それは、開拓者が開拓以外、通常任務として行っている、いつものヘルタ・ステーションの巡回中の出来事である。
「、居る?」
全ての要件をこなし、更に何も無ければ応物課の倉庫に居座るに会いに行く――、それが開拓者の常だった。
しかし。
「あれ、居ないな。っと、もう勤務時間終わりで、倉庫出たのか。それなら、応物課のセーフティールームかな?」
サポート部分にある倉庫に立ち寄れば、の姿がない。端末の時計を見れば、担当の勤務時間はすでに過ぎている。第二候補として、応物課のセーフティールームがあるベース部分へ直行。しかし。
「あれ、此処にも居ない?」
ベース部分の応物課のセーフティールームには、の姿はなく、ほかのスタッフ達も居なかった。
「こうなれば、応物課の課長、温明徳隊長に会ってについて聞かなくちゃ気がすまない!」
むぅ。開拓者は、いつものこの時間なら仕事終わりのに会えて彼女と楽しいおしゃべりをしていたのに今回に限って会えないのが悔しく、その不満を晴らすために同じベース部分にある応物課の受付に居座る温明徳のベース部分へと向かった。
ベース部分に居る応物課の課長である温明徳は、開拓者にの行方をあっさりと明かした。
「? ついさっき、丹恒がを迎えに来て、二人で星穹列車に行くと話してたよ。開拓者は列車で、二人に遭遇しなかったのか?」
「うわ。入れ違いかー。また丹恒ばっかり独り占めして!」
ぐあー。数分の差で、と入れ違いになったようだ。開拓者は、を独占する丹恒の仕業に悔しそうに地団太を踏む。
その様子を見ていた温明徳は、不思議そうだった。
「開拓者であれば、星穹列車でと会って話出来るだろ。君なら丹恒相手でも、大丈夫じゃないのかい?」
「それなんだけど。丹恒のヤツ、を自分の資料部屋に閉じ込めたら、数時間は出て来ないんだよ。私でも当分、と会えないの確定」
「あー。そりゃ、開拓者でも具合悪いか」
はは。温明徳は開拓者からのその内容だけでと丹恒の仕業を察して、苦笑するだけだった。
開拓者は、何かのパネル操作をしている温明徳にすり寄る。
「温明徳隊長ぉー、と楽しいおしゃべりする予定だったのにそれがダメになって悲しい私の相手してよー」
「応物課だけじゃなく、ほかの課でなんか依頼来てないのか?」
「今日の依頼のぶんは、もう終わったよ。それだから、仕事終わりのに会いに行こうと思ったんだけど、間に合わなかった。今の時間で温明徳隊長だけだよ、相手になるの」
「残念だけど、私も忙しい身でね。開拓者の相手をしている暇はない」
「そうなの? が帰って分かるよう、応物課全体はもう、勤務時間終わってるんだよね。このベース部分に居る応物課のスタッフ達も、殆ど、帰ってるようだけど」
辺りを見回せばベース部分に存在する応物課のスタッフ達はまばらで、防衛課のスタッフが就寝時間まで交代で門を守ってるくらいである。
温明徳は、操作しているパネルから顔を上げ、開拓者にそのわけを話した。
「実は、この夜に会合があってね。今から、それの準備で忙しいんだ」
「会合? 何の会合?」
「私の応物課だけじゃなくて、ほかの課の課長クラスが集まる会合だよ。週一回くらいあって、それが今日だった」
「それ、面白い?」
「面白いとかじゃなくて、課長クラスの義務の一つだ。そこでそれぞれの課の一週間の予定や研究成果を提出して、その内容に意見や問題があればそこで話し合いをする。それから、スタッフ同士の揉め事があればそこで報告、課長同士で話し合うってだけの地味な会合だ」
「へえ。仙舟の将軍達やカンパニーの高級幹部達が部下達で何かあればトップ同士が話し合いっていう現場は何度か見てるけど、ヘルタでもそういうのあったんだ。応物課以外でもステーションの課長クラスって普段は暇そうにしてるけど、意外と大変?」
「このヘルタ・ステーションでは一課長につき、平均、三十人もの部下達を抱えてるからな。仙舟の将軍達やカンパニーの高級幹部は数千人規模の大所帯でそれらと比べるのはおこがましいが、ステーションの課長もそこそこ大変だな」
「そういやヘルタのスタッフ達って、総合計で百人以上居るんだっけ」
「このステーション内ではそれくらいだが、ヘルタの研究員としてほかの星に遠征行ってたり、別の企業に派遣されてるのも入れれば、総勢五百人以上か。開拓者も外で私の部下やほかのヘルタのスタッフに会った事、ない?」
「そうだね。応物課じゃなくてもヘルタのスタッフ、ステーション外でも見かけた事あるけど、そんなに居るのか。それでいえば、生身のマダム・ヘルタ本人がステーション内部を統括するのではなく、あちこち動いてる何体ものヘルタの機械人形がステーション内を監視するシステムは、効率良かったのかな」
「うむ。それこそ、天才クラブ、ヘルタの冠に相応しいシステムだよな。生身のマダム・ヘルタ本人はステーションの経営自体はアスター所長代理に任せて、それ以外の話は遠く離れた自宅でのんびり機械人形を操ってればいいんだから」
「だね。私もヘルタのそういうとこは、凄いと思うよ」
ヘルタのスタッフである温明徳だけではなく、開拓者もヘルタの力は認めている。
ふと。
「そういえばさ、その課長同士の会合の話で思い出したけどステーション内部でスタッフ同士の揉め事、私も依頼の中で何度か関わった事あるけど、けっこう多いよねー」
「ああ、まあ、閉鎖的なステーション内部では、どうしてもその手の事件は起きるものだよ。自由で解放的な地上ではそこまでではないが、息苦しい閉鎖的な宇宙ステーションでは新型の機械の管理より、人間の管理の方が難しいと言われるくらいだ」
「それじゃあ課長同士の会合、その手の報告もしょっちゅう上がってきてる?」
「そうだね、それは否定できない。応物課でも、あるスタッフとあるスタッフの間で意見があわずに言い合いになって仲違いしているという報告は、けっこうある。それ放置してるとほかの課にも伝染して、最終的に、ヘルタ内部でスタッフ同士の暴動が起きれば大変だ。課長同士の会合でその手の報告があれば、お互いに協力して解決するようにはしてる」
「それでいえばさ、もその議題に上がったりする? 彼女、私が来る前はあの人形みたいな容姿のせいで、女性スタッフの間でイジメられてたって、最初の方で温明徳隊長から聞いてたんだけどさ」
「あー。開拓者が聞きたかったのは、それか。いやでも、開拓者であればその件について、か、丹恒か、本人達からどこかで聞いてると思ったけど」
「いやあ。開拓の旅で忙しくしてたら、本人達に聞きそびれちゃって。今更聞くのもなあと思ってたところで、温明徳隊長の課長同士の会合あるって聞いて、それで」
はは。開拓者は照れ臭そうに髪をいじりながら、期待を込めた目で温明徳を見詰める。
「温明徳隊長、ほかのスタッフ達もう帰っちゃったから、会合までの時間でのイジメの件について教えてくれたら嬉しなー、なんて」
「いやだから、今の私はその会合の準備で開拓者の相手してる暇は……と、開拓者に丁度良い話し相手が居るぞ」
「え、ほんと?」
ぴ、ぴ。温明徳は手持ちのパネルで何か操作し、それを教えるよう、開拓者の前に披露する。開拓者も興味深そうに、その手元のパネルを覗き込む。
パネルには、ベース部分に居るスタッフの名前とその位置が表示されてあった。
そのスタッフは、開拓者も良く知るスタッフだった。
温明徳はそのスタッフの位置を開拓者に明かしたうえで、言った。
「彼なら私と同じく、のその話について知ってるから、あいつに聞いてみるといい」
「確かに彼なら、のその話について知ってるわ。あれでも、何で彼、まだこの時間に残ってるんだろ。と同じく、Ⅱ階級の温世玲や温世斉ももうショップ閉じて、居住区に帰ってるのに」
「それなんだが。あいつなあ、いつまでも居住区に帰らず、ベース部分の消灯時間まで居残ってるんだよな。私は課長だから部下の最後の一人が居住区に帰るまで残らなくちゃいけないんだが、あいつがその最後の一人になるから、自動的に一緒に帰る羽目になるんだ」
「ええ、それ、本当? 何でそこまでして彼、最後の一人になるまで帰らないの?」
「それもあいつに聞いてみるといい。面白い答えが返ってくるから」
「おお、それは面白そう!」
開拓者は温明徳から『彼』についてのその情報を聞いて、いつも以上に興奮した様子だった。
そして。
「温明徳隊長、色々ありがとう! 彼の所に行っての話とその話について聞いてくるわ、それじゃあ!」
「ほどほどになー」
パネルに表示された名前を見た開拓者は、彼を逃がさないため、駆け足でその場から立ち去ったのだった。
開拓者に手を振って彼女を見送る、その中で、温明徳は思う。
「『あいつ』も開拓者相手に、スッキリできればいいんだがね――」
『彼』について、呟くように言った。
「エイブラハム!」
「ひいっ」
彼――と同じ応物課でⅡ階級のエイブラハムは背後から開拓者に声をかけられ、思い切り嫌そうな顔をして、のけ反った。
開拓者はエイブラハムの態度を見て、不満だった。
「何よ、私に声かけられてその態度はないと思うけど?」
「いや。君、応物課に来る時は私目当てというより、目当てに来てるの分かるから……」
「あら。それ、エイブラハムも分かる?」
「丸分かりだ。どうせ、ステーションのスタッフ達の依頼の終わりに倉庫のの所まで来たんだろうけど、すれ違いで丹恒と一緒に帰ったの相手出来ず、おまけに課長の温明徳隊長にも相手を断られ、それに縁の無い暇そうな私の所まで来たんだろう?」
「わー。エイブラハム、まるで見てきたかのよう。私の事、良く分かってるじゃん」
ぱちぱち。開拓者はエイブラハムの分析の通りだったので、彼に拍手を送る。
そして。
エイブラハムは最後の一人になるまでベース部分に居残っていて、開拓者はその彼を興味深そうに見詰めて聞いた。
「というかエイブラハム、アンタも応物課の勤務時間終わってるんだよね、それでまだ何で、ベース部分に居るの?」
「……」
「それだけじゃなくて、温明徳隊長からもだけど、同じ応物課でⅡ階級のスタッフ達ももうすでに居住区に帰ってる中で、アンタだけ最後まで――消灯時間まで此処に居座ってるって聞いたけど。なんかあるの?」
「……」
「それで温明徳隊長、課長の義務で最後まで居残ってるアンタと自動的に一緒に帰る羽目になるって嘆いてたよ」
「……」
エイブラハムは開拓者相手に沈黙を貫くが――。
「はっ、まさか、エイブラハム、温明徳隊長にホの字で、彼の気を引くために最後まで居残り――」
「――なわけあるか! それだけは有り得ない、心の底から思い切り否定するわ!」
きゃー。余計な妄想をして一人で盛り上がる開拓者と、いつにない大声を出してそれについては完全に否定するエイブラハムと。
「それじゃあ何でそんな時間まで、居残ってるのさ。私、温明徳隊長からエイブラハムにそれについて聞いてくれというのも頼まれたんだけどさー」
「……、本当に温明徳隊長が君にそんな依頼出したのか?」
「さあ、どうかな」
「……」
しばらく、睨み合いが続いた。
エイブラハムは開拓者の話に疑いを持つも、彼は自分が何をやっても開拓者に適わないという現実を知っているし、それと決めれば彼女が一歩も引かない性格であるのも知っている。
はぁ。溜息が聞こえた。エイブラハムだった。
エイブラハムは観念したよう、開拓者にそのわけを話した。
「開拓者に打ち明けるとだな、情けない話だが、私は一人で居住区まで帰れないんだ」
「え、何で、一人で居住区に帰れない――ああ、ひょっとして、過去のトラウマのせい?」
開拓者は、エイブラハムが過去にステーション内で、現在の応物課ではなく、アーランの防衛課に属していた時、外部の侵入者の襲撃にあい、その最前線、目の前で友人をやられたという話を聞いていて、それに思い当たった。
エイブラハムはうなずき、続ける。
「スタッフの居住区内に帰るには一度、中央エレベーターを使って収容部分に降りる必要があってね。その道中、警報が鳴って再び、星核ハンターや反レギオン軍、それ以外の外部の侵入者に襲われたらと思うと震えて、誰かと一緒じゃないと帰れなくなってしまってそれで……」
「はぁ。それで、応物課の中ではアンタと一緒に帰ってくれるスタッフ、居なかったの?」
「……」
エイブラハムは開拓者から顔を逸らし、答えない。
開拓者は呆れた様子で、ズバリと言った。
「そのアンタに最後まで付き合ってくれるの、応物課では課長の温明徳隊長だけだったわけね」
「まあ、それ狙いで、消灯時間まで居残ってるってのは否定しない。課長である温明徳隊長であれば義務で、部下の一人が帰る最後まで居残る必要があるから……」
「それ、温明徳隊長に打ち明けてる?」
「そこまで話してないけど、あの人の事だからどうせ、私の魂胆を見抜いて、察してると思う」
「へえ。それで温明徳隊長、何も言わず、アンタに付き合ってくれてるんだ。良い課長じゃん」
「おかげで、温明徳隊長に逆らえないんだ。この間の奇物回収も私は相手するの嫌だったけど、温明徳隊長と組んで回収に行く羽目になった」
「はは。それは仕方ないよ」
エイブラハムはそれにうんざりした様子だったが、開拓者は遠慮なく笑った。
そして。
「そういうわけで最後まで居残ってるのであれば、エイブラハムで丁度良かったわ」
「何? で何かあったのかい?」
エイブラハムは開拓者は自分ではなく、に関して聞きたい話があるのだろうと察する。
「実は、最初の頃、エイブラハムと温明徳隊長が話してくれたのイジメの件について、その詳細が知りたくてさー」
開拓者はここで、エイブラハムにのイジメの件について聞けたのだった。
「、最初の頃、本当に女性スタッフ達からイジメられてたの?」
「そうだね。そののイジメの話は事実だ。あれ、でもそれ、本人か、丹恒からそれについて、聞いてないの?」
「いやー、色々あって、二人にそれ聞くタイミング逃しちゃって。そのイジメも事実かどうかも分からなかったから、が不在の今が丁度良くて、温明徳隊長に掛け合ったんだけど、今夜は課長同士が集まる会合の準備で忙しいって言われちゃってさ」
「そういや今夜は、課長同士の会合の日だったな。それがあっても丹恒と早く帰ったのか……」
ふぅ。エイブラハムは開拓者で温明徳の課長同士の会合があると知って、更にはそれでがいつもより早く帰ったのだと分かって残念そうに、溜息を吐いた。
開拓者は、エイブラハムのそれを見逃さず、目を光らせる。
「何? エイブラハム、まさか、と何かあった?」
「いやいや。私とは、別に何も無いって。私は、彼女の同僚の中では良好な関係を築いている、と、思うよ」
「それならいいけど。まあ、と何かあった場合、よりもアンタの方が泣かされてるの分かるから」
「……」
だけで開拓者に睨まれ焦るエイブラハムだったが、開拓者はと何かあればよりも相手を心配する側であった。
開拓者はそれから、エイブラハムにすり寄る。
「で、消灯時間までまだ時間あるよね。それまで、のイジメについての話、聞きたいんだけど。お願い~」
「分かった、分かった。君に捕まれば逃げられないの分かってるから、そこの誰も使ってない応物課のセーフティールームで話すよ」
「ありがとう! やっぱ、エイブラハムだわ。エイブラハムに何かあれば、この宇宙では最強の銀河打者に頼っていいし、優先的に応じるから!」
「調子いいな、本当。いやでも、本当に宇宙最強の開拓者がついてくれると思えば、これ以上に心強い話はないね」
わー。のイジメについての話をしてくれるのが分かった開拓者は、エイブラハムの手を取って嬉しそうだった。
エイブラハムはそんな開拓者に笑って、応じたという。
ヘルタ・ステーション、応物課のセーフティールームにて。
そして、エイブラハムは語る。
君が――開拓者が現れるまで、イジメの話だけじゃなくて、彼女について面白い話が色々あるんだ。そうだね、各課が力をあわせて合同訓練を行うようになったのも、彼女のその話の一つだった。
そうそう、君、彼女のイジメの件が知りたかったんだよな。
それを語るには、彼女がこのヘルタ・ステーションに最初に現れた時の話まで戻らなくてはいけない。
彼女は最初、アスター所長代理に連れられて、応物課のスタッフ達が集まるベース部分に現れたんだ。
彼女を一目見て課長の温明徳隊長をはじめ、応物課のスタッフ達は――特に男性達は静まり返り、女性達もひそひそ、ざわついてた。
それというのも、彼女の魅力的な容姿のせいだ。透き通った白い肌、腰まであるシルクのような黄金の髪はポニーテールにまとめ、空を映したような空色の瞳、ドレス着て黙って立っていればまさしく人形のような美しさだった。
応物課のベース部分の外では、そんな彼女を一目見ようと、ほかの課の男性スタッフ達も集まっていた。ああ、君の予想通り、その中に界種課のカポーティーさんもいたな。
『この子、私の知り合いの大事な娘さんなの。皆、よろしくね~』
『です。よろしくお願いします』
アスター所長代理は彼女については『知り合いの大事な娘』というのを強調して、紹介した。
彼女もアスター所長代理に次いでスタッフの前で深く一礼し、姿勢を正し、微笑んだ。それだけで――その洗練された作法だけで彼女は上流階級の貴族出身と分かり、どこかの令嬢であるのを示すには十分だった。
『皆、で何かあれば、私かヘルタまで連絡ちょうだいね。彼女に何かあれば、大変だから』
アスター所長代理は最後、念を押すよう、話した。
途端、だった。
『うわ。ヘルタには確かに金に物を言わせて入ってきたコネまみれのお嬢様は多いけど、その中でもアスター所長代理が自らあそこまで言うのは、相当だぞ。アスター所長代理も大概だが、彼女はアスター所長代理と同格、いや、それ以上のお嬢様とみていいかもしれない』
『えー、それってやばくない? アスター所長代理と同格かそれ以上のお嬢様が何でヘルタに来たの? そうなら、ヘルタ以外でも受け入れてくれる大企業あるでしょうに』
彼女の洗練された作法とアスター所長代理の最後の念押しで、彼女がアスター所長代理と同じような規格外のお嬢様なのかと、スタッフ達がざわつく。
『はいはい、彼女の詮索はそこまで。皆、仕事に戻ってね。さぼれば、容赦しないから~』
『……』
アスター所長代理の音頭で、彼女に関するざわつきは治まり、スタッフ達はそれぞれの持ち場へと戻った。
そうだ。アスター所長代理はその可愛らしい見た目と、のんびりした口調から、初見ではヘルタさんよりは親しみやすいと思われがちだが、実は、ヘルタさん以上に厳しいというのは、ステーションスタッフ一同に認知されている事柄である。彼女の意に反した行いをすれば、あっさり、何の温情もなく、その場から切り捨てられるのを何度か見ているせいでね。
お、君も私のその意見に同意? はは、それは良かった。ヘルタ・ステーションはトップのヘルタさんより、アスター所長代理こそが裏ボス的存在だよなぁ。あ、この内容は君のとこでも記録しないで、お願い!
それ以降の話だ。彼女が相当なお嬢様で手を出してはいけない人物であると分かっていても、その異次元な美しさに男性スタッフ達はすぐに虜になり、何も用事がなくても彼女が担当する倉庫に出かけては彼女を誘っていくのが後を絶たなかった。更に、彼女持ちや奥さんが居る男でも、すれ違うだけでも彼女に目がいくものだから、女性スタッフ達はそれに怒って彼女を締め出し、孤立させてた。
彼女はしかし、それを物ともせずに倉庫で黙々と仕事をこなしてたんだ。まあ、倉庫に居る間の彼女はほかのスタッフと接触しないからもともと一人なんだけど。その中でも女性スタッフから嫌味を言われても言い返さずに澄ました感じで反抗せず、それが更に女性スタッフの癪に障ったのか孤立を深める始末だった。多分、アスター所長代理も彼女があまり他人と上手くやれる人間ではないと見抜いて、そこに担当したのかもしれないというのが温明徳隊長の見立てだ。これには応物課のほかのスタッフ達も納得していたよ。
あるとき、事件が起きた。
倉庫に行く前に着替えるために女子専用のロッカールームに入れば、ロッカーにあった彼女の制服がハサミでズタズタに切り裂かれて、それ以外の私物――カバンや化粧ポーチも水をかけられて駄目にされてたとか。誰の仕業か分からない。
彼女はロッカーを開けてそれを見て悲鳴を上げる事も、騒ぐ事もなく、落ち着いた様子で、そのズタズタに切り裂かれた制服、水浸しのロッカーを見詰めていたらしい。
『、どうしたの』
『これ……』
『ぎゃー! 何これ。さすがに酷くない?』
彼女の異変に気が付いた女性スタッフが声をかけ、切り裂かれた制服と水浸しのロッカー内を見た途端、外に聞こえるくらいの悲鳴を上げた。
『何、どうしたの? 虫でも出た?』
『ねえ皆、こっち来てよ。が大変!』
『きゃー、誰がこんな事したの!?』
それはそれは酷いもので、これにはほかの女性スタッフ達も驚きを隠せなかったようで、あちこちから悲鳴が上がった。
『誰か、手の空いてる男のスタッフ呼んできて!』
それから女性スタッフ達は慌てて、別室のロッカーを使っていた男性スタッフを呼んだ。
普段はそこまでしないが、彼らを女子専用のロッカー内に入れ、彼らも彼女のそれを見て、
『うわ。さすがに、そこまでするか? これ、イジメとか軽いもので扱わず、傷害事件で扱って間違いないぞ』
思い切り、引いてたな。
その間、誰かが課長の温明徳隊長も呼んで、その人も彼女のそれを見て、
『マジかー。応物課の歴史でもここまでの事件、なかったぞ』
頭を抱えていたらしい。
『ロッカー内を写真保存、現物はなるべくそのまま保存しといて!』
『以外でほかにも異変があれば、報告!』
男性スタッフ達はテキパキと、女性スタッフ達に指示を飛ばす。
その中で。
『温明徳さん、これ、アスター所長代理だけじゃなく、ヘルタさんにも報告した方がいいですよ!』
『そ、そうだな。さすがにここまでの仕業は、甘い処分にしてはいけない。課長の私からヘルタに証拠物を提出して、その内容を伝えておくよ。は今日はもう仕事にならないだろう、部屋に戻った方が――あれ、、どこいった?』
これには課長の温明徳隊長もヘルタさんに報告しなければいけない緊急事案であると思い、彼女を気遣うように言ったが、肝心の彼女はそこから姿を消してた。
おまけに。
『もそうだけど、さっきまでそこあった証拠品はどこ?』
『え? あれ、ほんとだ、今までそこに切り裂かれた制服あったのになくなってる。何で?』
この数分の間に彼女自身も、ズタズタに切り裂かれた彼女の制服も、忽然と消えていた。
その現状に、ある一人のスタッフが呟いた。
『まさか、私達の中に犯人が混ざってて、も証拠品も、そいつに連れて行かれたとか?』
『おいおい、怖い事言うなよ。誰か、にメッセージ送った?』
青ざめる温明徳さんの提案に応じるのは、彼女と同じⅡ階級の女性スタッフだった。
『あの子に何回かメッセージ送ってるけど、返事ないですね』
『え、それじゃあ、本当に犯人の手でどこかに連れ去られたのか? そうなら、課長の私も大変だぞ!』
『いや。あの子、本当に誰よりも返信遅いんですよ。朝に送ったのに昼に返信くるとか、夜に送ったのに朝に返信くるとか、しょっちゅうです。何でも、端末の文字打ちに手間取るのでメッセージ苦手だって話してました』
『そういや、私が配信してる応物課のグループメッセージも彼女だけ返信遅かったな。ああそうだ、がアスター所長代理の判断で倉庫担当になった初めの頃、簡単なパネル操作でもたついて動かなくなって、壊れたどうしようって、私に泣きついてきたんだった』
『それ、どうしたんですか』
『私はそれくらいで泣きつくのはどうかと思ったが、アスター所長代理の顔に免じて欲しいっていう彼女の必死さに応じるよう、ネットエンジニアのレオナード紹介したら、彼に突撃していって、彼のおかげで修復できたとか。いや、まさか、本当にネットエンジニアのレオナードの所に行くとは思わなかったよ、ははは』
『笑いごとですか、それ。もう、男は皆、彼女に甘いんだから。課長である温明徳さんは、彼女にハッキリしないと駄目ですよ。いくら彼女が一番の美人だからって』
『いや、私は彼女がそこまで行動力があるとは思わずで……』
その時の温明徳隊長は、ほかの男性スタッフと同じように彼女に虜になっていたわけじゃなく、単純に面白い子だなと思って接していたらしく、女性スタッフの彼女に対する不満を聞いて苦笑するだけだったという。
それから、しばらくして。
『ただいまー』
『! アンタ、どこ行ってたの。皆で心配してたんだから!』
数分後、彼女が応物課に戻ってきて、心配していた女性スタッフ達が彼女を取り囲む。
彼女はそれが何でもない風に言った。
『ええと、私、温明徳課長を通しての手続きだと時間かかって面倒だと思ったから、自分でヘルタの部屋まで行って、彼女に証拠品提出して犯人見つけてくれって、直談判してきたの』
『は?』
『そのあと、アスターにもちゃんと報告したわ。自分でヘルタとアスターに証拠類提出して適切に対応してもらったので、心配なさらずに。ヘルタによればロッカールームの入出時の記録を録画保存してるので、すぐに犯人分かるだろうって話してた』
『ちょっと待って。、アンタ、入りたてで、私達と同じ、まだなんの実績もないⅡ階級だったよね。それで、アスター所長代理だけじゃなく、ヘルタさんに直接物が言えるの?』
『別に普通にヘルタ相手でも、物が言えるわよ。ヘルタも私を追い払う事なく、対応してくれたけど。それが何か?』
『……』
それの何が問題なのか分かってない風の彼女と、彼女の仕業に何も言えない女性スタッフ達と。
『まあ、今回の件がアスター所長代理だけじゃなく、ヘルタにもそれがちゃんと伝わって対応してもらって、それにも納得しているのであれば、私の出番はないな。はは』
彼女の行動力に温明徳隊長も肩透かしを食らったよう、参った様子だった。
『とりあえず、が無事で良かった。この件は、ヘルタで犯人分かるまで保留で。ほかの皆ももう仕事に戻っていいぞ。はもう、部屋で休んだ方がいいな』
『はい。アスターから新しい制服が届くのに数日かかるとあったので、しばらく、休みます』
ここは温明徳隊長の合図で、スタッフ達は何かモヤモヤしたものを抱えつつも仕事に戻り、彼女は新しい制服が届くまで休業扱いになったのだった。
ヘルタ・ステーションでは階級が物を言うのは、君も知ってるだろう。
当時、ヘルタさんに直接物が言えるのは課長クラスか師匠クラス、あるいは、実績を残しているⅣ階級に限定されてたんだ。ヘルタさんに直接会って話しかけても、実績が足りないⅡ階級やⅢ階級は無視される始末でね。格下がどうしてもヘルタさんに伝えたい事があるのなら課長を通してというのが、基本だった。
犯人? 彼女に彼氏取られたと思い込んでたほかの課の女性スタッフの仕業だったらしい。犯人の女性スタッフは、それから数日後にヘルタ・ステーションを去って行ったようだ。
まあ、それ以外も女性スタッフ達で彼女が標的にされたイジメが何件かあったんだけどさ、彼女はそれらを誰にも相談せずに自分一人だけの力で解決していった。恐らく、彼女は新入りであるのに関わらず知り合いのアスター所長代理だけじゃなく、ヘルタさんに面と向かって物が言えるというのが大きいのだと思う。彼女が原因で泣きながらステーションを去って行ったスタッフが男女問わず何人か居るとか、そういう噂も囁かれてたくらいだった。
そこから一か月も経たないうち、彼女に障らない方がいいという評判がステーション内に広まり、再び、別の意味で孤立してしまった。
応物課の課長の温明徳隊長は、彼女が心身ともに強い女性だと分かっていてもこのままではよくないと思ったようで、私も含めた新入り歓迎会を今更になって開催すると言って、そうでもステーションでは酒や食事に制限あって楽しめないので姫子さんの星穹列車を使って近場の星に降りて、応物課のスタッフ総出で居酒屋で歓迎会を開催したわけだよ。
そこでまた愉快な話があってさ。そうそう、君も知っての通り、そこで彼女の細い体で大食いである事と、大酒飲みである事が発覚して、それに驚くスタッフ達を前にして、『まだまだいけるわ~』と、いつもの冷たい雰囲気はなくて、上機嫌だった。
そこでは普段から自分は酒豪であると豪語していた男性スタッフ達は彼女に勝負を挑むもあっさり撃沈、温明徳隊長もそれに付き合わされて早々にダウン、因みに私もあっさり倒れた組で、次々と男達が倒れる中で平然と酒を飲み続ける彼女を見て、酒が飲めないスタッフやそこまで酒が得意じゃないスタッフは感動し、拍手を送っていたとか。
居酒屋の店員達も、大人しそうな見た目に反して彼女の豪快な飲みっぷりに感動し虜になり、裏では誰が彼女に注文を取りにいくかで、争奪戦が起きていたらしい。
と。
『この店に、が居ると聞いたんだが』
『!』
で、その彼女の前に現れたのが、ステーションで時々、防衛課と一緒に見回りしてくれる星穹列車のナナシビトで護衛としてすでに有名な丹恒だった。
当時の丹恒は、星穹列車だけじゃなくステーションでも最強戦士と認められておまけに一番のイケメンだったので、女性スタッフ達の間で凄く人気あったんだ。星穹列車が停泊するのが分かれば丹恒目当てに女性スタッフが周囲に集まるくらいに。
『きゃー、星穹列車のナナシビトで護衛の丹恒さんじゃない!』
『丹恒さん、初めてナマで見た! 評判通り、めちゃくちゃカッコイイ! 素敵!』
『でも何で星穹列車のナナシビトがこの星まで来てるの? この星、何かあったっけ?』
その丹恒が居酒屋のドアを開けた途端、今まで酒が飲めなかったスタッフ、及び、ほどほどに飲んでいたスタッフ達がざわつく。
その丹恒はそのざわつきを物ともせず、真っ先に彼女の座るテーブルの前まで来ると、倒れている男達を見回して、更にその中に課長の温明徳隊長も居るのを知って、呆れた様子で言った。
『お前、飲み会で飲むのはいい、男を相手にするのもいいが、応物課の課長の温明徳すら倒れるほど飲ませるとは、どういうわけだ』
『あー。温明徳課長、お酒で私に付き合うのは止めといた方がいいって言ったんだけど、何か知らないけど勝手に私に挑んで勝手に倒れただけだよ』
『それ、課長の責任感でお前に付き合った結果じゃないのか。この場は、部下のお前が遠慮して引き下がるのが正解だと思うが』
『えー。久し振りのマトモな食事とお酒でまだ飲み足りないし、何でこの私がそれくらいで我慢しなくちゃいけないのよぉ』
『ばかだろ、ここではそれ通用せんぞ。お前、ヘルタとアスターから、ステーションで浮世離れしてるせいか、スタッフの間で腫物扱いされて孤立してると聞いたが。この飲み会も、それ心配した温明徳の仕業だってな』
『ふん。向こうが勝手に私を敵対視してるだけじゃないの。私、何もしてないんだけど』
『全く。世界が違えば文化や風習も違うというの、教育する必要があったか……』
『何よぉ、私が全部悪いの? 丹恒は私を一番に考えるって言ってくれてたのに、私以外につくんだ、へえ?』
『お前が全部悪いと言ってるわけじゃないし、お前を一番に考えてるからこその話だろうが。というかお前、グラスの数と酒瓶見るに、規定量超えて飲み過ぎで判断鈍ってるな。迎えに来て正解だったか。帰るぞ』
『やだー、まだ飲み足りない~、朝まで残る~』
『帰るぞ。これ以上、そこで倒れてる温明徳も付き合いきれんだろ』
『ちょっとぉ、私の次のお酒まだ? さっさと持ってきて!』
『酒はもういい。おい、ここで課長の温明徳の次に実権持ってるスタッフ、誰だ?』
ダンッ。彼女は酔いの勢いに任せて店員にそれを請求するも、丹恒は彼女に酒を運ぶ店員を制して冷静に辺りを見回し、酒が飲めなくてとか、まだ酔っていないスタッフの顔を見回してそれを聞いた。
温明徳さんの次の権限というわけではないが、Ⅲ階級の女性スタッフがおずおずと手をあげた。
『あ、あの、多分、この中で課長の温明徳さんに物が言えるの、私ですけど……』
『彼女、俺が引き取って星穹列車に帰らせる。それから、彼女のぶんの支払いは星穹列車、ナナシビトの丹恒あてに請求してくれ。それ、温明徳課長の目が覚めたら伝えておいてくれるか』
『あの、その、ヘルタ・ステーションのスタッフの私達でも、あなたが星穹列車の有名人、ナナシビトで護衛の丹恒さんであるとは知ってるんですけど、彼女とはどういう関係で?』
『何だ、俺と彼女の関係、聞いてないのか』
『全然……』
周りのスタッフ達だけではなく、居酒屋の店員達も興味があるようで丹恒の回答を待つ。
丹恒は周りの雰囲気を知ってか知らずか――、
『これは、俺の女だ』
『――』
簡潔でハッキリとした一言に、場が静まり返ったらしい。
丹恒はそれを気にせず、眠たくなったのか、机に伏せている彼女の肩を叩く。
『眠い~、もう寝る~』
『やはり、限界きたか。列車まで一緒に帰るぞ』
『帰るなら、おんぶ~』
『はいはい、おんぶね』
彼女は丹恒の姿を見てほっとしていたのだろうか、もう動けなくなったようだ。丹恒はその彼女の要望を聞き入れるように慣れた様子で彼女を背負い、そして。
『それじゃ、後、よろしく』
彼女を背負った状態で居酒屋を出ていき、そのドアを閉めた。
途端、だった。
その様子を見守っていた女性スタッフ達から『きゃーっ』と、耳を塞いでも聞こえるような悲鳴が上がり、店員達も色めき立ち、その興奮は朝まで続いたとか――。
その翌日、彼女は丹恒を連れて応物課の前まで現れ、二人揃って朝まで倒れていた温明徳隊長に迷惑かけた事を謝り、ほかのスタッフ達にもちゃんと二人の関係を説明し、納得してもらったようだった。
中でも。
『あれ、君達、本当に恋人として付き合ってたの? 私はてっきり、丹恒に憧れたの妄想かと……』
温明徳隊長は彼女から丹恒との関係を事前に知っていたようだが、ほかのスタッフと同じよう、彼女と丹恒が二人揃って現れるまでその関係が信じられず、それをナマで見て驚きを隠せなかったようだ。
それ以降、応物課以外の男性スタッフ達も最強戦士の丹恒に目をつけられるのを嫌がって彼女を誘うのを止め、女性スタッフもいくら人気あっても扱いが気難しいと評判だった丹恒と付き合う彼女に感心と注目を集め、それ以降、彼女もやっと女性スタッフ達と普通に話せるようになったという。
で、その中で、界種課のⅣ階級のカポーティーさん、知ってるでしょ。
そのカポーティーさん、同じ界種課で部下の一人で彼に対して何も物が言えないラミナさんをこき使ってるっていう噂があって評判悪いんだけど、彼、家柄も文句無し、顔もスタイルも良くて女性スタッフ達の間で人気あって、ヘルタさんも認めるほど才能ある人だから、周りは何も言えないようだった。
で、カポーティーさん、これまた君の予想通りに彼女に一目惚れしたと言って、でも周りから丹恒が付いてるから止めた方がいいって言われても諦めず、自分はいけるかもしれないと自信たっぷりに花束抱えて、スタッフの皆が見ている前でも勝ち誇ったよう、彼女に突撃していったんだけど、彼女、そんなカポーティーさんを前にして、
『――ごめんなさい。私、恋人として付き合ってる人が居るの。星穹列車のナナシビトで護衛の丹恒って知ってるでしょ、その人よ』
そう、ハッキリと断った。
それだけじゃなくて。
『それからあなた、私の趣味じゃないから、これ以上に来られても困るんだよね。それでもこの私を相手にしたいなら、私が認める丹恒より上の男になってから出直してくれる? 今のあなたではそうね、応物課の温明徳課長はもちろん、そこの女性スタッフの足元にも及ばないわよ。さようなら』
笑顔で言い放ち、次にはもう花束抱えて呆然とするカポーティーさんを無視して颯爽とその場を立ち去ったとか。
うわあ、相手になるには丹恒以上の男になってから出直してなんて、カポーティーさんにそれが出来るわけないの分かって、酷い振り方だな? 君、酷いというわりにその顔、笑ってないか。かくいう私も笑いを堪えるのに必死だけど。
でもカポーティーさん、それで負けるような男じゃなくてさ、これで反対に彼女に心酔して姫扱いするようになって言いなりになり、彼女も彼に姫扱いされるのは悪くないようでそのままにしてるとか。
カポーティーさん、色々思うとこあるけど、こういうとこ、さすが、Ⅳ階級までなった才能ある人だというのは認めるよ。そこまでの向上心と野心がなければⅣ階級までいけないし、ヘルタさんにもついていけないからね。
ついでに、周りでその様子見ていた女性スタッフ達――ラミナさんも彼女がいうその女性スタッフが自分であるのが分かって彼女の強さを知って、カポーティーさんから離れて、彼女の居る応物課に異動したいと志願書出したとか。あ、因みにその場にカポーティーさんのファンだった温世玲もいてその現場を目撃、そこから、彼女の信者になって、お姉さま呼びするようになったようだ。
そもそも、だ。彼女は最初から丹恒一筋で、最初に男達の誘いがあっても自分には丹恒が居るからとハッキリ断って、誰も相手にしなかったと聞いている。
そうでも男達は本当にあの星穹列車のナナシビトの護衛として有名な丹恒と付き合ってるのか、どこかの情報で丹恒を知って目をつけて彼と付き合いたいと思っている彼女の妄想じゃないのかと疑い、二人の関係をその目で見るまで信じられなかったらしい。
それもあって、一部の男達が彼女と接しただけで自分に気があると思い込み、その男と付き合ってる女性スタッフが彼女を目の敵にしていたとか――。
現在、ヘルタ・ステーション、応物課のセーフティールームにて。
「それが君の知りたかった彼女――最初の方であった、のイジメについての全容だね」
「はぇー。制服がズタズタに切り裂かれても、ロッカーが水浸しになっても、落ち着いて一人でヘルタの所に突撃していったとは、さすがだわ」
開拓者はようやくにしてのイジメの件を知れて、彼女の行動力に感心した様子だった。
「おまけに、犯人の方を追い出すとは。そりゃ、丹恒もステーションにを一人で残して問題無いって判断するわな」
それから、丹恒がをステーションに一人で置いて問題無いと判断し、開拓の旅に出かけられるのも、納得した。
その間、エイブラハムは自販機の前に立ち、ドリンクを二人ぶん、購入。
「の強さは、私も見習いたいくらいだよ。君も飲むかい?」
「ありがとう。遠慮なく」
開拓者はエイブラハムからドリンクを受け取り、口にする。
そして、エイブラハムの魂胆に気が付いた。
「アンタが自分だけじゃなく私にもドリンク買ったって事は、の話でまだ続きあったりする?」
「まあね。その後日談というか、これ以上に面白い話があってさ。どうする?」
「ぜひ、聞かせてください」
「うむ。私も反応がいい君に、の話を聴かせるのが癖になってきたよ」
エイブラハムは素直な開拓者に笑って、ドリンクを飲んだ後、その続きを語り始めた――。