と。
「ち、ちょっと、さっきから黙ってヘルタの話を聞いてたけど、ここで別れた方が一番いいって、その決断を嬉しく思うって、二人とも、何言ってんの?! 冗談でしょ、なんのためにウチと開拓者が此処まで連れて来たのか分かってる?!」
ここでたまらず、『なのか』がと丹恒の間に割り込んで、どちらにでもなく、そう訴えてきた。
はしかし、あくまでも冷静に『なのか』に応じる。
「ごめんね。私と丹恒、前から決めてたんだ。此処まで来られたら――、仙舟まで行って丹恒と開拓者達の『本物』が見られたら、別れようって」
「だから! 何でそれで、が丹恒と別れる必要あるの!? ウチ、さっき、ヘルタからがカンパニーから無能力で無資格のために異端児扱いされてるせいで宇宙科学の知識得るためにカンパニーの再教育受ける必要があるからステーション出て行くって聞いたけど、この話、それだけじゃなかったの?」
「……そうだね。ヘルタからカンパニーの再教育の話を聞いたのであれば、その通り。私は無能力で無資格な状態で宇宙に出てきたせいで周辺の歴史を変える恐れがあり、カンパニーの上層部にそれはよくない、ヘルタのステーションにはそぐわないって、目をつけられて異端児扱いされてるの。カンパニーのそれに反発すれば強制的に、どこの世界に放り出されるか分からないって。
そうならないためにカンパニーの再教育受けるのに、丹恒と別れる必要あったから、それで」
「いやだから、それで何で、丹恒と別れる必要あるの! カンパニーの再教育受けてる間でも、丹恒と付き合い、続けられるんじゃないの?!」
「カンパニーの再教育先、カンパニーが運営する学園に入学するさいに全寮制の寮に入る必要があって、そこでは外部と連絡取り合えない、その中ではナナシビトとして旅を続ける丹恒とはいつか疎遠になるって、ヘルタが話してた。私もその状態では、ナナシビトとして列車で開拓の旅を続ける丹恒と疎遠になるのが分かるから、ここで彼と別れた方が丁度良いと思ったのよ」
「でもだからって、丹恒と別れる必要なくない? は今まで通り、その学園でも丹恒の帰りを待ってる方がいいって、絶対! ステーションでも、同じよう、丹恒の帰りを待ってたじゃん!」
「外部と連絡取れない間、私と疎遠になった丹恒に新しい女ができるかもしれない……」
「何でそんな風に思うの? 外部と連絡取れなくても丹恒はを思って、ステーションとは別の場所でも、星穹列車を使えば気軽に会いに行けると思うけど」
「それね。ヘルタのステーションでは列車の中継地点になってるから丹恒が帰りたい時に帰れたから良かったけど、私が外に出ればその気軽さはなくなるって聞いた。ステーション以外では、時間と場所を決めても、丹恒がその目的地につくのに何か月かかるか分からないって」
「あ……」
「『なのか』は、お互い、いつ帰ってくるか分からない、それに耐えられる? その間、開拓の旅を続ける丹恒は、新しい出会いがいくつもあって、その中では私を忘れてしまうでしょう」
「それは……」
「それだから、ここで別れた方が――再教育前の方が後腐れないって、私と丹恒の間で決めてたんだよ。それについて『なのか』が気にする事ないよ」
「……」
なのかはにそれ以上のものが言えず、引き下がる。
次に出てきたのは開拓者だった。
「……、それでどうして、ここまで来られたの? その話が持ち上がったの、随分前――、私と『なの』がステーションに現れる、一年前くらいの話だよね。、ヘルタのステーションでは今まで、丹恒のカノジョとして、温明徳の応物課の倉庫に居座ってたじゃない」
「それも単純な話。私と丹恒で、私が宇宙に来て間もない頃、宇宙科学も知らない自分がほかの星でその手の教育受けるのまだ早い、一年くらい、様子見して欲しいってワガママ言ってたせいで、ヘルタに無理言ってその審査、延長してもらってたの。これも皆、私じゃなくて、丹恒の提案なんだけど」
その時はは、丹恒がヘルタの話し合いに来てくれて良かったと思った。自分一人ではその雰囲気に飲まれて『再教育を受けるなら、確かにここで、丹恒と別れた方がいいかも……』と、一人で決めていたかもしれない。
ヘルタの話を聞いた後に部屋を出た丹恒は『あの条件なら、なんとかなるだろ』と気楽に構え、も『そうだね』と、余裕だった。
ヘルタやカンパニーがいう宇宙科学に関する資格もヘルタのステーションに在籍しているうちは簡単だろう――そう思っていたが、現実はそう甘くなかったのである。
「ステーション内部、しかも、応物課で荷物管理するだけの私が、ヘルタやカンパニーのいう宇宙科学に関する知識を得るの、中々難しくてね。その話を知ってるアスターや姫子に宇宙科学に関する講義受けた事あったけど、そこで、千年の差の開きを十分に思い知っただけだった。
今回の仙舟に関する勉強もその一部で始めたけど、その情報量の多さに頭が追い付けなくて、実は、開拓者の誘いが来る前に断念して、グルメ案内や観光案内の本だけ読んでただけだったり」
「……」
はは。は照れくさそうに笑うが、開拓者は笑えなかった。
「そうだ、途中で、誰だっけ、ほら、カンパニーの高級幹部の……」
ここでは、その事情を知る丹恒に助けを求める。
飲月の丹恒は腕を組み、しかし、きちんとには答える。
「スターピースカンパニー、戦略投資部のジェイド」
「そうそう、ヘルタの一年契約の途中で、カンパニーの戦略投資部のジェイドがヘルタの指示を受けて、私と丹恒の所まで面談に来たんだ」
スターピースカンパニー、戦略投資部のジェイドは、ヘルタがを中々カンパニーに手渡さないので気になってステーションまで面談に来たと、話した。
「私はその時、宇宙科学習得は無理でも、丹恒と一緒になって、丹恒とヘルタのステーションに一緒に居たい、離れたくない、その時の思いを必死に伝えればジェイド、そこまで言うならヘルタの話の通り、一年の審査期間を与えるからそれまで、宇宙科学に関する勉強だけじゃなく、丹恒との関係も続けられるように頑張りなさいって言ってくれてね。
カンパニーのジェイドによればヘルタの言う通りで、宇宙科学だけじゃなく、カンパニーに支持されてる丹恒との関係も一年続け、それにカンパニーの上層部と幹部達を納得させられれば、ステーションに残っていい判断が下されるかもって言ってくれた。
私と丹恒も宇宙科学の資格習得は無理でも、お互いの関係は続けられるって、その時は単純に、そう思ったんだけどねー」
「今は、丹恒との関係続けられる、そう思ってないの?」
「うん。この仙舟で開拓者達との旅の決着方法見れば、無能力で無資格の私では、どう頑張っても丹恒に追いつけないのが分かったから。彼らの開拓の旅の決着方法が分かれば目が覚める――、これも、ヘルタとジェイドの言う通りだったなって」
「それについて、丹恒は……」
「ここで、俺の話になるか」
丹恒もばかりではよくないと思い、自分の状況を開拓者に明かした。
「は俺と開拓者達の開拓の旅を見る事で決着したが、俺は別の方法を取ってそれを判断した」
「とは別の方法? ……その飲月君の姿がそれの判断?」
「そう。ある時、ジェイドは俺一人を呼び出し、俺を見るなり、彼女に肝心な事を打ち明けていないのかと、その証拠を見せたうえで言ってきた。俺はその時ほど、ジェイドにゾッとした事はない」
「え、その証拠でゾッとしたって何、ジェイドは丹恒に何やったの?」
いつもは何事も動じない開拓者であったが、丹恒をそれほどまでに震えさせたジェイドは彼に何をしたのか、それに興味を持つ。
丹恒は開拓者に、ジェイドとのやり取りを淡々と話した。
「ジェイドは俺に向けて、仙舟での開拓者達との開拓の話はカンパニーでも報告が上がっている、というか、ヤリーロ-Ⅵ、仙舟同盟、ピノコニー、その他、俺と開拓者と三月の今までの開拓の話は、スターピースカンパニーの七人取締会――上層部の間でも話題になると、話した。
それ、姫子さんやヴェルトさん、パムに聞けば俺達の開拓の旅に関してはカンパニーには別に報告はあげていないし、ヘルタもあいつらにそこまで報告する必要は無いと話していたが、彼らの調査力は大したもので、俺達の開拓の旅が終わる頃にはその全容がカンパニー本社まで上がってるらしい。
そこでは、開拓者の力も、三月の力も、俺の飲月君に関する力も全て筒抜けだ」
「それって……」
「カンパニーの高級幹部の一人であるジェイドは、仙舟での開拓の旅の一場面の写真を持参して――俺の龍尊の飲月の姿を示したうえで、これ、に教えてないのかと、面白そうに言い放った。
ジェイドは、は普段はそこまでではないが、故郷で男に虐待を受けたり、レギオンに襲撃された影響で、自分より強い力を持つ人間、あるいは、特殊能力を持つ人間を見ればそこから逃げ出すという恐怖症を患っているというのを知っていて、更に彼女のその対象に飲月君の俺も含まれるという事も知っていた」
「うわ……、そこまで……」
開拓者もジェイドのこれには、ぞっとした。
続ける。
「ジェイドは、俺とを突き放す材料としてこれ以上のものはないと、俺に話した。ジェイドは、は俺の飲月君の力を知れば自分と釣り合わない、第二王妃として決断力のある彼女はあっさり俺と別れる道を選択すると」
「……ねえ、何でカンパニーのジェイドは、そこまでしてと丹恒を突き放したいのさ。普通、ジェイドは分からないけれどと縁の長いヘルタは、カンパニーの上層部に負けないようにねって、がその審査通るようにって応援しない?」
「ヘルタの心情は分からんが、カンパニーのジェイドによれば、元から俺がカンパニーの許可無く力技で未開拓の住人を宇宙まで連れ出したのが宇宙の法則的にルール違反で、それがカンパニーの上層部の連中によく思われなかったと、話した。
未開拓の住人でもに何らかの資格か能力があればカンパニーの許可を得られたが、は宇宙科学を扱う資格も無ければ、何の力も使えない無能力者、ただの普通の人間の娘だったのが仇になった」
はあ。丹恒は参ったよう、溜息を吐いた。
「それ以外、カンパニーの連中は、俺のレギオンに対応できる力と、無能力のでは釣り合わないというのも、よく思わなかったようだ。俺の調子がただの普通の人間の娘ので左右されるのは、ヘルタのステーションだけじゃなく、姫子さんの列車に投資しているカンパニーとしても意見が言いたい、俺にはよりもっと相応しい女――カンパニーが用意できる能力のある女の方がいい、ともね」
「……、カンパニーごときに、何でそこまで言われなくちゃいけないんだよ。能力関係無く、今まで通り、丹恒とがお互い思いあってるだけでいいじゃない」
「……そうだな。俺とはそう思っていたが、その話があって俺の力を知る仙舟の人間からも俺と無能力のはあわない、短命種のと持明族で長命種の俺では長続きしない、仙舟でもその組み合わせは悲劇的な結末が多い、そうなる前に、いい時に別れた方がいい、と、散々、言われていた」
「カンパニーだけじゃなく、仙舟の人間に言われても、今まで私が見てきた丹恒となら、そういうの跳ね返せると思ったけど」
「それは、俺の龍尊の飲月君の力が開拓者に明るみに出る前の話だ。開拓者は現在の俺の飲月化した姿と、ただの人間の娘の見て、どう思う? 釣り合うと見えるか?」
「それは……」
「それ以前にカンパニーの上層部から、俺とがいい時に別れなければ、ステーションだけじゃなく、姫子さんの星穹列車の物資や備品に制限かけると脅さている」
「な――」
「ステーションだけならまだなんとかなるだろうが、星穹列車は制限かけられたら、どこにも行けなくなる。俺のせいで姫子さんやヴェルトさんに迷惑かける、そうなら、俺もカンパニーに従うしかないだろ!」
「丹恒……」
ガンッ。丹恒は、やりきれないその憤りを壁にぶつけ、開拓者もカンパニーに脅しをかけられていると知って絶句し、それ以上何も言い返せなかった。
丹恒は構わず、続ける。
「俺はジェイドに観念して、期日が来れば、に飲月君の力を打ち明けるつもりだ、そこで判断して欲しいと訴えて、彼女を追い返した。
とうとう、一年契約の期日が来て、ジェイドは何も知らないにその飲月君の力を見せるようにと、俺に迫って来た。俺はそうでも、飲月君の力は仙舟の羅浮の了解がなければなんの能力も持たない一般人の前では解放できないと言って、そこはなんとかやり過ごした。
仙舟の羅浮はしかし、カンパニーのジェイドからの問い合わせがきても、無視し続けたそうだ」
「それはそうだろう。丹恒殿の恋人とはいえ、無能力で無資格、何も持たないただの人間の娘に、我々の切り札である丹恒殿の秘密をそう容易く教えるわけない。それがたとえ天才クラブのマダム・ヘルタであれ、スターピースカンパニーの高級幹部であれね」
丹恒に補足するように話したのは、景元である。
丹恒はうなずき、続ける。
「仙舟の羅浮の頑なな秘密主義のおかげで、ヘルタとジェイドのいう審査期間の一年が過ぎてその途中で三月や開拓者が現れた後も、俺とはステーションでいつも通りの関係を続けられた。
おまけに、その間、ヴェルトさんの手で三月が発見され、次に星核ハンターの襲撃でステーションに開拓者が現れ俺が彼女の護衛として採用された後も、俺が開拓者と三月の三人で開拓の旅を続けてと離れている間の期間はそれ考慮して、をカンパニーの審査に入れないでくれと懇願して、一年以上が過ぎてもとの関係を続けた。一年審査が過ぎても開拓者や三月をダシにしてその審査期間を延ばす、それが俺との最後の悪あがきだった」
「……」
「……」
ダシにされた開拓者と『なのか』は今は、何も反論してこなかった。
「そして、とうとう、期日がきた。俺とが散々利用してきた開拓者と三月のおかげで、今回の御空主催の星槎レースで、を招待したいと仙舟から招待状がきてしまった。それはすぐにヘルタ、ジェイドに伝わり、今回、これを利用しない手はない、ここでの審査の最後にしたいと通達があった。ジェイドは言った。仙舟で俺の秘密をに打ち明け、それにが耐えれたら再教育とステーションの追放も見送る、今までの関係を続けてもいいと」
あの時のジェイドの言葉が、丹恒の頭に蘇る。
『――の頭で宇宙科学習得は無理でも、一年間、とあなたの関係が保てば、ステーション追放だけではなく、この世界からの追放を見逃してあげる』
丹恒もまた、この時はジェイドのその課題はクリアできるだろうと、単純に思った。
それはしかし、丹恒の龍尊であり飲月君の力を見せていない状態での話だ。
ジェイドは面白そうに、丹恒の飲月化されたさいの写真を見つめ、彼に言った。
『でも、一年のどこかであなたの真なる姿――龍尊の飲月と化した姿をに見せる事が条件に入ってる。それから、あなたと開拓者との旅の道中も彼女に見せたうえでそれを耐えられるかどうかも、その審査に入れたい。そのうえで二人の関係が続けられるなら、カンパニーの上層部も、のステーション残留に納得するでしょう』
ジェイドは、理解していたのだ。が龍尊の飲月君の姿を見たうえで、自分と開拓者、三月の旅を見れば無能力で無資格の彼女はそれに耐えられない、自分とは釣り合わないとみなし、ここで別れる決断をすると。
「この仙舟で、の裏情報と引き換えに俺の全てを見せれば彼女はそれに耐えられず、釣り合わないと思い、俺と別れる決断を下す――、ジェイド、そして、カンパニーの上層部の連中の予想通りになったわけだ。そうなった時、俺はのその決断を受け入れるしかないと腹をくくって、この飲月の姿でここまで来たというわけ」
「……ねえ、それ、私と『なの』がを思って、を仙舟に招待したのがいけなかったの?」
「開拓者……」
と丹恒から一通りの話を聞いた開拓者が震えているのが、『なのか』でも分かり、背後で彼女を支えるのが精一杯だった。
丹恒は、あくまでも冷静に言う。
「さあな。でも、開拓者と三月のお節介、それが、俺とが吹っ切れるきっかけになったのは変わりない。俺とはヘルタとジェイドの最終勧告に応じ、雲騎軍の景元将軍にきちんとわけを話し、が開拓者達に自分の裏情報を明け渡す事ができれば俺の飲月についての情報も明かして欲しいと取引をしたんだ。その結果がこれだ。これはと俺の間で決めていた決着方法で、それについて開拓者と三月が気に病む話ではない」
「……そんなの、分かるわけないじゃん。私と『なの』は、アンタのために仙舟の勉強を頑張ってるを思って御空に無理言って星槎レースに招待したんだよ! それが何でこんな結果になるんだよ! を思って御空と色々交渉してきた私と『なの』がバカみたいじゃない!」
「……」
開拓者はここではじめて、自分のたまっていた感情を丹恒にぶつけた。その開拓者についている『なのか』は意外にも、大人しくしている。
それから開拓者は、その感情をにもぶつける。
「、は丹恒のそれくらい耐えられるでしょ! 今まで、丹恒と一緒に居たんだから! 何でここで、それが耐えられないの!」
「無能力で無資格、ただの普通の人間の娘が、それに耐えられるわけない。ここで開拓者達の映像見て、自分と格の違いを見せつけられただけ」
「……ッ」
「私、此処に来てから――ヘルタ・ステーションに来てから、最初から分かってたんだよ。ヘルタとジェイドの言うよう、カンパニーの社員になるだけでも大変なのに、なった後も色々な選抜試験をクリアしてきて努力をしているⅡ階級のスタッフと、千年前から来ただけの何の能力もない私では、どう頑張っても追いつけないし、彼らに失礼だって」
「……」
「それから、この仙舟に来てからも、自分と宇宙の間にある格差を思い知ったの。機械化されて管理された美しい街並み、空では小型宇宙船である星槎が飛び交う壮大な世界と、みすぼらしい石だけで造られたジメジメした暗いだけの私の世界は重なる事はないと」
「……」
「ここが引き際、丹恒と後腐れなく別れるのに、仙舟が丁度良いと思った。それに私、応物課の温明徳課長をはじめとするステーションの仲間達や、開拓者と『なのか』に、ずっと、私が国王陛下と政略結婚して第二王妃で既婚者だって事、話せなかったの、苦しかった。ここでそれ打ち明けられて、すっきりした」
「……」
「それから、今まで、丹恒に国王陛下と――ウォルターと縁が切れない私のせいで苦しい思いさせてたの、悪いと思ってたの。ここでやっと、それから、解放できるわ」
は何も反論できなくなった開拓者から、丹恒と向き合う。
「丹恒。今まで、ロイの代わりに私を守ってくれて、ありがとう。もう十分だわ。カンパニーのジェイドによれば再教育を受けている間は、学園に警備員が常駐している、私の事は心配しなくていいって話だから、専属護衛の契約、解除させてもらうわね」
「そうか、それは、こちらとしても安心だ。しかし、の専属護衛を解除されるのは少し、寂しいものがあるな」
「でも、開拓者や『なのか』の三人で列車で開拓の旅を続けるうち、私以外、あなたに相応しいお姫様が見つかるかもしれないわ。私も再教育先で、また、良い出会いがあるかもしれないし」
「……そうだな、お互い、再出発先で、新しい出会いがあるといいが。、お前、これからどうする気だ」
「ヘルタの厚意で明日の本番の星槎レースまでまだ仙舟に残っていいっていう話だから、それまで、仙舟の街を見て回るわ。まだ、仙舟の美味しいお酒、飲めてないし……」
「はは。酒にこだわるのは、らしいな。仙舟の美味い酒が飲みたいなら、長楽天より、丹鼎司に向かうといい」
「へえ。屋台が多かった長楽天に良いお酒があると思ったけど、そっちの方がいいのか。ありがとう、次は、丹鼎司に寄ってみるわ」
ここでは、丹恒との単純な話を終わらせ、そして。
「ねえ、素裳、青雀。明日の星槎レースが始まるまで、次は、丹恒が話してた、仙舟のお酒が美味しいと評判の丹鼎司まで案内して欲しいんだけど」
「え、何で、アタシ達? は開拓者と三月の方が良いんじゃあ――て、御空様?」
「そ、そうそう、ここは私達より気安い開拓者の方が――て、符玄様、何か……」
に目を向けられた素裳と青雀は最初、彼女の指名を受けた事に戸惑うが、二人の背中を押したのは彼女達の上司である御空と符玄であった。
「むむ、御空様がそう仰るのは、分かる気がする……。いいわ、アタシが開拓者達の代わりにを丹鼎司まで案内してあげる。青雀はどうか分からないけど……」
「わ、私もを開拓者達の代わりに丹鼎司を案内してあげる気になったよ! 素裳一人じゃ心配だし! 二人とも、私についてきな!」
「素裳、青雀、ありがとう。やっと我慢してたお酒飲めるわー、今夜はとことん飲むぞ!」
ごにょごにょ。素裳は御空に、青雀は符玄に何か耳打ちされた後、を案内すると張り切り、ようやく酒が飲めると張り切るを連れて、会議室を出て行った。
ばたん。
は青雀と素裳の三人で部屋を出て素裳の手で扉が閉められ、会議室に残るは丹恒、開拓者、なのか、景元、御空、符玄の六人である。
そこで開拓者は何を思ったか、が出て行ったのを確認した後で静かに丹恒に近付き、そして。
「!」
パン! 遠慮なく丹恒の頬をひっぱたいたのだった。
開拓者の背後で『なのか』も丹恒に対して、ファイテングポーズを取っている。
ぱちぱち。開拓者の仕業を見た御空、符玄の二人から拍手が送られる。景元は女性陣と違っていつもの笑顔を浮かべて見守るだけ。
開拓者は自分の頬をさするだけで何も反撃してこない丹恒を睨みつけ、言う。
「丹恒、アンタ、私がひっぱたいた理由、分かるでしょ」
「……」
「を今まで好きに散々扱っておいて、別れる決断を嬉しく思うですって? は無理でも丹恒なら、カンパニーの上層部の連中に言われてもそんなの跳ね返すと思ったのに、アンタがそこまでバカとは思わなかった」
「……ヘルタのステーションだけではなく、姫子さんの列車でも色々投資してもらってるカンパニーの上層部相手では、はもちろん、俺でも無理だ。それに、今回はが決断した事だ、俺では何も覆せない」
「ふん。それが龍尊の飲月であるアンタの苦しい言い訳かよ。それで姫子の列車の支援制限するってカンパニーの上層部の連中に脅しかけられてる、それ、何で私や『なの』に、相談してくれなかったの。との一年契約の話だって、途中で相談してくれれば、私と『なの』もそれに協力してたってのにさあ」
「それは、俺との個人的な問題で、開拓の旅で忙しい、お前達に迷惑かけてはいけないと思ってそれで……」
「それ、ここまでくればアンタとの個人的な問題じゃないでしょ、もう。カンパニーに制限かけられたら、私の開拓の旅だってどうなるか分からないんだからさー」
「……」
「丹恒一人で何でも解決しようとするから、駄目なんだよ。アンタを思ってカンパニーに従った、ただの人間の娘のの方が、よっぽど大人だ」
「……」
「私、無能力で無資格でも、彼女が何者でも、ステーションの応物課の倉庫に居座ってる、好きだったんだよ。時々、アンタ目当てに星穹列車に浮かれて乗ってくるを見るのも好きだった」
「……」
「まだ、がステーションを旅立つまで時間あるよね。それまで私の方で、かけあってみる」
「……かけあうって、何する気だ」
「アンタが動かないなら、私が動く。ヘルタはもちろん、ピノコニーの開拓の縁でカンパニーのジェイドも私の話くらい聞いてくれると思う」
「それは……」
「なの、行くよ」
「え、行くってどこに?」
丹恒は、ジェイド相手に張り切る開拓者を引き止めたかったが止める言葉が出ずに止められず、開拓者は丹恒を無視して背後に居る『なのか』に声をかける。
「これから、をどうにかしてステーションに残せないか、カンパニーの上層部の連中を説得できるかどうか、ジェイドだけじゃなく、アベンチュリンとか、トパーズとか、私もカンパニーの知り合い多いから、相談できるとこ、色々、あたってみる。ヘルタ以外の天才クラブの人間達にも話を聞いてもらおうと思う。『なの』も手伝ってくれる?」
「もちろん! ウチも、がステーションに残れるなら、残ってて欲しいって思うよ。ウチ、開拓者についていくよ」
それから。
「それから、御空、符玄。こんな祭りの忙しい時に悪いけど、先に、カンパニー上層部相手にどうすればいいか、の相談したいんだけど、いい?」
「そうね。頼りない男性陣よりは、私達に相談してくれた方が道が開けるかもしれないわ。私、開拓者がそうくると思って、素裳をにつけたのよ」
「まあ、乗りかかった船か。仕方ない。卜者の中でも太卜への相談料は、高くつくぞ。私も開拓者と御空のそれが分かって、青雀をあの娘につけたからな」
開拓者に言われて御空、符玄もそれに従うように席を立ち、動かない丹恒の横を通り過ぎていく。
ばたん。符玄が出て行った事で、会議室には丹恒、景元の男達だけが残る。
景元は、そこから動かない丹恒に向けて、遠慮がちに声をかけた。
「あー、丹恒殿。そこでずっと突っ立ってるつもりかい? 私も一応、祭りの準備で忙しい身なんだけれどね」
「……悪い、これからは彦卿をつけず、一人にしてくれ」
丹恒は、景元に言われたのが利いたのかようやく動き、それだけ言い残し、しかし、ふらついた状態で部屋を出て行ってくれた。
景元も丹恒のそれにほっとしたところ、で。
「将軍様、さっき、開拓者先生達、それから、丹恒先生が出て行くのを見たので話し合い終わったのかと来たけど、丹恒先生と、どうなったの? それから丹恒先生、僕の世話は必要ない、一人にしてくれって話して、部屋にこもっちゃったけど」
ひょっこり顔を出してきたのは、丹恒の世話をした後、彼らの話し合いの様子を別室で伺っていた彦卿である。
「あー。丹恒殿と嬢はカンパニーの予定通りに破綻決定、それに反発した開拓者殿と三月殿が御空舵取と符玄殿を連れていったよ。彦卿はその場に居なくて良かったと思う」
「うわー。将軍、よく、あの女性陣の中で生きてたね……」
景元の話で全てを察した彦卿は、その場についていた景元に思い切り同情し、開拓者達の仕業に震える。
そして。
景元から会議室で丹恒との間に何があったのか話を聞いた彦卿は、一言。
「丹恒先生て、龍尊の飲月でなくてもあの顔とその強さで女性人気凄いのに、肝心の女性の扱い下手だよねー」
「はは。丹恒殿、彦卿にそれ言われるとは思わないだろうなあ……」
「それで思い出したんだけど仙舟の歴代の龍尊て、女性絡みで色々失敗してるんでしょ? ほら、丹恒先生の前世だっていう丹楓さんもそれじゃなかったっけ。丹恒先生、龍尊の力だけじゃなくて、そういうへんなとこも継いでるのかなー」
「さすが彦卿、痛いとこつくねー。それの通りで丹恒殿の前世の丹楓殿含め、歴代の龍尊も女性にモテるのはいいが扱い下手でそれで色々失敗してるんだよな……。丹恒殿も歴代龍尊のそこを受け継いでいるのかと思わなくもないが、まあ、開拓者達がカンパニーに目をつけられた嬢を何とかするみたいだから、私達は彼女達を見守るだけに徹した方がいい」
「そういう将軍も女性に弱いからね、単純に御空舵取と太卜を連れていった開拓者先生が怖くて女性陣に近付けないだけじゃないの?」
「……」
「僕、後で将軍の代わりにカンパニーとどうなったか、開拓者先生達に聞いてきてあげるよ」
「……すまない、助かる」
景元は、この時ばかりは、彦卿の立ち回りに感謝したという。