多分、これもまた、銀河を統べる星神達の前では些細な話に過ぎないのだろう。
『――風邪?』
「起きたら気だるい感じがして何かと思えば、熱出てたわ」
ケホ、ケホ。
は咳き込みながらも自室でベッドに横になった状態で、端末を持って、丹恒と会話をしていた。
同じ領地内に居る間は生配信を使わずとも、端末を介して会話はできる。
『ステーションの医務室、行ったか?』
「うん。医療班の医者から薬もらってきたし、診断書ももらってきて、それで、応物課の温明徳課長から休みもらえた。薬飲んで大人しく休んでれば一日くらいで治るって言われたから、そうする」
『俺、必要か?』
「大丈夫。風邪が移るといけないから、しばらく、一人で好きにしてていいよ」
『そうか。それなら一人で好きにしてるよ。大丈夫になったら、また、連絡くれ』
「分かった。それじゃあ」
ぴ。丹恒との通信を切って、一人になる。
は一人、ベッドの中で退屈そうに、端末をいじる。温明徳課長だけではなく、エイブラハムを中心とした同じ応物課のスタッフ達から心配のメッセージがきていたのでそれの返信をすませて、最新情報や動画を見ていたら眠くなって、眠りについた。
宇宙では、ただの普通の人間は、病気になりやすいと聞いている。
それは、あらゆるウィルスに対する免疫を持っていないせいだという。
ヘルタやアスターによれば、検査を受けて申請すればカンパニーの技術であらゆるウィルスに対抗できる病気に強い体にしてもらえるらしく、ステーションに来る人間達はその検査をしたうえでステーションに適した体にしているようだった。
はしかし、診断を蹴って、その申請をしなかった。
それというのも、この体は故郷のものであり、宇宙のものではないという意識が強いせい。
は以前、丹恒を前にして自分の思いを打ち明けた事があった。
『ヘルタやほかのスタッフ達のよう、自分の体を改造してまで、強くならなくていい。この状態、故郷を出た時の私のままがいい』
『しかし、がジェイドのいう再教育――、カンパニーの指示に従って指定の学校に行き、そこで資格持てるようになってこれより外に出られた時、俺や開拓者、三月のよう、各地の星を渡り歩きたいのであれば、あらゆるウィルスに対抗できる強い体を手に入れなくてはいけないと思うが。己の体にあわない未知なる病原体は、どこに潜んでいるか分からんからな。何も施しを受けなかったが外に出た途端、倒れる、なんて事は、十分にあり得る話だ』
『それね。そうなった時にどうするか、考えればいいんじゃない?』
『どういうわけだ』
『私がジェイドのいう再教育でカンパニーの指示に従って指定の学校に通って資格持ってこれより外に出られたその時に丹恒がついてたら強い体に改造したいって思うだろうし、それに耐えられなくて丹恒と別れた状態ならそのままでいいやって思うかもしれない』
『……、俺は、何があってもと別れる気ないぞ。それだから、ジェイド、そして、カンパニーの上層部の連中に抗ってるんじゃないか』
『そうだった。カンパニーの指示に従って指定の学校に行けば資格持ってステーションよりも外に出られるようになると思うけど、それよりも前に、私も私のルール違反のせいで丹恒と別れたくないからまだ此処にしがみついてるんだったわ』
はは。は笑うも、丹恒は笑えずに溜息を吐き、その不安を取り払うように彼女の手を握る。
はその丹恒の手を振り払わず、落ち着いた様子で彼の顔を見詰める。
『丹恒』
『俺はあの時――、姫子さんとヘルタ、カンパニーのジェイドに未開拓の地からを連れてきたのがルール違反でその影響で星の歴史を狂わす異端児だと言われようが、その責任を押し付けられて処刑される寸前のを宇宙まで逃がした選択は今でも、間違ってないと思っている』
『そうね。私も、丹恒について宇宙まで出てきた選択は、間違ってないと思うわ』
『ああ、俺ものそれが分かれば十分だ』
『うん……』
丹恒はのその言葉が嬉しく彼女に寄り添うが、はどこかぼんやりと宇宙の図が描かれた窓を見つめていた――。
――どこかで甘い香りがした。
「……んー」
は、夜中に目を覚ました。
そして、机の明かりがついている事に気が付いた。
「……丹恒?」
『目が覚めたか? 具合はどうだ?』
机で何か作業していたらしい丹恒がの方を振り向き、彼女の状態を聞いてきた。
は上半身だけを起こして、丹恒の姿を見てほっとしたのと同時に、心配もした。
「私の事はいいから、一人で好きにしてって言ってたのに……」
丹恒は自分も開拓の旅やほかの依頼で忙しいだろうに、ここまで面倒見なくていいとは思ったが、次には「俺が勝手に来ただけだから、気にするな」と、いつもの優しい言葉をくれるのが、も分かっている。
しかし――。
『……?』
「何? どうしたの?」
何か、まずい事でも言ったのだろうか。
は怪訝な顔をした丹恒を見て、不安になる。
丹恒は慌てた様子で机を離れてに近付き、言う。
『、もう一度、何か言葉を発してくれないか』
「え、何、なんて?」
もまた、丹恒の言葉が理解できなかった。
『!』
「丹恒?」
丹恒は真っ先にその異変に気が付き驚くも、は何が起きているのか分からずに戸惑うばかりだった――。
『――まずい事になったわね。の共感覚ビーコンの効果が切れてる』
ヘルタ・ステーション、ヘルタの部屋にて。
丹恒は嫌がるを問答無用で部屋から出して、ヘルタの部屋まで直行したのである。
この時、システム時間では夜中でステーションは封鎖されていてスタッフ達も自分の部屋で休んでいたが、ヘルタに限っては機械人形であるため、夜でも朝でも一日、稼働している。そのぶんは大変助かったと、丹恒はつくづく思った。
丹恒はヘルタに問い質す。
『ヘルタ、がステーションに入る時、検査で、共感覚ビーコンを摂取させたんじゃなかったのか』
『それね。丹恒には今まで打ち明けてなかったけど、があの世界から此処に来た当初、医療班の医者の診察受けてそれ接種するさい、共感覚ビーコンの注射器見て子供みたいにそれ嫌がって、それで暴れるをなんとかして拘束して、無理に打たせたのよ。多分、その時の影響で、摂取量が規定より少なかったみたい』
『は? 医療班の医者が暴れるを拘束して無理に打たせた? に俺がついてる状態でそんな真似――ああ、そういえば、当初は俺はを姫子さんに預けたままで彼女に任せきりだったな』
うわ。丹恒は最初は医療スタッフの方に非があるのではと思ったが、列車についてからはを姫子に預け、その後、は姫子に任せきりで、自分と離れた状態だった事を思い出した。
その丹恒に関して、ヘルタは意地悪く言った。
『丹恒、アンタ、あの宇宙科学も知らない文明レベルの低い未開拓の星からを連れて来たのはいいけど、それからの検査や診断は姫子とアスター、私に任せきりで、がステーション入り決まった後も彼女をしばらくほったらかしにしてたでしょ。私達――姫子、アスター含めて、その時のに手焼いたんだから』
『面目ない。いや、俺もまさか、姫子さんの判断でをヘルタのステーションに預けるとは思わなかったから』
丹恒はその時、列車の権限を持つ姫子にを現地に戻すか、そのまま列車の乗組員にするかの判断を任せ、自分はヴェルトと一緒に彼女の故郷の後始末を行っていて、その間、をほったらかしにしていたのだった。
――姫子さんの事だから、無能力で無資格のは列車に乗せず、自分とヴェルトで反レギオン軍が撤退し故郷の暴動が落ち着いた頃になって、宇宙に関する記憶を消して彼女を故郷に戻すだろう。丹恒は単純にそう考えていたが、結果は違っていたのである。
その後、はアスターの判断でステーションの応物課のスタッフの一員として採用され、専用の端末も与えられた時、その画面に「丹恒」の名前を見つけ、ようやく、丹恒と再会できたのだった。
――そうだ、と自分の言葉が通じない今が良い機会かもしれない。丹恒は思い切って、ヘルタに聞いてみた。
『ヘルタ。姫子さん、何で、無能力で無資格のをヘルタのステーションに残したんだ?』
『あら、丹恒、姫子からそれ聞いてなかったの?』
ヘルタは面白そうに、丹恒を見つめる。
丹恒はバツの悪そうに頭をかき、自分の思いを打ち明ける。
『あの時の俺は、姫子さんは無能力で無資格のを列車はもちろん、ステーションに置かず、暴動が落ち着いた頃になって故郷に返すかと思っていたから……』
『でも、故郷に帰ったらその責任取らされて、処刑されるんじゃなかった? 丹恒はそれ分かったうえで、そこにを戻したいと思ってたの?』
『それは……』
の故郷で国王から丹恒に星核が渡る寸前、ディアン国に反レギオン軍が現れ混乱が生じたのは、の家族――父王と兄の手引きによるものだった。実はの父と兄は、丹恒が来るより前からクロムでレギオンに洗脳され、彼らの眷属になっていたのである。因みにはディアンに滞在していたので、その影響は受けずにすんだという。
それが判明した後になっては、彼らと同じ血縁者のにもその過失が認められ、その責任を取る形で彼女の処刑が決まった。
『……』
――俺はあの時、ヘルタの言うよう、を現地に戻して彼女の責任を果たすようにしたかったのだろうか。
丹恒は思わず、隣についているを見詰める。
は丹恒とヘルタの言葉が通じず、二人が何を話しているのか分からない状態だったので、丹恒に見詰められて、はにかむだけで終わる。
丹恒はのそれを見て決心した様子で、ヘルタにその時の思いを打ち明ける。
『いや、俺はあの時、落ち着いた頃を見計らって現地の住人達にの誤解を解いて、彼女の処刑を望む国民達に説得できるなら説得したかった。幸い、国王も俺と側についてくれてたから、話し合いは上手くいくと思った』
『そう。そういう事にしておきましょうか』
『……』
ヘルタは見抜いている。丹恒の裏の顔を。
それからヘルタは面白そうに、丹恒に言った。
『姫子がを列車に残した理由、姫子に聞ける時があれば聞いてみるといいわ。聞けば面白いから』
『は? 姫子さんの理由を聞けば面白い? どういうわけだ。ヘルタはそれ、姫子さんから聞いてるんだろ。今、それについて教えて欲しいんだが』
『それくらい、自分で聞きなさい。その方が、アンタにとっても価値あるわよ』
『……』
ヘルタは姫子の話を思い出しているのか、くすくす笑うだけで、その内容までは教えてくれなかった。丹恒はそのヘルタにそれを聞き出せる交渉術は持っていなかったので、この話は打ち切りになった。
ヘルタは髪を払いながら、話をもとに戻した。
『まあ、それで、その時の医療スタッフが言うには、に無理に打たせたから摂取量確認してなかったみたいね。今、その時のデータ見たら、規定量に達してなくて、そろそろ切れる頃って出てるわ。風邪の影響もあって、その期限が早まったようね』
『共感覚のビーコン切れると、どうなるんだ?』
『言葉が通じないのはまだいいけど、様々な人種が集まるステーションに体が適応できなくて倒れる可能性がある』
『』
丹恒は慌てて、の方を振り返る。
二人が何を話しているのか分からないは、ぼうっとしているだけだった。
ヘルタは言う。
『今回は、前回と違ってはアンタがついてるから大人しく、すんなり打てるでしょう。でもその効果が出るの、だいたい、一日か二日前後なのよね』
『一日か二日前後……、けっこうかかるな』
『ステーションのスタッフ達には、私だけではなく、アスターから話がいってると思うからそのへんの心配ないわよ。問題は――』
『問題は、俺とか……』
はぁ。丹恒はこれには、溜息を吐かずにはいられなかったという。
その後。
ここまでの事態になるとは予想しなかった丹恒は朝になって、医務室に直行した。ヘルタから事情を聞いていた医務室の医療班は早速の検査をし、彼女に共感覚ビーコンを施したのだった。
は最初、共感覚ビーコンの注射器を見て嫌がったが、丹恒が彼女を宥め、すんなりと打てた次第である。
注射を打ち終わった後、医療班のベテランの医者から『いやー、丹恒さんが不在の最初の頃は、暴れるさんに打つだけで数人がかりでしたよ。それと比べれば今回は丹恒さんのおかげですんなりいって、ほっとしました』と笑っていたが、丹恒は笑えず、一応、その時に自分が不在だった件を話して謝っておいた。
その夜、星穹列車にて。
「ええ、の言葉、私達の間で通じなくなっちゃったの?」
『一応、ステーションの医務室で検査したうえで、必要なぶんの共感覚ビーコンは打ってきた。しかし、ヘルタによればその効果が現れるのに一日か二日かかるらしい』
「その間、、ステーションで応物課の仕事してるの見たけど、それは大丈夫だった?」
『はその間、ステーションのスタッフの言葉が通じない状態だったが、しかし、アスターと応物課の温明徳課長の計らいで、をそのままいつもの倉庫に置いてもいいという事になった』
「所長代理のアスターは分かるけど、温明徳隊長もやるじゃん」
ぱちぱち。開拓者は、所長代理として自分の部下を丁重に扱わなければいけないアスターはともかく、課長の温明徳までをそこまで扱うとは思わなかったので、彼に拍手を送る。
丹恒は言う。
『の倉庫管理の仕事に関しては、そこまで重要視しなくていいからな。荷物が届いたら整理してそれをデータ登録する、あるいは、申請に応じてそれを搬出するという単純作業はそこまで急ぎの用事じゃないし、は言葉が通じずとも脳内に物品の管理状態を記憶しているのでそこまで大変じゃない』
「それでか。いやしかし、あの倉庫の管理状態をデータじゃなくて脳内に記憶してるっての、けっこう凄いんじゃないの?
そういえばて、ステーションでそのスタッフはその時間あの場所に居るとか、その品はあのスタッフの持ち主だっていうの、私にも色々教えてくれて、ほかでも色々記憶力あって感心する時あるんだよね。無能力だっていうのは私達の勘違いで、実際は、完全記憶能力とかあったり?」
『いや。に完全記憶能力という力はない。それはの真面目な部分と、日頃の努力の結果だ』
「の真面目さと、日々の努力の結果?」
『、倉庫に荷物が来ればデータ化するさい、独自に端末以外のメモ帳使ってそれにメモして残してるんだ。それをやるのは自分が宇宙科学も知らない文明レベルの低い星から来たせいで、コンピューターでデータ化するより直にメモする方が自分にあってて頭に入ると話していた。それ踏まえて、ヘルタが模擬宇宙のステーション部分のメンテナンスをに任せているのも、が日頃から、ほかのスタッフの持ち物や嗜好品など、それの配置図を正確にメモしてるのを見て、それで、そこを担当に採用したんだと』
「へえ。意外と、のそういう真面目さと、原始的な部分が役立ってるのか。それなら言葉が通じなくても、倉庫の仕事出来るね」
開拓者は丹恒からの真面目さと陰ながらの努力を聞いて、感心した様子だった。
そしてその場には開拓者だけではなく、なのか、姫子、ヴェルトのいつもの仲間達も揃っていた。
その中で『なのか』はいつもよりぼうっとしているを興味深そうに見つめ、彼女に聞いた。
『ねえねえ。は丹恒だけじゃなくて、ウチらとも言葉が通じないの?』
「なのかは、私の言葉、分かる?」
『うわ、マジじゃん。ウチ、の言葉が理解できない! どうなってんの?』
うわー。『なのか』は、の言葉が分からず、素直に驚いている。
『そ、それじゃあ、メッセージにある文字はどう? あ、言葉通じないのか、ウチのこれ見てもらえれば、ウチの言ってる意味分かる?』
「ん、なのかのメッセージ? 多分、文字は読めるかどうか、かな?」
『なのか』は自分の端末に表示されているメッセージをに見せ、も『なのか』の言いたい事を理解し、手持ちの端末で自分のメッセージを確認する。
「この間までのは、ちゃんと読めるけど。今、送ったらどうなのかなー。試しに『なのか』にメッセージ送ってみよう」
は、なのかに向けて、ちょっとしたメッセージを送った。
『お。からメッセージきた! あれ、でも、全然読めない! 姫子、ヨウおじちゃんはどう?』
『あら。私もからのメッセージ理解不能だわ。言葉だけじゃなくて、文字も彼女の故郷ので表示されてるのねえ』
『ふむ。俺もの文字、理解不能だ。『なのか』のおかげで、文字も役に立たないときたか……』
は今までの皆からのメッセージはきちんと理解して読めていたが、現在の時間で送ったぶんは自分の故郷の文字で表示され、それは、『なのか』はもちろん、姫子、ヴェルトも理解不能であった。
『丹恒はどう?』
『うわ。俺もの文字、読めなくなってる』
『なのか』はからきたメッセージを丹恒に見せるも、丹恒も同じように理解できずに参った様子だった。
ヴェルトは不思議そうに、姫子に聞いた。
『の故郷の言語、カンパニーと同じようにあらゆる星の言語が貯蓄されているというヘルタ・ステーションのデータベースにもなかったのか? ステーションにの故郷についての言語データがあれば、共感覚ビーコン以外の翻訳機も使えると思うが……』
『それね。の故郷は果ての辺境地帯で未開拓で、カンパニーの管轄外だったから、ヘルタのステーションにそのデータ自体が無いのよ。それだから、と私達の間でほかの翻訳機も使えないと思うわ』
ヴェルトの問いに参ったように答えるのは、姫子だった。
ヴェルトと姫子のやり取りを聞いていた開拓者は、興味深そうに丹恒を見て言った。
「の故郷が果ての辺境地帯でカンパニーの管轄外、そのせいでステーションにデータも残ってないって、そこ、随分な辺鄙な地域だったの? 丹恒、よくそんな所に単独で降りて、そこからを連れてきたね」
『……、俺はヘルタからそこは宇宙科学も理解できてない文明レベルが低い星で初心者向け、カンパニーの管轄外だから多少の無茶やっても融通が利く、列車で護衛の仕事を始めたばかりの俺のお試しに丁度良いと言われて、そこに向かっただけだ。それ裏付けるよう、そこがカンパニーの手つかずだったぶん、を此処まで連れられたというのもある』
「なるほど。の故郷が果ての辺境地区で未開拓、それでカンパニーの管轄外だったおかげで、を此処まで連れて来られたのか。でもそこでと運命的な出会いを果たすなんてねえ。丹恒、テレポート先が運悪く、お城で肉まん食べてたの前で、とは衝撃的な出会いって言ってたけど、その時からに目えつけてたわけ?」
ニヤニヤ。開拓者はニヤけた顔で、丹恒に詰め寄る。
丹恒はうんざりした様子で、開拓者に向けて言った。
『俺が何でお前にそれ、教えなくちゃいけないんだ』
「と言葉が通じない今の方が、本音、出やすいと思ってさ。で、どうなの? の故郷で、丹恒からに仕掛けたとかあるわけ? それとも、面食いなが丹恒にアタックしてきたの?」
『それ、ウチも知りたいかも! どうなの、どうなの?』
『なのか』も好奇心だけで開拓者と反対側に立ち、丹恒を挟み、二人でそれぞれ、つつく。
『について、誰が明かすか』
丹恒は何がなんでも、開拓者と『なのか』にに対する思いは明かしたくなかったけれども。
『丹恒、についての本音言わないと、二人とも――特に『なのか』は、解放してくれないと思うよ?』
『そうそう。と言葉が通じない今、それ吐き出した方が、丹恒もスッキリするんじゃない?』
『……』
ここで意外にもヴェルトと姫子が開拓者側につき、丹恒の返事を期待を込めた目で見つめて待っている。
ヴェルトだけではなく、姫子にも期待を込めた目で見つめられた丹恒は、観念したよう、その胸の内を明かした。
『――俺の方がそこで顔に似合わず大口開けて肉まん食べてたに一目惚れして、その後も城でも国王相手に気兼ねなく自由奔放に過ごしていたに魅了されたせいで、俺からが俺に振り向くように仕掛けたわけだよ。が宇宙に出てからも俺は、自由なを繋ぎ留めるのに必死だった、これでいいか!』
「うわあ、そこまでのものだったの?」
『ヤバーイ、そんなんウチも照れるわ!』
きゃー。心なしか顔を赤くしてへの想いを打ち明けた丹恒と、ここまでとは思わず自分達も顔が赤くなってお互いの手を取り合う開拓者と『なのか』だった。
『いいねえ。今なら、冒険モノだけじゃなく、恋愛モノも描けそうかな?』
『ふふ。丹恒のへの想いがヴェルトの創作意欲をかきたてたか。ヴェルトの次回作、楽しみね』
ヴェルトは丹恒のへの想いを聞いてアニメーターとしての創作意欲を掻き立てられたようで、姫子もそんなヴェルトに期待する。
と。
つん、つん。開拓者は、誰かに腕をつつかれているのに気が付いた。見ればだった。
「ん、どしたの?」
言葉は通じなくても何か用があるのかもしれない――開拓者は、に気さくに応じる。
「ねえ、丹恒、私の事、何て言ったの?」
開拓者はこの時、どうせ言葉通じないから全部話して良いかーと、軽い気持ちで、に向けて丹恒のへの想いを明かしたのである。
「ええと、丹恒、城で大口開けて肉まん食べてたに一目惚れして、国王相手でも自由なに魅了されたって。宇宙でもその自由なを繋ぎ留めるのに必死だってさー」
「え、ウソ、あれで私に一目惚れしたの? やだー、もうちょっとマシなので一目惚れしてよ! それから、宇宙でも自由な私を繋ぎ留めるのに必死って、そこまでだったの?」
きゃー。も同じように顔を赤くして、照れ隠しか、丹恒の背中をバンバンと叩いた。
そこで丹恒は気が付き、青ざめる。
『……ちょっと待て。、開拓者の言葉、理解してるのか?』
「え?」
「え?」
丹恒に指摘されたは思わず、開拓者と顔を見合わせる。
開拓者もそれに気が付いて、焦った様子でに聞いた。
「、私が何言ったのか分かるの? 理解できるならそれの証明で、右、向いてくれる?」
「……右」
『!!!』
丹恒はが本当に開拓者の言葉を理解して右を向いたのが分かり、のけ反る。
は興味深そうに、開拓者に聞いた。
「そうだ。開拓者、さっき、私が『なのか』に送ったメッセージ、読めたりする?」
「ええと、なのか、おはよーって」
「正解!」
ぱちぱち。は、開拓者が文字すらも理解している事を知って、拍手を送る。
『あら、これ、そんな単純なメッセージだったのか……』
むむ。開拓者の訳を聞いた『なのか』は、そんな単純な内容も理解できなかっとは思わなかったと、の故郷の文字を興味深そうに見詰める。
と。
どこからか、低い、怒りに満ちた声が開拓者に聞こえた。
『……開拓者、お前、さっき、に俺の何を伝えた?』
「あ」
開拓者ものそれに気が付き、丹恒と距離を取る。
「え、ええと、その、私、用事思い出したからこれでもう――」
『お前、俺のの気持ち、全部、に明かしただろ。覚悟、できてるよな?』
一歩ずつ後ずさりする開拓者と、震えつつも槍を構える丹恒と。
「ごめん、ごめんって。が私の言葉を理解してるの、私でも分からなくてさ! その槍の風で飛ばされるのだけは勘弁~!」
『問答無用!』
丹恒は槍で風を起こし、それを開拓者に向けて放つ。
「来るなら、来い!」
開拓者も手持ちのバットを取り出し、構え、彼と対峙する。
「ね、ねえ、止めなくていいの?」
『大丈夫、大丈夫。列車には、優秀な車掌さんが居るから』
「え」
は開拓者と丹恒の間で戦闘が始まり慌てて『なのか』にすがるも、なのか、姫子、ヴェルトは冷静に見守っている状態で、なのかの話を聞いて姫子とヴェルトはそれが分かっているように、うなずいている。
はしかし、なのかの言葉が理解できないので自分は丹恒を止めた方がいいのかと一歩動いた所――だった。
「こら、お前ら、列車内で喧嘩するでない! 列車内で武器使用は厳禁じゃ、何かあれば話し合いで解決しろと普段から口酸っぱく注意してたじゃろ!」
今まで静観していた車掌のパムが現れ、丹恒と開拓者の間を取り持ったのだった。
「ヤバ、パム登場!」
『……』
車掌のパムに出て来られては、開拓者も丹恒も、その手を止めるしかない。
パムが開拓者と丹恒の戦いを止め、それを見ていた『なのか』は、に得意げに『だから大丈夫だって言ったでしょ』と話した。は『なのか』の言葉は理解できなかったが、この時は彼女が何を言っているのか理解できた気がして笑うだけだった。
パムは腰に手をあて、開拓者と丹恒に向けて言った。
「開拓者、丹恒。罰として列車内の掃除じゃ!」
『パムに言われたなら仕方ない……』
丹恒はパムの言う事を大人しく聞いて、構えていた槍を降ろした。
開拓者は丹恒と違い、不服そうだった。
「うぇえ、掃除、私もやるの? 最初に向かってきたの、丹恒じゃないの」
「話を聞いていれば、その原因を作ったのは開拓者じゃろ。丹恒が開拓者に向かってきたのは、開拓者側にも責任はあると思うがの」
「うわあ、パム、私達の話、ちゃんと聞いてたんだ」
「列車の乗組員の話を聞いてるのは、車掌として当然じゃろうて。ほら、分かったのであれば、バットを片付けて掃除機に切り替えるんじゃぞ」
「はいはい」
がくり。開拓者は本当に嫌そうにするもパムには逆らえないので、バットを片付けて掃除用具に手を伸ばした。
丹恒はすでに槍を片付け、水の入ったバケツを手にしていた。
「さて、オレはほかの業務に戻る、お前らも油売ってないで各自の仕事に戻るんじゃ」
それからパムは開拓者と丹恒が落ち着いてから突っ立っているだけの『なのか』、姫子、ヴェルトの順にその顔を見回しそう告げた後、自室に戻る――ところで。
「パム、ちょっと待って!」
「ん、なんじゃ?」
がそのパムを引き止めた。パムは不思議そうにを見返す。
『?』
丹恒だけではなく、開拓者、なのか、姫子、ヴェルトもに注目する。
「私、開拓者だけじゃなくて、パムの言葉も通じるんだけど!」
「!」
の話を聞いて開拓者は思わず、パムと顔を見合わせたのだった――。