番外編:09 星が落ちる前の話(06)

 結果。


 丹恒の策は上手くいって、の居場所を簡単に特定できたのである。そこに踏み込むまでに人間を襲う番犬が何匹かと、サングラスをかけた屈強な男達が置かれてあったが、開拓者の前では何の脅威でもない。

 開拓者は、目の前を進むジェイド、そして、丹恒を見て唇を噛みしめ、拳を握るだけが精一杯だった。

 ジェイドは突入前、毛布といくつかの薬を持ってきていて、その様子を見て怪訝な顔をする開拓者に向けて言った。

 『、部屋で男に酷い目にあってるかもしれない、覚悟してちょうだい』、『酷い目、というのは?』、『開拓者、あなた、そこまで小娘じゃないでしょ? 捕まればそうなるのが分かってたから、この仕事、トパーズに任せなかったの』、『……』、『あなたはそれから後方で、三月さんを守りなさい。私と丹恒が突入してのその無事が確認ができるまで、彼女の目を隠して』、『……了解』。

 ジェイドは開拓者よりもそれに免疫のない『なのか』を気遣うよう、話した。

 ジェイドの予想通りで、もう少し踏み込むのが遅ければは、男に酷い目にあわされていた。丹恒の護符のおかげで寸前で防ぐ事ができ、彼にボコボコにされたリー・サイファンとその一味は、ジェイドが呼んでいたカンパニーの兵士達の手によって捕まったのである。

『――あいつ、小回りの利いて油断させやすいピピシ人を雇って、高級酒につられた女性を隠れ家に誘い込んでたんですってよ。三月さんにジュースをかけて開拓者とを突き放したのも、薬を使ってトパーズをゴミ箱に捨てたのもピピシ人の仕業だとか。
 それから、ピノコニーの自警団の連中、あいつから女性客のおこぼれをもらってたみたい。好きに扱った後、彼女達をほかの星に売ってたようね。そいつらもちゃんと、カンパニーが捕まえてその手柄にできたわ』

 酷い話、許せない、と、開拓者と『なのか』は、被害にあった女性客達に同情的だった。

 ジェイドは開拓者に微笑み、言った。

『まったく。女性の体を目当てに薬使って暴力を振るう危険な男の相手はまだ早い、身の丈のあった仕事を選びなさいとは、トパーズに前から口酸っぱく話してたんだけどね』

 ――はそういう危険な男相手にさせて良かったのか。開拓者と『なのか』がジェイドにその怒りを持って訴えれば、彼女は弱った様子でそのわけを話した。

はその、丹恒と出会う前の故郷では何度か男と付き合った経験あって男慣れしてるって聞いてて、そういう場面に遭遇しても冷静に対応できて、いざという時は、専属護衛の丹恒を呼べるから丁度良いと思ったのよ。今回は丹恒の専属護衛が期待できない状態でもそれだったから、本当、にこの仕事を依頼して良かったと思ってる』

 それからジェイドは今まで黙って話を聞いているだけの丹恒の方を振り返り、あるものを手渡した。

『丹恒。あなた本当、よくやってくれたわね。あなたがいて、助かったわ。はい、これ』

『なんだ、このカードキー……。の無事が確認できれば俺はさっさと、星穹列車に帰りたいんだが』

 丹恒は怪訝な顔でジェイドに渡されたもの――ホテルの部屋のカードキーと彼女を見比べ言った。

 ジェイドは笑って、そのわけを話した。

『その部屋に診断結果で体も心も異常無しだった閉じ込めてるから、あなたがその彼女を好きにしていいわよ』

『!』

 はこの時、ジェイドに保護された後、身体検査をすると医務室に行っていて、開拓者達とは離れた状態だった。

 その結果を待っていた開拓者はたまらず、ジェイドにの状態を聞いた。

、あれから医務室で検査受けてたけど、体も心も、異常無しだったの?』

『ええ。は丹恒の護符のおかげで、あの男に何かされる寸前で食い止められてたの。の診断書が欲しければ、姫子さんか、ヘルタさんに確認してちょうだい』

『良かった、本当に良かった!』

『やったー! これで、ウチらも安心だわ!』

 わー。にどこも異常無しと聞いて、開拓者と『なのか』は抱き合って喜んだ。

 それからジェイドは丹恒を振り返り、彼に言った。

『で、も期待以上によくやってくれたから、報酬以外のご褒美何が欲しいって聞けば、憧れのホテル・レバリーで丹恒と一緒に過ごしたいって要望があって、私がそれを快く聞き入れたってわけ。、その部屋で丹恒を待ってるって言ってたわよぉ』

『何で俺を……』

『ふふ、王子様に助けられたお姫様は、その王子様を待ってるものよ。王子様が迎えに来てくれるまで、お姫様の夢は覚めないわ』

『……』

 丹恒はジェイドに言われるも、そこから中々動かなかった。

 ジェイドはその丹恒に呆れた様子で、言ってやった。

『もう。龍尊の飲月サマとあろう御方が、あなたを熱望している、お姫様の誘い受けないなんて、どうなのかしらね? これでは、あなたを慕う仙舟の雲騎軍の景元将軍様も失望するのではなくて?』

『……』

『あと、星穹列車の姫子さんもそれ了解してるから、あなたが列車の事を気にする必要ないわよ』

『うわ。アンタ、ヘルタだけじゃなく、姫子さんまで知ってたのか……』

 丹恒はここでジェイドは、ヘルタだけではなく、姫子とも面識があると分かって、顔を引きつらせるしかなかったという。

 それから丹恒ではなく、ジェイドとのやり取りを聞いていた開拓者、なのかは、彼をつつきながら言った。

『丹恒、ジェイドの言う通りで、がアンタ目当てで待ってるなら、もう、これ以上、彼女に恥かかせるなよー。此処で行かなければ、仙舟の龍尊であるのに、お姫様一人満足に相手できないのか情けないって、将軍だけじゃなくて、白露を中心とした持明族の間で笑い者になるだけだよ』

『うんうん。そこでまた、丹恒がお姫様の泣かせて戻ってくるようならウチと開拓者が容赦しないし、そこまで酷い男だと分かればもう列車に乗せないからね!』

『……』

 バキバキ。開拓者だではなく『なのか』も拳を作り腕を鳴らし、の所へ行くかどうか迷う丹恒の背中を押してやった。

 ジェイド、開拓者、なのか。女三人に睨まれた丹恒は大きな溜息を吐いた後、『行ってくる』、決心した様子で彼女達から離れての所に向かったのだった――。


 そうして丹恒がの待つ部屋まで来れば、彼女は素直に喜んで部屋に招き入れた。



 現在。

 目当ての丹恒が部屋に来てくれたのを知ったは、『汗臭いからシャワー浴びて来る!』と言って、バスルームにこもってしまった。

 30分後、が部屋着でバスルームから出て来た次第である。

 丹恒はベッドの上に腰かけ、同じく隣で腰かけて酒を飲むを気にして、彼女に聞いた。

「その、体の調子はどこも悪くないのか」

「うん。全然大丈夫だよ。医者にもどこも異常出てないって診断書出てるから、そこまで気にしなくていいよ」

「あの男にのドレス裂かれたと分かった時は、本当、あいつ、殺したい気分だった」

「ありがとう。あの時、私が丹恒を止めなければ本当、相手を殺す勢いだったものね。でもそれ以上はいいわ、丹恒が反対に捕まるから」

「……」

 はくすくす笑うも、丹恒は笑えずに相手を殴った自分の拳を見詰めるだけ。

 丹恒は溜息を吐いた後、に呆れた様子で言った。

「お前もお前だ、俺達やジェイドに何の相談もなく、ぱっと出のトパーズに乗るなよ」

「ごめんなさい。あの時は本当、私も私を外へ出してくれたヘルタの役に立ちたくて、同じようにジェイドの役に立ちたいっていうトパーズの話に乗っちゃったの」

「それは分かるが、俺は無理でも、開拓者か三月には伝えておくべきだったな。あの男、女子トイレに盗聴器仕掛けてたんだってな。よくやるよ」

「そうね。今思えば、あの男、女子のお手洗いに平気で盗聴器くらい仕掛けてるわよね、そこ、気が付くべきだった。それから、狭い星穹列車やステーションと、広い広い外の世界では勝手が違うというのも、今回、分かって良かったと思う」

「そうか。それが分かったぶんはいい……、て、何だ、いきなり……」

 ぎゅっと。丹恒は話の途中でが酒を置いて、自分の手を握ったのを見て、戸惑う。

「今回、丹恒の護符のおかげで私もトパーズも、ジェイドまで助かったの。それのお礼、まだ言ってなかった。ありがとう」

「そうだな。本当、あの護符、につけておいて良かった。あれが無ければお前は今頃、あの男に……、嫌な想像はしたくない、って、だから、何だよ」

 ぎゅううっと。丹恒は、更に力を込めて手を握るに、更に戸惑う。

 は得意の上目遣いを使い、丹恒に迫る。

「ねえ。私に何もしないの?」

「何かって何だ」

「私にキスするとか、それこそ、えっちするとか」

「お前なあ、少しは恥じらいを持てよ。記憶無くてもがステーションでもどこでも男慣れしてるというのは分かるが、俺以外の相手でもそんな風なら遠慮したいが」

「まさか。ここまでするの、丹恒だけよ」

 言っては丹恒から離れたかと思えば、今度は彼の腕にしがみついてきた。

「私を一番に助けてくれた丹恒であれば、私を好きにしていいよ」

の記憶が無い状態の俺では、以前のような恋人にはなれない」

「うん。それ分かってる」

「それ分かってて、俺と関係持ちたいのか」

「うん。この場限りでもいいよ。この場限りでもいいから、抱いて欲しい。私、それ目当てで丹恒この部屋に呼んだの。丹恒もそれ分かって、部屋に来てくれたんでしょ」

「……」

 はこの機を逃すまいと、積極的に丹恒と関係を迫る。

 丹恒はを相手にするのに、どうしても聞かなければいけないと思い、決心する。

、ここでそれ聞いていいいかどうか分からないが……」

「何?」

「その、部屋に入った時、があいつの手で裸にされて、そこで、腹に包帯巻いてるのが見えたんだが。あれ、俺が来る前に、あいつに何かされて傷つけられたのか? それだったら、あいつ、もう一度、この槍で殺さないと気がすまないんだが」

「あー。あれ、あの人の仕業じゃなくて、故郷でレギオンにやられたぶんだよ」

「!」

 は平然としているが、レギオンの恐ろしさを知っている丹恒は平常心ではいられなかった。

「おい、それ、男にやられるよりタチ悪いぞ! 何でそれ、俺に隠してた!」

「隠してたわけじゃないけど。恋人だった時の丹恒は私のそれ知ってたし、医療班の医者にかけあってくれてその治療薬もくれてたんだよ」

「な――」

「丹恒、ステーションのスタッフでもⅡ階級の私ではそれ専用の薬手に入れるの難しい、自分がその交渉役に買って出るって言ってくれてね。私、丹恒のおかげで、ステーションでも生きてられてたの」

「あー、それもあって俺に執着してたのか……」

 丹恒はその事実を知って、参った様子だった。

 それよりも。

「それより、の故郷が星核でレギオンにやられて、その星核目当てに来た俺と現地で関係持って、それで宇宙まで出てきたっていう話、本当だったのか……」

「そうだよ。それ、何回も言ってるじゃない。今になって、信じてくれたの?」

「その傷見れば、それが真実であると分かった。おまけに、俺がⅡ階級のじゃ手に入れられない治療薬まで交渉してたって、そこまでに惚れてたのか……」

 ふぅ。丹恒の溜息が、にも聞こえた。それから何か考えているのも、も分かった。

 はその丹恒を気遣うよう、言った。

「あのね。私の記憶が無い状態の丹恒は、私のこの傷、見てられないっていうなら、相手しなくていいよ。薬も丹恒抜きで、ヘルタかアスターで何とかなるから。これ気にするなら、もう部屋を出て行っても――」

「――ここでその傷のせいで、部屋出て行くバカな男が居るか! ここまで晒したを一人にできるわけないし、ここで逃げればそれこそ、仙舟の恥どころか、星穹列車のナナシビトの尊厳すら失われるわ! 俺をなめんな!」

「丹恒……」

 は丹恒に怒鳴られるも、それが反対に嬉しかった。

 そして丹恒は観念して、を前に白状した。

「ああもう、前から気になってた女にここまでされて、それ断れる男がいるかよ」

「それじゃあ……」

「言っておくが、仙舟で開拓者達と一緒に仙舟救った英雄として認識されてる俺と関係持てば、雲騎軍の景元将軍とか太卜司の太卜とか、仙舟の面倒臭い奴らに絡まれるぞ。それでもいいのか」

「それ、今更でしょ」

「え」

「仙舟の雲騎軍の景元将軍様、私も知ってる」

「本当か。は、開拓者達が何度かお前を仙舟に連れて行きたいと注文しても、ヘルタと姫子さんの許可が下りないせいで、仙舟に行った事がないと聞いていたが」

「それね。仙舟の雲騎軍の景元将軍様は仙舟のガイドブックでその経歴とその美しい顔が写真でのってるの見てて、丹恒から何度も話聞いてるから、それで知ってる」

「ああ、そういうわけ……」

「それ以外、太卜というのはよく分からないけど、そういう仙舟の偉い人達、仙舟の人間じゃないうえに無能力で無資格の私と、仙舟を救ってくれた英雄の丹恒の付き合い認めないって、前からうるさく言われてたんだよね。丹恒も仙舟に帰るたびにお偉いさんから私の事をよくない風に言われるから、それにうんざりしてるって言ってたんだよ」

「おい、その中でも俺と、恋人として付き合ってたのかよ」

「えへへ。私と付き合ってる時の丹恒は、仙舟で面倒なあいつらの相手はしなくていい、気にするな、自分は仙舟のお偉いさんより、私しか見えてないって言ってくれた」

「うわ。治療薬といい、それといい、についての記憶ある時の俺、そこまでに夢中だったのか。マジかー」

 丹恒はこの時、景元を中心とした仙舟の偉い人間達に反対されても、との付き合いを止めなかったというその時の自分はどうかしていると思うと同時に、についての記憶がある状態の自分はそこまで彼女に惚れていたのかと分かって、再び、参った様子だった。

がそれに納得してるならいいか……」

「丹恒?」

 はまた冷たく突き放されるかもと身構えていたが、丹恒はそれとは違っていた。

 丹恒はバツの悪そうに頭をかいて、にそれを明かした。

「まあ、なんだ。今回の事件があって、ステーションでも界種課のカポーティーを筆頭にを狙ってる男達やそれ以外の男達にを奪われるくらいなら俺が先にお前に手つけといた方が良いと思ったし、が仙舟の面倒臭い奴らに絡まれても平気ならの相手してもいいと思った」

「丹恒!」

「うわっ」

 わあ。は嬉しそうに、丹恒に抱き着く。

 その反動でベッドの上では丹恒が下に、が上になる。

「おい、いきなり脱ぐな! だから少しは恥じらいを持て!」

 丹恒は、自分の上にきて平然とシャツを脱いで裸体になるを見て、慌てる。

「え。私、丹恒とは何回もシてるから今更なんだけど」

「その時の記憶が無い俺は、とはこれが初めてなんだよ。ここは俺がをリードして、脱がす場面だろ!」

「そうだった。ごめん……」

「まあいい。、脱いだシャツもう一回着て、下になれ。仕切り直しだ」

「はいはい。そういうとこは記憶無くても、変わってないね」

「全く。記憶あっても無くても、とんでもない女に惚れたもんだな……」

 慣れた様子で素直に自分の言う事を聞いてもう一回シャツを着て下に来るを見て、このとんでもない女に惚れた自分はどうかしていると、つくづく思った。

 それでも。

「……いいか?」

「いいよ。丹恒なら、好きにしていい」

「包帯のとこ、避けてする、から」

「うん。そういう優しいとこ、本当、前と変わってないね」

「……」

 甘い香りがした。

 丹恒はの上にくると、彼女の髪にその細い指を絡ませてきた。

「うひひ……」

 は、目の前の自分についての記憶が無い状態の丹恒も、すぐに自分の髪に触れるところは同じだと思って、それが嬉しかった。

 丹恒はの視線に気が付いて、その手を髪から外した。

「悪い。髪に触られるの嫌だったのか?」

「全然。むしろ、手入れしたかいがあったっていうものだわ。もっと触っていいよ」

 は笑いながら、遠慮してひっこめた丹恒の手を持って自分の髪へと誘導する。

 丹恒は再び、の髪に触れる。

「その、普段でも触っても?」

「大丈夫だよー。遠慮しないで」

「……。あーもう、何で俺、に関する記憶だけ抜け落ちてるんだ」

「丹恒?」

「こんないい女、忘れる方がどうかしている」

「嬉しい。ありがとう」

 は丹恒の言葉が嬉しく、彼に抱き着く。

 丹恒は。

「まだについての記憶無いから元には戻れないと思うが、その、星穹列車に帰った後でも、と本気で付き合いたいと思うし、お前の治療薬も俺が何とかしたい。いいか?」

「うん。私についての記憶が無くても、そう言ってくれるのは嬉しい」

……」

 丹恒は無邪気に抱き着いてくるにたまらず、彼女の頬に手を添え、そして。

「ん」

 ぎこちない、キスだった。

 ――瞬間。

 ぱちん、と。何かが弾ける音が、丹恒の耳に聞こえた。

「……う」

「ちょっと、大丈夫?」

 は、キスした途端に頭を抑えてよろける丹恒を見て、心配する。

 そして。

「……

「何?」

「お前、か?」

「目の前に居るのは、さんだけど」

「……ッ!」

 丹恒は強く、を抱き締める。強く、強く。

「いやだから、急にどうしたの。苦しいんだけど――」

 は丹恒の腕の中でもがくも、彼は許さなかった。

 そして。


「――お前、第二王妃様の、だよな」

「!」


 はここではじめて丹恒の口から「第二王妃様」という、自分の本来の役目が発せられ、目を見開いて彼を凝視する。

 丹恒はそんなを見下ろし、自分の後頭部を抑えながら言った。

「ああもう、何で俺、今までこんな大事なもの忘れてたんだ」

「……本当に私の事、思い出してくれたの?」

「ああ。あの星でいつも誰かの二番手で、第二王妃様だったが、俺の手で俺の一番になった女だ」

「丹恒!!」

 もそれが事実だと分かると嬉しくなって、同じようにいつもより強い力で丹恒を抱き締める。

 丹恒はそのを離さず、言った。

「さっきのキスで、の事を全部、思い出した。もう心配しなくていい。この宇宙でも、俺がを一番に守るという約束をしたのも思い出した」

「うん。良かった、本当に良かった!」

も俺がついていない間、よく頑張ったな」

「その言い方、記憶が無い時の記憶も残ってる?」

「ああ。申し訳ないが、列車やステーションでを冷たく扱って、ホテルのロビーで泣かせたのも覚えてる。すまなかった。今更詫びても、どうしようもないが……」

「別にいい。気にしないで。私の方は、故郷で初めて会った時と変わらない丹恒だと思ってたから、そこまでじゃないわ」

「そうか。俺との最初の印象は、そうだったな。でも、に随分と迷惑かけたし、怖い目にもあわせてしまった。これじゃ専属護衛失格だ……」

「私はこれくらい、大丈夫。故郷で第二王妃様やっててそこで何度も男に酷い目にあわされてきた女は、これくらい平気。今まで通り、専属護衛続けて」

 丹恒もと初めて会った時はお互いの印象はよくなく、避けていたのを思い出し、苦笑する。も丹恒の前では、強気な態度を貫く。

 それでも。

「そういう、俺の前で泣くのを我慢するな」

「だ、第二王妃様の私がこれくらいで泣くわけないじゃない。私が男の前で泣くなんて、どうかしてるわ……」

「俺は、の第二王妃様な部分はもちろん、そういう普通な女に戻れる部分も好きだって、前から何度も言ってるだろ。俺がを一番に見て、一番に考えているというのも。それから」

「それから?」

「それからあんな男に襲われて、その傷も見られて、平気な女がいるか!」

「……ッ」

「あの後、ジェイドや開拓者達の前では男の扱い慣れてるから平気だとか言って強気だったが、の記憶が無くても俺は、その時のが今にも泣きそうなの分かってた!」

「……」

 忘れるものか。忘れられるわけ、なかった。


「今の俺は、第二王妃様のについての記憶はちゃんと持ってるし、お前がそこまで強くないのも知ってる。それだからもう、俺の前で我慢するな」

「う、ううう、これだから、私の事を忘れた丹恒と離れられなかったんだよ、うわああ」


 ――初めてだった。自分を一番に見てくれて、一番に考えて、自分について怒ってくれる男は。


 丹恒は自分の前で我慢せずに泣くを突き放さず、子供をあやすように背中を叩きながら言った。

「ああ、そうだ、前もこんな事があったな」

「え」

「ほら。の故郷のディアンの城で、兵士達や外から来た客をもてなすパーティーやっただろ。その時もが今回みたいなエロいドレスで現れて、そこで、大臣や貴族達のエロジジイ達の餌食になっててさ」

「あ……」

「その時、誰もを助けなかったな。俺も、男達にベタベタ触られて嫌がってるの分かってたのに、今みたいに泣きそうだったのに、そのを助けられなかった。今回は俺の護符で、を助けられて、本当、良かったと思う」

「……ッ」

、俺について宇宙に出たからにはもうそんな嫌な目にあわなくていい。俺が一番に、を守るから」

「う、うう、やっぱり、丹恒が私の一番だよぉお」

 丹恒の言葉が嬉しくて、彼にしがみついて、泣くのを止められないだった。


「……落ち着いたか?」

「うん……」


 数分後、はようやく涙が落ちなくなって、そのを丹恒が支える。

 丹恒はそんなの頭を優しく撫でながら、言った。

「色々あって、一日留守にしてるだけでもヘルタ・ステーションが懐かしいなあ」

「私も、ヘルタ・ステーションが恋しい……」

、俺と一緒にヘルタ・ステーションに帰るか。は本当、よくやったから、胸張ってヘルタとアスター、温明徳を中心としたスタッフの皆の前に帰れるぞ」

「うん。丹恒と一緒に、ヘルタとアスター、温明徳課長の居るスタッフの皆が待ってくれてるヘルタ・ステーションに帰りたい」

 お互い抱き合い、そのぬくもりを堪能する。

 ところで。

 丹恒の手がの髪に自分の指を絡めてきた。

 今度は慣れた様子で、優しく。

「丹恒」

 その合図は何か、もよく分かっている。

「でもその前に、味わってからでいいか。こんな豪華な部屋で堪能できるの、今しかないだろ」

「いいけど、さっき、バスルーム入れば、開拓者の部屋のバスルームみたいに凄かった。後で一緒に入ろー」

「いいね。それも楽しみだな」

「うん。楽しみ」

 お互いに笑って、もう一度 キスして、豪華なホテルの部屋で、その夜を楽しんだのだった――。



 余談。そのあとの話を少し。


 スタッフ達が寝静まった真夜中、ヘルタ・ステーション、ヘルタの部屋にて。

 通信が入った。

 ヘルタはその相手を知って、事務的に応じる。

「現在、冷却睡眠中、相手にできません。さようなら」

『ヘルタさん、あなたにもカンパニー経由でそれなり――いえ、それ以上の報酬、与えたでしょうが。それでその態度はないんじゃない?』

 相手――ジェイドは、ヘルタの雑な扱いに呆れていた。

 ヘルタは言う。

「ふん。を危険な目に合わせたうえ、今回の事件にかこつけて、彼女とトパーズを引き合わせたアンタがそれいう?」

『あら。ヘルタさん、私のそれ見抜いてたんだ』

「最初にトパーズがあの任務受けた時点で、その予感はしてたわ。トパーズ、開拓者と同じで負けず嫌いなの分かってるからね。に自分の仕事奪われたとなればアンタに無理についていくのは分かるし、の着飾った姿と男慣れしてるのを見れば、トパーズが彼女を利用するのも分かってたわ」

『そうね。私もあそこまで上手い具合にトパーズがと関係持ってくれるとは思わなかったし、の方も積極的にトパーズと関係持ってくれるとは思わなかった』

「その影響で、ステーションに帰った後でもトパーズと連絡取り合う仲になって、彼女から色々、カンパニーや外の世界についての情報得ているってさ。そのやり取りを横で見ている開拓者もとトパーズの仲を羨むほどだとか。
 ジェイド、アンタさあ、がうちを出てカンパニーに入れば、そこでトパーズの弟子としてつける気だったでしょ」

『ふふ。あのじゃじゃ馬なトパーズを扱えるの、くらいが丁度良いと思ったのよ。トパーズもに素直におだてられて、満更でもなかったようだし? あの二人、意外と相性良いと思うんだけど。ヘルタさんは、どうかしら』

「さあね。そもそも、それ、がアンタ達の言う事を聞いてカンパニーに入るのを前提にした話でしょ。将来的にそうなるとは限らないわよ」

『そう? は丹恒のルール違反のせいで、厄介な事に、星神に目をつけられてしまったのよ。無能力で無資格、宇宙に関する知識の無い人間が宇宙に出たせいで、宇宙に関する知識を得なければ宇宙の歴史を狂わす影響が出てくる、このままでは彼女をこの世界から強制的に排除しなくてはいけない――。
 私達、カンパニーは、それからを助けるために彼女に宇宙に関する知識を与えたい、でも、それを受講するにはナナシビトの丹恒と別れてもらう必要がある――この単純な話、ヘルタさんも理解してるでしょ、もちろん』

「……」

がトパーズで外の世界――カンパニーについて興味持ってくれれば、こちらとしては御の字ね。の監視役もとい、教育係としても、トパーズが最適だわ』

「……どうかしらね。そうそう、ジェイド、アンタ、その後の丹恒との話、知ってる?」

『その後の丹恒との話? ホテルから開拓者達と星穹列車に乗る間際になって、丹恒がについて全部思い出した、今まで迷惑かけてすまなかったって、開拓者と三月さんに申し訳なさそうに謝ってるのは見てたけど』

 ジェイドは、丹恒をの部屋に寄こしたその翌日、星穹列車に帰る間際になって、開拓者と『なのか』は、丹恒がについて全て思い出した事を知った。

 それを知った開拓者と『なのか』も両手をあげて喜び、人目も気にせず、同じように嬉しそうなと手を繋ぎ、三人娘が輪になって『バンザーイ、バンザーイ!』と、合唱していた様子を思い出した。

 ヘルタはその後のと丹恒の近況を、ジェイドに明かした。

「あれからあの二人、星穹列車だけじゃなく、ステーションでもべったりでね。の仕事が終われば丹恒が迎えに来るのは当然になって、も丹恒が防衛課のアーラン達と見回りしている時でも遠慮せず、くっついてくるようになったんですってよ。アーランの防衛課だけじゃなく、ほかの課のスタッフ達からも隙あればイチャついてる二人の目のやり場に困るって苦情が入るくらいになったわ」

 続ける。

「星穹列車でもあの二人、開拓者達が外から帰ってきても関係なく、ラウンジのソファでイチャイチャしてるんですってよ。それ見た開拓者からは自分もに触りたいのに丹恒だけずるいって愚痴言ってきてうっとうしいし、三月はウチも彼氏欲しい誰か紹介してーって姫子に泣きついて姫子が困ってるし、サンデーは列車内でと丹恒がイチャイチャする様子をこっそり盗み撮りしてそれを入りたてのファンクラブに流してそれで男のスタッフだけじゃなく、女性スタッフの支持を集めて、ステーション内でも自身の勢力拡大してるらしいわ」

『あらま。それは、困った状態ねえ。というかサンデーさん、元でもさすがオーク家当主、利用できるものは利用するところは相変わらずで、何よりだわ。サンデーさん、列車組じゃなくて、ウチに来てくれれば良かったのに~。アベンチュリンのせいでそれが叶わないの分かってるけど、カンパニーとしても優秀な人材に違いないわ』

「うむ。サンデー、そういうとこは列車組じゃなくて、カンパニー向きかもねぇ」

 ジェイドはその中でもサンデーの際立った様子を聞いて愉快そうに笑い、ヘルタもサンデーについては面白そうに見ている。

 ジェイドは余裕をもって、言う。

『だけどもはもう丹恒と離れてくれないと、星神の力でこの宇宙から強制排除になってしまうわよぉ』

「……ジェイド、アンタ、まだ何か隠してる? その余裕は何よ」

『ヘルタさん。あの男――リー・サイファンの調書、読んだ?』

「読む気にならないわ。何?」

『あいつ、丹恒と同じ仙舟出身だったでしょ。彼、最初はスーツ姿で分からなかったけど、最後の方で丹恒の槍を見てその正体に気が付いたみたいで、無能力で無資格の女に何で持明族の龍尊であられる飲月君がついてるんだ、詐欺だろ、あの女に騙されてるんじゃないか、そんな事は仙舟の人間として認められないってわめいてるんですってよ』

「うひひ、仙舟の人間で丹恒のそれに気が付いたのが運の尽きだったわね。……ちょっと待って、まさかそいつの一件、仙舟の人間に――各地の将軍達まで伝わった?」

『そう。面白い事に、彼のその嘆きが仙舟の、中でも各地の将軍様やそれ以外のお偉いさんの耳に入ったみたいで。仙舟から、どういう事かと、カンパニーあてに何件か問い合わせがあったの。彼らのネットワーク、こちらも目を見張るものがある』

「うわあ。これがそれに繋がちゃったかー」

 はぁー。ヘルタの最大の溜息が、ジェイドの耳にも聞こえた。

 ジェイドは言う。

『それで、今回の事件、丹恒とが絡んでるのが要の仙舟の雲騎軍の景元将軍様にも伝わって、彼から直接、事の詳細を知りたいと、通信が入ってね。私はそれを逃すまいと、彼に丹恒とを使った今回の事件の詳細を包み隠さず話したわ。それから、丹恒がについての記憶が無い状態で、でも、その事件の中での手で彼女について思い出したという感動的な話もね』

「ってか、仙舟の雲騎軍の景元将軍、仙舟と関係無い外部の仕事であっても丹恒が関わっていると知れば、どこでも割り込んでくるわね。あの人、丹恒のストーカーやってんじゃないのぉ」

『ヘルタさん、口を慎んだ方がよくてよ。ヘルタ・ステーションであっても誰に聞かれているか、分からないわ。仙舟の技術――ネットワークをあなどってはいけない』

「……」

 ジェイドは、景元について愚痴を言うヘルタをたしなめる。ヘルタも仙舟の技術力はばかにできないので、それ以上は黙った。

 ジェイドは続ける。

『で、その景元将軍様、無能力で無資格であってもがそこまでの女性であれば、一度、その目で見てみたいと仰ってくださったの。そして近々、仙舟の羅浮で天舶司の長官であられる御空さんで星槎レースが復活する、そこでならその場を用意できる、とも。そして、の行動によっては、丹恒の飲月の力を外部の人間が使うのを許可するって』

「……」

『ヘルタさん』

「ここが潮時かー。いいわ、その申し出、が属するヘルタ・ステーション、天才クラブのヘルタも了解したと、景元将軍に伝えて頂戴」

『了解。これがどう転ぶか分からないけど、の将来はに決めてもらいましょう。それじゃあ』

 ぷつん。ジェイドの通信は、ここで終わる。


 ヘルタは手持ちのパソコンでの裏情報――、故郷のディアンでは国王であるウォルター・ディアンと政略結婚をした第二王妃であるという項目を懐かしそうに見つめ、そして。

「……が丹恒の手でステーションに来てから、一年とちょっとか。開拓者達だけじゃなく、のおかげで、私も退屈しなかった。故郷の王国再建を続けるあの子のためには、いつか、このステーションを出る必要があるとは感じていたけれど」

 ……。

 ……。

の将来は、が決める、か。何でもできるように見えて何もできない私は、此処であの子にとって一番いい結末を迎えらえるよう、祈るしかないわね。天才クラブのこの私がそれ任せにするのはどうかと思うけれど」

 自虐的に笑って、その目を閉じたのだった――。

今回の話で、トパーズ登場、「指先にオレンジ」の仙舟行きの裏取引で何があったか、ヘルタとジェイドのやり取りもこれで明らかに。
そういうわけで、時系列的にはあと一回くらいでこの色シリーズの番外編、終了です。やり残した話は国王周辺、それから、故郷の再建くらいか。
お馴染み、記憶喪失ネタ。今回は夢主じゃなく、相手の丹恒側が記憶喪失っていう。
ジェイド含め、カンパニーの高級幹部とステーションの関係がイマイチ分からん、あと、ヘルタとジェイドはどちらが立場的に上なのかよく分からなかったので、ああいうやり取りになりました。ヘルタが活躍するっていう、オンパロスまでまだいってないもんで。どこかで判明すれば修正しときます。
トパーズ好きだったんで、彼女をここで出せて良かった。多分、将来的にはカンパニーで夢主の教育係というか、いい友人になってる。彼女は性格アレだけど、認められたら、付き合いいいっていう感じ。アベンチュリンとも上手くやってたみたいだしな。アベンチュリンも好きなんですよ。彼の水着バージョン出るとあったので、楽しみ。
それから、ステーションのスタッフの中では温明徳、エイブラハムに次いで、カポ様も好きです。イベで、悲惨な事になりますがね。彼女達がカポ様に心酔するっていうのは分かる気がする。

更新履歴:2026年07月01日