「、ついたぞ」
「此処、何処? 綺麗な場所、海の底に浮いてるみたい……」
「此処、俺の産まれた場所――持明族の卵が返る場所、鱗淵境だ。此処は以前、海の底に沈められた宮殿だった。それを俺の力――龍尊の飲月の力で、よみがえらせた」
「はあ、此処が丹恒の……」
丹恒がを抱えて連れてきた先は、持明族の聖地である鱗淵境であった。
「ついて来て。に見せたい場所がある」
「……」
丹恒はを地面に下ろした後に彼女の手を取り、鱗淵境を歩く。は丹恒の仕業に圧倒されっぱなしだったが、ここは大人しく、従う。
「鱗淵境は普段は雲騎軍の景元将軍か、天舶司の長の御空の許可を取らないと入れない神聖な場所だが、俺がついてれば問題無い」
「……」
「いつか、と仙舟に来られる事があれば、鱗淵境をと一緒に歩きたいと思っていた。開拓者達のおかげで、夢が叶った」
「……」
「そこの階段降りた先、開いた状態の蓮がある。そこ、座ろう」
「……」
は丹恒に言われるままに階段を降り、言われるままに開いた状態の蓮に座った。
は落ち着きなく辺りを見回し、隣に居る丹恒に聞こえるよう、言った。
「……凄い所ね。仙舟の街も素敵だったけど、それ以上の素敵な場所、隠してたんだ?」
「……此処は、開拓者達すら許可がないと踏み入れられない場所だからな、たとえ仙舟に来られても一人で此処まで来るのは難しい」
「そう……」
「……」
しばらく、二人でぼんやりと過ごした。
と。
「……レギオンの傷、痛むか? 白露の薬、効いてるか?」
「……大丈夫。医者の白露様の薬と治療のおかげで、痛みは引いてる」
先に動いたのは丹恒だった。は気にしないでと、答える。
それからは今でも変わらない空を見上げ、参ったように話した。
「仙舟、空の色と天候が天舶司の御空で管理されてるの、全然知らなかった。薬の時間もステーションの端末使えないから時間分からなくて、アラーム使えなかった。……おかげで素裳と青雀、開拓者達に色々迷惑かけちゃったなあ」
「すまない。に仙舟のそれ教えるの、忘れてた。薬の時間もステーションの端末使えないとアラーム使えないのか、それは不便だな。……にはやっぱり、俺が必要じゃないのか?」
「……あ」
丹恒はの手を取り、彼女を自分の所へ引き寄せる。
はそれに逃げる事なく、応じるよう、彼のなすがまま。
「……」
「……」
再び、無言になる。
次、先に動いたのはだった。
「……ねえ、何で、丹鼎司の病院に居たの? 丹恒は私と別れた後、将軍様の神策府にこもってるって思ってたけど」
「それね。俺がと別れて神策府の一室で一人で考え事をしている時、俺の端末での薬の時間を知らせるアラームが鳴った。それを聞いた俺はそういえば、の薬の話を開拓者達にしていなかったのを思い出して、は無事に薬を飲んだだろうかとそればかり考えていたら、将軍と護衛の彦卿が現れ、を見ているはずの素裳から、お前が倒れたと緊急連絡を受けたがどうするかと、連絡があった」
「素裳は、丹恒に何回連絡入れても繋がらないって」
「ああ。一人で考え事したい時、だいたい、通信切ってるんだ。それは仕事以外、列車に居る時の話に限るけど、今回、神策府内で、将軍にもちゃんと一人になりたいと告げていたから、通信切っていても問題ないと思ってた」
一息。
「それでなくてもはもう別れた俺と会いたくないだろうし、将軍や開拓者達にの薬の話していいものかどうか、どうするか迷っていたら、彦卿があっさりと開拓者と繋いでくれたんだ」
「彦卿君が?」
「彦卿は、の事で開拓者と話をしていいものかどうか迷ってる俺を無視して、ここで開拓者先生達と話が出来なくちゃ丹恒先生、失格だよー、って、無邪気に言って、俺の端末を勝手に奪い取って勝手に操作して、それのおかげで開拓者と通じるようになった。そばで将軍が彦卿の仕業に笑いを堪えてたな……」
「彦卿君……」
はあ。彦卿の仕業に参った様子の丹恒を見て、は密かに彦卿に感謝したい気分だった。
「俺は観念して、そこで開拓者と将軍に、が故郷の星でレギオンにやられた事を全部話した。Ⅱ階級のじゃ無理だから俺の手でステーションの医療班からもらってる対レギオン用の薬の管理の話も。
開拓者は、は俺と別れたらその薬はどうやって調達するのか聞いてきた。俺は一応、俺と別れてもが薬を手に入るようにステーションの医療班か、カンパニーの医療班にかけあうつもりだった、それが無理なら今回で縁が出来た白露にそれ注文すればいい、と、簡単に言った」
「……」
「そしたら開拓者、周囲の人間達の――三月だけじゃなく、素裳達も止められない凄い剣幕で俺を怒鳴りつけてきた。
そんな状態でを手放すのか、そこからを拾ってきたなら最後まで責任持って面倒見ろ、白露もそんな身勝手な注文受け付けないと言ってる、龍尊のくせに普通の女も守れないのか情けない、龍尊がそんなだから仙舟も隙をついて敵にやられる、仙舟の将軍は龍尊も飼い慣らせないのかって、俺のそばに将軍がついてるの知ってるうえで、そこで散々、俺だけじゃなくて仙舟の駄目な所を言われたよ。
開拓者のそれ聞いてた将軍は笑顔を消して顔引きつらせるだけで言い返せず、彦卿はその反対で腹抱えて笑ってたけど」
「開拓者……」
その時の開拓者の剣幕を思い出したのか頭を抱えて咳込む丹恒と、その時の開拓者の様子が分かって彼のそばについていた景元将軍に同情すると。
「俺は、開拓者に散々言われた後に助けたいなら今すぐ丹鼎司まで来い、こっちは自分が来るまで自分達にそれ黙ってた助ける気ないし、それでの目が覚めなければ駆けつけなかった俺の責任だって、半分脅されて、今回ばかりは彦卿に言われる前に慌てて丹鼎司に向かったわけだよ」
「そう、それで、丹鼎司の病院まで来てくれたんだ。ありがとう」
「いや、俺もを助けたいと思って、自然と神策府を飛び出していた。でも、俺が丹鼎司の病院まで駆け付ければ、開拓者は白露にちゃんとの治療頼んでくれててさ、白露の薬が効けばしばらくすればは目を覚ますだろうって。俺はこの時ほど、開拓者と白露に感謝した事はなかった」
「……」
丹恒のその想いは本物であると、そばでその話を聞いていたは思った。
ふと。
はある事が気になって、ここで丹恒に聞いた。
「ねえ。私が開拓者に色々話してる時、部屋の外で凄い音立ててたの、丹恒の仕業だったの?」
「……否定しない。いや、そこで、開拓者にの目が覚めれば彼女の俺に対する気持ち聞いてくるからそこで盗み聞きしてろって言われてそれで、三月と一緒に部屋の外で待機してた。しかし、そこでお前から色々新事実が発覚して、それにやるせなくなって、それ発散するのに、壁に八つ当たりしてしまった」
部屋の外では丹恒と『なのか』が揃っての話を聞いていて、そこでから自分が知らなかった話が次々発覚する新事実にやるせなくなり、自分の拳を壁にぶつけていたのだった。その背後で『なのか』がそれに震えているのが分かったが、どうしようもなかった。
それより――。
「それ以前に、お前、どうして、故郷で星核ハンターの二人組にロイと一緒に反レギオン軍から助けられた事、俺に黙ってた。俺の前ではその時、カンパニーの人間に助けられたと話してたのは何だ?」
「ああ。ウォルターは宇宙から来た星核ハンターの二人は交渉材料として私とロイを反レギオン軍から助けてくれたのはいいけど、同時に、レギオンの一部を操れて、それと敵国の兵士をこちらにけしかけるほどの力持ってる彼らは、ディアンにとって危険人物で変わりない、丹恒にはそれ以上の心配かけたくないので黙ってるようにって言われてたから……。それ、丹恒が話してた同じく宇宙の力持ってるカンパニーの仕業だって事にすれば丁度良いって言ってくれたのも、ウォルターだった」
「宇宙に来てからもそれ、黙ってたのは?」
「それも単純。ヘルタ・ステーションではヘルタだけじゃなくアスター達から、星核ハンターはステーションに保管してある星核狙って来る敵対勢力だって聞いて、宇宙でもそれのせいで丹恒に心配かけたくなかっただけ」
「なるほど。確かに、その頃、ヘルタとアスターは、ステーションに保管してある星核狙いの星核ハンターの襲撃を警戒してたからな、それがにも聞こえてたか。それでなくても俺はウォルターにそれから守られてたのか、これじゃあ何やってもウォルターに敵わない」
はは。の話を聞いた丹恒は、国王であるウォルターに助けられ守られていた事を知って、力なく笑うしかない。
はその丹恒に何を思ったか、それに不満を持ってるよう、言った。
「そっちこそ、私に色々隠してたじゃない。仙舟の有名人である雲騎軍の景元将軍様と親しそうだったり、その護衛の彦卿君や、雲騎軍の兵士達から師匠を意味する先生と呼ばれて慕われてるとかさ」
「いや、将軍含めて雲騎軍の兵士のそれは、俺の龍尊の飲月君の力目当てだから、素の俺の方を慕ってるわけじゃない、と、思う。お前も仙舟の開拓者達との開拓の旅の映像見てるから分かると思うが、前世の俺と将軍の間で、色々あったみたいだから、それで……」
「それだけじゃなくて、開拓者に聞いたんだけど、丹恒が開拓者達と仕事で仙舟に戻れば仙舟の女性達だけじゃなくて、美人揃いと評判の狐族の女性達からも人気あって、丹恒見かければすぐにその女性達に囲まれるんですってねー。実際、開拓者達と歩いてると私でも、仙舟の女性達や狐族の女性達から今回は丹恒は一緒じゃないのかって声かけられる事が多くて、うんざりだったんだけど~」
「仙舟の女達も、狐族の女達も、俺の飲月君目当てだ。彼女達は、開拓の一件で俺の龍尊の飲月君の姿を知ってる、だから、それで」
「丹恒の前世が龍尊で飲月君の力を今でも継いでるって、それ何で、私の前で隠してたの」
「……、は故郷で、父親のクロム王の実験台のロイの影響で、力あるものの前ではすぐに逃げ出すだろ。龍尊の飲月君と化した俺の姿見て逃げられたら俺でもショックだったから、それで中々打ち明けられなかった」
「……そうね。私、私を守る強化兵を作るためとはいえ、父に散々体を弄ばれたロイの影響で、力を持つ人間に対して逃げる傾向があった。確かに、丹恒の龍尊で飲月君の姿を見れば私、普通だったらそこから逃げ出してたかも」
「……」
は実は故郷では、いつも一緒に居た護衛のロイを頼もしくは思っていたが、同時に、恐怖の対象であった。それというのも、父であるクロム王がロイに薬を投与し、彼がそれにもがき苦しんでいる姿を何度も見ているせいで。
は、ロイが父の薬で苦しんでもがく姿を何度も見て、薬を得てまでその力を手に入れ、それで守られる弱い自分は何だと自問自答するようになり、更に、ロイがそれで力を振るえば振るうほど――その力で第二王女の立場である自分に牙を向けてくる男達をあっさりと手をかける姿を見てそれに恐ろしくなって、自分より力を持つ人間に恐怖心を抱くようになってしまった。
ロイはの体目当てに乱暴してきた身内の男をあっさり手にかけた後、それを見て震えるだけの自分に対して言った。
『――姫は、俺が守る。そのために、この力を手に入れた。それだから姫は、何も心配しなくていい』
『ロイ……』
ロイは、が相手の返り血を浴びカタカタ震えているのが分かっていたが、に毛布を貸した後に何も言わず、慣れた様子で手にかけた相手を処理していた。
はそうでも、今まで自分を守るために護衛としてついていてくれたロイには、感謝しかない。
は丹恒にもその件を打ち明けているが、丹恒もまた、ロイと同じよう、故郷でも宇宙でも、その力を見せつける事はせずに自分に寄り添ってくれていた。
は参った様子で、丹恒に向けて自分の想いを話した。
「私の方が、ロイや、丹恒から逃げてたの分かってた。でも、丹恒の力を――飲月君に変わった姿をここで初めて目にして、将軍様や開拓者のおかげでそれから逃げずに丹恒の真の姿を目にする事が出来て、思った事があるの」
「……何だ?」
は丹恒と向き合うと微笑み、はっきりと言った。
「龍尊の飲月君として変化した丹恒の姿も、素の丹恒と変わらない美しさを持ってるって」
「……ッ」
のその言葉は、素の丹恒を龍尊の飲月君へと変化させる威力があった。
黒い長い髪、龍の角、龍のしっぽ――。
は自分の前であっさり飲月君に変化した丹恒を見て驚いた後、聞いた。
「ねえ、それ、簡単に表に出せるの?」
「いや、仙舟やほかの場面では許可取らないと変化出来ないし、自分でも誰かのために――開拓者や三月のためにこの力を使いたいと思わなければ変化出来ないが、今回に限っては、鱗淵境の聖なる場所も影響しているだろうが、今のの言葉が効いてそれに一番影響受けて変化したと思う――それはいいが、」
「ひっ」
は丹恒の飲月化は素の丹恒と同じように美しいとは思うが、やはり、角だけではなく、青白く輝きながら地面を這い回る龍の尾に関しては苦手で、そこから逃げ出して、柱の影に隠れてしまった。
はあ。丹恒の溜息がにも聞こえた。
「、やはり、俺の飲月の姿と向き合うの、単独では無理か?」
「……ごめんなさい。それ直視できるの、もう少し時間が必要だと思う。これじゃあ、ヘルタだけじゃなく、カンパニーの上層部やジェイドに何も言えないわね」
「……」
参ったようにうずくまるだったが、それを覆したのは。
「……、逃げてたのは俺の方だ」
「え? きゃあっ」
しゅる、と。は自分の足元に丹恒の龍のしっぽが這っていると分かってそこから飛びのくが、その隙に彼女の手を取り自分の所へ引き寄せたのは。
「あの、その、それで私の前に来るのは――」
は丹恒の飲月の姿を見て震えるも、丹恒はそこから逃げないようにの体を強く抱き締め、そして。
「ん」
キスした後、言った。
「これで、素の俺も、飲月の俺も、だけだって分かっただろ」
「あ……」
丹恒はを逃がさないよう捕まえた状態で、続ける。
「から逃げてたのは、俺も同じだ。この飲月の姿で来ればは逃げ出し、それにショックを受けるだけだと。でも実際、は俺の飲月の姿を見て、素の俺と同じように美しいと言ってくれた。俺はそれがとても嬉しかったんだ。こうやって、飲月の姿になるほどにね」
「……」
「それだけじゃなくて、あそこで開拓者に散々言われて、目が覚めたのもある。その状態で手放すのか、そこから拾ってきたならちゃんと最後まで面倒見ろ、龍尊のくせに普通の女も守れないのかって。確かにその通りだと思った。俺は、自分が惚れた女を周りに言われたくらいで手放そうとしてたし、龍尊のくせに普通の女も守れないところだった。
俺がどんな思いであの地獄と化した星からをさらってきたのか、誰も――カンパニーの連中はもちろん、開拓者や三月も知らないくせになあ?」
「丹恒……」
「。まだこんな俺についていく気、あるか? 俺のこの飲月の姿が恐ろしい、近付かないで欲しいとあれば、もう近付かないが……」
「……」
「やっぱり、無理か? それならもう――」
ぐい、と。は何を思ったか、丹恒の頬に自分の手をあてがい、自分の方へと近付けて、その不満を口にする。
「その綺麗な黒髪、反則! 女として悔しいんだけど!」
「え、いや、俺より、お前の髪の方が綺麗だと思うが」
「間近で見れば髪だけじゃなくて、肌も、目も、全部、綺麗。私もそれ以上に手入れしなくちゃいけないじゃない」
「は手入れしなくても十分――」
丹恒はそれ以上、何も言えなかった。
「ん」
簡単に唇を奪われ、すぐに離れた。
「」
「さっきのお返し」
「!」
丹恒は、おどけるにたまらず、そのままの勢いで再び、を強く抱き締める。
丹恒はに改めて、その確認を取る。
「、俺の飲月の姿も受け入れてくれるのか?」
「飲月の丹恒も、素の丹恒と同じだって分かれば大丈夫だと思う。さっきのキスで、今の飲月の丹恒も素の丹恒と同じだって分かったから」
「」
「それに私が故郷でも宇宙でも好きになったの、素の丹恒で変わりないもの」
「……ッ」
がたん。崩れ落ちたのはではなく、丹恒だった。
「ど、どうしたの?」
「いや。、お前、やっぱり最高だ。飲月の俺見て素の方がいいなんて、これ以上の言葉はない」
それから。
「こんないい女、宇宙でも百年先、現れないだろ」
「……」
はは。丹恒はの仕業に参ったよう笑って、飲月の姿のまま、もう一度彼女を抱き締めた。
そして。
「誰が何を言おうが俺は、がいい。しか相手できない。俺があの星からをさらってきたのは、間違いじゃなかった」
「……無能力で無資格の私ではステーションを統括しているカンパニーにも異端児として扱われて、仙舟でもお金目当てに第二王妃となった欲の塊の私は龍尊で飲月の力を継いでる仙舟の英雄である丹恒の相手は相応しくない――、それのせいで、強制的にどこの世界に放り出されるか分からないって」
「構うものか。俺のこの飲月の力なら、カンパニーの上層部の連中くらい、簡単に吹き飛ばせるし、俺を長い間、閉じ込めていた仙舟の人間に俺が選んだ女についてとやかく言われる理由はない。カンパニーの上層部の連中や高級幹部、そいつらに言われてお前を追いかけてくる人間も、俺がこの飲月の力で追い返してやる」
「……ありがとう。だけど、多分、それ無理だと思う」
「どうして、無理だと思う。お前も仙舟での開拓の旅の決着方法を見たのであれば、俺の龍の力を理解してると思ったが」
「それやったらヘルタの話してた通り、丹恒はカンパニーから強制的に列車の護衛役をはく奪され、私と同じようにどこの世界か分からない所に追放されるかも。それだけじゃすまなくて、姫子の列車も、ヘルタのステーションも、それのせいで物資支援を制限されれば、運営できなくなるのは千年前の文明レベルの低い星から来た私でも分かる」
「……」
「私は丹恒でそこから助かってもそれが原因で、開拓者や『なのか』から恨まれ、仙舟の人間達からも恨みを買い、今以上に酷い目にあうでしょう。
私、故郷で第二王女の時も第二王妃の時も、色んな人間から恨み買ってたからそういうの、誰よりも敏感なの」
「……」
「それに、ステーションだけじゃなくて仙舟にもどこでも入り込んでるカンパニーは、開拓者と『なのか』だけじゃなく、丹恒の飲月対策くらいしてると思うんだよね。
現在の宇宙を統べる巨大組織のスターピースカンパニーは、丹恒一人で立ち向かえるとは思えない」
「……」
丹恒はの話は説得力はあり、何も言い返せなかった。
それでも。
「それじゃあどうしろっていうんだ。俺はとこれ以上、離れたくない」
「私も同じ。丹恒とこれ以上に離れたくない」
「……くそ、これ以上に何かいい方法、ないのか」
ぐしゃ、と。丹恒は自分の髪をかいて考えるも、いい策は浮かばない。
と。
「ねえ、思ったんだけど。丹恒と別れない状態で、カンパニーの再教育計画受けるの、実際、ありと思う?」
「は?」
丹恒は改めて、に聞いた。
「どういう意味だそれ」
「あのね。カンパニーの上層部だけじゃなくて、ヘルタやジェイドは、無能力で無資格の私では、仙舟で丹恒の真実の姿を見ればそれと釣り合わない現実が分かるから、再教育を受ける前に彼と別れた方が後腐れないって話してたでしょ」
「ああ。それは、俺も聞いている。と別れるなら、再教育を受ける前、仙舟の方がいいと。俺ももそう思ったから今回、覚悟を決めて、仙舟まで来たんだよな」
「そうそう。私と丹恒はヘルタ達に飲まれる形でそれに納得してたけど、私は、丹恒の真実知ってもそれと反対で、こんな事で丹恒と別れたくないという思いの方が強くなっちゃった」
は丹恒の手を取って、おどけて言った。
「こんないい男、宇宙でも百年先、現れないと思ったら、ねえ?」
「……!」
丹恒はの最後の言葉を聞いてたまらず、再び、彼女を抱き締める。
「ちょっと、もう、離れて」
「……」
の方は冷静で彼と離れて距離を取り、その想いを伝える。
「それ前提で私、初めの予定通りにヘルタ・ステーションを出て、カンパニーが運営する学園に入る事、この仙舟で決めたわ。それ、丹恒にも伝えておこうと思って」
「え、何でそれでそうなる? ジェイドの話だと、ヘルタのいう宇宙科学以外で、俺との付き合いを続ける気があってその気持ちがカンパニーの上層部に伝わりそれに納得すれば、の異端児扱いは払拭されてステーションに残れるんじゃなかったのか」
「それなんだけど。その道も簡単でいいと思うんだけど、でも、仙舟の、機械化されて細分化されてる美しい街並みを見て私、もっと外の世界を見たくなったの。カンパニーの社員になって外の世界をいくつか見て、参考にすれば、ウォルターの王国も以前よりもっといいものになると思ったから」
「……」
「それに私、このままじゃよくないって、前から思ってた。ステーションの応物課の温明徳課長をはじめ、そこの仲間達は私の偽情報、アスターの知り合いの幹部の一人娘を信じて私に色々よくしてくれてたけど、皆と会話しているうちにちゃんと試験受けて入った彼らと違って千年空白期間のある私じゃ、皆に追いつけてないって。
表はいい顔してるけど影じゃ幹部の一人娘がいい気になるなって、私を悪く言ってる人間も居るって分かってたんだよ」
「そんなの、俺と開拓者、三月に訴えれば、すぐに黙らせられると思うが……」
「こんな事で丹恒だけじゃなくて、開拓者や『なのか』の手を煩わせるのもよくないと思った。こんな事では、カンパニーの上層部もそれは丹恒に相応しくないって思うわ」
「……」
「私はヘルタ達の言うよう、ちゃんとした教育機関で宇宙科学を学んで、そのあとにカンパニーの社員になっていくつかの外の世界を見て、改めてステーションの選抜試験受けて、いくつかの資格持って、ちゃんとしたヘルタ・ステーションの一員になって、丹恒との関係をカンパニーの上層部だけじゃなくて、仙舟の人間達にも認められたいと思った、だから……」
「……」
「私、初めの予定通りにヘルタのステーションを出て、カンパニーの再教育受けるため、彼らの運営する学園に入ろうと思う」
の思いを聞いた丹恒もまた、その決心を固める。
「……良いんじゃないか、それ」
「丹恒」
丹恒はをまっすぐ見て、自分の想いを打ち明ける。
「俺もは学べば、その隠れた才能を開花できるとずっと思ってた。が宇宙科学についてちゃんと学びたいと思うのであれば、カンパニーが運営する学園はうってつけだ。それが修了してカンパニーの正社員になっていくつかの外の世界を見たうえで、ヘルタ・ステーションの一員に戻れれば、俺との関係はカンパニーの上層部だけじゃなく、仙舟の人間達も納得してくれるだろう。
が外で学べば、ウォルターの王国も今以上にいいものになるのも、簡単に想像できる」
「……丹恒、私を笑わないの? 千年遅れてる私が宇宙に出て、宇宙科学学ぶなんてバカだろとか」
「笑うわけないだろ。、お前、故郷でもあの城にあった紫陽花通りの時や中庭で俺と会ってる時でも、俺の宇宙の科学の話に十分、ついていけてたじゃないか。俺もだからを此処まで――宇宙まで引っ張って来られたんだ」
「え、そうだったの?」
「ああ。があの城で俺の宇宙の話に興味持たなければ――の方から俺に積極的に宇宙に関する話をしてこなかったら、俺もを此処まで連れて来てない。
はあの小さな星の小さな世界に居るより、宇宙に出て広い世界に飛び出せばもっと輝くと思ったのは、嘘じゃない。はそれ、知らなかったのか」
「全然、知らなかった。それは、一番と言われるより、嬉しい」
「、お前、やっぱいい女だよ」
は両手を広げて嬉しそうに丹恒に抱き着き、丹恒もまたそのを受け入れるように彼女を抱き締める。
は丹恒の腕の中で、おかしそうに話した。
「ねえ、これ、開拓者達が知れば――ヘルタとジェイドに話せば、驚くかしら?」
「そうだな。あいつら、俺とが別れるのを前提に話してたからなあ。このまま関係を続けるといえば――が実は俺の飲月君に耐えられたと分かれば、驚くだろう。その時のヘルタとジェイドの顔を見るのが見ものだ」
「……そうね。でもこの話、カンパニーの再教育を受ける私と、開拓の旅を続ける丹恒が離れている間、丹恒が私以外の新しい女のとこにいかないってのが、肝なんだけどさー」
「いやいや、それ有り得ないって!」
がしっと。丹恒は慌てて今度はの肩を掴み、彼女にその身の潔白を訴える。
「さっきも話したが、この宇宙でも百年先、みたいないい女、俺の前に現れないだろ! 俺は開拓者や三月と開拓の旅を続けて再教育を受けると離れている間でも、どうにかして、と関係を続けてみせるぞ!」
「ふふ、冗談よ」
「、ここでその手の冗談は止めてくれ、心臓に悪い……」
はあ。丹恒はの仕業に参ったよう崩れるも、それでも、彼女から離れなかった。
は丹恒と違って冷静に、落ち着いた様子で言った。
「ねえ、二人が離れている間にそれが続けられるいいアイテム、開拓者と『なのか』の二人と見て回った長楽天の露天商で見つけてたの。あとで、それ、一緒に見てくれない?」
「ほう、長楽天にそんないいアイテムあったのか。それはいいが、何のアイテムだそれ。太卜の符玄を中心にした、卜者連中が得意とする呪いのアイテムじゃないだろうな……」
は長楽天の露天商で予約しているペアバングルを丹恒に見せるのが楽しみだったが、丹恒はそれは太卜司の符玄を中心とした、卜者達が得意とする呪いのアイテムではなかろうかと不安になる。
はその丹恒の不安を取り除くように彼の頬に触れて微笑み、言う。
「私、丹鼎司の病室で話してた通り、丹恒と離れている間、丹恒の事ばかりだった」
「」
「私と同じように丹恒も開拓の旅を続けている間、私の事を忘れてなければ、それで十分と思うわ」
「……忘れるものか。俺もと離れている間は、の事ばかりだった。それだけじゃなくて」
「それだけじゃなくて、何?」
「それだけじゃなくての綺麗な髪は、俺の前では、おろしてた方がいい、とか」
「……」
丹恒の細い手が伸びてその言葉通り、のおろしたての髪に触れる。
は丹恒の仕業に何も言わなかった。
「いつでも、の綺麗な手を握りたいとか」
「……」
その通りにの手を握って引き寄せ、そして。
「いいときはとキス、したいとか」
「……」
そのまま丹恒の顔が近付いて、はそれに応じるように目を閉じる。
「ん」
触れるだけのキス、だった。
「……ああ、この飲月君の姿だと無理とかあったら、もうしないが」
丹恒は飲月君と化している自分の姿と口づけはは苦手だろうと思って、彼女から遠慮するようすぐに離れて距離を取るが、は丹恒のそれを許さなかった。
「その姿でも構わないわ、もっとして」
「、」
ぐい、と。は飲月君状態の丹恒に構わず彼の顔を両手で掴み、彼に同じよう、触れるだけのキスをした。
それが引き金になったのか。
丹恒はそのままを押し倒し彼女の上にまたがると、欲望のまま、舌を絡ませる濃厚な口づけを何回か続けた。
「ん、んぅ……」
は飲月君の丹恒から逃げず、そのまま、彼の口づけに応じる。
「……っは」
「……ん」
お互い、息を落ち着かせるのに数秒。
そして。
丹恒は上からを見下ろしながら、彼女に言った。
「俺はこれくらいでと別れたくない、誰に何を言われてもこうやってに触れたい時に触れたい、を抱きたい時に抱きたい、俺だけがこの宇宙でを一番に考えているが、はどうだ?」
「嬉しい。私もこれくらいで丹恒と別れたくない、ステーションを出てもほかの女に取られたくない、私も誰に何を言われても丹恒に触れたい時に触れたい、苦しい時でも丹恒の手を握っていたい、私もこの宇宙で丹恒が一番好き、大好き」
お互いの気持ちを吐き出した後に笑いあって、口づけを再開、そのまま、お互いの欲望に従うように抱き合い、その熱を分け与えたのだった。