――場面変わって、丹恒が無事に列車に帰ってきて、資料部屋に誘われた後の話。
「に話があるんだが。開拓者と三月には内緒の話だ」
「え、何?」
は丹恒に彼と二人きりになった途端に真面目にそう切り出され、ドキリとした。
「実は、の故郷の言語データを追加する魔物退治任務に俺を派遣した依頼人が、スターピースカンパニー、高級幹部の一人のジェイドだった」
「ええ、丹恒派遣した依頼人がカンパニーのジェイド? それ、ほんと?」
は、丹恒の告白に素直に驚いた。
スターピースカンパニー、戦略投資部、十の石心の一人、ジェイド。彼女は、丹恒との二人の問題に介入し、二人と上層部を取り持つ連絡役として暗躍、その試練を課した一人であった。
丹恒はにその内容を打ち明ける。
「俺がステーションでヘルタにカンパニーの上層部の連中と連絡をつけるため、高級幹部の誰かと繋いで欲しいと訴えた時に、それ予見したように現れたのが、ジェイドだった。ジェイドはヘルタとの通信で、カンパニーで上層部から担当を引き受けた自分であれば上層部とその取引が可能、代わりに俺にとある星の鉱山に巣食う千匹の魔物退治をお願いと言ってきてね。
それを聞いていたヘルタに確認を取れば確かにカンパニー内でその任務は実在して、その鉱山はそこを根城にする大量の魔物が沸いていて撃退すればカンパニーの金脈になるが、ジェイド一人ではさすがに手を焼いていた内容だったらしい。俺はそこでジェイドに恩を売ればの試練も緩和できるかもとヘルタに言われ、それ引き受けたというわけだ」
「そうだったの。で、丹恒でジェイドに恩を売れたの? それで私と丹恒の試練、上層部を説得できたからこれで終わりにしましょうとか……」
は期待を込めた目で、丹恒を見る。
はぁ。丹恒の溜息が聞こえた。
「俺もそのつもりでジェイドのその任務を引き受けたが、任務完了になった時に不測の事態が起きてなぁ」
「不測の事態?」
「これ……」
ここで丹恒は自分の端末を、に手渡した。
は最初、丹恒が自分の端末を手渡してきた事が意味不明だった。
「何?」
「そこに表示されてあるメッセージ内容、読んでくれるか」
「え、いいの? 丹恒、普段は仕事でも私的なものでも、その内容、私に教えてくれないし、自分のそれも貸してくれないじゃないの」
「今回ばかりは、仕方ない。それに開示してあるの、の部分だけだからな」
「私の部分だけ? 何、それ、どういう――」
は丹恒の端末を持って、その内容を確認、そして――。
「ぎゃあああっ、な、何で、私が読めないと思って悪戯で丹恒に送ったの読めるようになってんの!?」
顔を真っ赤にして、思わず、丹恒の端末を床に投げてしまった。
が自分の文字を理解できない丹恒に悪戯で送った内容、一部を抜粋すると――。
『最近、ご無沙汰じゃない?』、『定期的に可愛がってくれないと、ほかにいっちゃうよー?』、『丹恒とちゅーしたい、濃いやつ!』、『丹恒の、ぺろぺろしたい』、『丹恒って細身のわりに脱いだら色々凄いよね、何で?』、『丹恒って××好きよね』、『私は××かなー』、『ショップでエッチなアイテム見つけた、今度、試したいんだけど』、『丹恒にもう一回アレして欲しいけど、こっちから頼むの恥ずかしー』、『列車でもステーションでも室内より、外でヤる方が解放感あるよねぇ』、『あ、そだ、ステーションだけど、外でヤるのに誰にも見つからない良い場所見つけたよー』、と、訳せば下ネタばかりだったという――。
丹恒は呆れたのか笑っているのかよく分からない顔でが投げた自分の端末を拾い、が悪戯で送ったメッセージが訳されているわけを話した。
「鉱山の魔物退治任務完了、ジェイドに報告すれば約束通りの言語データ渡されて、それが本当にの故郷のものかどうか確認するのに以前にがそれ送ったの思い出して、ジェイドの前で訳してみたわけ」
「ジ、ジェイドの前でこれ訳したの!? ばかじゃないの!?」
「俺は、がその文字読めない俺に送ったの、こんな下ネタ内容だとは思わなかったわ。俺も訳す前は三月に送ったよう、単純な挨拶文かと思ってたからな。俺と同じくのこれ見たジェイド、腹抱えて笑ってたな……。これでジェイドに、俺との試練チャラにしてくれなんて、言えるわけないだろ」
「死ぬ、今すぐ死ぬ!」
「落ち着け!」
ぎゃあああ。丹恒だけならまだしも、ジェイドにまでそれを見られたは本当に恥ずかしくなって、その場から逃げて部屋から出ようとしたところ、すかさず丹恒の腕が伸びて抱き締められて、止められてしまった。
「、これの後に長文送っただろ、それも訳されてた!」
「え、長文って、何……あ」
丹恒はを逃がさないように抱いたまま、彼女にその長文内容を見せた。
『――丹恒へ。もし、私に何かあれば、その記憶、遠慮なく消していいからね。カンパニーに課せられている私と丹恒の試練が駄目になって、それが原因で丹恒と強制的に引き離されてこの世界からも排除されて終わるなんて悲しい結末がくるというのであれば、私は、丹恒に関する記憶を消して丹恒の事は全て忘れたいと思っている。その話は実はもう、ヘルタと姫子に伝えてあるの。ヘルタと姫子も丹恒に関する私の記憶を消す事に関しては、了解してくれたわ。その時、丹恒も私と同じ気持ちだったらいいなぁ。お互いにお互いの記憶消して、その時の関係を忘れた方がいいもの。あ、私の場合、記憶消されたら故郷に返されて予定通り処刑されるかもだけど、丹恒は私の事など気にしないで忘れて姫子の星穹列車で、ナナシビトとして旅を続けてくれると嬉しい。それが私の一番の望みだっての、ここに残しておく。まあ、今の丹恒は私の世界の文字なんて読めないと思うけど、だからこそ、ここでそれ書いて残しておこうと思った。それだけ。おしまい』
「に何かあれば――カンパニーの試練が駄目になって俺と強制的に離れるような事があれば、姫子さんとヘルタに俺についての記憶消すように頼んだ、二人もそれ了解している、本当かこれ」
「……」
「、答えろ」
「……悪戯の一部で、そう書いただけよ。ただの創作。実際、カンパニーの試練が駄目になったところで丹恒に関する記憶消されるわけないと思うけど」
ははは。は笑ってなんとか誤魔化すも、無理だった。
丹恒は、やがて何かを決心したよう、話した。
「姫子さんから――」
「姫子が、どうしたの?」
「姫子さんから、聞いたんだ。無資格で無能力のを故郷に戻さず、ステーションに残した理由」
「は? 姫子が無能力で無資格の私をステーションに残した理由って、何で今になってそれを?」
「俺はその件については、が故郷を出て俺の手で宇宙まで来た時、宇宙の科学技術見て感動してそれに魅了されてそこに残りたいと姫子さんに訴えたおかげで残れたと、姫子さんに聞いていたが」
「そう、それの通りよ。私は丹恒の手で宇宙まで出てきた時、私もお父様やお兄様と同じ科学好きだったからその技術に感動して残りたいと姫子に訴えて――」
は自分で言っていて、自分でそれに気が付き、サアッと血の気が引いた。
「ちょっと待って、ちょっと待って。姫子、まさか、あの時の私の話、丹恒に……!」
「、お前、姫子さんによれば現地で第二王妃で既婚者であるのを知ったうえで強引に関係持った俺にそれの責任取らせるため、ステーションに残ったんだってな。はその時、お前から逃げている俺に一発殴ってそのぶんの慰謝料たんまりもらわないと簡単に記憶消された状態で故郷に戻る気ないと言って列車内で暴れまくって、パムと姫子さんでもその暴れるに手を焼いて、それで仕方なくヘルタ・ステーションまで連れて来たと、今回、ジェイドの任務を受けるにあたり、その真実を姫子さんから聞かされたんだが」
「そ、それは姫子の記憶違いじゃないの。故郷では第二王妃だったこの私が丹恒にその責任取らせるために列車で暴れるなんて、そんな、はしたない真似――」
「姫子さんだけではなく、ヘルタとアスターからもその証言は得られている。ヘルタは俺に責任取らせるため此処まで来たを気に入って俺と再会を果たすまでステーションで保護する約束をして、アスターも俺を殴る用の強力な武器をに貸す約束してたそうじゃないか。俺のそばでそれ聞いていたアーランも、アスターお嬢様であれば金に物を言わせて俺を殴れる威力の高い武器持ってるだろうから弱いでも気を付けた方がいいと、それに震えるほどだった」
「……」
「」
「し、仕方ないじゃない、あの時は私だって色々、必死だったんだから!」
はとうとう、丹恒にそれが真実であると認めた。
「わ、私だって、丹恒の手ではじめてあの列車に乗った時、こんなとんでもない世界は私にあわない、お父様とお兄様がやらかした責任取って故郷に帰って大人しく処刑待った方がいいって思ったけど、私の全部を持っていったくせにその丹恒だけ何事もなく無事に列車に帰れるのが癪に障ったってだけ!」
ぐるぐるぐる。
あまりの事に目が回るもは、終わりのない言い訳を試みる。
「それを姫子に訴えれば、私でもステーションにどうにか残れたんだよね。そして、ステーションで丹恒と再会できた時にアスターに貸してもらった武器で丹恒殴ってスッキリすれば、姫子かヘルタに丹恒についての記憶消してもらって故郷に帰る気だった! 帰って責任取って処刑されるのは仕方ない事だって、それ、本当だから、本当――」
ぽたぽた。の目から涙があふれる。
「わ、私だって、自業自得とはいえ、レギオンの襲来でクロムでお父様とお兄様、その配下にあった兵士達がすでにあんな事になってたなんて知らなかったし、それ私に知らせなかったディアンの国王陛下も酷だわ、それで、それだから、うう……」
はそれの言い訳を試みるが、涙が止まらず、舌も回らない、なんとも情けない状態だった。
それなのに。
「――すまなかった。一人、そんな苦しい思いさせてしまって」
「……ッ」
はそれ以上が何も言えなかった。丹恒に今までにない力で、抱き締められたせいで。
丹恒は静かに、に自分の思いを吐き出す。
「俺はあの時――が第二王妃で既婚者であると知っても、それを理解していても、と関係を持ちたかった。それというのも列車で開拓者と三月に打ち明けた通りで、俺は、テレポート先で大口開けて肉まん食べてたに一目惚れして、その後も、国王相手でも自由奔放なに魅了されて、最後の最後でそのをモノにしたかった。その気持ちに、嘘はない」
「……」
「しかし、を姫子さんに預けた時、無能力で無資格のは列車に乗れず、姫子さんの判断で俺に関する記憶を消されて故郷に返ったと思っていた。それからも俺との関係は一夜限りのものだからとそれに関しては割り切ってると思っていたし、ヘルタか姫子さんでにその時の記憶を消されていればお互い、何事も無かったようにできると思っていたのも事実だ。これに関して、何も言い訳はできない」
「……」
「だが、ステーションの倉庫でと再会した時、の顔を見た時、驚いた。一人、よく此処まで――ヘルタ・ステーションまで来られたものだと、感心した。俺は、は姫子さんの星穹列車はまだいいが、気難しくて自分の主義にあわなければ簡単に切り捨てる実力主義者のヘルタまで説得できるとは思わなかったからな。言葉が通じなくなったをどうするべきか迷っていた俺に姫子さんからその真実を聞かされるまで、まさか、こんな裏が隠されているとは思わなかった」
はは。丹恒は笑って、その細い綺麗な手での目に溜まる涙を拭う。
そして。
「それ聞いて、そういえばの故郷ではは、俺だけじゃなく、あの国王すら欺いていた第二王妃様だった事を思い出したよ。そのならヘルタ相手くらい、わけないって。それ思えばおかしくて、同時に、その裏が分かって理解した事があった」
「……何を理解したの??」
「俺がこの広い宇宙で見つけたたった一人の女だ、これ以上の女はもう見つからない、ここで手放せば一生後悔すると思った事、それを理解した」
「あ……」
「そうだ。あの城で最初にを見つけた時も、塔の上でと強引に関係を持った時も、ステーションの倉庫で再会してを抱き締めた時も、同じ事を思ったのを思い出した。ここでを手放せば今後、これ以上の女は現れないだろうってね」
「丹恒……」
「今でも同じだ。俺は何があっても――、カンパニーの上層部の連中に課せられた試練が駄目になってと強制的に引き離されてもを手放す気ないし、俺はに関する記憶を消すつもりもない」
「……何で。その時、お互いの記憶消した方が後腐れないし、丹恒も私を忘れた方がナナシビトとして自由に旅ができるじゃない。丹恒はそうなった時は私なんか忘れて、姫子の星穹列車でいつも通りに開拓者や『なのか』と楽しい旅を続けて――きゃあっ」
丹恒はの腕を強い力で掴むと、あっさりと彼女を床に押し倒し、彼女に馬乗りになった。
丹恒はに乗った状態で、言った。
「――俺をなめるな。忘れて旅を続けられるか、俺はそうなった時、列車を降りて仙舟に帰って、隠居生活だな。そして仙舟では誰とも会わず、長い時をさまよい続けるだけの亡霊となり果てるだろう」
「いやだから私は、そうなった時に私を忘れて丹恒にナナシビトの開拓の旅を続けて欲しいんだけど。丹恒だって私をいつまでも抱えて旅を続けるのは苦しい――あうっ」
は自分と強制的に離れ離れになっても、丹恒には自分を忘れてナナシビトとして開拓の旅を続けて欲しいと訴えるも、丹恒はそれを許さないように彼女の首に自分の手をあてがう。
それはまるで――。
「丹恒」
「……俺がほんの少しの力を加えれば、無能力で無資格のはあっさり目の前から失われるだろう」
「……」
は丹恒に首を絞められる寸前に晒され、彼がその手に力を込めれば抵抗できない自分はその言う通りになるだろうと、ぼんやりと思った。
丹恒は言う。
「俺は、カンパニーだけじゃなく誰かの強制的な力でを失うくらいなら、こうやって、を自らの手で失った方がマシだとは考えている。がもし、カンパニーの上層部の連中にその存在、それから、俺との関係を認められず、強制的にこの世界から追放されるのが決まった時、俺は自分の手でのその美しい首を取りたい、と」
「……」
「そして、の美しい首を仙舟に持ち帰り、そこでの美しい首をそばに置いて愛でるのが一番良いとも、考えている」
「……そうなった時、自らの手で私の首を取って仙舟に持ち帰り、それをそばに置いて愛でたいなんて、猟奇的ね。それなら確かに、ナナシビトの旅は続けられないわ」
「うむ。俺はそれだけを忘れたくないし、を忘れた状態で開拓の旅を続けるのはできない。本当、俺と強制的に離されたを誰かに――ほかの男に奪われるくらいなら、俺の手でをどうにかしたい。国王から離れてこの宇宙まで来たはもう、俺のものと決まっている」
「丹恒……」
「俺の話はそれだけだ」
それから丹恒はから離れて、彼女と距離を取る。
そしても首をさすりながら立ち上がり、丹恒と向き合う。
丹恒は首をさするを見て、彼女の状態を心配する。
「、大丈夫か」
「大丈夫。本気じゃないって分かってたから、そこまで心配しなくていいよ」
「そうか。いやそれでも、首絞めなんて怖い思いさせて、悪かった。ただの真似事だ。お前の美しい首を取ってそれを愛でたいなんて猟奇的な話もあまり、本気にしないでくれ。俺はそれくらい、を忘れたくなかっただけだし、俺の故郷――仙舟ではいまだに、敵国の大将の首を取れば英雄扱いされるという古臭い風習があって、その影響もあってだな。本当に、すまなかった」
「別にいいって。私の故郷でも丹恒の仙舟と変わらずで、敵国の相手の首取り合戦なんてしょっちゅうだったからね。私も第二王妃の時はもちろん、クロムの第二王女の時だって敵に何度か首持って襲われかけたけど、ロイのおかげで助かってる」
「それ、得意げに言う話か……」
ははは。は故郷でクロムの第二王女として敵国の相手や身内から襲われた事が何度もあって、しかし、護衛のロイのおかげでなんとか防げていたのを思い出し笑うも、丹恒は笑えなかった。
は自分の手で自分の首をさすりながら、言った。
「まあでも、相手の首を取りたいなんて、私の故郷では本来の意味とは違った別の意味もあったりするから、そこまで怖い話じゃないんだけど」
「え、の故郷では相手の首を取るのに、本来とは違う、別の意味あったのか?」
「あら、それ、ディアンの国王陛下か、兵士長に聞いてないの?」
「全然。初耳だ」
は丹恒はそれをディアンの国王か、親しくしていた兵士長からそれを聞いていると思ったが、丹恒はからその話を聞くまでその内容は初耳だった。
「首取り、の故郷では本来の意味以外にどういう意味があるんだ、教えてくれ」
「んー。それ、今の丹恒に教える必要、ないかな」
「。教えてくれないとそれ、気になるんだが……」
「それよりさ。私も丹恒に謝らなくちゃいけない事があるんだけど……」
「何だって?」
丹恒は、がそう話題を変えてきたので、それに応じるしかなく。
丹恒ではしかしの謝りたい事が何か、この時は理解できなかった。
「、俺に何かしたのか? 俺はに謝る必要はないと思うが」
「うん。丹恒にその責任取ってもらうために、アスターの強力な武器借りてたこと。今思えば、その時の丹恒はヴェルトさんと一緒になって私の家族の後始末してくれてたのに、酷い女よね。ごめんなさい……」
「それか。いや、その時のは故郷で民衆の暴動にあって混乱状態だったからな、その気持ちも分からんでもない。俺は確かにあの時、に星穹列車や車掌のパムについてロクに説明もせず、姫子さんに任せきりでほったらかしにしてた。悪いのは俺の方だ、がそれについて謝る必要はない」
そして。
「そうだな。俺にのいう責任を取って欲しいというのであれば、今でも、それに応じる事はできるが。のいう責任の取り方、教えてくれ。それに見合った金か、貴重な宝石類か、あるいは、高級な酒類か。時間はかかるがそれらは自分の力で用意できるかと――」
丹恒は指折り数えての欲しいものに目星をつけるも、それ以上が言えなかった。
今度は反対に、に強く抱き締められたせいで。
「ばか。丹恒にはもう、十分過ぎるくらいその責任取ってもらってるから、今になってそれに応じる必要ないわ」
「」
「丹恒も分かってるくせに。レギオンとお父様達でディアンの第二王妃の権力を剥奪された私にはもう、お金も、貴重な宝石類も、高級なお酒も必要無いって」
「……」
「代わりに、この宇宙では丹恒がついててくれるだけで十分だわ」
「、本当か」
「うん。姫子にヘルタ、カンパニーのジェイド、ジェイドを指示する上層部の人間達が何言っても私はずっと、丹恒のそばに居るって決めてるから。それから、丹恒が第二王妃で既婚者である私と離れたいと思っても離れない、後になって丹恒が第二王妃様で既婚者の私に手を出したの後悔しても、もう遅いんだから」
「……」
「そうそう、丹恒がカンパニーの試練関係無く、面倒な私と別れたいと思う時があって、そうしたければそうすればいいけど、その時は、私に何されるか分からない覚悟を持ってね? 無能力で無資格の弱い人間でも強者を倒す方法はいくらでもあるっての、ディアンの国王陛下のもとで学んでるから」
「はは、それがディアンの国王の教えというのは説得力あって、俺でも震えるものだ。それ以前に俺は、第二王妃で既婚者のに手を出した時点で、最初からその覚悟は持ってる」
「うん。それから、もう一つ」
「何だ」
は自分から離れて丹恒と距離を取り、その思いをぶつける。
「丹恒で宇宙に来てから色々あったけど私はもう、カンパニーの上層部の人間達の判断で強制的に丹恒と離れた時、丹恒に関する記憶は消すって決めてるから」
「おい、何で、そこでそうなる。普通は、俺と離れても俺に関する記憶も取りやめるんじゃないのか」
「だからこそ、よ。私、丹恒の良い思い出を抱えたまま、丹恒とそれきりになりたくないもの」
「あ……」
の意志は固く揺るぎないもので、丹恒はそのを見て美しいと、息を飲んだ。
あの時と同じ――城で強引に関係を持った時も、はその美しさを保っていた。
は丹恒に構わず、続ける。
「私は、開拓者や『なのか』のような強い女じゃない。無能力で無資格の、ただの人間の女だから」
「……」
「私が自分のせいで試練駄目になってカンパニーにこの宇宙から排除されて強制的に丹恒と離れ離れになれば、それこそ、もう死んでもいいと思うくらいに絶望すると思うんだよね。その状態で故郷に戻されたら、国王陛下にさっさと処刑してくださいって懇願すると思う」
「……」
「能力持ちで特殊な人間の丹恒は分からないだろうけどただの普通の人間はね、その絶望を抱えたまま生きるのは、つらくて苦しいんだよ」
「……」
「私はそれだから、丹恒に関する記憶を消した状態でこの世界から排除されるのがいいと思った。これは、私の勝手なものだから、丹恒は気にする必要ないわ。さっきの文の通りで、丹恒も私に関する記憶がつらければ私の記憶、消して構わない。そうなれば丹恒は私の事は気にせず、姫子の星穹列車で自由なナナシビトとして旅を続けて欲しい、それが私の最後の願いで間違いない」
「そうか……」
そして丹恒はの話を全て聞いたうえで、ハッキリと、自分の意見を言った。
「俺はさっきも話した通りで、何があっても、に関する記憶は消さないつもりだ」
「……」
「だが、のその意見も尊重したいと思う。そうなった時にが俺に関する記憶を消したいと思えば、消せばいい」
「私の意見、認めてくれるの?」
「ああ。俺はヘルタとジェイドから、カンパニーの試練が駄目になっての存在が認められない場合、に課せられるこの宇宙からの強制排除というのは開拓者と同じく星神の力が関わっていて、そうなれば俺とはこの宇宙では二度と会えなくなるのが確定だってさ。それは、星核の力を持つ開拓者でもどうにもできないらしい」
「……そう。それ聞けば、丹恒に関する記憶消して正解みたいね。丹恒が私のそれを認めてくれるぶんは、良かった。今回、ここでそれを丹恒に伝えられて、ほっとしたわ」
「俺もだ。お互いの意見をハッキリさせてる方が、いざという時、困らないからな。ああ、もう一つ、に話がある」
「何?」
それから丹恒はから離れると長文が表示されている自分の端末を掲げ、彼女に言った。
「ジェイドから、に伝言があるんだが」
「ジェイドが私に? 何?」
「ジェイドがカンパニーの上層部の連中にのこれ見せれば、を強制排除せず、俺との関係に納得するかもって言ってくれた。どうする?」
は。
「やだ。こんなの、私達の事を何も知らない他人に見せるもんじゃないでしょ」
「だな。ならそう言うと思って、俺からジェイドに丁重に断っておいた」
「正解ね。丹恒は本当、私の扱い、よく分かってるわ」
「うむ。の扱い間違えると、姫子さんの時みたいに痛い目見るからなぁ。この宇宙でを上手く扱えるの、俺だけだな」
丹恒はの返事を聞いて思った通りの内容だったので、遠慮なく笑った。
そして、はある事に気が付いて、心配そうに丹恒を見る。
「ねえ。結局、私のせいで振り出しに戻った感じ? 今までの丹恒の頑張りはいったい……」
「いや。今まで記録が無理だった、の故郷の言語データ追加してもらっただけでも、上々だ。これでの星の価値が上がれば、カンパニーの連中も俺との関係を認めてくれるかもしれない」
「でも」
「まあ、振り出しに戻る、それも悪くないんじゃないか。俺は、列車内でが開拓者や三月達と楽しそうに女子会しているのを見るのが一番好きだ」
「……そうね。私も列車内で、姫子やヴェルトさんと難しい話をしている時の丹恒を見るの、好きよ。それだから私も、今まで通りが一番いいと思った」
と丹恒は、お互い、寄り添う。
そして。
「そういえば、お前、ヴェルトさんに専用の自分のミニキャラスタンプ作ってもらっただろ」
「あ、そうそう。私のミニキャラスタンプ、なのかの発案で、ヴェルトさんに作ってもらったんだよね。それも丹恒にちゃんと届いてた?」
「ああ。俺も、のミニキャラスタンプ欲しかったんだ」
「ほんと?」
「俺では、乗組員じゃないのスタンプ欲しいって、ヴェルトさんにそれ頼める勇気がなくてなあ。これは、三月の手柄だ、彼女に何かお礼をしたいくらいの功績だな」
「本当、ヴェルトさんに注文してくれた『なのか』に感謝しなくちゃだねー。そうだ、丹恒も開拓者や『なのか』と同じ、自分のミニキャラスタンプ持ってるんだよね。見せて、見せて」
は丹恒と腕を組み、彼の手持ちの端末の画面を覗き込み、せがむ。
「俺のスタンプは、これだ」
丹恒はに自分のミニキャラスタンプが入っているフォルダを開き、それを見せた。
「ヤバ、ミニキャラ丹恒、めっちゃカワイイ! さすがヴェルトさん!」
「ほどじゃない。列車組限定だが俺は、とミニキャラスタンプ送りあうのが夢だった」
「それじゃさっそく、私に丹恒のミニキャラスタンプ、送ってよ」
「そうだな。これがいいか……」
丹恒はにせがまれ、とある自分のミニキャラスタンプをに送った。
それは――。
「あれ、毛布抱えてるミニキャラ丹恒?」
基本の感情系や挨拶系ではなく、何故か、毛布を抱えて眠たそうなミニキャラ丹恒のスタンプがのもとに送られてきた。
「もしかして、眠いの?」
そのそばから、ふあ、と、丹恒のあくびがにも聞こえた。
「そろそろ限界だ。開拓の旅と同じよう、一日以上、長期の睡眠に入る」
言って丹恒は、いつもの寝床で横になる。
「、俺が寝ている間、何かあれば開拓者や三月に頼れ。そこ、遠慮するなよ」
「分かってる」
は丹恒の話を聞いて、しっかりとうなずいた。
そして。
「そうだ。目が覚めたら、の好きなアレ、しよう。俺、あの悪戯メッセージ見るまでがアレ好きだとは思わなかった」
「もう。ちょっと、今、それ、言う?」
「はは。それで、ステーションでヤれるいい場所見つけたって、どこだ?」
「あー。目が覚めたら、そこでヤれる良い場所教えてあげる。だてに、ステーションのスタッフやってるわけじゃないから」
「そうだな。目が覚めたら、それ楽しみにしとくよ。お休み」
「お休みなさい……」
丹恒は目を閉じ、それからすぐにの耳にも彼の寝息が聞こえてきた。
は寝ていても綺麗な丹恒の顔を見つめ、呟くように言った。
「……丹恒は、最初に大口開けて肉まん食べてる私に一目惚れしたっていうけど。実は、私の方が先に丹恒に一目惚れしてるんだよねぇ。だってあの時、目の前に凄いイケメン来たってそれに驚いて見惚れて、肉まん落としたんだから。おまけにロイには悪いけど、ロイの代わりに丹恒が新しい護衛としてついてきてくれた時も、内心では嬉しくて、飛び跳ねてたくらいだった」
くすくす。はあの時、肉まんを食べようとした時、その目の前に突然に自分好みのイケメンが現れ、その格好良さに見惚れて肉まんを落とした事、更には護衛がロイから丹恒に変更された時でも表面では「ロイが良かったのに」と悪態をつくも、内心では「やった!」と浮かれていた事も思い出し、笑う。
それから。
「それからね、相手の首を取りたいっていうの、私の故郷では首を取りたいくらい愛してる、結婚したいっていう意味もあるんだよねー。兵士長の話なんだけど、彼、自分より階級上、貴族でお嬢様だった奥さんの首にナイフあてがって、自分の手でお前の首取りたいって言ってそれで彼女の家の許し得て結婚したっていう自慢話、飲み会の席で何度も聞いてるから、丹恒もそれ聞いてると思ったんだけどな。まあ、朴念仁の丹恒はその話聞いてもその意味、気が付いてないか、ふふふ……」
その事実を知らないで自分の首を取って手元に置いて愛でたいと言った丹恒を思い出し、再び、笑いが込みあげてきた。
そして。
「丹恒の目が覚めるまで、暇になったな。あ、そうだ、開拓者と『なのか』あてにヴェルトさんに作ってもらった自分のミニキャラスタンプ送ってみるか。丹恒が寝ちゃったから、今まで使い道なかった、丹恒と同じ、毛布抱えてる、お昼寝スタンプ使っちゃおー」
ぽん、と。は慣れた手つきで自分のミニキャラスタンプ――丹恒と同じ毛布を抱える、お昼寝のイラストが描かれたスタンプを開拓者と『なのか』あてに送った。
「お。開拓者と『なのか』から、今から開拓者の部屋でいつもの女子会やるってきた。しかも、今回はヴェルトさんに追加してもらいたいミニキャラスタンプ会議だって! やったー」
それからすぐに開拓者と『なのか』から返信があり、これから開拓者の部屋でいつもの女子会やるので来れたら来てねという誘いがあったので、は浮かれた気分で丹恒の資料部屋を後にしたのだった――。
余談。
が資料部屋から出ると、すぐに、開拓者と『なのか』に囲まれた。
『なのか』が興味深そうに、に聞いた。
「、丹恒寝ちゃった?」
「うん。ぐっすり寝ちゃったよ。あれ、当分起きないね~」
「そっか。それじゃその間、私の部屋でヴェルトに追加して欲しいミニキャラスタンプ、会議しよー」
おー。の返事を聞いた開拓者は彼女の手を取り、そこへ誘う。
と。
「あれ、何、これ」
ぴろりん、と。の手持ちの端末の着信音が鳴った。
「どしたの?」
「何?」
『なのか』と開拓者ものそれで、立ち止まる。
「なんか知らないけど、私あてに誰が送ったか分からないスタンプきた。開拓者となのか、これ、誰のスタンプか知ってる?」
「!」
言っては、急に自分あてに送られてきたというそのスタンプを開拓者と『なのか』に見せた。
開拓者と『なのか』はあてに送られたスタンプを見て、驚く。
そのスタンプというのが――。
「きゃー、青いミニドラゴンなんて、カッコイイ~」
青いミニドラゴンのスタンプで、はその今までにないデザイン性に拍手を送る。
「これ、ステーションのスタッフがこんなカッコイイの使うとは思えないから、星穹列車の誰かのってのは分かるんだけど。それから開拓者、青いドラゴンがパムの了解スタンプと同じ片手あげてるイラストなんだけど、これも了解って意味かな?」
「多分、その青いミニドラゴンスタンプ、片手あげてるのはパムの時と同じ、了解って意味だと思うけど……」
「それじゃこのスタンプの持ち主、ヴェルトさんかな? 私、またヴェルトさんに何かしたっけ?」
「いや、その青いミニドラゴンスタンプ、ヨウおじちゃんじゃなくて、もよく知ってる乗組員――、あ、ヤバ」
「え?」
は最初、青いミニドラゴンスタンプはヴェルトが使っているもので、またヴェルトに叱られるような事でもしでかしたのかと震えるも、思わず、『なのか』がそう返事をした。
「なの、こっち!」
「あう~」
開拓者は強引に『なのか』の腕を引っ張り、から離れる。
そして。
「なの、何で余計な事言ったの!」
「だってぇ、ヨウおじちゃんがあてにアレ送るわけないじゃん! アレがヨウおじちゃんの仕業にされるのは我慢できなかったんだよー」
ヒソヒソ。開拓者は離れたには聞こえないように小声で『なのか』に余計な事は言うなとたしなめるも、『なのか』はそれが出来ずに頭を抱えるだけだった。
開拓者は声を潜めて、言う。
「ってかアイツ、寝ちゃったんじゃなかったの。何で今になってにアレ送るかな」
「知らないよ。の確認が足りなかったんじゃないの?」
「というか、に列車組限定、更に、仙舟限定のあの青いミニドラゴンスタンプ使うって事は、アイツ、自分の正体、に明かしたのかな? それで了解したって意味?」
「うーん。何を了解したのかウチでも分かんないけど、目が覚めないうちにウチらでにそれを明かすのはよくないと思う。それがバレたらウチらでもあの槍で瞬殺されそうだし、それでヘソ曲げられると面倒じゃない?」
「確かに。アイツがにこの了解ミニドラゴンスタンプ送った意味分かんないけど、私と『なの』の判断で、にアイツのあの話はしないでおこう」
「だね。そこは満場一致で」
ヒソヒソ。開拓者と『なのか』で小声の言い合いが続く。
と。
「――ねえ。開拓者となのか、この青いミニドラゴンスタンプが誰のか知ってるの?」
「!」
いつの間にか、が開拓者と『なのか』の背後に立っていた。
なのかは開拓者の後ろに隠れて「任せた!」と言ってそれを放棄、開拓者は慌ててにその言い訳を試みる。
「あ、いや、うん、その、私と『なの』は、それがヴェルトのものじゃないってのは分かってて、でも、の指摘通りに星穹列車の乗組員のスタンプであるのは間違いないよ」
「そう。で、誰のスタンプなのこれ。その乗組員、私も知ってる人? これが私あてにきたっての、何か意味あると思う?」
「さ、さあ。特にそれの意味なんてないんじゃないかなー。ええと多分だけど、多分、その人、ヴェルトの共有システムのせいでじゃなくて私か『なの』あてに送りたくて、相手、間違ったとか」
「ああ、その可能性もあるのか。ヴェルトさんのスタンプ、乗組員限定といっても、お互いに同じスタンプを共有してるから、それで送信相手を間違える時、あるよね~」
「そうそう、ヴェルトのそれのせいで、その人だけじゃなくて、私と『なの』でも相手を間違える事、けっこうあるからさー」
ははは。開拓者はの話を聞いて、そのせいで自分も失敗する時あると、笑う。
開拓者はヴェルトが構築したというその列車組限定の共有システムは最初はやり難いと思ったが、今回ばかりはそれに助けられたと、ヴェルトに感謝する。
そして。
「それからその乗組員については、が姫子から何も聞いてないのであればの知らない人だと思う。姫子の判断でそうなら私と『なの』でもその人をに紹介できるの、当分先かな……」
「そっか。それじゃ開拓者から、私あてにきてるから相手間違ってるって、その人に伝えておいてくれる?」
は、姫子の判断でまだ自分の知らない乗組員が居る可能性は十分にあると思い、開拓者の言う事を信じるように、そう伝えた。
開拓者もにしっかりとうなずき、言った。
「了解、了解。は当分、その乗組員と『彼』が使う青いミニドラゴンスタンプについては気にしなくていいと思うよ、ね、なの!」
開拓者は自分に任せきりで後ろに隠れていた『なのか』を引っ張り出し、そう言った。
『なのか』も開拓者に応じるよう、に話した。
「そうそう。開拓者の言うよう、はそれ気にしないでいいと思う。それより、開拓者の部屋でヨウおじちゃんに追加して欲しいミニキャラスタンプ会議やろうよー!」
「うん。私もヴェルトさんに追加して欲しいスタンプあったから、楽しみ」
開拓者と『なのか』は上手く誤魔化せたと安心し、再びを中心にして並び、開拓者の部屋へと向かったという――。
この時、はもちろん、開拓者と『なのか』は知らなかった。
丹恒の資料部屋にて丹恒が寝ている隙にその姿が龍尊の飲月――前世の丹楓に切り替わって目を覚まし、彼が勝手にに丹恒が仙舟で愛用していた青いミニドラゴンスタンプを送り、ほくそ笑んでいた事を――。