『多分だけど。多分、開拓者は星核の影響、パムはロボットの影響が強いんじゃないかしら』
『開拓者の星核は分かるが、パムのロボットの影響、とは?』
の言葉が開拓者とパムにだけ通じると分かって調べた結果、姫子がそう結論付けた。姫子の結論を聞いて、ヴェルトはその理由をたずねる。
開拓者と丹恒の掃除はいったん解除され、ラウンジのソファでの言語についての会議が開かれた。
姫子は落ち着いた様子で、全員に向けてそのわけを解説した。
『パムはロボットだから、共感覚ビーコンなんてものは必要ないのよ。その時に聞いた自然な言語というか、その音をコンピュータが覚えて理解しているだけでね』
『つまり、パムはが普段から話していた言葉を現地の音で記録していたので、それで理解し、通じるというわけか』
『そういうこと。パム以外のロボット――列車のバーのシャラップや開拓者についてる小型ロボット、それ以外、ステーションに置いているロボット達でも、の言葉が通じると思うわ』
『なるほど。それはにとって朗報じゃないか。これでは開拓者だけじゃなく、ステーションのスタッフ達とも、ロボットを通じて会話できるのが分かった』
「、良かったね」
「良かったというかなんというか、ちょっと複雑~」
姫子とヴェルトの話を聞いていた開拓者も嬉しそうにの手を取るが、の方はあまり嬉しそうではなかった。
それというのも。
『、パムはもちろん、ステーションのロボット苦手なんだよな……』
「え、そうなの? 、丹恒がは、ステーション内のロボットが苦手だって話してるんだけど」
丹恒の補足を聞いた開拓者は、を見る。
は困ったようにそのわけを話した。
「ステーション内のロボット類はこの宇宙に出るまで自分の世界になかったもので動くのを見るだけでいまだに怖くて近付けないし、おまけに、人型ロボットは故郷を襲った反レギオン軍を思い出すから……」
「ああ、そうか、の故郷、レギオンにやられたんだっけ……。それは分かるけどでも、パムも苦手なの何で? パム、中身はアレだけど、見た目は可愛いじゃない」
「おい、中身がアレとはなんじゃ、酷い言い草じゃな。ここまで見た目も中身も可愛いロボット、ほかにないじゃろ」
パムは、開拓者の遠慮ない物言いに怒るも、それは本気ではない事くらい、開拓者本人も周りの人間達も分かっている。
それからパムは改めて、を見て言った。
「そういえばは、丹恒に連れられてこの列車に初めて来た時、オレを見て一目散に逃げて、列車の椅子の背に隠れおったわ。あれでオレ、傷ついたんじゃが……」
「あら、そうだったの?」
「うむ。姫子がそのを無理に引っ張り出して、オレに向かって謝らせたんじゃよ」
「うわー、姫子もに容赦ないなぁ」
あはは。開拓者はパムからその話を初めて聞いて、遠慮なく笑った。
姫子は言う。
『全く。車掌さん見て逃げ出したの、が初めてよ。ほかの女性の乗客は車掌さんを一目見て、カワイイ、カワイイって抱き着いてくるのが殆どなのにね。そうそう、三月ちゃんもそのタイプだったわよね』
『そうだね。ウチもヨウおじちゃんの手で初めてこの列車に連れられた時、そこに居た車掌さん見て、カワイイって、すぐに抱き着いたもん。今でも、車掌さんに抱き着いて癒されたいって思う。あ、今、車掌さん、抱っこしていい?』
「三月ちゃん、オレを抱くのはいいがその加減を覚えてくれるか。三月ちゃんの抱く力、とてつもないからな……」
パムは、『なのか』に抱き着かれるのは悪い気はないと思うが、その力加減が強く苦しいと、苦笑する。
『きゃー。やっぱ、車掌さん、カワイイ~』
パムの了解を得られた『なのか』は、嬉しそうにパムを抱っこする。
「ギブ、ギブ、苦しいんじゃ!」
『なのか、そのへんに……』
『えー』
『なのか』に強く抱っこされてもがくのはパムで、そのパムを助けるのはヴェルトで、ヴェルトに不満を言いつつもパムを解放する『なのか』だった。
は、そんな『なのか』を羨ましそうに見ているだけだった。
「私は多分、パム相手でも『なのか』のようにはできない。それだから、何かあれば開拓者に通訳お願いすると思う」
「そっか。それなら、言葉が通じず何か不自由と思えば、私に頼ってくれていいよ」
「ありがとう」
開拓者は通訳は任せてと胸を張り、も嬉しそうだった。
と。
ケホ、ケホ。
急にが咳込んだ。
そのを開拓者が支える。
「、大丈夫?」
「んー、まだ風邪が抜けてないみたい」
「あら、、風邪だったの?」
「うん。この数日、風邪気味で調子悪くて……。丹恒に今日は、ステーションの部屋で休むって伝えてくれる?」
「分かった。丹恒、、まだ風邪で調子悪いから今日はステーションの部屋で休むって」
『了解。は俺が連れていく、開拓者は好きにしていい。そうに伝えてくれ』
「はいよ。何かあれば、私を連絡係にしていいから」
『すまない、助かる。それじゃあ』
丹恒はを支えるよう、彼女の手を引いてステーションへと戻った。
「、大丈夫かなー」
『普通の人間――検査を受けているスタッフであれば、最新の医療技術が揃ってるステーションの力を使えば、風邪ごとき、一日で大丈夫なはずだけど。の場合はどうなのかしら。そのへん、後でヘルタに聞いてみるわ』
が出て行ったのを心配そうに見るのは開拓者で、姫子もそのを心配そうに見ていた。
ステーションの自室にて。
は処方された薬を飲み、ベッドに入った。
『、大丈夫か』
「大丈夫。そこまで心配しないで」
は丹恒の言葉が分からなかったが、彼が自分の額に手をあててくれているので心配してくれているのは分かった。
そして。
『何か食べたいものはあるか? 言っておくが、酒は厳禁だぞ』
「え、何? 何言ってるのか全然分かんない」
は丹恒の言葉が分からず、頭を抱える。
『一時的とはいえ、言葉が通じないというのは、中々堪えるな……』
これには丹恒も参った様子だった。
「……」
『……』
同じ空間に居るのに沈黙が続き、どういうわけか距離感があった。
これは、さすがに、よくないのではないか。
と丹恒はお互いに思うが、その解決策が見つからないまま、時間だけが過ぎていく。
それを打ち破ったのは、からだった。
「そうだ。いいこと思いついた!」
沈黙が耐え切れなくなったは、端末を操作し、丹恒あてにメッセージを送った。
『何だ? 俺あてに送っても、三月と同じよう、の故郷の文字は、全然読めないんだが』
???
丹恒は『なのか』と同じく、の故郷の言葉は意味不明だったが。
ぴこん、ぴこん、ぴこん。連続でから丹恒あてに、メッセージが送られてきた。
『だから、俺もの文字は三月と同じで理解できない――ああ、なりの悪戯か、これ』
何回か連続で読めないメッセージがきて、途中でこれはの悪戯であると、気が付いたのだった。
その証拠には枕に顔をうずめて、笑いを堪えている。
「私の文字、ほんとに読めないんだなぁ。あ、これ、どうかな。ふふふ」
『……』
ぴこん、ぴこん。は再び丹恒に悪戯でメッセージを送るも、丹恒はそれが理解できずに怪訝な顔になる。
反対にはそれが、楽しかった。
「文字が理解できない今なら、言えなかった事が言えるから面白いな。あ、そうだ、それなら……」
はもう一つある事を思いついて、それを丹恒あてに送った。
『うん? ほかは短い文で形からして三月と同じ挨拶っぽいが、一個だけ長文で送られてきたな。なんだ、これ』
何回かからメッセージがきて、その殆どは『なのか』に送った挨拶文に似た短いものだったが、一個だけそれとは違う長文で送られてきた。
丹恒は最初、読めないのをいいことには、自分への不満をつらつらと書いて送ったのではないかと疑う。
『おい、俺が読めないのをいいことに、俺への不満を送ったんじゃないだろうな』
「知らない~」
くすくす。は丹恒に詰め寄られるも、素知らぬ振りを通す。
はあ。溜息が聞こえた。丹恒だった。
『そうだな、言葉が通じない今、それを打ち明けられる、か』
丹恒は何を思ったか、の上に覆いかぶさってきた。
「え、何? もしかして、怒った?」
は最初、悪戯の度が過ぎて丹恒を怒らせたのかと身構えるも、彼の行動そのものについては拒否せず、逃げもしなかった。
丹恒はの上にくると静かに、それを明かした。
『俺の仙舟の持明族――中でも龍の力を受け継いだ人間は、癒しの力も持っていてな。にもその恩恵を授けられるかどうか試したい……』
「ひゃっ」
言って丹恒は、手のひらに淡い光を放ちながらの髪から頬、喉元に移動し、それをあてがう。は丹恒の行動については拒否せず、静かに受け入れる。
「ん……」
『……どうだ?』
「あれ、少し、楽になった気がする。何したの?」
『龍の癒しの力がにも通用するといいが。……本当、こういう時、龍尊の飲月の力を最大出力で解放できればいいんだが、を前にまだその勇気がない』
丹恒は自分の秘めた力――、龍尊である飲月の癒しの力をここで最大解放すればの風邪も何もかもが解決できると思うが、その結果、が自分を恐れて離れると思うと怖くてその勇気が出ずに苦笑するだけで終わる。
丹恒は処方が終わると、から離れた。
そして。
『お互いの悪戯は、ここまでだ。もう、大人しく休め。言葉が通じるようになれば、ちゃんと可愛がってやるから。お休み』
「……お休みなさい」
――言葉が通じずとも、行動でそれが分かる。は丹恒が最後に手を握ってくれたのでもう休めと言ってるのが分かり、それだけで落ち着いて、眠りについた。
の調子が悪いのは、それから、何日か続いた。
共感覚ビーコンの注射を打ったはずが、その効果は表れず、効き目がなかったのである。
医療班の医者が処方した風邪薬も効き目なく、咳も残っている。
『おかしいわね。共感覚ビーコンの効果も、医療班の医者が処方した風邪薬も問題無い、何でにだけ効き目ないの? もしかして、ステーションにの故郷のデータが無いのが影響してるのかしら。それだと、色々面倒だわね……』
これにはさすがのヘルタも参った様子だった。
それから。
ヘルタ・ステーションにて。
『現時点でと言葉が直に通じるの、開拓者だけか。それはちょっと、羨ましいね』
『何でいつも、開拓者だけ特別なの! あたしだってお姉さまと通じたいのに!』
同じ応物課のエイブラハムと温世玲は、開拓者だけがと通じ合えると分かって羨ましそうだった。
更に。
『私の扱う商品の中で、共感覚ビーコン以外の翻訳機ありましたよ。さんなら、お試しで使えますが、どうですか。あら、さんは、どの翻訳機も使えないんですか。そんな不思議な事もあるんですねえ』
ショップ担当の温世斉は、に共感覚ビーコン以外の翻訳機を試すもどれも効果が無い事に驚いた様子だった。
『ふむ。丹恒の話しているようにの倉庫番の仕事には言葉が通じないのは支障ないから別にいいけど、私含めて、ほかの応物課のスタッフ達と通じ合えないのは問題だな。しかし、君、アスター所長代理の紹介でうちに来たけど、カンパニー経由で最新技術が揃うヘルタのデータベースにも故郷のデータが無いなんて、いったい、どこから来たんだい?』
応物課の課長である温明徳は、ここではじめて、の出身地に興味を持ったようだった。
別の日。
「、ちょっといい?」
「開拓者?」
数日が経った所で、浮かれた様子の開拓者がの居座る倉庫に現れた。
は唯一、言葉が通じる開拓者を見ただけで、ほっとした。
「どうしたの? 今日、開拓者と何か予定あったっけ?」
「とは何も予定なかったけど、見て、見て、これ!」
開拓者は嬉しそうに、に手持ちの端末を持っていき、ある画面を見せた。
「何、このミニキャラスタンプ。可愛い!」
開拓者の画面には、いくつかのミニキャラスタンプなるものが表示されてあった。
開拓者は得意げに、ミニキャラの正体をに明かしたのである。
「実はそのミニキャラ、がモデルなんだよ!」
「え、このミニキャラ、私がモデル? ……そういえばこの子、私と同じ金髪ポニーテールだし、着ているものも私と同じ制服着てる。ほんとに私がモデルなんだ」
は、そのミニキャラが自分と同じ金髪ポニーテール、しかも、着ている制服のデザインも同じであるのに気が付き、確かにこれは、自分だと思って、ドキドキした。
「ふふ。これ、『なの』の依頼で、元アニメーターで絵が得意なヨウおじちゃんにがモデルのミニキャラスタンプ作ってって、注文してたやつなんだ。そしたら昨日になって、お試し版でそれが送られてきてね」
「えー、なのかの依頼で、元アニメーターのヴェルトさんに私のミニキャラスタンプ作ってもらったの? 何で?」
「それは『なの』がはもうウチらと同じ星穹列車の乗組員だって言い張って、乗組員達の間で使ってるミニキャラスタンプ、ヴェルトに注文して作ってもらったわけよ。ヴェルトもはもう乗組員のようなものだからって言ってくれて、なのの注文、受け付けてくれてね」
「そんな、無能力で無資格の私も開拓者や『なのか』と同じ列車の乗組員扱いでいいの? 星穹列車では私、何もしてないけど……」
「いやいや。は星穹列車では丹恒を癒す役目持ってるし、それ以外でも私や『なの』の相手してくれてるじゃない。それだからもう、は、立派な乗組員でしょ。そこ、遠慮しないで」
「開拓者、なのか、ヴェルトさん、ありがとう……」
は開拓者だけではなく、なのか、ヴェルトにも星穹列車の乗組員扱いされたのは、素直に嬉しく、胸がいっぱいになった。
開拓者は言う。
「なのが言うには、の言葉が通じる私はまだいいけど、ほかの乗組員達の間での言葉が通じないのはよくないと思う、毎度、私やパムに通訳を頼むわけにもいかない、どうすればいいのか考えた結果、メッセージで使ってるミニキャラスタンプなら通用するんじゃないかって、それ、思いついたんだって。ほら、このミニキャラがお酒飲んでる絵とか、ご飯食べてる絵とか見れば、ほかの乗組員達は言葉が通じなくても、は食事したいって通じるでしょ?」
「それじゃ、このハートマーク飛ばしてるイラストとかは嬉しい、泣いてるイラストは悲しいって通じるのかな」
「そうそう、そういう感じで使ってみて。列車に『なの』に待機してもらってるから、ヴェルトのミニキャラスタンプが気に入ったのであれば、それで伝えてみてくれる? の端末に星穹列車専用のサーバーあるでしょ、それに切り替えてそこの共有フォルダにスタンプという名前で転送しておいたって、ヴェルトが話してた」
「ええと、星穹列車専用サーバーに切り替えてからのスタンプ、スタンプ……、あ、これか。うわあ、本当に私がモデルのミニキャラスタンプ入ってる、嘘みたい!」
はステーションのスタッフ専用の端末を使っているが実はこっそり、丹恒という特権でほかのスタッフには無用の星穹列車専用のサーバーが搭載されてあった。それというのも、星穹列車のサーバーであれば乗組員である丹恒の一日の予定、あるいは、現在の列車の予定が分かるもので、それらの情報はステーションと列車間しか移動できないからすれば重宝したのである。
はさっそく、星穹列車専用サーバー内でヴェルトの手で作成されたというスタンプの名前が付けられた共有フォルダを見つけ開き、その中に自分のミニキャラスタンプが並んであるのを見て、感動した。
開拓者もそれを確認して、に聞いた。
「最初、どの選ぶ?」
「よ、よし、それじゃ、このハートマーク飛ばしてる私のイラスト使って、『なのか』に送ってみるよ」
はドキドキしながら、『なのか』あてに無難に、ハートマークが散らばる自分のミニキャラを送ってみた。
すぐに、『なのか』から返信があった。
と同じくミニキャラ化された『なのか』のイラストで返信がきた。
「やった、『なのか』から返信きた! わあ、『なのか』が使ってる『なのか』モデルのミニキャラが同じようにハート飛ばしてるイラスト届いた、可愛い!」
「おー、上手くいった、良かった!」
ぱちぱち。『なのか』の返信を見た開拓者も、嬉しそうに拍手を送る。
開拓者は更に、に催促する。
「ねえねえ。『なの』に、次、何のミニキャラスタンプ送る?」
「それじゃ、お酒持ってるミニキャラ!」
「何で、お酒? 確かにヴェルト、このミニキャラがだと分かるように一番最初にお酒持ったイラストを独自に追加したって話してたけど。ここは、お菓子持ってるミニキャラじゃないの?」
「ふふ、あわよくば、なのか、星穹列車のバーのシャラップのお酒持ってきてくれるかもっていう願望からそれにしたの」
「らしいわ。やってみー」
「送信、と。お、すぐ返信きた。なのか相手だと、すぐ返信来るから良いよね。て、あら、無理か、やっぱ」
「はは、『なの』から、それは無理っていう『なの』が泣いてる顔のスタンプきたか。でも、こういう単純な会話もお互いのミニキャラスタンプ使えば上手く通じてるじゃん!」
「やったー。言葉が通じなくてもミニキャラスタンプなら通じるとは思わなかった。面白いね、これ。あ、また、『なのか』からきたよ。返信、返信、と」
は夢中になって、『なのか』あてに自分がモデルのミニキャラスタンプを送る。『なのか』も負けず、に自分がモデルの『なのか』のミニキャラスタンプを送り続ける。
「ぐぐ、『なの』だけずるい、私もヴェルトに作ってもらった自分のミニキャラスタンプ持ってるから、それでとやり取りしたい!」
開拓者もと『なのか』のやり取りを見て我慢できず、自分も手持ちの端末を取り出して自分のミニキャラスタンプを表示させた所、だった。
と。
ピロリン、と。ではなく、開拓者の端末のメッセージ音が鳴った。送り主はその『なのか』だった。
「あ。と『なの』のスタンプ送り合戦、ヨウおじちゃんにやり過ぎよくないって止められたって、『なの』からメッセージきたよ」
「わわ、さすがに、やり過ぎたのか。ええと、『なのか』だけじゃなくて、ヴェルトさんにも、ごめんなさいのミニキャラ送っておこう」
はここで、『なのか』以外、ヴェルトに初めて両手をあわせて謝ってるミニキャラスタンプを送信してみた。
すぐにヴェルトから、返信があった。
「あ、ヴェルトさんから初めて基本のパムのミニキャラスタンプ届いた。開拓者、このパムが片手というか片耳あげてるイラスト、なんの意味だったっけ?」
「パムの片耳あげてるそれ、了解って意味だよ。ヴェルト、の仕業、許してくれたんじゃないの」
「良かったー。今日はもう、これ以上は止めとくよ。仕事にならないしね」
は手持ちの端末を制服のポケットにしまった。
開拓者はそのを見て、言った。
「、何かあればそれで、遠慮せずに私以外の列車組に送ってね。あ、言っておくけど、ステーションのスタッフの間ではそれ、使わないで。スタッフ達に羨ましがられて嫉妬されてが嫌な思いするかもしれないし、それのせいでヴェルトに依頼が殺到すると面倒だから」
「うん、それは分かってる。この自分のミニキャラスタンプ使えるの、星穹列車の乗組員の間だけね」
――閉鎖的なステーションでは、些細な事で衝突が起きやすい、慎重に行動するように。
はヘルタだけではなく、丹恒からもその話を聞いていたので開拓者の言う事を聞くよう、しっかりとうなづく。
「あと、仕事終わりに丹恒にもそれ、送ってみたら? のミニキャラスタンプ見て、驚くんじゃない?」
「いいね、いいね。あれでも、丹恒、列車に戻って来てる? この数日、星穹列車のサーバーで丹恒の予定見れば空席になってるし、ステーションでも見てないんだけど。それだから今まで、丹恒との連絡、控えてたんだよね」
はこの数日、風邪で休んで以降、丹恒を見ていなかった。それでも仕事中はあまり心配かけたくないという思いで、は丹恒あてのメッセージのやり取りは控えておいた。
開拓者もにうなずき、丹恒が任務中である事を思い出した。
「そういや丹恒、なんか知らないけど現在、単独任務で列車から降りてるんだったわ。丹恒が列車に帰ってきたら、私の方からに連絡するよ。その時、その自分のミニキャラスタンプ、送ってみたらいいんじゃないかな」
「そうだね。開拓者からの連絡待ってから、丹恒にこれ使うよ。あ、そうだ、『なのか』とヴェルトさんにもスタンプありがとうって、お礼、伝えておいてくれる?」
「了解。それじゃあね~」
ばいばい。は開拓者と、ここで別れた。
「えへへ。丹恒の仕事終わったらこの自分のミニキャラスタンプ送るの、楽しみだな~」
丹恒は現在、星穹列車を降りて、地上でとある任務についているらしいとは、姫子から聞いている。
は丹恒の仕事が終わればさっそく、ヴェルトに作ってもらった自分のミニキャラスタンプを送るのをとても楽しみにして、応物課の仕事に戻ったのだった――。
二日後。
の風邪は治ったらしく調子を戻したが言葉は通じないままで、しかし、『なのか』とヴェルトが開発したのミニキャラスタンプでなんとか凌いでいるけれど、それは星穹列車の乗組員達に限られ、スタッフ達とは相変わらず言葉が通じずに苦労する場面があり、中でも、一番つらい事があった。
それは。
「、応物課の温明徳隊長からの調子が優れないから見て欲しいって言われて来たけど、どうしたの。風邪はもうすっかり治ったんだよね、それで、大丈夫?」
「開拓者……」
開拓者は、応物課の課長である温明徳の依頼により、倉庫に居るを訪ねた。
は開拓者から見ても分かる通り、いつもの明るさはなく、沈んでいた。
それというのも。
「風邪は治ったんだけど、ステーションでほかの仲良かったスタッフ達とはもちろんだけど、中でも、丹恒と話ができないのがつらくって……」
うわあん。は目に涙を浮かべ、開拓者に抱き着く。
開拓者はそのを突き放さず、彼女に反対に聞いた。
「は丹恒がこの数日、ステーションだけじゃなくて、列車も留守してるその理由、知ってる?」
「それね。丹恒、言葉が通じるパムを介して姫子に詳細を聞けばなんか大変な任務受けたみたいで、その影響で二、三日、列車にも帰ってないって聞いてるだけで、その任務の内容については聞かされてないんだよ。開拓者は丹恒のその仕事内容が何か、聞いてない?」
「全然。私も姫子からそれ聞いてこの二、三日の間、丹恒が列車にも帰ってないの知ってるけど、その詳細知らないんだよね。それで私と『なの』でその大変な任務受けた丹恒につけばあっさり終わるんじゃないかって姫子に申し出れば、これは丹恒の単独でなければいけない内容で、丹恒自身もそれ分かって始めた仕事だから、丹恒から協力申請の話がくるまで私と『なの』は協力しちゃいけないって、わりと厳しめに言われた」
「何、それ。丹恒単独でなければいけない内容で、丹恒もそれ分かって始めたものだから開拓者と『なのか』の協力得られないって、今までそんな仕事あった?」
「少なくとも、私はこれまで経験ないかな。そりゃあ、私と『なの』と丹恒の三人が常に一緒に居るわけじゃないし、それぞれ自分に見合ったもので単独で始める仕事はあるけどね。でも、それが一人で大変そうなら協力するから遠慮しないでとは、お互いに伝えてあって、実際、一人じゃ扱いきれなくて誰かの手を借りる、そういう事は何回かあったけど、丹恒にそこまで拒絶された事は今回が初めてかも」
「だよね。丹恒なら、一人で受けてそれが一人では大変な仕事だと分かれば、素直に途中で開拓者か『なのか』に頼ってさっさと終わらせると思ったのに。私も、ここまで丹恒と連絡がつかないの、今までなかったから……」
は本当に参った様子で、項垂れる。
開拓者もそのを心配する。
「丹恒とは、メッセージも駄目なんだっけ?」
「うん。最初に悪戯で丹恒あてに何通か送ってみたけど、全然理解できないって、しばらくして返信もこなくなっちゃった。『なのか』とヴェルトさんに作ってもらったミニキャラスタンプも送信してみたけど、全然返信ないんだよ。姫子だけじゃなくて『なのか』、ヴェルトさんに丹恒の事を聞いてみても、自分達でも丹恒がどうしてるか分からないって。こんな事、今までなかったのに」
はぁ。は丹恒と連絡がつかないだけで、落ち込んでいる。
開拓者は決心した様子で、にそれを打ち明ける。
「私も何度か丹恒に安否確認送ってるんだけどさ。私でも全然、返信ないんだよね」
「えー、開拓者でも返信ないの? 丹恒、仕事の間は集中したいから通信切ってオフラインにしてるって話してたけど、まだ、仕事してるわけ?」
「どうだろ。私も、そのへんよく分からないなぁ。でも、明日までに丹恒から何も返信なかったら、私と『なの』で丹恒の現場まで強制介入するとは姫子に伝えてある」
「そうなの?」
「うん。だけじゃなくて、私も『なの』も、この数日、連絡つかない丹恒のそれ心配してたからね。姫子や丹恒がつっぱねても、私と『なの』がそこに強制介入する準備はしてる」
「そっか。それ聞いて安心したかも。開拓者と『なのか』であれば、ほかの助けをつっぱねる丹恒を引っ張って来られると思う」
は本当に、丹恒のために開拓者と『なのか』がその現場に強制介入すると聞いて、安心した様子だった。
そして。
「それから、開拓者と通じるぶんは本当、良かったと思う。一人だったら、今まで以上に丹恒を心配して、狂ってたかもしれないから」
「私もだよ。私も、誰とも言葉が通じなくて不安だと思うの相手出来て良かったと思う。丹恒が不在の今、私に頼ってくれると嬉しい」
「開拓者ぁあ……」
「はいはい、私がのそばについてるからね」
よしよし。開拓者は、自分に泣きつくを否定せず、彼女を受け入れるよう、その背中を撫でる。
――あれ、これ、けっこう役得では? 開拓者はの背中を撫でるついでに彼女のやわらかい体にも触れられ、柄にもなくドキドキした。
と――。
『、居るか?!』
「!」
バンッ。抱き合う開拓者との間に大きな音を立てて倉庫に入って来たのは、今まで姿が見えずに心配していた丹恒だった。
開拓者とは、その丹恒に素直に驚いた。
「あれ、丹恒、単独で大変な任務受けてたんじゃなかったの? だけじゃなくて、私と『なの』も丹恒のそれ心配してたんだけどさー」
「私も開拓者と同じでその丹恒を心配してたんだけど、どうしたの、そんなに慌てて――きゃあっ」
「?!」
丹恒は、ずかずかと足音を立てての前に来たかと思えば、開拓者の間に立ち、の腕を強引に掴み引っ張った。
「いや、離して!」
はそれを嫌がり、抵抗する。
開拓者は慌てて、丹恒とを引き離そうとする。
「丹恒、何やってんの! が嫌がってる!」
丹恒はの腕を掴んだまま、開拓者とに訴える。
『開拓者、お前も来い! と医務室へ急げ!』
「は?」
ヘルタ・ステーション、医務室内にて。
「……よし、共感覚ビーコン接種完了。さん、どうです? 我々の言葉、通じますか」
「通じる! 嘘みたい!!」
わあ。は両手を広げて、共感覚ビーコンの接種を施してくれた医者と握手を交わしたのだった。
ぱちぱち。医務室に居る医療班のほかの医者達からも、拍手と歓声が上がる。
「、俺の言葉通じるか?」
「うん。開拓者と医者の言葉だけじゃなくて、丹恒の言葉も理解できるよ!」
きゃー。は丹恒の言葉が理解できたのが嬉しくて嬉しくて、彼に抱き着く。
「良かった、本当に良かった!」
丹恒もこの時ばかりは、人目も気にせず、を強く抱き締める。
「ちょっと待って!」
それを遠慮なく引き離したのは、開拓者だった。
「の言葉が全員に通じるようになったの、丹恒の仕業? 何やったの、アンタ」
「俺が単独で、スターピースカンパニーの上層部の連中に、直談判してきた。の故郷の言語データをヘルタ・ステーションのデータベースに追加させてくれって」
「は?」
丹恒はそれを何でもない風に言ったが、と開拓者はお互いの顔を見合わせ、お互い、間抜けな顔を晒していた――。