番外編:10 虹を超えた先(03)

 それからヘルタ・ステーションでも最初のうちは、いじめられて孤立するとか色々あったけれど、丹恒のおかげでそれも解消され、楽しくて、面白くて、充実した日々を送る事ができた。

 宇宙でもなんとかやっていけたのは、全部、丹恒のおかげだ。

 そして。

 私は、国王陛下――この宇宙に来てもその忠誠を誓うためにまだ籍が抜けていないウォルター・ディアンの死の知らせを聞いて、故郷――ディアンに戻った。

 ウォルターは実は私と同じ、レギオンの毒で弱っていたようだ。第一王妃様も似たような症状が出ていて、彼女もまた、レギオンが来てから調子が悪いと訴えていたのを何度か聞いていた。それなら、私と同じよう、丹恒の手で宇宙の医療に頼れば良かったのに、せっかく宇宙に逃げた私に余計な心配をかけたくない、どうせなら第一王妃様と揃っての方がいいという理由で隠していたと言うのは、現地で彼らの最期を看取ったロイの話である。

 ロイの話の通り、第一王妃様の後を追うよう、ウォルターも息を引き取ったという。

 ……。

 更にウォルターは、丹恒の話にあったよう、私と丹恒の話について国民達に根気良く説明してくれて、宇宙からレギオンが現れたのはクロム王の父と兄の責任で、彼らはもう処罰されたので妹の私まで処刑をする理由は見当たらないとも語り、国民達を納得してくれていたようだ。それだけじゃなく、死ぬ間際でも、は宇宙ステーションでもよくやっているかと、私の事を気にかけていたとか。

 ……。

 私は国王陛下――ウォルター・ディアンのおかげで故郷のディアンに戻ってくる事を許され、その処刑も免れたのである。

 ディアンでは最初、第二王妃である自分が宇宙で生き延びていた事を知って涙する人間もいれば、ウォルターの死を利用して自身や自分の都合のいい人物を王にさせようとする反対派の勢力がいて、そして、それ以外の土地で何度か大小なりの衝突があったが、それら全て、この衝突を予想して私に協力するため同じくディアンに降り立った丹恒、今回は彼だけではなく、開拓者、なのか、サンデー、四人のおかげで、なんとか、ねじ伏せられた。

 丹恒はディアンがこうなったのは自分にも責任があると言って常に協力してくれるが、開拓者となのか、サンデーの三人はこの件と無関係なので別に来なくても良かったのにと言えば、『これも開拓の一つだよ』、『そうそう。困ってる人間が居れば助けるのがウチら、列車組だからね』、『ワタシもディアンというよりさん個人に協力したいと思って協力しているので、お気になさらず』と、笑ってすませてくれたのは、ありがたいと思った。

 その後、ウォルターの遺言状が見つかり、家督は全て第二王妃である・ディアンに譲るという文言があり、数日でそれは実行に移され、それに抗う人間も大人しくなった。

 そうでも、過去に色々やらかしてきた第二王妃の自分に嫌悪感を抱く現地の人間は多く、最初は中々上手くいかなかった。武力関係は開拓者達でなんとかなるものの、自分の立場を再び取り戻すのは中々難しかった。

 と。

 かつてのディアンのお城の風景を知るヴェルトさんから、提案があった。

『地上にディアンの象徴であった、あのお城を再建すれば、なんとかなるんじゃないかな。お城があれば、の権力も復活すると思う』

『いや、地上はレギオンの毒のせいで誰も住めないし、あの立派な城を再建するとなれば現地の人間の手では百年以上はかかるのでは……。俺のような仙舟の長命種として長い時間を生きられる人間ならそれは別になんともないが、のような短命種で普通の時間を生きている人間からすれば、そこまで待てない』

 ヴェルトさんの提案を聞くも、丹恒はそれについては消極的だった。

 地下施設はこれも丹恒のおかげで宇宙の技術で電気やガス、水道が整えられ、快適に暮らせるものの、レギオンの毒に侵された地上に出るにはまだ厳しかったが――。

『――ヘルタと同じ、天才クラブのルアン・メェイ女史がの事に興味を持ってくれたようだよ。レギオンの毒については、彼女に相談するのも手じゃないか』

『!』

 そういえば、以前、ヘルタに内緒でこっそり丹恒の手で行っていたディアンの王国再建が発覚したとき、ヘルタもそれに興味を持ってくれて、いつか、同じ天才クラブでその手の知識が豊富なルアン・メェイ様を紹介してくれるという話を聞いた事があったのを思い出した。

 天の助けと言わないばかりにヘルタ経由でルアン・メェイ様に連絡を取り、状況を説明すれば協力すると快く受け入れてくれて、彼女にレギオンの毒に関する除染方法についての教えを請い、その作業をするさいの分厚い防護服も何着か譲り受けた。

 最初は毒に怯えてたり、本当にそれで除染ができるのかと疑いの目を持って誰も助けてくれなかったが、防護服を着て自分と丹恒と二人で泥臭い除染作業を根気よく続け、その除染の効果が少しでも現れたと分かれば、少しずつだが、現地の人間達もそれに協力してくれるようになった。

 因みにに開拓者となのか、サンデーの三人が助けてくれたのはウォルターの遺言が見つかる前の数日だけの話で、また何かあれば連絡よろしくと言って、星穹列車でいつもの仕事に戻っている。丹恒だけは最後まで責任を持つと言って、開拓の仕事がない日は、除染作業に協力してくれた。

 一年かけてディアン周辺と海岸に限るが地上に出られるようになり、そこに宇宙の技術でお城を再建する事になった。宇宙の技術であれば、百年以上かかっていたものが、数か月で収まるという。その頃には第二王妃に対する反対派の勢力は大人しくなり、協力してくれる人間達が大半だった。

 しかし、宇宙の技術を使うにはスターピースカンパニーと契約をする必要があり、それだとディアンとクロムの今までの伝統が失われるのではないかと、その反対意見の方が強く、これまた中々上手くいかなかった。

 もう一人、提案者が現れた。

『研修先で、アンタが気に入ってた仙舟の街を参考にすればいいんじゃないかな。あそこも最先端の科学と、古い伝統を活かした街作りで成功してるじゃん』

 師匠のトパーズからそう提案があり、それはいいと、現地の人間に最先端の科学と伝統が融合した素晴らしい街並みを作り上げた仙舟を映像で見せて、それに納得してもらう事に成功したのである。

 そして、スターピースカンパニーと契約を果たしてから、その勢いは早かった。契約を果たした途端にどこからかカンパニーの社員が百人以上集まってきて残っていた除染作業は一か月足らずで終わり、正常な空気が供給されるドーム類も建設してくれたのである。ドームに覆われた個所だけは地上でも人が住めるようになり、百年以上はかかると言れていた、お城の再建も数か月であっという間で、お城だけではなく、紫陽花通りとその街もかつてのディアンそのものとして復活したのである。

 ジェイドいわく、

『あなたの星ね、の存在でカンパニー内でも興味持つ人間が現れて以前は未開拓で価値が無いって素通りだったけど再度調査してみれば、海底から大変な量のレアな鉱石が見つかったんですってよ。それ利用できれば、カンパニー全体だけじゃなく、宇宙の歴史を変えるほどのものだとか。カンパニーはそれだから、あなたの星と契約できるのを今か今かと待ってたわけ』

 そう笑ってその裏側を教えてくれた。

 それから、例の試練といえば。

『そうそう、私達、十の石心を含めたカンパニーの高級幹部だけじゃなくて、上層部ものやり方には感心持ったようで、最初は無能力で無資格だった女が故郷のためにここまでやるとは思わなかった、これはもう、立派な王妃様と認めるしかないですって。ああ、ただの王妃様じゃなくて、第二王妃様だったわね、これからはもう第二王妃様の好きにすればいい、星神の強制送還もあるルートで白紙に戻せるから安心してくれって。良かったわね』

 なんとあっさりと、星神の強制送還は白紙になったようだった。

 開拓の旅で色々な星神と縁のある開拓者にそれを話せば、

『分かんないけどカンパニーのいう星神、そこまでの事、気にしてなかったんじゃないの。カンパニーがステーションでも優秀だった欲しかっただけでさー、その試練でっちあげてたとか。今となってはそれも分からないけどねえ』

 そう、笑ってすませるだけだった。

 丹恒いわくクロムの資源について、

達の千年遅れた時代では、その利用価値がまだ分からなかったんだろうな。それで手をつけてなかったぶん、レア鉱石が豊富で、カンパニーがウハウハ状態で、の復興にも全力で手を貸してくれたわけだ。おまけに、宇宙の歴史を変えるくらいのレア鉱石が海底で見つかるとはなぁ。おそらく星核もその影響を受けて、あの星の海に現れたんじゃないか。それ聞けばウォルター、なんて思うか……』

 それに気が付かないで先立ったウォルターに同情的だったという。

 そのあと、私は地上にて、青い空の下、昔と変わらず第二王妃としてお城のバルコニーに立ち、それから。

『――エレナ・ディアン王妃に続き、ウォルター・ディアン国王陛下が崩御されました。お二人の功績を後世に残すため、ウォルター・ディアン国王陛下の遺言状にある通り、この私――第二王妃である・ディアンが後を継ぎます』

 城の広場に数万人集まる群衆を前に、そう、宣言したのだった。



 それから。

 三年でカンパニーの手でお城や街の再建が終わって宇宙航も出来た頃、私と同じように宇宙に進出したいという現地の住人達も現れるも、私と同じ無資格で無能力の彼らはそれは難しいと最初は、カンパニーに断られてしまった。

 そうでもカンパニーに自分も学校に通って資格持ちになって宇宙に出られたので、彼らも同じように教育すれば宇宙進出も可能なのではと訴えれば、カンパニー指定校だけじゃなく、仙舟やピノコニーのいくつかの大学を紹介してもらった。

 私の交渉で宇宙進出が叶ったクロムの住人達は、『夢を叶えてくれた第二王妃様のために頑張ってきます!』と言ってクロムを出ていき、それの通り、優秀な成績で卒業、中にはカンパニー社員に入れる人間だけではなく、ヘルタ・ステーションに推薦される人間まで現れたという。

 これには私も得意になり、鼻高々である。

、アンタ、ステーション時代でも昔からその手の交渉得意だったわね。さすが、第二王妃様ってところかしら。丹恒に連れられて星穹列車に乗った時に資格持ちでナナシビトとして仲間になってたら、それで活躍できたかもしれない。私としてもちょっと、惜しかったわねえ』

 それを知った姫子からそう言われ、更に得意になったのは言うまでもない。

 今でも宇宙に出たいと志願するクロムの住人は後を絶たず、最近になってクロムにもその手の教育機関ができた。現在は、星核戦争以降に産まれた若い子達の間で人気である。

 それらは全て、ヘルタ・ステーションの協力が大きかった。

 ヘルタ・ステーションに協力を要請するためにアスターと連絡を取り合い、彼女から言われた事があった。

の星ね、今まではこのヘルタ・ステーションより千年遅れた宇宙科学も知らない文明レベルの低い価値の無い星だっていうマイナス判定だったけれど、でカンパニーと契約して、お城が再建されて宇宙航まで出来たこの三年あまりで、その千年超えてヘルタ・ステーションと同等、それ以上は計測不可能って判定されたわ。こんなの、私も初めてよ。それ知ったヘルタも、あの子、宇宙の歴史の中でも最大のやらかししてるわねって、爆笑してたわよ~』

 それが大変なのか大変じゃないのか分からない、いつもののんびりしたアスターの声のほか、わんわんと吠えるペペの嬉しそうな鳴き声、アーランの慌てる声、スタッフ達の議論する声が通信機から聞こえてきて、それ聞いて懐かしく思うと同時に、いつ通信してもヘルタ・ステーションは変わらないなあと、思った。


 それ以外にも。

さん、カンパニーで自身の星の名前を登録するとき、どうしてクロムにしたんですか。ワタシはてっきり、ディアンにすると思ってたんですが』

 いつか、サンデーにそう問われた時があった。

 カンパニーと契約を結んで星を登録するという時、その名前を今はない、クロムで登録した。

『それね。クロムはクロムで、ディアンはディアンだからよ』

『いや、そのわけがわからないんですが……。丹恒さんはさんのそれに納得している風ですが』

 私からその理由を聞いてもサンデーはいつまでも理解不能であるという顔をしていたが、私はそばにいた丹恒と顔を見合わせると、お互い、それに理解した風にうなづきあうだけだった。


 そして。

 宇宙科学も知らない文明レベルが低く、未開拓だった未知なる星は急速に成長を遂げ、それは同じように未開拓の地から発展を遂げたヤリーロ・Ⅵに匹敵するほどのものだった。

 しかし、まだ難題は残る。宇宙で生き残るためには古い伝統を捨て、新しいものを受け入れなければいけないし、それの教育も必要だった。それの反発は思ったより大きく、現地の住人達を再度説得するのに苦労した。

 それでも今までの事をなかった事にしたくはない思いと、ウォルターの意志を継いだのもあって、何とかやり遂げる事に成功した。

 教育関係はヘルタやカンパニーを頼り、街作りに関しては仙舟の人間に頭を下げ、経済関係はピノコニーの人間に頼り、それぞれが上手い具合に機能してくれたのは良かったと思う。

 クロムは自分が戻ってから六年経った今、現地の住人だけではなく、ほかの星との交流を深め、様々な人種が集まる貿易都市として知られるまでに成長したのであった。

 いやはや。お城の窓から小型飛行船が飛び交う空を見ながら、我ながら、様々な地域から、ここまでの人材をよく集めたものだと自分で自分に感心する。

 多分、ヘルタ・ステーションでぬくぬくしていた間は、王国再建もここまでにならなかっただろう。

『そうはいうけど、あちこちで皆の協力を得られたのは、今までのの努力の結果じゃないかな。の努力を見てないと、いくら価値のある星だって分かっても皆、そこまで協力しないよ』

『だね。あと、お城再建して公式にディアンの第二王妃様になってからは、ほかの星の皆も、今まで無能力で無資格だったを見る目が変わったのも良かったんじゃない。私達の仲間も、ほかの星で普通に王妃様に出会った事はあるけど、みたいな第二がつく王妃様なんて以外にいないし、これ以上の資格ないって、笑ってたよー』

 クロムがカンパニーと契約して悲願だったディアンのお城も再建出来て、仙舟の協力で新しい街に生まれ変わってそれのお披露目会に招待した『なのか』、開拓者の二人は、ディアンのお城にて、第二王妃として玉座に君臨する私を前にして、そう笑ってくれたのだった。

 そう。私は新制ディアンで正式に王妃になった後も、第二王妃という称号を今でも捨てなかった。現地の住人達からももうそれ取って普通に王妃様でいいんじゃないと言われるも、第二王妃の称号は外せなかったのである。因みに、ウォルターのディアンの籍もまだ抜けていなかった。これは、私なりのケジメである。



 変化があったのは、それだけじゃなかった。

 この十年の間、自身と周辺でめまぐるしい変化があったが、一番の大きな事はやはり『彼』に関する事だろう。

 彼の名前は、丹恒という。

 丹恒は自分の独断で、宇宙科学も知らない未開拓の地から私をこの宇宙まで連れてきた張本人で、それは、スターピースカンパニー内では厄介なルール違反を犯した罪人として知られている。

 彼は、故郷の仙舟でも色々やらかした罪人でそこを追放された身だというから、タチ悪い。根っからの悪人である。……その悪人に捕まった私もどうかしているけれど。

 あれから。

 ステーションを出てカンパニー指定の学校に居る二年間は端末でやり取りするだけが精一杯、休みが取れてタイミングがあえば星穹列車内に限り会う事が許されるも、タイミングがあわなければ列車内でも会えないという事は多々あった。会えない時間が続いて離れてその気持ちも離れるかと思えばそうでもなく、更にお互いの意識が強まり、卒業してあちこち行けるようになってからも、会える時は会っていた。

 しかしそれにしても、自分は二年も丹恒に会えなくて苦しかったというのに、二年後に再会した時の彼といえば淡々とした様子で、

『長命種で持明族の俺からすれば二年はあっという間だったな。短命種でただの人間の女のからすれば会えない間、そんなに苦しいものか?』

 と、そう平然と語られた時は、アスターの金に物を言わせた強力な武器を借りてこようかと思ったくらいだった。

 というか。

 仙舟でステーションを出る決心をし、その時にはじめて、丹恒が長命種でその中でも特別な持明族であると知らされたのだった。しかもその頂点に立つ龍尊だったけれど、大事な人のために重大な罪を犯し幽閉されるもその後に世代が変わって釈放され、罪人として仙舟を追放された身だとか。何だその盛りに盛った設定。混乱する私を前に丹恒は弱った様子で『これだから、あまり自分について話したくなかった』と、話した。

『それに、も前世とはいえ、仙舟で罪人扱い、つい最近まで地下に幽閉されてた俺の話を聞けば、嫌がって、別れ話を切り出されるんじゃないかとそればかり心配して……』

『あら、それ、余計な心配じゃないの』

『え』

『私も故郷のディアンでは一国を背負う第二王妃様だったけど、身内のやらかしで罪人扱いで追放された身だから、そこは丹恒と同じじゃない? それが嫌なら、丹恒が私に向けて別れ話持ちかける方が先と思うけど』

『!』

 私のこれには丹恒も衝撃を受けたようで、普段の彼は大声で笑うというのはなかった気がしたけれどその時は我慢できなかったのか『ははは!』と声を上げて笑い、その後、強い力で抱き締められて、

、やっぱりお前、最高だ!』

 簡単に押し倒されてその場で行為に至ったというのは、ほかの仲間達には内緒である。

 その後、丹恒の持明族の中でも特別な龍尊の生態をよく知る雲騎軍の景元将軍から、

『普通の短命種で殊俗の人間である君と、長命種として何百年の時を生きているのが普通の我々からすれば、時間の流れが違うんだ。君にとって二年は長い時間かと思えば、長命種、その中でも特別な持明族の彼からすれば、二年くらい、あっという間だっただろうね』

 と、二年もの間、丹恒と会えなくてつらかった私の心情を悟ってか、自分を労うように話してくれた。

 そうそう、仙舟の雲騎軍の景元将軍の事だけれど、ステーションを出てカンパニー指定の学校を卒業して普通に仙舟に行けるようになった後、景元将軍は私と丹恒の二人の良き理解者になってくれた。

 故郷に戻ってディアンのお城が再建しクロムが宇宙に進出した後も、景元将軍のおかげでクロムは仙舟同盟の傘下に入れ、クロムの人間達と仙舟の人間達との間で交流を深め、仙舟がクロム最大の貿易相手にもなってくれたのは、ありがたいと思った。

 十年の間、本当に色々あって、丹恒は開拓者や『なのか』、サンデーの四人と変わらず開拓の旅を続け、その間は彼と離れて暮らしていた。開拓の旅は普段は一週間くらいで短く終わるものから、数か月かかるものもあった。

 そうでも私は開拓の旅に出る丹恒を引き留めず、彼の自由にさせていた。その間、私もクロムのディアンのお城で自由にしているのだから、お互い様である。

 クロムでディアンの王国が復興を遂げた後でも頼れる時に頼って、会いたい時に会えればいい、つかず離れず――そんな二人の微妙な関係は、十年経った今でも、なんとなく続いている。


 二人の関係に転機がきたのは、丹恒がいつものよう、開拓者と『なのか』、サンデーの四人と一緒に星穹列車に乗って数か月の開拓の旅を終えて帰ってきた時だった。


『ただいま……』

『あ、お帰りー。今回は、どんな星を旅してきたの? 新しい所でクロムの事、売り込んでくれた?』


 私は丹恒に、開拓で新しい星に出かけるならクロムの事も積極的に売り込んでくれと、頼んであった。その成果は徐々に現れ、こちらでも聞いた事のない星からクロムあてに色々な交渉を持ち掛けられる事が何度か。

 その時の私は城の執務室にて、外部の人間――カンパニーの社員や仙舟の人間を入れた数十人のスタッフ達と一緒に、事務的な仕事をこなしていた。主な仕事内容は現地の住人達の相談役、または、ほかの星との交流とその交渉役――いわゆる外交官である。

 第二王妃様といっても昔のようにドレス着て男達をもてなせばいい――というような最悪な仕事はすでに失われ、普通に外交官としての役の方が大きかった。ステーションの真似事で、お城スタッフ専用の制服も揃えてある。

 因みに自分についてくれたスタッフの中にはクロムだけではなく、ディアンの元大臣や元貴族、元メイドもいたりする。彼らは旧ディアンの城で第二王妃の私に悪口言ったりよそで悪評を流して反発していたが、裏を返せばその存在が羨ましくて仕方なかっただけと、白状してくれた。更には再建された新しいディアンの城でも自分を使ってくれと、自ら志願してきたのである。私も旧ディアンのお城に居る頃の彼らの才能は見ているので即採用、今では彼らとも和解し、良い関係を築いている。

 ディアンの第二王妃としての仕事は軌道にのっていた時期で、その頃はもう、宇宙科学の文明レベルの低かった人間達でも、カンパニーの社員指導のもと、パソコンや機械類を扱えるようになったのは大きな成果だと思う。

 昔、経理を担当し、たくさんの紙の束を抱えて自力で計算をしていた大臣が、今やカンパニーのスタッフと同じよう、パソコンの計算機を使いこなしているとは、誰が思うか。元メイドもお茶を運ぶだけじゃなく、その接客スキルを活かして外の星との交渉役として活躍中である。

 ついでに行きつけだった居酒屋の店長はあの地獄の中でも生き残り、地下でも店を出してくれて疲れた住人達の憩いの場を提供してくれた。それから地上に出られた後でも街にいくつかの店を構え、現地の住人達だけではなく、外から来た客達をもてなしている。クロムとほかの星の交流のさいに役立つような名産品も作ってくれて、更には、一番好きだったクロム酒も彼のおかげで復活、ほかの星にも輸出できるようになり、その評判は上々だ。

 最後にロイの行方を。ロイはあれから、カンパニーの社員の調査員の護衛役として、活躍している。クロムはレア鉱石が発掘されたといっても、まだまだ発展途上で、未知なる資源がどこに眠っているか分からない、しかし、その中で危険はつきもの、まだ除染されていない所はレギオンや魔物の残党が現れるとは限らないので、自ら、その護衛役を買って出たのである。今ではカンパニーの社員の間で人気があって、ほかの星でも護衛役をやってみないかと誘いがくるほどだという。ロイはしかしそれらを全て断り、クロムの護衛役として徹している。

 そんな中、丹恒も開拓の旅から帰ってきた後はその星にしかない特産品と、そこで冒険してきた土産話を私以外、ディアンの住人であるお城のスタッフ達にもしてくれてそれは人気の講義の一つだったけれど、今回に限ってそれがなく、何か考え込んでいるようだった。

 いつもの様子と違ってその場にぼうっと突っ立っているだけの丹恒を見て、私は。

『どしたの? 新しい所で何か大変な目にあって、疲れてもう眠りたいとか? そうなら、私達に構わず今すぐ休んでくれた方が――』

 私はいつもと違う丹恒を気遣うよう、寝室に誘導するが、彼は反対に私の腕をつかんだかと思えば、何か決心した様子で言った。

『――開拓の帰りに仙舟に立ち寄れば、白露が正式に羅浮の龍尊、飲月君を継いでくれるようだと話してくれた』

『あら! それ、本当?』

『ああ。白露が俺の飲月君を継いでくれれば景元も将軍を引退して、悠々自適な隠居生活ができるそうだ。そうなれば仙舟の羅浮も世代交代で新時代に入り、これで景元だけじゃなく、俺も肩の荷の一つが降りる』

『そう、良かったじゃない。白露様もようやくね~』

 ぱちぱち。残っていたスタッフ達からも白露様のその話を聞いて、拍手が起きた。

 私も嬉しくなって、スタッフ達の顔を見回して聞いた。

『クロムでも、白露様への贈り物を何か用意しなくちゃね。皆、白露様への贈り物、何がいいと思う? そうだ、丹恒も一緒に考えてくれない? その方が白露様も喜ぶわ、きっと』

『……』

 丹恒は白露様の話を聞いて浮かれる私をよそに、難しい顔をしている。

『だから、どうしたの。まだ、仙舟のお偉いさん達と白露様の間で、もめ事でも起きてるの? そうなら、いつものよう、開拓者達に頼ったら良いんじゃない?』

『そういうわけじゃない』

『どういうわけ?』

『白露が正式に飲月君を継ぐ前に俺、と関係を清算したいと思って……。その方が白露だけじゃなく、同時に引退を考えている景元も安心するだろうって、開拓者や三月を中心とした列車組だけじゃなく、仙舟の仲間達が言うものだから、それ決心して、の前まで来たんだ』

『は?』

 白露様が仙舟で龍尊の飲月君を継ぐ前に、私との関係を清算したい?

 ……。

 ああ、とうとう、この話がきたか。

 私もこの十年で丹恒は十分、その責任を果たしてくれたとは思っている。

 丹恒もここで私と正式にその関係を解消して、私やこのクロムを気にせず、星穹列車に乗ってナナシビトとしてその自由を謳歌したいと――。

 私は。

『いいわよ』

『本当か?』

『ええ。見て分かる通り、クロムはディアンのお城で第二王妃としての仕事が軌道に乗ってるから、私の事は心配しないで。レギオンの治療薬もカンパニーから直接調達できるようになったから、そこも安心して』



『丹恒ももう、このディアンを――クロムを気にする必要ないと思うわ。そうそう、私と関係を解消したいとうなら、これ返す』

 私はあの時――仙舟で御空主催の星槎レースのお祭りで丹恒に買ってもらった、お揃いの琥珀のペアバングルを今でも身に着けていた。丹恒も同じく、今までその琥珀のバングルを外していない。

 丹恒は私が琥珀のペアバングルを外したのを見て、慌てる。

『待て、何を勘違いしている。俺は、と別れる気ないぞ! このペアバングルものもので変わりないだろ、何で外す?』

『いや、白露様の跡継ぎで私と関係清算したいっていうから。丹恒、私との別れ話持ってきたんじゃないの?』

『馬鹿言うな、誰がと別れるか。ああ、関係を清算したいっていうのは、ええと、別れるとかいう意味じゃなくて、その、あの、ええと……』

『いやだから、何が言いたいの。ハッキリしてよ』

『……』

 丹恒にしては歯切れが悪く、とうとう、黙ってしまった。いったい何が言いたいのか、さっぱり分からない。怪訝な顔で丹恒の返事を待っていれば、あはは、と、今まで二人の話を聞いていたスタッフ達の笑い声が聞こえる始末だった。

『丹恒さん、ここでハッキリさせてあげないと、この問題、長引きますよー?』

『そうそう。ここで決心しないといつかのよう、第二王妃様を逃しちゃいますよ!』

 スタッフ数名――特に元メイドだった女達からそう声が上がった。

『まさか、旧ディアンの城での事を悪く言ってた元メイドのお前達から背中押されるとはなぁ……』

 丹恒は、ディアンの元メイドで陰で私の悪口を言い合っていた彼女達に背中を押されるとは思わなかったようで、苦笑した後、やがて決心した真面目な顔つきになって、それから。

 丹恒は急に私の前でひざまずき、私の手を取り、言い放った。

・ディアン第二王妃様、俺と結婚して正式に俺と夫婦になってくれないか――』