翌日。
「、来たよー」
「やっほー」
約束通り、仕事終わり、応物課の倉庫にて、開拓者と『なのか』の二人がやって来た。因みにサンデーは別に興味無いらしく、ほかの仕事に出かけている。
更に、その場には。
「あれ、噂のエイブラハムも居るじゃん。これからアンタに会いに行こうと思ってたけど、その手間が省けたわ」
「いつもベース部分に居るエイブラハムが倉庫まで来てるなんて珍しいね、やっぱ、丹恒と隠れてと何かあんの?」
「ええと……」
倉庫には開拓者と『なのか』だけではなく、噂のエイブラハムの存在もあった。エイブラハムはニヤニヤ笑う女子二人に囲まれ、居心地悪そうにしている。
「お待たせ―。あ、開拓者、なのか、いらっしゃい」
少し遅れて、仕事終わりのも倉庫から出て来た。
そしては開拓者と『なのか』の次にエイブラハムに狙いを定め、言った。
「私、これからエイブラハムと一緒に収容部分に降りて、居住区の自分の部屋まで帰るんだけど、開拓者となのかも一緒についてきてくれる?」
「いいけど。丹恒が不在の時に限ってエイブラハムと居住区の自分の部屋まで一緒に帰るって、やっぱ、とエイブラハムって、丹恒に言えないような、ただならぬ関係だったの?」
きゃー。『なのか』は興奮した様子で、開拓者と抱き合う。
「だから、この件については丹恒も知ってるって。ほら、これ、今、レオナードが構築してくれた私と丹恒の二人専用の生配信で、ヤリーロ・Ⅵのベロブルグに居る丹恒と繋がってるから」
はい。は『なのか』の仕業に笑いながら、手持ちの端末で丹恒と繋がってる証拠を『なのか』と開拓者に示した。
「あ、ほんとだ。ベロブルグの雪原でよく見かける、雪原専用のテントが映ってる」
の端末の画面にある映像には、ベロブルグの雪原に設置されているだろうテントの中が映っている。
「丹恒、今、大丈夫?」
『ペラやその他の調査員と予定通りに進行、現在、休憩中だ。問題ない』
「わ、わ! テントの中に居る丹恒が見えて、丹恒のナマの声が聞こえてきた! ほんとに遠く離れた丹恒と遅延無く繋がってるんだ、うわー」
「ねえ、レオナードの技術、何気に凄くない? さすが、ネットエンジニア!」
が端末の映像に呼びかければ丹恒の顔が映り、そのナマの声も聞こえてきた。それが分かった『なのか』は素直に驚き、開拓者もレオナードの技術に感心を寄せる。
「私の方は仕事終わって、エイブラハムと部屋に帰る最中だよー」
『そうか。エイブラハム、いつもの任務、任せた』
「……了解。今回ほどやりづらいのは、ないけど」
は丹恒に自分の状況を報告、丹恒も了解したうえで近くに居るエイブラハムに任せると言って、エイブラハムは開拓者と『なのか』に挟まれた状況に震えて胃を抑えるも、丹恒にはきちんと返事をしている。
と丹恒、エイブラハムの三人のやり取りを聞いていた開拓者は不思議そうに、その関係性を聞いた。
「どういうわけ? はともかく、丹恒とエイブラハム、そこまで仲良かったっけ? 昨日も丹恒とエイブラハムの関係性について聞こうとした時、温明徳隊長が来て、それについて聞けなかった。今、聞いても?」
「それね。丹恒、自分が開拓の旅や任務で不在の間、倉庫の仕事やってる間はいいけど、私が一人きりになってステーションの居住区にある自分の部屋に帰るその間に何かあったらよくない、それ不安だからって、エイブラハムに自分の代わりに私の護衛役やってくれないかって頼んでくれたんだよね」
「えー。エイブラハムが丹恒の代わりの護衛役って、ほんとにぃ? エイブラハム、その弱腰でちゃんとを守れてんの?」
開拓者だけではなく『なのか』も、今でも自分と開拓者に挟まれただけで震えて泣きそうなエイブラハムを見て、その疑いを持つ。
と。
『三月、エイブラハムをあなどるなよ。そいつ、元でもアーランの防衛課出身だからな。しかもその時は、アーラン、それから、アスターの実力試験をトップで通過しての採用だった。それは、の護衛役として申し分ない経歴だ』
「あ、そうだった。エイブラハムはトラウマで防衛課を辞めても、その実力を買われて応物課の温明徳隊長率いる討伐隊に異動できたんだっけ」
開拓者は丹恒でエイブラハムの元の経歴を思い出し、改めて、彼を見詰める。
も丹恒に続いて、エイブラハムを自慢そうに語る。
「丹恒の言う通りで、エイブラハム、けっこう経歴凄いのよね~。丹恒によればアーランの防衛課って、ヘルタの中では最難関でエリートクラス、受かるだけでも仙舟の景元将軍様率いる雲騎軍に入隊できるほどの実力持ってるとかで」
「えー。アーランの防衛課って、そこまでのものだったの? でも普段はエイブラハムは、同じ応物課の温世斉や温世玲にバカにされてるって話してたじゃない」
「それ、私と同じで、嫉妬からじゃないの? アイテム系の知識はそれは彼らに敵わないけど、力関係でいえばアーランに認められてるぶん、エイブラハムの方が実力は上でしょ。多分、温世斉がエイブラハムに手を出せば、エイブラハムより温世斉の方が泣かされると思うわ」
「、それ、あまり大声で皆の前で言わないでくれよ。もうベース部分で、誰が聞いてるか分からないから……」
倉庫から出てベース部分に入ったのでエイブラハムは、そこにまだ居るかもしれない温世斉と温世玲に聞かれていたら面倒だとそれに怯えて、に控えるように話した。
「あら。もっと堂々としていればいいのに。その実力はアーランだけじゃなくて、私を任せてもいいって言ってくれた丹恒にも認められてるんだから」
『うむ。俺が不在でが一人の時は、エイブラハムにを任せて大丈夫だと思ってるからな。お前の力があれば、俺も安心して旅を続けられる』
「いやだから、私はそこまでじゃないって。友人も守れなかった情けない男には違いないのに……」
だけではなく丹恒に言われたエイブラハムは、顔を両手で覆い、震える始末だった。
エイブラハムはそれから話題を逸らそうと、映像に映る丹恒と話しを続ける。
「ええと、丹恒、今回の遠征先はどこだい? そこ、ヤリーロ・Ⅵのベロブルグの雪原っぽいけど」
『正解。今回、ヤリーロ・Ⅵはベロブルグの博物館の学芸員達と一緒に、雪原地帯を周る予定だ』
「あの、それじゃあ、ベロブルグの博物館の売店に目をつけてた書籍があるんだけど、注文していいかな」
『了解。後で俺あてにリスト、送っておいてくれ』
「ありがとう。Ⅱ階級の私ではまだ開拓途中のベロブルグに行けなくて、ネットショップでも取り扱ってなくて、入手困難な品だったんだ。届くのが楽しみだ」
エイブラハムは丹恒が自分の注文を受け付けてくれたのが分かって、さっきと変わって、浮かれた気分でいた。
丹恒とエイブラハムの関係――それが知りたかった開拓者は早速、に回答を求める。
「?」
「そうそう、丹恒とエイブラハムの関係、これも開拓者が知りたがってた話のうちね。丹恒はエイブラハムが私の護衛を引き受けてくれる代わり、彼にその土地でしか買えないものがあれば注文を引き受けるようになったのよ。彼の場合、私みたいに食べ物やお酒じゃなくて、書籍が殆どだけど。
そうでもエイブラハムは最初、丹恒のそれに遠慮してたんだけど、ある時、自分の欲しかった本がネットショップでは高くて買えなかった、けれど現地ではそれ以下の格安で買えるのを知ってね。その時に丁度、丹恒の遠征先がそれ扱ってる所で、その本手に入れられないかって聞けば翌日にはもうその安い方の値段で手元に届いてたとか。それに感動したエイブラハムは、それから、私の護衛を引き受ける代わり、丹恒に色々注文するようになったってわけ」
「いやー。Ⅱ階級の私では欲しかった書籍があってネットショップに頼るも割高で中々手に入らなかったものが、ナナシビトの丹恒の手にかかれば現地から格安で取り寄せられるからな。丹恒も私でが守れるので丁度良いって言ってくれてね。彼とは、お互いの利益が一致した結果だ」
「なるほど。丹恒とエイブラハムは、お互いの利害関係が一致した結果、対等に話せるようになったってわけね」
開拓者はだけではなく、エイブラハムの補足も聞いたうえで、その関係性に納得した。
しかし、それでもまだ疑問は残る。それは。
「そういやエイブラハム、の護衛を引き受けて彼女を部屋まで送っていくのはいいけど、アンタ、その過去のトラウマのせいで、温明徳隊長がついてないと一人じゃ帰れないんじゃなかった? それで、元防衛課で実力あっても、いざという時、を守れるの?」
開拓者はその件についても思い出し、エイブラハムに問い質した。
「それは――」
「――よう、エイブラハム! カワイイ子達に囲まれて、羨ましいもんだなあ」
エイブラハムが答えようとした時、受付のカウンターに居座ってる温明徳からそう囃し立てられた。
「カワイイ子ちゃん達に、自分の武勇伝を聞かせてたのかい」
「カワイイ子ちゃん達って。温明徳隊長、その言い方、完全にオジサンじゃん」
「えー、そうかな。、開拓者、三月、カワイイ子揃いには違いないだろ」
あはは。オジサン全開の温明徳に笑うのは開拓者で、開拓者に指折り数えてそう言ってのけるのは温明徳であった。
それから温明徳は急に真面目な顔になって、その中心に居るに狙いを定める。
「、今、帰りか。肝心の丹恒は、今日から任務でベロブルグって聞いたけど」
「はい。丹恒は今日から数日の間、ベロブルグなんで、その間、私の護衛はエイブラハムに任せようと――」
『――、ペラやほかの職員達から、調査報告の時間だと招集かけられた』
が課長の温明徳と話している間、通信中の丹恒の割り込みがあった。
「あ、忙しい中、引き留めてごめんね。ここで温明徳課長も合流できたから、もう大丈夫だよー」
『うむ。エイブラハムだけじゃなく、温明徳も一緒なら安心だ。それじゃあまた後で』
ぷつん、と、丹恒の映像が切られ、画面が消えた。
それからは、横で丹恒の話を聞いていただろう、温明徳に聞いた。
「温明徳課長、私はこれからエイブラハム、開拓者、なのかの三人と一緒に居住区まで帰るんですけど、温明徳課長はこれから何か予定あります?」
「いや、特にないかな。課長同士の会合は昨夜のうちに終わったし、同僚との飲み会は居住区に帰ってからだし」
「そうですか。それなら、私達と一緒に帰ります?」
「うむ、ついでだ、私も達と一緒に帰るよ」
温明徳は言って、帰り支度を始める。
「あれ、課長は応物課の全員が帰るまで居残る義務があるんじゃなかった? のために先に帰っていいの?」
「開拓者、周りよく見て。ベース部分、私達と門番の防衛課のスタッフ以外、もう誰も居ないでしょ」
「え、あ、ほんとだ。もうそんな時間になってたのか……」
開拓者は最初、課長の義務で応物課のスタッフが帰るまで帰れないと話していたのにで帰り支度をする彼の行動が不思議だったが、周りをよく見れば確かにベース部分に居るのは自分と、なのか、エイブラハム、温明徳、それから、門を守っている防衛課のスタッフだけだった。
「私、今みたいに丹恒が不在の間は倉庫に勤務時間が終わるギリギリまでいて、それは生配信で繋がってる丹恒と話してる事が多いせいで、消灯時間間際に帰る羽目になるの。で、それまでに居残ってくれてるのがエイブラハムとそれから……」
「温明徳隊長になるわけ?」
「そういうわけ。私、丹恒が不在の時は、結局、エイブラハムと温明徳課長の三人で帰ってるのよ。まあ、丹恒側からすれば、私一人の所、エイブラハムだけじゃなくて温明徳課長もついてる方が安心だって」
「なるほどねー。それは丹恒からすれば、そこまで安心な話、ないわ」
「だね。丹恒もそれ見計らって、エイブラハムに任せたんじゃないのぉ?」
はは。開拓者と『なのか』は、丹恒の企みを知って、遠慮なく笑った。
そして。
「私、女子専用のロッカールームで着替えてくるからちょっと待ってて」
「私も着替えてくるよ」
「同じく」
はそれから女子専用のロッカールームに向かい、エイブラハムと温明徳もそれぞれ男子専用のロッカールームへ入っていった。
しばらくして、、エイブラハム、温明徳の三人が制服から私服に着替えてロッカールームから出て来た。
「あれ、、そのコート、どうしたの。列車でそんなコート着てたっけ?」
開拓者は、の私服は普段でも見慣れているキャミソールに短パンという露出度の高い格好であったが、ステーション内では丹恒と同じタイプの白いコートをはおっているのに興味を持った。因みに丹恒のような装飾品はつけていない、シンプルな白いコートである。
「あー、これね。丹恒だけじゃなくて姫子やヴェルトさんがついてる星穹列車内はいいけど、ステーション内ではいつもの露出度の高い格好は男のスタッフ達の間では刺激的過ぎるしこれが原因で襲われる危険性も捨てきれないからって、私服で自分が居ない時は、これはおっておけって、丹恒に言われてるから」
「そういうわけ。確かに、丹恒不在のステーション内で私服の時は、それはおってた方がいいわ」
うん。のキャミに短パンという露出度の高い私服は確かに男の視線を集め、それが原因で男に襲われるかもしれない危険性が高まるという丹恒の話は有り得るので、開拓者も理解する。
なのかは開拓者と違って、よりも、私服は白いシャツに赤いジャージズボンという素っ気無い格好で現れた温明徳とエイブラハムに興味を持つ。
「ウチ、と違って温明徳さんとエイブラハムの私服初めて見たけど、シャツにジャージズボンって素っ気無いなあ。それがステーションの男性スタッフの基本形なわけ?」
「そうだな、界種課のカポーティーみたいにとかほかの女性スタッフの目を気にしてブランドで固めたスーツ一式で帰るような、こだわりある奴除けば、ステーションの男スタッフの私服はだいたい、こんなもんだよ。急な来客あってもステーションの制服で事足りるし、夜は緊急事態に備えて動きやすい格好を選んだ方がいいというわけで、私は普段は無難にこれだな」
「そうなんだ。で、エイブラハムは、カポ様みたいに、気になった女の子相手にスーツ姿で現れるとかないの?」
「わ、私はカポーティーさんみたいに女性を気にする男じゃないから、温明徳隊長と同じよう、普通に動きやすい格好を選んでるだけで、それ用のスーツとか持ってないよ。日常的にも、三月さんみたいな、可愛い子から声かけられた事なんてないし」
「なんだ、つまんないの~」
はは。温明徳は肩を竦めて、エイブラハムは焦りながら、それぞれ、なのかに応じる。なのかは温明徳は納得し、エイブラハムには本当につまらなそうに応じる。
「服装ひとつだけ見ても、個性が出るもんだね」
「だねー」
、温明徳、エイブラハムのそれぞれの私服を見た『なのか』はそう総評し、開拓者も『なのか』に同意するよう、うなずいた。
ベース部分を出て中央エレベーターに乗り込み、無事、収容部分にある居住区についた。
「それじゃあ、また明日なー」
「また明日です」
Ⅱ階級のとエイブラハムと違って、課長クラスの温明徳の間では区画が違うらしい。温明徳とは先に、居住区の近くで別れた。
残った、エイブラハム、開拓者、なのかの四人は、奥にあるの部屋まで歩く、その間。
「そうそう、ここでもう一つ、最後、開拓者と『なのか』が知りたい話、教えてあげる」
「え、ウチと開拓者が知りたい最後の話って、何かあったっけ?」
「最後っていうと、エイブラハムが意外と女性スタッフの間で人気あるって話?」
『なのか』は意味が分からず不思議そうだったが、開拓者がそれに気が付いた。
「いやいや。私なんて、と同じ、イケメン好きの温世玲からバカにされているのが分かる通り、そこまで女性スタッフ達から人気ないって。もからかわないでくれよ」
ははは。エイブラハムは開拓者から自分のその評判を聞いて、笑うだけだったけれど。
「エイブラハム、髪上げてみせてよ」
「え」
「前髪。此処なら人気無いからいいでしょ。いつも隠してるとこ、開拓者達の前で見せてあげて」
「い、いや、私は人の目が怖くて髪で隠しているのであって、それを開拓者達の前であっても見せびらかすのは――うわあっ」
「えいっ☆」
エイブラハムは最初、の指示を聞いて、のけ反り、嫌がったが、それに興味を持った開拓者が彼に近付き、無理矢理、強引に、その手で彼の前髪を払った。
途端――。
「ウソ、めっちゃイケメン!!」
「イケメンじゃん!!」
「でしょ、でしょ!」
きゃー。開拓者でそれに気が付いた『なのか』は彼女と手をあわせて驚き、開拓者もそれが分かって『なのか』と手をあわせて驚いている。は二人が素直に驚く様子を見て、自慢そうに胸を張る。
「エイブラハム、普段から前髪あげてた方が絶対いいって! そっちの方が女の子にモテモテじゃん!」
「そうそう。何で隠してたの、勿体ない!」
隠していた前髪を明ければイケメン――それが分かった『なのか』と開拓者は興奮した様子で、エイブラハムに詰め寄る。
開拓者と『なのか』に挟まれて囲まれたエイブラハムは――。
「いやだから、私は人の目が怖くて、それで、あの、その、うわああ!」
「あ、逃げて、自分の部屋に帰っちゃったよ!」
それに耐えられなくなったのか、同じ応物課で同じⅡ階級というわけで、同じ通路側、の部屋の反対側にエイブラハムの部屋はあり、そこにさっさと逃げ込まれてしまった。
なのかは、エイブラハムが自分の部屋に逃げたのを見て残念そうだった。
開拓者はエイブラハムが逃げ帰った部屋のドアを見詰めて、に聞いた。
「、いつからエイブラハムのあれに気が付いてたの?」
「ふふ。私のイケメンセンサーをあなどるなかれ、ってね。丹恒が仕事で不在でエイブラハムに護衛やってもらってる時に、今みたいに現地に居る丹恒と通話してる時があって、その丹恒とのちょっとした会話で緊張したのか、彼が髪をかき上げて汗を拭う仕草を偶然見ちゃって、それからね」
「それ、と同じくイケメン好きの温世玲には……」
「言うわけないって。あの子に明かせばステーションのスタッフ全体に広まるし、それで、エイブラハムが今以上に病んだら私の責任になるから。まあ、それ以前に」
「それ以前に?」
「それ以前に私達で遊んだ方が、退屈凌ぎになるでしょ?」
「うわ、もいい性格してるよねー」
「ほんとにね!」
あははー。開拓者と『なのか』はの悪巧みを聞いて、言葉とは違って顔は笑って、彼女に拍手を贈る始末だった。
そして。
「そうだ。エイブラハム帰っちゃったし、開拓者となのか、暇なら、すぐそこの私の部屋でちょっとした女子会というか、飲み会やらない?」
「いいね。いつもは丹恒が独占してるけど、今回は私が独占できる! 絶対参加で!」
「いつもは開拓者の部屋での女子会だけど、の部屋の飲み会も楽しみなんだよね。行く、行く~」
、開拓者、なのかの三人娘は、連れ立って、の部屋に入ったのだった――。
余談。
「かんぱーい!」
は部屋で部屋着――キャミソールに短パンに着替えて、冷蔵庫に保存してあった酒缶、それから、棚にしまってあった丹恒からの土産のお菓子を持ってきて、開拓者と『なのか』の二人と一緒に、飲み会を楽しんだのだった。
因みにあまり酒が得意ではない開拓者、なのかの前には、廊下に設置されてあった自販機で買った甘いドリンクが置かれている。
女子三人が集まれば話題はスタッフの噂、列車の噂、あらゆる場所に転がっている人間の噂話ばかりで――。
一時間後――。
「すーすー……」
酒を飲み始めてカラになったところでは、寝てしまった。
「あれ、、寝ちゃった? エイブラハムの話の中でもあったけど、居酒屋で男倒せるほどお酒飲んでるから、いつも、朝までお酒飲んでるイメージあるけど、意外と弱いの?」
「休みの日とか、列車に居る間は朝まで飲んでるけど、仕事終わりはこんなもんだって、丹恒から聞いた事があった気がする。毛布、毛布……」
なのかは興味深そうに、開拓者は毛布を彼女にかけた後、それぞれ、寝ているを観察する。
「で、この、どうする? ウチらも、をこのまま放って帰るわけにもいかないでしょ」
「そうだね。丹恒にこの状態のどうすればいいか、メッセージ送ってみるか。あ、さすが、すぐに返信きた」
『なのか』は寝ていて動かないを心配し、開拓者もそれに応じるように丹恒に連絡を取ればすぐに返信があった。
「丹恒、なんて?」
「この状態で30分以上目を覚まさなければ、そのまま放って、帰っていいってさ」
「了解~。の事は、丹恒に聞くのが一番いいね。30分の間、残ってるお菓子、片付けよう」
なのかは、開拓者から丹恒の返信内容を聞いて、残っていたお菓子に手をつける。
ふと――。
「この部屋、窓がないんだね。あるのは棚と机とベッドとバスルーム、基本的なものだけ……」
開拓者は部屋を見回しそれに気が付き、呟くように話した。
「そりゃ、低級のⅡ階級の部屋だからね。エイブラハムとかほかのⅡ階級のスタッフも同じ造りだから、だけが悲惨というわけじゃないよ」
「Ⅱ階級のスタッフ達、窓がなくて、息が詰まらないかな」
「ウチではよく分からないけど、部屋全体がスクリーンになってそこでシミュレーション装置使えば外の風景も楽しめるらしいから、そこまで苦しくないんじゃないかな。それから、Ⅲ階級やⅣ階級に昇進すれば、窓付きの豪華な部屋を与えられるとか。ほら、さっき、課長の温明徳さんもやエイブラハムとは別の通路使って部屋に帰ってたでしょ、多分、あそこらへん、上級階級だけが行き来できる高級施設なんじゃないかな? そうやって階級で区別してるのは、向上心持たせるためだって、ヨウおじちゃんから聞いたけど」
「なるほど。向上心のために、下級と上級で差をつけてるってわけね。そうでも、丹恒の手で此処まで連れてこられたは、ほかのスタッフ達と同じよう、何かの手柄を立てれば昇進できるのかな?」
「さあ。ウチはそこらへん、聞いてないな。どうなんだろ。そうでもは、丹恒で星穹列車に自由に乗れてるしパムの料理も食べてるから、ほかのⅡ階級よりは待遇良いと思うけど」
「ああ、そうか。が丹恒で列車に乗れてる間は、そこまでじゃないね。それ聞けば、安心した」
開拓者は本当に安心したよう、寝ているに毛布をかけた後、その場に座った。
ふと。開拓者は、『なのか』にジッと見詰められているのに気が付いた。
「何?」
「いや。ウチ、開拓者、何でそこまでを気にしてるのか、それ、前から気になってて、いつか、それについて聞こうと思ってたんだよ。自分の家族のせいでレギオンに蹂躙された星から、丹恒の手で宇宙まで逃げてきたに同情してんの?」
「……」
「開拓者」
「それもあるけど。私、何度か、が故郷を恋しがってるの、見てるんだ」
「え、そうなの?」
「は私に気が付いてなかったけど、私はが何度かステーションや列車の車窓から宇宙を見詰めて溜息何度も吐いてるとこ目撃しててさ、のそれ見てると自分もなんか胸が苦しくなったんだ」
一息ついて、続ける。
「それ姫子に相談すればは多分、家族のやらかしのせいで自分の故郷に帰りたいと思っても帰れない、そこが恋しくなっても窓から見えるのは暗くて冷たい宇宙空間だけ、それで溜息ばかりで、自分がそのの負の感情に共感して同じように胸が苦しくなったんじゃないかって、返答があった。
私は姫子のそれ聞いて納得して、窓から見える暗くて冷たい宇宙から、をどうにか明るい方へ連れていってあげたいと思うようになってね。丹恒が食事の時に話してたは意外と繊細っていう話もそれで、理解できてたんだ」
「そうかあ。そういうわけならウチも開拓者のそれに納得だし、協力するよ。一番いいのは、もどうにかして、故郷以外でも、本物の青い空が見える地上に降りられればいいんだけどね」
「うん。私もそれが一番良いと思うけど、姫子はともかく、私でもヘルタの説得難しいからなー」
「ウチも、ヘルタの説得は難しいなあ。何かのキッカケがあれば、もどうにかして青い空が見える地上に降りられると思うんだけどなあ」
「キッカケ……」
うーん。開拓者と『なのか』は、をどうにかして青い空が見える地上に連れて行ってやりたいと思うも、中々良いアイディアが思いつかない。
ところ、で。
ぴぴぴ!
「うわ、何の音?」
「の端末の着信音じゃないの?」
開拓者は突然に部屋に着信音が鳴り響き慌てるも、『なのか』は冷静にその在処を示した。
「んー」
「あ、起きた」
「!」
着信音にあわせて、が顔を上げた。
は開拓者と『なのか』を気にせず、端末を取り、誰かと通話を始めた。
「はいはい、起きてるよぉ……。まだ大丈夫だってー。うん、うん。分かってるって。ありがとう。それじゃあまたねー」
と相手のやり取りを聞いて、開拓者は『なのか』と顔をあわせ、そして。
「着信音鳴らして通話してきたの、丹恒?」
「正解。開拓者、私がお酒で寝たっていうの、丹恒に知らせた?」
「うん。私がお酒で寝たをどうすればいいかって丹恒にメッセージ送れば、30分後に起きなければそのまま放って帰っていいって返信があったんだけど」
「やっぱり。丹恒てば、開拓者のそのメッセージ見て私が寝てから丁度、30分後に連絡寄越してきたんだ。開拓者も丹恒の通話時間、確認していいよ」
「うわ。ほんとに私が連絡入れてから丁度30分じゃん、丹恒らしいわー」
はは。開拓者はの通話記録を見て、本当にそれから30分後にに連絡をしてきた丹恒の仕業に苦笑する。
は言う。
「でも、丹恒の言う通りで、私がお酒で寝て30分経っても起きなければ、開拓者も『なのか』も私を気にせず、勝手に帰って良かったからね」
「今回は丹恒で起きたけど、この後、どうする?」
「明日も仕事だから、もうお開きかな」
言っては立ち上がると、カラになったお酒の缶をゴミ箱へ投げ入れた。
そして。
「開拓者も『なのか』もここまで付き合ってくれて、ありがとう。色々、楽しかった」
「私も色々謎だったエイブラハムの話が聞けて、面白かったよ」
「ウチもエイブラハムだけじゃなくて、ウチが知らなかった色んなスタッフの噂話が聞けて楽しかったー。またの部屋で飲み会やろうよ」
開拓者と『なのか』も列車に帰るために、立ち上がる。
「それじゃあ……」
「また、明日」
開拓者と『なのか』はさっさと部屋を出て、一人が部屋に残される。
一人残されたは。
「……開拓者、私が窓の外で暗い宇宙空間を見て溜息吐いてたの、見てたんだ」
実はは途中から起きていて、開拓者と『なのか』の話を盗み聞きしていたのだった。
中でも。
――窓から見える暗くて冷たい宇宙から、をどうにか明るい方へ連れていってあげたいと思うようになってね。
――もどうにかして、青い空が見える地上に降りられればいいんだけどね。
開拓者の優しい気持ち、それから、なのかの提案は、も胸がいっぱいになった。
「私は……」
ステーション内で仕事をしている間はいいが、部屋に帰って一人で居ると、青い空の下で自由に過ごしていた故郷を思い出して時々、ウツ状態に陥る。
そうでも丹恒がステーションに居る間は彼が話し相手になってくれたし、星穹列車に居る間は、同じ宇宙という空間に居るだけで、落ち着いた。しかし現在は離れて、宇宙と地上という別の空間に居るので、いつも以上に落ち着かなかった。
――薬、飲み忘れるなよ。さっきの通話で、丹恒に念を押されるように言われた。
は棚にあった薬を取って、水を使わずに飲んだ。
薬を飲んでも痛みは、残る。
故郷に置いてきた分も、宇宙に残っている分も――。
こういう時、普段は丹恒に無理言って、通話か、生配信で話し相手になってもらっていたけれど。
「……」
は決心して、部屋を飛び出した。
向かう先は、決まっている。
走って、走って――。
「でさー」
「だよねー」
「開拓者、なのか!」
開拓者と『なのか』は丁度、中央エレベーターに乗り込む所だった。
「?」
「どうしたの、そんなに慌てて」
開拓者と『なのか』は立ち止まり、走ったせいか、ぜーはーぜーはーと、息を切らしてるを心配する。
「あ、あの、開拓者となのか、時間あるなら、朝まで一緒に居て欲しいんだけど!」
「」
「わ、私、サンデーには丹恒と離れても平気だって強気で話してたけど、実際は、一人で居るとウツ状態になって落ち込むような残念な女だったんだよ!」
の告白を聞いて開拓者は『なのか』と顔を見合わせた後――。
「今更、それ言う?」
「本当、今更だよねー」
「ふぇ」
あはは。開拓者と『なのか』はに向けて、遠慮なく笑った。
開拓者は言う。
「いや。私となの、は丹恒が居なくても平気って常に強気で話してたけど、実際は、そこまで強い女じゃないっていうの、最初から分かってたから」
「そうそう。ウチと開拓者は、がそこまで強くないってのは最初から知ってたよ。あ、これ、丹恒から聞いたわけじゃなくて、今までの姫子やヨウおじちゃん、エイブラハムの話を聞いてれば自然に分かるっていうか」
「何だ、そうだったの……」
はは。は開拓者と『なのか』からそれを聞いて、力が抜けたように座り込んだ。
開拓者と『なのか』もと同じようにその場に座り、彼女に聞いた。
「でも、何で今夜に限って私と『なの』を引き止めたの?」
「ウチもそれ、不思議だった。いつもは仕事中で不在でもさっきみたいに通話か、レオナードの生配信で丹恒と会話できるから、一人で寂しい夜は、彼に頼ってたんじゃないの?」
「それね。なのかの言う通りで普段は丹恒か、お酒に頼れば眠れるんだけど、今回は、開拓者と『なのか』と一緒にいた分が楽しかったんだ。その影響か、お酒も丹恒も無理になって、でも眠れなくて、まだ開拓者と『なのか』と話したい気分で、それで……」
よろけながらも立ち上がり、自分の思いを打ち明けるの話を聞いた開拓者と、なのかは。
「、よく言った。私も『なの』も全然眠れなくて、とまだ話したいと思ってたんだ」
「うんうん。ウチも開拓者も、朝までといっぱい、おしゃべりしたいと思ってたよ」
「開拓者、なのか、ありがとう……」
開拓者も同じように立ち上がりそんなの頭を撫で、なのかも立ってからの手を取ってそう言ってくれた。は二人の優しさに泣きそうになるのを堪える。
それから開拓者は、いつもの調子でに聞いた。
「で、次の女子会のテーマ、何にする?」
「次は、開拓者か『なのか』の旅の話が聞きたい気分かも」
「いいね。まだに話してない開拓の旅、あったよ」
「ウチも、ウチも~。相手だとちょっとした事でも自然に驚いてくれるから、聞かせる方も楽しいんだよね~」
開拓者だけではなく『なのか』も嬉しそうに、それに応じる。
それから開拓者と『なのか』は、を挟んで三人揃って、の部屋まで戻ったのだった。
いつかの優しさが、その痛みを溶かしてくれるように――。