ガン、ガン、ガン!!
ハンドガンを這い回るツルに向けて発射しながら、彼女と一緒に制御室まで突き進む。
ツルの勢いはハンドガンを撃ち込めば何とか止められたので、その部分は助かった。
ツルの間を駆けるのは、普通に走るより体力がいった。
しかも。
『スカート邪魔! エイブラハム、ちょっとあっち向いて! ハサミでスカート切るから!』
『え?』
『あっち向いてってば。私に訴えられたくなかったらね』
『……』
私は彼女の言う事を聞くよう、彼女から視線を逸らした。
途端、ハサミでスカートを切る音が聞こえた。
それから。
『もう、こっち向いていいわよ』
彼女は普段はロングスカートタイプの制服だったけれど、今は足の膝丈まで切られてミニスカートに変わっていた。
彼女の綺麗な生足が見えて息を飲むが、そこは気にしない振りを続ける。
『君、何の迷いもなくスカート切れるのか』
『制服、丹恒の趣味でロングスカートタイプ選んだけど、こういう時、邪魔ね。今度からミニスカタイプにしようかなー、でもそれだと、丹恒に足見え過ぎって文句言われるんだよなー、どうしよっかなー』
『……』
……彼女が大人しいお嬢様という評判は、何だったのか。
その間。
『お姉さまあ! 隠し持ってた回復薬あげます、どうぞ!』
『私もに回復アイテム投げるから、受け取って! なら、なんとかなると思う!』
『温世玲、ほかの皆ももう少しの辛抱だから頑張って! お、回復アイテム助かる、ありがとー!』
彼女はツルに捕まっていた温世玲やほかの応物課のⅡ階級の女性スタッフ達から期待を込められた回復アイテムを投げられ、それを受け取り、笑顔で応じる。
彼女だけではなく。
『エイブラハム、弾薬受け取れ!』
『エイブラハム、ちゃんと守ってて偉いぞ! 見直したわ!』
『弾薬助かる! それはどうも!』
私にも弾薬が飛んできて受け取り、更に、彼女を守りながら動いているのが分かってくれたのか応援の声も飛んできたのだった。
『あそこ、エレベーターホール抜けた南側の部屋、制御室だ! 飛び込め!』
『了解ー!』
二人揃って、制御室に飛び込んだ。
『ドア閉めて!』
『はい!』
電源がきていないので、自動ドアは使えず手動でドアを閉めなければいけなかった。ツルが制御室に伸びる寸前で、彼女の手でドアが閉められた。
ところ、で。
『!』
『お。ネットエンジニアのレオナードじゃん! ほかのエンジニアスタッフも揃ってる。何で?』
『そうでも応物課と同じで、ネットエンジニアもⅡ階級ばかりだな』
制御室のコンソールにはが目的としていたネットエンジニアのレオナード、ほか、数名のネットエンジニアが揃っていたが、私達と同じⅡ階級ばかりで、リーダーらしき人物は不在だった。
レオナードがネットエンジニア達を代表して、の前に立った。
『この騒動が起きてから、あの花の化け物のせいでエレベーター使えなくて上層部や上司達と通じなくなって、外部に救援を頼もうと思って使えるコンソール探してて、動ける仲間達とこの部屋に飛び込んだわけ。が来てくれて丁度良かった』
『私で丁度良かったというのはつまり、あなた達も、星穹列車に応援を頼もうとしてたのかしら?』
『その通り。僕達ですでに、ネットは通じるようにした。でも、Ⅱ階級の僕達じゃそこまでの権限なくて星穹列車の救援信号分からなくてね。、丹恒さんと恋人でしょっちゅうそこに出入りしてる君なら星穹列車のサーバーとそのパスワード、分かるだろ。頼む!』
『さんに、お任せ~』
彼女――は頼られたのが嬉しいのか上機嫌で、くるくる回って、レオナードからその席を譲り受ける。
その間。
『というか、その愉快な格好どうしたんだ。君、と同じ応物課のエイブラハムだったよな、まさか、上司達と連絡つかないのを利用してに乱暴――』
『誤解! それ、誤解だから!! 私を暴漢扱いするの止めて!!』
うわあああ。
彼女がスカートを裂いてミニスカにしているのは私の仕業かという嫌な疑いをかけられ、ほかのエンジニア達の視線が痛く、思い切り、全力で否定した。
と。
ははは、と、レオナードの笑い声が聞こえた。
『――するわけないの、と付き合いある僕は分かる』
ここで私は、とレオナードの関係を思い出した。
『そういえばネットエンジニアのレオナードは、が君に泣きついてきたのが縁で、丹恒さんの配信チャンネルを立ち上げたんだっけ?』
『そうそう。僕はそれでと付き合いあって、彼女の裏の顔を知ってるというか、知る羽目になったっていうか。と同じ応物課の連中も、すでにの裏の顔知ってるって聞いてるが』
『……まあ、応物課の人間はがそこまで大人しいお嬢様じゃないのは知ってるよ』
『だよな。それだからそもそも、がそんな目にあうわけないの分かるし、それが事実だと判明すれば恋人の丹恒さんが黙ってなくて彼に半殺しにされるのが分かるからな。君もそのに手を出すほどバカじゃないって分かるから、それで』
『それ知ってるのであれば、こんな時にからかわないでくれよ……』
私は目の前で笑うレオナードを手持ちのハンドガンで、打ち抜きたい気分だった。
『こっちも君達に聞きたい事があるんだけど』
『何』
『何で、星穹列車に応援を頼もうと思ったんだ。ネットエンジニアの君達ならステーションの規約読んでるだろうし、それがヘルタさんに分かれば追放される恐れがあるってのにさ』
私の話を聞いてネットエンジニア達はそれぞれの顔を見合わせ、そして。
『そりゃ、ヘルタさんの実験ならともかく、へんな魔物にやられて、こんな暗くて冷たい場所で死にたくないからに決まってるじゃん』
『――』
ネットエンジニアを代表して、レオナードが言い放つ。
私は、単純な疑問を彼らにぶつける。
『……、君達でネット通じて応援呼ぶなら星穹列車じゃなく、ステーションと契約結んでるスターピースカンパニーの兵士達じゃないか? それか、アーランさん達の防衛課か。何でよりによって、星穹列車なんだ』
『あー。それね。此処に来てネット通じた時にすでにスターピースカンパニーの兵士達に救援信号送って救援頼んだんだけど、何回アクセスしても通じなくてさ。アクセス権はちゃんと届いてるのは確認したんだけど、Ⅱ階級の僕達では相手の応答が得られなかった。防衛課のアーランさんに救援信号送っても、いまだに返信が得られない始末で』
『え、カンパニーはいいけど、防衛課のアーランさんにも通じないってそれ、どういうわけ……』
『僕達――ここでいう僕達っていうのはネットエンジニアの僕達だけじゃなくて、この下層に集められたⅡ階級の下っ端連中の事で、その僕達はヘルタさんに見殺しにされたんじゃないかっていうのが、僕達の満場一致の意見だ』
『な――』
衝撃的な事実を知って、私は倒れそうになるのを寸前で堪える。
『そんな……、ヘルタさんはともかく、あのアーランさんが私達を見捨てるなんて有り得ない!』
私のよく知るアーランさんは仲間のためなら自分を犠牲にするような危なっかしい人で、防衛課だけじゃなく、ほかの課の皆からも慕われていたアーランさんが私達を見捨てるとは、信じられなかった。
『そうだな。アーランさんの防衛課も上層を守るのが精一杯で、僕達に手が回らないってだけかもしれない』
『……』
レオナードは私を慰めるように話すが、私は信じられずにその場に座り込むだけだった。
レオナードは座り込む私に対して、冷静に話した。
『でも、奴らのツルに捕まってるスタッフ達やエレベーターに取り付いてる赤い花の化け物に捕食されたスタッフ達を救うには、後、十分くらいが限度だ。それまでのんきに待てないというわけで、の星穹列車に救援を頼む事にした。これは、一か八かの賭けだ』
『……』
『、どうだ?』
レオナードは次には私には目もくれず、の方を気にしている。
『星穹列車、応答願う。こちら、ヘルタ・ステーションの。星穹列車、応答願う、こちら、ヘルタ・ステーション。ああもう、何でサーバーとパスあってるのに通じないのよ!』
その間、は小型マイクで必死に星穹列車に向けて応答を呼び掛けていた。多分、ヘルタの権限でⅡ階級では星穹列車まで届かないのであろう。
『ヘルタめ、後で覚えておきなさいよ! 私をこんな目にあわせるなんて!』
ガン、ガンッ! 彼女は星穹列車に通じない、そのいら立ちを隠せず、子供みたいに机を足で蹴っている。
『ええ。彼女、見た目は清純派で大人しいお嬢様だと思ってたけど、あんな風だったの?』
『ちょっと印象と違ってガッカリ……』
ちらほら、レオナード以外、彼女の本性を知らなかったネットエンジニア達の驚きの声が聞こえてくる。
それでも彼女は気にせず、星穹列車に応援を呼びかけるが無駄に終わる。
私はそんな彼女を見て見ぬ振りができず、動け動けと念じて、ようやく立ち上がり、彼女の座る席の背後に立った。
『多分、Ⅱ階級の君のパスでは星穹列車に通じないと思う……』
『そんなの、分かってるわよ。エイブラハム、何か策でも?』
『ああ。自分が防衛課にいた時の事、思い出した。Ⅱ階級じゃ開け閉めできないドア、アーランさんやほかのⅣ階級の権限使わせてもらって何とか開けてたんだよな。これ、規約違反で、ヘルタさんに分かれば大目玉食らう話なんだけど』
『という事はつまり……』
『君、星穹列車でも自分のだけじゃなくて、丹恒さんか、それ以外の列車組のパスワード、知らない? 君以外の誰かの借りれば、通じるかも』
『丹恒のなら、知ってる! やってみる!』
きゃー。希望の光が見えた途端、彼女から活力があふれるのがそばについている私でも分かった。
そして。
『――こちら、星穹列車。ヘルタ・ステーション、応答せよ』
『やった、通じた! この声、星穹列車の姫子だよ!』
『おお! マジか! やったー!!』
ぱちぱち。パソコンから姫子さんの声が聞こえて、と私に向けて、ネットエンジニア達から拍手が送られる。
『こちら、星穹列車、ヘルタ・ステーションの救援信号を受信。救援信号の座標がヘルタ・ステーションであるのは分かるけど、アンタ、誰よ? 私のそばに居る同じ列車組の丹恒のパスワード使って私達に救援信号送るなんてどういうわけ、ヘルタの悪戯にしてはやり過ぎでアンタをアスターに処分してもらう必要が――、ちょっと丹恒、私のマイク奪わないで、待って、まさか!』
『――、よくやった。ステーションで何かあった時のために俺のパスワード、教えて正解だったか』
姫子さんの慌てる声をよそに、丹恒の冷静な声が聞こえた。
『、状況説明、頼む。手短に、簡潔に』
彼女も丹恒の声が聞こえたのが嬉しかったのか、泣きそうな声でそれに応じる。
『えー、こちら、ヘルタ・ステーション、万有応物課、Ⅱ階級の。現在、ヘルタ・ステーション、下層部にて、Ⅱ階級のスタッフ達がへんな花の化け物に襲われて更に上に行くためのエレベーター使えなくて、閉じ込められて上まで出られない! 丹恒、助けてー! 以上!』
『了解。よく知らせてくれた。とそこに閉じ込められてるスタッフ達は何もせず、その場から離れるな、以上』
同時に、列車側から何か操作している音が聞こえたかと思えば、姫子さんのアナウンスがパソコンからではなく、ステーション全体に聞こえた。
『――こちら、星穹列車、ナビゲーター姫子。銀河を走行中、ヘルタ・ステーションによる救援信号を受信した。我々、星穹列車は列車の規則に従い、ヘルタ・ステーション、万有応物課、Ⅱ階級のの救助要請に応じる事を了承、条件提示。ヘルタ・ステーション側も我々の条件に応じ、了解したのを確認。取引成立。これから先、何かあれば全責任と全権を我々、星穹列車が持つ事を条件に、ヘルタ・ステーションの入港の許可を得た。我々、星穹列車はヘルタ・ステーション、ヘルタ含め全スタッフ、及び、艦内に存在する外部人員の救助活動を一任されたし。ヘルタ・ステーション、責任者のヘルタ、所長代理のアスター、万有応物課、Ⅱ階級の、以下のスタッフ達は星穹列車の乗組員が来るまでそこで待機を維持、以上』
姫子さんのアナウンスはそこで終わり、それを聞いた彼女は得意になって部屋に居るレオナード達を見回し言った。
『皆、丹恒を含めた星穹列車の列車組が助けに来てくれるって!』
『これで生き残れる! 、ありがとう!!』
わー。ネットエンジニア達が嬉しそうに、を取り囲む。
と、それからすぐの事だった。
『――燃やし尽くせ、天墜の火!!』
女性の声が聞こえたかと思えば熱波が――エレベーターの方から熱波がきて、何事かと思う間もなく、エレベーターに絡みついていた花の化け物が燃やされていたのだった。
そして。
『――洞天幻化、長夢一覚!!』
彼の――丹恒の槍の一突きで風が吹き荒れ、床に這いまわっていたツルも、あっさり、消滅した。
『!!』
『丹恒、こっち、こっち!!』
制御室のドアを開けて手招きすれば、丹恒が槍を構えた状態で彼女の前まで飛び込んできた。
『、無事か!』
『丹恒なら、助けに来てくれるって信じてた!』
ぎゅうっと。彼女は人目も気にせず、丹恒と抱き合う。
と。
丹恒は彼女のスカートが切られてミニスカになっているのに、驚いた様子だった。
『、そのボロボロなスカートどうした。誰にやられた?』
『あ、これ、花の化け物のツルの上走るのに邪魔だったから、自分で切ったんだよ』
『……前みたいに、誰かにやられたというわけではないんだな?』
『大丈夫。これがその証拠のハサミ』
言って彼女は、スカートを切り裂いた自分のハサミを丹恒の前に見せる。
はあ。丹恒のため息が聞こえた。
それから丹恒は笑いを堪えているのか肩を震わせ、彼女の頭を撫でながら言った。
『全く。これだからの付き合い、止められないんだよな。ここまで良い女、ほかにいるかよ』
『ふふ。私もすぐに助けに来てくれる丹恒ほどの良い男、知らないわ』
『それより、男スタッフが多い中で足、見え過ぎだろ。俺のコート貸してやるから、それで隠せ』
『そう言うと思ったわ。コート、貸して』
はは。彼女は丹恒の指摘にくすくす笑ってそれに応じるよう、彼の脱いだコートを受け取ると、迷いなく、それを自分のものにしたのだった。
きゃー。彼女が丹恒のコートをはおった瞬間、女性スタッフ達の色めきたつ声が聞こえるが、彼女と丹恒はそれを気にしない風だった。
こほん。誰かの咳払いが聞こえた。レオナードだった。
レオナードは全員を代表して、丹恒と向き合う。
『あの。星穹列車、ナナシビトの護衛の丹恒さんですよね。僕、メンテナンス課、ネットエンジニアでⅡ階級のレオナードです。だけじゃなくて、僕達を助けてくれて、ありがとうございます』
『この制御室に居るの、これで全員か?』
レオナードにより丹恒は彼女と離れ、状況を確認する。
『この部屋に居るのは、含めてこれで全員ですね。あの、エレベーターホールに絡まっていた花の化け物は……』
『エレベーターに絡みついていた花の化け物の本体は姫子さんの業火で燃やされ完全消失したので、もう心配いらない』
『おお、さすが、姫子さん!』
『姫子さん、やっぱり、カッコイイ!!』
ステーション内では星穹列車の姫子さんといえば、ヘルタさん、アスター所長代理と三人揃えば無敵というのはすでに知られた話だった。おまけに姫子さんはその二人と違って、ほかのスタッフ達にも気さくで親しみやすく相手になってくれて、その評判は知れ渡っていたので、男性スタッフ達だけではなく、女性スタッフ達から彼女を称える声が上がる。
丹恒は報告を続ける。
『ツルに捕まっていたり捕食されたスタッフ達は、ヴェルトさんが救助に向かっている。殆どは意識あって、回収可能だ』
『ヘルタさんとアスター所長代理含めた、上層部の状況は? 僕達、先にアーランさんの防衛課に助け求めたんですけど通じなかったんですよ』
『ああ。あの花の化け物、瘴気――、毒の霧を排出していて、上の階の全体がそれで充満してた。ヘルタはどうか分からんが、その影響でアーラン達は動けず、上層部の非戦闘員のアスターや医療班を守るのが精一杯だったようだ』
『やっぱり、上の階も大変だったのか。それで、毒の霧はどうなりましたか』
『毒の霧は、俺の槍で払った。上に出たい人間はもう、上に脱出可能だ』
『はあ。ええと、その、理解が追い付かないんですけど、上の階の一部分だけじゃなくて全体的に毒の霧で覆われてたんですよね、あなたが来てから数分しか経っていませんが……』
『俺の槍の技であれば、あれくらい、数分で片付く』
『……』
レオナードよ、丹恒の簡潔な説明を聞いても何も言えずに、君が黙るのも分かる。
レオナードはしかし、負けないで更に丹恒に食いつく。
『あの、下層部であの花の化け物にやられてた連中、確か、三十人以上だったと思うんですけど、ヴェルトさん一人に任せて大丈夫なんですか。動ける僕達も援護に向かった方がいいでしょうか』
『必要無い。お前達が行けば、反対に足手まといになる』
『しかし、あれだけの人数をヴェルトさん一人に任せるのはどうかと……』
『ヴェルトさん一人でも彼の疑似ブラックホールを使えば、あれくらいの人数を収容するのにわけない』
『疑似ブラックホールて』
丹恒はそれが何でもない風に言うが、ヴェルトさんの技を聞いたスタッフ達はざわつき、思い切り引いていたのだった。
君に補足。当時の私達は姫子さんの炎を操る力とその評判は知っていたが、ヴェルトさんと丹恒は君と三月さんが現れるまで、ステーション内にあまり姿を見せなかったのでその力の源はよく分からなかったせいもある。
ここで、丹恒の手持ちの端末の着信音が鳴った。
相手は姫子さんのようで、彼女と二、三、会話した後。
『姫子さんから連絡。姫子さんとヴェルトさんによれば上層は姫子さんの手で、下層はヴェルトさんの手でもう全員の救助が終わって、エレベーターも使用可能、ヘルタとアスターが上の階でお前達を待ってるそうだ』
『……』
私達は、ここではじめて、星穹列車の列車組の力の凄さを目の当たりにし、上の階に戻れるようになってもしばらくの間、そこから動けなかったという――。