それから。
「、ヘルタの依頼、予定通りに受ける事にしたの?」
数日後、応物課の倉庫にて。
開拓者は仕事終わりのから、その話を聞かされたのである。
は言う。
「それでピノコニーの豪華なホテルに行けるチャンスなんて多分、これっきりでしょ、それ蹴るなんてもったないと思って」
「いいけど護衛役、どうすんの? ヘルタも姫子も、に丹恒がついて来てくれるからっていうんでその許可出したんだよね」
「それね。ヘルタにその仕事内容聞けば、私と丹恒にそれ依頼してきたの、スターピースカンパニーの高級幹部のジェイドだったんだよね」
「カンパニーの高級幹部のジェイド? と丹恒にヘルタ経由でその依頼出したの、カンパニーではその名前を知らない人間はいないという戦略投資部、十の石心の一人であるジェイドだったの?」
「あ、開拓者もカンパニーで有名な十の石心の一人であるジェイドの事、知ってたんだ。さすが~」
ぱちぱち。は開拓者もジェイドを知っていると分かって、嬉しそうに拍手を送る。
「というか、もカンパニーのジェイドと知り合いだったの? 私としては、そっちに驚いてるんだけど」
「カンパニーのジェイドとは丹恒だけじゃなくてヘルタ繋がりで、顔見知りなんだよ。それだけじゃなくて、ヘルタ・ステーション、そのヘルタ目当てで外から色んなお客さんが来るんだけどさ、それの対応部署が応物課であるのも知ってる?」
「そうだね。アスターと温明徳隊長から、外から来るお客さんはだいたい、応物課が対応してるのは、聞いてるよ」
「普段は所長代理のアスターについて応物課の温明徳課長とⅣ階級のスタッフがそれ対応してるんだけど、中でもステーションのお得意様のカンパニーの社員や高級幹部、それ以外の博識学会、ヘルタと同じ天才クラブのメンバーといった重要なお客さんが来訪する時、所長代理のアスターと温明徳課長だけじゃなくてⅡ階級の私が駆り出される時あってね」
「何で、アスターと温明徳隊長に混ざってⅡ階級のが?」
「ヘルタから応物課で自分の次に見た目が良いからって、そういう要人が来た時、Ⅱ階級でも私がよく引っ張り出されるんだよ」
「ああ、それでか。確かに、ヘルタの言うよう、外から来たお客さんの注目を集めるくらいの容姿持ってるわ」
開拓者は、の人形のような美しい容姿は、外から来た客を相手にするには十分だと、ヘルタの言う事に納得する。
「それで開拓者、ジェイドと同じカンパニーのアベンチュリン知ってる? 彼もカンパニーではジェイドと同じ高級幹部で、十の石心の一人だって聞いてるんだけど」
「知ってるも何も、彼とはピノコニーの開拓の旅で知り合って、それに協力してくれた一人だよ。そのアベンチュリンもジェイドと同じ十の石心の一人であるのも、間違いない」
「そう。そのアベンチュリン、カンパニーの取引でステーションに来訪する時、真っ先に私を指名してくれるんだよね~」
「あら、そうだったの? まさかここで、アベンチュリンとの繋がりが判明するとは」
「彼、私がそれに応じて相手すると、お土産って言って、お酒だったりお菓子だったり持ってきてくれるから、私にとってはいいお客さんだったんだけど、最近、見かけなくてね。開拓者の方で、アベンチュリンがどうしてるのか知らない?」
「さあ……。私もあれからアベンチュリンがどうしてるのか、さっぱり」
「そっか。もし、開拓者の方でどこかでアベンチュリン見かけたら、彼にたまにはステーションに遊びに来て欲しい、歓迎するって、伝えておいてくれる?」
「了解、引き受けた」
開拓者はに頼まれ、しっかりとうなずいた。
アベンチュリン。彼はピノコニーの開拓の旅のさい、サンデーが属するファミリー、オーク家に手を出して返り討ちにあい失敗、カンパニーではジェイドと同じ十の石心のメンバーだったが、その失敗のせいで現在はそこから外されたようで開拓者でも彼の行方は知らなかった。
それ以外にも。
「それから開拓者、ヘルタと同じ天才クラブのスクリューガムさんも知ってるでしょ」
「知ってる、知ってる。彼も、気に入ってるの?」
「そうみたい。彼、凄くいい人で、来ればⅡ階級の私を指名してくれて、相手すればよくしてくれるんだ。そこで、私が担当してる模擬宇宙のメンテナンスについても色々、教えてくれたんだよね」
「ふむ。、ステーションでは倉庫番だけじゃなくて、そういう重要な役目も持ってたのね。それで今回、ヘルタとジェイドがそのカンパニー経由の仕事をに依頼したの、のそういう見た目も考慮されてんの?」
「そういうわけ。私、ジェイドとヘルタからステーションのスタッフの中で着飾れば一番見た目良いから、お客さん対応だけじゃなくて、その手の潜入捜査にうってつけって言われちゃって」
「なるほどねー。ヘルタとジェイドがそのカンパニー経由の仕事、見た目だけでを選んだっていうの、分かるわ」
開拓者は、がカンパニー経由の仕事に能力云々よりもその見た目で選ばれたと知って、とても納得した。
「で、肝心の丹恒はその時、がその依頼受けるの、了解してくれたの?」
「うん。丹恒、ヘルタとジェイドからその仕事内容聞いた時に私に任せられるのかって渋い顔してたんだけど、私がジェイドにその会場がピノコニーの豪華ホテルって聞いて、久し振りに外に出たい、憧れのピノコニーで丹恒とデートするのが夢だったって訴えればあっさり了解してくれてね」
「そっかー。丹恒もには甘いんだよな。でも現在の丹恒、私と『なの』のせいでについての記憶抜けてるんだけど、あれからどうなった?」
開拓者は自分のせいで記憶喪失になった丹恒との近況はどうなのか、この時はじめて、に聞いた。
は言う。
「実は、あれから丹恒とマトモに話せてないんだよね」
「え、そうなの?」
「うん。いつもであれば、お互いの仕事が一段落すれば丹恒から私が居る倉庫に迎えに来てくれて一緒に帰るっていうのが当たり前で、星穹列車に乗る時も丹恒からの誘いがあってから乗ってたんだけど。現在は、丹恒のお迎えが全然無くて、倉庫から一人で居住区に帰るだけ、星穹列車に乗る機会もなくなっちゃった」
「そういえば最近、乗って来ないねーって、私となの、サンデーで列車に来ないの事、心配してたんだけど」
「私、列車の乗組員じゃないの自覚してるから、丹恒に誘われなければ乗らない主義だったの」
「それ、もう、気にしなくてもいいんじゃない? であれば丹恒抜きでも、気軽に列車に乗ってきていいと思うよ。私達だけじゃなくて、姫子とヴェルト、車掌のパムもであれば、普通に乗っていいって思ってるよ」
「ありがとう。でもその中で丹恒から会いに来てくれなければ倉庫にこもりきりの私と中々顔をあわせる機会がないっていうの、これで気が付いたっていうか。お互い、一人立ちしないと駄目っていうのも気が付いて良かったと思う」
「いやいや、それでも、丹恒、冷たくない? と恋人関係だったの、列車組だけじゃなくて、ステーションのスタッフ達からもその証言得られて認められてるんだから、一度くらい、を気にして倉庫まで迎えに行ってもいいじゃん!」
「一度、倉庫から出た仕事終わり、アーランの防衛課に協力して、アーランと何人かの防衛課のスタッフ達でステーションの見回りやってた丹恒と遭遇したんだけどさ」
「お。どうだったの?」
「その時、アーランが気を利かせて『ここは、丹恒一人でいいんじゃないか』って、私と丹恒を二人きりにさせようとしてくれたんだけどね、丹恒は嫌な顔して『この女相手に、そこまでしなくていい。無能力で無資格のお前は仕事が終わったのであれば、さっさと自分の部屋に帰って大人しくしてろ』って言って、冷たく突き放されちゃった」
「えー。何それ、その時のに冷たい丹恒見たアーラン達、どうだったの?」
「アーランとほかのスタッフ達は、私相手に丹恒のいつにない冷たい態度に呆然とした様子で何も言えなくて、私の方が彼らに気遣って『丹恒は今、自分についての記憶が無い状態だから、気にしないで』って言って、私からさっさとそこから離れた」
溜息を吐いて、続ける。
「それ以外にもステーションで丹恒と顔あわせる機会が何回かあったんだけど、私が自然と丹恒見てたら、丹恒もそれに気が付いたようで私に向かって『現時点でお前に何の感情も持ってない、そこまで期待しないでくれるか』って、また冷たい態度で突き放されちゃって、それ目撃したスタッフ達から同情される始末で居心地悪いっていうか」
「うわー。私だったら、その時の丹恒、一発、いや、何発か殴ってるよ!」
「あはは、ありがとう」
開拓者はの前でファインティングポーズをして、その時の丹恒を殴る振りをしてくれた。は開拓者のそれが嬉しく、遠慮なく笑った。
それからは思い出した事があって、くすくす笑いながら、それを開拓者に打ち明ける。
「故郷で出会った頃の丹恒は、現在みたいに私に冷たかったんだよね。無能力で無資格の女は、俺の相手にならないとか言ってさー。私もその冷たい丹恒にそこまでの感情持てなくて、避けてたの。それだから私からすれば今の冷たい丹恒見ても、平気なんだよねー」
「へえ。それからどうして、そこまでの仲になったの?」
「レギオンやほかの敵の襲撃があって、それからちゃんと私を守ってくれたのを見てからその意識が変わった。後、丹恒が宇宙に帰る間際になってから宇宙に出れば自由、今みたいに男の言いなりにならなくていい、自分が私を一番に考えるっていうのも聞いて、それにあっさり落ちたっていうか」
「それ、恋愛映画でよくある危機的状態にお互い意識するっていう、吊り橋効果みたいなもん?」
「そう、それに近いかもね。多分、今回もそういう事がなければお互い、変化ないと思う」
「それじゃ今回のヘルタとジェイドのピノコニーの依頼を丹恒が受ければ、とそれと近い感情になる?」
「お、開拓者、目のつけどころがいいわね。丹恒がどうにかそれに参加して、その相手の男から私を守ってくれれば、私に関する記憶を思い出すかも」
「なるほど。と丹恒の馴れ初めを聞けば、それが一番、お互いの感情を取り返すのに効果的かもだね。いやでも、どうやってあの頑固な丹恒をヘルタとジェイドのピノコニーの依頼を受けさせる?」
「問題は、そこよね。今の頑固な丹恒を引っ張ってくるの、開拓者でも骨が折れると思う」
「だよねえ。あの頑固な丹恒をのために引っ張ってくるの、私でも無理だわ。どうするかなー。『なの』とサンデーだけじゃなく、丹恒が一番尊敬してるヴェルトの協力もいるかな」
うーん。と開拓者は、どうにかして丹恒をジェイドの依頼に応じられるか考えるも、良い策は思いつかなかった。
開拓者はあまり頼りたくはないが『なのか』とサンデー、それから、丹恒が一番尊敬するヴェルトの協力があれば何とか彼をの前に差し出せるかと、考える――。
ところ、で。
ぴろりん、と。開拓者の手持ちの端末の着信音が鳴った。
「お。ヘルタから通信入った、何だろ」
「私、仕事に戻るね」
「、ちょっと来て。ヘルタの通信、にも関係ある」
「何?」
は最初、開拓者とヘルタの間に入らない方がいいと遠慮してそこから引き下がるも、開拓者に手招きされてそれに応じる。
開拓者はニッと笑って、ヘルタから届いた端末のメッセージ内容をに披露する。
「丁度良かった。ヘルタから連絡、丹恒、ヘルタとジェイドのピノコニーの依頼――の専属護衛、引き受ける事にしたって」
そして。
ヘルタとジェイドの任務を受けた、その当日の事だった。
「じゃじゃーん! どうかな、どうかな?」
「三月ちゃんの新しいドレスと専用メイク、どうかしら?」
三月なのかは姫子を付き添いにして、ピノコニーの取引会場まで行く外行きのドレスを男性陣――サンデーとヴェルトの前で披露してみせたのだった。
「さすが三月さん、とてもよくお似合いです」
「そうだな。なのかに関しては、何も心配ないよ」
ぱちぱち。ふんわりしたピンクのお姫様系のドレスを着こなしている『なのか』を見て、サンデーとヴェルトは揃って彼女に拍手を送る。
「さて次は……」
「どうですかね?」
ヴェルトは、ある部屋に視線を移した。サンデーもつられてそちらを心配そうに見やる。
「開拓者、さっさと出なさい」
「……どうかな、これ」
もじもじ。姫子にせかされ部屋から恥ずかしそうに出て来たのは開拓者で、彼女はいつもの服装ではなく、同じく姫子が用意した白いドレスに着替えていた。ドレスといってもそれは『なのか』のようにお姫様スタイルではなく、普段着でも通用するようなシンプルなものだったけれど。
「開拓者のドレス、三月さんのような華やかさはなくてシンプルですけど、とても良いですよ」
「うん、開拓者も『なのか』と同じ、よく似合ってるよ。君もそれなりの格好をすれば、サマになるじゃないか」
ぱちぱち。サンデーとヴェルトは、めかしこんできた開拓者を見て拍手を送る。
サンデーは改めて、開拓者に言った。
「しかし開拓者、丹恒さんの頼み、よく引き受けましたね。普段はその手のパーティーの参加は仕事でも柄じゃない、断ってると聞いてましたけど」
「仕方ない。丹恒がヘルタとジェイドのピノコニーの依頼に参加するの、私と『なの』も一緒に来るのが条件だって聞いて、彼の記憶喪失の原因作った私達がそれ断れるわけないじゃない。それに、これくらいで、の楽しみを奪わずにすんで良かったよ」
「ですよね。ワタシもそれくらいでさんの楽しみを奪うのはどうかと思ったので、開拓者のその決断は素晴らしいと思いました」
丹恒がヘルタに『のピノコニーでの専属護衛の件、開拓者と三月が一緒なら応じる用意がある』と話して、今回、開拓者と『なのか』がのため、それに快く応じた次第である。
「というか、このヒールっての初めて履いたんだけど、窮屈で足痛い、今すぐ脱ぎたい気分だわ」
カツ、カツ。開拓者は、慣れないヒールに戸惑うかのようにカカトを鳴らし、今すぐ脱ぎたい気分だった。
と。
「――女はまだいいだろ、ドレスは意外とラクだって聞いたぞ」
「丹恒、お前、意外と子供だったんだな……」
丹恒も着替えをすませて防衛課のアーランと一緒に、資料部屋から出てきた。
「お。丹恒、君も意外とサマになってるじゃないか」
「おお。丹恒さん、スーツ姿もいいですね」
ヴェルトとサンデーは、いつもの仙舟式のコートではなく、背広にネクタイとスーツ姿で現れた丹恒に拍手を送る。
ここで開拓者は興味深そうに、アーランに聞いた。
「アーラン。丹恒が意外と子供っていうのは何で?」
「俺で丹恒のスーツ着替えるの手伝ったんだが、アイツ、窮屈、窮屈って子供みたいに嫌がってな。中でもネクタイ締める時に虐待、虐待ってわめいて、形にするのに苦労した」
アーランはスーツに着替えるのに子供みたいに嫌がる丹恒相手に、疲れ切った様子だった。
ヴェルトはその丹恒を前に、ある疑問を口にする。
「あれ、丹恒はカンパニーの社員だった頃、それと同じスーツじゃなかったのかい? カンパニーは若手社員はスーツが基本じゃなかったか」
「カンパニーの若手社員時代、俺は現場担当だったので、そこまでスーツ着なくて良かったんです。それが現場担当で色々やってた功績が認められてランクアップした時、オフィスで新入りを指示して欲しいと言われ、それが嫌になってそこから逃げ出したんですよ」
「そういうわけ。確かに丹恒は、ぬくぬくしたオフィスで指示役なんて柄じゃないなぁ」
丹恒はヴェルトにカンパニーの社員時代の逃亡劇をここで明かし、それにうんざりした様子で、ヴェルトもそれに納得したよう笑った。
それから丹恒はいつものスタイルのサンデーを見て、その不満を言わずにはいられない。
「カンパニー社員時代も思ったがこのスーツっていうの、面倒臭いんだよな。動き難いし。いつもの仙舟式のコートの方が俺にあってる。サンデー、取引会場、こういうキツい格好で行かないと駄目なのか」
「はい。ピノコニーのホテルで行われるパーティーは女性はドレスコード必須、女性についている相手役の皆さんでも正装が基本ですね。それにあわせてほかのスタッフも正装で来ているので、丹恒さんの仙舟スタイルの普段着は目立つうえ、そのまま行けば会場で門前払い受けますよ。女性相手にした護衛役として、それは屈辱的ではないですかね?」
「そうか……」
今すぐスーツを脱ぎたい気分の丹恒はサンデーに訴えるも、サンデーに正論を返されて何も言えなかった。
開拓者はスーツに参って座り込む丹恒を見下ろしながら、言った。
「丹恒、アンタ、直前で私と『なの』も一緒であれば自分もについていくって聞いた時は私も驚いたし、それだからに関しての記憶戻ったんじゃないかって、期待したんだけど。まだの記憶戻ってないの?」
「についての記憶は、まだ戻ってない。俺がそれ引き受けたのは、ヘルタだけじゃなく、ステーションのスタッフ――防衛課のアーラン達はもちろん、と同じ応物課の温明徳やエイブラハム、何故かと繋がりあるっていう密巻課や界種課のスタッフ達、医療班とネットエンジニアのスタッフ達、それだけじゃなく、同じ応物課の温世令を中心とした女性スタッフ総出で、の記憶なくても彼女についていくべき、そこまで薄情だったのかって散々非難されたせいだ。
更に、姫子さんの友人の一人である記者のパメラから、についていかないと俺のある事ない事、記事にするって脅されちゃ、応じないわけいかんだろ。ってかの奴、無能力で無資格でもあそこまでステーションのスタッフ達に人気あったの、これで初めて知ったわ」
「はは。記者のパメラに脅されちゃ、確かに、応じないわけにはいかないね。パメラもとアンタとの関係、応援してたからねー」
「そうでもしかし、俺一人では参加しづらいのは確かなので、それに開拓者と三月が一緒であるのを条件に入れてくれという訴えをダメ元でヘルタに申し込めば、ヘルタにあっさり受け入れられたわけだ」
「そういうわけね。まー、あのスタッフ達に責められちゃ、丹恒もたまんないわな」
丹恒はステーションでについてスタッフ達に責められた時を思い出したのか、参ったように顔を両手で覆った。これには開拓者も丹恒に同情的だったという。
「そのわけを補足すれば、丹恒との関係は、ステーションの新入りスタッフ達の間では憧れの対象で揺るぎのないもので、反対にベテラン勢の間では見守り対象で人気あったんだよな。中でも丹恒相手での苦労を知っている女性スタッフ達は、皆、の味方だ。ヘルタもそれ知ってるから、丹恒の申し出をあっさり了解したんだ」
「なるほどね。それじゃ丹恒もこれに参加しないわけにはいかないか」
丹恒の次、アーランから補足するようにスタッフ達の内情を聞かされた開拓者は、それに納得したように笑うだけだった。
それから丹恒は思い出した事があって、それを開拓者達に向けて話した。
「ってか、その中でも界種課のカポーティー、なんだあいつ。Ⅳ階級の課長クラスのくせにⅡ階級のを姫呼びしてるうえ、姫の専属護衛のお前が姫を守らなくてどうするのか、お前がその態度であれば自分が姫の護衛役につくってうるさくてなぁ。あいつがの護衛役につくくらいなら、俺の方がマシだろ」
「あー。カポ様、の親衛隊の一人だよ。パメラから聞いてない?」
「何だって?」
丹恒の話を聞いて笑いながらその裏を明かすのは開拓者ではなく、パメラ経由でスタッフの人間関係というか裏関係に詳しい、なのかだった。
「、ステーションでは男女関係なく人気あってね、そこでのファンクラブ、何個かあるんだよね。カポ様はその中で、陰で姫を守り隊の隊長だったかな。だからカポ様が丹恒の代わりにの護衛につきたいっていうの、ウチも分かるよー」
「ステーションではのファンクラブが何個かあるっていうのと、カポ様がを姫呼びするほど熱心な信者だってのは私も知ってたけど、彼がそんなの立ち上げてたのは知らなかったわ。いやでも、私もカポ様が丹恒の代わりにの護衛になってるの、反対に見てみたいかも」
開拓者も『なのか』からカポーティーのそれを聞いて、遠慮なく笑った。
というか。
「というかお前ら、カポーティーを当たり前のようにカポ様って呼んでるんだな……」
「いやー。カポ様は、カポ様でしょ」
「だよね。カポ様は、カポ様だよ!」
丹恒はカポーティーを律儀にカポ様と呼び合う開拓者と『なのか』に顔を引きつらせるも、開拓者と『なのか』はハイタッチして笑うだけだった。
「しかし、ステーションでは男女関係なく人気でファンクラブが何個もあるって、無能力で無資格な女がそこまでとは思わなかった。、あいつ、いったいなんなんだ――」
カツン、と。
丹恒がに興味を持ち始めた時、ヒールの音が聞こえた。
「皆、お待たせ~」
姫子はそののんびりした声が聞こえた方を振り返り、『彼女』に聞いた。
「アスター。の用意、できたのね?」
「バッチリ! この見れば、誰でもイチコロだわよ!」
ここではアスターがを担当、彼女は列車組の前で自信たっぷりに胸を張る。
「、今まで時間かかってたけどどれほど――」
開拓者は誰よりも時間をかけて部屋から出てきたを見て、そして。
「――皆様、ごきげんよう。どうかしら?」
「!!!」
のいつものではないその姿に開拓者だけではなく、なのか、丹恒、サンデー、姫子、ヴェルト、アーランですら呆気に取られ、何も言えなかったという。
それは胸を強調させ紐だけで支えられ、背中を大きく開けた際どいデザインで、肩には毛皮のストールをかけ、ロング丈ではあるがスリットで生足をみせるといった濃紺のカクテルドレスは大人で優雅、気品あふれるものだった。真珠のネックレスと真珠のイヤリング、腕には小金色のブレスレットを巻き付け、肌にも何かキラキラ光るパウダーを施してあった。髪を団子状にまとめた金属制のバレッタと花飾り――どれも、のためにあるものだと思うほど。赤い口紅と赤いヒール、赤いハンドバッグ、赤で統一されたそれもだけのものだ。
「……ッ」
完璧に仕上げたを見て丹恒は思わず、柱に隠れた。
その間にサンデーが動き、人目も気にせず、彼女の前でひざまずいた。
「――さん、いえ、姫。今夜、ワタシと一曲どうですか?」
「ふふ、ごめんなさい。今夜は、先約があるの」
サンデーはに向かってひざまずいて彼女に手を差し出し誘うも、はそれをあっさりと断った。
サンデーは立ち上がると自分があっさりと断られたと知って、震える。
「おお、このワタシが美しい貴婦人からあっさり断られたのは、これが初めてですよ!」
今までのサンデーは歌姫として活躍する妹のロビンと同じくその美しい容姿のおかげで、その誘いを断られたという経験が一度もなかったので、のその仕打ちに震える。
サンデーは胸に手をあて、目の前のに心酔した状態で言った。
「だけども、さん相手であればそれも良いですね……。三月さん、ステーションで何個もあるというさんのファンクラブ、ワタシにも教えてくれませんか」
「オッケー。後でそのリストとその主催者、サンデーの端末に送っとくよ」
「サンデーさん……」
サンデーにそれを頼まれた『なのか』は、快く了解した。
そこでサンデーの一部始終を見ていたヴェルトは、引き気味だったという。
「いやしかし、、そこまでやる? 完璧にお姫様じゃん! こんなの、カワイイが売りのウチも適うわけないじゃん! あ、写真撮っていい? いいよね!」
バシャバシャ。なのかはの了解を得る前からカメラを構え、彼女を連写する。
開拓者もいつものではないを見て、それを仕立てたアスターにその疑問をぶつける。
「うわー、私もがそこまでやるとは思わなかったわ。がそれ一人で用意できるものじゃないと思ったんだけど、全部、アスターのものなの?」
「そうね。ドレスだけじゃなくて小物やアクセサリー類も全部、私がのために見繕ってあげたの。はステーションでもよくやってくれてるから、そのお礼もかねてる」
「何でにそこまでする必要があるの」
「それね。はヘルタ・ステーションのスタッフであるのは間違いないけど、無能力で無資格という部分はすでに、相手に知られてるのよ」
「そうだったの?」
「ええ。それから今回の相手はヘルタの説明で、の容姿ありきで彼女を招待してくれてるのが分かってるから、これくらいして当然だわ。私ものメイクするの楽しかったから、その仕上がりに満足してるの」
「そういうもの?」
「そういうものよ。そういうものだと思えば、こういうパーティーに参加するのも気が楽になるわ」
「そういや、お嬢様のアスターも、所長代理としてヘルタの代わりに色んなパーティーに護衛役のアーランと一緒に駆り出されてるんだっけ」
開拓者はここで、お嬢様のアスターも所長代理としてヘルタの代わりに色々なパーティーに専属護衛のアーラン付きで顔を出しているのを思い出し、彼女の話はとても納得できるものだった。
とはいえ。
「、潜入捜査で相手にあわせて猫かぶりするにしても、その格好、窮屈じゃないの?」
開拓者は、にここまでしたアスターに納得はしたものの、本人はここまでされて窮屈で大変ではないだろうかとそれを心配する。
はドレスのスカートをつまんで、くるくる回りながら、開拓者に言った。
「私、故郷でのお城暮らしでこういうのに慣れてるから、平気、平気~。むしろ、ステーションの窮屈な制服より、こっちのドレスの方が気が楽だわ」
「あら、そうだったの?」
「うん。故郷のお城に居る時も、国王陛下主催の色んなパーティーやってて、それに私も参加してたから、これくらい大した事ないの。そこ、気にしないでね」
「そっか。それなら心配ないね」
開拓者はの話も納得し、彼女から引き下がる。
そして。
「ねえ、丹恒はどこ? アーランでスーツに着替えたって聞いたけど」
は、自分が来てから姿の見えない丹恒を探す。
アーランは笑って、に丹恒の居場所を明かした。
「丹恒なら、が現れてからさっと、そこの柱に隠れたぞ」
「アーラン!」
余計な事を! 丹恒はアーランにその居場所を明かされ、渋々、の前にそのスーツ姿で現れた。
はスーツを着こなしている丹恒を見て、にこにこ笑顔で言った。
「きゃー。丹恒、いつものコートじゃない、スーツ姿も素敵!」
「……それはどうも」
は丹恒を前に、自分のドレスのスカートをつまみながら言った。
「私のこれ、どうかな?」
「どうかな、とは?」
「丹恒の方は、いつもと違う私に何か言う事、ないの?」
「恋人じゃないお前に、何を言う必要がある……」
「えー。何も無いの? 恋人じゃないのに一緒についてきてくれるっていう決心してくれた丹恒に恥かかせないよう、色々頑張ったのにぃ」
「……」
「ねえ、アスター。これ、丹恒の好みじゃないっていうから別のに――」
「ドレスもメイクも、お前によく似合ってる!」
「ありがとう。とても嬉しい」
「……」
本当に嬉しそうなを見て、丹恒はそこから顔を反らすのが精いっぱいだったという。
「うは。丹恒、についての記憶なくても、あのにあっさり落ちたんじゃない?」
「だよね。丹恒、分かりやす過ぎだよー」
「丹恒さんも素直じゃないですね」
にやにや。と丹恒、二人のぎこちないやり取りをにやけて見守るのは、開拓者、なのか、サンデーの三人である。
こほん。咳払いが聞こえた。姫子だった。
「カンパニーのジェイドから、用意ができたのであれば早いとこ、ピノコニーのホテルまで来て欲しいって催促あったわよ」
「あ、私達の前にすでに会場入りしてたっていうジェイドを待たせてたの、すっかり忘れてたわ」
姫子の話を聞いて開拓者はそれを思い出し、バツの悪そうに頭をかいた。
それから開拓者は自分だけ何も着替えず普段のままでいるサンデーを気遣うよう、彼に聞いた。
「サンデーは、ヘルタとジェイドの依頼に参加しなくていいんだよね?」
「ええ。ワタシはピノコニーを追放された身ですので、ピノコニー入りすらできません。ワタシを気にせず、皆さんで楽しんで来てください」
サンデーは列車で、ヴェルトと姫子の二人と待機していると話した。
「行ってらっしゃい~」
「気を付けて」
アスターとアーランも留守番組で、ピノコニーに行くと開拓者達を見送る。
そうしてようやくは、念願の憧れだったピノコニーに降り立つ事ができたのだった――。
ところ、で。
「……」
「サンデーさん、どうしたんだ?」
が出て行ったドアをジッと見詰めるサンデーと、彼を気にするヴェルトと。
「あの、ヴェルトさん。ヘルタさんとジェイドさんの依頼にあったファミリー、もう一度、調べても良いですか。ちょっと気になる、嫌な噂を聞いていたので……」
「!」