒ってのはどうなの?」

「それは、仕方ない。俺もそこまで彼女達と親しいとは思ってないが――」

 しばらく、と丹恒の不毛な言いあいが続く。


「……なるほど、こういう感じでと丹恒の間で言い合い続いて喧嘩になって、が飛び出していったのか」

「これ、どっちもどっちじゃないかなー」

「本当、ヘルタの言うよう、フタを開ければどうでもいい話だったわね」

「はは、本人達からすれば重要なんだろう」


 開拓者、なのか、姫子、ヴェルトの四人は、丹恒との喧嘩の原因が分かって、更にそれが特別な話ではないと分かって、呆れていた。