07:指先にオレンジ(07)

「うわー、此処が丹鼎司? 今まで行った星槎海中枢や長楽天と違った雰囲気、古風で、素敵な街ね!」

「うん。丹鼎司は医者が多い薬師の街でもあるから、丹恒の言う通りで、そこに目当てのいい酒があるのは納得かな」

「だね。そうだ、丹鼎司で、アタシ達の雲騎軍の中で評判のお店、知ってるんだ。そこ、お酒だけじゃなくてご飯も美味しいから、行ってみない?」

 は、最先端の技術で管理されて各地から最新な物が揃う星槎海中枢や長楽天と違い、丹鼎司は仙舟の伝統や風習が残る、古風な街並みを見て、感動した。

 青雀は、この丹鼎司なら良い酒があるという丹恒の情報は納得するものだと、に話した。

 は素裳の話で、雲騎軍の中で評判の店なら当たりだろうと思い、「素裳のいう雲騎軍で評判のお店、連れて行って」と、彼女に頼んだ。素裳は「任せて」と、張り切って、と青雀をその店に案内する。

 そしては今まで行った街――星槎海中枢や長楽天だけではなく、この丹鼎司にもあるものが飾られているのを見て、前を歩く青雀に聞いた。

「ねえ、長楽天でもそうだったけど、丹鼎司でもそこらじゅうに提灯飾ってあるの、明日がお祭りのせい?」

「そうそう。星槎レースは夜時間に開催されるから、提灯の明かりと星槎の軌跡が重なって、仙舟各地が幻想的になるんだ。その星槎レースのコースで見応えあって人気なのはやっぱり、雲海を統べる長楽天かなー」

「へえ。それは、楽しみね。でも今は夕暮れ時、まだ明るい時間帯だから、そこまでのものじゃないわね」

「そういえば今、システム時間でいえば夜じゃなかったっけ?」

「え、そうなの?」

「確か手持ちの端末で確認できる……、あ、ほら、システム時間でいえばもう夜、夜中だよ」

「夜中……、嘘、もう、そんな時間経ってたの?」

 青雀は手持ちの端末を取り出し、時間を確認した。

 は現在時間が夜だと知って、来た時と変わらない空の色を見詰めた。

「空の色、来た時と変わらず、オレンジ色で変わりないけど……」

「ああ。うちらの仙舟同盟の空は特別な天幕に覆われていて、空の色や雨や風といった天候は天舶司の御空様の管制室で管理されてるんだよ。そういっても普通は朝の時間になれば朝日が、夜の時間になれば月が出るんだけどさ、お祭りや特別な日はイベントにあわせて、御空様の手で色々な空の色が楽しめるってわけ。アンタ、それ、知らなかったの?」

「全然、知らなかった……。空の色だけじゃなくて天候も操れるなんて、それ、凄いシステムね」

「うん。外からの客人や観光客は、まず、そのシステムに驚くんだよねー。でも、自然な空の色が分からないのは、ステーションの人間も同じだと思ったけどね」

「……」

 は青雀からシステム時間では現在、夜と聞いて、胸がドキドキした。

 ――夜が来れば、薬を摂取しなければいけない時間がくる。今までは、手持ちのスタッフ専用の端末のアラームか、丹恒がそれを知らせてくれたけど、それらが何も使えない今はどうなる?

「……大丈夫、何も心配ない」

「え、何か言った?」

 ここで青雀は立ち止まり、同じく立ち止まって動かないを心配そうに見ている。

「な、なんでもない。それより、素裳が話してた雲騎軍の中でも評判だっていう居酒屋、ついたの?」

「うん。此処、素裳が話してた雲騎軍の中でも人気ある居酒屋だけど、祭りの影響か、激混みっぽい」

 青雀は辺りを見回し、店の中の席は満席で、外の席も空きはあるが人がいっぱいで賑わっている。

 は、此処まで案内してくれた素裳に聞いた。

「素裳、お店混んでるみたいだけど、どうするの?」

「そうだね……。、そこで待ってて。お店入れるかどうか、お店の人に聞いてくる」

「分かった」

 素裳に言われたはうなずき、彼女から離れる。

「青雀、一緒に来てくれる?」

「了解」

 素裳は青雀にそう言って、を置いて、二人で一緒に店の中に入っていった。

 一人で店の外に残されたは、祭りで浮かれて賑わう辺りを見回し、思う事があった。

 それは。

「……」

 歩いている最中、あの露天商が話していた通り、狐族の女性だけではなく、仙舟の女性達もペアバングルを身に着け、同じくそれを身に着けている相手の男と腕を組み、楽しそうに歩いている何組かのカップルの姿を見かけて、泣きたくなった。

「……(自分も今頃、彼らと同じような能力持ちだったら、丹恒とペアバングルつけて、仙舟の街を歩けてたのかな)」

 思う。

「……(私が無能力で無資格じゃなければ、カンパニーの上層部に目をつけられず、まだ、丹恒と一緒に居られたのかな)」

 思う。

「……(丹恒と二人だったら、此処よりも静かな場所でお酒飲めてたかも)」

 思う。

「……(丹恒、今、何してんのかな。今日、私のせいで色々迷惑かけたから、そのぶん、ちゃんと、休めてるかな……)」

 思う。

「……(明日の星槎レースの本番も、丹恒と一緒になれないかなあ。丹恒からすれば別れた女と一緒になりたくないだろうけど、せっかく、御空に頼んで見物用に良い席取ってくれたって話してくれたの、無駄になるよね、どうするんだろ……)」

 思うのは、思うのは。

 仙舟の街中を歩いて思うのは、何故か、丹恒の事ばかりだった。

「私は……」

!」

「!」

 考え事をしていたら店から戻ってきたらしい素裳に声をかけられて、ハッとした。

 素裳は心配そうに、を見詰める。

「どうしたの、ぼーっとして」

「な、何でもない。で、お店の状況、どうだって?」

「店主の話だとお祭りの影響でけっこう人が多くて、注文は受け付けるけど、飲むなら外の席で空きを探してくれって。どうする?」

「それ、外の席で知らない相手と相席になるって意味?」

「そう。がそういうの苦手なら、別のお店にするけど」

「歩いてる最中にほかのお店も見てたけど、お祭りの影響か、どこも満席っぽいわね。相席でも大丈夫」

が見知らぬ相手の相席が大丈夫そうなら、このお店でいいか」

「青雀は?」

「青雀は店主の話聞いた後、が座れそうな席探して来るって、そのへんうろついてる。これ、メニュー表。何がいい?」

「ええと、それじゃあ――」

「素裳! ! いい席見つけた! こっち来て!」

 がメニュー表を持った素裳から注文を取ろうとしたところ、席を探していたらしい青雀から声がかかった。

「いい席って――あら、本当にいい席見つけたんだ」

 青雀が大きく手を振っていたテーブル席に座っていたのは、ヒゲをたくわえた男性と、細身の綺麗な女性、それから。

 丹恒と同じ龍の角をとしっぽを持った小さな女の子、だった。


「白露様! 外まで、いらしてたんですか」

「うむ。祭り前夜に外に出ないで、どうするのじゃ」

 青雀だけではなく、素裳もその姿を見つけて、嬉しそうだった。

 白露というのは――。

「ひっ!」



 白露は、飲月化した丹恒と同じ龍の角としっぽを持っている。白露についているものは彼よりも小さなものだったが、は思わず青雀の後ろに隠れてしまった。

「なんじゃ。わしを見て逃げ出すとは、失礼な娘じゃな」

「え、ええと、その、あの」

 ぱんぱん。白露はの仕業に不機嫌そうに龍のしっぽを音を立て揺らすが、それに怯えるはどうしようもない。

 こほん。それに咳払いをしての助け舟を出したのは、雲騎軍として白露の世話をした事もある素裳であった。

「白露様。こちら、開拓者と同じヘルタ・ステーションから来た、ヘルタ・ステーションのスタッフのです。彼女が開拓者の知り合いであるというのは雲騎軍のアタシが保証できるので、そこまで気になさらないよう」

「何。そこのただの普通の人間の娘がヘルタ・ステーションのスタッフで、あの開拓者の知り合いとな。ああ、そういえば、開拓者からステーションのスタッフで面白い娘が居ると、何度か聞いた事があったわ。おぬしが、それか?」

「多分……」

「ふむ。確かに、わしを見るなり隠れるというのは、面白い娘じゃな。開拓者の話に聞いた通りだったか」

「……」

 はは。白露は愉快そうに笑うが、は笑えずに顔を引きつらせるだけだった。

 ひそひそ。青雀は白露が落ち着いたところを見計らいに耳打ちし、申し訳なさそうに言った。

、このお店で食事するとなれば座れる席、此処しかないんだけど……」

「白露様は、アタシと青雀で相手できるよ。その代わり、は地衡司の執行人である二人と一緒でいい?」

「うん、いいけど、地衡司の二人というのは……」

 素裳は改めて、白露と一緒に席についている男性と女性について、に紹介する。

、こちらは長楽天に事務所を構えている地衡司で主任の大毫殿、同じく地衡司執行人で大毫殿の秘書的存在の浄硯さん。二人とも、白露様の後見人でもあるの」

「初めまして。ヘルタ・ステーションから来た、です」

「どうも。、あなたの話は、青雀や素裳からだけじゃなく、ヘルタ・ステーションを根城としている開拓者達からも聞いてたわ」

「はい。ヘルタ・ステーションでも、開拓者達には色々、よくしてもらってます」

 に対応するのは地衡司主任の大毫ではなく、浄硯であった。

 は白露相手でなければいつもの調子を取り戻し、浄硯でも相手にできたのである。

「隣、いいですか」

「どうぞ。歓迎するわ」

 浄硯は、少し遠慮がちに自分の隣に空いている椅子に手をかけたを、快く迎え入れてくれた。

「ありがとう」

 は浄硯に礼を言って、席に座って、ようやく落ち着く事ができた。

 その間の白露は、素裳と青雀が相手してくれているので、その件は安心した。

 のその様子を見ていた大毫は、自身のヒゲをさすりながら、がヘルタ・ステーションのスタッフであると信じて疑わず、言った。

「天才クラブのヘルタが所有するヘルタ・ステーションのスタッフは、カンパニーの中でも優秀な人間が集まっていると聞いている。うちにも一人くらい、ヘルタのスタッフ、分けてくれんかなー」

「あら、主任、私だけではご不満で?」

「あ、いや、そういうわけでは……」

 大毫は秘書的存在である浄硯に睨まれ、身を縮こまらせるだけだった。

 浄硯は肩を竦め、の方を振り返って彼女に言った。

「かくいう私も一人くらい、ヘルタのステーションのスタッフが助手でつけばいいと思ってた所だったの。開拓者からそれの紹介状もらおうと思ってたけど、あなたでもいいわ、うちに入る気ない?」

「いえ、私はそこまでのものではないので……」

「そう、残念ね」

 ――自分はもうヘルタ・ステーションの人間ではないし、その資格を持った正式なスタッフでもない。

 はそれを飲み込み、浄硯の誘いを丁寧に断った。浄硯はに対してそれ以上の追及はせずあっさりしたもので、自分の前に出された酒を上品に飲んでいる。

「……」

 はあちこちで聞こえてくるヘルタ・ステーションの評判を改めて聞いて思う事があったが、現状では何も言えなかった。

「どうぞ」

 しばらくして、店員が、青雀、素裳の前に仙舟の酒と料理を持ってきた。

「やっぱ、ここの焼肉定食、美味しい~」

「うんうん。このお店の料理は、雲騎軍だけじゃなく、太卜司の卜者の間でも人気あって符玄様もよく来てるからね。高級レストランの料理が食べられなかったぶんの代わりとしては、十分だわー」

 素裳だけではなく、高級レストランの食事を食べ損ねた青雀も、この店の料理に満足している様子だった。

 は今は料理よりお酒が飲みたい気分だったので待望の仙舟の酒を一口飲んで、そして。

「あら、本当にここのお酒、美味しい……」

「おや、お嬢さん、『顔に似合わず』、いける口かね。仙舟の本場の酒は初心者には――外部の人間にはキツイと評判なんだが」

 素裳、青雀、――、この三人娘の中で一番大人しそうなが仙舟の酒を一口飲んで平気な顔をしているのに驚くのは、大毫であった。

 はにっこり微笑み、言う。

「ええ、私、顔に似合わず、お酒には目がないので、仙舟のお酒は一度味わいたいと思ってたんです。評判通りの味ですね。もう一杯、頂こうかしら」

「おお、そうきたか」

「あら、あら。主任相手にここまで言い返せる外部の人間、開拓者以外では久し振りね。おまけに、本当、顔に似合わず、いい飲みっぷりじゃないの。開拓者がステーションのスタッフでも、あなたを連れ歩くはずだわ。さっきは諦めたけど、まだ、あなたが欲しいのは変わりないわね」

 大毫は、大人しそうなお嬢様に見えたがそう言い返してくるとは思わず、額に手をあて、参った様子で笑う。

 ふふふ。浄硯は、大毫相手でも臆せず言い返し、更には遠慮なく豪快に酒を飲むを見て、彼女を気に入った様子だった。

 と。

「白露様、お祭りの前に開拓者に会いたいんですか」

「うむ。あの小娘――開拓者が祭りで仙舟に来ているのであれば、祭り当日でなくとも、開拓者と色々食べ歩きしたいんじゃが。祭りの期間しか出ない弁当もあるしな。そこのただの人間の娘、開拓者と知り合いなら、開拓者にわしが会いたがっていると、連絡取ってくれぬか」

 と同じ席で素裳、青雀と会話をしていた白露は、ついに、に声をかけてきた。

「私は……」

 は白露については、見て見ぬ振りをしていた。

 丹恒と同じ龍の角、龍の尾を持つ、龍尊の血を継ぐ少女の白露を見ていると、自分の格差を見せつけられ、逃げ出したくなるせいで。

 おまけに今、白露が所望する開拓者と『なのか』とは、まだ会いたくない気分だった。

 そのの気持ちを察してか、間に入るは、再びの素裳である。

「あ、あの、白露様、と開拓者は事情があって、現在、離れてるんですよ」

「うん? 何故、ただの普通の人間の娘と開拓者が離れてるんじゃ? そこのただの普通の人間の娘は、ヘルタのスタッフじゃないのか。それでどうして、開拓者と離れておる?」

「そういえば、お嬢さんはどうして、開拓者達と一緒じゃないのかね? 私もそれ、前から不思議だったが」

 白露の疑問に素裳は慌てるが、更にその疑問をつくのは大毫であった。

 と――。

「……ッ、ケホ、ケホッ」

?」

 突然、が胸に手をあて咳込み、苦しみ出した。

、大丈夫?」

 青ざめてうずくまるを心配するのは、青雀である。

「ちょっと、本当、どうしたの? ここの食事とお酒、あわなかったとか?」

 これには青雀だけではなく、素裳も心配して、の背中をさする。

「ごめん、空の色が変わらないしスタッフ専用の端末使えないしで薬の時間来てるの忘れてて、薬飲めば落ち着く、あれ、薬、どこやったか……」

 は必死にカバンから薬を探すが、薬はどこにもなく、見つからない。

 ケホ、ケホ。咳は続き、腹の痛みも酷く、頭や手に油汗がふきだす。

「ヤバイ、ほかの人の迷惑になるから席外すわ……」

!」

 ケホ、ケホ。の咳と腹の痛みは収まらず、とうとう、席から離れて、地べたに座り込んでしまった。

「ちょっと、アタシ、開拓者や無口君からがそんなだって、聞いてなかったんだけど」

「私もだよ。薬って、なんの薬がいるの? 此処、一応、薬市場だから、必要な薬があれば持って来られるけど」

「……」

 地べたで苦しそうにうずくまるの背中をさする素裳で、青雀から必要な薬はないかと聞かれるもは答えられなかった。

 その間、大毫は、こちらの様子を心配している居酒屋の店主にの様子を伝えに行くと言って、席を離れた。

 ところ、で。

「――おぬし、やられておるな?」

「あ……」

 素裳と青雀だけではなく、を心配して白露、浄硯の二人も来て、その中で白露だけはの症状を見抜いた様子だった。

「龍女様、彼女は……」

「うむ。彼女は、レギオンの毒にやられておる。わしらでも厄介なもんじゃ」

「!」

 浄硯もそれに気づきから後ずさり、口元に手をあてる。

がレギオンの毒にやられてる?! 本当ですか、それ」

、どうしてそれ黙ってたんだよ! 開拓者達――丹恒はそれ、知ってるの?!」

 素裳は白露に詰め寄り、青雀はに詰め寄る。

 はつらそうではあるが、素裳と青雀にそれぞれ、説明する。

「開拓者達に心配かける必要、ない、から……。丹恒は知ってる、必要な薬の成分も知ってるけどもう、私に構ってられないし、丹恒にこれ以上に迷惑かけては……」

、ここまでくればそんなの気にする事ない、私、開拓者呼ぶから!」

「アタシ、無口君、呼ぶよ。無口君なら、を気にせずとも薬の事くらい、教えてくれるでしょ」

 青雀は慌てて、手持ちの端末を使って開拓者と連絡を取った。素裳も止めるに構わず、丹恒に連絡を取る。

「開拓者達、すぐの所まで来てくれるって! 丹恒は?」

「えー、何で、無口君に何回連絡入れても通じないの! 何やってんだよ、あいつ!!」

「す、素裳、丹恒と繋がらないだけで、そこまでになるか? いつもの素裳じゃない」

「龍女様……」

 青雀の方は開拓者とすぐに連絡が取れて駆けつけてくれるとに伝えるも、素裳は通信を切っているのか丹恒と中々連絡がつかずにこれには、いら立ちを隠せず、白露はいつもの素裳らしからぬ乱暴な口調に怯えて浄硯に抱きつく。

「無口君! クッ、こうなれば、立場考えずに将軍様に繋いだ方が早い! いけえ!」

 素裳は丹恒に繋がらないので、立場も考えず、勢いだけで景元に連絡を入れる。

「……しかし、何で、ただの普通の人間の娘が、開拓者だけではなく、丹恒、そして、将軍とも関係しているのじゃ?」

 白露は、素裳がのために景元と連絡を入れている様子を、不思議そうに見詰めている。

 そして、ついに――。


!」

「大丈夫?!」

「あ……、……」


 青雀の連絡ですぐに現場まで駆けつけた開拓者と『なのか』の二人の声が聞こえたが、時間が来たせいか、あるいは、二人の声に安心したせいかは、そのまま意識を手放した。




 ――夢を見た。

 誰かと楽しそうに美味しいご飯を食べ、美味しいお酒を飲んでいる、楽しそうな自分の夢だった。

 こんな時でもそういう夢が見られるのかと思った。

 いや、目を覚ました時の地獄と比べれば、楽しい時間を映してくれる夢の方がマシという意味か。

 自分が座っている場所は、見覚えがあった。

 姫子の星穹列車にある、バーだ。

 バーではバーテンダーロボットのシャラップが酒を作り、席に座る面々に振舞っている。

 バーでお酒を飲んでいる自分を取り囲んでいるのは、酒ではなく普通のドリンクを飲んでいる開拓者と『なのか』、姫子とヴェルトの前にはお酒が、そして――。