真夜中。スタッフは就寝中、封鎖されたステーション内にて。
ヘルタの手持ちのパソコンに、通信が入った。
ヘルタは通信相手を知って、眉を寄せる。
「何か用? スタッフ達が寝ているこんな夜中に応じろなんて、非常識じゃないかしら」
『あら。ステーションでは機械人形のあなたには朝も夜もないと思ってたけれど。私がこの夜中に限って通信入れたのも分かってるくせに、それ言うのね』
相手――スターピースカンパニー、高級幹部、戦略投資部で十の石心の一人であるジェイドは、おかしそうに話した。
ヘルタは面倒臭そうに、しかし、追い返さず、ジェイドの相手をする。
「ふん。通信で傍受されたくない話なら、最初から話さなければいいじゃない」
『そこまで彼女の――、の話するの、嫌なの?』
「……」
一瞬、間があった。
ヘルタにしては珍しい間だった。ジェイドはの名前を出しただけで動揺するヘルタを、面白そうに見ている。
「何、の催促?」
『そう。いつになったら、、私達に譲ってくれるのかしら。こっちもずいぶん、待たされてるのだけれど』
「知らない。が欲しければ、あの子をずっと囲ってる張本人、丹恒に聞けば? それじゃなくても、彼の飲月の力を目の当たりにすれば、もこのままではよくないと思って、自分の将来について考えるでしょう」
『それね。そう思って私達――、カンパニーが丹恒の飲月の力を使うのに仙舟の雲騎軍の景元将軍様にずっとかけあってるんだけど、それに見合ったものを差し出さなければ外部の人間の話に応じる気はない、それじゃあその見合ったものは何かと聞けば、それくらい自分で考えろって突き放される始末なの。それで自分の考える見合ったものを持って行っても、全部、門前払いで、手に負えない。
カンパニーであれば普通、そうなった時、実力行使、多少の強引の手を使ってでも相手と取引を継続するんだけど、私の力はもちろん、それより上の幹部――カンパニーの上層部でも千年生きてる彼に敵うわけないのが分かってるからそれ以上の手が出せない。本当、千年の時を生きている仙舟の人間って色々面倒臭いわー』
「ふはは、アンタ達、カンパニーも千年生きてるのがゴロゴロ存在してる仙舟の将軍相手は苦労するようね。中でも、羅浮の雲騎軍のあの堅物将軍落とすの、多分、丹恒の相手になってる本人に関するものじゃないと無理だと思うわよ」
『そうね。私もそのものを使わなければ羅浮の雲騎軍の景元将軍様を落とせないと見込んでるけど、どちらにせよ、今はその時期じゃないわ。二人の期限が切れる丁度良い時に現れた三月なのか、それから、開拓者のせいでね』
「本当、期限が切れるいいタイミングで、三月なのかと開拓者が現れたわね。三月は別にいいけど、このステーションだけじゃなく、カンパニー相手でも色々立ち回ってる開拓者はアンタ達も手が出せないものね」
『それに関しては、否定できないのが痛いわね。と丹恒に開拓者がついているうちは、二人の希望通りに期限を延長するしかない』
はぁ。ヘルタの耳にもジェイドのため息が聞こえた。
ヘルタもこれに関していえばジェイドの苦労も分かるので、彼女の話に応じるように本腰を入れる。
「で、アンタが私にの事で通信してきたの、それだけじゃないでしょ。なんの魂胆があるわけ?」
『本題。近々、ピノコニーのホテルでカンパニーとある経営者の間で大掛かりな取引あるんだけど』
「ふうん、それで?」
『それで、その時、使いたいのよ。ヘルタさんで、に地上に降りていいっていう許可、出してもらえないかしら。の実力見るのに、いいチャンスじゃないかと思って』
「の実力って何。、無能力で無資格、何もできないただの人間の女よ。それこそ、カンパニーでは価値のない女だと思うけれど」
『あらあら。いつまでもその無能力で無資格なをステーションに置いてる、ヘルタさんがそれ言うの?』
「……」
くすくす。ジェイドの笑い声は、ヘルタを刺激するには十分だった。
ジェイドは言う。
『、丹恒と別れて私達の指示に従って指定の学校に入ってそこで色々な資格を習得、そのあと、カンパニーに入社して、星穹列車のナナシビトのように自由に星を移動できるようになれば、そこそこの地位につける実力は持ってるわ。それこそ、あの若さにして十の石心の一員になったアベンチュリン、あるいは、トパーズと同等、いえ、それ以上になれると見込んでるんだけど』
「……、が丹恒と離れてステーションを出てアンタ達の指定した学校で資格持った後、カンパニーに入って星穹列車のナナシビトのように自由に星を移動できるようになれば、若くして十の石心のメンバーになったアベンチュリンやトパーズと同等、あるいは、それ以上になれるですって? 残念だけど、そこまでの女じゃないわ」
ヘルタは髪を払いながら、面倒臭そうに言った。
「私がをステーションに置いてるのは、あいつの――、丹恒のせいよ。の影響でステーションで唯一、レギオンを相手にできる丹恒が使えなくなったら、よくないでしょう。現在でもステーションで神出鬼没のレギオンを相手にできるの、丹恒だけよ」
『どうかしらね。の影響で対レギオン用で丹恒使えなくても、ヘルタさんであれば丹恒にこだわらず、同じ星穹列車の姫子さんかヴェルトさんが使えるでしょうに。そのための、ステーションでなかったかしら』
「……」
ヘルタはジェイドに痛い所をつかれ、何も言い返せなかった。
ジェイドはヘルタを気にせず、話した。
『でも、当日、使いたいのは本当。その取引相手のファミリー、ピノコニーのホテルでカンパニーだけではなくて、ほかの企業相手に資金欲しさにパーティー何回かやってるんだけど、主催者にちょっとした疑惑があってね』
「相手の主催者にちょっとした疑惑? 横領でもしてんの?」
『それだったらまだいいんだけど。今、その詳細とその疑惑を記したデータ、そちらに送るから、確認して』
「そのデータ、受け取ったわ。うげ、何この胸糞悪い内容。横領の方がまだマシじゃないの。これ、確かな話?」
『ええ。そこから逃げ出した女性と、彼女を助けたというカンパニー社員の証言は得ているわ。後は、その取引現場を押さえれば何とかなるって感じかしら』
「あら、この任務を最初に受領したのトパーズってあるけど、彼女、アンタの弟子の一人だったわよね。それで、トパーズはこの任務受けず、に任せるの?」
『トパーズ、あの子、この仕事が成功すれば更にランクアップできるかもってそれ期待して、その任務引き受けたんだけど。私が精査したところ、トパーズにはまだ早くて無理、失敗するっていうのが分かってね、それで、その任務、辞退させたの』
「ふうん。ジェイドが弟子のトパーズを退けるなんて珍しいわね。普段のアンタであればライオンのよう、可愛い子でも奈落に突き落として鍛えるって感じだったのに。同じ十の石心で仲間のアベンチュリンでもピノコニーのオーク家相手にするって聞いた時、彼ではオーク家相手は無理だと思ったけど、引き止めなかったらしいじゃない」
『……、アベンチュリンの時は彼の幸運が味方して、オーク家相手でもどうにかできると思ったから引き止めなかったのよ。実際、途中で博識学会のDr.レイシオ、更には開拓者と知り合って二人がなんとかしてくれたから、失敗してもなんとか生き残ったわ。でも今回のトパーズの任務はそれとは違って、危険な相手で変わりない。ヘルタさんもその内容見ればその相手、トパーズの手に負えない事くらい、分かるわよね』
「……」
『あの子にその現実見せたらそれに耐えられなくなって任務から逃げ出すのは確実、それが原因で、オーク家相手に失敗したアベンチュリンのよう、十の石心から外される恐れもあったから。もしトパーズが失敗すれば彼女を監督する立場の私も、その責任を取る必要が出てきたのよ』
「それで、能力持ちのトパーズと違って、無能力のはそれ任せられると思ったわけ?」
『ええ。故郷では第二王妃様としてその手のパーティーにしょっちゅう出ていて、おまけに『それ』については経験豊富で男慣れして、更にお酒の扱いも長けてるであればその利点活かして上手い具合やってくれるだろうし、なんだかんだで、専属護衛の丹恒もついてるでしょう』
「なるほど。これに自分の可愛い弟子のトパーズ行かせたくないから、第二王妃サマで男慣れして経験豊富な、丹恒付きのに白羽の矢を立てたわけか。アンタもたいがいねー」
『はぁ、それについて否定できないのが面倒ね』
今度はヘルタが笑う番、ジェイドは笑顔で彼女を見詰めているだけだった。
『でも実際、みたいな男慣れしてる女はカンパニーでも貴重なのよ。たとえ無能力で無資格であっても、それで十分に使える人材であるには間違いないもの』
「そうね。この一件でトパーズ使いたくないっていうアンタの気持ちも分かるから、使いたいなら使っていいわよ。あの子も、久し振りに地上に出られると分かれば、喜ぶでしょう」
『ありがとう、ヘルタさん』
ジェイドはを使うのにヘルタの了解を得られて本当に安心したよう、微笑む。
それでもまだ心配は残る。
「アンタが使うのはいいけど、この胸糞悪い内容、肝心の丹恒が何て言うか……」
『問題は、そこよね。内容が内容だから、丹恒にごねられたら困るんだけど』
「……」
『そうだわ。丹恒にのそれ引き受けてくれたら、二人の試練を緩和してもいいって伝えてくれる? カンパニーの上層部と連絡取れる私であればそれ、打診してあげられるって』
「そこまで。……まあ、この胸糞悪い情報見ればそこまでしないと解決しないかー。まったく、ピノコニーの自警団の連中、何やってんのかしら。疑惑の主催者、そこまで価値のあるファミリーじゃないと思うけどねえ」
ヘルタはジェイドの話を聞いて彼女ではなく、この問題に何も手をつけていないピノコニーの自警団の連中に腹が立って仕方なかったという――。
ヘルタとジェイドの通信から、数日後。
事態はとんでもない方向へと動いていた。
「――記憶喪失?」
彼女――が開拓者からその話を聞いて慌てて星穹列車まで駆け付けたのは、仕事終わりの夜の話だった。
星穹列車のラウンジには乗組員全員――車掌のパム、姫子、ヴェルト、開拓者、なのか、サンデー、そして、丹恒が揃っている。
ぱん! を見て『なのか』は両手をあわせ、本当に申し訳なさそうにそのわけを話した。
「、ごめん~。丹恒が魔物からウチ庇って守ってくれたんだけど、その拍子にすっ転んで頭打って一時的に気絶しちゃって。その時、ウチと開拓者は丹恒の頑丈さ知ってるから、それでそのまま放置しても問題ないよねって感じで、そうでも横に寝かせた状態でほったらかしにしてたんだ。でも目覚めて合流した時になって、丹恒、ウチと開拓者だけじゃなくて列車組の事、の事も全部忘れちゃってたんだよ~」
うわあああん。なのかは、に土下座して、詫びている。
「『なの』のせいじゃないよ。その時、丹恒に何も施ししなかった私も悪いんだから。、責めるなら『なの』より、私を責めて!」
なのかを庇うように出るのは、開拓者だった。
は言う。
「いや、丹恒は『なのか』を守って、そうなったんでしょ。それなら私、なのかも開拓者も責める気になれないって。なのか、もう泣かなくていいし、顔をあげてちょうだい」
「、ありがとー!!」
がばっと。なのかはの許しを得られたと分かって立ち上がると、涙と鼻水を垂らしながら、に抱き着いた。
「なの、良かったねえ」
「うん。丹恒のカノジョがで良かったよー」
ははは。開拓者も『なのか』の許しを得られてほっとして、二人で笑いあう。
ところ、で。
「ねえ、開拓者に聞きたい事があるんだけど」
「ん、何?」
に問われた開拓者は、気さくに応じる。
はソファに座ってこちらを見ている丹恒、姫子、ヴェルト、サンデーの様子を見回し、開拓者に聞いた。
「記憶喪失のわりに丹恒本人、それから、姫子とヴェルトさん、サンデーまで落ち着いてるの、何で?」
「あー、それね。実は……」
開拓者は現在の丹恒の状況を、に打ち明ける。
「え、今の丹恒、星穹列車の列車組はもちろん、ヘルタを中心としたステーションの皆の事も全部思い出した状態なの?」
「ええとね、私と『なの』で記憶喪失状態の丹恒連れて列車に戻ってくればすぐに車掌のパム、姫子、ヴェルト、サンデーについて思い出してくれて、その次、ステーションを案内すればヘルタ、アスター、アーラン、それ以外のスタッフ――と同じ応物課の温明徳隊長やエイブラハムについても思い出したって言ってくれてね」
「あら、それは良かったじゃない。それじゃ記憶喪失の丹恒についてそこまで心配する必要、なかったんだ」
「うん。丹恒の記憶喪失についてはそこまで心配する必要ないんだけどさ、ええと、その……」
もごもご。開拓者にしては、歯切れ悪いな? は、いつもの開拓者の雰囲気ではないと感じて怪訝な顔になる。
いつもの開拓者であれば丹恒が元に戻って良かったと、自分相手でも両手をあげて喜んでいるのに今回はそれもなく、浮かない顔をしている。
「どうしたの。丹恒が記憶喪失からもとに戻ったなら喜んでいいと思うけど、それないなんて、開拓者らしくないわね」
「ええと……」
「まだ何かあるの?」
「あるにはあるんだけど、その、あのぉ……」
「――開拓者、さんに向けてその事実を言い難いなら、ワタシが言いますよ」
「サンデー」
開拓者にしては歯切れが悪くハッキリしないところ、割り込んできたのは、つい最近仲間になったばかりのサンデーだった。
サンデーはの前まで来て、いつにない強い調子で言った。
「さん、落ち着いて聞いてください」
「何……」
「現在の丹恒さん、さんについてだけ、すっかり忘れてるんですよ――」
サンデーからその事実を聞かされたは思わず、丹恒ではなく、の視線が怖くて開拓者の背後に隠れる『なのか』の方を凝視してしまった。
つまり。
「つまり、現在の丹恒、星穹列車の列車組の皆と、ヘルタ・ステーションのヘルタとアスター、ほかのスタッフの皆の事は思い出したけど、肝心の私についてすっかり忘れてるって?」
「そうなんですよ。現在、開拓者と三月さんが必死になって丹恒さんにさんについて説明するんですが、丹恒さんはさんに関して全然覚えがないと……」
「サンデーさんの言う事は本当だ。現在の丹恒は、についての記憶だけが抜け落ちた状態なんだ」
サンデーは今でもぼうっとを見ているだけの丹恒を気にして、彼女に話した。そのサンデーに補足するのは、ヴェルトであった。
はサンデーとヴェルトの話を聞いた後、目の前に居る丹恒に問い質した。
「ねえ、丹恒、私についてどこまで知ってる?」
「そうだな。俺は、開拓者と三月だけじゃなく、姫子さんやヴェルトさん、サンデーから、が自分の恋人だったと聞かされたが、本当か?」
「本当だって。私と丹恒は、列車でもステーションでも、誰もが認める恋人同士だよ!」
は胸を張って、その事実を丹恒に訴える。
「丹恒も列車だけじゃなく、ステーションでも私との関係、ほかのスタッフ達から聞いてないの?」
「確かに、開拓者や三月、サンデーの列車組はもちろん、ステーションでも俺を見るたびにスタッフ達からは一緒じゃないのかと何回か聞かれる事があったし、防衛課のアーランや応物課の温明徳をはじめとするⅣ階級の課長クラスのスタッフからも俺はと間違いなく、恋人同士だったと聞かされた。それだから、俺は開拓者達の言う通り、と恋人同士であるのは間違いないと思った」
「それじゃあ……」
「しかし、俺は、とそういう関係だったという記憶がすっかり抜けている。今は、お前とそういう気分になれない」
「嘘……」
は、丹恒は普段から嘘や冗談を言って茶化すような人間ではないと知っているぶん、その話を聞いて悲しかった。
でもまだ希望はある。
「ね、ねえ、それじゃあ丹恒、あなたが私をあの星から連れ出してくれたのも記憶にないの?」
「それも聞いたが、全然記憶に無い。というか、俺がを星核のせいでレギオンに襲われた宇宙科学も知らない文明レベルの低い未開拓の星から連れ出してこの列車まで連れて来たというが、それは本当の話か?」
「本当だって! 私は自分の故郷が星核でレギオンに襲われる最中、その星核目当てに来た丹恒に助けられて、此処まで来たんだけど!」
「すまない。それ聞かされても自分のその時の行動については覚えがないし、を俺の手でその星から引き上げたという話もまったく分からない」
「そんな……」
丹恒が恋人感情はまだしも、それすらも忘れていると思わなかったは、思わず、開拓者の後ろに隠れる『なのか』を睨みつける。
に睨まれた『なのか』は、震えながらも、謝り続けるのだった。
「だから、ごめんて~。ウチのせいで、丹恒がここまでになるとは思わなかったんだよぉ~」
「本当、なのは全然悪くないから! 責めるなら、この私だけに!」
開拓者も『なのか』を庇うよう、の前に出る。
「――ヘルタによれば丹恒のそれ、一時的なものらしいわ」
「姫子」
見かねて間に入って来たのは、姫子だった。
「ヘルタによればステーションの医療班が丹恒の様子を調べてくれたんだけど、頭打った所以外に何の異常も見られなかった、時間が解決してくれると思うですってよ。しばらく、様子見ね。それだからもそれくらいで、三月ちゃんを睨まないでちょうだいな」
「いいけど、でも、私と丹恒、近々、ヘルタの依頼でカンパニー経由のピノコニーの豪華ホテルである仕事受けたんだけど。それ、どうなるの?」
「ああ、そういえばその件があったわね。私も丹恒が記憶喪失の状態でそれどうするのか、ヘルタに聞いてなかったわ。どうしましょう?」
姫子は困っているのか困っていないのか、の訴えを聞いても笑顔でかわすだけだった。
それから。
丹恒はから、ヘルタの依頼で近々、ピノコニーの豪華ホテルで行われる、とあるファミリーとカンパニーの間で大規模な取引会場に来賓客として招待されていた事を聞かされた。
「は? ヘルタの依頼で、俺とでカンパニーに出されてた任務を受けてピノコニーのホテルまで行く予定があった?」
「そう。ヘルタ、近々、ピノコニーの豪華ホテルでカンパニーとあるファミリーの間で大規模な取引あって、でも、その主催者にある疑惑があるのでそれの調査をお願いって、私と丹恒にそれ、依頼してきたんだよ」
「はぁ。ヘルタ、星穹列車でナナシビトとして自由に動ける俺は分かるが、何でステーションのスタッフとはいえ、Ⅱ階級のお前にその依頼を出したんだ? Ⅱ階級は普通、Ⅳ階級か、課長クラスの許可が出なければ列車に乗れないし、ピノコニーに行ける権利もないと思ったが」
「それも丹恒のおかげだったんだよ。私、Ⅱ階級でも丹恒の特権で列車に好きに乗れてたし、こうやって開拓者となのか、姫子、ヴェルトさん、サンデーとも話せてたの」
「なるほど。それは分かったが、、お前、ステーションでも無能力で無資格だと聞いたが、それでよくその依頼引き受けたな?」
「それも丹恒ありきだった。私に専属護衛の丹恒がついてるから、ピノコニーで何があっても対応できるからって、ヘルタに言われてそれで」
「ふむ。俺はヘルタに、と恋人だったのを活かしてそこで、お前の専属護衛役を任されてたのか」
「そういうわけ。で、丹恒、私の記憶無くても、ピノコニーのホテルで私の護衛引き受けてくれる?」
「そうだな……」
は得意の上目遣いで両手をあわせ、丹恒にそれをお願いしてみる。
そばで話を聞いている開拓者、なのか、サンデー、姫子、ヴェルトも丹恒の返事を息を飲んで見守る。
丹恒が出した結論、それは。
「――悪いがそれ、断らせてもらう」
「な――」
「えええ、何で!?」
ここで声をあげたのはではなく、開拓者だった。
「ちょっと、ちょっと! 、無能力で無資格のせいで普段は姫子とヘルタの許可が下りないと地上に出られないから、ヘルタのその依頼受けて、丹恒と一緒にピノコニーに行くの凄く楽しみにしてたんだよ! 姫子も、に丹恒がついてるなら大丈夫だって言ってそのお墨付きもらってたのに、それで断るの? それって、恋人の記憶無くても薄情じゃないかな!」
「開拓者……」
は、開拓者が自分の代わりに丹恒に向かってくれたのは、嬉しかった。
はぁ。丹恒は溜息を吐いて、開拓者に向けてそのわけを話した。
「前提として、今の俺にはと恋人だった記憶が無い。開拓者、それは分かるな」
「うん。それは分かるけど」
「俺は、相手と信頼関係が無ければ護衛を引き受けられない。相手の行動を把握したうえで、それにあわせて動くのが護衛だ。今の俺は、何も分からない目の前のを守る自信が無い」
「何、それじゃあ今の丹恒は、のためには動けないっていうの?」
「そうだな。今の俺は、何も知らないのために咄嗟に行動できず、反対に彼女を危険に晒してしまう恐れがある。が開拓者や三月のよう、自分で自分の身を守れるような女ならまだいいが、聞けば彼女は、無能力で無資格、ステーションでも応物課の倉庫にこもりきりであまり動かないというじゃないか。それなら彼女も、ヘルタの依頼を受けず、大人しくステーションに引っ込んだ方がいいと思った」
「丹恒……」
「それだけではなく、俺の方は無能力で無資格、どうしてこんな何も出来ない女を俺が相手にしてたのか、疑問だった。俺は何も出来ない女より、もっと動ける女を選ぶと思ってたんだがなぁ」
「ち、ちょっと、いくらに関する記憶が無くてもそこまで言う必要、ないんじゃない?」
開拓者はに冷たい態度の丹恒をたしなめるが、丹恒はその勢いのまま続け、サンデーにその確認を取る。
「サンデー。お前、ヘルタのいうカンパニーの取引先だと話した主催者のファミリー、分かってるのか」
「ええ。ヘルタさんのいうファミリーは、ワタシも聞いた覚えがあります。それだからその依頼がニセモノ、という可能性は低いですね」
サンデーの確認が取れた丹恒はうなずき、開拓者に向けてそれが何でも無い風に言った。
「サンデーでヘルタの依頼が本物であると確認できれば、無能力で無資格のではなく、反対に、開拓者や三月であれば、俺の力を存分に発揮できると思うんだが」
「それは……」
「そうだ、その任務、ヘルタに言って、俺の相手を開拓者か三月に変更――」
ぱんっ!
それに、開拓者が止める間もなかった。
いや、開拓者、それから、此処に集う列車組であれば『それくらい』誰かが止めていただろうが、誰も彼女の仕業を止めなかった。
「ばか! 私以外のほかの女に代わるくらいなら、相手しなくていい、その任務も断るからもう気にしないで!!」
は丹恒を思い切りひっぱたいた後に目に涙を溜め込んで、それでも泣くのを堪えて反対にそう叫んで、一人、列車を出て行ってしまった。
開拓者は腰に手をあて、丹恒に向けて呆れた様子で言った。
「丹恒、あれ言い過ぎ。それでに叩かれるの納得だから、今回ばかりは、私はアンタにつかないよ。人を助ける列車組が女の子泣かせてどうすんの、しばらく、反省しなよ」
「そうそう。についての記憶無くても、あそこまで言う必要無いって。ウチも丹恒にドン引きだわ~」
開拓者と『なのか』は、にひっぱたかれて当然だと、丹恒にいつになく厳しい調子だった。
「いやしかし、さん、自分に関する記憶が無いとはいえ、よくあそこまで言い切った丹恒さんを叩けましたね。ワタシもここで初めて開拓者達から聞いていたさんの裏の顔をようやく見られましたが、確かに、彼女のその落差を知れば震えるものです。
そうでもワタシも開拓者の意見に賛成、丹恒さん、もう少し女性の扱いを知った方がいいですよ」
「はは。サンデーさんもついに、の裏の顔を知ったか。俺もサンデーさんの言う通りで、開拓者の意見は正しいと思う。確かにについての記憶が無い状態でも、彼女にそこまで言う必要はなかった。丹恒はしばらくどこかで、頭を冷やしてくるといい」
新入りのサンデーはここで初めての裏の顔を知って驚いた風だったがそれでも彼女を止める必要はないと判断し、いつもは何があっても丹恒側につくヴェルトも今回ばかりは側についたのである。
に頬を叩かれて呆然としているだけの丹恒は、かろうじて、姫子に聞いた。
「……姫子さん、、見た目通り、大人しい女と思ってたけど違うのか?」
「そうねえ。、見た目通りに扱うと今みたいに痛い目見るから気を付けなさい。それ、彼女を列車まで連れて来た丹恒が一番良く分かってると思ったけどね」
「……」
姫子は困ったように笑うだけで、丹恒は彼女に叩かれた頬をさすりながら黙ってそれを聞いていたという――。