「セレン!」
「……開拓者?」
目を覚ませば開拓者が自分の顔を心配そうに覗き込んでいるのが分かった。
自分はどうやら病院のベッドに寝かされているというのも、分かった。
開拓者はセレンの手を掴み、嬉しそうだった。
「良かった、目が覚めて。なの、セレンはもう大丈夫だって、別室に居る素裳と青雀、白露達に伝えて」
「りょーかい!」
開拓者のそばについていたらしい『なのか』の弾んだ声が聞こえ、彼女が部屋を出ていく音も聞こえた。
「此処は……」
「此処、丹鼎司にある病院の特別室」
「特別室? 私、仙舟ではそこまでの人間じゃないけど……」
「白露の配慮で、セレンをほかの患者さん達とは離れてる一人部屋にしてもらったってだけ。今、この部屋に居るの、私とセレンだけ。そこ、安心して」
「なのかは……」
「なのは、セレンの目が覚めたのを、別室で待っててくれてるセレンを助けてくれた素裳、青雀、それから、丹鼎司で遭遇した白露、大毫、浄硯に伝えにいった」
「……私、丹鼎司で仙舟に来た時と変わらない格好で飲んでたはずだけど、この着替え、開拓者と『なのか』がやってくれたの?」
そういうセレンは団子状にしていた髪型はほどかれておろされた状態で、ドレスも脱がされて仙舟式の病衣、白い浴衣を着せられていた。腹に新しい包帯が巻かれていたのも確認できた。
開拓者はうなずき、それを明かした。
「それは私と『なの』じゃなくて、白露の指示で軍人でその手の救助が手馴れてる素裳と、その助手として青雀がやってくれた。セレンの新しい包帯は、医者の資格持つ白露だよ」
「医者の白露様は分かるけど、着替えも素裳と青雀がやってくれたの?」
「セレン、後で、素裳と青雀にお礼言っておきなよ。着替えだけじゃなく、倒れたセレンのために担架を手配してくれて、セレンを此処まで運んでくれたのも素裳と青雀だから」
「……そうだったの。それは、素裳と青雀に感謝しないといけないわね」
倒れた自分を病院まで運んでくれて更には着替えまでしてくれたのが素裳と青雀によるものだと開拓者から聞いたセレンは、二人に随分と迷惑をかけてしまったようだと、色々反省して、感謝しかないと思った。
そして。
「セレン、自分がどうして倒れたか、分かる?」
「……」
「医者の白露によればセレンはレギオンの毒に侵されていて、それで、倒れたって。白露によればその症状、今回だけの話じゃないんだってね? セレン、アンタ、ステーションに居る間もそれで苦しんでたの?」
「……」
「何で、それ、私達に――いえ、私と『なの』に黙ってた」
「無能力の私が、開拓者と『なのか』に迷惑かけてはいけないと思って……」
「セレンは今までも十分、私と『なの』に迷惑かけてるじゃない。今更、それくらい、隠さないで」
「……」
開拓者は相変わらず手厳しいなと思いつつ、今は、彼女のその厳しさは丁度良いと思った。
セレンはうなずき、開拓者に観念したよう、それを打ち明ける。
「外からの侵略者が来た時に中央国家の第二王妃として、護衛のロイと調査に行ったさい、反レギオン軍に取り囲まれて、やられた」
「そう。丹恒によれば、それは丹恒がセレンの所に来る前の話で、そこで外部の人間――カンパニーの誰かに助けられたって話だけど」
「……」
「セレン」
はあ。セレンはもういいかと思って、開拓者ならいいかと思って、溜息を吐いた後、それをはじめて明かす決心をした。
これは、今まで丹恒にも伝えていない事実だった。
「私とロイをそこから助けてくれたの、カンパニーの人じゃなくて、丹恒と同じく宇宙から来た、星核ハンターだった」
「!」
セレンの思ってない告白に、開拓者は衝撃を受けるには十分だった。
と――。
ガンッ。同時期、扉の外で、何か、大きな音が聞こえた。
「な、何?」
「……、ほかの患者が何かやったんじゃない? 気にしないで」
セレンは外で聞こえた大きな音に震えるが、開拓者は彼女を落ち着かせるために背中をさすり、宥める。
セレンは開拓者のおかげで落ち着いて、星核ハンターと遭遇したその時の様子を話した。
「私とロイを助けてくれたの、カンパニーの人間じゃなくて、その時、私の国にある星核を狙いに来た星核ハンターだったのよ」
「星核ハンターの誰か、覚えてる?」
「名前分からないけど、男と女の二人組だった」
「男と女の二人組……。セレンとロイという人は何で、星核ハンターのその二人に助けられたの? その時の事、覚えてる?」
「うん。私とロイを助けてくれたのは、男じゃなくて、女の方だった」
「女の方? それ、何で分かるの」
「その女の人、第二王妃として調査隊に入ってた私を見て、それのせいでレギオンにやられた私を見て、『男にいいように扱われて、可哀想に。これだから、宇宙科学も分からない文明レベルの低い星は嫌いなの』って、吐き捨てるように言ったの、覚えてるから……」
「――」
それは。
「は、はは、あはは、『彼女』らしい台詞だわ、それ」
開拓者はそれはとても『彼女』らしい台詞だと思って、腹を抱えて笑う。
「え。開拓者、その星核ハンターの女と知り合いなの?」
「いや、全然?」
「……」
セレンは、笑いを堪えて涙目になる開拓者、全然説得力ないわと思うも、今はそれを追求できる力はない。
「その星核ハンターの二人組、何でセレンの星まで来てセレンを助けてくれたのか分かる?」
「そのあとの話なんだけど――私の旦那様である国王陛下のウォルターは、私とロイを助けてくれた星核ハンターっていう二人組からその事情を聞いてたみたいでね」
これから先は、セレンは国王、ウォルター・ディアンの話で伝え聞いたものだと、開拓者に話した。
「ウォルターによれば星核ハンターの二人組は、ウォルターのディアン国に眠る星核はもうすぐ爆発寸前で爆発すれば周辺の星が危険にさらされる、その前に自分達が手をかければすぐにでも壊れて爆発してその被害を最小限にできるのでそうしたい、自然爆発を待つより、自分達の手でその芽を摘んだ方がいいって。
星核ハンターの二人が私とロイをそこから助けてくれたのは、第二王妃とその護衛を助ければ、国王陛下のウォルターとそれについて交渉する材料として最適だと判断したとか」
「なるほど、第二王妃のセレンとその護衛のロイという人が国王陛下の交渉の材料になるので助けたのは、分かる。でも何で、星核ハンターの二人は、被害を最小限にしたいから今のうちに国王の星核を爆発させたいって、その周辺にセレンの星以外の大事な何かがあったの?」
「その時の私とウォルターはそれが何なのか分からなかったけど、列車が――星穹列車がこの星の周辺を通りかかる、そのさいに列車がウォルターのディアン国の星核の爆発に巻き込まれたら困るから、今のうちに私達の星を処分したいって……」
「――」
開拓者はセレンからその話を聞いて、心の奥底に痛みを感じた。
ところで。
ガンッ! と、また、外で大きい音が聞こえた。
「さっきから、何? 私以外の患者さんの仕業なら、怖いんだけど……」
「今のは、風の音じゃない? 気にしないで」
セレンはさっきから扉の外から聞こえる大きな音に震えるが、開拓者は「気にするな」と笑顔で言うだけだった。
セレンは溜息を一つ吐いた後、開拓者に続きを話した。
ウォルターはしかし、星核ハンターの話を断り、最初は彼らを追い返した。星核ハンターの二人はウォルターが一筋縄ではいかないと悟り、下級兵士のレギオン、そして、敵国の兵士をけしかけてディアン国に戦争を仕掛け、彼を狙うように仕向けた。ウィルターはそれがレギオンだけではなく、星核ハンターの二人の仕業であると分かったうえで、その侵略者を食い止めるため、海岸の最前線で彼らに唯一対抗できる力を持った強化兵のロイを投入していたのである。
「でも、その途中で私の星に星核集めをしていたヘルタに派遣され、同じように星核を狙う反レギオン軍からウォルターの国を助けにきたっていう丹恒が現れたのよ。星核ハンターの二人は列車で丹恒が来たのを知ってウォルターの星核を諦めて、私の星をさっさと脱出したみたいだった」
「そんな事が……。で、セレンは故郷でレギオンや敵国の兵士から丹恒に助けられるうち、国王陛下に隠れて、丹恒と関係持ったの?」
「うん。私、それまで、クロム国の第二王女として年頃で相手探さなくちゃいけなかったんだけど、クロム国の国王とはいえ敵国に兵器を売る武器商人で色々あくどい事しててそれで色んな所から恨み買ってた父親のせいで、お見合いしても失敗続き、国王として跡継ぎが必要だったウォルターしか拾ってくれる所がなかったんだよ」
「へえ。跡継ぎが必要でもそんなセレンを拾ってくれるなんて国王陛下て、だいぶん、お人好し?」
「そうね。国王陛下は、お人好しで、国民に慕われてた。第二王妃でも男漁りに来たって国民に嫌われてた私と違って」
「そう……」
「その中で丹恒は、第二王妃でもレギオンから私を守ってくれる護衛役で来てくれて、こんな私でもレギオンから守る一番の対象だって言ってくれた。常に二番手だった私を一番に思ってるって」
「うわ。それ、月並みな口説き文句じゃん。セレン、そんな簡単なもので丹恒に引っ掛かったの?」
「はは。丹恒はウォルターの星核目当てで私にそう言ったのかもしれないけど、私の方は今まで国王陛下だけでなくても一番になれずに二番目扱いが多くて男に雑に扱われてたぶん、それに思わず本気になったっていうか」
セレンは照れ臭そうに、自分の髪をいじる。
開拓者はセレンに呆れながらも、追及する手をゆるめない。
「国王陛下の方は、セレンと丹恒の関係、分かってるの?」
「ウォルターは、私と丹恒との関係、知ってて知らない振りしてくれてたみたい。それ判明したのは、私の家族の裏切りのせいで人間同士の暴動起きてクロムの生き残りの私が、同じクロムの人間に狙われて引きずり出されて首狙われた所を助けてくれたの、ウォルターでね。その時、ウォルターが打ち明けてくれた」
「え。その時、丹恒じゃなく、国王陛下が、裏切り者で処刑されそうになったセレンを助けてくれたの?」
「そう。ウォルターの説得でその処刑免れた私は、ウォルターの手で、星穹列車に乗って宇宙に帰るっていう丹恒の前まで来られたんだよ。丹恒は、ウォルターがそこまで私を連れてきてくれるの信じて、私を待っててくれたの。私はウォルターに別れを告げて、丹恒と一緒に星穹列車に乗って地獄と化した故郷を脱出できたってわけ」
「……ねえ、その後の国王陛下は、どうなったの? 国王陛下もセレンと一緒に列車に乗ってその地獄から脱出できたの?」
「いえ。ウォルターは私の護衛だったロイ、それから、第一王妃様は、私の星に残ってるわ」
「ええ。国王陛下、まだ、セレンの故郷――レギオンで焼け野原になって地獄と化した国に残ってるんだ? それで、セレンだけ丹恒とステーションに脱出したの?」
それはどうなんだ。開拓者は、国王だけが地獄と化した現地に残り、セレンだけが助かっている事を知って、怪訝な顔になる。
セレンは開拓者の反応が分かったうで、その現状を話した。
「ウォルターは、これから国を立て直すには自分が必要、更には、どんな世界になってもそこから動きたくないという第一王妃様のために、現地に残ったの。丹恒が来る前、ずっと私の護衛してくれてて、その時に一緒にレギオンにやられたロイも私から離れて、ウォルターと第一王妃様を守るために現地に残ってる」
あれだけセレンと一緒にいた護衛のロイは、セレンと宇宙には行かず、ウォルターをレギオン以外の敵――狂った人間達から守る必要があると言って、現地に残った。ロイは多分、今まで強制的に言う事を聞かされていた父の手から離れて自由になったというのが、セレンでも分かった。セレンはロイを快く手放し、彼をウォルターにつけたのだった。
因みにロイは薬物強化で出来た強化兵であるため、レギオンの毒はあっさり克服、セレンのような薬は必要ないと、ロイにも薬を持ってきた丹恒に向けて笑って話している。
セレンはその時を思い出しながら、開拓者に続ける。
「それから、私が丹恒の手を取って宇宙にまで出た理由、丹恒に惚れた自分のためだけじゃないんだけどね」
「どういう意味?」
「私の故郷がめちゃくちゃになったのは本来はウォルターの星核目当てに人間同士の戦争を仕掛けた星核ハンターと反レギオン軍のせいなのに、それで私達と同じような歴史を持ってる――宇宙科学も分からない文明レベルの低い周辺の星の歴史が変わると面倒だからって、ヘルタ達の手で現地の人間達はそれの記憶消されて、クロム国の反乱のせい、更にはクロムの王族の生き残りの私のせいにされてるから」
「な――」
その理由を知った開拓者は、思わず、セレンから離れた。
セレンは構わず、続ける。
「私の故郷では、現地の人間達の間で、こうなった原因はクロムの裏切り、クロムの王族の生き残りの私のせいってされてる。クロムの私が現地に残ってると、今まで収まってたのに再度、暴動が起きて、今より酷い状況になるってウォルターが話した。
ウォルターは、私がそこから逃げられて密かに生き残っていてもそれが国民に分かれば今後の国の再建が難しくなる、丹恒と宇宙に逃げられるなら逃げた方がいいって言って、私がクロムの人間の手で処刑される寸前、自らの手でそれを制して、丹恒に私を引き渡して、宇宙まで逃がしてくれたのよ」
「はあ。国王陛下、国の再建の邪魔になるからって自分の手でセレンを逃がすため、丹恒にセレンを渡したの? とことん、お人好しだなあ……」
「そうだね。国王陛下のお人好しのせいで、私、今でもウォルターと籍が抜けられないんだよ。元々、お互いの利益を得るための政略結婚だったとしても、ウォルターに助けられてばっかりの人生だった」
「……」
「私は丹恒と宇宙に出る時、ウォルターの前で彼の最期まで、私もディアンの第二王妃としてその名前を捨てない誓いを立てた。丹恒もそれ分かったうえで、宇宙でも、私との付き合い続けてくれてたのよ。だから宇宙に来た今でも、セレン・ディアンを捨てられずにデータだけ残ってる」
「……そうだったの。それでセレンが宇宙に来た事に関して国王陛下が納得してるのであれば――、国王陛下自ら、丹恒とセレンの関係が分かったうえでセレンを丹恒に渡して、丹恒も国王陛下のそれに納得したのであれば、二人の関係についてこれ以上、追及する必要ないかな」
「開拓者、ありがとう」
セレンはこの時ほど、開拓者のさっぱりした性格に救われた事はないと思った。
それから。
「それから、もう一つ、開拓者に話しておきたい事がある」
「え、これ以外にまだ何かあるの?」
「この話、宇宙では私と丹恒以外では、ヘルタ、アスター、姫子の三人しか知られてないんだけど。ここで開拓者に話した方が、気が楽になると思って」
「あれ。ヘルタ、アスター、姫子、厳選された人間達は分かるけど、何で、その中で、ヴェルトだけ、のけ者? 姫子はそれ話して良かったの?」
「丹恒はそれ、ヴェルトさんに話せば親身になって協力してくれるだろうけど、それだから、開拓以外の話で負担かけたくないって黙ってる事にしたの。姫子は、ヴェルトさんと違って放任主義だから、それ聞いた後にその件については私と丹恒に任せるって言って、それ以降はその件に関して口出ししてこなかったから、ありがたかった」
「なるほど。丹恒、姫子信者のほか、ヴェルト信者でもあるから、ヴェルトに開拓以外の話で負担かけたくなくて、気遣ったのか。姫子は放任主義でほったらかしてくれるから気が楽ってのは分かる」
うん。開拓者は、ヴェルトと姫子の違いに納得した様子で、うなずく。
セレンは言う。
「それ踏まえてなんだけど、私ね、ステーションでは万有応物課であるのを利用して、ウォルターに私の世界にはなかったもの――色々便利な宇宙科学アイテム、ヘルタとアスターに内緒で、レギオンのせいで焼け野原になった故郷にこっそり送ってたんだよね」
「は? セレン、ステーションに来てから万有応物課であるのを利用して、セレンの世界になかった宇宙科学のアイテム、ヘルタとアスターに内緒で、レギオンのせいで焼け野原になった故郷にこっそり送ってたの?」
「そう。私が宇宙に来てから一年経った今、故郷に残ってるウォルターから、レギオンのせいで焼け野原になって干からびた土地では緑化は無理って言われてたけど、それのおかげで自国の王国周辺に限るけど緑化に成功して、それにあわせるようにバラバラになってた国民達も戻ってきて、少しずつ農業も再開して作物も育つようになって、一つの村が出来上がったって嬉しそうに報告してくれた。
あと一年か二年経てば村から街になって、五年後くらいには、地下しか残らなかった城の再建も叶う、今まで塞ぎ込んで調子悪かった第一王妃様もそれ聞いて明るくなったって、私もウォルターからその話を聞いた時は、嬉しかったなー」
「ち、ちょっと、待って。レギオンにやられたセレンの故郷の人間達は、周辺の宇宙科学も分からない文明レベルの低い星にあわせて、ヘルタ達の手で記憶消されたんじゃないの? それでさっき、レギオンのせいなのに、クロムの王族のセレンのせいにされてるって」
「それね。一部の人間達はそれで宇宙に関する記憶消されてるけど、ヘルタの計らいで、ウォルターとロイ、第一王妃様、それ以外、私と丹恒を支持してくれた人間達だけ、その時の記憶――丹恒とレギオンといった宇宙についての記憶、残るようにしてくれた」
「ヘルタの計らいって、国王陛下だけじゃなく、それだけの人間達が宇宙に関する記憶残ってるの、セレンの真実に関する記憶を忘れさせないための措置?」
「そうみたい。それ以外、今後、世代交代が進んでそれが宇宙からの侵略者、星核ハンターと反レギオン軍の仕業であると明かせる段階になったさい、丹恒と関係持った私より、現地の国王陛下とロイ達の証言も重要になるからって、ヘルタが言ってた。後の世代に、反レギオン軍の襲来の話、伝説として残せるようになるからって」
「なるほど。それ、ヤリーロのブローニャ達の世界でも似たような話あったな。かつて、反レギオン軍が宇宙から襲撃した時の話が伝承で残ってるから、ブローニャ達の世代でそれに対応できたとか……」
うん。開拓者は、セレンとヘルタが現地の人間の中で、国王とその護衛のロイ、第一王妃だけ反レギオン軍に関する記憶を残した理由を知って、ヤリーロのブローニャ達の例もあるのでそれには一応、納得した。
納得した部分はあるが、まだ、納得できない部分はあった。それは。
「だけど、セレンの手でその記憶残ってる国王陛下あてに世界になかった宇宙科学アイテム送って王国再建させてるって、それこそ、ステーションやカンパニーの規約違反で、周辺の星の世界の歴史変わって、カンパニーの上層部達から睨まれて危険なんじゃ……」
「うん。ヘルタとアスターに、私の故郷がそれから緑化計画成功した時に私がこっそり故郷に宇宙科学アイテム横流ししてるのがバレちゃって、それも問題視してたかな。カンパニーの資格持たない人間がそれはよくないって。でも私、それ無視して、ステーションの宇宙科学アイテム使って、故郷の王国再建続けてたんだ」
「セレンは何でヘルタとアスターのそれ、無視してたの」
「私としては、これくらいして当然と思ってる。私の星が滅んだの私のせいじゃなくて、星核目当てに国同士を戦争させようとしてた星核ハンターの二人と反レギオン軍のせい、もっと言えば、私の家族を信用した丹恒の失敗のせいだもの」
「うわ、それ、ハッキリ言うんだ」
「うん。それで、私の星以外の周辺の文明レベルの低い星の歴史変わるなら、反レギオン軍だけじゃなく、星核ハンターが来た時点で、もうとっくに変わってるんじゃないの? それに、周辺を気遣うなら、私の星だけ、何でこんな目にあわなくちゃいけないのよ」
「……」
「おまけに宇宙科学アイテム送るといっても重機とか兵器とか大がかりのものじゃなくて、植物の成長促す活性剤や動物の繁殖用の薬といった薬品類に限るから、これくらいいいでしょ、宇宙まで来た私の手で、現地に残っているウォルター達に手を貸しても良いと思わない?」
「それはそうだけども……」
セレンは開拓者が何も言い返せないのを知って、続ける。
「で、私だけじゃそこまでできないから、丹恒もそれに責任感じてたのか、どうやってウォルターの国を再建すればいいか、現地にどんな宇宙科学のアイテム送ればいいか、私に色々アドバイスしてくれてたんだよね」
「え、丹恒もセレンのそれに関わってたの?」
「うん。ほら、丹恒、列車の護衛役だけじゃなくて、そのへんの生態系に詳しい生物学者で、更に、科学雑誌にもその論文がのるほどの科学者じゃない。開拓者も丹恒のそれ、知ってるでしょ?」
「ああ、そういえばそうだった。丹恒、現在は列車の護衛役の方が有名だけど、実は、ヘルタ・ステーションのスタッフや、ヘルタを中心とした天才クラブの面々も一目置くほどの科学者だったわ」
開拓者も丹恒の裏の顔――学者であるのを思い出し、彼がセレンの王国再建に手を貸しているのは納得した。
「それでね、その丹恒の的確なアドバイスのおかげで、宇宙科学のアイテム使っても十年くらいかかるだろうって言われてた故郷の緑化計画、一年足らずで成功したのは感動した。土地全体じゃなくて、ウォルターの王国周辺に限るけど」
「はあ、セレンが学者の丹恒と手を組んで、裏でヘルタ達に内緒で自分の焼け野原と化した故郷をその世界にない宇宙科学アイテム駆使して、王国再建してたとは、恐れ入ったわ」
「ヘルタとアスターにバレた後でも、私のその言い分聞いたうえで、私だけじゃなくて科学者の丹恒がついてるなら周辺の世界にあまり影響与えないようにやってくれてるだろうから、それに関しては黙認する、カンパニーのジェイドや、上層部達にもその件は隠しておくって言ってくれたの」
ひといき。
「あと、ヘルタに関してなんだけど彼女、私と丹恒の王国再建の実際の様子見て感心したようで、一年足らずで焼け野原で干からびた世界をここまで復活させたのはよくやったと思う、私がカンパニーの資格得られれば、丹恒と同じく生物学者で科学者の天才クラブの一員、ルアン・メェイを紹介してくれるって言ってくれた。
その時、私も丹恒も最初は責任感でやってたけど、それがヘルタに認められて嬉しくて、ここまでやって良かったと思った」
「マジか。科学者の丹恒がついてるとはいえ、一年足らずであのヘルタを感心させるほどの王国再建やってのけて、おまけにヘルタから同じ天才クラブの科学者、ルアン・メェイを紹介してくれる約束取り付たって、私から見ても凄い話じゃないの」
「そこで、その時に、ヘルタの真の姿――、いつもの機械人形じゃない、本体のマダム・ヘルタの姿も見られたんだ。ヘルタは、この本当の姿の自分を見せたスタッフは少ない、貴重な体験を無駄にしないでって、その姿に驚く私と丹恒を前に、笑ってた。
それからマダム・ヘルタは私と丹恒に向けて、私の世界になかった宇宙科学アイテム使って王国再建するなら、この手も使えばいいって、色々教えてくれるようになった。それが縁で時々、丹恒とマダム・ヘルタの間で王国再建についての議論するようになってね、丹恒も私についてるだけで自分がこんな目にあうとは思わなかったって笑ってたなあ」
「ああ、それで、セレンの正体明かす時、マダム・ヘルタの姿で来たんだ」
「そういう事。これで、私が隠してた話は、全部かな。ここで全部、開拓者に打ち明けられて、楽になったわ」
「そう、それは良かった。私もセレンの全てを聞いて、理解出来たと思う。セレン、アンタ、現地の焼け野原になって干からびた土地に残ってる国王陛下のために単独でそこまでするなんて、最高の第二王妃様じゃん」
「ありがとう」
しかし、開拓者はある疑問を持った。
「いやでもさ、それ聞いて思ったんだけど、セレンが丹恒と別れたら、セレン一人で王国再建しなくちゃいけないんでしょ。カンパニーの再教育受けて資格もらえればその宇宙科学扱えてヘルタからルアン・メェイを紹介されるといっても、科学者の丹恒抜きで、セレン一人でやっていけるの?」
「それなんだけど。私と丹恒が別れちゃったら今後、科学者の丹恒のアドバイスが使えなくなるの、私だけじゃなくて現地に残ってるウォルター達にとっても厳しいと思ってたけど、ヘルタによればカンパニー本社には、丹恒レベルの科学者が多いらしくて、そこからスカウトするのもありだって言ってたから、そこで王国再建に協力できる人材見つけられれば何とかなるかなって」
「そうなんだ。それは良かったけど、セレンはでも、やっぱり、自分とその国王陛下、その王国をよく知ってくれてる丹恒のアドバイスあった方が良いんじゃない? ほかの人だとそこまで協力してくれないかもよ? その、ルアン・メェイもセレンに丹恒付きだからこそ、協力してくれるんじゃないかと思うんだけど」
「……丹恒はその時は私より、開拓を続けていくうち、別の新しい優秀な女とよろしくやってるわよ。私は、私とは別の、新しい開拓の道を進む彼の邪魔しない方がいいと思う。ルアン・メェイも、丹恒抜きだと応じてくれなかったら、それはそれで諦めるしかない」
「セレン……」
ふい、と。セレンはそこを考えないよう、開拓者から顔を背ける。
セレンは言う。
「私もカンパニー本社であるなら、丹恒と同じような科学者が居ると思うから、そこでどうにかして、丹恒以外の新しい人材見付けてくるよ。学園を卒業してカンパニーに入社出来れば、丹恒以外のその人と一緒にウォルターの王国再建を再開出来てると思う。開拓者はそこ、あまり気にしないで――」
「――セレン、丹恒と本当に別れたいと思ってる? 本当に丹恒以外の科学者と、国王陛下の国、再建したいと思ってる?」
ぐっと。開拓者はセレンの言葉を遮るよう、彼女の手を強く握り、強い言葉でそう聞いた。
セレンは開拓者に負けず、言い訳を続ける。
「……何度も言わせないで。私はもう、私の事で、開拓の旅を続ける丹恒に負担かけたくないの。丹恒は、私以外の女の方が上手い具合に開拓の旅が出来ると思うわ。ヘルタと姫子に色々投資してるカンパニーの上層部が無能力で無資格の私と違って、龍の力を持つ丹恒の関係をよく思わないのも分かるし、ヘルタとジェイドの言うよう、ここで別れた方が、丹恒のため、私のためでもあるんだから」
「セレン。セレンが持ってたレギオン用の特効薬ね、ヘルタ・ステーションでしか扱ってないもの、仙舟の丹鼎司でも手に入れるのは難しいものだって、白露から聞いた。ステーションでも普通、セレンのⅡ階級ではそこまでの薬扱えないんだけど、丹恒が交渉したおかげでセレンもその特効薬もらえてるっていう話も聞いてるんだけど」
「……」
「それ以外でも丹恒はね、私と『なの』の三人で開拓の旅を続けている間も、隙を見てセレンの所まで戻ってた。丹恒ってば私と『なの』が仕事終わりに食事に誘っても、セレンが待ってるからって、それ断ってさっさとステーションに帰ってたの、何度か見てる」
「……」
「これで分かるよう、あの星からセレンを連れ出した丹恒のセレンへの想いは本物だ。で、セレンはどうなの?」
「どうって……」
「セレン、仙舟で丹恒と離れている間――私と『なの』で長楽天を、素裳と青雀で丹鼎司を歩いている間、丹恒の事、忘れられた?」
「それは……」
「セレンは、この仙舟に来て丹恒を忘れて離れようと思ったけど、実際は、丹恒が忘れられない、丹恒と離れられないの、再確認しただけじゃないの?」
「……何でそれ、開拓者に分かるの? 誰に聞いたのそれ」
「誰に聞かなくても分かるよ。セレンてば、レギオンの毒で倒れた時、私の前だけじゃなく、治療を続けてくれてる白露達の前でも構わず、丹恒ばかり求めてたから」
「!」
途端、セレンの顔が真っ赤になる。
開拓者はニヤニヤ笑いながら、その時の状況をセレンに聞かせた。
「セレンが病室に運ばれてレギオンの毒でうなされてる間、丹恒に会いたい、私を治せるの丹恒だけ、丹恒の手握りたい、そればっかり。これには素裳や青雀だけじゃなく、白露達も呆れてたよ~。白露いわく、病気で弱ってる時は本音が出やすいんだってね~」
「ち、違う、本当に私のレギオンの毒を治せるの、宇宙では丹恒だけだって思い込んでただけ! 宇宙に来てからは色々治療法あるの分かったから、もう、丹恒に頼らないですむから!」
「それだけじゃなくてさー、セレン、丹鼎司でペアバングル身に着けて歩いてるカップルを恨めしそうに見詰めてたんだってねー。それ、素裳と青雀が話してたよ」
「!」
あれ、見られてたのか! ニヤニヤ笑って報告する開拓者と、トドメを刺されてベッドに伏せるセレンと。
否定もしないセレンに、開拓者は続ける。
「本当はセレン、丹恒と別れたくないんでしょ? ステーションを出た後もどうにかして、まだ、丹恒と繋がってたいんだよね? 最後まで――街が出来て国王陛下の城が建つまでは、丹恒と一緒に王国再建したいんでしょ」
「……」
「セレン。この部屋には私とセレンしか居ない。セレンの本当の気持ち、私の前で吐き出した方がスッキリできると思うんだけど」
「開拓者……」
開拓者の優しさは、セレンにも伝わる。ああ、これが、今まで開拓してきた開拓者の力かとも思い知った。
「私、本当はこんな事で――カンパニーの上層部に言われたからって、丹恒と別れたくないと思ってたんだよ。だけどカンパニーに言われてた通りで、仙舟で開拓者達とレギオン化したものに飲月化した丹恒の姿見て、龍を操り、雨や風を巻き起こすその丹恒見て震えたのは事実。でも……」
「でも?」
「でも飲月の丹恒を間近で見れば素の丹恒と変わらず美しいと思ったし、飲月の丹恒も素の丹恒も、どっちの丹恒も、ほかの女に取られたくないと思った」
「うん」
「それで別れた決心した後も、ステーションを出た後もどうにかしてまだ丹恒と繋がってたい、カンパニーの再教育受けてる間も丹恒と一緒に居たい、ウォルターの王国再建も丹恒と一緒の方がいい、ほかの人はそこまでしてくれないの分かる、開拓者と『なのか』だけじゃなく、素裳と青雀と歩いている間も、そればかり考えてた」
「うん」
「でも、本当に私が仙舟で力を持つ龍尊であるその飲月の姿を間近で見た時、その丹恒と付き合えるわけない、長続きしないのは分かったから、だから、うう、その中で丹恒が新しい女と一緒に居るの見たくない、カンパニーに従ってここで別れた方が後腐れないって、身のためだって思った、だから、此処まで来たの、ひっ、私はでも、まだ、丹恒と離れたくない、別れたくないって――」
「うん――て、あら」
自分の思いを吐き出している間にあふれるものがあり、開拓者の前で泣いてはいけないと思いつつその涙は止まらず、顔を隠しているのが良かったのか悪かったのか、『それ』が一緒に居た『なのか』の静止を振り切り、部屋に入ってきた事に気が付かなかった。
セレンは強い力で引っ張られて何事かと思う間もなく、『彼』に、抱かれていた。
そして。
「――セレン、俺が全部、悪かった。別れるの、取り消せ。それから、セレンの専属護衛とウォルターの王国再建も俺の手で続けさせてくれ。これ以上、危なっかしくて、見てられん」
「は、え、何で、素の丹恒が此処に居るの、というか今までの話、全部聞いて……!」
顔を真っ赤にして戸惑うセレンに構わず彼女を抱えたまま、彼――飲月ではない素の丹恒は、部屋に入ってきた自分に驚きもせずに見守るだけの開拓者、それから、同じく一緒に部屋に入って来た『なのか』に告げる。
「開拓者、三月、悪いが、セレン連れてくぞ。二人きりで話し合いがしたい」
「了解。とことん、セレンと話し合ってこい。結果次第で、私も『なの』も、カンパニーの奴らとヘルタ達説得するの、協力するからさ」
「ウチも同じく。頑張れ!」
「すまない、助かる。セレン、俺にしっかり捕まれ。飛ぶぞ」
「何、いったい、何の話、飛ぶって何――きゃああっ」
丹恒は病室の窓を開けるとセレンを抱えたまま飛び降り、屋根伝いに飛んで行った。
窓からその様子を見ていた開拓者は面白そうにヒュウと口笛を吹き、『なのか』は拍手を送っていた。