07:指先にオレンジ(03)

 それから。

、さっそくだけど、羅浮で何処か行きたいとこある?」

「ウチと開拓者で、色々、案内してあげるよ!」

「そうだなあ。仙舟一の歓楽街だっていう長楽天ってとこ行ってみたいんだけどいい? あそこの屋台のご飯が美味しいって、仙舟ガイドにのってたから」

 「任せて!」、「ご飯一番はらしい」、開拓者は『なのか』とを挟み、彼女を守るように中心に据えて仙舟の歓楽街、長楽天へと繰り出したのだった。

 ところで。

「で、またこれに乗るの?」

 は、再び、星槎に乗らなければ長楽天につかないと聞いて震えるが。

「開拓者の運転なら、大丈夫じゃない? 開拓者は、荒い青雀よりマシじゃん?」

「うんうん。なのの言うよう、青雀よりマシと思うっていう自信ある。それ!」

 開拓者の運転は確かに青雀よりマシというか、上手い方だというのは、でも分かった。

「なのかの言う通りで、開拓者の運転、青雀より、全然大丈夫だった。この腕なら、開拓者も星槎レースに出場できるんじゃない?」

「そうかも。当日暇だったら、星槎レースに出てみようかな~」

「それ面白い。そうなれば、ウチも開拓者、応援するよ!」

 に言われた開拓者は星槎レースに出る気はなかったがそれに興味を持ち、なのかも開拓者に出場したらどうかとそれの後押しをしていた。



 そして。

「わあ、此処が長楽天?! 凄い、凄い、綺麗で、素敵な街ね! お祭りの時だけ、提灯が飾られてるのも幻想的!」

 開拓者の運転で羅浮一番の繁華街である長楽天についたは、今まで見た事のない景色に興奮しっぱなしで、子供のようにはしゃいでいた。

 長楽天は祭り用にと、あちこち、提灯が飾られ、いつも以上に幻想的な風景を映している。

「この中央広場も素敵。床一面がガラス張りで、雲海が見えるなんて、ロマンチック~。あ、階段昇った先はナマの雲海が見えるテラスになってるの? それも素敵! いいわね、いいわね!」

、待って、ステーションにこもりっきりだったが外に出てそこまではしゃぐの分かるけど、それ、こっちが恥ずかしい!」

「ウチもこれにはさすがに引くわー。は、丹恒に任せた方が良かったかも!」

 開拓者はもちろん、なのかもそのに追いつくのがやっとで、更には彼女の子供のようなはしゃぎぶりは仙舟の人間達からも注目を浴びる始末で、これには開拓者と『なのか』の二人も参った様子だった。

 結論から言えば初めての仙舟はから見れば、とても楽しかった。

 中でも。

「よぉ、開拓者に三月じゃないか。祭り用に色々アイテム仕入れたんだが、買っていかないか」

「あれ、開拓者達と一緒に来てる美人のお姉さん、初めて見る顔だね~。へえ、ヘルタ・ステーションの。それなら身元保証されてるよね。お姉さん、お近づきの印に、何か買ってかない?」

 街中で開拓者と『なのか』を見かけるたび、長楽天の人間達から気さくに声をかけられる事が多かったのは、正直、も驚いた。

「ほう。開拓者達と一緒に来た、美人のお嬢さん、あのヘルタ・ステーションの人間なのか。いいな、羨ましい。天才クラブのヘルタ、噂通り、うちの狐族に負けないくらいの美人というの、本当なのかね?」

「仙舟の人間でも大学行けばカンパニーくらいは入れそうだけど、ヘルタ・ステーションなんて、文字通り、雲の上の存在だよ。俺も一回、ヘルタは無理でも、カンパニーで働きたい夢を持ってたんだがなあ」

 も開拓者と一緒に居れば、行商人達から気さくに声をかけられる事が多く、それは、悪い気しなかった。

 そして。

「ヘルタ、外でも、思ってた以上に有名人だったのか。おまけにスターピースカンパニーって、ステーションやブローニャ達のヤリーロ-Ⅵだけじゃなくて、仙舟でも、どこでも紛れ込んでるのね……」

 仙舟の人間からヘルタ・ステーション及び、ヘルタ本人の評判も色々聞く事ができて、更に仙舟でもその幅を利かせているスターピースカンパニーの評判が聞けて、色々参考にはなった。

 それ以外、驚く話はあった。

「お、開拓者に三月、丹恒先生は一緒じゃないのか? 一緒なら、彼と手合わせしたかったんだが、残念」

「丹恒先生、雲騎軍の中でも将軍のレギオン討伐に選出されたって? さすが。俺も見回り班じゃなければ、そのレギオン討伐に一緒についていきたかったわー」

 雲騎軍で街の見回りをしている兵士達からも声をかけられる事が多かったが、その殆どが開拓者目当てではなく、丹恒目当てだったのに驚いたのである。

 は開拓者にそのわけを聞いた。

「仙舟の本で勉強したんだけど雲騎軍の兵士達だけじゃなくて、彦卿君が丹恒をさして『先生』って呼ぶの、ここでは、自分より立場が上の師匠って意味よね。……丹恒、仙舟では、そこまで凄かったの?」

「あー、まあ、ここまできたら隠せないけど、丹恒は、私と仙舟を救った一件で、護衛の彦卿をはじめ、雲騎軍の兵士達から師匠クラスの扱い受けてるんだよ。雲騎軍のトップの景元将軍もそれで、丹恒に目をかけてる」

「ふうん。そういうわけ。丹恒から聞いてた話と、全然違うわね……」

「……」

 開拓者は、がどこか寂しそうな眼差しでその話を聞いているのが気になったが、現時点ではそれ以上は何も言えなかった。

 更に。

「あ、開拓者と三月じゃない。ねえ、丹恒様は、一緒じゃないのぉ?」

「開拓者と三月ちゃん見かけたから、丹恒様も来てると思ったんだけど。えー、丹恒様、雲騎軍の景元将軍様と一緒? さすが、丹恒様ね!」

 街中で遭遇したのは商人だけではなく、仙舟の中でも美人揃いと評判の狐族の女性達だった。狐族の女性達は開拓者と『なのか』を見るなり近付くとすぐに丹恒の名前を出し、三人娘の中で彼の姿が見当たらないと分かれば落ち込み、次に丹恒がレギオン討伐で景元将軍と一緒に居ると分かれば「さすが」と、彼に向けて拍手を送っていた。

 しかも、狐族の女性達以外、普通の仙舟の女性達からも開拓者を見るなり「丹恒様は?」と、丹恒を探している様子が見かけられ、女性に声をかけられるたび、はそれにうんざりしていた。

「……ステーションの外では、開拓者や『なのか』と一緒に居ると、あちこちから声をかけられるのは、驚いた。それから、丹恒は居ないのかって声をかけてくるの、女ばっかりってどういうわけよ。おまけで丹恒目当てなの、雲騎軍の兵士達はまだ分かるけど、仙舟でも美人揃いと評判の狐族の女性達ばかりって、何よぉ」

「ええと、それもね、丹恒は仙舟では、私達と一緒に仙舟を助けた件で、雲騎軍の兵士達や、仙舟の女性達の間で、同じくイケメンで女性達から評判の景元将軍についで人気あるんだよ。
 丹恒が開拓の任務で仙舟に入れば、景元将軍と同じくイケメンで最強って部分で、主に美人揃いと評判の狐族を中心とした女性達に囲まれる事が多い。、仙舟で丹恒と居る時はそれ覚悟した方がいいかも」

「むぅ。開拓者と御空が私に、お祭り当日は丹恒と一緒に居るのが難しいって言ってたの、これで分かった気がした。でも、丹恒が御空と取引してくれたおかげで、当日は一緒にいられるのが決まってるぶんは、良かったかも」

 開拓者からその真実を聞いたは、祭り当日は丹恒と一緒に居られるのが分かっているので、それについては胸を撫でおろした。

 と。

「いひひ、丹恒様の本命の彼女のさんは、余裕ですなー」

「えへへ。そんな事、ないってー」

 この、このぉ。祭り当日は丹恒独占できて安心、そのを見てニヤニヤ笑って彼女の腕をつついてくるのは『なのか』で、なのかの攻撃に照れながらも笑って余裕あるだった。

「……(うん、を仙舟に招待して良かった)」

 開拓者は、丹恒でじゃれあうと『なのか』を見て、彼女を仙舟に招待して良かったと思った。




 それから、開拓者と『なのか』と色々見て回って、は、そこで気になる店を見つけた。

 商人が地べたに布を広げて商売をしていて、そこに並べられてあったのは、仙舟の職人が作ったという装飾品だった。

 その中でが目を引いたもの、それは。

「この細工がされた琥珀の腕輪、素敵ね」

「ああ。それ、仙舟のカップルの間で人気のペアバングルだよ」

 が興味を持ったのは祭りの間だけ出ているという露天商で、そこで手にしたのは、琥珀で出来た腕輪だった。

 ペアバングルという説明通り、色々な色と細工がされた腕輪が、二つ一組のセットで売られている。

 はその中で目についた琥珀色の腕輪を手に取り、行商人に聞いた。

「カップルの間で人気のペアバングル? それ、どういうわけか、教えてくれる?」

「それね。祭りの間に限っての話になるが、美人で評判の狐族の女性達は、仙舟の男達はもちろん、外の世界から来た観光客の男達からのナンパが多くてね。自分が男付きだと訴えても、祭りの間だけくらい相手して欲しいと強引に誘ってきたりと、お構いなしだ。狐族の女性達は毎回、それにうんざりしている」

「ああ……」

 は開拓者達と街を見ている間、確かに、狐耳とそのしっぽを持つ美人の狐族の女性相手に取り囲む男達が多いのに嫌でも気が付いてた。

「で、狐族の女性達の間で自分は男付きだからナンパ男は近寄るなっていう意味で相手の男と同じものを身につけるものとしてそれが導入されたんだけどさ、そのデザイン、仙舟の職人の腕で造られたものだから、それ以外の女性達の間でも評判になったんだ。祭りの間に限っては、狐族の女性じゃなくてもへんな男に声をかけられないよう、それが仙舟のカップル達の流行になって、自分もそれ目当てにペアバングルを色々仕入れたわけだよ。
 それ身に着けてる間は、祭りでも、男もナンパしづらい効果がある。お姉さんも彼氏持ちなら一つどう? 狐族じゃなくても美人なお姉さんならなおさら、これ必要、男避けに打ってつけだと思うけどねー」

「へえ、いいじゃん。彼の言うよう、、祭りの間だけでも、丹恒と一緒にそれ身に着けるの良いと思うよ」

「いいなあ。ウチも彼氏持ちならペアリングとかペアバングル憧れるけど、今の所、そういう相手居ないんだよねえ。確かにと丹恒ならこの腕輪は似合いそうだし、の男避けに丁度良いかも。、それ買って、朴念仁の丹恒にプレゼントしたら?」

 開拓者と『なのか』も行商人からペアバングルの説明を聞いて納得した様子で、の男避けに丁度良いと思い、彼女に丹恒のぶんも買うように促す。

「……そうね。お祭りの間、男避けになるなら、これ買っても良いかも。でも、丹恒に相談して決めた方がいいと思う。お祭りが始まるまで、後でまた丹恒連れて来てからでいい? その間、この琥珀色の腕輪、取っておいてくれる?」

「もちろん。この琥珀色の腕輪ね、了解、了解」

 行商人はあとで丹恒を連れてまた来るというの話を信じるよう、それに快く応じて、彼とはそこで別れた。


 次に見付けたのは、女の子が店番を任されている本屋だった。

「そこに本屋あるの見付けた。そこ行っていい?」

「いいけど。、本当、本好きだよね~。そこは丹恒と気があうでしょ」

「そうだね。丹恒は本が読めればどこでも生きていけるから、そこは丹恒と気があいそう~」

 開拓者と『なのか』は、も丹恒と同じく読書家であると理解しているので、書店に立ち寄るのに付き合った。

「うわあ、人形は向かない職業の新刊発見、ステーションじゃ新刊届くの何か月か先だから直買いで新刊ゲットは嬉しい。更に蝶の影の雑誌のバックナンバーも! 凄い、凄い!」

「ええと、本好きで丹恒と気があいそうなのは分かるけど、ここまでなるかな?」

「いやあ、ウチものそれには分かんないわ」

 きゃあー。は、ステーションでは中々手に入らない仙舟本とその雑誌のバックナンバーを発見し、開拓者と『なのか』も引くほど、興奮気味だった。

「開拓者、三月、一緒に居る美人のお姉さん何者? へえ、あのヘルタ・ステーションの。ヘルタ・ステーションじゃなくても、宇宙を旅する人間は本の新刊に飢えてるのが多いから、彼女みたいになるの分かるよ。彼女みたいなのは、私達にとっても、いいお客さんだわ」

 店番の女の子は開拓者からがヘルタ・ステーションのスタッフだと聞いて、彼女の興奮具合に納得してる風だった。

 と。

 は何冊か本を物色した後、店番の女の子に当初の目的のものを注文した。

「ねえ、仙舟以外――、外国が舞台の童話風なの扱ってない? お姫様と王子様が出てくるようなの」

「ああ、ありますよ。幼児向けの絵本になりますけど、いいですか」

「それでいいわ。一冊、ちょうだい」

「ありがとうございます。まさか、お姉さん、子持ち?」

「いえ。ちょっと、これから必要になるから」

「そうですか。毎度~」

 店番の女の子はそれ以上の追及はせず、に幼児向けの絵本を手渡した。

 開拓者は、が子供向けの絵本を買ってそれを紙袋に入れるのを見て、その疑問を口にする。

、何で、子供向けのお姫様が出てくる絵本買ったの? 誰かのお土産?」

「店番の子に話したよう、これから必要になると思ってね。仙舟でもこの手の絵本を扱ってて、丁度良かった」

「?」

「それより、アクセサリーや本はもういいから、初めの目的だった食べ物を扱う屋台に案内してくれない? 私、仙舟では、それがとても楽しみだったの」

「了解、任せて」

 がそれから話題を切り替えるように食べ物の屋台の話をすれば、開拓者はそれに応じるように拳を挙げて張り切って彼女を案内した。

 そして――。

 三十分ほど散策すれば、の手の中は祭りでしか現れないという屋台で見つけた食べ物でいっぱいになった。

 開拓者、なのか、の三人は外にあるテーブル席に落ち着いたあと、屋台であさった戦利品を前にして、主に一人が腹の中に納めていく。

「仙舟の屋台の食べ物、本にのってた通りで本当、どれも美味しい~。お酒も美味しそうなのあったけど、そこは丹恒帰ってくるまで我慢しないとね!」

「さすが、屋台の焼き鳥十本、ペロリいった……。蓮根餅も十本完食! 肉まん五個完食、あ、そのソーダ豆汁は初心者にはキツイ――うわ、浴びるようにいった、凄ぉ!」

「獏巻ロールケーキも三本余裕、うわ、味にばらつきのある星芋ぷるっぷるもいけるんだ、へえ……。って、いつの間にかギャラリー増えてない?」

 うわあ。開拓者は相変わらずの細い体であるのに、のその食べっぷりに感心し、『なのか』はいつの間にか自分達の座る周辺に人だかりができているのを知って驚きを隠せなかった。

「おい、あの美人の姉ちゃんの食べっぷり、凄いぞ!」

「うへえ、あの美人なお姉さん、顔に似合わず、凄え!」

「ええー、何で細い体であんなに食べれるの? ずるくない?」

「狐族じゃない普通の女があそこまで能力持ってるなんて、珍しいわねえ」

 の食べっぷりに男達から拍手と喝采が上がり、狐族の女性達からは細身ののどこにあんな能力があるのかと羨ましそうに見詰められ、

「お姉さん、彼氏居るの? 此処で会ったも何かの縁、俺と付き合う気ないかな?! ここの屋台より良いレストラン、知ってるんだけどさー」

「いやいや、遊び人のコイツより、真面目に仕事やってる僕と付き合いませんか?!」

「君、俺と一緒に星槎乗らない? 明日の星槎レースでも、良い星槎の見分け方とエース級の操縦者知ってるんだけどさー」

 騒ぎに乗じてにナンパしてくる男達まで現れたのだった。

「ごめんねー、彼女、ちゃんとした彼氏持ちだからナンパ厳禁だよ!」

「そうそう。彼女には最強の彼氏ついてるから! アンタ達の出番、ないよ!」

 にナンパしてくる男達をそう言って追い払うのは、開拓者と『なのか』の役目だった。

 それから十分以上経てばも食べ終わり満足した様子で腹を抱え、彼女が開拓者達のおかげで彼氏持ちだと分かれば人だかりは解消され騒ぎも収まり、開拓者と『なのか』は、ぐったり疲れた様子でテーブルに伏せていた。

、美人なとこはもちろん、その見た目に反して大食いな部分でへんに目立つから、ここまで彼女の世話が大変とは思わなかった。ねえ、さっきの露天商に戻ってペアバングル買って、男避けになるっていうそれ身に着けた方がいいんじゃないの?」

「さすがのウチも相手、なめてたわー。丹恒も相手にデートする時、色々大変だったのかなぁ。そうそう、開拓者の言う通りで、は丹恒の了解取る必要ないって、さっさとさっきのペアバングル身に着けた方がいいかもだよ!」

「うん、なんか、色々ごめんね。それだから私、ステーションでも極力、目立たないよう、応物課の倉庫で生きてきたから。それからあのペアバングル、丹恒に色とかデザインを気に入ってもらえないと身に着けてもらえないと思うから、ちゃんと確認取った方がいい」

 はは。は、自分の世話で珍しく疲れきった様子の開拓者と『なのか』を見て、苦笑するしかなかったという。

 それから開拓者と『なのか』は、先刻、露天商で見つけたペアバングルを買って身に着けた方がいいと促すが、はやはり丹恒にちゃんと了解を得なければそれを身に着けてもらえないと思って即決はしなかったのである。

 と。

「ちょっと、ちょっと、何の騒ぎ?!」

「人だかりが出来てたから何かと思えば、また、開拓者の仕業だったの?」

 騒ぎを聞きつけて雲騎軍の素裳、卜者の青雀が呆れた様子で現れたのだった。


「は? これから将軍様達と高級レストランで食事会だってのに、一人で屋台の大食い大会やってたの?」

「星槎の時と違って目の前の串と皿の数を見れば、それの疑いようがないわな。本当、狐族でもないのにその細い体でどこにそんな入るんだ? てか、それだけ食べて、雲騎軍の将軍様だけじゃなくて、うちの符玄様や天舶司の御空様も出席される食事会出て、大丈夫?」

 素裳は、の前にある串の数と皿の数の証拠品と彼女を見比べ、驚いていた。

 中でも青雀は景元だけではなく、符玄と御空も揃って出席する食事会と聞いているので、そこでがこれのせいで何も食べられないという失態を犯すのではないかと、それを心配していた。

 はしかし、その件を心配してくれる青雀に対して、笑みを浮かべて応じる余裕はあった。

「まだフルコース入るから、余裕~。食事会の席で丹恒と将軍様、それ以外の偉い立場の人達の前で失態見せられないからね、そこは安心してちょうだい」

「……無口君、大変な女を彼女に持ったんだねえ」

「はは。さすが、あの丹恒が選んだ女だけあるか」

 まだ余裕で入ると笑顔で応じるを見て、素裳は丹恒に同情し、反対に青雀は丹恒の選んだ女を面白そうに見ている。

 開拓者は、此処まで来た素裳と青雀を見比べたあと、素裳に聞いた。

「それで素裳、もう時間?」

「そうそう。アタシと青雀は、将軍様だけじゃなくて、符玄様と御空様に言われて、あなた達を迎えに来たんだ。一緒に行こう」

「っしゃ、久し振りの高級レストランでの食事会だわ。普段は符玄様相手は大変だけど、こういう時に限っては、符玄様についてて良かったって思うんだよねー」

 素裳は開拓者に向けて手を差し出した。

 青雀は普段は人使いの荒い符玄の下で働く事に対して不満を持っていたが、こういう時は自分も符玄について高級レストランで食事が出来るのでよく、それをとても楽しみにしていたのだった。

 と。

「あ、ちょっと待って、将軍様についてる彦卿君から連絡――え、どういうわけ?」

「どうしたの?」

「いや、なんか、将軍様についてる彦卿君から、予定変更で、と開拓者達を予約していた高級レストランじゃなく、将軍様のお膝元である神策府まで来てくれって……」

「えー。何それ。私、高級レストランでの食事会を楽しみにして、ご飯抜いてきたのに!」

 素裳は戸惑いながらも、手持ちの端末に届いた彦卿のそのメッセージを開拓者達にも見せる。高級レストランの食事会が予定変更と聞いた青雀は青ざめ、子供のように地団駄を踏んで抗議の声を上げた。

「あら、目的地が景元将軍の神策府に予定変更というのは、丹恒のレギオン討伐で何かあったのかな? 丹恒一人ではレギオンを扱いきれず失敗して、結局、私と『なの』の力が必要とか……」

「うーん、ウチ、丹恒がレギオン討伐ごときで失敗すると思えないけど。でも丹恒が心配なのは変わりないから、も一緒に行くよね?」

「うん。私も丹恒が心配だから、一緒にそこ行くわ」

 青雀と同じく素裳に届いた彦卿のメッセージを見た開拓者は暢気にそう思うが、なのかは丹恒の様子を心配し、も彼女にうなずいて二人についていく決心を固めたのだった。



 ところで。

「その神策府行くの、また星槎に乗るの?」

「いや、神策府は此処と同じ長楽天にあって、すぐそこだから、星槎に乗らなくていいよ」

、青雀運転の星槎がトラウマになってるんだね……」

 は神策府に向かうのに再び星槎に乗る必要があるのかと怯えるが、青雀はそれを笑い飛ばし、素裳は青雀ですっかり星槎がトラウマになったに同情していた。