ピノコニー、高級ホテル・レバリー、ロビーにて。
「ふおおお! 何これ、何これ! ヘルタとジェイドの話があった後に、資料の映像で事前にホテルの内部を見てたけど、実物はめちゃくちゃ凄い!!」
きゃー。レバリーの豪華ホテルのロビー内にて、今まで見たことのないその豪華な造りには子供のようにはしゃぎ、人目も気にせず、あちこちあちこち動き回る。
「おい、そこまではしゃぐな! お前の仲間にされてる俺が恥ずかしいわ!」
丹恒はそのを捕まえるのが、現在の彼の仕事だった。
「、格好は大人びてるけど、中身は子供だよねー」
「そうだね。そういうとこは私達と変わらないから、安心だわ」
開拓者は、遠慮のない『なのか』のの評価を聞いて、笑う。
そして。
「、ジェイドに会う前に、お前に渡したいものがあるんだが」
「ん、何?」
は丹恒の呼びかけで、ようやく立ち止まった。
「これ……」
「何この紙人形、どうしたの?」
は丹恒からある一枚の折り紙――紙人形を手渡され、戸惑う。
「あ、それ、仙舟の護符じゃん」
「それ、仙舟の羅浮で十王司の判官のフォフォが使ってたやつだよね」
開拓者と『なのか』はが受け取った紙人形――それは仙舟の護符であると、に教える。
「ああ、どこかで見た事があると思えば、仙舟のけいちゃん様の怪異チャンネルでフォフォが開拓者に使ってた護符か」
もファンである桂乃芬が立ち上げた仙舟で人気の怪異チャンネルにて、フォフォが開拓者を守るのにその護符を使っていたのを見た覚えがあった。
丹恒は護符をに手渡し、話した。
「に何か危険な事があれば、一応、その護符がお前を守ってくれると思う。受け取ってくれ」
「ウソ。丹恒、恋人の記憶が無い状態でも、私をそこまで思ってくれてたの?」
は、自分の記憶が無い状態でも丹恒がそこまでしてくれるとは思わなかったので、その護符を受け取り、素直に感動したけれども。
「違う、そういうわけじゃない」
「え、どういうわけ?」
「無能力で無資格のに何かあれば、一応、その護衛を引き受けた俺の責任になるだろ。お前に何かあれば俺が開拓者達はもちろん、ステーションのスタッフ達から色々うるさく言われるからな。に仙舟の護符を渡したのは、それ避けるための保険だ」
「そう。そうでも、私を思って護符を渡してくれたのは、とても嬉しい。ありがとう」
「それは、どうも。、お前もう、さっきみたいに勝手にうろつくなよ。星穹列車やヘルタ・ステーションと違って不特定多数の大勢の客が集まるこのピノコニーのホテルでは何があるか分からんし、俺もそれに手を貸せない時があるかもしれない」
「うん、分かってる。私に丹恒がついている間は、何があっても大丈夫だから」
「本当に分かってるのか……」
にこにこ、子供のような笑顔で本当に嬉しそうなと、そのを見てそこから顔を反らすのが精いっぱいの丹恒と。
「ねえ開拓者、あの二人、ほっておいても問題ないんじゃないの?」
「あー、うん、私もそれ思った。姫子の言う通り、時間が解決してくれるんじゃないかな」
ひそひそ。丹恒とのやり取りを見ていた『なのか』は小声で開拓者に耳打ちし、開拓者も『なのか』の言う事に納得したよう笑うだけだった。
と。
「皆さん、お揃い?」
「ジェイド!」
スターピースカンパニー、戦略投資部、十の石心の一員、ジェイドが現れた。
ジェイドはここで開拓者より、に注目する。
「、お久し振り。アスターさんが用意したというドレスが良く似合ってて、素敵よ。さすがね」
「ありがとう。今回、ジェイドの招待でやっと外に出られたんだから、これくらいしなくちゃね。ところで……」
はジェイドより、彼女の隣で不満そうに立っている『彼女』に注目する。
「あれ、トパーズも来てたんだ。しかも、アンタも滅多に着ないドレス姿なんて、やるじゃん~」
「うひひ。トパーズもそういう格好すれば、人目を引くカワイさ持ってるよね」
「……」
開拓者と『なのか』は、ジェイドの隣に付いている彼女がブローニャのヤリーロで知り合い、ピノコニーの開拓でも協力してくれたトパーズであると分かって、歓迎、彼女の着ている深紅の落ち着いたドレスも似合うとその感想を話した。
トパーズはしかし、開拓者達に関して何も言わず、ペットのカブを抱き締めるだけだった。
「?」
彼女もまた慣れないドレス姿で、疲れているのだろうか? いつもの様子と違うトパーズに、開拓者は『なのか』と顔を見合わせる。
と。
「あの。開拓者と『なのか』は彼女を知ってるみたいだけど、私は彼女を知らないわ。彼女は、どちら様?」
「彼女は、トパーズ。同じカンパニーで十の石心のメンバーであり、私の弟子の一人でもあるの」
はトパーズ本人ではなく、ジェイドからトパーズについての紹介があった。
それからジェイドはトパーズの方を振り返り、今度は彼女にを紹介する。
「トパーズは開拓者達の事はよく知ってるけど、ステーションのスタッフのとは、これが初めてよね。トパーズ、彼女がヘルタ・ステーションのスタッフの一人、よ。挨拶なさい」
「……」
「トパーズ」
「……」
彼女――トパーズは、ジェイドに促されても何も言わず、を睨むだけ。
はぁ。ジェイドは溜息を吐いて、困ったように言った。
「ごめんなさいね。彼女、あまり、世間を分かってないものだから」
「……」
「、トパーズに何かしたの?」
「いや、彼女とは今日初めて会ったんだけど……」
そういってもトパーズはを睨むだけで、の方は彼女に何かした覚えはなく、開拓者に聞かれるも、それに戸惑うばかりだった。
ジェイドはトパーズを放って、と向き合う。
「それより、仕事内容、ヘルタから聞いてる?」
「聞いてる。取引会場の主催者のファミリーの怪しい行動を調べてくれって」
「ファミリーのデータ、今、渡すわ。だけじゃなく、開拓者達も受け取ってちょうだい」
ぴ、と。ジェイドはトパーズに構わず、ある情報をデータ化、それを、開拓者達の手持ちの端末に送信した。
開拓者はジェイドからそのデータを受け取り、その内容を見た後、丹恒の方を振り返って彼に聞いた。
「主催者、リー・サイファン。仙舟出身ってあるけど、丹恒の知り合い?」
「リー家を束ねるリー・サイファン、若くてカッコイイじゃん。女の子にモテそう~」
なのかは、主催者のリー・サイファンの写真を見て、そのカッコイイ顔に見惚れている。
丹恒もそのデータを確認するも、同じ仙舟人であっても彼、リー・サイファンについては見た事も聞いた事もなかった。
「同じ仙舟でもその名前、俺は聞いた事がないな。最近、若い連中の間でカンパニーと取引してその勢力を拡大する家はけっこうあると聞いていたが、彼もそれのうちか。で、怪しい動きというのは……、は、人身売買? 冗談だろ?」
「えー、この仕事、そこまで大変なものだったの?」
「マジで?」
丹恒はここで初めてヘルタの任務を知って、驚きの声を上げる。これには開拓者と『なのか』も驚いた様子で、ざわつく。
ジェイドは常に冷静な態度で、話した。
「これが冗談じゃないのよ。彼、パーティーにかこつけて、何人かの女性をさらい、裏で売買してるっていう悪い噂が流れてて、でも、ピノコニーの自警団は何かの弱みを握られてるのかそれ調査する気がなくて、そこから逃げ出した女性を助けてその訴えを聞き入れたカンパニーがその捜査を引き受けたの」
「おい、それにこいつ――を使うのか? ばかだろ、無能力で無資格の女にそれ任せられるか!」
「丹恒、あなた、ヘルタさんからについての記憶が無いって聞いたけど、それ、本当だったの?」
ジェイドはここで初めて、丹恒の記憶喪失が本物であると知って、驚いた様子だった。
丹恒は参った様子で、ジェイドに打ち明ける。
「についての記憶は無いが、無能力で無資格の彼女をこのヤバそうな潜入捜査に使うとは、ヘルタもアンタも何考えてんだ。今からでも遅くない、その捜査、から開拓者と三月に変えて、彼女達に任せたらどうだ」
「残念だけれど、それはもう無理な話ね。主催者のリー・サイファンは、を希望してそれを餌に私の話に応じてくれたの。ステーションで噂のを招待できるのであれば、カンパニーの取引に参加してもいいって」
「何でそいつ、で応じてくれたんだ」
「あら。この見て、分からない?」
「……」
ずいっと。めかしこんできたを目の前に差し出すジェイドと、ジェイドに言われてそれを理解して何も言えない丹恒と。
ジェイドは改めて丹恒を見て、言った。
「まだと恋人だった時の丹恒は、その話をヘルタさんから聞いて、これは確かに向きの仕事で彼女に任せれば上手くいく、それに、彼女に何かあれば自分もついてるから大丈夫だろうってけっこう自信たっぷりに応じたって聞いてるけど」
「……そうだったのか?」
丹恒は思わず、その場に居たと思われるに聞いた。
「うん。丹恒、その時、ヘルタからその話聞かされて最初は渋い顔してたんだけど、それ、私の方からヘルタとジェイドの言うように私向きの仕事で間違いない、それに、その時に私に丹恒がついてくれれば何の危険もないって言えば、丹恒てば胸張って私の護衛は自分に任せろって言って、格好良く応じてくれたんだよねー」
えへへ。その時を思い出したのか、は嬉しそうに話した。
「その時の俺、殴れるなら殴りたいわ……」
うわー。丹恒はからその話を聞いて、彼女の前で格好つける自分を殴りたい気分だった。
ジェイドは改めて丹恒に聞いた。
「ねえ。の記憶が無い状態の丹恒は、いつも通りに彼女の専属護衛としてを守ってくれるの?」
「……、それは正直言うと、今、その感情が抜けてる俺は彼女を守れる自信ない。それだから、開拓者と三月についてきてもらったんだ」
「そう。そういうわけなら今回、開拓者と三月さんが丹恒の代わりに応じてくれて、助かったわ。あなた達、この仕事内容見て、どう?」
「そうだなぁ。私と『なの』で丹恒の代わりをやれるならやるけど、でも、この危険な相手、本当にに任せて大丈夫なの?」
「そうね。ここではしか、彼の相手にならないと思うわ」
ジェイドは開拓者達を前に、言い切った。
「ええ、ジェイドほどの人間がそこまで言い切っちゃう?」
「丹恒じゃないけど、無能力で無資格ので、そこまで自信持てるの?」
「……」
開拓者と『なのか』はのそれは半信半疑、現在のの記憶が抜けている丹恒も怪訝な顔をするが、ジェイドはの裏情報――故郷では数々の男を相手にして第二王妃まで上り詰め、そして、酒の扱いに長けているのを知っているのでその自信はあったのだ。
開拓者となのか、現在の丹恒はのその裏を知らないので、彼女のの持ち上げ方は気になったがここでそれを追求する暇はなかった。
「そろそろ、時間だわ。私で、それから、列車組のあなた達を主催者のリー・サイファンに紹介するから、その後は以外は自由に――」
と。
「……認めない」
「え」
「私は、、アンタを認めないから! 何よぉ、皆して、、って! ジェイドさんには無能力で無資格の女より、私の方が絶対役に立つって、証明してやるんだから!!」
トパーズはに言うだけ言って、泣きながら、その場から立ち去ってしまった。
「トパーズ、ジェイドの弟子だったよね。それで何であんな風にに敵意むき出しにしてんの?」
開拓者はそのトパーズを追いかける余裕もなく、慌ててジェイドの方を振り返ってそのわけを聞いた。
はぁ。ジェイドは大きなため息を吐いた後、それを、そして、開拓者達に打ち明けた。
「実は、今回の任務、最初に引き受けたのがエレーナちゃん――、トパーズだったのよ」
「え、今回のカンパニーの任務、最初に引き受けたの、トパーズだったの?」
「ええ。でも今回の任務、トパーズでは荷が重たいと分かったから、私の方で取り下げたの。トパーズは私の言う事が納得いかなかったのか、その原因がにあると分かって、今回、無理矢理ついてきて、に会ってその実力を確かめないと気がすまないとまで言い出して……」
「うわー。それならトパーズがに敵意むき出しなの、分かる気がする」
開拓者はジェイドからその事情を聞いて、ではなく、トパーズに同情してしまった。
「でもさあ、今回の取引相手、そんなに希望してんの、何で? 丹恒やトパーズの言う事も一理あって、普通、無能力で無資格って聞けば、いくら美少女でも無理ってなると思うんだけど。彼が仙舟の人間でピノコニーやカンパニーと取引できるような家なら、なおさらじゃない? それなら、最初から何でもこなせるトパーズ任せで良いんじゃないかなと思ったりしたんだけど」
遠慮がちにジェイドにそのわけを聞くのは、なのかだった。
なのかは、開拓者と丹恒の影に隠れがちだが実は、相手の隙をつくのが上手い。
開拓者も丹恒も、なのかが自分達が聞けない部分を聞いてくれたので、大変助かったと思っている。
「それね。会場に行って取引相手を見れば分かるわ。彼の希望を叶えるには、がうってつけだって」
ギィ、と。ジェイドは先頭に立ち、と開拓者達を会場まで案内し、その扉を開けた。
「ジェイドさん! よくいらっしゃいましたね、歓迎します!」
「彼が、リー・サイファンよ」
リー・サイファン。白いスーツで決めているが黒髪である部分は、仙舟の人間らしいと思った。
会場には開拓者達と同じくドレスで決めた女性達と、彼女達を連れ歩く恰幅のい紳士な男達が集う。
開拓者となのか、丹恒は、自分達が会場入りした途端、数十人の参加者から一気に注目を浴びる羽目になった。
「あわわ」
「なの」
『なのか』は普段は注目を浴びるのが好きだが今回は自分が品定めされているように感じてそれに耐えきれず、開拓者の後ろに隠れた。
「……(主催者と同じ仙舟の人間が2割、経営者のピピシ人やそれ以外の人種が4割、ほか、彼らについてる女性客が4割……)」
丹恒も嫌な顔をするも、密かに護衛らしく、そこに集う客層を一人一人、確認する。
ジェイドはそれらを気にせず、開拓者達を主催者のリー・サイファンに紹介する。
「リーさん、こちら、開拓者を中心とした星穹列車の皆さん」
「初めまして、リー・サイファンです。あなた達の活躍は、私も聞いています」
「よろしく!」
「よろしくねー」
「どうも……」
開拓者、なのか、丹恒の三人はジェイドの紹介を受け、それぞれ、リー・サイファンと無難に軽い挨拶をかわした。
「そして彼女が――例の?」
「ええ。彼女が噂のヘルタ・ステーションのスタッフの一人、よ」
はジェイドの紹介を受けた後に無難な挨拶をした開拓者達と違って、スカートをつまみ、彼に向って深く一礼する。
「初めまして。紹介されたヘルタ・ステーション、万有応物課、Ⅱ階級のです」
「話に聞いていた通り、美しいお嬢さんだ。あなたの事はレディと?」
「ええ。構いませんわ」
「レディの話は、私もカンパニー経由で聞いています。ヘルタ・ステーションの一スタッフでありながら、無能力で無資格であると。私は最初その話を聞いて、天才クラブのメンバーであり、その中でも個人の背景よりその能力を買うという実力主義者として有名なヘルタがどうしてそのような人間をステーションに置いたのか疑問でしたが」
「あら。心外ですわね。私のその話を聞いているというのであれば、私の役目くらいご存じでしょう。それにヘルタは、無能力で無資格であっても自分に価値のある人間であると分かれば、ステーションに置いてくださるの。それ、ピノコニーのファミリーとしては新参者のあなたには理解できなかったのかしら?」
「……ほう。確かにレディは、無能力で無資格であっても、ヘルタが気に入る要素はお持ちのようだ」
ぱちぱち。リー・サイファンは見た目でいえば大人しそうに見えたがそこまで言い返してくるとは思わず、拍手を送る。
それからリー・サイファンは会場内でに注目している客達を見て、言った。
「さっそく、会場内でレディに注目する招待客達にあなたを紹介したい。いいですね?」
「ぜひ。これがヘルタ・ステーションの利益になると聞いていたので、よろしくお願いします。もちろん、あなたがエスコートしてくださるのよね?」
「当然です。そうそう、御覧の通り、この場には様々な人種が集まっていますが、その中での制限はありますか。それから、飲酒はどこまで許されていますか」
「はい。この場に関しては最低限のマナーは習得していて、ヘルタ・ステーションのヘルタの許可も得ているので種族間の制限はありません。お酒に関してもそれなりの知識はあって嗜む程度には飲めるので、あなたが私について配慮する必要はなくてよ。私を何も出来ない小娘とあなどるなかれ、ですわ」
「……本当、無能力で無資格であっても、あなたを見出したヘルタ・ステーションのヘルタが羨ましい。できるなら私もあなたを手元に置いておきたい気分です。そうだ、ヘルタ・ステーションの倍出す用意ができるとあれば、私の所に来てくれますか」
「お断りします。私は、無能力で無資格であった私を拾ってくれたヘルタに忠誠を誓った身ですので、その手の誘いは、お金を積んでも無駄です。もし私が欲しければそれは、あなたの腕の見せ所ではなくて?」
「いやはや。あなたが、ここまでの女性とは思わなかった。ますます、レディに夢中になるなこれは」
ははは。リー・サイファンは無資格で無能力であれ、男の扱いが上手く場慣れしているを前にして、愉快そうに笑った。
「ちょっと、ちょっと。、故郷のお城で国王陛下について色々やってたっていうけど、あそこまで対応力凄かったの?」
「さあ。ウチも分かんないけど、これなら、ヘルタもジェイドもトパーズより、任せにするはずだよ」
「……」
堂々と。の堂々とした振る舞いに、開拓者と『なのか』だけではなく、丹恒も驚いた様子だった。の裏事情を知っているジェイドだけは、すました顔でその様子を見ている。
そして。
「ジェイドさん、約束通りに彼女を借りて、いいですね」
「ええ、構わないわ。それがあなたとの取引だものね」
リー・サイファンにその申し出を受けたジェイドは、それに快く応じる。
「開拓者達は、好きにしてていいわよ。今回は丹恒の代わり、私がについていくわ」
ジェイドは開拓者達にそう話した後にを連れて、リー・サイファンについていった。
途端、だった。
開拓者達と離れたは、すぐ、招待客の男達に囲まれた。はジェイドから招待客はリー・サイファンと取引のある経営者が大半だと聞いていて、彼らに次々に名刺を渡され、それに慣れた様子で応じ、彼らを突き放さず、こなしていく。
を囲む男達から酒を片手に笑顔で応じる彼女に時には溜息、時には拍手、時には歓声があがった。彼らについている女性達も遠巻きにを見ているだけで、彼女の完璧な振る舞いに何も手が出なかったという。
リー・サイファンはそれからもの腰に腕を回し馴れ馴れしく接して、彼女を自慢そうに連れ歩く。はそれを振り払う事はせず、彼に従順に従うだけで、場が上手くいっている。
「……、ヘルタの言うように故郷のお城で国王陛下についてこの手のパーティーに慣れてて、お酒も平気なじゃないとこういうの、対応できないわなぁ。おまけに、トパーズだったら主催者とはいえ、あの男に軽々しく触られた時点で蹴飛ばして、彼女についてるカブも暴れて、取引そのものを駄目にしそうだわー」
「だねー。ウチものああいう場面でちゃんと対応できて、男の扱いも上手くて、お酒も飲めるの、すっかり忘れてたわ。ウチもトパーズと同じで、馴れ馴れしいあいつ、遠慮なく蹴飛ばしてるよ~」
「……」
ははは。開拓者と『なのか』は遠巻きにの対応力と男の扱いを見て感心し、ヘルタとジェイドの話していた通り、これは男に軽くでも触れられただけで手が出る自分達やトパーズにはできない仕事だと、笑いあう。
丹恒は反対に、が見た目通りに大人しい女かと思えばそれと違って男慣れしていると知って、その彼女を面白くなさそうに見ていた。
開拓者は丹恒のそれに気が付いて、ニヤニヤして、彼に聞いた。
「丹恒、やっぱり、アンタがについていった方が良いんじゃないの? 今からでもジェイドにその役目、代わってもらえば?」
「……俺は必要無いだろう。彼女のあの場慣れ感見れば、反対に俺が足手まといになる」
言って丹恒は、会場内で出されていたピノコニー名物のドリンク、スラーダに手をつけ、それを一気に飲み干した。
「お、ここの会場、色んな美味しそうな食べ物置いてあってスラーダもあるんだ。私、これ好きなんだよ」
「ウチも、ウチも! ウチもスラーダ大好き! よくよく見れば、さすがお金持ちのパーティー、高級食材使った美味しそうなご馳走はもちろん、映えるカワイイスイーツも置いてあるじゃん! カメラ持ってきて正解だったわ!」
きゃー。丹恒でそれに気が付いた開拓者と『なのか』は、会場に出されている高級食材を使ったご馳走に注目し、それに手をつけたり、カメラで連写したりした。
「開拓者、は場慣れしてるうえに男の扱いも慣れてる、おまけにジェイドがついてるから心配なさそう。この格好でせっかく来たんだから、ウチらもここのパーティー堪能しようよ」
「だね。私も窮屈な格好してせっかく来たんだから、ご馳走食べまくるぞ! 丹恒はどうする?」
「俺は、会場を出てそこのロビーで休んでる。どうもこういう場は苦手だ、彼女に何かあれば連絡くれ」
はぁ。丹恒は参った様子で、開拓者となのかが止める間もなく一人、会場を出て行った。
会場の外、ホテルのロビーにて。
ソファに深く座り込んだ丹恒は苦しかった背広を脱いでネクタイをほどき、白いワイシャツだけになった。
「少しは楽になったか。星穹列車のナナシビトとはいえ、何で俺がこんな目にあわなくちゃいけないんだ……」
ここで思い出すのは、会場内で男達に囲まれる、キラキラ眩しいの姿だった。
普段は――ヘルタ・ステーションでは地味な雰囲気で応物課の倉庫にこもりっぱなしであまりほかのスタッフと接する事がないと聞いていたのに、外に出た途端、派手に振舞い、男の扱いも酒の扱いも慣れているあの女は何だと思った。
あれが自分と恋人同士だった? 冗談がキツイ。確かに人形みたいに美しい顔は文句無し、スタイルも文句無し、抱けば柔らかそうで心地良さそうな部分も合格点ではあるが、露出の高いドレスを着こなし男にベタベタ触られて満更でもなさそうな派手な女は自分のタイプじゃないし、その手の女を相手にする趣味は持っていない。
「……」
だけども、ピノコニーのホテルで子供みたいにはしゃぐ素直な部分は可愛いとは思うし、無能力で無資格な部分は護衛としても守りがいはあるし、普段は強気な彼女がほかの男より自分に頼ってすがって泣きついてくる所を想像すればとても良いものだと――。
「うわ。俺、何、考えてんだ」
ハッとして、頭を抱える。
「少し眠れば、冷静に彼女を見れるか……」
丹恒はそれに期待して、目を閉じた――。