居酒屋、客で賑わう店内から少し離れた場所に、その個室はあった。
『あー、この一杯が最高。このステーキも最高。休みの雨の日最高!』
『姫、酒まだ追加するか?』
『もち。ロイはどうする』
『酒はいらん。シチューと骨付き肉追加で』
『ロイは相変わらず、肉肉しいもの好きね。そこのサラダ、いらないならちょうだい』
『ん。姫も相変わらず酒、酒だな。というか新しい護衛にその裏見せたっていうが、まだ辞めてないのか』
『ふふ、新しい護衛、私の裏の顔見てもまだ辞めてないわよ』
『おお。姫の裏見て続いてるなんざ、珍しいな。宇宙から来た男ってのは、姫みたいな、おかしな女相手に免疫あるのか』
『おかしな女って何よ。私ほど清純で大人しい女、そう居ないわよ』
『ヒヒ、片手にステーキ、片手に酒持ってる女のどこが清純で大人しいんだよ。――なあ、新入り?』
と同じ席についている男――ロイがドアの方を振り返った。
『――宇宙から来た俺でも目の前のは、清純で大人しい女には見えんな』
『!!!』
ガタンッ。はロイに言われた方を見れば丹恒が呆れた様子で立っているのが分かって、椅子から離れ、素直に驚きの声を上げる。
『ぎゃああっ、な、何でこんな所に居るの! 私、あなたをこの店に呼んだ覚えないんだけど!!』
『いや、雨の中、城の門前で暇そうに突っ立ってたんで、俺が連れて来た』
兵士長が丹恒のすぐそばで、の驚きようを見て笑いながら話した。
は兵士長に詰め寄り、訴える。
『兵士長、余計な事しないでよ! いくら国王陛下の一番の友人である兵士長でも、やっていい事と悪い事くらい判別つくでしょうに!』
『仕方ない。大雨の中、姫様を心配して城の門前で突っ立ってる護衛見れば、声かけないわけにはいかないだろう』
『はあ、大雨の中、城の門前で突っ立ってた? 私、あなたに強い雨の日は、お城も護衛の仕事も休みだって伝えてたでしょ!』
兵士長の話を聞いたは、今度は丹恒に詰め寄る。
丹恒は冷静ににそのわけを話した。
『俺が暮らしている宇宙では、その習慣はない。強い雨の日でも嵐の日でも、日々、働いている』
『うわ。宇宙では、大雨でも嵐でも毎日働いてるの? それなら、宇宙に出たくないわ』
『宇宙では大雨や嵐にも耐えられる頑丈な建物が多く、それなりに設備が整っているというのもあるが。しかし、お前、雨の日の休日、何をしているのかと思えば昼から飲みか……』
『い、いいでしょ、これくらい。雨の日の休みの息抜きとしては、これが一番いいんだから』
『は雨の日の休みは、城で国王と過ごしていると思ったが。そうじゃないのか』
『国王陛下は雨の日の休み、第一王妃様と過ごしてる。私がそれ、邪魔しちゃいけないでしょ』
『……そうか。それでは、国王も城でゆっくり休めるな』
『うん。ウォルター……、じゃない、国王陛下は、今までレギオンの対応で忙しかったからね。国王陛下はこういう時くらい、第一王妃様と一緒に休んで欲しいもの』
『お前はそれ利用して、昼から飲み会か。いいご身分だな』
『ふふふ、この身分だからこそ、よ。こういう時、この身分利用しないでどうするのよ』
『なるほど。それはとても、らしいな』
丹恒はのそれに納得したよう、うなづく。
それからは、大雨の中来た丹恒を心配する。
『というか、この大雨の中、兵士長が声かけるまで城の門で待ってたって言ってたけど、大丈夫? 寒くなかった?』
『いや。俺のコートは特殊な素材で出来ているので、大雨でも嵐でも、何でも耐えられる。そのへんは心配するな』
『へえ。それも宇宙科学とやらのうち? いいなー。私もそのコートの素材、欲しいなあ。お金ならいくらでも出せるけど』
『の世界の技術じゃ、どう頑張っても無理な話だ』
『むぅ。私の世界には、宇宙科学では真似できない、このクロムのお酒があるんだから。寒い雨の日は、このクロムのお酒を熱燗で飲むのがいいのよ』
ひひ。は笑いながらそばにあったクロムの酒をグラスになみなみ注ぎ、迷いなく一気飲みする。
の豪快な飲みっぷりを見た丹恒は、呆れて言った。
『本当、ここまで飲める女が第二王妃なんて、ディアンの国民は分かってるのか』
『――それディアンの国民に分かればよくて国外追放、悪けりゃ処刑行きだな』
ひひ、と、丹恒に愉快そうに笑いながら答えるのは、と同じテーブルについていた男――ロイだった。
丹恒はここではじめて、ロイと顔をあわせた次第である。
ロイ。白髪頭で青い目を持ち、2Mは超えるだろう天井に頭をぶつけそうなほどの背丈、筋肉質の体ではなく細身で、黒いコートに白いシャツ、背には大鉈が装備されてあった。
丹恒は冷静に、ロイと向き合う。
『アンタが、の護衛のロイか?』
『おう。オレが姫専属の護衛、ロイよ』
『俺は、レギオンと同じ宇宙から来た、丹恒だ。よろしく』
お互いの紹介は、簡単にすませた。
丹恒は普段はレギオンの戦場に出ているロイが城に戻っているとは聞いていなかったので、ここでそれを聞いた。
『ロイは普段は俺の代わりにレギオンの戦場に出ているというが、今回は出なくて良かったのか』
『レギオン、あいつら、雨の日は活動弱くなって雑魚兵しか出没しないのが分かってる。クロム王がこさえた兵器ありゃ、下っ端連中でもやれるだろうよ。オレは雨の日の休日は、姫のお守りしなくちゃなんねえからよぉ、そこは助かったぜ』
『確かに、俺のアーカイブでもレギオンは雨の日は活動が弱くなるのが分かっている。それなら、そこまで心配する必要ないか』
丹恒は、ロイの話は納得いくものでそれについては了解したが、ある部分が気になり、再度、それについて問い質した。
『それからロイはさっき、の裏がディアンの国民に分かれば国外追放か処刑されると話していたが、本当かそれ』
『ありゃ、お前、冗談を本気にするタイプか?』
『ロイ』
ロイは丹恒に鋭い目つきで睨まれ、頭をかきながらそのわけを話した。
『あー、普段はオレが姫についているから姫の裏の顔がディアンの連中にバレても、問題ない。城でもウォルター……じゃない、国王がついているうちは姫の身の安全は保証される』
『なるほど。それ聞けば安心だ』
『……、姫の裏の顔知ってもそれを脅す材料に使うわけじゃなく、本当に心配する奴が現れるとはなあ』
『俺も丹恒と姫様の関係がそこまでとは思わなかったから、此処まで連れてきたんだ』
本当にを心配している様子の丹恒に感心するロイと、そのロイに補足するように話したのは兵士長である。
そして。
『ふむ、まだ国王の心眼は腐っちゃいない、か。まあいい。新入り、立ちっぱなしも疲れるだろう、座れよ』
『あら、ロイが相手に座れというのは珍しいわね。いつもは、クロム以外の人間は――、ディアンの人間は国王陛下の客であっても近付けば蹴り飛ばして追い返すのに』
ロイは機嫌よく、突っ立っているだけの丹恒を席に案内する。はロイがクロム以外の他人を席まで案内するのは、今までなかったように思う。
ロイは丹恒を面白そうに見つめ、に話した。
『新入り、こいつ、オレが姫について話している間に投げた数本の毒針、あっさり避けやがった。最初は国王からレギオン討伐のためにあいつらと同じ宇宙から来たって聞いてもそれ信用していなかったが、マジもんじゃねえか』
『毒針ってこれか』
『!』
丹恒が手のひらを開ければ、数本の針があるのがでも分かって青ざめ、ロイに詰め寄る。
『ちょ、ロイ、ここでそれ出すの禁止って言ったじゃない! たとえディアンでも相手が向かってこない限り、一般人には手を出さないようにって、お父様にもきつく言われてたでしょ!』
『これくらいで、俺が倒れるものか。これくらいで倒れたら俺は、の護衛役を降りるだけだ』
ロイの代わりに返事をしたのは、丹恒本人だった。
丹恒の話を聞いては、ロイから丹恒に注目する。
『それは、そうね。あなたがロイごときで倒れるようだったら、ここまで来られてないわ』
『うむ。そこは俺を信頼してくれ。そうじゃないと、国王に申し訳ない』
『……』
は丹恒の今の言葉を聞いて胸が熱くなったが、それを隠すよう、話題を変える。
『と、とりあえず、此処であなたにロイを紹介できて良かった。ロイもあなたの実力を認めてくれたようだし』
『そうなのか?』
『ロイが認めない人間は、問答無用であの大鉈で追い出されてる』
『それはそれは……』
ロイが背負う大鉈は、丹恒の持つ槍と変わらない大きさのものだった。
丹恒は、確かにロイのあれで脅されれば、兵士でも逃げ出すだろうなとは思った。
は言う。
『ロイがあなたを認めてくれたから、あなたもここで一杯やれるわ。どうする?』
『そうだな。雨の日にジッとしてるのも暇だったし、この店の料理はウマかったのを今でも覚えている。今日は此処で一杯、やっていくか』
言って丹恒は遠慮なく、とロイの座るテーブルについた。
『兵士長はどうするの?』
『一応、俺も同席するよ。丹恒を此処まで連れてきたの俺だからな』
に聞かれた兵士長も、同じ席についたのである。
そして。
『新入り。姫はステーキ一か焼肉だが、この店は煮込み料理もウマい。シチューやカレーが絶品だ』
『丹恒。肉野菜炒め、野菜の肉詰めや肉入りの野菜スープも悪くないぞ。ロイは野菜抜きで食べるからな、真似するなよ』
――さあ、どうする?
丹恒はロイからは挑戦的に、兵士長は面白そうに、それぞれ、どちらがいいかの選択を迫られる。
『ええと……、それじゃあシチューと肉野菜炒めで。酒はと同じクロムを』
『お、それぞれの顔を立てて無難な注文したか。やるな』
『さすが。宇宙から来た男は違うねえ』
ロイと兵士長は、それぞれの波風を立てないような無難な注文をした丹恒に感心を寄せる。
『どうぞ!』
しばらくして、店長が丹恒の前に肉野菜炒め、シチュー、クロムの酒を運んできた。
、ロイ、兵士長の三人は、丹恒が一口食べるところを注目する。
『どう、どう?』
『うん、相変わらず、ここの店の料理はウマいな。クロムのスッキリした酒ともあう』
『でしょー。クロムのお酒とここの肉料理、最高の組み合わせよね。……ところでさあ』
『……俺の、欲しいのか?』
『いやー。私、この店ではステーキ一と焼肉だけで、ロイは野菜物頼まないから、その肉野菜炒め、どんなものか前から気になってたのよ。一口、お願いします』
『俺はそこまで食にこだわってない。一口と言わず、好きなだけ取ってけ』
『ありがとー。うわ、やっぱ、肉野菜炒めも美味しいわ。次はこれも一緒に注文しよー』
『というか、相変わらずよく食べるな。ステーキ三枚目だけじゃなく、俺の肉野菜炒めも本当に遠慮せずごっそり持ってたな……』
『この戦時下、何が起きるか分からないから、食べられる時に食べておかないと。あと、あなたから宇宙の人間は乾燥させた乾物が主食って聞いてからは、もっと食べておかないといけないという気分になったわ』
『なるほど。それは分かる気がする』
丹恒がの言い分は納得するもので、同意したところ――だった。
『――姫、もう新入りに手つけてんのかよ? さすがだぜ』
ひひ。ロイは下品な笑みを浮かべて丹恒とを見比べながら、言った。
『それ、俺も思った。丹恒、もう姫様とデキてんのか? 姫様の護衛が姫様本人に手を出してると分かれば、さすがにまずいんじゃないか』
兵士長も興味深そうに丹恒を見詰めて、遠慮なく聞いた。
は酒を飲んでいる時よりも顔を真っ赤にして、ロイと兵士長に向けて反論した。
『新しい護衛に手なんか、つけてないわよ! そこ、誤解しないで!』
『いやでも、姫の裏の顔を受け入れているだけじゃなく、姫のそれ分かったうえで姫の話をそこまで聞いてくれる男、今まで存在したか。国王とオレ以外で』
『宇宙から来た男は、私のそこまで気にならないでしょうよ。どうせ、国王陛下から目的の星核とやらが手に入れば、さっさと宇宙に帰るんだから』
『……』
ふん。は何かを諦めるよう、酒を飲み干す。
――どうせ、さっさと宇宙に帰るんだから。のそれを聞いた丹恒は、少し、胸の痛みを感じた。
『私の相手は、国王陛下とロイで十分だわ。というか、あなたも黙ってないで反論くらいしなさい。誤解されたまま広まるわよ』
『……そうだな。俺はと付き合ってはいないし、その気もないし、彼女の言うよう、国王から星核が手に入ればレギオンを片付け、さっさと宇宙に帰るだけだ』
『何だ。お前、目的が果たせればさっさと帰るタイプか。メイドでいい子居て、その子も丹恒に注目してるっていうから目的が果たせても此処が気に入って現地に留まるなら、その子を紹介しようと思ってたが』
丹恒のそれを聞いて、兵士長がそう話した。
それに乗じるのはである。
『あ、そうそう。兵士長、メイド達の間でこの人、人気あるのよね』
『うむ。今やメイド達の噂の中心は、丹恒だな。それ、城の兵士達が悔しがるくらいだ』
『私も前、紫陽花通りで、暇ならメイド紹介しようかって話してたのよ』
『お、それで、反応は?』
『さっきと同じ。目的が果たせればさっさと宇宙に帰るから、メイドに興味無いですって』
『うちのメイド、各国から集めただけあって美人揃いなのに、もったいねえな。丹恒相手なら一夜限りでもいいっていうメイドも居るくらいだ、彼女達に応じれば宇宙帰るまでに女に困らんと思うが』
『現地の女には興味無い。そういう誘いは、全て断る』
言って丹恒は、何かを振り払うよう、酒を飲む。
はその丹恒を見て、兵士長に言った。
『ね、本人がこれだから、私にも興味無いと思うわ。私もこういう人相手にするだけ無駄なの分かってるから元から相手にしてない』
『そのようだな。余計な心配だったか』
『……』
兵士長はの話に納得するよう、うなづく。
それから。
『それより、美味しい食事は美味しい時に食べないとね。肉類は、冷めたら美味しくないもの』
『姫様の言う通りだ。丹恒、お前も食べられる時に食べとけよ。本当、レギオンが現れてからは、何があるか分らんからな』
『……そうだな。ここの店の料理は気に入っている、注文したぶんは食べるか』
丹恒もと兵士長の話に応じて、出された料理を残さず食べたのだった。
『……』
その中でロイだけは、丹恒を面白そうに見詰めていたという。
食べて、飲んで。
丹恒は店を出る時は久し振りに腹が膨れているのが分かって、自身も満足だった。
帰り際。
『姫、立てるか』
『無理~、起きられない~』
はいつかの時と同じよう酔い潰れて、ロイが彼女の背中をさするも、そこから動かなかった。
『おんぶ~』
『毎度の事ながら、仕方ねえ。姫、担ぐぞ』
ロイは、おんぶを要求するに呆れながらも、彼女に手を貸す――と。
『今日は、こっちがいい~』
『!』
ぐいっと。はそばで見守っていた丹恒の腕を引っ張った。
そして。
『おんぶ~』
両手を広げて、丹恒にそれを要求する。
丹恒はロイと兵士長の視線を浴びながらに参った様子で、彼女から離れる。
『いや、今日はロイが居るからロイの方がよくないか』
『えー。こうなった時は任せろって言ってくれたじゃないのぉ~』
『それはロイが居ない時だ、今日はロイがついてるだろ』
『今日はこっち、こっちがいい』
『いやだから、そこまでは……』
『おんぶ~』
『ええと……』
『――姫の言う事聞いてやれ、新入り』
の要求に弱った様子でいる丹恒にそう声をかけてきたのは、ロイだった。
『姫の言う事聞かないと、いつまでも店から出られんぞ』
『……』
はあ。丹恒は溜息を吐き、仕方なく、を背中に担ぐ。
店から外に出れば夜になって、雨はすっかり止んでいた。
丹恒はを担いで、ロイ、兵士長の二人と城まで歩く。その中でを背負う丹恒はロイと並び、その後ろを兵士長がついていっている。
ロイは、を担ぐ丹恒を興味深そうに見詰めて言った。
『新入り、それで姫と付き合ってないのか』
『そこは全力で否定する。以前、の支持者の集会に護衛として付き合った時にロイがついてなかったから、代わりにその要求に応じただけだ』
『ふうん。姫が支持者の集会に国王の知り合いでも、クロム以外の人間を連れていくなんざ、今までなかったがなあ』
『……、そういうロイはと付き合ってないのか? は国王にいく前に、ロイにいきそうな気がしたが』
『はは、趣味の悪い冗談だな。姫は、オレは対象外だ』
『何でそう思う。は、強い人間が好きなんだろ。ロイもそれに該当する』
『それと自分が好き勝手出来る金持ってる男な。姫だけではなく国王からも聞いてると思うがオレは孤児で文無しで、姫にたかる方だからよ、姫もそんな男は論外だろ』
『……』
ひひ。ロイは笑うも、丹恒は笑えなかった。
ロイは言う。
『新入りがよそから――姫のクロムもこのディアンも知らない宇宙から来たっていうのは、姫にとって良かったのかもな。国王のそういう采配は間違いない、オレも国王のそこは認めている』
『そうか。そういえばのクロムの話は聞いただけで現地に行った事はないが、そこもレギオンにやられたのか?』
『いや、姫のクロムはまだ無事だ。クロムはクロム王が仕切ってる間は、外部の敵にやられるはずがないし、やられるわけにはいかない』
『……、随分な自信だな。クロムのクロム王というのはの父親だろ、そのクロム王はいったい、何者なんだ』
『新入り、まだ姫のクロム王を紹介してもらってないのか』
『何も……』
丹恒はこの時、の父、クロム王についてはいっさいの情報を得ていなかった。、そして、ディアンの国王からの紹介もないままだった。
『まー、あのオヤジ、相当狂ってるからな。ディアンの国王の一番の功績は、姫からクロム王を遠ざけた事だよなあ』
『何だそれ、、実の父から虐待でも受けてたのか?』
ここで丹恒は立ち止まり、ロイを睨みつける。
ロイは丹恒が本気であるのが分かり、苦笑する。
『いやだから、そう真面目に受け取るなって。クロム王は狂っているが、姫自身には何もしちゃいない。クロム王は姫を溺愛してるからな、跡継ぎの一番上の兄よりも』
『は? それでを、ディアンの国王に差し出したのか? それ、矛盾してないか』
『溺愛してるからこそ、だ。クロム王は姫を溺愛してるからこそ、娘をディアンにくれてやったんだ』
『……』
『新入り、もし、姫か国王からクロム王を紹介するとあった時、気をつけろ。あいつの言う事は真面目に聞かなくていい。それから……』
『それから?』
『それから何があってもそれ以上に姫に深入りしないように、とだけ、忠告を。お前は目的が果たせれば姫を気にせず、さっさと宇宙に帰った方がいい』
『……、もとからそのつもりだ。とは、これっきりの関係だ』
『それならいいが。姫の裏はまだ表ってな』
『の裏はまだ表? ……これ以外、まだの裏、何かあるのか』
『さてね。お、話しているうちに城についたか、それじゃあ。姫は任せる』
『……』
それからロイはさっさと城の自分の部屋に帰ると言って城の中に入っていったきりで、兵士長とも別れて、と二人きりに残された丹恒は。
『……また誰かに見つかって誤解されたら面倒だな。さっさと、を送っていこう』
丹恒はを部屋に送った後、ようやく自分の家に帰る事ができたという。
――現在、仙舟の羅浮にて。
「うわ。の行きつけの居酒屋でステーキと焼肉、肉野菜炒め、野菜の肉詰め、シチュー……、絶対美味しいやつじゃん! 中でも骨付き肉って何、骨付き肉って何よ!」
「うん、の行きつけなら間違いないわ! それ以外、の甘いもので行きつけのお店ってなかったの? 、甘いものも詳しいよね」
丹恒からの行きつけだった居酒屋についての食事を聞かせれば、開拓者は悶絶し、三月なのかは、ぷるぷると震えていた。
因みに以外の人間――護衛のロイと兵士長については、の友人という風に濁した。
「甘いものか……。三月の言うようには甘いものにも目がなく、彼女が紹介するパン屋やケーキ屋はどこも、ウマかった。と一緒に夜中に食べたパンも良かった。いや、それだけじゃなく、城の敷地内にある畑で収穫される赤い果実の味は今でも覚えている――」